どうしても叶えたい願いの為にその気になる綾小路と、別にどうでもいい願いでなんとなくいるオリ主   作:a0o

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遊ぶ金、欲しさに○○①

 

 勉強会は俺の予想以上に軟化した雰囲気であり、堀北は普通の勉強では効果が薄いと新しい方法を考案したこともあって、思ったよりも悪くない時間だった。

 

 時々、池と山内が俺と堀北を交互に見て忍び笑いをしているが何があったのやら。

 

 だが悪くないだけで良いとも言い難い――正解するたびに騒がしく得意がり、俺が煩いと指を向けて大人しくさせる。

 

 どうしてこんなお守りをしなくちゃならんのだと、退屈がてらに隣の席の美少女を視界に入れながら机に手を置き『地の善導』を発動―――流石に何を書いているかは分からなかった。

 

 でも、ちょっと気になって見てみる――教科書からして同じ一年、しかも勉強している教科も同じか、もう少し集中してみるか朧気でも内容と学力が分かるかも知れないし……ん?

 

 クラスが違うからか?隣の女子が書いているテンポと合致する問題が出てこない……いや、繰り返すが実際に何を書いているのかを導き出せないし俺の思い過ごしの可能性も十分あるが、もしもそうでなかったなら……。

 

 考えがまとまらず、かと言ってバカ正直に聞く訳にもいかない。

 

「牛井くん、イラついているのは分かるけどもう少し我慢してくれないかしら」

 

 イライラで知らないうちに貧乏ゆすりしてしまい、勘違いした堀北が上から目線で俺に注意してくる。

 

「こんなことして意味あるのか?」

 

 って俺としたことが、こんなミスは坂柳を前したときだけだったというのに。

 

「どういう意味だ。俺たちじゃ勉強するだけ無駄った言うのか?」

 

 俺の発言にカチンときたのか須藤が怒りを向ける。

 

「いや、そうじゃなくて……俺たち何か間違えてないか?」

 

「はあ、訳分かんねぇぞ?」

 

 さてどう説明しようか……不本意だが綾小路にフォローを頼もうか?と考えていたら隣の席の美少女が立ち上がった。

 

「君たち、図書室は静かに。そうじゃなくても喧嘩は良くないよ」

 

「あ、部外者は―――――」

 

「済まない、騒がせるつもりはなかった。須藤も誤解させたなら謝る。悪かった」

 

 仲裁に入った女子に須藤は噛みつこうとするが俺は素直に頭を下げて須藤にも謝罪した。

 

「ちっ、なんなんだよ?」

 

 須藤は仕方なく座るが池と山内は突然の美少女の登場に鼻の下を伸ばす。

 

「時間は有限よ。下らないことは後にして」

 

 堀北の冷徹な一言により慌てて教科書に顔を向ける二人。

 

「にゃははは、ユニークな人たちだね。

あ、私は Bクラスの一之瀬帆波。君は?」

 

「牛井嬰児、1-Dだ。初対面でなんだが俺のことは苗字で呼ばないで貰いたい」

 

「オッケー、嬰児くんかぁ――気のせいかもしれないけど、さっきから見られてるように感じたんだけど?」

 

 一之瀬の問いに一緒に勉強していたBクラスの生徒も俺に呆れた目を向け、同じDクラスの連中も〝そういうことか〟と言いたげな軽蔑の視線を送ってくる。

 

 何が言いたいのかは物凄く分かり易いが、実態は違うと正直に言う訳にもいかないが、切り抜ける算段は実は付いていたりする。

 

「ああ、実は俺の知り合いに何処となく似てるなと思ってな」

 

「知り合い――私に似てるの?」

 

「誰よりも正しくあろうとし、誰よりも優しく、みんなと仲良くしたいって綺麗事を本気で叶えようとする聖人にして究極の平和主義者だ」

 

 言葉を交わしたともいえないが、喧嘩の仲裁をしたときに見えた『申』の面影は事実であり、嘘はついていない。

 

 もっとも苦しい言い訳だと勘繰るだろうが、押し通すまで――来るなら来いだ。

 

「おお、確かに一之瀬さんと同じだ」

 

「知らないだけで結構いるのかな。そんな善人って」

 

 と思っていたら俺と反対側の一之瀬の隣に座っていた女子が肯定してほかの面々も続いた。

 

「もう、みんな持ち上げないでよ。

 それと嬰児くん、事情は分かった――よかったら連絡先交換しない、その人の話もっと聞きたいんだ」

 

 あっさりと俺の言葉を信じてフレンドリーに接してくる姿に益々『申』が重なる。

 

「それは構わないが」

 

 俺は端末を取り出し、連絡先を交換する。

 

 ちょうどそのタイミングで昼休みの終わりが来てしまい、そのまま解散となった。

 

 教室に戻る途中、池と山内が羨ましそうに面白そうにからかってきた。

 

「いや~、ちゃっかり他クラスの女子と連絡先交換とは嬰児もやるなぁ」

 

「ホント、しかもあんな美少女……なぁ、あとで俺にも連絡先教えてくれよ」

 

 やれやれ、別に教えても一之瀬なら怒らなそうだが……いや後ろにいた奴らが何を思うか――――

 

「そういうのはテストを乗り切った後にしてくれないかしら」

 

 堀北が怒りを隠そうともせずに話を一刀両断する。

 

「「…………」」

 

 池と山内は早々に撤退し、必然的に堀北の怒りは俺に向く。

 

「牛井くんも決して楽観できる成績じゃなかったわよね。ナンパなんてしてる余裕あるのかしら?」

 

「だから誤解だって――さっき言ったのは紛れもなく本心だ」

 

「聖人にして平和主義者に似ているんだったかしら……正直、信じられないわね。人は誰しも打算的に動く者、仮にそうした行動をとる人がいても心の中では―――――」

 

「それ以上言うな」

 

「………………!?」

 

 あまりの不快さに殺意を込めて堀北を黙らせる。

 

 見ていた三バカも息を飲み――綾小路はいつも通りの顔なれど、偉く注目している風に見える……おそらくとしか言えないが。

 

 まぁ兎に角、今は言ってやりたいことを吐き出したい。

 

「アレは嫌と言うほど過酷な現実を見て自身も危険な目にあっても尚、綺麗事を貫く女だ。

 堀北、お前が知っている以上に世界はずっとずっと広いんだ。あんまり自分を過大評価してるんじゃねぇ」

 

 感情的になってしまったが、引く気も撤回する気もない。

 

 こと『申』に関してだけはどんな侮辱も許さない――勿論、十二戦士は誰ひとり、野次馬が何を言って汚される安い存在ではないが『申』は別格だ。十二大戦さえも止めようとした――出来るかも知れなかった唯一の戦士だ…………ああ、出来るなら俺の学校生活と『申』が生き返るのを替えてもらいたいな。

 

「アナタの方こそ随分と偉そうね――でもそうね、悪かったわ。アナタの知り合いを悪く言いそうになったのは私の失言だわ。

 でもあなた個人思い入れで勉強会を阻害したのも事実。私はAクラスに上がるのを目標に定めている。上のクラスを目指す邪魔は金輪際しないで貰いたいわ」

 

 売り言葉に買い言葉か――あくなき向上心と自分の邪魔はするなね。須藤たちの面倒を見るのもあくまで自分の目的の為、善意などではないか。

 

 分かっていない訳では無かっただろうが、ハッキリ言葉にされて三バカも少なからずショックのようだ。

 

 しかし今ので大体分かった。

 

「堀北、そのモチベーションじゃ、お前は真の意味で強くなれないぞ」

 

「…………!」

 

「それはお前の正しさじゃない。誰か別の奴の正しさ――その真似事だ。

 自分の為は大いに結構だが、本当に己の願いに即してるのどうか、少し考えてみたらどうだ?」

 

 Aクラスになることで何を成したいのかは知らないが、肝心な資質を自ら潰している……それじゃ堀北の願いは叶わない。

 

 そのことを堀北は気付いていない。

 

 目的が達成できない理由が分からないままじゃ成長など見込めない。仮に奇跡が起きてAクラスに届いたとしても同じ――堀北鈴音は報われないだろう。

 

 堀北の文句が来ると思ったが、堀北は綾小路を睨み、無実だと言わんばかりに綾小路は首を振っている。

 

 心当たりがあるのか…………ならさっさと気付け、そう思いながら俺たちは教室に入っていった。

 

 

 ***

 

 

「茶柱先生、確認したいことが有ります」

 

「なんだ綾小路?今朝から思っていたが随分と昨日までとは様子が違うな――まぁ、それはいい。用件は手短に頼むぞ」

 

「中間テストの範囲ですが……オレたちが聞いた通りで合ってますか?」

 

 放課後の職員室の前でひとり尋ねてきた綾小路――その情報源は嬰児の図書室で感じた違和感だったりした。

 

嬰児(アイツ)の思い過ごしであれ、そうじゃないであれ、これでまたひとつ能力が分かる)

 

 綾小路としてはこうした機会はもう少し先になると想定していたが、早目に情報を得られるのに越したことはない――学校行事やクラス争いなど、どうでもよかったが目的達成の手段として使えるなら話は違う。

 

 その個人の打算まみれの行動は茶柱にとっては何であれAクラスを目指すのにやる気を出してくれたのかと期待を僅かだが沸かせた。

 

「ああ、そう言えばテスト範囲が変更になったのを伝え忘れてたな。いやお前のお陰でミスに気付けた」

 

 しかし、そんなことは御くびにも出さずスラスラと何かを紙に書いて綾小路に手渡す。

 

 内容が変更になった出題範囲――勉強会でした部分は殆ど入っておらず嬰児の思い過ごしじゃないことが立証された。

 

「悪いが綾小路から伝えて貰えないか。まだ十日以上あるから今から勉強すれば楽勝だろう」

 

 教師としてあるまじきミスをしたにも関わらず悪びれる様子もなく、周りの教師も誰ひとり気にしてもいない…………尋ねた綾小路も全く気にしていない。

 

(能力を聞き出す切り口が明確になったな――ついでのテスト範囲変更の情報が使えるかどうかも試してみるか)

 

 と言うより茶柱の言うことも耳に入っていない。適当に相槌を打って職員室を出て嬰児に連絡を入れる。

 

「お前の言う通り、テスト範囲が変更になってた」

 

『そうか……出来ればハズレであって欲しかったな』

 

「それよりも」

 

『分ってる。焦るな』

 

 そのまま『巳』の『地の善導』――地面からの振動を感知しソナーのように状況を把握する概要を話す。

 

 ぶっちゃけ嬰児にとっては秘密でも何でもないためにあっさりと……。

 

「それで、この情報はどうする?そもそもはお前が気付いたんだし――――」

 

『なんて説明するんだ?破棄しようが手柄を取ろうが綾小路の好きにしていい』

 

「範囲は聞かないのか?」

 

 ツー、ツー、答える前に通話は切れており流石の綾小路もゾンザイな対応に心中に冷たい風が吹いた気がした。

 

(取り敢えず櫛田に伝えるのが順当だが……)

 

 綾小路は端末を操作して次の相手に連絡を入れる。

 

 

 ***

 

 

 何だろうか?

 

 いつも通りに朝のホームルームを待っているだけなのにクラス中から嫌な視線や忍び笑いが向けられている――主に女子からは軽蔑交じりで男子からは軽蔑と好奇の半々で。

 

 原因に全く心当たりがないからモヤモヤした気持ちでいたら、堀北が教室に入ってきて真っ直ぐに俺の席まで来た。

 

「牛井くん。まずはお礼を言っておくわ」

 

「お礼?」

 

 訳が分からずにいると堀北は一枚の用紙を差し出して続けた。

 

「テスト範囲の変更の件――今でも正直、厳しいけど……もっと遅くに知るよりはマシだったわ」

 

 昨夜の綾小路に頼んだやつか――堀北に伝えたのは、まぁいいとして、どう伝えたんだ?

 

 それがさっきからのこのモヤモヤの答えになっていると、無意識が言っている。

 

「ただ今回は結果的にクラスのメリットになったけど…………同じ女として言うわ。気になるからって視姦する紛いな行為は絶対にやめてちょうだい」

 

 おい、綾小路……貴様ぁぁぁ―――――――

 

「確かに一之瀬さんは同性の私から見ても魅力的な娘だけど、好意の向け方が100%間違っているわ。しかも……彼女の書いてるものまでチェックするなんて――」

 

 ある意味、間違っていないが断じて視姦などしていない。

 

 誤解だと言いたいが、そうすると範囲変更をどう知ったのかとなり、全く知らないととぼけて綾小路の仕業だと言っても、一緒に同席していた堀北には通じないだろうし、返って心象が悪くなるのは自明だ。

 

 ならば―――

 

「クラスの為になったことに免じて今回は胸に閉まっておくけど、今のままじゃ、アナタ絶対に一之瀬さんに嫌われるわよ」

 

「じゃ、堀北が間を取り持って正しい手順とやらを示してくれないか?恥ずかしい話、俺そういう経験皆無でさ――どうすれば綺麗に気持ちを伝えられるのか、全く分からないんだ」

 

 話の流れを俺の不快な行為の断罪から恋愛相談に切り替える。

 

 無理に話を打ち切っても嫌なイメージは残り続けるし、徹底的に膿を出し切って更生しようとしていると示した方が、悪い心象を払拭しきれる可能性が高いだろう。

 

「……ああ……えっと、私もそういうのはちょっと…………」

 

「同じ女として、堀北ならどうすれば好印象を示せると思う?是非、忌憚のないアドバイスを頼む」

 

 結構真剣な目と声で言うと堀北の余裕が目に見えて消えていき、クラスの目も俺への嫌悪から堀北が何を言うかに興味が移っていた。

 

 見た目は文句なしの美少女だが、あれだけキツイ性格なら言い寄られたことなんてなさそうだし――――さて、ホントどんな言葉が飛び出してくるのかな?

 

 皆が期待を膨らませていると教室のドアが開き茶柱先生が入って来て、堀北は早々に自分の席に行った。

 

「ホームルームを始めるぞ。席に就け」

 

 時間はどうやら堀北の味方だったようでなし崩しに話は中断されてしまった。

 

 俺の希望としてはこのまま話がうやむやになって忘れ去られて欲しいな…………ああ、後で一之瀬に告白をなんてことになったらどうしようかな?

 

 

 ***

 

 

 昼休み、綾小路は端末に送られてきた〝随分と面白いことをしてくれたな〟と記されたメールを冷めた目で見ていた。

 

嬰児(おまえ)が言ったんだぞ。オレの好きにしていいって)

 

 そのまま心の中で思ったことを綴り返信する。

 

(さて次は)

 

 ある目的を思い浮かべ食堂に向かう。

 

 適当な定食を頼み、混雑している食堂の中で目当ての定食を食べている生徒を探し出し近くに座る。

 

「先輩であってますよね?オレ、一年Dクラスの綾小路って言います」

 

「……確かに三年だが、それがなんだ?」

 

 興味なさげに無料の山菜定食を食べ続けるのを見ながら話を続ける。

 

「先輩もおそらくDクラスですよね?」

 

「お前になんの関係がある?鬱陶しい」

 

「交渉をお願いしたいんです。受けてくれればお礼もします」

 

 トレイをもって席を立とうとするのに待ったをかける。

 

「礼?」

 

「ええ、一年時の一学期の中間と小テストの問題――それを買い取りたいんです」

 

「……いくら払える?」

 

「一万、頑張って一万五千が限度です」

 

「倍は必要だ」

 

「それだと手持ちが……もう二万しか残ってないんで」

 

「だったら他も連れてまた来い。俺だけならそれで手を打てるが、生憎と問題は持ってない。心当たりのある知り合いに頼むことになるから、どうしても三万は必要だ」

 

「分かりました。じゃ、ポイントを出せる知り合いに連絡を入れますから少しだけ待って貰えますか?」

 

 綾小路は櫛田宛にメールを送ると程なくして三万ポイントが送られてきた。

 

「お前……Dクラスじゃなかったのか?」

 

 あまりの手際の良さに戸惑いの声がかかる。

 

「Dクラスですよ。だから、みんな焦ってるんですよ」

 

 その返答に納得したのか、それ以上の追及はなかった。

 

 赤点は即退学――それを身に染みて分かっているのだろう。おそらくだが容赦なく退学を突き付けられ去っていったクラスメイトを思い出したのか苦い顔をしていた……単に食べている山菜が苦いだけなのかもしれないが。

 

「ポイントは先払いだぞ」

 

「勿論、構いません。でも裏切ったら騙されてポイントを巻き上げられたと訴えますからね」

 

「心配するな。ポイントの譲渡は記録されるから、そんな真似されたらこっちもタダじゃ済まない」

 

 終始、出てきた言葉に淀みはなく態度も明らかに慣れていて、この手の交渉が初めてでないことを窺わせる。

 

 先の小テストでは明らかに高校一年では解けない問題が組まれており、急な範囲変更も教師たちは何ひとつ思うことなく平然としており、にも関わらず中間テストの説明時に茶柱は『お前たち全員が乗り切れる方法はあると確信している。実力者に相応しい行動をすることを望む』と意味深な台詞を言っていた――――須藤たちの学習態度や学力を把握しているにも関わらず。

 

 導き出されるのは単純な勉強ではない裏技的攻略法があるということ。〝実力者に相応しい行動〟を加味すると広い視野で見た上で確実に赤点以上の点数を取る環境が用意されていて、それに気付けるかどうかが今回の学校が測りたい実力――不測の事態でも乗り切れるかどうかなんだろうと。

 

 綾小路はこの会話で建てていた仮説をほぼ確信し、ポイントの振り込みを手早く済ませた。

 

 振り込まれたポイントを確認し山菜定食も食べ終わって三年の先輩はさっさと席を立った。

 

 綾小路は自分の定食を食べながら待っていると端末に依頼したテストの添付画像が送られてきた。

 内容は予想通り、先の小テストと全く同じであり綾小路の仮説が実証された。

 

(あとはこれをどうするか?)

 

 昨夜同様に堀北に渡してもクラスのメリットになっても綾小路のメリットにはならい。

 嬰児に渡して出方を窺っても流石にもう無視はされないだろうが、今朝の一件で腹を立てていることは間違いないから、いい結果になる確率は低いだろう。

順当にポイントを払った櫛田に渡して広めてもらうのが無難か――綾小路の予想では後々にさらなるポイントが必要とされるからクラスの株を上げるメリットを与えておくのもいいだろう。

 

(そもそもオレが考えていた使用用途じゃないしな)

 

 綾小路は結論を出して櫛田の端末に連絡を入れた。

 

 ***

 

 

 日にちは進み中間テスト前日の放課後になった。

 

 俺はさっさと帰ろうとしたが櫛田が大量の紙の束を持って教壇に立ち大事な話があると言って、クラス全員が座ったままだ。

 

「みんな、今日まで沢山勉強してきたと思う。そのことで少し力になれると思うの」

 

 櫛田がプリントを配り、一番前の席に居る者たちに渡していき、その一人である俺の手には絶対に触れないように端もって渡された。

 

 櫛田が速足で教壇に戻っていくのを見ながら俺はプリントを後ろに回す。

 

 プリントを見てみると、内容はテスト問題だった。

 

「実はこれ過去問なんだ。一昨年の中間テスト、これとほぼ同じ問題なんだって」

 

 櫛田の説明にクラス中が喚起する。

 

「ウオォー!マジかよ」

 

「こんなのあるなら無理して勉強頑張らなくても良かったなぁ」

 

「けど助かるぜ」

 

 特に池、山内、須藤の三バカは大いに喜んでおり、他の面々も嬉しい知らせに興奮していた。

 

「櫛田さん、お手柄ね」

 

 そこに珍しく堀北も称賛を送った。

 

 しかし、俺は何となくそれを言うべき相手が違うような気がした。

 

 そもそも過去問とは言え無料(タダ)で手に入るとは思えんし、間違いなく『湯水のごとく(ノンリロード)』で増やしたポイントを使ったと見ていい。

 

 そして、それを考え付く――考えると言っていた相手と言えば。

 

 俺はさり気なく綾小路に目を向けるが相変わらずのポーカーフェイス……お前なら俺(十二戦士・戦犯)の能力を有効活用できるぞと言いたいのか?

 

 今回はクラスの為でしか使い道がなかったが、もっと多くのことが出来るとそう言っている……そんな風に勝手に思ってやるぞ。

 

 そのまま帰り支度をはじめ、他の連中も帰っていく中で、

 

「櫛田さん。あなた、私のことが嫌いよね?」

 

「そうだね。大っ嫌い」

 

 そんなやり取りが耳に入った………………ま、どうでもいいか。


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