どうしても叶えたい願いの為にその気になる綾小路と、別にどうでもいい願いでなんとなくいるオリ主   作:a0o

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お洋服が・・・

 

 

 

「そうか。お前も一枚噛んでいたのか--それともお前こそが首謀者か?」

 

「ふっ。直観なのか観察力なのかは知らんが、相変わらず察しの良すぎる程に優秀な男だ--全く持って面白味のない」

 

「それは結構な事だ--南雲ばかりか、お前に気に入られたならどんな生活になっていたのか想像もしたくない」

 

 軽く流して話を打ち切ると思っていたが、皮肉交じりの肯定を返して来た事に鬼龍院は何かしら自分に要求があると悟った。

 

「……言って置くが私は牛井のお目付け役になどなるつもりは無いぞ」

 

「察しがいいのはそっちも同じだな--もし同学年なら南雲じゃなく俺が戦いたいとすら思っていたかもな」

 

「え、えっと……」

 

 堀北学と鬼龍院楓花。共に折り紙付きの優秀さを持つ二人の会話に完全に置いてきぼりになってしまった橘茜は会話に交じるべきか、様子見するべきか判断に迷う。

 

「それとも今回の件はお前と戦う為に南雲が焚き付けに来た一環だったりするのか?」

 

「さぁ、どうだろうな。大袈裟になることを私は望んでなど居ないが、これでも頼んでいる立場だからな--相手の意志は尊重するさ」

 

「だとしても限度がある。学校の風紀どころか伝統まで破壊する事態になりかねないなら自嘲して貰いたいんだが」

 

「ふっ。気に入らないのは分かるが南雲も牛井も方向性は違えども、そう言うのにうんざりしてる口だ--例え悪しき前例と言われようが、止まる気なんて無いだろう。先の合宿がいい例だ」

 

 これに橘は唇を嚙む--それを見ながら鬼龍院は口調を和らげて言う。

 

「だけどお陰で卒業後の楽しみが出来た--南雲の仕掛けはいけ好かないし認める気はないが、一周回って大きなご褒美が出来たんだ。何が幸いするのか分からないのも世の常だ--そんなに悪い事ばかりでもあるまい」

 

 少なくとも自分は幸せになったとなんとも微妙なフォローをしてきたが、やはり素直に喜ぶ気にはなれず複雑な心境になる。

 

 ただ堀北学はその程度の誤魔化しで煙に巻ける男ではない。

 

「逆に何が災いとなるかも分からないのもな--そうなった時はお前に責任が取れるのか?」

 

 一番の当事者である牛井嬰児には取りたくても取れない立場--ならば関わった者達がどうにかするしかない。

 

 自分が生徒会長のままならそれも可能だし口出しも出来たが今は卒業間近の一生徒でしかない--不安の種を刈り取る要因はひとつでも多く欲しかった。

 

「見損なうな。自分で蒔いた種ぐらい自分で狩るさ--少なくとも今回は(・・・)お前が危惧するような事にはならないから安心しろ」

 

 鬼龍院は言い終わると用は済んだとばかりに立ち上がり去って行く姿を見て--それが言いたかったのかとひと先ずは安心感を得た。

 

 

 ***

 

 

 さて滋養強壮の定番と言えばしょうがのブレンド茶だが、一之瀬のイメージからすればハーブティも捨てがたい。

 

 約束もあるからあんまり時間を掛ける訳にはいかないが、だからと言って手を抜いていい加減な物を贈る訳にもいかん--直接一之瀬の様子を見れれば確実なんだが、まだ寝てるのか鳥を通して見た限りカーテンが締まってて確かめられない。

 

 ったく、何の因果でこんなストーカーのような真似してんだかな……。

 

 軽い自己嫌悪に浸りそうになるのを振り払い真面目に検討する--つもりだったんだが、さっきの神室の話からか薬膳酒の方にも目が行ってしまう。

 

 教師や職員もいるとは言え、仮にも学生の為のモールなんだからもっと気を払えと内心で突っ込みたくなる。

 

 と不毛な時間を過ごしそうだし、ここはやはり定番のやつにするか。

 

 俺はしょうが茶を一袋買って店を出る--橋本との約束まではまだ少し時間があるから、適当にモールを歩いて(勿論『蠍』を発動かつ人目に付かない道を)何か他に良い物が無いかを散策する。

 

 しかし流石に二月ともなれば肌寒さが来るな--夏休みの終わりに秋物のコートをプレゼントしたから、今度は暖かいマフラーや手袋でも。

 

 そんなことを考えて服屋の近くまで来たら、佐倉が一人でウインドーショッピングしてるのを見掛けた。

 

 最近はグループかそうでないなら長谷部と一緒なのに珍しい……いや、この前の事もあるしそうでもないか。

 

 なんとなく気になって見てる品物に目をやると普段使う様な物じゃなくて、祭りやイベントなんかで着るドレス--それも結構派手な物で普段の佐倉からは考えられない代物だ。

 

「おはよう。奇遇だな」

 

「うわ!?」

 

 はは、中々にいいリアクションだ--『蠍』は解いて、足音も普通にするように近づいたんだがな。

 

 それだけ夢中だったってことか。

 

「なんとも派手なのが好みなんだな」

 

「え、あ、いや……欲しいとかじゃなくて」

 

 普通なら驚かせたことに怒りそうなものだが、佐倉は逆に委縮して妙な弁明を始めて来た--そして何故かそれは本音のように聴こえた。

 

「そっか。じゃ、グラビアやってた時が懐かしくなったか?」

 

「…………!?」

 

 適当な推測だったんだが、どうやら図星だったみたいだな--もしかしてこれも俺が原因だったりするのかね?

 

 ただ今はそれも含めて触れる時じゃないかね--まずは一之瀬の方を片付けなきゃだし。

 

「佐倉が着れば勿論似合うと思うが、一之瀬が来ても絵になると思うか?」

 

「え、一之瀬さん?」

 

 かなり強引な話題変更だったが佐倉は気にすることも無く真剣に考えてくれる--ああ、本当にいい娘だね。

 

「えーと。一之瀬さんならなんでも似合いそうだから―――」

 

 と前置きしながらあまり派手であり過ぎないか、派手であってもその中に深淵を思わせる色を添えた方だとか、中々に饒舌に意見を述べて来た--この辺りは流石プロって感じだな。

 

 これが誰かじゃなくて佐倉自身に向けられたら、きっと一之瀬以上にモテモテになってるだろうな--もしこの学校にミスコンなんてのがあったなら在籍中は完全制覇してるのも間違いない。

 

 そんな妄想を抱きたくなるほどに今の佐倉は活き活きとしている--それはこの前の外でのアイドルイベントで見た娘たちと何処となく通じるものもあった。

 

 だからか、思わず余計な事を口走ってしまった……

 

「佐倉もこう言うの着てステージに立ちたいとかあるのか?」

 

「え……」

 

 活き活きとしていたのが一変に戸惑いになった--ああ、この様子だとずっと燻ぶってたんだな。

 

そしてまだ気持ちの整理がついてない--外野が口出すのはヤバかったな。

 

「……悪い、今のは忘れてくれ」

 

 無理だと分かってるがこれしか言う事がない--何せ佐倉の一生にも関わりかねない事だ。

 

 俺では責任を背負えない。

 

 再び強引にでも話題を変えたいが、そう都合よく思い付くものでもなく。お互い無言で微妙な間が開いてしまった--もういっそ適当なこと言って別れるのも有りかね?

 

「私は……今は普通の学生がしたいから…………」

 

 ただそれでも佐倉の方から話題を戻して来た--この手のなら本来なら友達、長谷部あたりに相談するのがベターだと思うが…………いや、友達だからこそ話せないってこともあるか。

 

 乗り掛かった舟だし、最後まで聞くべきか。

 

「友達も出来て、普通に授業受けて放課後に遊んで凄く大事な時間だって思ってる--波瑠加ちゃんも私を親友だって言ってれて」

 

 嬉しそうだが、その中に後ろめたさを感じさせるニュアンスがある--現在が大事なのは本当だが過去への未練がぶり返して揺れてる訳か。

 

 こうなった切っ掛けが俺のした話であるなら、俺はどうすればいいのかね?

 

 流石にこれは困ったな--同じグループである綾小路に相談するのもちょっと不味い気がするし、櫛田や軽井沢なんかだと佐倉に寄り添える気がしないしな。

 

 と今丁度いいのに会いに行こうとしてたんじゃないか。

 

「佐倉--もう少し聞いてあげたいんだが、俺これから約束があって」

 

「あ、ううん。私の方こそゴメンね--嬰児くんを困らせる気は無かったんだけど」

 

 わざとらしく時間を見て話を打ち切りに行ったが、佐倉は嫌な顔ひとつどころか逆に申し訳なさそうにして来た--かぁぁ、罪悪感が胸に来てしまうな。

 

 佐倉と別れて俺は『蠍』モードとなって寮まで戻った--時間的にも丁度よくロビーで橋本とも合流できた。

 

「じゃ、これ悪いけど頼んだ」

 

「引き受けた--で何か伝えることもあるか?」

 

「そうだな。事が落ち着いたら少し話がしたいんで、OKかどうかも訊いといてくれないか」

 

「……なぁ、やっぱり嬰児が直接渡した方が、面倒がなくていいんじゃないのか?」

 

 橋本の中で俺の一之瀬に対する気持ちがかなり固定されたようだ--そう言う意味じゃないと説明するのが妥当なんだが、実を言うならちょっと狙ってたりもした。

 

 ただこのままストレートに〝そうか〟と肯定するのも不自然だから。

 

「今じゃなきゃ、そもそも頼んでないって」

 

「いや、そもそもって言うなら嬰児が蒔いた種だろ--思わせぶりな事してないで〝あの二人〟みたいに堂々としてた方がスッキリと収まるとだろ」

 

「いや~、あそこまでのはちょっと……」

 

 と言うか、あそこまでになった切っ掛けも実は俺だから突きつけられるとちょっと困るな。

 で、この事を当然橋本は知らないから他意も無く更に続けて来た。

 

「俺も別にそこまでイチャイチャしろとは言ってない--ただ態度をハッキリさせるのがベストだと思うってだけだ」

 

 橋本はひと呼吸おいて改まったと様に言う。

 

「嬰児は適当にはぐらかして(てい)よくキープするなんてタイプじゃないだろ--例え実らなくてもスパッとさせた方がいいんじゃないか?」

 

「意外だな。そんな説教じみた事言うとは--他人の事だし正直あまり干渉しない奴だと思ってたが」

 

「相手がそう望んでるならそうするが、嬰児のこういうハッキリ言う様なのが好みだろ--だからそれに合わせて見たつもりなんだが」

 

 説教に見せかけた俺へのアピールか--如才ないと褒めておくべきか、八方美人はしっぺ返しを食らうぞと皮肉でも返してやるべきか。

 

 それとも俺がどう返すかを試してたりもするのかね?

 

「ちなみに気に食わなかったなら切ってくれて構わない--俺だって同じだからな、お前の方は裏切っちゃダメとかはフェアじゃない」

 

「とことん腹を見せて来るか--本当に相手をよく見てるな」

 

「そりゃどうも」

 

 素直な賞賛に満更じゃない笑みを見せて来た--かなりポイントを稼げたと思ってるならそろそろ潮時かね。

 

「なら今回はお前に乗せられておこう--その代わり失敗したら愚痴には付き合って貰うからな」

 

「おう。朝までだろうととことん付き合ってやるぜ」

 

「!?」

 

 快諾して行って来いと言わんばかりに背中を叩かれた--他愛無い遣り取りつもりだろうが危うく『午』モードになるところだった。

 

 こう言うのも気を付けないとな。

 

 

 

 ***

 

 

 休日の土曜日--すっかり日も登り切った時間に一之瀬帆波は目を覚ます。

 

 ただその目はまだ眠そうであり、質の悪い睡眠だったのが一目瞭然であった--そんな不調な思考の中、

 

(ああ、寝過ごしたぁ~)

 

 と間の抜けた感想を抱き、のそのそと立ち上がって部屋のカーテンと窓を開ける。

 

 陽光が差し込み新鮮な空気が入って来るも一之瀬の気持ちは大して晴れず、胡乱な目のまま何気なく部屋のドアを見る。

 

(やっぱり今日明日も来るのかな?)

 

 バレンタインまであと二日--嬰児からの豪華返礼を目当てに一之瀬と一緒にと言う輩は後を絶たず、また唐突に一之瀬の心の傷(かこ)を思い出してしまったのも相俟って気分は下がっていく一方だった。

 

「はぁ~」

 

 憂鬱な溜息を付く姿は嫌な思考を振り払おうなどと言う気力が全く感じられず、そうかと言って誰かに愚痴を聞いて貰おうとも普段は聞く側であり、また進んで話したくない内容こそが一番である為に一人で抱え込むしかないと言う悪循環に陥り、一之瀬の精神状態は良くなる要素がひとつも無かった。

 

 ならばせめてもう少しゆっくりしたいとベッドを見て二度寝をと思ったが、状況は一之瀬の都合に合わせてくれずインターンの音がして、下がった気分に追い打ちをかけた。

 

(う~……寝てるふりでもしてやり過ごそうかな)

 

 実際に寝るつもりだったしと普段とはらしくもない思考が浮かんで来る--ただ身についている習慣とも言えるものは、その程度でどうにかなるものでは無く再度溜息を付いて来客を確認する。

 

「は~い。どちら様ですか?」

 

 新たな見知らぬ女子か、再び顔見知りの女子かと詰まらない予想をしながら出た先に居たのはもっともありえないと思っていた顔だった。

 

『凄い声だな--機械越しでも不調が伝わって来るぞ』

 

「…………よく私の所に顔を出せたね」

 

 寝起きじゃなくても今一番見たくなかった顔--牛井嬰児の姿に一気に眠気が吹き飛んで脳が冴え渡った。

 

 途轍もなく後ろ向きな方向に。

 

 対して嬰児は何も思うところなど無いと言わんばかりの顔(少なくとも一之瀬にはそう見える)で普通に言う。

 

『元気が出る物、持って来たんだが入れてくれんか』

 

「あのさ……余計に不調になりそうだから出直してくれない」

 

 流石に一之瀬の声にも棘があり、言外に〝邪魔だから帰れ〟と含みを持って追い返そうとする。

 

 しかし嬰児の様子は全く変わらない--それがまた苛立ちを募らせる。

 

「…………ホントに今入って来られたらどうなるかなんて想像出来るでしょ。何のつもりにせよ月曜日(・・・)が過ぎてからにして」

 

 それでも何とか抑え込んで出来る限りなだらかな言い方で断る--正直な所ここまでが一之瀬帆波の我慢の限界だった。

 

 されどその誠意はあっさりと無に帰した。

 

「なら嫌ってくれても構わんから準備が出来たら入れてくれ--それまでは待ってるから」

 

「……だからぁ」

 

 帰れと言ってる--そんな事は分かり切っていると嬰児の顔には書いており、これ以上の問答は無駄どころかより一層に状況を悪くすると不本意ながら悟らされた。

 

 絶対にわざとだ--根拠はない直感であったが、一之瀬はそうとしか思えず怒鳴りたくなる気分にもなったが、どうにか自制して嫌々をたっぷりと込めたニュアンスで短く言った。

 

「五分待って」

 

 通話を切って重い足取りで顔を洗おうと洗面所に向かい鏡を見た瞬間。

 

「!!?」

 

 余りにもひどい顔をしている自分に思わず息を飲んだ。

 

(やっぱり帰って貰えばよかった……いや、今からでも遅くないかな)

 

 他人には見せたくないと女だてらに拒絶の意志が浮かんだ--ただこれが牛井嬰児であるならと思い直して、

 

(この際だから文句言ってやろうかな)

 

 とあらゆる意味でのストレスの元凶と対峙する道を選んだのだった。

 

 

 

 ***

 

 

 絶対に嫌か感情を向けて来るな--そんな確信を抱きながら俺は一之瀬の部屋の前に立ち再度インターンを押す。

 

 すると今度は直ぐにドアが開き、目にクマのある一之瀬が顔を出した--誰が見ても調子が悪いのが分かる有様で、

 

「いらっしゃ~い」

 

 いつもでは考えられない暗い声で中に招かれた。

 

 予想はしていたが、こりゃより気を引きしめて行かないとだな--下手したらサンドバックになってしまっても可笑しく無さそうだし。

 

 そして予想外なのは精神面だけでなく肉体的にも不調が見られた点だ--病は気からとも言うが、早めに対処しないと本当に寝込むことになりそうだな。

 

「来て早々だが台所借りるぞ--今のお前には打ってつけのお茶買って来たから、飲めば楽になるぞ」

 

「用意がいいね--でもどうせなら騒ぎを起こさないでくれるのが一番有難かったんだけど」

 

 流石に嫌味が剥き出しだな--素直に謝るのが妥当だが、それだと直ぐにまたストレスを飲み込んでしまいそうだ。

 

 それでは意味がない。

 

「一之瀬も〝あの方々〟と同じことを言うか」

 

「ちょっと私の前で被害者面しないでよ!こっちはとばっちり喰らった身なんだから!!」

 

「調子が狂う、愚痴を言いたのは私の方だってか--中々珍しい姿が拝めただけでもやった甲斐はあったかも知れんな」

 

「ああ、そう。そんなに見たいなら、これからたっぷりと見せてあげてもいいけど」

 

 こりゃ相当来てるな--まず愚痴を聞いてからと思ってたが、そうすると日が暮れて来そうだ。

 

 まぁ、俺的にはそれでもいいけど。

 

 一之瀬の方は望んでは無さそうだ--何しに来たのか?無言のまま、そう目が問いかけている。

 

「ゆっくり話したいから、まずはお茶だ」

 

「……………‥」

 

 じれったいと一之瀬の意に沿わないと非難の色も目に宿ったが、どちらにしても今の状態は頂けない--気休め程度だが、効能は合ってるし沸かしたお茶を淹れて差し出すと表情を変えずにゆっくりと口を付けた。

 

「ああ、温まるなぁ」

 

 これ以上ない棒読み感想で、心はひとつも楽にならないと言ってる--もう分かったから。

 

「適度に飲んでれば少しは楽になる--それで本題だが、ずっと約束してた『平和主義者』 の話を片付けてしまおうかなと思ってな」

 

「今、このタイミングで?」

 

 もっと空気を読めと普通なら受け取るだろうが、一之瀬は何か意味があっての事かと深読みを始めて来た--薬効の効き目が出るのは早いからプラシーボ効果だな。なんだかんだ素直に人の話を聞く娘だ。

 

「そうだ。やっぱり彼女とお前は違うって確信したからな--おそらく俺の方から接触するのも、もうそうは無いだろう」

 

「うわっ。バレンタインの前に私振られちゃうわけか--残酷なことするね。もっともチョコあげるつもりは無かったんだけど」

 

 本音なのか強がりなのかはどうでもいいが、俺にペースを任せるつもりにはなったか、しっかりと聴く態度になった。

 

 だからこそ茶化したり無駄な前置きなく本題を切り出す。

 

「彼女は地上最強とも言える戦闘能力を有した戦士だった--だがそれを人を傷つける為に使ったことはなかった。戦う者でありながら戦いを止めるなんて矛盾した信念を持って314の戦争と229の内乱を和解に導いた--言葉の力で世界を変えるって方法貫き和平交渉を粘り強く続けてな」

 

「へぇ。憧れちゃうなぁ、正に絵に描いたような理想の解決方法だ」

 

「今のは成功した結果だけ、実際には同じくらい……いや、それ以上に救えなかった命がある。

 国が滅ぶのも謂われなき虐殺、正義の蛮行--人間狩り、奴隷制度、非人道兵器、仲間割れ、姥捨て、親殺し、文化の弾圧、資源の枯渇、差別と偏見、復讐と虐殺--見て見て見て見て見て見て見て―――――――」

 

「ちょ、ちょっとまってよ!?どんだけスケールの大きな話してるの!!?」

 

「なんだよ。知りたいんじゃなかったのか?」

 

「そりゃ、そう言ったけど…………」

 

 余りにも悍ましい事実に心の準備が出来てなかったってか--そうだよな、何処まで行っても普通(・・)の女子高生だもんな。

 

 だが知ったこっちゃない。

 

 それも含めてこそ『申』は英雄なんだから--華々しい成果だけなんて都合のいい部分だけを知って分かった気になられるのは絶対にイヤだ。

 

「聞く気が失せたんなら、とっととまとめるぞ--アイツはどれだけ酷い目に遭おうが過酷な現実を見ようが綺麗事を言うのを捨てようと思ったことは一度もなかった。みんなと仲良くなりたい、幸せになりたいってな」

 

「にゃはは……正に本物の聖人って訳だ。確かに私なんかとは全然違うね--私はそんなに強くなんて無いし、なれるとも思わない」

 

「う~ん。強いのもそうだが、プラスしていい意味で(したた)かとも言えるな--結果を、平和を求めるなら手を汚すことだって躊躇するようなのでも無いしな」

 

「ふ~ん」

 

 一之瀬の目に暗い輝きが宿った--意図して誘導して見せた訳だが、どうやら乗るようだ。気付いた上でかは分からないけど。

 

「嬰児くん。その聖人さんは嫌な現実を見て、見て、見続けてそれでも綺麗事を言うんだよね?」

 

「そうだ」

 

「じゃ、忖度しないで忌憚のなく答えて欲しい--取り返しの付かない過去とどう折り合いを付けてたの?」

 

「折り合いなんてものは付けない。一生悩む」

 

「考える素振りも無く即答かぁ……ホントに大好きなんだね」

 

 俺じゃなくて『亥』がな--戦士側で結局最後に死んだのは彼女なだけに影響が強く残ってるのかね。

 

 一番心の底に在った思いが。

 

 と思わず感傷に浸ってしまったが、それは一之瀬も同様で黙り込み暗い雰囲気を醸し出してる……忌憚のないって注文だったが、やはりもう少し配慮のある言い方にすべきだったか。

 

 ちょいと反省すべきか迷うが、なんにしても謝るのも違う気がするし……さてなんて声を掛けるべきか?

 

 

 時間にして数分かと思うが豪く長く感じる沈黙が続き、一之瀬は再度お茶に口を付けた--そして一服し終えると、

 

「ぷはぁ」

 

 なんだか色っぽい息を付いた--正直この一瞬は『申』じゃなくて『亥』に通じるものがあると思ってしまった。

 

「あ~、今エロイこと考えてたりした?」

 

「いや、エロイ人に通じるなと思ってた」

 

「…………私ってそんなに魅力ない?」

 

「この学校でも一、二を争う美少女だと思うぞ--その手のコンテストがあれば間違いなく優勝候補筆頭だな」

 

「へぇ~、つまり嬰児くん的には私よりも可愛い娘が居るって言いたい訳だ」

 

 スゲェ不満だってニュアンスだな--ただハズレって訳でも無いがね。

 

「単純な容姿だけを見れば俺のクラスに居る佐倉も引けを取らないと思うぞ--何よりその手の見せ方についてならプロだしな」

 

「グラビアアイドルやってる娘だよね--嬰児くん、ミーハーなの?」

 

「だとしてどうだと」

 

「ちょっと開き直らな――――って、なんでこんな話してんだっけ?」

 

「一之瀬が色っぽい息を出すからだろ」

 

「にゃ~。私の所為だと?」

 

 おいおい、今度はぶりっ子か--可愛らしく頬を膨らませて。

 

「だって忌憚なくって注文だったじゃないか」

 

「それはさっきの話でしょ!って訳でも無いか、嬰児くんが好きな人の話してたんだもんね」

 

 それはそれで大筋から逸れてるぞ--と指摘するのは流れ的に駄目そうだし、さっきいいネタも手に入ったし。

 

「恋だの愛だとじゃないけどな--佐倉も仕事復帰したいみたいで場合によっては良いものが見れるかもだし」

 

「え、なにそれ?」

 

 ミーハーなのはそっちもじゃないか、下世話な好奇心が透けて見えるぞ。

 

「こないだ外で佐倉の知り合いと会ってな--その話をしたら仕事への熱がぶり返したみたいだ」

 

「そうなんだぁ。へぇ~」

 

「と言ってもまだ迷いの中だけどな--今の幸せと過去に打ち込んで来た事とで揺れてる」

 

「今と過去か--嬰児くんは過去を取って欲しいの?」

 

「舞台に立つ佐倉も観て見たいってのはあるな--それを本当にやりたいって言うなら応援もしたい」

 

「あー、要するに嬰児くんって佐倉さんじゃなくて--えっと、雫ちゃんのファンな訳だ」

 

 納得と言えばいいのか微妙だが一之瀬の顔色は安定した--かと思いきや直ぐ様に重い表情になりおって。

 

 漸くとここに来た本題に入れるかね。

 

「やっぱり私なんか大したことないよ--なんで皆こんなのにチヤホヤしたりするだろ?」

 

 何の自慢だと突っ込みたくなるが、そう言う前振りじゃない--益々重くなっていく雰囲気が察してくれと無言で訴えて来る。

 

「一之瀬も過去に悩んでる口か?」

 

「佐倉さんとは全く正反対だけどね--私、中学の時に万引きしたんだ」

 

「サラッと豪いことをカミングアウトするな。もっと言い淀んでくると思ってたんだが」

 

「この学校でこの話をするのは二度目だし、何より嬰児くんももう知ってるんじゃないの?」

 

「何故そう思う?」

 

「なんとなくだよ……こればっかりは本当に…………私の心が言うんだ--ああ、もう全部知られてるんだって、この話をする為に来たんだって」

 

 もう既に諦めた--今度はそんな顔になった…………全くコロコロと変わって忙しい奴だ。

 

 他人が居ない一対一の状況で気が緩んでるのかね--それでなくとも自分の部屋だしね。

 

 いや、そんな些事で自分の恥を晒す奴じゃない--ずっと誰かに聞いて欲しかったのか、それとも罰してくれる誰かを欲していたのか。

 

 それに俺が選ばれたか--これでも一応は公共に属してる身だし。

 

 いいや、これも違うな。

 

 俺がそうしろって言う風に仕向けたように感じたんだな--見えない力が後ろにあるって脅し文句を引っ提げて自分を罰しに来たと。

 それも間違ってる訳じゃないから、何も言い訳出来ないけど--寧ろ言い訳を得て、ずっと溜め込んでたものを吐き出そうとしてるんだから、もうひと押ししてやるか。

 

「ならばぶっちゃけるが、俺が知った手段は職権乱用や守秘義務違反に近い物だから訴えるって言うならそうしてくれていい--俺も一緒に地獄でも何処でも付き合ってやる」

 

「にゃははは--もうアリバイ作りは済んでるんでしょ。態々、身を危険に置くなんて今度は櫛田さんや軽井沢さんに怨まれちゃうよ」

 

 もう完全に目が覚めて脳にも血が巡ってるな--いつもの一之瀬らしく大凡を見通したか。ならば結構な事だ--その方がとっとと話が進んで楽だ。無駄に勿体ぶった前置きをしながらグダグダとするのは性に合わん。

 

 俺は無言で待つ姿勢を取ると一之瀬は悟ったように僅かに残ったお茶を飲み干して語り始めた。

 

 

 

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