どうしても叶えたい願いの為にその気になる綾小路と、別にどうでもいい願いでなんとなくいるオリ主   作:a0o

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イレギュラーな試験。

 

 

 

 ふぅ。

 

 周りに誰も居ない--俗に言うボッチ状態なのはどれ位振りかな?

 

 特例が出されてから、あちこちから監視されて満足に羽を伸ばせなかった--今は俺とは関わりたくないって思ってるのか逆に積極的に避けられてる。

 

 お陰で久しぶりに警戒を下げて『天の抑留』を使えた--しかし冬の空は寒い『鐙』も併用して冷気が当たるのは皮膚だけにしないと。

 

 ああ、静かだ。

 

 人はおろか鳥すらも気にしないで済むまで高くに来た甲斐はあった--何も気にしないで、ただ風に当たってられる。

 

 そして考えることに没頭できる。

 

 今回の試験が通った--問題はそれに俺自身が介入の余地が有るか無いかだ。

 

 もし俺の意志など関係なく話が進んでいくようなら……。

 

 最悪を想定して置く必要も出て来るか。

 

 あ、もう考えることが終わった。

 

 仕方ない、後は成り行きに任せるしかないか。

 

 

 ***

 

 二月十四日(バレンタイン)の翌日に仮テスト、そして月末に学年末試験を終えて三月に入った。

 

 赤点を取れば退学である結果発表の月曜日。貼りだされた結果は退学者無し--本来なら喜ぶべき、そうでなくとも山場をひとつ超えて安堵する筈が一人の例外も無く表情は重かった。

 

 それを見渡した茶柱は同じく重苦しい口調で淡々と語った。

 

「安い言葉だがよくやったと褒めて置こう--例年では筆記試験の後の三月八日に最後の特別試験があるのだが、知っての通りお前たち一年には〝特例〟として明日からもうひとつ特別試験が追加される」

 

 教室中の意識が嬰児に向いた--当人の顔色に一切の変化はなく、素なのかポーカーフェイスなのか、どちらにしても不快さを感じさせた。

 

「特別試験の内容は前日に説明する--はっきり言ってかなりの負担になるが、健闘を祈る(・・)

 

 茶柱の含みを持たせた言い方にこの件の元凶への皮肉が込められており、教師陣にも今回の特例は不本意であることが窺えた。

 

 今年度は今日まで退学者が一人も居らず最終試験まで来れた--これはクラスに関係なく生徒も教師も喜ばしい事であり、上手く行けば文字通りの意味で全員が二年に進級する可能性もあった。

 

 学校創設以来の快挙とも言える結果を期待値は寧ろ教師の方が遥かに上であった--にも拘らず余計な試験を増やしてその期待を潰されかねない〝特例〟には腹が立たない方がおかしい。

 

 たったひとつの投稿で学校中を敵に回してしまったと言っても過言ではない状況だが、それでも嬰児は微動だにしない--その様子からは何を考えているのかは窺い知れず、内心では怯えているのか、それとも戦うべき相手が巨大な事に歓喜しているのか。

 

 どちらにしても不本意な試験を只受けさせられるのは気に入らないので、堀北が手を上げて質問した。

 

「先生、特例の試験と言うからには成功報酬の様な物はあるのでしょうか?」

 

「ああ、あるぞ」

 

 即答した茶柱に注目が集まる。

 

「特例と言うこともあり、今回の試験は新制度である『プロテクトポイント』と呼ばれるものが与えられることになる--これは退学措置となった際に無効化できる権利だ。テストで赤点を取ったとしてもポイント分無効にすることも出来る。ただし他人への譲渡は出来ない」

 

 この説明にクラスが騒然となった--今までは嬰児のみに許されていた特例的措置の恩恵、それ以上のものを得られるチャンスに歓喜している。

 

 ただそんな旨みだけの話などある筈はないと冷静に受け止める者も居り、再び堀北が質問する。

 

「先生、逆に失敗と見なされる結果となった場合のペナルティはやはり退学でしょうか?」

 

「その通りだ。そこは通常の試験と変わらない……と言いたいところだが、今回の試験では四クラスの内の三つから一人ずつ退学者が出ることになる」

 

「それはつまり成功すれば全クラスに恩恵が、失敗すれば三クラスに損失--そしてひとつのクラスだけが実質ノーダメージで最終試験に臨めると言う事ですか?」

 

「悪いが詳しい内容に関してはノーコメントだ」

 

「ではこの前提で話を進めても問題はないですか?」

 

「好きにしろ」

 

 堀北の問いに否定も肯定もしないが、その表情から決してかけ離れたものでは無いと思わされる。

 

 成功と失敗--どちらになったとしても利益を得られる。

 

 これにはクラス内で心揺れる--成功して退学を回避できる権利を得たいのは当然として、それが他のクラスにも齎されるなら他クラスに損失を与えて有利な条件で最終試験に臨んだ方がいいのではないか。

 

 そんな議論がこの後に待っている--と思われていたが、

 

「先生。報酬、プロテクトポイントを得られるのはクラスの中の何人ですか?」

 

 平田が声を大きくしての質問--全クラスに退学回避が行き渡ることを望んでいる内容に多くが〝平田らしい〟と納得しつつ、その内容もまた気になるところなので新たな緊張が走る。

 

「各クラスに一人だけだ。選出方法も試験前日に説明するから、これ以上は答えられない」

 

「全てが急ですね」

 

「決断とは常に突然しなければならないものだ。その中でお前たちがどう選択するかを試す--この試験の意図はそう言うものだ」

 

 淡々とした事務的な説明--内容は尤もらしいが、やはり教師陣も納得していない。

 

 そんなニュアンスだ。

 

 話を終えた茶柱が教室を出て直ぐに平田が率先して前に出て教壇に立った。

 

「みんな。急な話で戸惑ってるだろうけど、先生の言う通り決断は突然だ--考えても仕方ないことよりも重要な事をまず決めたい」

 

 いつも以上に活き活きとした発音に自然と耳が傾けられた--それぞれの内心は別にして。

 

「僕は試験方針としては当然、成功を目指すべきだと思う--Ⅾクラスのみの一人勝ちを狙ったところで、後で三クラスからの報復を受けるリスクを思えばベストだと考えてる」

 

「妥当だな。ただ安易とも言える--予期せぬ事態を前向きに捉えるのは良いが、そんな消極的な姿勢じゃ大損喰らう可能性も高いぞ」

 

 幸村が真っ向から異を唱えた。

 

「龍園は言うまでも無く、坂柳や今回に関しては一之瀬にしたって一人勝ちを狙って来ても何も不思議じゃない--成功を持ちかけて土壇場で裏切るなんて、この学校のセオリーから考えても十二分にあり得るだろ」

 

 噛み砕いた説明に納得が広がり、Ⅾクラスも攻撃的に行った方がいいのではないかとの思いが広がっていく。

 

 ただそれでも平田は意見を曲げる気は無いようだ。

 

「尤もな意見だと思うよ。だから僕はその可能性に関しての提案として、Ⅾクラスから退学者が出た場合は僕自身がなることを誓うよ」

 

「な!?」

 

 自分の退学を賭ける--平田の捨て身とも言える発言に今度は驚きが広がった。

 

「駄目だよ、そんなの!」

 

 これに真っ先に王が勢いよく立ち上がり反対した。

 

「そうだよ。平田くんが居なくなっちゃったら、このクラス纏まらないじゃない」

「単純に先々を考えれば戦力ダウンだし」

「って言うか、そう言うは事の発端となった人が言うべきことなんじゃないの?」

 

 女子たちが続いていき、矛先は嬰児に向かう--これにはバレンタインで振り回された恨みも含まれてるのか擁護に回る声は上がらない。

 

 櫛田や軽井沢、綾小路にしても無言のままの態度にどうするべきか決めかねてる--勿論、これで本当に退学しなければと持っていかれれば止めるつもりだが、現状は提案のひとつでしかなく無理に反対を示せば返って拗れかねない。

 

 何より嬰児自身がこの特別試験(たたかい)を望んでいるとしたら?

 

 そんな疑念もあり様子見に徹するしか選択肢がなかった。

 

「……その辺りにしておきましょう」

 

 そんな中で堀北が止めに入った--それは切実さを込めた声であり、このまま進むのを良しに出来ないと言う含みを感じさせる。

 

「試験の形式もペナルティがどう適応されるかも分からないのよ--ここで話してても意味はないわ」

 

 ただそんな感情論だけでは収まる状況でもないので論理的な説明を加えて収拾を図った。

 

「分かってるよ。ここで決められるのは方針だけ--ただ駄目だった時にクラス内で決めなきゃいけないなら立候補するってだけだよ」

 

 しかし平田は折れる気は無く、あくまでも成功--全クラスの恩恵を目的にした方針に持って行きたいと固い決意を示す。

 

 これには平田の退学を望んでいない者、もしもの場合に自分が退学になる心配が減ったと安堵する者とで分かれ、その空気を察した堀北は内心で冷や汗が流れた。

 

(絶対に成功じゃなきゃ、と言いたいけど)

 

 微妙になりつつある空気を払拭すべきと頭では分かってはいても安易な事を言うべきでないと冷静な意見がそれを留める。

 

 そんな蟠りを残しつつ、この日のホームルームは終了した。

 

 

 ***

 

 

 ああ、なんだか学校中を敵に回した気分だな。

 

 特に一年に関しては奇異な目で見られることはあっても、ここまで避けられるとはな。

 

 客観的に見れば好き放題にやり過ぎたんだから、全ては自分で蒔いた種だけど--問題はそれがどんな実となり花を咲かせるかだな。

 

 場合によっては最悪を想定しとかなきゃとか……それはそれで楽しそうだ。

 

「……嬰児くん」

 

 背後から恐る恐るとした櫛田の声--振り返るのは止めた方が良さそうだ。

 

「なんだ」

 

「あの……もしさ、もしもだけど……いや、もうその〝もしも〟が起きたらさ、少しだけ待って貰えないかな?」

 

「俺の隣に立つんじゃなかったのか?」

 

「いや、その為にさ、嬰児くんの為になるように努力するから自棄だけは起こさないで欲しいなぁ」

 

 言いながら声が萎んでいく--よっぽど怖いのを我慢してるんだな。

 

「悪いが先の事がどうなるかなんて分からない--ましてや俺の事を決めるのは俺じゃないからな」

 

「だからさ!私は嬰児くんの味方になるから……その…………」

 

「あ!ちょっと、櫛田さん何やってんの!?」

 

「丁度よかった、軽井沢さん!」

 

「え?」

 

 振り返らなくても軽井沢の顔が困惑してるのが分かるな。

 

「軽井沢さんもさ、嬰児くんがこれ以上困った事になったら味方してくれるしさ。それに綾小路くんだって居るし、きっと悪い結果にはならないと思うから--ね、軽井沢さんも嬰児くんの味方だよね」

 

「え、そりゃ、まぁ……」

 

 櫛田は努めて明るく言ってるが、余りの必死さに軽井沢は訳が分からないか--可愛い女の子二人に慕われて、これも客観的に見れば嫉妬を買いそうな場面だな。

 

「気持ちはありがたいが――――」

 

「だから絶対に自棄になっちゃ駄目だよ!約束だよ!!」

 

「ちょ、落ち着いて……なんだか変だよ、櫛田さん」

 

 いや、ヒステリーな展開にドン引きでもされそうだな--振り返れば軽井沢が慌てて櫛田を抑えてるのが見れそうだが余計に悪化しかねないから、このままで言うか。

 

「恐らくだが、今回の試験で俺が出来ることは何もない--どうなるかはお前たち次第かも知れないから――――」

 

「分かった!全力でいい結果にするから、だから安心して!!」

 

「も、もう行こ!ごめんね、嬰児くん。じゃ」

 

 強引に軽井沢が櫛田を引っ張って行く--振り返ることなく『地の善導』で確認してやっと振り向いてみたら、まだ俺の方を見て必死に何かを訴える顔をしてた。

 

 さっきも言ったが俺の出番があるかどうかは分からない--お前たちと俺の望む展開は恐らく一緒だと思うが、他はどうなのか?

 

 そしてそっちが多数ならお前たちはどうする?

 

 どちらにしても暫らくは沈黙だな。

 

 

 

 ***

 

 

 特別試験を明日に控え、各クラスの教室では緊迫した空気に包まれていた。

 

 特に発端である牛井嬰児の居るⅮクラスは群を抜いており、無表情で無言のままである当事者の様はある意味で苛立ちすら感じさせられた。

 

 何人かは余計な試験を増やしたことへの文句を言ってやろうかと思ったが、一定の緊張感が漂う中で行動に移すには、それなりの気力が要り結局は誰もがただ静かに待つしかなかった。

 

 しかし今日はそれだけでも長い時間を感じさせ、普通ではありえない緊張感も相俟って既に疲れの色が顔に出ている者も居る。

 

 普段なら池辺りが早く茶柱が来るのを望むような軽口を叩くが、それもなく只管に長い数分間の中で誰もが担任が来るのを切望していた。

 

 そしてホームルームが始まる時間直前になり扉が開き、茶柱佐枝が入って来た--漸くの登場に何人かは気が抜けかけたが、茶柱の表情はそれをさせるものでなく、再び新たな緊張感が走った。

 

 茶柱もクラスの緊迫した空気を当然のものとして、自身も既に引き締まった気を前面に出して口を開く。

 

「ではこれより追加試験の内容を説明する--凝った名称は無いので、追加試験として呼ぶ」

 

 前置きを終え、ルール説明が開始される。

 

「今試験は三つの選択肢をクラス単位で選んで貰う--四クラス一致の場合は、何もなくその選択肢通りのものが与えられる。

 しかし、三対一、二対二、二対一対一の結果となった場合は被ったクラスによる入札による結果でどれかひとつに決める」

 

「先生、被らなかったクラスは?」

 

「選択肢の実行なく一名の退学者をクラス内から出すことになる--それは入札で負けたクラスも同様だ」

 

「つまり全会一致以外は各クラスで損失が生じると?」

 

「そう言うことだ--ちなみに棄権と言う選択肢はない、三つの内ひとつは必ず選んで貰う。クラスで意見が纏まらなかった場合は、その場でのクジでもなんでもしてな」

 

 茶柱の目は分かり易く確実に嬰児を向いた--それを感じ取ったクラスを思ってか、櫛田と軽井沢が同時に手を挙げた。

 

「質問か。悪いが一人ずつにしろ」

 

 茶柱は指名せずにどちらが先にするかを促す--それにどっちも譲る気は無く、無言で手を降ろせと威圧し中々に話が進まなくなる。

 

 それでも互いに譲る気配はなく、いい加減に痺れを切らした堀北が声を上げた。

 

「申し訳ないけど私の方を優先させて貰います--入札と言うからには何かしらの対価が必要と言う事ですよね、それは一体?」

 

 強引に割り込んで来た展開に櫛田と軽井沢が一瞬睨みつけたが、内容はまともなものである為にその場は引き下がった。

 

 それを見ながら小さく溜息を付いた茶柱は、やれやれと言う感じで話を進める。

 

「クラスポイントだ--ちなみに上限はないから、全て使い果たしても問題ない」

 

「つまりそれだけメリットのある選択肢が用意されていると?」

 

 堀北もまた間髪入れずに核心を突いた質問を続け、無意味な介入が入る隙を潰した--リーダーとして上手く場をコントロールしている。

 

 茶柱は少し気を良くするも直ぐにまた重い雰囲気を醸し出して口を開く。

 

「それは今から説明する」

 

 いよいよ本題である部分、茶柱の態度と先程までの展開も相俟って緊張感がひとつ上がった。

 

 そして提示される三つの選択肢―――

 

 1.選択したクラスに一名分のプロテクトポイントを与える。

 2.牛井嬰児の〝全ての特例〟を破棄し、選択したクラスの生徒一人につき、5000prポイントを与える。

 3.退学時に牛井嬰児を道連れにする権利を選択したクラス全員に与える。

 

「え、これって……」

 

 誰かが間抜けな声を出したが、それはクラス全員の心証でもあった--そして一人の例外も無く牛井嬰児に目を向けるが、当人は何の変化も無く何かをする気配もない。

 

 客観的に見れば3の選択肢に関して抗議があって然りだが、嬰児は受け入れてると見て取れる--これに櫛田は冷や汗を流して顔を真っ青にする。

 

「ちょ、ちょっと櫛田さん、凄い汗だけど大丈夫?」

 

「………………」

 

 王が気に掛けて声を掛けたが櫛田は声も出せない様子で、見ていた大半は〝なんで櫛田が焦る?〟と半ば呆れた。

 

 ただ一人、櫛田の気持ちがよく分かる綾小路は同情しつつも冷静に状況を把握する。

 

(つまりは試験の体裁を取り、嬰児の処遇をオレ達で決めろか)

 

 1は今まで通り、2は嬰児を普通の生徒に、3は嬰児を退学させる選択肢を提供--但し、最低でも生徒一人の退学を代償に。

 

(オレとしては3の選択肢は論外だとして、2も捨てがたい気もするが……なんだろうな、この心に引っ掛かるものは?)

 

 嬰児の特例が破棄させることは、即ちこれから先は外部からの干渉はしないと言う事--異能を用いることも含めて存分に力を発揮できることの容認は、綾小路の目的達成を格段に楽にする。

 

 既にクラスのリーダーは堀北で固まっているが、それもまた綾小路をして都合のいい状況でもある。

 

(いくら自由を容認されても異能が知れ渡るのは駄目な筈、上手く間に入って調整すれば)

 

 卒業までには全ての異能を把握し、綾小路清隆と組むことが最大の利益になると認識させることも可能--尤もこれも都合のいい妄想であり、綾小路自身もそこまで上手く行くとは思ってはいない。

 

 ただそれを差し引いても牛井嬰児の我慢の枷が外れることのメリットは計り知れない--その筈なのだが、心の奥で躊躇するものがあり気が進まない。

 

(何か悪い予感とも違う--久しぶりに訳の分からない気持ちが渦巻いてる)

 

 自分の心を整理するのに集中したいが今は説明の途中であり、この後の展開を考えるとそれは叶わない。

 

「先生。今日一日の猶予があると言う事は、他のクラスとの話し合いも?」

 

「当然有りだ--その場で約束を交わそうが、その約束が破られようが学校は一切関知しない。クラス、生徒間同士の約束事がどんな内容だろうとな」

 

「あくまで学校側は試験結果によるペナルティのみを実行するだけってことですね」

 

「そうだ、退学者に関してはそうなってからの説明になる。1の選択肢による恩恵は改めてクラス内での総意で決めて貰う」

 

 茶柱は説明を終えて教室を出る--それと同時に室内はざわつき始めた。

 

「……あー、流石に調子に乗り過ぎたってことか?」

「いや、それなら回りくど過ぎるだろ--普通に停学とか退学にした方が―――」

「何言ってんだよ--そんな簡単に出来ないから、今まで特例が付けられてたんだろうが」

「いや、だから、なんなんだよ--その簡単に出来ない理由って?」

「知る訳ねぇだろ」

 

 話題の中心は必然的に嬰児に向かうが、当人は無言のまま一切を語るつもりは無いと態度で示している--それとも語ることを許されていないのか、いずれにせよ面倒な立場が今まで以上に浮き彫りになった状況であった。

 

「皆、一度冷静になろう」

 

 ざわついているクラスの中で平田が立ち上がり教壇に立つ、その様子は心なしか嬉しそうであった。

 

「この試験……と呼んでいいのかも分からないけど、兎に角もう始まってしまったものはどうしようもない。だからここからは先の事をどうするのかを話し合うのが建設的だよ」

 

「正論ね。分からないことに仮説を並べてても仕方ないわ--それよりもクラスにとって何がメリットになるかに焦点を絞るべきね」

 

 堀北も続くように発言した--Ⅾクラスのリーダーと補佐役とも言える二人が場を纏めた矢先、

 

「となると一番のデメリットである3の選択肢は論外だな」

「そうだよ!絶対にそれだけは駄目だよ!!」

 

 綾小路と櫛田が間髪入れずに意見を発した。

 

「ま、まぁ僕も同感だけど……それも含めて今から話そうってことだし、もうちょっと落ち着こう、特に櫛田さん」

 

「そうよ。かなりクールダウンしなきゃ、話が進まないわ」

 

 窘めるように言う平田と堀北にクラスも同意だと思ったが、それでも櫛田の冷や汗は止まらず嬰児をチラホラと見ながら落ち着きを取り戻す様子はない--これに下手に刺激しない方がいいと判断した堀北は溜息を付いて話し合いを始めることにした。

 

「それじゃ、まず私の意見を述べさせて貰うけど。私は2の選択肢が一番良いと思うわ」

 

「あたしも賛成!」

 

 堀北の意見に真っ先に軽井沢が手を上げて賛同した。その目には大きな期待感が込められており、その意味はとても分かり易い。

 

 堀北は自分の意図が瞬く間に広がっていくことに気を良くし隣に立つ平田に目を向ける--そしてこれには当然平田も賛成を表明し、そこから先のクラスの展望を皆で話し合って行くと多くが思ったが、

 

「じゃ、次に僕が。僕は1の選択肢がベストだと思う」

 

 しかし平田は強い意志を込めた目を堀北に向け、この意見を絶対に譲る気は無いと無言で示していた。

 

 予想とは正反対に進行役の意見の不一致で始まり、いきなり暗雲漂う展開になった。

 

 




 ここから先、嬰児の無言が暫らく続きます。
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