どうしても叶えたい願いの為にその気になる綾小路と、別にどうでもいい願いでなんとなくいるオリ主   作:a0o

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遊ぶ金、欲しさに○○②

 

「やるとしても、お返しは一人か二人に限定--それ以外は無難に返すか、そもそも断るかするかな」

 

「…………つまり景品を巡って競争でもさせると?」

 

 堀北の心底軽蔑したようなニュアンスに対しても嬰児は何でもないように言う。

 

「別にホワイトデー目当てでチョコをなんて珍しい話でもないだろう--目的が何であれ誠意を尽くしてくれなら、俺の方も相応の礼をするのは道理に叶ってるから問題も無いだろう」

 

 全く否定する気はなく、寧ろ積極的に推し進める気満々であり、嬰児本人からも面白そうだと言う雰囲気を隠そうともしない。

 

 これには噂を流したのは嬰児自身なのかと勘繰りたくなり、聴けば答えてくれるそうだがその事自体に最早意味はない。

 嬰児が大金に変わる物を用意すると肯定した時点で、多くが釣られるのは間違いない--特に卒業間近の三年生たちは喰い付いて来るだろう。

 

(まったく、よりにもよってこんな時期に兄さんに迷惑掛けるかもしれないなんて)

 

 先の合宿の際の騒動を超える事態になるのも想像し易く、あと二か月もせずに卒業だと言うのに一体何のつもりなのか?

 

 そして他学年の事もだが、目先のⅮクラスの面々からも釣られているのが早速出て来てる様で少々頭痛がしてきた。

 

「ねぇ、嬰児くん。決めるのってやっぱりコンペでもするの?」

「それだと一度は受け取って食べるよね。味の好みとかも訊いていい?」

「断るかもって言ってたけど、基準とかあるの?」

 

 嬰児が開き直った為か、女子たちも下心を隠さず堂々と質問してくる様子に男子たちは嫉妬とは違う複雑な感情を抱き見ている。

 

 ただ全員がそうではなく、距離を取る女子も居る。

 

 そんな様子を無言で見ていた綾小路は、

 

(Ⅾクラスでこれなら、他も同様に大騒ぎだろうな)

 

 と他所の様子を想像しながら、更に先--嬰児が持って行きたいと言っていた先の展開に対してどうするべきかと思案しようとした。

 

「ねぇ、きよぽんはやっぱり坂柳さんだけだよね」

「それはそうでしょ。他の娘たちから貰うなんて駄目だよ」

 

 そこに長谷部と佐倉がやって来て、茶化すように訊いて来た。

 

「…………二人はいいのか?」

 

 綾小路は嬰児の方に目線を向けるが、あっさりとした答えが返ってきた。

 

「いやいや、倍率高そうだし--何より」

「うん。別にそんな高価な物は―――――」

 

 

 

「ねぇ、嬰児くん。劇団の人をこの学校に来て貰うってのもあり?」

 

 佐藤の発した台詞に佐倉は反射的に顔を向けた--勿論、佐倉だけでなくクラス中の全員が注目したが。

 

「いや、それは流石に予算オーバーになるんじゃないか--トップスターなんかは引く手あまただろうし」

 

「でもさ、嬰児くんだったらねじ込めたりとか出来そうじゃない?」

 

「悪いけど我儘が過ぎるようなのはちょっとな」

 

「だったらさ、もうちょっとグレードの低いのなら、なんとかなったりする?」

 

「そんなに観たいのがあるのか?」

 

「うん。だってさ、この前の坂柳さんの宣伝って言うか自慢話って言うのか、ホントに観てみたいって思わされたからね」

「あー、分かるな。この学校の唯一って言っていい欠点だもんね、外に行けないってのは」

 

 佐藤に同調する形で話は物品から外からの招待へとの流れになっていった。これに佐倉は興味が湧き益々注目の目を強めた--その姿にグループメンバーたちは、話に混ざれるようにするべきかと思わされる。

 

「ねぇ、愛里。愛里も来て欲しい人いるの?」

 

「え、あ……その…………」

 

 長谷部が単刀直入に訊くと佐倉はしどろもどろになり、

 

「居るんだな--ただそうなると俺達に力になれることは」

「ああ、ないよな」

 

 幸村と三宅も察しはしたが、イベントの内容的に余り関わりたくはない忌避があった--最後に無言でいる綾小路は腕を組んで何かを考えており何かしらの妙案が出て来るのではと期待の籠った注目が集まった。

 

「なあ、綾小路はやっぱ坂柳ちゃん一択だよな--手作りのとか貰ってたのか?」

 

 ただそれはグループだけではなく、それも別の意味での注目により水を差されてしまい、不満が言った相手、山内に向いた。

 

「な、なんだよ?」

 

「いや、別に」

 

「ああ、気にしなくていい--それと質問の答えだが、有栖とは長いことあってないから、その手のは貰った事は無いな」

 

「えー、でもさ。小学校ぐらいまでは一緒だったんだろ--だったら」

 

「あー、そうだよね。坂柳さん、かなり素直で何より積極的だし、子供の頃のやり取りなんてすぐ想像できそう」

 

 好き勝手に盛り上がっていくのに対して綾小路は冷めた口調で言った。

 

「生憎だが学校は別々だったし、何より親同士の付き合いで一緒だっただけだ--そんなしょっちゅう会えてた訳じゃない」

 

「へぇ、そんな途切れ途切れでもあんなに熱くなっちゃえるんだ」

「はぁ~、それもロマンチックだねぇ~」

 

 それでも話題は長引きそうであり、綾小路は‶どうしたものか〟と誰かに助けて貰いたかった。

 

 ただそんな期待も空しく皆が好奇心剥き出しであり‶自力で乗り切るしかないか〟と思い直し、そして直ぐに最適解を導き出した。

 

「まぁ、そうだよな。昔ならともかく今貰うなら有栖以外はないな--だから他からがあっても丁重に断るしかないな。嬰児もそうだよな?」

 

 適当に肯定して話題の中心を再び嬰児に戻し、更に切り返しが来ないように念押しのひと言を発す。

 

「やっぱり大事な娘からのはどんなのでも特別だし、一之瀬がもし腕によりをかけてなら超が付く高級品にも勝るんじゃないか、嬰児の場合?」

 

「そう言うものなのかしらね?だったら、もっとストレートに好意を表すのが正道なんじゃないかしら?」

 

 惚気交じりの援護を得て堀北は再び騒動が大きくなる前に収めようとした--それは成功して皆の注目は再び嬰児に向いた。

 

「何度も言うが一之瀬は知り合いに似てるってだけで、そう言う目で見てる訳じゃない」

 

 これに櫛田と軽井沢は反応し、

 

「じゃあさ、嬰児くん的にはどんなのなら嬉しいの?」

「お金目当てがOKなら、他のでも全然だよね?」

 

 より直接的に突っ込んで来た--内容的に引く者も居たがそれを差し引いても興味が勝り、どこまでのものが飛び出して来るのかと期待が高まっていく。

 

「そりゃ、美味いのが大前提だろ--それで俺好みであるならビターチョコとかがいいかな」

 

「へぇ、苦みのある大人の味がいい訳か」

「ちょっと気取ってない?」

 

「それはそっちの好きに取ってくれていい--と言うか、あくまで俺の好みだっていうなら」

 

 嬰児がひと呼吸置いて、より深みのある雰囲気を醸し出しクラス中が身構えた。

 

「欲しいのもの為にどれだけのものを注ぎ込めるかかね--それが感じられるだけの‶なにか〟があればケチ臭いことなんて言わずに本当に欲しいものを返すかな」

 

 つまりはこれが言いたかったのか--全員がそう思った、そして更に深読みした者達は嬰児が積極的に動くには申し分ないものだと、今回の件の動機を悟ったのだった。

 

「そう。それってホワイトデーじゃなくてもいいってことかしら?」

 

 堀北は先程までとは違うニュアンスで訊く--これまでに出て来た嬰児の情報から、自分にとっての最大の利益になることへの下地を作ろうとしていると、更なる深読み(自分好みの解釈)に達したようだ。

 

「それを求めるならな--ただ出来る限りは形式を守って貰える方が助かるかな」

 

 この返しに堀北は参加するだけの意義があるかとの思いが芽生え、見ていた者達の数人には面白くない思いが芽生えた。

 

「そういう意味では一番無難なのはやっぱ一之瀬かな--それとも誰かの命令でCからも貰えたりするのかな?」

 

 的を射たような空気の中で、嬰児はさらに茶化すように爆弾を投げる--それに堀北は流石に頭が痛くなって来たのか、こめかみを抑えた。

 

「ちょっと……」

 

「そんな顔するな。あくまでかも知れないって話だ--それに順当に考えれば積極的になるのは上級生だろうしな。特にポイントのないようなのなら、それこそ手作りが期待できそうだし」

 

 さり気なくのつもりなのか、ちゃっかりと要望を述べ、シリアスになっていた空気は再び下世話なものに戻ったのだった。

 

 そして誰がやったのか、この情報は瞬く間に拡散されチョコの材料や研究に関するものがあっという間に底を尽きることになった。

 

 

 ***

 

 

 さて昼休みになると想定通りに質問攻めだ……いや半分は要望を言いに来ただな。

 

 やれ、このブランドのがいいとか、物品じゃなくてもOKなら此処までのはいいかとか、兎に角欲望剥き出しにやって来る女子たちが後を絶たない--実に面白い。

 

「あのさ、お礼にここまでしてくれるなら、小さいのでいいから―――――」

 

「すみませんが、それをするとキリが無くなるから丁重にお断りします」

 

 イベントにかこつけて、今からアプローチを掛けてくる輩も想定内だ--ただ中にはそれも見越して俺へのアピールを狙って来るしつこいのも居た。

 

 名前は確か、二年Ⅾクラスの山中だっだか。

 

 そして今、南雲会長とべったりな先輩がいる。

 

「はじめましてだね、私は二年Aクラスの朝比奈なずな」

 

「これはどうも。ご丁寧に」

 

 さっきまでと違い落ち着いた感じで筋を通すと言った空気を纏ってたので、俺もそれに応じるよう心掛けたんだが、

 

「ふふふふ。別に畏まらなくてもいいよ」

 

 笑いながら気さくに接してきてくれた--ラフな外見は相手を委縮させない配慮だったりするのかね。

 

「ま、警戒するなってのも無理な注文か--ならそのままでいいから話しても?」

 

 そんな推察をしながら見てみると朝比奈さんは苦笑しながら続けた来た--見た目とは裏腹に義理堅く、相手を立てるって評判は本当のようだな。

 

「これは失礼しました」

 

 素直に頭を下げると、やっと会話が出来ると言った感じで口が開かれた。

 

「いいよ、いいよ--ただでさえ大変な立場なのに、今じゃもっと大変だろうしね。ホント、神様もちょっとくらいは休ませてあげればいいのにね」

 

「先輩も神様を信じてる口ですか?」

 

「まぁね。もっとも私は故郷の神様だけど」

 

 そう言って神道の『お守り』を取り出した--用意のよさから芝居も一瞬疑う、そんな感情も湧いてこなかった。

 

 大事にしているのは間違いないと、心が言っている。

 

「俺も信仰の押し付けとかはしてませんからご安心を」

 

「そりゃ良かった--私も信じてるって言ってもそこまでのめり込んでる訳じゃないしねぇ、なんて言うか精神的支柱?持ってると安心するって感じで」

 

「元来、神との付き合いなんてそれ位が妥当ですよ」

 

「じゃ、君も同じ感じ?」

 

「ええ、その通りです」

 

「そっか」

 

 朝比奈さんは少し嬉しそうにしながら、ひと息ついて変わらぬ態度で続けて来た。

 

「あんまり長話もするのもなんだし単刀直入に訊くけど、今回の件ってまた雅にひと泡吹かせる為にやってるの?」

 

 南雲会長と近しいと言うのも知ってたので探りに来たのも想定内だが、ニュアンスからして妙な期待感を感じる--俺に倒して欲しいのか、それとも冗談で済ませたいのかは判断が付かないが。

 

 だから礼に欠くが、ここは質問で返すかね。

 

「どういった論理の飛躍でそんなことに?」

 

「ああ、ごめんね。説明不足だったね--君の本命って一之瀬帆波さんだって話じゃない」

 

「つまり南雲会長も一之瀬に入れ込んでると?」

 

「まぁね。一年の中では一番のお気に入りみたいだよ」

 

「よって来る女には不自由してないとの話ですが、もしかして本気ってことですか?」

 

「さぁ?それは私にも分からない」

 

 態度はチャラけたものだが、しっかりと誠意を見せてくれるか--こうなるとまた礼を欠くようなのは出来ない、全くやり辛い人だな。

 

「まず俺に本命は居ません--あくまで一之瀬は知り合いに似てるだけ、それ以上の思い入れはありません」

 

 のでこっちもどっちつかずじゃなくて、ハッキリとした回答を示す。ついでにダメ押しも付けておく。

 

「ちなみにその知り合いも好きではありますが、ラブじゃなくてライクの意味ですから、より明確に言えば尊敬に値する強者 (つわもの)ですね」

 

 前にも思ったがここは戦士と言いたいな。

 

「尊敬する強者か……君も色んな意味で凄いと思うけど、そこまで言い切っちゃうとちょっと興味が出て来るね」

 

「知りたいと言うなら先輩も有力者(うえ)を目指してみますか?」

 

「アハハ、そこまではちょっと躊躇しちゃうかな--チョコのお礼に教えて貰うってのは駄目?勿論、言っていいとこまででいいから」

 

「いやいや先輩もAクラスでしょうに」

 

 と言っても良かったが、どうにも冗談で流して欲しいって顔に書いてある--初対面であんまりグイグイ行くのもなんだし、ここまでお開きかな。

 

「すみませんが、そのラインが何処かは俺にも分からないもので」

 

「じゃ、やるだけ無駄かぁ」

 

 残念だぁ、みたいな態度でもうこの話はお終いと示した来た--そしてこのまま、お開きになると思ったが、

 

「じゃあさ、じゃあさ、もし一之瀬さんからマジ物のチョコを貰ってもそれでお終いって事は無いんだよね?」

 

 どうしても言質を取って置きたい様だ。

 

「勿論、そのつもりです。尤も信じるかどうかは皆さんの自由ですけど」

 

「…………雅の事があったから、二つ返事で信じるとは言えないかな。あいつもこの前の件までは‶言ったことは守る〟って信用がかなり高かったからねぇ」

 

「ちなみに誓約書を作れって言うなら流石にお断りします--決めた相手が一之瀬だった場合は難癖付けられちゃ堪りませんから」

 

「ハハハ、結局は最有力候補ってことじゃん--雅、やっぱり黙ってないと思うよ」

 

 そう言って去って行く朝比奈さん。忠告と取るべきか捨て台詞と取るべきか、どちらにしてもここでの話も直ぐに広まるだろう--そしてこの手の話は大抵の場合は放って置いたら悪い方向に行ってしまうのが常だ。

 

 欲得ずくで動いて要求がエスカレートしていったなら、より直接的に俺を抑え込もうとしてくるか。

 或いはハッキリと警告してくるか--そうなったなら交渉の余地も生まれるかな?

 それとも俺の望むような戦場でも用意してくれたりするのかな?

 

 

 

 ***

 

 

 木曜日の夕方--噂は更に広がっており嬰児も然ることながら、注目されている生徒がもう一人いた。

 

「ねぇ、一之瀬さん。こう言うデコレーションどうかな?」

「いやいや見た目よりも味を重視した方がいいと思うし、この後試食会でもしない?」

 

「にゃははは……ごめん、私そう言うのはちょっと疎くて…………」

 

 他クラス、他学年の女子たちがひっきりなしにやって来ては一緒にチョコを作ろうと持ち掛けられ、丁寧に断っているものの流石に辟易した顔になってしまう。

 

「いやいや、一之瀬さんの手作りなら絶対だって!」

 

 それでも引き下がる気のない輩も多く、

 

(そんなに何が欲しいんだろう?)

 

 と僅かに興味を抱くこともあった--ただ、ひとたび肯定の兆しでも見せようものなら際限なく喰い付いて来るのも想像に難くないので、絶対に触れてはならないと可笑しなジレンマも抱えてしまい、更に精神的に疲れてしまう。

 

「あの先輩方……休み時間ももう終わりますし、そろそろお引き取り願いませんか」

 

 見かねたのか、本人も迷惑なのか、神崎が時間を指しながらの正論を持って事態の収拾を試みる。

 

「あー、そっか……」

「……仕方ないね」

「一之瀬さん、また後でね」

 

 集まっていた女子たちも解散し、この場は何とかなったがまた来る気は満々であり、ひと息つく気にもなれない。

 一之瀬のみならずBクラスの殆どの者が同じ気持ちであり、そんな皆の心情を代表するように神崎が口を開いた。

 

「全く、牛井のやつも面倒な事を」

 

「そうだよね。一之瀬さんもとんだ災難だよね」

 

 それに呼応して白波が一之瀬を気遣う仕草を見せたが、当の一之瀬は素直に喜ぶ気にはなれなかった。

 

「にゃはははは。今度ばかりは私も嬰児くんに文句言いたいかな」

 

 しかしそれを顔には出さず無難な本心で応えた--ただそこに異をぶっきらぼう声が出た。

 

「でも牛井くんも太っ腹だよね。100万のお返しくれるなんて--本当に一之瀬さん、欲しい物とかないの?」

 

「なに言ってるの。一之瀬さんがそんなのに釣られる訳ないじゃない!」

 

 姫野が勿体なくないかと言うニュアンスに顔にも書いてある--これに一之瀬(とうにん)ではなく白波が速攻で異を唱えた。

 

「えー、でも折角くれるって言うならあやかりたいじゃん--言ってる本人だって、そんな程度の事なんて織り込み済みでしょ」

 

「だったら、姫野さんが努力すればいいじゃない。一之瀬さんを巻き込まないで」

 

「欲しい物あるかって聞いただけじゃない」

 

 余程不満があるのか白波のテンションは上がっていく--それを見て姫野は辟易した顔になるもそれ以上をするつもりは無いようで、あっさりと引いた。

 

「にゃははは。あんまり喧嘩しないでね」

 

 一之瀬がやんわりとお茶を濁して、どうにか話を終わる--と思われたのだが、その一之瀬の内心も複雑な物があった。

 

(……欲しい物か)

 

 一之瀬は何かを思い出すように考え始め、意味のない妄想が湧いた。

 

(もしもあの時(・・・)だったら)

 

 自分がBクラスであろう理由--その過去を思い浮かべながら、牛井嬰児が居たならば自分は頼っただろうかと…………

 

(…………いや、やっぱり無理かな)

 

 何よりもこんな事は考えるだけ不毛だ。既に過ぎたのだから、やり直しなど効かない。

 

 思考を打ち切り、今をどうするかに切り替えなければと一之瀬はバレンタイン騒動の先を思い浮かべ、

 

(やっぱりなんか無関係じゃいられない気がするなぁ…………)

 

 と不安と難儀さに頭を抱えたい気分になるのであった。

 

 

 

 ***

 

 

 いや~、なんとも懐かしい感じだなぁ。

 

 放課後になり茶道部の部室で椎名にお茶をたてて貰いながら、ただひとつ違う--他の部員も居て一対一じゃないことにこの席の目的は窺い知れる。

 

 さてどんな風に話が進んでいくかね?

 

「どうぞ」

 

 そんな風に思い耽ってたら、椎名がお茶を出して来た--湯気が立ち、あの時よりも良い香りが鼻をくすぐり何より気を落ち着けさせる。

 ではここは礼節に則って、ゆっくりとお辞儀して丁寧に器を持ち回しながら音を立てないよう味わって飲ませて貰う。

 

「結構なお手前で」

 

「畏れ入ります」

 

 椎名もお辞儀して周りに居る部員たちも俺の反応に上々と言った面持ちになった--さて本題はここからだな。

 

「あの時よりも渋みも温度も飲み易くなってる--これも先輩方の指導の賜物ですかね?」

 

「いいえ。椎名さんの呑み込みが早いのと、何より相手に合わせての観察力が凄いゆえですね」

 

 上級生、多分茶道部の部長さんが如才なく答えてくれる--こうした落ち着いた雰囲気で話せるのは滅多にないから自然と気が緩みそうになっちまうかね。

 

 そんな感じを隠さずに出してみると透かさず口が開いて話を続けて来る--目敏いのは椎名の専売特許じゃないか、それともこういったので鍛えられたのかな?

 

「牛井くんもここのお茶が気に入ってくれたようで良かったわ--ひいてはもっと上達出来るなら、更に美味しいお茶が飲めると思わない?」

 

「売り込みが中々上手ですね」

 

「誉め言葉と受け取って置くけど、ストレート過ぎるのも時と場所によるわよ」

 

 なんとも手厳しい。それでいて媚びずに毅然とした態度で来るのはリサーチがしっかりしてるからか--まず間違いなく進言したのは椎名だな。

 

「部長の嬰児くんは回りくどいのは好きじゃないようですが、場に合わせて言葉は選んだ方がいいかと」

 

「では進言通りに質問に答えますと、美味しいお茶が飲めるのは素直に嬉しいですね」

 

 責められ続けられそうなので切り返すと椎名は笑みを浮かべた。

 

「はい。私も出したお茶が喜んで貰えるなら嬉しいです」

 

「出来れば、こんな風にもっとお客さんに出すなりのお披露目の場もあればモチベーションも上がるんだけどね」

 

 椎名に続くように発した部長さんの言葉に部員たちが肯いている--言われてみれば、この学校に文化祭みたいな行事もないし、茶道の大会もあるらしいが聴いてる限り参加してる訳じゃないようだ。

 

 部員である椎名も放課後はよく図書室に居る--本好きってことで大して気に留めてなかったが、あんまり活動予算も無いのかね?

 

「お披露目ですか……この学校の校風を考えると寧ろ正面衝突しそうですね」

 

「そうなのよね--基本が外部への接触禁止だし、部として大会に出るなら認められるけど、見ての通り弱小だしあくまで生徒自身の実力を高める一環って方針なのよね」

 

「不用意に外部と接する機会は設けたくないって訳ですか」

 

「ま、多分そんな感じでしょ--もっとも例外もあるんだって知ってるけど」

 

「すみませんが、俺に何をさせたいのか、いい加減話してくれませんか--大会出場したいとかなら相手が違うと思いますが」

 

 高額報酬でいいなら上に働きかけてくれって持って言いたいのか?

 

 だとしたらそれは明らかに出来ない--いいや、してはいけない類の相談だ。断るなら早くした方がいい。

 

「そうかしら--結構な大物とコネがあるのは間違いないし、入手困難なチケットも確実に取れる。大スターなんかもこの学校に呼んで貰えるって噂も耳にしたんだけど?」

 

 ああ、なるほど。そう言う事か…………

 

「……そちらも大概回りくどい方法を考えますね」

 

「部としての実績がなきゃ、この手の話は意味が無いでしょ--上に話を持って行くにも説得できる材料がある方がいいに決まってる」

 

 頼む以上は誠意を見せるか--これまで堂々と来た連中の中では一番印象がいいな。ならば俺も腹を割ってじゃなきゃ失礼かね。

 

「先輩、俺は最初からギリギリの立場にあります--表立って(・・・・)下手な口実を与えれば即座に処分されるし、疑惑を持たれたってレベルで何されても全くおかしくありません」

 

 まず俺の立場を明文化する--当たり前ながら場の緊張感が一気に高まった。その中で比較的冷静さを保ってるのは案の定、椎名ひよりだ。

 

「何かがしたい、欲しいってのは大いに結構だし、その為に俺が有効的手段だと捉えるのも当然です。俺自身がそう示してるんですから--だからこそこれは念頭に入れてください。

 俺に関わったことで、この先何があっても俺は一切責任を取ることが出来ないって事を」

 

「……それって脅迫?」

 

「ある意味そうですね。その上でお尋ねしますが、この売り込みは本当に部の為ですか?」

 

 部長さんと一緒に椎名も視界に入れて問う--総合的に考えて、打算でここまでするにしては無理がある。

 茶道部員である椎名は放課後よく図書室で見かけるし、部の事に関してもそこまで活動熱心だとは聞いたことがない。

 このもてなしは俺からポイントを稼いで高額報酬の権利を得てその後は、全く別の物を要求する策略だって可能性も十二分に考えられる。

 

 そして椎名が矢面に立っていることを踏まえれば裏に居るのは誰なのかは自然と想像が付く。

 

 そんな含みを持って椎名を見ると直ぐ察した……いや最初から想定していたようだな、いつも通りの落ち着いた顔のまま悠然としている。

 

と言うよりもなんだか目的を話したって顔に書いてある気がするな。

 

「嬰児くん、仕方ないかも知れませんが穿ち過ぎですよ--そんな風に裏を探ってばかりいてはいくら何でも疲れてしまいますよ」

 

「つまり龍園は関係ないと?」

 

「いいえ、龍園くんも嬰児くんが仕掛けて来たとあって、また何か‶大きなもの〟への反攻じゃないかと疑ってます--実際に私もその疑念には同意しますので、先輩方に協力して貰って真意を知れればと」

 

「そっちも大概回りくどい真似な」

 

「ストレートに訊いてもどこまで話せるかは分かりませんから--せめて嬰児くんが本気なのか、遊びなのかは把握しておきたいので」

 

 言いながら気品ある御淑やかさが抜けて、段々と険しいニュアンスに変わっていく--それだけ切実な心情であることを示してるから先輩たちへの協力を得られた訳か。

 

 何よりここまですることへの‶心当たりは無いとは言わせない〟と無言で語ってる……これには俺は否定も肯定も出来ないな。

 

 椎名は無言のまま‶また大掛かりな企み〟をしてるのか?と言っている……ように見えるな。

 体育祭での事がしっかりとぶり返してるな--見えない所での攻防に巻き込まれるのか、ハッキリとした答えが欲しい、それがCクラスの総意と見て間違いないだろうかね。

 

 名目上は敵対してる訳だから、安心させてやる義理なんて無いんだが、今回(・・)はそう言うのは望んで無いし何より美味しいお茶もご馳走になったし、さっきの通り誠意を見せるかね。

 

「ぶっちゃけて言えば、この件は噂が独り歩きした類だ--ただ貰ったからには相応のお返しって言うのも嘘じゃない。常識的(・・・)に見て問題があるような物は選んだりするつもりはないよ」

 

 非常識なやり取りをするつもりは無いと遠回しに伝えたつもりだが、どうやら椎名には伝わったようで、少しホッとして表情が緩んだ。そしてそのまま、

 

「そうですか。ならば私も参戦を考えて見ましょうか--さっきのお茶も気に入ってくれたようですし、抹茶味はお好みですか?」

 

「いや~、その手のは食べたことが無いからなぁ--でもちょっと興味あるかな」

 

「ちょっと、ちょっと。神聖な部室でイチャつこうとしないで--こっちも混ぜなさいよ」

 

 ゆるゆるの空気の元で緩い談笑が始まってしまった--う~ん、これも青春の醍醐味かって感じでいいのかな?

 

 

 

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