どうしても叶えたい願いの為にその気になる綾小路と、別にどうでもいい願いでなんとなくいるオリ主   作:a0o

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別のおめでとうを聞いて

 

 

 

 新年あけましておめでとうございます。

 

 まだ日の登る前の薄暗い時に俺は一人、祀られてている神様に祈る--手持ちの現金が無いから賽銭は出来ないが、そこはどうか大目に見てくださいと手を合わせながらの言い訳には神様はどんな顔してるかな?

 

 ただ物思いに耽っている時間はない、初日の出と共にここの神社は開く--即ち今日の仕事の始まりだ。

 

 既に近くの参道を始め、あちらこちらから初日の出を見た人達の足はこっちに向かってる--これからどんどん増えていくだろう。

 

 日も登り切り、晴れ晴れと澄み切った空の下で賑わいは増していき、俺の担当エリアも直ぐ様に人で溢れかえる様子を見せた--今日の為にか新品と思わせる和服を着た女性、厚着を着込んだ子供を連れた家族、そして新年早々からイチャイチャしながらやって来るカップルと老若男女問わず、正に人の川の如く風景には傍から見て感慨深いものだ。

 

 それにしても昨日も感じたが、ここの神社はやたら若者や外国人が多い--これなら紛れてしまうことも出来そうだ。尤もそんなことしても消される理由を与えるだけ……もしかしてこれが狙い、もしくは逆らうなと念を押す為か?

 

「こら、ボーっとするな」

 

「すみません」

 

 とは言え周囲への注意は怠っていないんだがな--前回同様に知らない間にまた何かやらされるのかね。

 折角の年明けだし良い天気だし、こんな日ぐらいは何も起こって欲しくないもんだが。

 

 なぁ、ドゥデキャプルよ。

 

「やあやあ、お久しぶりです--牛井嬰児。ご機嫌よろしゅう感じで結構な事です--ここは礼節の則り、明けましておめでとうございます。と言わせて頂きます」

 

 俺が気付いた瞬間に可笑しな言い回しをして来るのはおちょくってるのか?

 

「悪いけど仕事中でな--与太話してると怒られるから単刀直入にお願いできるか」

 

 振り向きもしないで言ってやったが、相変わらずの不敵な笑みを浮かべてるのが手に取るように分かる--ああ、全く持って不愉快な限りだ。

 

「勤労ぶりには頭が下がりますなぁ--実に結構なことでございます」

 

 台詞の一部に昨日のおっさんを思わせてきた--となると今回の本当の仕事は。

 

「病床に臥せってる直江って爺さんをどうにかするのか?」

 

「いいえ、全くその必要はありません」

 

 即答で否定か--接触して来たのとあの記事は別に考えた方がいいってことか?

 

 最近の事で加味すると綾小路の父上殿か--派閥にでも入ってるのか、敵対してんのかは分からないが直江と絡んでたのか。なんであれ政局に巻き込まれての騒動となるのか、綾小路と坂柳(あいつら)はさぞ御免な展開になるだろうな。

 

 その騒動が十二大戦に横槍が入った影響とかなら、俺も駆り出されても不思議じゃない--戻ったら敵同士になるなんてのは今の所は望んで無いから勘弁してほしいんだがな。

 

「フフフ。色々と妄想を膨らませているようですが、そこまで大きな変化が起こる事はありません。もっとも一寸先は闇--世の中は何が起こるのか分からないのが常ですが」

 

「結果、俺の様なのが生み出されたりとかか--そこまで言うなら大戦を仕切り直せば済んだんじゃないか」

 

「いえいえ、これは全くの私の勘なのですが通常通りに開催がなされても余り彼らの状況は変わらないかと」

 

 なんだ、元幹事長とやらのバックについてた有力者はそんなに勝負事には疎かったりするのか?

 ベットした国を全損失でもなった日には並行して一気に権威が吹っ飛ぶのも想像に難くない。

 逆に他の有力者についてる奴に追い落とされたりとか--ひょっとして綾小路の父とはそう言う立ち位置に居るのか?

 ただ普通に考えればそれは現総理の……確か鬼島だったか。そいつの方がしっくり来たりする--確かあの場では理事長は一線を退いたとか言ってたし、直接の側近とは考え辛いし、仮に敵対する立場だとして直江に取って代わろうとか下剋上でも狙ってるのか?

 

 …………てな考え事に没頭しそうになると背後にいるドゥデキャプルの笑みがますます深くなってるのを感じる。

 

 ったく、止めだ止めだ--憶測を並び立てたって分かるものじゃない。出たとこ勝負になるには本意じゃないし、もしも綾小路と坂柳と敵対することになったとしてもその時はその時だ。

 

「訳の分からない話を駄弁りに来たなら、またにしてくれないか--ここは神様の前なんだから穏やかなまま過ぎて行って欲しいんでな」

 

「確かにそれは御尤もです--無粋な事をしてしまうには時と場所があまりにも不適切でした。ではお詫びも兼ねて私めもご挨拶に伺うとしましょう--それではまた」

 

 言いながら俺の見える方に移動し、紳士風にお辞儀--いつもとは違い人の川の中に消えていった。全く何し来たんだかな?

 

 

 

 ***

 

 

 

「ヤッホー、きよぽん。明けましておめでとう」

「おめでとう。清隆くん」

 

「朝から元気だな」

 

「ちょっとちょっと、折角のお正月だよ--もっと言うことあるでしょ」

 

「と言っとるが三宅と幸村はどう思う?」

 

「どうって、凄く綺麗だし似合ってると思うぞ」

「俺も素直にそう褒めるべきだと」

 

 男子二人からの呆れながらの指摘にいつも以上に目を眠たそうにしている綾小路は、

 

(そう言うものか)

 

 となんとも覇気のない、もっと言えば無気力な状態で漠然と思い、再び晴れ着を着ている佐倉と長谷部を見た。

 

 佐倉は赤を基調とした桜を散りばめた可愛らしいデザインで、長谷部は淡い青緑色を基調とした橙色や黒による様々な毬を散りばめられた鮮やかさを醸し出すデザインだった。

 

 二人自身の素材がいいだけに本当によく似合っており、普通の男子高生なら目を奪われること必見なのだが……。

 

 どうしても綾小路清隆の心には何も来るものがない--そんな様子は普通なら腹立たしくもありそうだが、佐倉と長谷部は寧ろ嬉しそうに面白そうな顔を浮かべる。

 

「きよぽ~ん。昨日の夜、坂柳さんと何かあったりした?」

「もしかして一緒にとか?」

 

「何もない」

 

 それは即答できっぱりと否定された--ただそれでも普段以上に目は眠そうであり、元気も有るとは言い難い姿は納得出来るようなものではなかった。

 

「ホントに~、随分遅くまで居たみたいだったけど」

 

「カマかけなら無駄だぞ--年が明けて程なくして、有栖は部屋まで送った。そっちが期待するようなことなんて何もない」

 

「え~、あんな可愛い娘と一緒に居たのに」

 

 長谷部の残念なニュアンスは他の面々も同様のようで、流石に少し不愉快さが込み上げて来たがそれよりも増して気怠さがあった。

 

「ねぇ、清隆くん。もしかしてどっか悪いの?なら無理して付き合ってくれなくても――――」

 

「ちょっと寝不足なだけだ--そんなに騒ぐようなものじゃない」

 

 佐倉の心配そうな問いに大丈夫だと言って見せるのはその通りなのだろうが、ただそれはそれでまた要らぬ好奇心を刺激させることにもなった。

 

「ねぇ、本当に何もなかったぁ?」

 

 再びの長谷部の問いに憮然と否定しようとしたが、

 

「或いは何もなかったから中々寝付けなかったのか?」

「清隆も男だしな」

 

 幸村と三宅の援護射撃によって深みに嵌って行ってしまう--このままでは新年早々に肴にされて何処までも追及が来ると、あまり調子のよくない頭でも警戒感が灯る。

 

(全く、なんでこうなるのやら)

 

 内心で愚痴りながら、どう対応するべきかと頭を悩ませるが……如何せん調子が悪いのも嘘ではないので全く何も考えが纏まらない。

 

(素直に嬰児が戻って来るかどうか、あの男と接触してないかと言えたら楽なんだが……)

 

 嬰児を見送った際に一之瀬と坂柳が言っていたことは決して無視できる可能性ではなく、まだ全てを暴き切っていない身としてはなって欲しくない事態だ。

 

 もしも、そんな最悪な事態になってもこの学校から出たら終わりの身としては何が出来るのか--そう考えた時に〝あの男〟がして来そうな手にも思えてしまい、嫌な想像が巡ってストレスにもなっていた。

 

 客観的に見て嬰児のバックは〝あの男〟よりも遥か上だろうから、個人的な事情でしゃしゃり出るなどないと結論付けられる。

 

(ただ、もしも〝あの男〟にとって都合のいい偶然でも起こってしまったら…………)

 

 ……そんなことを考え出しらキリがないと理性では分かっているが、嬰児の取り巻いている環境も牛井嬰児と言う存在そのものも常軌を逸している--そんな異常なものを測り知る術など綾小路には持っていない。

 

 あるとするなら事情に僅かでも関わっている坂柳理事長--坂柳の父親に頼るしかなく、そうすると必然的に坂柳有栖も巻き込んでしまうことに……。

 

(どうしてそんな風な流れになってしまうんだ)

 

 と自分でも理解出来ず整理も付かない感情がごちゃ混ぜになり、結局夜更かし同然になってしまったのだった。

 

 こんな時に誰かが助け舟を出しに表れてくれないかと柄にもなく漫画の様な事をおもってしまう--当然、そんな事になる訳もなく好奇心に駆り立てられてるグループメンバーたちは逃がしてくれる気配もない。

 

「もしもそうなら、これから向うも誘って新年会でもするか?」

「あ、みやっちいいね!当然、きよぽんと坂柳さんを挟んでね」

「うん!私も良いと思う」

「右に同じく」

 

 本人たちを無視して話が進んで行くのを止めることも出来ない--それでも決して拒否したい提案でもない。寧ろ当初この学校で求めていた友達との交流などを思えば歓迎するべきなのだが、

 

(なんか面白くないな--有栖には慣れて来たみたいに言ったが、やっぱり冷やかしの種にされるのは気分のいいもじゃないな)

 

 そんな感想を抱きながらも話は進んでいき、連絡を入れていた長谷部が満面の笑みで言った。

 

「神室さんたちもオッケーだって--みんな直ぐに集まるから、先に行っててさ」

「お、幸先がよくて今年は何だかいい年になりそうだ」

「私もそう思うよ」

「そうだな--クラスも良い感じになって来てるし、今年は一気に―――」

 

「ゆきむー、こんな日にちょっと無粋だよ」

 

「なんだよ--こんな日だから決意表明にもいいじゃないか--清隆だって早く坂柳とライバルとして戦いたいだろ?」

 

「ああ、そうだな--クラスもいい感じだし、思ってたよりも早く勝負できるかも知れないな」

 

 力強いニュアンスで語る綾小路に幸村が眼鏡を持ち上げて言った。

 

「お、ようやく頭がハッキリとして来たみたいだな」

 

 他の面々も〝これでやっと〟と言った表情をしており、長谷部は改めるように口を開いた。

 

「じゃ、元気な内に可愛いお嫁さんたちと合流してパーティーにしよう」

 

「うん!楽しみだね」

 

 同調して嬉しそうにする佐倉の顔はいつになく魅力的で、これにはグループの男子(綾小路を含む)だけでなく、近くを通りすがっただけの者たちも目を向け立ち止まる者もいた。

 

 普通なら一緒にお洒落をしている女子は面白く無いだろうが、長谷部は全くそんな素振りは無く、寧ろ同じくらいに嬉しそうにしていた。

 

「愛里もホントによく笑うようになったね--もう私がお嫁さんに欲しいぐらいだよ」

 

「!?……もう!波瑠加ちゃんったら!冗談ばっかり」

 

「そ、そうだぞ!」

 

「明人も分かり易いな」

 

 こうして新年の朝からの綾小路グループのじゃれ合いはひと区切りつき、ケヤキモールの和風喫茶でお洒落した坂柳たちと落ち合い、盛り上がりは更に高まるのだった。

 

 

 

 ***

 

 

 

 ふう。やっとお天道様も真上に来る時間になり休憩に入った--人の川は途絶えることなく昼時とあって参拝客たちもあちこちの店で寛ぎながら盛り上がってる。

 

 平和だな--とふと思った瞬間に『申』の婚約者でも居ないかなと、ちょっと辺りを見てみたが流石にそんな偶然など起こる訳もないか。

 

 ただそうなると昨日のは幾分……いや大部分は必然な筈。出来るなら元旦ぐらいは何もなく学校に戻りたいな。

 

 昨日みたいに見知らぬ誰かが来ても俺がどうこう出来る話じゃないし、変に気負うのも止そう。

 

 と言う訳で少し贅沢でもしてみるか--昨夜、寝る前に調べて置いた近くにあるレストランに入る。

 

 用意していた正装も無駄にならなくて何よりだ--流石に一人で入るのは気が引けるような風体の店だが、昨日のことを思えば何も問題は無い筈だ。

 

「お待ちしてました。牛井嬰児」

 

 やっぱり待ってたか--少しばかりお前じゃない可能性も期待したかったんだがな、ドゥデキャプル。

 

「それでは席に参りましょう--程なくしてランチが参ります」

 

 そんな俺の心中などお構いなしにさっさと話を進めていく--手際が良いことだ、とでも思っておこう、その方が精神衛生的に絶対にいい。

 

 そうして席で向かい合い料理が運ばれて来る。

 

「予算はこの度の分に合うようにしていますので、どうぞ遠慮なくお召し上がりください」

 

「ご丁寧な説明どうもありがとう--ではお言葉に甘えて遠慮なく」

 

 そのまま手を付けようとした時、横を豪勢なケーキが通り過ぎて行った--なんだ、一体?

 

 思わず目を向けると大きなテーブルを囲んでいる家族連れが。

 

「「お誕生日おめでとう」」

「おめでとう、お姉ちゃん」

 

 両親だろう男女と中学生ぐらいの少女に祝福され、ケーキに蠟燭が灯った--赤くて長いのが一本で黄色いのが六本ってことは同学年だな。ケーキが目の前に来ると勢いよく息を吹いて火が消える。

 

「「「おめでとう」」」

 

 家族三人の拍手に続き、従業員や他の客たちも拍手が舞う。当然、俺も……向かいに座ってる奴もな。

 

「いやはや、これは新年早々に良いものを見れました」

 

 手を叩き続けながら言う姿は妙に様になってる--少しだけ、これも仕組んでとか思ったが意味がある訳ないし穿ち過ぎだな。

 

 本当にただの偶然だろう--ここは素直に祝福に加わろう。何より学校に戻った後に話せるしな。

 

「全くだな--偶々入った店でこんなイベントに遭遇するなんて、ああ言う所では味わえない醍醐味だ。戻ったら自慢しよう」

 

 だから思ったことをそのまま言ってみたが何が起こる訳でも変わる訳でもない。

 

「そうですな--確かにあの学校ではいい刺激になりましょう。願わくば卒業後への意欲にひと役買って貰うようにお願いします」

 

 と思ったが、しっかりと学校を立てて牽制してこられた。そんな感を味あわされて、すっかりランチの味の方が薄れていてしまう--全く喰えない奴だ。

 

 しかし誕生日か--確か綾小路の誕生日ももう過ぎてたから、坂柳の方は確か……。

 

 俺の方で設定されてる12月12日はもう過ぎてしまったが、あくまで戸籍上であり入学上の書類に必要な項目のひとつに過ぎないから日にちには何の興味はない。俺の本当に生まれた……と言ってもいいのは春だし、その辺りで誰か近いのが居たりしないかな?

 

「フフフ、何やら楽しそうですね--相当にこのお店の料理が気に入りましたか?」

 

「いいや、思わぬイベントに連想……触発されて何か面白い事でも出来ないかなってな」

 

「そうですか」

 

 って、だんまりかよ。内心を窺うことなんてのは不可能だし、単なる想像になっちまうが何か悪だくみでもしてるかと疑ってるか--だとしてまた妙な特例を出して来るのは歓迎できないし失言だったか。

 

 ちょっと後悔したみたいな気分に余計にランチの味が落ちたように感じてしまう--やっぱり外で弁当にでもすれば…………いいや、このイベントに遭遇しなくてもそんな大して違うことも無いか。

 

 それにしても誕生日ひとつに何故ここまで振り回されなきゃならんのか。

 

 これ以上考えるのは止めだ--としたいが、折角の外でのじっくり話せる機会だ。少し話題を振るのも悪くないか。

 

「よく絡んでくる奴のお嫁さんの誕生日が春にあってな--どうにも俺は気に入られて無いみたいだから何かないかと思うんだが、どうしたらいいと思う?」

 

「ほう。悪い印象を拭う方法ですか--月並みながら誠意を持って対応し続けるのしかないのでは」

 

 本当に月並みだ(つまらない)な--この事の原因はお前たちも無関係じゃないんだが。と思いながら更に無言でアドバイスをと訴えて見せるポーズを取る。

 

 するとドゥデキャプルは可笑しそうな顔になり口を開いた。

 

「どうやら余程、気にかかるお方の様ですね」

 

「ああ、入学当初から『亥』に通じるものを感じてな--実際に愛情深く、特定の相手には物凄い執着だ。ただ、こちらの方は割と素直にそれを認めてたけどな」

 

「なんと、それは興味深いですな--ちなみに意中の相手とはやはり『申』のような?」

 

「いいや、そっちに通じる奴に特定の相手は居ない--本人はモテモテだが望んでる愛とはかけ離れてて悩んでる様子だったな」

 

「正に若者の青春ですな。それで……」

 

「ああ、肝心の奴は強いていなら『卯』に通じるな」

 

「ほほう。それは益々興味深い、なんとあの『卯』と」

 

 よし、上手く喰い付いた--しかし話術に関しては向うが遥かに格上なのを意識せねば。

 

「ああ、得体の知れなさに関してはいい勝負だと思うぞ--なにせ『卯』の事だけは妙なプロテクトが掛かってて誕生日を始め経歴が一切分からないからな」

 

「それはさぞかし違和感のある事でしょうが、残念ながら私にはどうすることも出来ません」

 

 そんなのは分かってる、実際に俺もそこまで興味がある訳じゃない--今知りたいのは『卯』に通じる奴の話題をこのまま続けられるのかどうかだ。

 

 このまま打ち切ってしまうなら、それは俺に対してなのか--それとも〝あっち側〟に対してのものなのかは、この場でハッキリとさせたいところだ。

 

 さあ、どう出る?

 

「それにしても『卯』に通じるですか--頓挫しかけたとは言え、あのプロジェクトもかなりの有意義な代物だと言えるのかもしれないですね」

 

「俺が誰の事を言いたいのか分かってるってか?」

 

「はい。その縁もあり綾小路篤臣氏には使者をお願いした次第ですので」

 

 ここで綾小路父のフルネームが判明か--どうやら、そこまで有力者に近いって訳じゃなさそうだな、まだ。

 

 それが分かっただけで俺としては十分だが、折角だしもう少し突っ込んでみるか。

 

「息子の存在が邪魔なんじゃないか、と少し問答したが放って置いて問題はないよな?」

 

「勿論です。彼の入学には理事長も随分と骨を折られたようですので、それを無にするようなことは信義に反します--こちらの事で迷惑は掛けないとの約束ですので、くれぐれも肝に銘じておくよう、そちらもお願いします」

 

 やれやれ最終的には俺への警告に落ち着くか--ここまでが潮時だな。さっさと料理も平らげて、この時間も終わりにしよう。

 

 得るものもあったしな--しかし察しは付いてたが綾小路もまともとは言えない育て方されて来たのか。

 そしてあの父親の事だから近い内に介入してくるのも間違いない--理事長の不正疑惑の件も考えると三学期が始まって直ぐに来ても不思議じゃない。こう考えるとやって来るのは昨日の男か……ならせめて冬休み中は無しにして欲しいな。

 

 問題はそれがいつまでかだな--表向きには会計上の事だが、あからさまなのは明らかだし、他の理由があったとしてもこれも不思議じゃない。

 

 今の会話からして綾小路の入学は相当難儀なもののようだ--そもそもまともに学校に通ってたかどうかさえ疑わしい。手続きや入学書類は理事長だけが目を通すものじゃない--もしかしてかなりの偽造があったか?

 

 そうなると本当は16歳じゃ……いや戸籍はあるだろうし年を誤魔化してはないだろうが、それを取り寄せるのも簡単じゃないだろうな。あいつが育った所は徹底した情報統制がなされてるのは想像が付く。権力があっても部外者にボロを見せるようなチャチな管理体制とは思えん。

 

 提出書類にはかなりの捏造があると考えるのが妥当--だとすると書類上の経歴は誰かのものを借りたものだったり、それともオブラートに包んだストーリーでもあったりするのか?年は兎も角、誕生日も誰かから借りたものだったりしてな。

 

 そしてそれが表沙汰になれば、ただじゃ済まないのは綾小路篤臣だけ無い筈だ--昨日の男が見せて来た情報からすると直江元幹事長とやらが噛んでる可能性も無視出来ない。他にも複数の権力者なんかが噛んでたら……………今この時にも見えない戦い(パワーゲーム)が繰り広げられてるなら、俺たちの学年じゃ最終的にはAクラスでの卒業どころじゃなくなったりしてな。

 

 それはそれで面白そうだし、事態の収拾に駆り出されたら俺の最終プランを披露できるのもいよいよ持って現実味を帯びて来そうだ。

 

 もしも、そんな時が来たらお前はどうする--綾小路?

 

 などと考えてたら食べ終わってしまった、向かいも同じく--これでもう顔を突き合わせる必要もなくなった訳だ。

 

「ごちそうさまでした。お支払いは私が済ませますので、どうぞお戻りください--近い内にもまたお会いしましょう」

 

 つまりまた外に出ることになるってか--全く何処までも人の気を苛立たせる奴だ。俺は大仰に立ち上がり無言のまま店を出る。その際にも意識しないようにしたが、ドゥデキャプルが深々と一礼したのが分かる--全く寛げないお昼だったな。

 

 そうして仕事を終えた俺は、夕方には再び高度教育高等学校へと戻った--さて、今年はどんな年になるのやら。

 

 

 

 




 巷では綾小路と龍園の誕生日が同じ10月20日であり、双子なのではと言う仮説がありますが私にはどうもそうは思えず、ずっと他の仮説を模索してました。
 当初は取り違えなどで龍園こそが本当の綾小路清隆だったとか、実は年を誤魔化していて入学年では16歳ではないとかを考えてました。

 0巻の試し読みや綾小路や月城の回想なんかで尽く違うと示されました。

 そして今浮かんだのは学校に提出した書類が偽造したものと言う仮説です--ホワイトルームは父親である綾小路篤臣だけじゃなく直江と大物政治家や複数の権力者や財界人が噛んでると示され、公に出来ないなら情報漏洩は徹底した物であり協力者がいるとは言え、おいそれと足が掴まれそうな書類が手に入るチャチな管理体制じゃないと思いました。

 そもそも誕生日を祝うようなのとも無縁の場所のようですし、綾小路自身も大した思い入れを感じてないように見受けられ、公にされてるのは誰か別の奴(この場合は勿論龍園)の誕生日であり、その他の経歴も他の誰かのを混ぜて不自然じゃないものに仕上げたのではと。

 理事長の疑惑である不正も本当はこの事で、されども大っぴらにすると困る者たちも出て来るから深く追及出来ない--しかし直江が死んだことで状況は変わり、この事を切っ掛けにホワイトルームの存在が公になり廃止が決定。

 本当の意味で自由を手に入れた綾小路清隆が選んだパートナーと一緒に改めて自分の人生をと、そんな展開予想をしてます--ちなみに言うまでもないでしょうが私が推すパートナーは坂柳有栖です。
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