どうしても叶えたい願いの為にその気になる綾小路と、別にどうでもいい願いでなんとなくいるオリ主   作:a0o

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マジョリティの中のマイノリティ。

 

 

 

 合宿が終わり、再び高度育成高等学校に戻った二月上旬--俺は生徒指導室でドゥデキャプルと対面していた。

 

「長い時間お待たせしました--こちらがご注文の品です」

 

 あくまで事務的に語るドゥデキャプルだが、どうしてもニュアンスには不遜さが拭いきれない--そんな心情の中で差し出された厚みのある封筒を受け取る。

 中身は春のイベントで卒業生たちに渡す引き出物として用意した『麗華歌劇団』のチケット--熱心な布教活動もあって最早学校中の噂となり、まだかまだかと催促が絶えないかったが漸くとって感じだな。

 

「今度もまた随分な物をお買いになりましたね。差し引きでどの位の利ざやを?」

 

「いちいち言わなくても把握してだろ--何より俺自身の楽しみを増す為って名目なんだ。それともそう言うのは駄目か?」

 

「いいえ、使いどころさえしっかりと明記してその通りにしてくれるなら何も問題ございません」

 

 事務的に言いはしたが不敵な笑みが増した。

 

「されど、それが過ぎてこちらの学校のご迷惑になるような事態にはならないよう、お気を付けて」

 

 要するに騒ぎが大きくなる前になんとかしろか--それとも堂々と俺を消す口実を早く作れってことかな?

 

 いずれにせよ、まだその気は無いから安心しろ--そうでないならもっとストレートに来るかな?

 

 いつも通り、煙のように消えたドゥデキャプルを確認して俺も部屋を後にする--少しして校舎を出ると意外なのが待っていた。

 

「あ、こんにちは。嬰児くん」

 

 佐倉がぎこちなく挨拶して来るが、目にはどうしても聞きたいと言った物が込められてる--おまけに普段なら長谷部と一緒なのに今は一人だ。一体、どんな風の吹き回しなのかな?

 

「ああ、こんにちは。偶然って訳じゃないようだが、何か用か?」

 

 出来る限り穏やかに言ってみたが、それでもおどおどは若干ある--難儀だと苦笑したいな、主に可愛らしくて。

 

「う、うん……あの……チケットってもう来たのかな?」

 

「今受け取ったところだ--やっぱり佐倉も興味あるか?」

 

「うん、凄く。それに嬰児くんがこの前に会ったっていうグループもなんだけど…………」

 

「本題はそれか。勧誘も受けたって話だもんな--なら安心しろ、佐倉がこの学校に居るのは言ってないから」

 

「あ、それは信用してるよ--ただ、体調不良の娘の事ってもう少し分かったりしないかな?」

 

 偉く切実に訊いてくる様子は、またなんともグッとくるものがあるな--人気アイドルってもの伊達じゃないと思わされる。

 

 なんだかこの前のステージに佐倉が居なかったのがつくづく勿体なく思えても来た……あー、ひょっとしたらアイドルへの未練でも込み上げて来たのかな?

 

「悪いがマネージャーさんと少し話をした程度でその娘たちとは直接話した訳じゃない。ただそんなに気になるなら春先に様子を見に行くぐらいは出来るが?」

 

「え、あ、えっと……」

 

 おやおや、いつものオドオドした佐倉に戻っちまった--正直、こうなると心中を推し測るのも出来なくなるから、ちょっと困るんだよな。

 

「まぁ、なんにせよ今直ぐじゃないから返事は先でいい--どうしたいかはもうちょっと整理がついてからにしよう」

 

 取り敢えずは無難な感じでこの場は終わらせたつもりだったが、

 

「…………どうしたい」

 

 なんだか意味深なニュアンスで呟く佐倉に妙なスイッチでも入れちまったかな?と思わずにはいられなかったな。

 

 

 

 ***

 

 

 

 いつも通りの朝、Ⅾクラスはいつも通り(・・・・・)に目にする光景に半分はニヤニヤしており、残りの半数は呆れや飽きを感じて溜息を付きたい心情だった。

 

そんなクラスの反応などお構いなく堂々と教室に入り待っている坂柳有栖は上品な笑みを浮かべており、演技でもなく気分が高揚としている様子だった。

 

「いや~、それにしても遅いね。きよぽん」

 

 綾小路の席に座っている坂柳に長谷部が気さくに話しかけた。

 

「寝坊でもしたのでしょう--別に構いませんよ」

 

 笑顔のままの坂柳だが流石に時間が気にして、さり気なく時計を見ると始業チャイムまで十分前となりそうであり残念そうに席を立つ。

 

 それと同時に綾小路ではなく嬰児が教室に入って来た。

 

「おはようございます、牛井嬰児くん」

 

「ああ、おはよう坂柳--来てたのか」

 

「少しお話がしたかったんですが、それまたお昼休みに」

 

「綾小路じゃなくて?」

 

「はい。清隆くんでなく貴方と--この前の物が漸く届いたと耳にしたので」

 

「なんとも早い耳だな」

 

「ふふ。詳しいことは後ほどに」

 

 上品にお辞儀して教室を去って行く坂柳--同時にクラス中の女子たちが嬰児に詰めかけた。

 

「ねぇ、嬰児くん。今現物持ってたりする?」

「パンフレットとかグッズとかのオマケない?」

「ああ、やっぱり私も観てみたいなぁ」

 

 興味津々な様子を見ていた男子たち、その一部も些か興味を覚えさせる--ただ中に混ざってと言うのは物理的にも体面的にも厳しいものがあった。

 

 そしてチャイムまで五分となった時に綾小路が教室に来た。

 

「遅いぞ。さっきまでお嫁さんが居たのに」

「そうだぜ、なんでこんな時に遅刻して来るかな」

 

「山内、寝坊はしたが遅刻はしてないぞ」

 

「な、なんだよ……ちょっとじゃれただけじゃねぇか」

 

 綾小路のニュアンスには棘があり、若干気後れしてしまう山内--これに主に女子たちは合宿中、坂柳にした事がまだ尾を引いていると悟った。

 

 ただそれをストレートに言うと悪い方向に行きそうであり、なんとか話を逸らすのが無難ではあった。

 

 櫛田や平田がゆっくりと間に入ろうとしたが、

 

「つまらない事をしてないで、さっさと席に着いたら」

 

 されどもそんなのは関係なしと堀北は真正面から仲裁に入って強引に話を切った。

 

「ああ、そうだな」

 

 綾小路もあっさりと引く姿勢を見せ、この場はなんとか収まった--ただそれでもしこりの様なものは残り、山内は少し落ち着かない様相であり周囲も何とも言えない火種が燃え始めたのかと心に影を落とした。

 

 

 

 ***

 

 

 

 さて朝の詰まらない騒動もなんのその、昼休みになり早速来たか。

 

「こんにちは。牛井嬰児くん」

 

「ああ、朝はすまなかったな、坂柳」

 

「いいえ、謝る様なことではありませんよ--ただ余り大っぴらにしたい話でもありませんので場所を変えませんか?」

 

「俺は構わないが、どうする綾小路?」

 

「勿論、いいぞ」

 

 承諾を受けて一緒に教室を出る--目的地は適当なカフェか、いや歩きながらでも終わるなら食堂でも構わないかな。どっちにするにせよ二人と一緒に同席するつもりはないからなるべく早くを意識して話すべきだな。

 

「単刀直入に言うが現物は今手元に無いから、見たいと言うならまた放課後ってことになるが」

 

「そこまでせっかちではありませんよ。第一、必要になって来るのはまだ先の話です……私たちにとってはですが」

 

 明らかに含みのある言い方だな--ってか、一々考察させるような言い方は癖なのかな?

 

「誰も聞いてないし、そもそも聞かれて困るような話でもあるまい。もう少しストレートに話さないか」

 

「確かに時間は有限ですね--特に貴方にとっては。

 では結論から話します。卒業生への贈り物ですが今年だけでなく、来年も同じ物を用意して貰いたいと言う要望が来てます--ちなみにこれは南雲会長も了解してるので、手配出来ないかと?」

 

「予想以上に反響を呼んだって訳か……今回のだけで100万は要ったんだ、あんまりホイホイとバラまくのはちょっと考えさせられるな」

 

「気前よく全部S席にしたからな--オレも相場を調べてみたが、もし来年や再来年も同じのってなったら、この事だけで半分近くが無くなる。

 報酬って建前上、使い方には問題ないだろうが遊びでここまで好き勝手使えるなら、よからぬ奴も群がって来るのは想像に難くないな」

 

 淡々と予想を語ってるようで、その実‶対応には手を貸すぞ〟ってアピールが見え隠れしてる--やるなとは言わんが、せめて坂柳の前ではよせよ。

 

 不満顔を隠すことなく俺が(・・)睨まれるじゃないか。

 

「清隆くん、それは甘いですよ--よからぬ事には既になっています」

 

「何、そうなのか?」

 

「はい。三年生の間ではご家族と一緒に行きたいから等と言った建前で転売なんかの契約が横行してるそうです。

 そして二年生の方々もそれを知って来年の講演チケットを求めて、お金儲け出来ないかと話になってるそうな」

 

「金……ポイントじゃなくてか?」

 

「ええ、この学校では卒業時にポイントを現金で買い取ることになってますので、最後にもう少し上澄みが欲しいと思うのも不思議ではないでしょう」

 

「それは確かに」

 

 三年生にしてみれば最早卒業を待つだけに等しい状態。終わりまであと少しだけなら、おこぼれに与ろうってのが居るのは予想できた--されど二年まで波及してるのはちょっと意外だったな。

 

 南雲会長の独裁体制が確立してるのは有名な話だが、まだ一年以上あるこの時期に先物取引の如きものに手を出しに来るとは…………いや、ひょっとして南雲の支配が及ばぬところから2000万を貯めようって輩が出て来たってことかな?

 

 もしそうなら南雲が黙ってるか--坂柳の言いたいよからぬ事ってのはそう言う事なのかな?

 

「売り込みの対象としては当然三年Aクラスの方々が多く、かなりの金額が動こうとしていると囁かれてますよ」

 

「なんだか話が回るのが早すぎる気がするな」

 

「回りくどいのは抜きにしましょう--十中八九、南雲先輩が三年の他学年を焚き付けてると見ていいでしょう。勿論、間接的にですが」

 

「その調子で話が大きくなれば問題になる可能性は高い--当然、オレ達(・・・)も騒動に引きずり込まれるだろうな」

 

 夫婦で話してたよな……なんで聞いてただけの俺までひと括りにするニュアンスで言うかな?

 そりゃ俺だって当事者ではあるが、せめて『オレ達と嬰児』って言う風に分けるぐらいはしろよ--向けられる目つきの鋭さがどんどん研ぎ澄まされてるじゃねぇか。

 

 って、ひょっとして分かってて愉しんでるんじゃねぇよな?

 

「って言うか、早速来てる様だしな」

 

 おお、綾小路も気付いたか--階段の方から俺達を見てる女子生徒が一人。銀髪を腰まで伸ばしてる目つきの悪い……いや鋭い美人でこっちが気付いたら堂々としながら近づいて来た。

 

「はじめましてだな。二年Bクラスの鬼龍院楓花だ」

 

「これはご丁寧に。一年Ⅾクラスの牛井嬰児です」

 

 名乗り返したが鬼龍院先輩は知っていると無言で語っており、坂柳と綾小路にしても挨拶は不要のようだ。

 

「何やら大事な話をしてる様子だったが、例のイベント関連のことでいいか?」

 

「ええ、その通りです。なんだか二年の方でも良くない状況になってると今話してる所です」

 

「そうか。ならば単刀直入言おう--来年度の卒業時には私にSSのチケットを用意して貰いたい。勿論、個人としてだ」

 

 ここまで堂々と来られるのは夏休みの葛城以来か?

 

 半ば感心してると鬼龍院先輩は更に饒舌に続ける。

 

「どの組の講演かはその時になって指定させて貰いたい--今回はあくまで先行予約のような形だから代金は直ぐにでも払う。もしもその時に私が居ないなら、払い戻しなどを求めないと書面にて約束する」

 

「律義ですね」

 

「通常なら倍率の高いチケットが確実に手に入るんだ--寧ろこの程度の手間は安いものさ」

 

「まぁ!もしかして先輩も劇団のファンなんですか?」

 

 さっきまでとは一転して嬉しそうに坂柳が混ざって来た。隣に居る綾小路は話題に入って行けずに冷めた目で成り行きを見てる…………出来るなら俺もそっちに行きたいかな。

 

「昔、嗜みにと家の方針みたいので連れて行かれたんだが、フィナーレの熱狂と興奮は今でも忘れる事は無いな」

 

「分かります。出演者が勢揃いしてトップスター様が大階段から降りて来る華麗なる演出は本当に素晴らしいのひと言です」

 

「ああ、また観たいと思わされなんとも癖になる」

 

 やれやれ、すっかり盛り上がっちまったな--劇団の事は誰もが知ってるから素晴らしいのは分かるが、聞きかじりで全く観たことのない身としてはここまで密度のある話には入る隙間がない。

 

 それは綾小路も同様でいつもの冷めた目に困ったと言う様な色が出ていた--何よりお嫁さんを取られたのは気に食わない奴だから、もう少ししたら嫉妬の色が…………と思ったが、

 

「なんだか嬉しそうだな」

 

 ちょっと意外だったから、耳打ちするように言うとあっさりとした返答が来た。

 

「あそこまで無邪気に楽しそうな有栖は滅多に見ないからな」

 

 サラッと惚気が出て来てるのは無意識から来るものかな?

 

 にしても盛り上がってるノリでキナ臭い話はお開きになって欲しいが、綾小路の目が僅かに細くなって俺も彼女たちに目を向けると坂柳の笑顔に怜悧さが見えた--本当によく見てるな。

 

「鬼龍院先輩は南雲先輩に迎合しない稀有な方だと聞き及んでます--今回の事も騒動になる前にと思っての事でしょうか?」

 

 対して鬼龍院先輩の反応も呼応して同じく怜悧さを纏った--ただ面白がってる訳ではなさそうで寧ろ、

 

「チケットの転売については気に喰わないな--折角の恩恵を金儲けになど断固として受け入れがたい。寧ろ、高額転売は問題にすらなる行為だ--禁止を呼びかけるのが妥当だと思うが?」

 

 不愉快な顔とニュアンス全開で俺に取り締まるべきだと投げて来た--その考えには異存はないが求めるべき相手がちょっと違う気がするかな。

 

「罰則を設けるべきだと議論も高まってるが、今回取ったのは団体だし人数が揃ってさえいれば定価で譲渡する分には――――」

 

「折角の贈り物だぞ。行く気がないなら無償譲渡するのが筋だ」

 

「…………正義感ですか、それとも劇団に思い入れが?」

 

「どう取ろうがお前の自由だ--ただ言わせて貰えば私はバレなければ大した罪じゃないと他者を傷つける行為には反吐が出る」

 

 なんとも『寅』と話してる様な感じにもなるなぁ--『丑』の教えがあったが、こちらにはどんな物語があるのかな?

 

「なんだ?」

 

「いや、ちょっと先輩に興味が湧いてきまして」

 

「はは、随分とストレートに来たな--ならば何か勝負でもするか?それで私が勝った時は筋違いな事はしないと約束して貰う」

 

「いやいや、戦いたいとかって意味じゃありません。ただ単にその思想の源泉が何なのかが気になっただけで」

 

「つまり私を口説きたいと?」

 

「知り合いに通じるものがあるってだけです」

 

「おいおい、何も照れる事は無かろう--私ほどの美人に君の様な男子学生なら自然なことだ」

 

 この自信満々さは高円寺の方に通じるな--ただアイツとは違い、まだ人情味はありそうだが。

 

 いや、それもどうか疑わしいかな。

 

「……例えば、さっきから隠れて見てるそこの男子生徒みたいにですか?」

 

 目線だけでなく指さしてみると皆もそっちを向き、指摘された恐らく二年生の男子は冷や汗かいて狼狽え始めた。

 

「いいや、大方南雲に命令されたからだろうな--もうバレてるんだ、潔くこっちに来た方が面倒はないと思うが?」

 

 鬼龍院先輩の呼び掛けに一瞬躊躇しながらも渋々と言った顔で近づいて来る--様子からして顔見知りでもないかな。

 

「こっちの自己紹介は不要だろうから、まずは名乗って貰おうか」

 

「二年Ⅾクラスの立花だ。察しの通り南雲に言われて後を付けてた--こうなったら全部白状していいって言われてるから話すが、理由は鬼龍院が珍しく積極的になってるからだ。

 もし勝負できるようなネタでも掴めたなら報酬をより弾むとものことだ--これで全部だが俺は行った方がいいか、それとも残ってても?」

 

 ペラペラとよく喋る--それでいてまだ居座ろうとするとはなんとも面の皮が厚い。

 

 いや、目線は鬼龍院先輩だけじゃなく俺も含まれてる--何かを期待しているのを丸で隠そうともしてこない。

 そもそもからして南雲会長に肩入れしてる訳でも無さそうだし、寧ろこの場に居る全員(・・)から引き出したいのがありそうだな。

 これは俺だけじゃなく他も同意見のようで、立花氏の期待を最も理解してそうな鬼龍院先輩に視線が集まる。

 

「ふぅ。これを機に私が南雲に下剋上を仕掛けると思ってるなら、それは間違いだ--私は好んでるものを汚す真似が気に食わんから、そうならないよう忠告しに来ただけだ」

 

「それはつまり南雲がそう動いたら、潰しにかかるってことでいいのか?」

 

 なんとも軽率な発言だと一見思うが、ニュアンスには一切の躊躇がない--何より本人が乗り気なのが丸わかりだ。

 二年は既に大勢が決してると噂だったが、そうでもなかったってことか--それとも、そんな兆しが表れ始めて息を吹き返した輩が出て来たってことか?

 

 ただ、その兆しに俺も含まれてそうなのが迷惑なんだがな--妙な期待感はどんどん強くなっている。

 

 ありていに言えば、俺らに南雲降ろしの言質を取りたいようだ。

 

 個人としての願望と南雲の思惑が混ざった、なんともいい塩梅の人選は見事だと言うべきかな?

 

 かと言ってそれに乗るかどうかは話が別だけど。

 

「貴様の態度もまた好かんな--そんなに南雲を倒したいなら、お前が挑めばいい。私を担ぎ上げてじゃなきゃ動けない、なんて小物など味方どころか捨て駒にすら値しない」

 

 侮蔑と挑発をたっぷりと含んだ拒否の返答--ただ立花氏の様子には一切の変化はなく、寧ろ鬼龍院先輩の態度を面白がってる様だ。

 

「南雲が言ってた通りの返答だな--ちなみにこれ以上しつこくすると意固地になりそうだから早々に引けって言われてる」

 

 ご丁寧な説明をしながら視線を俺の方に移す--どうやら俺にも何か伝言を預かてるな。

 

「夏休みにした提案はまだ有効だそうだ--流石に生徒会に入れとは言わないが、組むつもりならいつでも歓迎するってよ」

 

 俺の特例と生徒会長の権限を合わせればッてやつか--確かに面白そうではあるが、やれば今度はどんな特例(ふじゆう)が追加されるか、何より俺自身が乗り気になれないんだよなぁ。

 

 返答しないで無言のままで居ると、立花氏は続けて来た。

 

「ちなみにさ、お前の学外ポイントって生徒会を素通り出来るんだろ。他にもAクラス以上の特権みたいなのもあったりするのか?」

 

 どうやら本当に訊きたかったことはそれみたいだな。

 

「立花先輩も何か欲しいものが?」

 

「ああ、ぶっちゃけ言うと二年生の(おれたち)ⅮクラスやCクラスには、まともなクラスポイントは殆どない--ポイントを得るには南雲の言うこと聞くぐらいしかないんだ」

 

 今みたいにな--と不貞腐れたように言うのは紛れもなく本心だな。そして南雲からおこぼれを貰うくらいなら、下級生であっても俺の方がマシって訳か。

 

「今回のチケットだってお前が手配したんだろ。だったら――――」

 

「ふぁあぁ」

 

 立花氏の弁に熱が入りそうなタイミングで、ワザとらしい欠伸が水を差した--その主である鬼龍院先輩はいかにもかったるそうな態度で言う。

 

「すまんな。余りにも退屈だったんでな--と言うか、私の方が先客なんだ。こっちの用件を先に済ませて貰いたいんだが」

 

「卒業時にSSのチケット、並びに今回の団体チケットの転売禁止ですか--騒動になる前に手を打っておくのはいいですが、SSの方に関してはちょっと」

 

「理由もなく贔屓すると君個人の面倒が増すか--と言うか今更この程度のものが増えたところでとも思うが?」

 

「先輩の方にも余計なのが来ますよ」

 

「ふん、私は変わらんんさ。何が来ようと今まで通りに過ごすだけだ」

 

 当初に感じた圧迫感が抜けてフレンドリーな態度で接してきた--こっちがいつも通りなんだろうな。

 

 ともあれ本人がこう言っている以上は、後は俺がどうするか--正直、ここでの会話にも飽きて来たし、よし。

 

「SSチケットの件は承りしました--その分のポイントは取って置きますから、指定公演が決まったら連絡してください」

 

「おお、そうか。なら代金はこの場で払おう」

 

 端末を出してボタンを押すと直ぐにポイントが振り込もうとする--事前に準備してたのか、と突っ込みたくなるのも楽しそうな仕草には失せてしまう。

 

「それは少し待ってください--後で連絡しますので」

 

「そうか、それで付加価値として何を求めて来る--単なる貸しひとつでは周りは納得しないぞ」

 

「そうですね。出来うるなら、そうおいそれと真似できないような事がいいと思いますが」

 

 全く夫婦そろって息の合ったツッコミを入れやがって--ただ、その通りではあるから、ちょっと考えてみる。

 鬼龍院先輩は美人だし普通にデートって言う条件もありだと思うが、節操なしと思われるは違う意味で面倒が起こる気がしてならない--具体的には目一杯、振り回されそうでどうなるか分からない。

 

 ならば今この場限りか、それに近いようなことがいいかな--それなら、同じ状況にならなきゃ早々にやっても来ないだろう。

 

 この事を念頭に置いて更に考えてみる--よし、決めた。

 

「それじゃ、こう言うのはどうでしょう―――――」

 

 俺は纏めた考えを説明し、話が終わった時には鬼龍院先輩だけでなく、この場の全員が目を丸くする。勿論、立花氏も含めて--う~ん、これもなんとなくデジャヴだな。

 

「全く、夏にしたイベントといい、ホントにお祭り好きですね」

 

 坂柳が呆れたような目で言って来ると綾小路も無言で同意しているが、それの何が悪いってんだよ。

 更に言えばこれのメインはあくまで鬼龍院先輩だ--外野があんまり口出しするなっての。

 その肝心の当人も困惑と言うか、躊躇してると言った様子で、横で見ていた立花氏も物珍しそうにどうするのかと様子を見ている。

 

 そして、少ししてやや落ち着いた口調で言った。

 

「全く。私も変わり者だと言う自覚はあるが、その私からしてもぶっ飛びそうだ」

 

 ただ、その表情は言葉からは掛け離れる--ぶっちゃけ言えば、ワクワクしてるのが分かる。

 

「ただ面白い--正直、南雲や三年の堀北などを相手にする気は無いかったが、お前が指定した相手は戦い甲斐がありそうだ」

 

「先輩の好奇心が満足してくれることを祈りますよ」

 

「お前の場合は嫌がらせに対する単なる意趣返しか--ならば、もっとストレートに行っても―――――」

 

「鬼龍院先輩、分かり切っていることを尋ねるのはどうかと思いますよ」

 

 この台詞には俺じゃなくて坂柳が言い終わる前に反応した--間髪入れずなんてもんじゃない速さに見えない所で事が動いてるのが窺える。

 

 ま、それ直ぐに分かるか--その辺りも含めて軽く打合せし、詳細はまた後日と言う事で解散した。

 

 

 

 ***

 

 

 水曜日の朝--学校の掲示板にとあることが挙げられており、クラスや学年を問わず騒ぎになっていた。

 

 勿論、一年Ⅾクラスも例外ではない--その為、噂の中心人物が来るのを今か今かと待ち構えており、とうとうその時が来た。

 

「やっと来たな、嬰児」

「おい、これ本当か?」

 

 いち早く池と山内が端末を見せながら問い詰めて来た。

 

「朝っぱら鬱陶しいぞ」

 

「この程度の事なんて予想範囲内でしょ--それより、ここに書いてあることの真偽に応えてくれないかしら」

 

 嬰児の反応も無視して堀北も掲示板に掛かれている内容について問い詰めて来た。

 

 『牛井嬰児のバレンタインの返礼は豪華景品がある』

 

 の見出しに続き、具体例として『100万円のダイヤモンド』などの写真と宝石販売のリンク先が添付されており、その他にも学生の身分ではありえない高級品の数々が載っていた。

 

「へぇ」

 

「へぇ、じゃないでしょ--既に学校中が大騒ぎになってるわ。それで本当にこんな事をするつもりなのかしら?」

 

「もしそうだとして何か問題あるのか、貰ったならホワイトデーに返すのは至極当然だろ」

 

「何事にも限度があるでしょ--学外ポイントがいくら残ってるか知らないけど、これじゃ景品を巡っての争奪戦になるわよ」

 

「だろうな。で、ちなみに堀北はどんなチョコを用意してるんだ?」

 

「……私はこんな低俗なのに興味ないわよ」

 

「別に俺にとは言ってないだろ--渡したい相手が居たりしないのか?」

 

「しつこいわね。居る訳ないでしょ--分かり切ってることなんて一々聞かないでくれる」

 

 堀北の即行の否定に‶さもあらん〟と言うのが大半だったが‶詰まらない〟や‶がっかり〟と言った反応を示す者も居た。

 

 中でも一番落胆してる須藤の肩に本堂が手を置いて無言で慰めた--その一方でバレンタインの話題はまだ終わっておらず、今度は堀北が攻勢(しつもん)に回る。

 

「そう言う貴方は貰いたい本命はやっぱり一之瀬さんかしら?」

 

 ここで肯定するなら、騒動になる前に話は終わりに出来る--そんな魂胆を隠そうともせず、適当な答えやはぐらかした場合は例え強引にでも認めたとの言質に変換するとの腹積もりであり、兎にも角にもこの場で終わりにすることを望んでの問いだった。

 

 そして堀北とは別に櫛田や軽井沢は、嬰児が内容を曲がりなりにも認めて、より権力を行使するような展開になって欲しかった。

 

(やっぱり腕によりかけての方がいいかな、それともシンプルなのがいいかな?)

 

 櫛田としては景品云々よりも嬰児が気に入り、より背後の者達に近づけるチャンスに繋ぎたく、

 

(100万とかじゃなくて、もっと高い金額になる方がインパクトは大きいよね)

 

 軽井沢はより騒動が大きくなる方向にと堀北とは真逆の展開を望んでいた。

 

 それ以外の女子たちも嬰児の返答次第で大金が入って来るかも知れないと、打算全開の興味が湧いており、男子は金で釣るとは卑怯だと非難の視線を向けていた。

 

 そんな中で嬰児の口から出た言葉は―――――

 

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