どうしても叶えたい願いの為にその気になる綾小路と、別にどうでもいい願いでなんとなくいるオリ主   作:a0o

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大晦日は猫の手も借りたい

 

 

 

 さて、やってきました今年最後の日の大晦日--普通なら休みを満喫するか、そうでなきゃおせちでも用意するかだが、生憎と俺は仕事しなきゃの側だ。

 

 朝の肌寒い空気に手を擦りながら正門に向かう。

 

 今回は誰も見送りに来ないでと思ってたんだが、やっぱりそうはいかないか--前回同様に綾小路が居るのはそうだが、櫛田に軽井沢とそれに一之瀬まで一緒に待ってた。

 

 何も知らない奴が見ると綾小路が女を侍らせてるみたいな光景だな。

 

「嬰児くん。ここに佐倉さんが居たら、綾小路くんは浮気なんかしないって言うと思うよ」

 

 そんな俺を見て開口一番に櫛田が笑顔で言って来た--その優しい表情がなんとも癪に障るのも計算済みか?

 

「櫛田さん。それフォローしてるつもり?」

 

 軽井沢もだが、周りも同意見みたいだ--対しての櫛田の反応は〝どうでしょう〟と言ったもの。

 

 ハハ、ホントに愉快な女だな。

 

 そんな心情のまま話に混ざりたいが、生憎と無駄話をしてる訳にもいかないみたいだ。

 

「嬰児。予定時間前だがもう車は待ってる--グズグズしてるとどやされかねんぞ」

 

「綾小路くんももうちょっと言い方ないの?」

 

 今度は一之瀬が突っ込んでるし……なんでこんな朝っぱらからコントを見せれてるの、俺?

 

 溜め息つきたくなるが、その前に一之瀬が近づいて来た。

 

「てっきり背広着て来ると思ってたんだけど、そんなラフな格好でもいいの?」

 

「正装だとやりにくい場合もあるからな--動きやすい服装にしたんだ。着替えなきゃならの場合も準備して来たし」

 

 新調したスーツを収めたガーメントケースを見せると安心した顔になる--素で気に掛けてくれるのは有り難いと思っておこうか。

 

「な~に、一之瀬さん。嬰児くんのネクタイ直す役でもやりたかったの?」

 

 堂々と割って入って来る櫛田の顔は嫌なものだ--全くここまで分かり易くあると返って清々しさを感じるよ。

 

「にゃははは。そうだね、それが出来たらロマンチックだよねぇ--私も高校生の青春を謳歌したいし、例え普通じゃなくても」

 

「こら、朝っぱらから修羅場を醸し出すな--こっちはただでさえ気が重いんだからな」

 

「「「「………………」」」」

 

 なんだよ、全員黙って胡乱な目で見て来やがって…………折角来たんなら、もっと気持ちよく見送れよ。

 

「……嬰児。先方も待ってるし早くした方がいい」

 

「うん、綾小路くんの言う通り待ってると時間が長ったらしいしね。それから贈り物の件、よろしくね」

 

 綾小路は兎も角、軽井沢も〝何を言ってるんだ〟みたいな顔しやがって…………ただ無駄な問答するのも癪だし、そのまま足を進める。

 

「分かってるよ。じゃ、新年に会おうぜ」

 

「うん、行ってらっしゃい!」

 

「あ!」

 

 正門を超えたあたりで言うと一之瀬が間髪入れずに返してくれて、櫛田の出遅れたって感じの声が響いた--さて今は一体どんな表情が出てるのやら気になるが俺は振り返らずに迎えの車に乗り込んだ。

 

 

 

 ***

 

 

 嬰児の乗った車が行ってしまい、綾小路たちは何とも言い知れない空気に少々固まってしまうが、いつまでもそうしてる訳にもいかず、

 

「嬰児くんさ、ちゃんと帰って来るよね」

 

「一之瀬……神妙な顔して何を言い出す?」

 

「綾小路くんの言う通りだよ--な、何を突然不吉な事を」

 

「軽井沢……どもってるぞ」

 

 綾小路の指摘に慌てて呼吸を整えるが周りは特に気にした風でもなく、嬰児が去っていた方向を見ている。

 

 ドラマなどの定番ではこのまま帰って来ずにこれが今生の別れだと告げられるメッセージが後で送られてくるものだが、流石に妄想じみてると一蹴する。何より、嬰児とてこんな形でのさよならを望む者ではない--そんな命令が出たとして否が応でもの状態になったならば、

 

「もしさ、もしもだけどさ--嬰児くんがピンチになっちゃたら、綾小路くんどうする?」

 

「オレ如きじゃ、どうしようもないな。櫛田は助けに行くのか?」

 

「う~ん。どうだろうね~、命あっての物種だし~」

 

 話の流れが完全に物騒な方向に行ってしまい、益々思い雰囲気が圧し掛かって来る--そこに背後から第三者の声が響いた。

 

「それが賢明ですね--ついでと言ってはなんですが、その調子で貴女の目標は正攻法で挑むことをお勧めしますよ」

 

「有栖。来てたのか」

 

「おはようございます、清隆くん。そして皆さん」

 

 綾小路たちが振り返ると黒いケープコートにベレー帽の坂柳の姿が--自然と綾小路から距離を取る女子たちを気に留めることなく、近づいて隣に立つのは最早見慣れ過ぎていている風景だった。

 

 だからこそか、一之瀬も自然なニュアンスで問いかけた。

 

「坂柳さんは嬰児くんが外で何するか、やっぱり知ってるの?」

 

「いいえ、全く--ただ彼の家業と呼べるものは大凡聞き及んでおりますので、絶対に心配ないなどの無責任な事は言えません」

 

「豪く不吉な含みを持たせて来るね」

 

「端的な事実です--そしてこれ以上の事は例え知っていても言えませんよ」

 

「分かってるって--坂柳さんの所為で死んじゃったなんてのは私だって望むところじゃないし」

 

「一之瀬も大概だな」

 

 坂柳を庇う様な綾小路--不吉な空気が更に増してしまいそうになる。

 

「やめようよ、こんな日にギクシャクするのは」

 

 が、櫛田が絶妙に間に入って回避させた--この辺りの調整の仕方は流石だと全員が感心しつつ、その言い分の尤もさも理解しているので無言のまま手打ちを了承する。

 

 そして再び正門に顔を向け、嬰児が行ってしまった方向を見て程なく解散となった。

 

 

 

 ***

 

 

 

 さて何カ月振りかの外は年末年始に彩られてると言えばいいのか、締めの売り出しやら年明けへの宣伝やらで賑わって見える--知識や諸々の記憶としては知っていても実際に見てみると得られる情報は文字通りに次元が違うな。

 

 ただそんな感傷も長続きせず目的地のビルに到着した--さて一体何をするのか?

 

 車から降りて指示された階まで行き、連絡があるまでホールで待機--特例の口上がある程度は建前だと思ってたが、まさか今日明日はずっとこのままで過ごさなきゃいけないなんてことはないよな?

 

 建前と言えば、軽井沢のイベントプロデュースの対価として指定された病院に贈り物をとのことだが、この『杉村』とやらは一体誰でどんな関係なのか?

 詮索はしないで欲しいとの事だったから何も聞かなかったが妙に切実にも感じた--暇するなら俺が直接行きたいものだ。

 

 そうして暫らく待ってると人の気配がうじゃうじゃと--どうやら何もしないのは無いみたいだな。

 

「待たせたな」

 

「いいえ、それでこれから私は何を?」

 

「まずは着替えろ--その後すぐに移動だ」

 

 ホールに入って来た警備服の集団の一人から声を掛けられたので立ち上がり予定確認--向こう側も粛々と答えてくれる。

 

 真面目な方のようでひと先ずは安心だな。

 

 指示通り、ロッカーで警備服に着替えて彼らと混ざって移動--前は偶然を装ってのテロの対処だったが、今回はストレートに大物の警護でもするのか?

 

 姿勢や歩き方などの身のこなしからすると彼らは間違いなく訓練を受けたプロだ。俺の事を知ってるかは判断付かないが、職務に同行するなら少なくとも戦士の関係者なのは把握してると見た方がいいか。

 

 さて再び(バン)に揺られること数時間--このまま東京を離れて関東圏外でも思ったがそこまでじゃないようで、趣を感じる大きな神社の前で止まった。

 

 ここが本当の目的地か。

 

 一緒に降りて後に付いて神社の敷地内に入る--進んでいる中エリアの一角では既に初詣に向けて、いくつもの屋台が準備されている。

 

 う~ん、暇があるなら俺も回ってみたいな--そんな誘惑に駆られそうになるも飲み込んで神社の中に入っていく。

 

 神主と思われる人と数名の巫女さんや宮司さんが真剣な面持ちで待ち構えていた。

 

「お待ちしていました。早速ではありますがあなた方の警備地区はここでお願いします」

 

 単刀直入だな--用意されている境内の見取り図の中で指されたのは本殿からは外れた、外苑って言うのかな、兎に角無駄のない会話で話は淡々と進み仕事が割り振られた。

 

 そして、また即移動で忙しないものだ。

 

 どうやら俺だけが飛び入りって訳じゃないみたいだな--この時期の神社の警備なら、もうとっくに出来てるのが自然だ。そこに妙なのが割り込まれたら素っ気なくなるのも仕方ないかな。

 

 それにしても広いし、まだ明るいのに参拝者--特に若者や外国人なんかが多い。

 

 今日明日のことを思えは普通だが気を抜く訳にもいかん--前の事もあるし、何が起きても対処できるようにしておかなきゃな。

 

 

 

 

 しかし何も起きることなく昼の休憩に入ってしまった--いや寧ろその方が良いんだけどさ。

 

 休憩室で弁当をと思ってたが、なんで……いや、出来れば会わずに済ませたかったぞ。

 

「ご苦労様です--牛井嬰児」

 

 ドゥデキャプルの紳士的な挨拶は相変わらず傲慢な心証を受けるな。しかも当人はまったく気にした様子もなく、頭を上げてそのままの態度で続けて来る。

 

「お手数ですがご昼食は私服に着替えての外でお願いします」

 

「つまり、ここからが本当の〝お仕事〟ってことか?」

 

 思ったことをそのまま言ったが、当然無言のまま何も返ってこない--俺が知る必要はないってことね。

 

 時間も勿体ないし、とっとと着替えて行くとするか。

 

 

 

 近くにあるファーストフード店でコーヒーとランチを注文して適当な席に座る--そして直ぐに薄茶のトレーナーにジーンズのラフな格好した四十代と思しき男が近づいて来た。

 

「相席よろしいですか?」

 

「どうぞ」

 

 座ると男は手にしてた新聞を広げる--俺の方から見える一面には〝『市民党』直江元幹事長、体調不良で引退の噂も〟と題されており……ああ、もうまどろっこしい!

 

「用件があるなら手短にお願い頂きたいんですが」

 

「無理してる風なのはワザとですか、それとも本当にご機嫌が悪いのですか?どちらにしてもこんな時期に勿体ないですよ」

 

 新聞から顔を出すその顔は如何にも営業スマイルで、どの口が言うのかと言ってやりたいがここは話を先に進める事を優先すべきだ。

 

 俺は無言で相手の出方を待つ姿勢を取ると男も察したようで、ひと息つくと言った様相になり手にしてた空のカップを取った。

 

「すみません。コーヒーのお代わりをお願いします」

 

「はい。ただいま」

 

 近くに居た男性店員がポットを持ってコーヒーを淹れ、次に俺の方に尋ねて来る。

 

「お客様はいかがですか?」

 

「お願いします」

 

 俺も入れて貰う間、向かいの男を警戒するがずっとその店員をにこやかに見ており、全く訳が分からない。

 

 今はただ相手の出方を待つしかない、そう思いながら淹れられたコーヒーを口にすると男が口を開いた。

 

「いや~、大晦日も働く勤労少年。感心しなければなりませんね」

 

 顔を俺の方を向けているが意識はコーヒーを淹れた店員に向けてる--これって試してるのか?じゃあ取り敢えずは、

 

「お知合いですか?」

 

「いいえ、殆ど(・・)初対面ですね--この店も初めてですし」

 

 今度はまた分かり易い含みを示して来る--全く用があるなら、とっとと言えよ。とそんな気持ちを込めた目を向けると、意識を俺に向けるも態度を変えることなく男は続けて来る。

 

「見た所、貴方も寛いでる様子ではなさそうですし、年末年始をアルバイトに精を出している勤労少年--さしずめお昼の休憩ですか」

 

 明らかに疑問形じゃないニュアンスは白々しさを通り越してる--これ以上の時間の無駄は好ましくないな。

 

「面白くもない探り合いは止めませんか--そちらも仕事なら、ごちゃごちゃ言いませんよ」

 

「おやおや、何やらご機嫌を損ねてしまったようで」

 

 あくまでも白を切り通すか--コーヒーを口に運び、これ以上の詮索はしないと無言で示している。俺の意に反して無駄な時間をお望みのようだ--ならせめて何か面白い話でもして欲しいものだ。

 

 なんとなくさっき見せられた新聞の一面に目を向ける--よく見ると日付が今日の物じゃない。

 

「政治に興味がおありで?」

 

 気付いた途端にまた白々しい--ただここは話を合わせるべきか。

 

「いえ、なんとなく大変な事になってるかなと」

 

「ええ、事と次第によっては政変が起こるのではないかと言われてます--直江先生のような大物が亡くなると政界の勢力図が一変してしまいますからね」

 

「後継者争いとかでも勃発しますか?」

 

「さて、名乗りを上げられるほどの器がどれ程居るか--いずれにしてもこの国の大きな転換期には違いないですね。全く次から次へと面倒なことが続いて…………難儀な物です」

 

「俺たちの様な下々の者がこんな所で議論してても―――――」

 

「いやいや、この超情報化社会--その気になって調べれば世界に何が起きてるかなど知るのは難しくは無いでしょう。実際に各省庁のデータを発信してますし、若者たちにも特に興味を持って貰いたいものです」

 

 なんだ、わざわざ先事の嫌味言いに寄こされたのか?

 

 どうにも意図が測りきれない、こうなると俺ももっと踏み込んで見るべきか--そう思った瞬間に、

 

「わ!」

 

 直ぐそこでの大声に目を向けると、さっきの店員と客の女の子が慌てふためいていた--どうやら、ぶつかったようで床に零れたコーヒーと女の子の服に飛んだ跡があった。

 

「申し訳ありません!」

 

 直ぐにカウンターから店長と思しき中年の男が出て来て店員も一緒に頭を下げた--ただ女の子の方は怒るでもなく寧ろ心配そうに店員に目を向けていて、こっちも訳が分からない。

 

「いえ、私が急に振り返ったのがいけなかったんです。せんぱ……余り怒らないで上げてください」

 

 成程、知り合い--それもかなり親しい関係のようだ。それは誰もが分かったが〝はい、そうですか〟と行く訳もない店長は頭を下げたまま、更にしっかりと謝罪する。

 

「いいえ、ご迷惑をお掛けしてしまい申し訳ありません--クリーニングの代金はこちらが持ちますので」

 

「いえ、本当に大丈夫ですから!」

 

 なんとも頑なに拒否する姿は妙な必死さを感じさせる--視線を向けてる店員の事から察するとそいつの給料からの天引きなんかでも気にしてるのかな?

 

「兎に角、私は気にしてませんから……彼の事も怒らないで上げてください。それじゃ」

 

 これ以上、ここに居たら不味いと思ったのか財布から代金を置いて一目散に去って行った。

 

 忙しない場面が過ぎ去ったら店長さんは、今度はフロア全体に向かい頭を下げた。

 

「お騒がせして申し訳ありませんでした--直ぐに片付けますので、どうかごゆっくりと」

 

 そうして店員を下がらせ、別の店員がモップを持って床を掃除する--奥の方ではどんなことになってるか?

 

「やれやれ、こんな日にやらかしましたね--注意で済めばいいのですが」

 

「やっぱり知り合いなんですか?」

 

「おおっと、すみません--私ももう行かなければいけませんので」

 

 男は答えることなく席を立つ--結局何しに来たんだよ?とそんな事を思った際の去り際に。

 

「それでは、また会いましょう--牛井嬰児くん」

 

 名乗っても居ない俺の名を言って去って行った--程なくして俺も立ち上がりカップを返却棚に置き店を後にする。

 

 またね--ただの心証だが、あの調子だとそんなに先の話じゃ無さそうだな。

 

 

 

 

 そうして日もすっかり暮れて寒さも増していく中、神社では人だかりも増して来た--ざっと見ただけでも万の規模を思わせる光景だし、全体的には数百万は居そうだな。

 

 その中でも高校生や大学生と言った感じの若者が目立ち、グループやカップルで和気あいあいとしてる様子を見るとあれが、真っ当な青春なんだなと妙に感慨深い気分になる。

 

「松尾先輩、元気出してください!」

 

 とそんな気分に浸るも束の間、聞き覚えのある声に目を向けると昼間の店に居た女の子が男性店員を引っ張る形で来ていた。

 

 男の方は暗い顔で……ぶっちゃければ人生に絶望したようでもあった。

 

 もう直ぐ年明けだってのに、なんとも愉快とは言えないな--ただ部外者が安易に立ち入ってもいい訳もない。

 

 それにここは神様のいる場所、セオリーからすれば祈ること……ひょっとして、あの娘もそれが目的だったりするのか?

 

 しかしカップルか--あっちは今どうしてるかな?

 

 

 

 ***

 

 

 

 雲ひとつない晴れ渡った夜、されど冬らしい寒空に外に出る事は無く高度教育高等学校の学生寮ではいくつも部屋に明かりが灯っていた。

 

 その中のひとつ--綾小路清隆の部屋には一緒に新年を迎えようと来ていた坂柳有栖の姿があった。夜遅くに高校生の男女が二人きり、両者の親しい者たちも気を使ったのか--それとも別の思いがあるのか、それぞれの部屋で何を思っているのか。

 

 そんなことを全く考えても居ない二人は暖房の利いた部屋にテーブルに向かい合い、ただ静かにお茶を飲み他愛無い話をしながら時間が流れるのを忘れていた。

 

「こうして思う返すとなんだかあっという間の年でしたね」

 

「オレとしては入学して早々に大息吐息の連続で忙しない年だったよ」

 

「あらスリリングでいいじゃないですか--そう言うのはお嫌いですか?」

 

「平穏な三年間を夢見て入学して来たからな--ついでに言うとバラ色の高校生活、青春って奴を体験してみたかったよ」

 

「友達が出来て彼女が出来て……外の学校なら今頃は初詣に集まるなんてのもありますね」

 

「有栖も寂しそうだな--流石に縁がなかったか?」

 

「ええ、御覧の通りの身体ですからそこまでの遠出は許されません--無理して危うい事にもなりかけましたから、一層に止められてしまいましたし」

 

「う~ん、なんだか嬉しそうだな」

 

「あら、私そんな顔してますか?」

 

「ああ、とっても微笑ましい顔して嬉しそうに喋ってるぞ--実に可愛らしい限りだ」

 

「…………もー!本当に言うようになりましたね」

 

 流石に初めてじゃないだけにそこまでの動揺はなかったが、それでも照れが入るのはどうしようもないのか頬に朱色が差しながら言い返す。

 

「今日までずっと冷やかされ続ければいい加減になれるさ--しかも二度も式を上げた仲だろ、花嫁よ」

 

「全くもう、私専用のナルシストなんてならなくても――――」

 

「いやいや、結構流行ると思うぞ--客観的に有栖は本当に可愛いし魅力的な娘だ」

 

「~~~~~~~」

 

 綾小路としては私情を抜きにした分析を言っただけだが、真顔でそれも真正面から放たれた台詞の破壊力は計り知れず、坂柳有栖の精神(こころ)に揺さぶりどころじゃない衝撃を与えたのだった。

 

「これもまた記念すべき瞬間だな」

 

「~~~~~~~~~~~~~~」

 

 ありのまま見たままの感想を述べる綾小路清隆に益々声が出ずに顔の朱色が増して行ってしまう--このまま思い通りになっていくのは面白くないと頭では分かっているが、無意識が追い付いて行かないのか、結局無言のまま二人は全く違う面持ちで向かい合う時間が流れていく。

 

「お」

 

 そうして幾分が過ぎた時、綾小路は何かに気付いた--いや、待っていたものがやっと来たと言ったニュアンスで顔の朱色が引き、ざわついた気持ちが収まってきている坂柳に改めて何か言う態度を見せた。

 

(こ、今度はなんですか?)

 

 不本意にも身構えてしまう坂柳に綾小路はいつも通りの口調で言った。

 

「おめでとう」

 

「へ?」

 

 一瞬、何を言われてるのか訳が分からずに間の抜けた声が出てしまう--綾小路は少し嬉しそうなニュアンスが混じりながら続ける。

 

「新しい年だ--こう言う時は明けましておめでとう、だったよな」

 

「あ……」

 

そもそもその為にこの部屋の来たにも関わらず、すっかり忘れていた自分の間抜けさに腹立たしくも………………

 

「一緒に新年を迎えられてよかった」

 

 なることもなく、更に続けられた言葉に自然と笑みを浮かべてしまう--そして自然のまま綾小路の手を握り坂柳も言う。

 

「はい。今年もよろしくお願いします--綾小路清隆くん」

 

 ただ何気ない会話--それなのにそれを交わしていると本当に昔からの幼馴染だと感じてしまう。

 

 お互いにお互いが抱いている気持ちが何なのか、彼も彼女にもまだ分かっていない--周囲に流されるのではなく、二人が自分自身で悟った時にどんな結末が待っているのか。

 

 ただ今は、このひと時を幸福だと感じることはどんなことがあろうとも間違いじゃないはずだ。

 

(願わくば、またこんな時を)

 

 手を握りながらの坂柳の思い--そんな気持ちを向けられた綾小路は訳が分からないまま、彼女の気の済むまで付き合うのだった。

 

 

 

 




 それでは、よいお年を。
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