どうしても叶えたい願いの為にその気になる綾小路と、別にどうでもいい願いでなんとなくいるオリ主   作:a0o

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差し障りの無い風景

 

 

 

 12月23日、今日から冬休みか--晴れ渡った朝空を見ながら俺は今ひとつ楽しみとは言い辛い気分で目が覚めた。

 

 明日はクリスマスイヴであちこちが盛り上がるのが常であり、今のこの学校では輪をかけて盛大なイベントに花咲かせている。

 

 ……その発起人である筈の俺が何故、何も知らされないんだろうか?

 

 こう言うのは普通、当事者同士にだけにするのがセオリーだろうに--昨晩に来たメールをまた見るが昨日と同じ文面〝あたしが最高の結婚式を用意するから期待してて!〟と豪く気合の入った軽井沢の顔が目に浮かぶ。

 

 ただ今日気にしなきゃいけない娘は軽井沢じゃない--テストが終わったらって約束だったのが思わぬ形になってしまい、その後もドタバタしてそれ処じゃなかった。

 

 だから今日は仕切り直しだ、身支度を整えて外に出る--約束の時間は早めにしといたからのんびりも出来ない。

 

 ただ今はそれがいいと思ってる。

 

 朝の肌寒い空気に晒されながら静かなに歩いていると何処からか鳥の声が聴こえた--鳴った方に目を向けてみたがもうそこには居ない。

 

 う~ん、やっぱり何事も思い通りにはいかないな。

 

 厚手のジャケットを着直しながら自分の目でそれとなく辺りを見るが代わり映えしない景色だけ。

 

 ああ、のどかだなぁ。

 

 思わずそんな感傷に浸りたくなってしまい、いつまでもこんなのがとも思ったが、どうもそうはいかんかな。

 

「ヤッホー」

 

 向うの道から一之瀬が手を振ってやって来た--ゆったりとした紺色のニットワンピースにいつかのキャラメル色のトレンチコートを羽織って、大人っぽさでも演出してるのかな?

 

「おはよう」

 

 などと言う感想は別にいいから挨拶を返す。

 

「いや~、今朝は一段と冷えるねぇ。嬰児くんは寒いの苦手な方?」

 

「その手の事で苦手は無いな--好きな訳でもないが」

 

 『午』から受け継いだ防御術『鐙』は熱や冷気にも耐えられる--となんで他愛無い雑談でこんな事を考えてんだ。

 

 どうにもまだ審議からのが抜けきってないみたいだ。

 

「にゃははは--無理に明るくなることないよ。真面目なのも少しは残しといたほうがいいだろうしね」

 

「すまんな」

 

 思いも寄らず変な気を使わせてしまった--我ながらちょっと不覚だ。

 

 ただ、いい感じに場の空気は絆されたので俺たちは歩きながらケヤキモールに行き適当な店に入る。

 

 中は混んでたが、ひとつ席が残ってたのは運がよかった--互いにモーニングを頼み、ゆっくりと待っていたかったが、

 

「やっぱりどうも落ち着かないね」

 

「重ね重ね、すまんな--出来る限り早く済ませたくてな。ああ、勿論面倒だからとかじゃないよ」

 

「分かってるって」

 

 とこんな取り留めのない会話にも店中から聞き耳を立てられ注目されてるのが丸わかりだ--相手が一之瀬じゃなかったら、割って入って来られても不思議じゃない。

 

 それは客たちだけじゃなく、注文を運んできた店員も同じようで営業スマイルで『ごゆっくり』と言われたがどうにも妙な含みを感じさせるニュアンスがあった。

 

 ぶっちゃければ〝話はこの店で終わらせてくれ〟と言わんばかりだ--厨房からの小さな隙間からも視線を感じるし、文字通りに店中の注目の的だな。

 

 ま、それは何処に行っても同じだけど。

 

「それで嬰児くんは今回いつ外に行くの?」

 

「12月31日から1月1日にかけてだな」

 

「うわぁ、今度は泊りなんだ」

 

「ちなみに春は一日だけだと念押しされた」

 

「ってことは来年もこの時期は同じになる訳だ」

 

「そうだろうな……状況次第じゃ、もっと伸びるかもしれんな」

 

「にゃははは、あんまり嬉しそうじゃないね」

 

「遊びに行く訳じゃ無いんだぞ」

 

 そう。名目上は新しい特例の為に働くのだ--もっとも実際にはそこまで大したことをするかは分からないけど。

 

 どこか適当な所に閉じ込められて無為に時間を過ごすのもありえる--それか、前回の様な回りくどいやり方じゃなくて、ストレートに任務でも与えられるか?

 

「ねぇ……ちゃんと帰って来るよね?」

 

 一之瀬が些か心配そうな顔してる--そんな不安にさせるような感じだったか?

 

「別に嚙みついた訳じゃないんだ、居なくなることは無いだろう」

 

「そうだよね。ここは独裁国家じゃないもんね--これでさよならなんて――――――」

 

「ストップ、ストップ。俺が言うのもの何だが、話が途方もなくなってる--この話はここで終わりだ」

 

 強引にだが終わらせ宣言すると一之瀬もギャラリーも胸を撫で下ろすが、まだ少し緊張感が残ってて何とも言えない感じだ。

 

 とは言えこれで改めて仕切り直しだな。

 

「ペーパーシャッフルでは互いに意外な形で終わっちまったな」

 

「そうだね--まさかとは思うけど、これもそっちが噛んでるとか無いよね?」

 

「ありえん。あらゆる意味で無意味だ--嫌がらせにすらなってない」

 

「じゃ、やっぱり偶然か--それとも嬰児くん風に言えば、神様のいたずらかな?」

 

「神は常に慈悲深い訳でも無いからな--時には不条理なのを齎して来る。そこに意味があるかは知らないけどな」

 

「あ~、なんだか深いねぇ--嬰児くんが言うと特に」

 

「どうも。とでも言っておこうかね」

 

 さて前置きはこのぐらいでいいだろう--のんびり出来る時間もそんなにないしな、と思ったが一之瀬も何かを感じ取ったのか、

 

「ホント、平和だよね~。こんな風に一緒にどうでもいいような話で和気あいあいとして--こう言うのが高校生には普通なんだよねぇ」

 

 なんだか只管に引っ張って来やがった…………『申』の話はそんなに聞きたくないのか?

 

「嬰児くん--こう言う時間ぐらい固い事なんか忘れて楽しんでかない?」

 

「まぁ、俺も気が抜ける時には抜いときたいが……」

 

 つい、つられて相槌を打ったが個人的には『彼女』の話をするのは一切の苦なんて無いんだがなぁ。

 

 寧ろ出来ないとなるのは、ちょっと残念だね。

 

 ただ、あからさまにまたそんなのを顔に出すような真似はしたくないし、ここは一之瀬を立てて話を合わせるか。

 

「こういう時期と言えば明日はイヴだよな。一之瀬は誰かと一緒に過ごしたりするのか?」

 

「う~ん。クラスのみんなとささやかなパーティーするくらいかな--それ以上に盛り上がるのがもう直ぐあるし~」

 

 ニヤニヤしながら俺の方はどうなんだと顔に書いてある--こっちとしても話を膨らませたいんだが、生憎と何も聞かされてないに等しい。

 

 寧ろ俺の方が訊きたいぞ。

 

「軽井沢の奴も気合入りまくってたからな--当事者達(あいつら)もとっくに気にしてる風じゃなかったし。と言うか、かなりの金額をいきなり要求されたし元が取れると有難いが」

 

「しみじみしてんのか、ワクワクしてるのか、なんとも微妙な表情だね--けど折角なんだから楽しんで待ってようよ」

 

「それはそうだが、俺が発起人なんだけどねぇ」

 

 ついつい未練がましく愚痴ってしまうが、一之瀬は嫌な顔ひとつせず笑顔のままに付き合う気満々だ--かなりの私見が入った都合の良い見方だが歓迎してる様にすら見える。

 

「私も今回は関わらせて貰えないからねぇ--あの契約はちょっと早計だったかなぁ。

 ねぇ、違約金払うって形で破棄するのはありかな--それで春休みの予約をいれたりとか?」

 

「…………う~ん。ま、ここまで来た以上は今更数なんて関係ないし、今回の費用を折半って形ならいいぞ」

 

「え、ホント!」

 

「ただもうひとつ条件がある--サプライズ形式はなしでだ」

 

「オッケー、いつもいつもじゃ飽きちゃうしね。でも全部を知らせるのはちょっと面白みに欠けるし、ヒントとかでもいいかな?」

 

「ほう。そう来るか--悩みどころだから即答しかねるな」

 

「別に時間はあるから、じっくり考えていいよ--こう言うのプロセスも楽しむ一環でしょ」

 

 いつの間にか会話をリードされてしまい、一之瀬のペースに見事に嵌ってしまった--ただ全く不快な気分じゃなく、寧ろ心地いいとすら感じてしまう。

 

 これもまた人柄、いや一之瀬帆波自身の魅力なんだかね。

 

 ふとそう思い周りにそれとなく視線を向けると同じように一之瀬の方にすっかり注目が集まっている--もう俺の事なんか二の次になってしまってる感じだ。

 

 そしてこれが坂柳や綾小路、もっと言うなら櫛田とかなら俺へのアピールとかの計算かと勘繰るが、一之瀬に関してはそんなことを考える気すら怒らない。

 

 やっぱり魅力的で素敵な娘だ--特に目の前で笑顔の一之瀬帆波は。

 

「ああ、なんだかそんな目で見られると照れちゃうな」

 

「ほう。俺はどんな目で見てたんだ?」

 

「ちょっと、そんなのを私の……女の子の口から言わせないでよ」

 

 茶目っ気たっぷりな仕草であっさりと交わされてしまった--如才ない、といつもや他の奴なら感心するところだが、ここは素直に可愛いと思ってしまう。

 

 やれやれ、ホントに調子が狂わされるな。

 

「あー、今度は意味深に笑って……何がそんなに可笑しいのかな?」

 

「そっちもそっちでコロコロとよく変わるな」

 

 ジト目になった一之瀬に素直な感想を言うが顔をそのまま--『ムー』とか言って頬を膨らませるかなと思ったが、そうはならない。

 

 残念だね--本当に人の心は難しいものだ。

 

 そんな気持ちだが不快さは微塵もない俺自身の心も含めて、そう思った--それが一切の含みもなく純粋に楽しいと感じてしまう。

 

 一之瀬の言う通り、こんな時間も悪くないな。

 

 

 

 ***

 

 

 

「…………………」

 

 昼食を終えた綾小路清隆は自室にあるテーブルに届けられた大きめの箱をジッと見ている--その表情はいつも通りのポーカーフェイスとも言えない、切実なものを想起させるものだった。

 

「♫~♫~♫~」

 

 一方でその直ぐ隣に居る坂柳有栖は終始ニコニコしており、意気揚々と箱に手を掛けている。

 

「開けますよ~」

 

「ああ」

 

 互いに箱への意識が集中し、勢いよく蓋を開けて中身に視線を注ぐ--そこには花飾りのついた華やかなレースが入った青いウエディングドレスがあった。

 その清潔感溢れる見栄えは一度も使われてない新品だとひと目で分かる代物であり、高校生の身ではまず縁のない代物--ただの〝ごっこ遊び〟にしてもやたら豪華であった。

 

「ちょっと贅沢な気もするな」

 

 ふと綾小路の口から洩れたひと言--別段なにかの含みがあった訳ではないが、

 

「ちょっと、何言ってんのよ!あたしのセンスに文句あるっての!?」

 

 二人の向かいに居た軽井沢恵が聞き捨てならないと目くじらを立てる女性が声を上げる。

 

「そ、そうは言ってない」

 

 その剣幕は鬼気迫るに等しく綾小路も流石に押され気味になり、たどたどしく返す--それを真横から見ていた坂柳は満面の笑みであり、

 

「なんだ?」

 

 と綾小路が訊いても無言のままニコニコしているだけで--それだけでなんとなく分かってしまう。

 

(この前の意趣返しのつもりか?…………まったく性質が悪い)

 

「オホン!イチャイチャすんのは明日にしてくれる--我慢できないならあたしが帰ってからでもいいから」

 

 苛立ちと呆れ交じりに軽井沢が指摘すると、二人は詰まらなそうにしながらも遣り取りを止めて改めてドレスに目を移す。

 

「ドレスの色が青なのは何か意味があるのか?」

 

 綾小路のなんとなくの問いに軽井沢は少々得気な笑みを浮かべ、彼女の髪を留めているカチューシャを外してストレートになる。

 

「ああ、そう言う事ですか」

 

「?」

 

 軽井沢の意図を瞬時に理解した坂柳に対して、綾小路は完全に蚊帳の外状態であり益々もって訳が分からないと言った顔だ。

 

「これさ、そこまで古いものじゃないけど、それなりに使ってるやつなの--ドレスと同じで兼用になっちゃうけど、どうかな?」

 

「ええ、こんな風に気遣ってくれただけで十分嬉しいです--ふふ」

 

 そんな当事者の一人(あやのこうじ)を置いてきぼりにして話を進めていく女子たちになんと言えばいいのか分からず、ただ成り行きを見るしかない--されど軽井沢が真剣に考え抜いて用意した趣向なのは理解でき、坂柳も間違いなく喜んでいるのもあって、

 

(ここは素直に感謝すべきだな)

 

 と内心で謝辞を述べ、楽しそうな二人を見ることは悪い気分でもなかった。

 

「それじゃさ、早速試着しようよ--あたしも手伝うから」

 

「はい。お願いします」

 

 盛り上がりながら活き活きと話を進めていくが、少しばかり冷たい視線を向けられた綾小路は渋々に近い形で立ち上がる。

 

「オレは外で待ってる。終わったら呼んでくれ」

 

 ニュアンスは至って普通だが、内心では何故自分の部屋を追い出されねばと理不尽な感情に占められていた。

 

「楽しみにしててくださいね」

 

 が、坂柳の満面の笑みでの返しに結局何も言うことが出来ないまま、小さく息を付いて部屋を出ていった。

 

 そして待つこと数分、長いような短いような感覚でいるとドアが開き〝ニヒヒ〟と笑う軽井沢が顔を出した。

 

「お待たせ~」

 

 表情もそうだが声も態度も本当に楽しそうだ--そう素直に感心する一方で綾小路の心の一部には、

 

(ついこないだまでとは大違いだな)

 

 人の心は複雑だと冷静に分析するように見ている自分に少し辟易した気分もあった。

 

 ただその心情を突詰めたいと言う様な衝動はなく、冬の寒さも相俟って早く部屋に入りたい--否、そんな事とは関係なく部屋の奥にあるものを見たかった。

 

 殆ど無視に近い形で軽井沢を通り過ぎて部屋の奥へと向かい、その様子を心底愉快そうに見送る軽井沢--後を追うことはせずにドアを閉める。

 

 そして綾小路の視界に映ったのは、椅子に座り華やか青色のウエディングドレスを纏った坂柳有栖の姿だった。

 ヴェールもこの前の様なおもちゃではなく本格的な物であり、一緒に付けている軽井沢のカチューシャも色合いが近いだけに違和感がない。

 

「どうですか?」

 

 と坂柳が問いかけようとする--ただその前に綾小路の口から自然と、

 

「綺麗だ」

 

 シンプルな感想が出て来た。そして口を開きかけていた坂柳は、無言のまま頬を染めてそのままの状態で固まってしまった。

 

 綾小路もそれ以上は言葉が続かず無言のまま--そんな二人を少し離れて見ていた軽井沢はニヤニヤしている中に少し呆れが混じり小さく息を付く。

 

「ホントに飽きないわね--さっきも言ったけど、そう言うのは二人きりの時にしなよ」

 

 絶妙なタイミングでの指摘にあっという間に二人の意識は引き戻された--ただ言われっぱなしは面白くないのか坂柳は困った風な顔で返す。

 

「それはすみません--佐倉さんなんかは寧ろ喜んでくれるものですから、つい癖になってまして」

 

 色ボケたっぷりのニュアンスでの惚気を。

 

「うぅ…………」

 

 これには流石に軽井沢もドン引きしてしまった。

 

 坂柳はそのまま右手を差し出すと綾小路が手を取って立ち上がらせる。

 そのまま数歩歩き、特に何もないまま再び椅子に座った。

 一見すれば微笑ましい光景だが、一同は張っていた気を抜いて安堵する。

 

「杖なしでも問題は無いな」

 

「はい。ご面倒をお掛けします」

 

「別に面倒だとは」

 

「あああ、だからそう言うのは後にしてって!」

 

 流石に三度目ともなると軽井沢も声が大きくなり、少々辟易した表情となった--そしてひと息ついて改めて綾小路と坂柳(しんろうしんぷ)を見る。

 

「う~ん。やっぱり綾小路くんだけ普段着だと違和感バリバリよね--衣装はもう届いてるんでしょ、着替えて来なよ」

 

 軽井沢は用意されていた、もうひとつの箱を押し付ける形で綾小路に風呂場の方に行くように促す。

 

 受け取った綾小路は、何故自分の部屋でと思いながらも仕方ない状況に溜息を付きたくなるのを飲み込んで粛々と足を動かす。

 

「ふう。ホントにもう……よく飽きないわね、あんた達」

 

「ふふ。一向に心地いいと言いますか、愉快と言いますか--物凄く良いものですよ」

 

 期せずして二人きりの状況になってしまった軽井沢恵と坂柳有栖は少し打ち解けた雰囲気で話を続ける。

 本当にこの前の事での蟠りは無いようだ。

 

 差し障りのない会話をしながらそれ以上は互いに踏み込んで行かない--あくまで目先にある事柄のみに終始している。

 観察力の長けた者が居れば違った印象を受けただろう--特に扉越しに聴いていた綾小路などは。

 

(有栖も軽井沢も干渉しないのは暗黙の了解か?それともオレの知らない所で嬰児が指示でもしてるのか?)

 

 二人の事情を知っている身としては後者の仮説が望ましく、もしそうなら話に混ざってこれからの事をどうするのかとして行きたかった。

 

 そんな雑念交じりでも着替え終えたので扉を開けると同時に女子二人が目を向け……同時にがっかりした顔になった。

 

「……清隆くん。正装なんですから、もっとちゃんと着てください」

 

「蝶ネクタイも曲がってるしぃ」

 

 二人の言う通り白を基調としたタキシードは整っているとは言えず、黒の蝶ネクタイもよく見れば歪んでいるようだった--有り体に言えばだらしない格好で、盛り上がっていた空気が一気に冷めてしまった。

 

「すみません、軽井沢さん。ネクタイの直しをお願いしても」

 

「え、いいの?」

 

「はい。私では時間が掛かりますし」

 

「でも……あ、なんならさ、あたしが手伝おうか?」

 

 困った顔で言う坂柳に納得しながらも軽井沢はやはり遠慮がちに言う。

 

「ふふ。お気遣いは有り難いですが、これくらいの事で拗ねるほど了見は狭くありませんよ」

 

「ま、そう言う事なら」

 

 これ以上は返って無礼になると軽井沢は綾小路に近づいてネクタイを直し、タキシードも綺麗に整えながら言った。

 

「全く。可愛いお嫁さんの前でこう言うのをさせないでよね」

 

 流石に反論の余地が無く何も言い返せない綾小路--そんな遣り取りを見ていた坂柳は可笑しいのか、それとも嬉しいのか笑みを浮かべる。

 

「ちょっと、なにニヤニヤしてるのよ?」

 

「いえ、厳しいプロデューサーさんに頼もしさを感じまして」

 

「当たり前でしょ--あたしのセンスが疑われちゃ冗談じゃないわよ」

 

 素直じゃない誉め言葉とその返し--これを含めてずっと見ていた綾小路は、

 

(ひょっとしたら根底は似た者同士だったりしてな)

 

 と漠然と思った--その間に直しも終わりキチンと着こなした風になるタキシード姿が出来上がる。

 

「よし。じゃ、早くこっちに」

 

 軽井沢に急かされて綾小路は坂柳の隣に立つ--そこには程よい陽射しが差し込んでいたので新郎新婦(ふたり)の姿は鮮明に映えており、ある種の芸術とも言えるかもしれない。

 

 そんな感慨を噛みしめながら軽井沢は出来前に満足した。

 

「うん、完璧。これなら本番はもっと絵になるわね」

 

「畏れ入ます」

 

 これに坂柳は素直に謝意を示し、綾小路も無言だが満更でも無い……よくよく見ると若干愉しそうな色が見える気がした。

 

 そんな軽井沢の方は隠すことなく笑みを深めていき、あまりの分かり易さに流石に綾小路も面白くないのか、ぶっきらぼうに言った。

 

「なんだ?」

 

「いや~、なんだか嬉しそうだな~って」

 

 ストレートな即答--しかも全くの悪意でなく称賛が込められているところが面映ゆい。

 

 そんな綾小路の心情をすぐ横で見ていた坂柳もより嬉しそうに言う。

 

「清隆くん、人は見たいように見るものですよ--もっとも私としてはプロデューサーさんと同意見ですけど」

 

 後ろの件が余計だと思いながらも何かを言う気分にもなれない様子--飾らずに言えば照れている様相に坂柳は思った。

 

(ああ、この前の清隆くんはこんな気持ちだったんですね--確かにこれは癖になりそうですね)

 

 そして一体何度目か、と軽井沢(プロデューサー)はもう元気よく突っ込む気にもなれず完全に呆れたニュアンスで言う。

 

「はいはい。褒めてくれてありがとうね--じゃ、後は簡単に明日の打ち合わせしようか」

 

 もう、さっさと終わらせて帰りたい--腹がはち切れんばかりに見せつけられて、そんな気分で一杯だった。

 

 それを察したのか、はたまた額面通りに受け取ったのか綾小路と坂柳は普通に対応する。

 

「ああ、そうだな」

「ふふふ、本当に楽しみですね」

 

 全く持って自然に息の合った姿--それは新婚ではなく長年連れ添って来た夫婦の様だった。

 

(はぁ……)

 

 軽井沢は心の中で溜息を付くも決して不愉快でもない気分で話を進める事にする--なんだかんだ言いながらも彼女もイベントが楽しみなようだ。

 

 こうして準備は滞りなく進み、高度教育高等学校至上における二度目の結婚式ごっこ(大イベント)が迎えられる日になった。

 

 

 

 

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