どうしても叶えたい願いの為にその気になる綾小路と、別にどうでもいい願いでなんとなくいるオリ主   作:a0o

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お友達が・・・

 嬰児と別れた後、綾小路は真っ直ぐ寮の部屋には戻らず、夜風に当たりながら痛めた右手をさすっていた。

 

(鉄骨……いや、それ以上の硬度だった。外の世界の猛者か――あの異常(チカラ)があれば)

 

 綾小路にとっての平穏はこの学校内だけであり、だからこそ何が何でも退学は回避して普通の学生として三年間を過ごし卒業したかった。

 

 その後は、行く当ても頼るべき相手もいない彼は元の場所に戻り、父親の敷いた道――指導者として道を進むことは消極的ながらも諦めていた。

 

(だが、牛井嬰児(アイツ)のチカラの一端だけでも強力――まだ見ぬ全てをオレの制御下に置くことができたなら……)

 

 相手を眠らせる限定の催眠術、殺した死体を使役、自身の強力な格闘能力、非常な硬度を持つ肉体、地面を塵にして再び元通りにする超能力としか言いようのない非常識なチカラのオンパレード…………おそらくは、まだまだ見せていないものもある――そんな気がしてならない。

 

(出来るだけ早く全てを把握したいな……その上で屈服か篭絡できるのが理想だが、それは無理と思った方がいいな)

 

 非常識な能力を有しながら嬰児には一片の自惚れもなく隙も見せなかった――綾小路が知らないだけで、嬰児だけが特別な存在と言う訳ではないのだろう。

 

 まだ見ぬ未知への好奇心も相まって、益々もって嬰児(の能力)が欲しくなる。

 

(信頼を築くにしろ築けないにしろ、まずはアイツが欲しがっている物を与えるところからか――そしてオレの考え通りなら、かなりの割合で目的が被っているはず)

 

 執事の勧めで入った高度教育高等学校。

 この学校なら権威ある父親(あの男)も手が出せないと話に乗った。しかも自身がいた白い施設――ホワイトルームが停止している現状も相まって入学の難易度が格段に下がっていて、あの男も綾小路が与り知らぬ事態の対応で他にかまけている余裕がないとも言っていた。

 牛井嬰児は坂柳有栖……正確にはこの学校の理事長の娘に興味を持っていた。

 そんな自分と明らかに異常な嬰児(せいと)が同時に入学……おそらく嬰児こそがホワイトルーム停止の要因なのだろう。

 

(根拠は希薄だが、そこから見えるこの学校はオレにとっての避難シェルターで嬰児(アイツ)にとっては座敷牢……おいそれと関係者に接触できないから、近い立場から何かを探ろうとしているって所か)

 

 坂柳が綾小路を知っていたのも父親絡みと考えるのが妥当であり、背景が見えてくれば格段に不安感が低くなった。

 

 いずれ接触してきても訳が分からないまま対峙しなければならない心配はなくなった。

 

 その時に嬰児を同席させ、自分をどうこうするつもりがあるのか問い質し、もしそうなら見返りとして嬰児の望みを要求し、その貸しで嬰児にこちらの要求を通す――使えるのは一回切りかも知れないが、始めの一歩としては悪くはない。

 

(まぁ、そうなるとしても中間が終わってからか、来月になってからだろう)

 

 考えを整理した綾小路の目は他の何にも例えられないくらいの暗い輝きが宿っており、表情も冷たく凍り付いているに近かった。

 

 痛みも少し引き、そろそろ部屋に戻ろうとした時、

 

「鈴音。ここまで追ってくるとはな」

 

 寮の裏手から声が聞こえ、隠れながら見てみると堀北が壁に押し付けられている場面に遭遇した。

 

「もう兄さんの知っている私ではありません。追いつくために来ました」

 

 奇妙な逢引きだもと思ったが全くの見当違いだった。しかし兄妹喧嘩にしては一方的過ぎて先程の嬰児とのやり取りが脳裏をかすめた。

 

「追いつく――Dクラスになったと聞いたが何ひとつ変わっていないな。俺の背中をただ見てるだけで、何も分かっていない。この学校に来たのは失敗だったな」

 

「すぐにAクラスに上がってみせます。絶対に――」

 

「無理だな。お前では無様に足掻く姿を晒すだけ……わざわざ俺に恥をかかせに来たのか?」

 

 まさに取り付く島もない――堀北を押し付けた手を振り上げて掌底を打ちこむ構えを取ろうとする。

 

 それを堀北自身は不安そうな顔をしながらも無言で受け入れようとする。しかし、撃ち込まれる前に堀北兄の手は何者かに掴まれた。

 

「――――何者だ、貴様?」

 

「あ、綾小路くん!?」

 

 鋭い眼光を向けた兄と驚いた顔をする妹。

 

「兄妹喧嘩にしてもやりすぎだぞ」

 

「お前も盗み聞きとは感心しないな」

 

 睨み合いを続ける綾小路と兄に堀北が絞り出すように言った。

 

「やめて、綾小路くん……」

 

 渋々と手を放す綾小路だが、その瞬間に拘束の裏拳が襲い掛かった。咄嗟に身を引いて避けると急所を狙った蹴りが放たれ、半身にしてかわす。

 

「?!」

 

 二度に渡り攻撃を外され疑問の表情を造った堀北兄は右手を開いたまま伸ばしてくるが、綾小路ははたいて飛びのき間合いを取る。

 

(掴まれれば投げ飛ばされてた……まぁ、どの攻撃も嬰児に比べれば欠伸が出る速度だったが)

 

 ついさっき完敗した殴り合いを思い出しながら、目の前にいる堀北兄は常識内での優秀な人間であると見て、改めて牛井嬰児の異常性を実感する。

 

「いい動きだな。何か習ってたのか?」

 

 興味を持った目で問われる。

 

「まぁ、色々と……そちらもかなり強いな?」

 

 警戒していた時の気が抜けきっていないのか、答えたら問い返してしまった。

 

「空手と合気道――合わせて九段だ。中々、面白そうな男だな」

 

 堀北兄はゆっくり妹に目を向ける。

 

「鈴音、お前に友達がいたとは正直驚いた」

 

「彼は友達なんかじゃありません」

 

「相変わらず孤高と孤独を履き違えてるな――上のクラスに上がりたいなら死ぬ気で足掻け」

 

 そう言って綾小路の横を通り過ぎて去っていった。

 静寂が訪れて座り込み俯く堀北。

 綾小路はかける言葉が思い浮かばず立ち去ろうとしたが、

 

「最初から見てたの?……それとも偶然?」

 

 堀北に問われて立ち去るタイミングを見失う。

 

「偶然だ。夜風に当たってたら声が聞こえてな――立ち入るつもりはなかったんだが」

 

「アナタのこと……よくわからないわ」

 

 バツが悪そうに言う綾小路に堀北は俯いたまま言った。

 

「堀北も普通の女の子なんだな」

 

 綾小路から素直に思った感想がでたら堀北は刺すような視線を向けた。

 

「戻りましょう」

 

 立ち上がり歩き出そうとする堀北に今度は綾小路が声を掛ける。

 

「いや、ついでだから話させてくれ。次の勉強会だが櫛田は来ない――代わりにえ……牛井を誘いたいんだが?」

 

「前者はいいけど後者は理解できないわね……もしかして今日のことで私に変な気を?」

 

 櫛田の参加は最初から反対であり、嬰児ことも全く知らずに思わぬ醜態をさらしてしまった自分に挽回の機会を与えようとしているのかと不快な睨みを向ける。

 

「そうじゃない。悪いが次ので堀北の依頼は完了とさせてほしい……ついさっき牛井と共通の目的を見つけてな。オレたちはそっちに集中したいんだ」

 

 綾小路は首を横に振って要点を話す。

 

「……そう、まぁ、いいわ。正直、手応えがなさ過ぎてどうしようかと思ってたし――この際だから彼らを切り捨てるのも考慮に入れるわ」

 

「もう諦めるのか?」

 

 堀北は軽く息を吐いて了承するも話の流れが予想外の方向に向かい、綾小路は自分の提案で勉強会時の下らない一幕を思い返させてしまい――悪くないと思っていたのは自分だけだったかと、提案を破棄しようと言おうとするが、その前に堀北は饒舌に語る。

 

「勘違いしないで恥かいたとか、そんな理由じゃないわ。私は私のためにAクラスを目指す。その為に開いた勉強会よ――成果が見込めないなら、マシな生徒を良くしていく方が現実的だわ」

 

「で、お前の眼鏡に適わなきゃ、また切り捨てるのか?」

 

 責められているように感じたのか堀北に再び睨まれる。

 

「クラスメイトを見捨てる人間に未来はないなんて寝言を言うつもり?」

 

「いいや、これは突き詰めれば須藤たちの問題だ。お前がそうしたいなら止めるのもありだろう」

 

 あっさりと肯定され堀北は再び歩き出そうとする――その肩を綾小路は掴む。

 

「まだ何かあるの?」

 

 足を止めて不機嫌に振り向くが、普段の堀北なら綾小路の手を振り払って反撃を加えている。それがないのは彼女自身に迷いがあり止めて欲しい願望もあるのだろう――十中八九、無自覚になのだろうが……。

 

(まぁ、乗りかかった船だ)

 

 そう心の中で呟いて綾小路は言った。

 

「堀北の言うこと間違ってはいないが正しいとも思えん」

 

「アナタ、何様のつもり?」

 

「オレだって正解なんて分からん。だが、お前の欠点なら分かる」

 

 堀北は鼻で笑って言ってみろと向き直る。

 

「お前の欠点は他人を足手まといと決めつけて直ぐに突き放してしまう――相手を見下すその考え方が、お前がDクラスに落とされた理由じゃないのか」

 

「……言いたい放題ね。今までビクビクしていた癖に別人のよう――さっき牛井くんと会ったって言ってたけど、何を吹き込まれのかしら?」

 

「アイツなら苗字で呼ばないでくれと言いそうだな」

 

「そう、ならアナタじゃなくて牛井くんに聞くことにするわ。それじゃ」

 これ以上の会話は無意味と判断したのか踵返してエレベーターに入っていく堀北を綾小路は眺める。

 

(その調子で怒らせて少しでも嬰児の本音とチカラを引き出してくれるのを――期待しないで願ってるよ)

 

 今の綾小路にとって最早、坂柳有栖と牛井嬰児以外はどうでもいい。

 

 未来(さき)の希望が僅かでも見えたなら使えるものは使う。全ての人間は道具でしかないのだから――最後に綾小路清隆が勝つ為の。

 

 

 ***

 

 

「ふぁあぁ」

 

 欠伸をしながら向かった教室で俺は櫛田を探す。

 

 昨夜、物は試しでやってみた事は上手くいった……俺自身は使えなかったらどうしようかと思っていたんだが、お、居た居た。もしかしたら休んでるかもと思っていたんだが、やはり根性はあるか。

 

「…………」

 

 もっとも俺を目の端で捉えて僅かに冷や汗が浮かんだが気にしないで近づいて声を掛ける。

 

「櫛田、これお前のだろ」

 

 落としていった学生端末を差し出すと、

 

「あ、拾ってくれてたんだ、ありがとう」

 

 笑顔で礼を言って来たが冷や汗が張り付いているぞ。第一、こんな大事な物をなくして気が付かなかったなんて既に普通じゃないと言ってるも同然、大半のクラスメイトは気付いていないが、平田あたりは心配そうに近づいてきて声を掛けた。

 

「櫛田さん、何かあったの?」

 

「えー、やだなー、別に何も―――――」

 

「実は昨日の夜に櫛田と神について議論してな」

 

 櫛田が誤魔化そうとするが、その前に俺が話に割って入る。

 

「え、カミ?」

 

「髪って、櫛田さんイメチェンでもするの?」

 

 平田の後ろにいた軽井沢が素っ頓狂な声を上げ、取り巻きの佐藤が勘違いして問いかけるが櫛田は返す言葉が思い浮かばないのか、困った顔で固まってしまう。

 

「こっちの神だよ」

 

 俺は手を合わせて合掌し拝むような仕草を示す。

 

「なに……ひょっとして綾小路くんにも説法でもしたの――ならとても陳腐ね」

 

 予想外の所から声がして見ていると堀北が澄まし顔でおり、隣の席の綾小路はいつものポーカーフェイスのままだが横眼で堀北を見ている――あの後に何があったのやら?

 

 会話を櫛田に戻しても良かったがまだ立ち直っていないようだし、だた待ってるのも何なんで堀北近くに行き言った。

 

「堀北は神を信じないのか?」

 

「少なくとも私には必要ないわ」

 

「そんなんで幸せか?」

 

「私の幸せをアナタに……ましてや神なんて居るかもどうか分からい存在に決められるなんてゴメンだわ」

 

 不機嫌を隠そうせずに質問に答えてくる堀北――それにしてもどうにも言葉が刺々しいが俺、何かしたのか?

 

「信じることで救われるとか言うなら、お金でも権力でも好きに信じればいいじゃない」

 

「その理屈なら神を信じても良さそうだが」

 

 俺は俺で引く気はないと示すと堀北が睨みつけてくる――ああ、喧嘩になるなら『牡羊』の催眠で、

 

「ちょ、ちょっと落ち着こう二人とも」

 

 と思ってたら平田が間に入ってきた――丁度いいな。

 

「平田はどうなんだ、神を信じるか?」

 

「え……」

 

 返答に詰まる姿を見ながら、それでもせかさずに無言のままどう答えるかを待つ。

 

 クラスの和を重んじて玉虫色の答えを口にするか、この場は俺を建てて思ってもいないことを述べるか、堀北を建てながら俺を窘めようとするか?

 

 時間にして数秒もないはずが途轍もなく長く感じる沈黙の後に平田の口が開く。

 

「ごめん……僕の心は神を信じることを受け入れられない」

 

 ほう。ここまで偽らずに俺を否定してくるとは……。

 

「そっか、やっぱり平田とは生涯(・・)友達になれそうにないな」

 

 俺の台詞に不穏な空気が流れ、クラス内が一気に緊張してきた。気の弱い奴らやこの前、俺に楯突いて、あっさり返り討ちにされた三バカなんかは固唾をのんで俺と平田を見ている。

 

「だが誠意をもって正直に答えてくれたことには俺も敬意を称す。友達にはなれないが、良いクラスメイトではいよう。改めて三年間、よろしく」

 

 握手を求めると平田をはじめ周りの緊張も一気に抜けて、机に突っ伏す者、安堵に讃えあう者もいるなかで平田は心底嬉しそうな顔で手を差し出して握手に応じた。

 

「ああ、それで十分だ。よろしく頼むよ、嬰児くん」

 

 でも、これで話はお終いとは行かない。

 

「ちなみに櫛田も神を信じない口だそうだから、堀北とも仲良くできそうだな」

 

 話を再び櫛田に向けると肩を小さく震わせた。

 

「え、いや、別に……そんなことは…………」

 

「いい機会だろ――櫛田だって人の子なんだ。ストレスだって溜まるし、弱音や泣き言を吐きたい場面もある。お前らも櫛田が優しいからって甘えてばっかりいないで、偶には櫛田を助けたり、頼ってもいいくらいはしてやれ。それでこそ〝お友達〟だろ」

 

「―――――――!!?…………うん……そうだね」

 

 俺の勝手なフォローに余計な事を思っていたようだが、最後の〝お友達〟に顔を青くして思わず肯定してしまったようだ。

 

 でも事情を知らないクラスにはイメージが崩れて嫌われると思ったのだろう。

 

「ああ、ごめんね。櫛田さん……嬰児くんの言う通りわたしたち確かに甘えてた」

 

「これからはあたしたちのこと、頼ってほしいい……櫛田さんみたいには出来ないかもだけど、それでも少しは力になれると思うから」

 

 櫛田と特に仲が良かった井の頭と王が近づいて『大丈夫だよ』と言ってくる姿に櫛田は涙を浮かべる……もっとも何に対してかは分かりかねるが。

 

 そして俺以上に分かってないクラスの奴ら、特に男子は自分たちも力になるぞと櫛田にアピールしまくっている……下心見え見えで、また櫛田のストレスが増加しそうだな。

 

「嬰児、神を信じる者同士で頼みがあるだが」

 

 顔を向けると綾小路が……ただの方便だったんだが、なんともノリのいい奴か?

 

「言ってみな」

 

「言うまでもないかも知れないが櫛田とは信じるものの違いで意見が割れて喧嘩しちまってな……代わりと言っちゃなんだが今、堀北とオレがやってる勉強会に参加して欲しいんだが?」

 

「え、綾小路……櫛田ちゃんと喧嘩したのか?」

 

 てっきり皆、櫛田に言ってると思ってたんだが池が聞きつけて話に入ってくる。

 

「それでなんで、う……嬰児なんだよ?」

 

 続くように山内も――こいつらもメンバーとするなら須藤もか。

 

 そう思い目を向けると不機嫌な顔で睨み返される。

 

「なんだよ。言いたいことが有るなら言えよ」

 

 ハッキリ言って歓迎されてないし、俺自身も赤点組(コイツラ)の尻ぬぐいなんてしたくない…………綾小路め、何を考えてこんなことを?

 

「嬰児が見てれば緊張感が高まって、いい刺激になると思ってな。

 それに嬰児がいると例え喧嘩になりそうになってもサッと終わりそうだし……正直、オレじゃ止めきれる自信がない」

 

 尤もらしいことを並べながら、俺と近しい間であり自分が下であるとさり気なくアピール――こんなことで俺に取り入れると思っている……訳もないよな。

 

 これは昨夜の交渉の続き――この誘いに乗れば俺の望みを聞くと、まぁ、こんなところかな。

 

 ……………………メリットが思い浮かばないから断ってもいいが、次から次に来られたら面倒だし、明確に断るだけの理由も無いか。

 

「分かった。いつだ?」

 

「取りあえずは昼休み、昼食が終わったら図書室で」

 

「なら昼飯を奢ってくれ、そろそろ苦しくてな」

 

「いきなりか。オレもそこまで余裕ないから高いのは勘弁してくれよ」

 

 早速、要求してみる軽い要求同士で貸し借り無し。勿論、後で付け入られないように安い定食にするつもりだ。

 

 よしんば組むとしても主導権は俺だ。

 

 それとも俺が心地よく踊りたくなる手拍子を奏でられるか?お手並み拝見と行こう。

 

「ねぇ、それ、私も混ざっていい?

嬰児くんに話したいことが有るし、綾小路くんとも仲直りもかねて私もポイント出すし」

 

 そこに櫛田が笑顔のまま言ってきた。

 

 平田と堀北とひと括りにして友達になれないとしたにも関わらず諦めない姿に皆は流石だと感心し、昨夜の一件を知っている綾小路は驚くが非難の目を向けることもなく冷めた目で俺が決めていいとこっちを見る。

 

 

「ああ、いいぞ」

 

 ちなみに俺は櫛田の動機は分かり切っているので了承する。

 

 

 ***

 

 昼休み、賑やかカフェで俺と綾小路、櫛田は同じテーブルにつき、手ごろなメニューを頼んでいた。

 

 ちなみに俺は1ポイントも出さず、綾小路が一割、櫛田が九割の振り分けだったりする。

 

「まずは綾小路くんに謝る。

ごめんね――こいつに怖い目にあわされたの想像がつく」

 

 頭を下げる櫛田に綾小路は冷めた目のまま応じる。

 

「ああ、殺されるかと思うぐらいの力の差を感じた」

 

 恐怖に駆られたとは言え、あっさりと売ったのだ。この支払いもお詫びの印……だけではなかったりするんだな。

 

「で、聞きたいんだど――これはどういうこと?」

 

 内心は兎も角、外面は冷静を保って端末を差し出すと殆ど10万――この昼飯代しかポイントが減ってないことを示しており、綾小路も興味深そうに俺を見てきた。

 

「俺の特技のひとつだ。まぁ、遠慮なく受け取れ」

 

 『亥』の能力『湯水のごとく(ノンリーロード)』の応用、機関銃じゃなくて電子マネーに適応できるか、ずっとやってみたかったんだよな。

 

「特技って……正規の手段じゃないってことだよね?こんなのがバレたら――――」

 

「退学どころか逮捕されるかもな」

 

 上ずった声の櫛田に綾小路が代弁するように言ってきた。

 

 ああ、だから試せなかった――しかし俺の敵に回ったんだったら遠慮は無用だ。

 

 だから――

 

「バレないようなに頑張れ、お前なら難しくないだろう」

 

 交友関係が広く、優しくて人気のある櫛田なら大量のポイントも貸してもらったと言えばまず疑われないだろうし、ばら撒く用途も苦じゃないだろう。

 

 それでもバレた時のことを考えるのも人間だったりするから、

 

「アンタのことは何も言わないし邪魔もしない。だからこのポイント無しにしてよ」

 

「ああ、それは無理だ。うまく活用してくれ」

 

 犯罪の関りをチャラにして欲しい懇願をあっさり切る。まぁ、実際に増やすことは出ても逆は出来ないしな。

 

「櫛田。ポイントは有って困るもんじゃない……確かに方法は異質だがシステムの不備だと言い逃れが出来ないこともない。手っ取り早く元の金額に戻すようにオレも考えるから、そう悲観的なるな」

 

「あのさ、綾小路くん……私が言うのもなんだけど裏切った相手に手を差し伸べられて簡単に信じられる?」

 

 おっしゃる通り、裏切ったのと窮地を救ったので篭絡しようと打算を働かせていると考えるのが妥当――追い詰められても櫛田の思考はそこまで鈍っていない、普段からストレスを貯めこんで耐性ができているのか?世の中、何が幸いするのか分からないものだ。

 

「別に信じなくてもいい――ただオレの予想では割とすぐに大量のポイントが入り用になる。その時に普段通りに協力してくれれば面倒がなくていいんだ」

 

「訳、分かんない?」

 

 それは俺も同感だ――意味深なこと言って何を企んでいるのか?早くも新しいアピールか?そうだとしたなら、お手並み拝見と行くか。

 

「その時が来れば分かる。今はただ、オレの言ったことを胸に留めていてくれ」

 

 そう言って食事を始めたので俺も少しゆっくりと櫛田も続いた。

 

 それにしても凄い女子の多さだなと思っていたら見知った顔が、

 

「はい。高円寺くん、あーん」

 

「ハハ!やはり女性は年上に限るねぇ~」

 

 高円寺を囲んでいるのは一人二人じゃない言うことからして上級生……一体、何に群がっているのやら?

 

 ま、大体の察しは付くから普通なら呆れるか僻むかだが、親の七光りで満足する玉じゃあるまい――羊の皮をかぶった狼ならぬコヨーテ、そう思わせた俺の期待を裏切らないでくれよ。

 

 

 昼食を済ませて櫛田と別れ、俺と綾小路は図書室に向かう。

 

 遅れては後が煩いと少し速足で向かったが綾小路は遅れずに付いてきており、予定より早めに到着し、堀北たちはまだのようで、どうせならと見渡した際に見つけたスタイル抜群のストロベリーブロンドの美少女がいる席のすぐ隣を確保し、時間通りに堀北と須藤たちは合流した。

 

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