どうしても叶えたい願いの為にその気になる綾小路と、別にどうでもいい願いでなんとなくいるオリ主 作:a0o
「どういうつもりかしら平田くん?」
「僕の意見を述べただけだよ--僕は今のまま、クラスメイトが退学を回避できる選択肢を得るのが望ましいと思ってる」
堀北が短く問うのに対して平田は涼しい顔のまま答えた。
「クラス全体の力が上がればリスクは必然的に下がるわ--総合的に見て、ただ目先の利益を追い求めてるようにしか見えないわ」
堀北も冷静に、それでいて攻撃的に異を唱えた--これに賛同する者たちも続く。
「あたしも嬰児くんを自由にさせてあげる方がいいと思う」
「俺も同意だ。そもそも同じ生徒なのに変な特別扱いされてる方がおかしいだろ」
「クラスメイトを守りたいって気持ちは理解出来なくはないけど、浅はかじゃない?」
賛同者を受けて有利な流れを得た堀北はダメ押しを込めて力強く言う。
「この試験だって嬰児くんに妙な特例がなければ起きなかったわ。
また余計な騒動が起きれば想定外のリスクが生まれる--とてもベストな選択とは思えないわ」
嬰児の力が十全に発揮されることが出来る--この恩恵の大きさに心が動かされるのは多かったが、
「堀北さんたちこそ浅はかだよ。その選択はⅮクラスだけのメリットだ--他クラスが容認するなんてありえないよ」
「そんな事は無いでしょ--坂柳さんだって振り回されるのはうんざりしてる筈だし、今回の件で一之瀬さんだって同じ気持ちなのは想像出来るわ。龍園くんは確かに微妙だけど、彼の性格から考えて戦うべき相手が強い方が望ましいと思っても不思議じゃないわ」
堀北の理路整然と反論を包み込んでいく姿は頼もしく、嬰児が自由になってもリーダーは譲らない--可笑しな真似などさせないし止めて見せる、とそんな期待感を抱かせた。
「それこそ希望的な観測だよ--寧ろうんざししてるなら3の選択肢を持って嬰児くんを黙らせるくらいしても不思議じゃない。
特に一之瀬さんは汚点とも言える過去を自分で暴露するくらいだったんだ……嬰児くんに対して生半可じゃない不快さを抱いてるのは間違いない」
平田もまた理路整然と返す--しかし堀北とは正反対に不安を駆り立てる説明に、平田らしくないと違和感がある。
「つまり平田くんはどうなると予想してると?」
「この試験は全会一致以外じゃ退学者が出る--そして全クラスが妥協できるのは1の選択肢しかない。
だからこの後で話し合いを設けて、1の選択肢で調整するのが最終的な落し所になると思ってる」
「言ってることがおかしいわ--さっき嬰児くんの特例に振り回せるのはうんざりしてると自分で言ってじゃない。なのにそのまま放置することを選択するとは思えない。
確かにⅮクラスに塩を送る形になるけど、3は自クラスの誰かを退学させなきゃいけな--流石にクラスの賛同が得られるとは思えない」
「そのリスクを抱えても抑え込みにかかるって言ってるんだよ--寧ろ僕にはそんな意図を感じてならない。2の選択肢は他のクラスからすれば代償に対してメリットが少なすぎる」
言ってみれば兵器の使用制限を下げると言うもの--相手からすれば容認は出来る筈がない。
もしするなら同等のものを有して互いに牽制できる形でなければならない--その意味では3は抑止力としては有効と言える。
「そして当然Ⅾクラスとしては受け入れられない--今のまま行けば、全会一致はありえない。
退学者かクラスポイントの損失ってデメリットを抱え込むだけだ。
なら確実に恩恵を受けられる1で全クラスがプロテクトポイントを得るのが唯一の妥協点だよ」
平田は言いたいことを言い終え、皆はどう思うという視線を向ける。
ただ向けられはしたものの理に適った説明に対して早々に意見が上がらない。
他クラス、それもリーダーたちの性格や心情からして退学者を出しても3を選択するかも知れない--結果、選択が別れ何も得られないままでⅮクラスからも退学者が出る。
一番考えなければならないリスクに不安感が格段に上がった--それを見越して平田は一転して普段通りの優しい口調で言った。
「大丈夫。最初に言ったでしょ、退学者が出る場合は僕が責任を取るって--皆は何も心配しなくていい」
これに心が軽くなる者も多かったが、逆もまた居た。
「駄目だよ!平田くんが退学するなんて!!」
王が真っ先に声を上げてたちが上がる。
「そうだよ」
「そんなの嫌だよ」
それに続く女子たちに男子からは嫉妬が湧くが、
「平田が居なくなるのはⅮクラスの損失だ--俺も容認できない」
冷静に意見を述べる例外も居て、すんなりとは纏まらない。
そこに櫛田が冷や汗を浮かべたまま、重い声で発した。
「だったら私が退学する」
「ちょっと櫛田さん。意見を言うならもう少し―――」
落ち着いてからと言おうとしたのに被せて櫛田は、壇上に立つ平田と堀北に何を考えていると言わんばかりの言葉を投げた。
「二人とも。船上試験での話し合いを忘れたの?
3を選ぶ時のリスクはその程度じゃ済まない--それでも選ぶなんてことになったら………………はぁ、はぁ、はぁ」
「ちょ、ちょっと!?」
言い終わる前に櫛田は過呼吸を起こし始め、直ぐ近くの席の者たちが駆け寄ろうとするが、
「櫛田、ゆっくりと深呼吸しろ」
既に綾小路が背中を摩っており、焦点の定まらない目をした櫛田に目を向けられる。
「約束はちゃんと守る--これくらいしか言えなくて申し訳ないが、今直ぐどうこうなりはしない。もう喋らなくていいから、気持ちを落ち着かせることだけに専念しろ」
ただ事じゃない様子に皆がドン引きしてしまう。
その流れで話し合いの中断を提案する者も現れようとしたが、
「クラスでの結論を出そう。じゃなきゃ、これは収まりそうもない。ちなみにオレは平田同様に1を選ぶべきだと考えてる」
綾小路がはっきりと続行を呼びかける--そして不安定になっている櫛田の姿にそれしかないと意見が続々と出た。
「選択肢については2がいいと私は思うけど、まず考えなきゃいけないのは退学者を出さないようすることじゃない?」
まず松下が問題の核心部分を提起した。
「そうだよ。嬰児くん一人の為に誰かが退学になるなんて、やっぱりおかしいよ」
「それは他のクラスだって大なり小なり同じだと思うし、皆で得する1がやっぱり妥当かな?」
「何より無人島の時を思えば嬰児が自由になる選択肢なんてナンセンスだよ」
「平田の言う通り、3を取ろうとする可能性もデカい。そうなると妥協点は1しかない」
まずは平田の意見に賛同する者たちが優勢になった--綾小路が賛同し、櫛田も同様であろうと言う状況が手伝い、クラスの主力に着こう言う流れが出来た為だろう。
堀北、並びに松下の意見は封じ込めらたに見えたが、
「話は逆だろ--これまでと言うか、この間だって学校中を巻き込んだ騒動になったんだぞ。試験だけじゃないんだぞ、この学校は」
「そうだよ。場外乱闘なんて仕掛けて来たり……それでなくたって不測の事態で危ない目にあうことだってあるんだよ」
幸村が異を唱え、更に長谷部も続いた--特に長谷部は佐倉を視界に収めながら、より真剣なニュアンスで訴えるようだった。
「その通りだ--Aクラスに上がるだけじゃない、不測の事態が起こりにくくするのに嬰児が居るってのは大きい」
三宅もまたそれに賛同した--そしてそれは同じグループだけではない切実さが籠っていた。
「そうだよ。もう十分にただの生徒じゃないって分かってるんだし……もっと堂々としてられるだけでも全然違うでしょ」
軽井沢が立ち上がり訴えた--実際に彼女は試験外で仕掛けられただけに説得力が格段に違った。
もし軽井沢同様に自分たちも予期せぬ事態に遭遇したら--そんな考えが生まれ、嬰児とその後ろにある絶対的な抑止力はあった方がいいんじゃないか?
いやそれでも全クラスで選択がバラバラとなり退学者が出る事態になったら?
そうした者たちとクラスの意見が二分される事態になり、教室内では不和が生じる。
無言のまま、我関せずなのは高円寺と嬰児の二人のみ--高円寺はいつも通りだとして、話題の原因であり当事者である嬰児も不気味な程に沈黙を貫いているのは異常とも言える。
やはり試験内容からして背後に居る輩の逆鱗に触れたか--生徒たちで処遇を決める体裁であることから、まだ情状酌量の余地はあると言う事か?
いずれにしても何も言わないのか、言えないのか全く話に入ってこない訳は並々ならぬ興味を湧かせるものでもあった--故に悪乗りする輩も現れる。
「いっそのことさ。こっちも3を選んでみるってのは?」
「山内くん、何を言い出すんだ!!」
「ひっ!?」
平田の怒鳴り声に委縮し固まってしまう--その態度になんとなくの乗りで言っただけなのは明白であり、加えて平田だけでなく数多くの非難の目を浴びせられる。
「い、いや……俺はただそれなら足並みが揃うんじゃないかと」
苦し紛れの言葉だろうが、完全に理に適って無い訳でない--それでも仲間を危険に晒す選択肢を提案したのは流せるものでは無い。
「いっそのこと、クラスからの退学者は山内でいいんじゃない」
「な!?なんだよ、それ!!」
「だって嬰児くんが退学してもいいってなら、自分もそうなったってさ」
「ああ、相互主義って奴か」
「確かにそれも有りかもね」
「おい!俺は退学者が出ないようにって提案しただけだろ!」
「そう言うの取って付けた言い訳って言うの--んな考えなしのズボラなんて、真っ先に切られても仕方ないじゃん」
「ふざけるなよ!それを言うなら、一番何もしてない高円寺が退学すべきだろうが!」
これもまた苦し紛れに出ただけだが、的外れでもない為に山内に同調する者も現れる。
「それは一考の価値有りだな」
「俺もそう思うぜ」
最初に池と須藤が、そしてクラス中から視線が集まった。
「ふふふ。なんとも陳腐だね」
注目が集まったことで高円寺が口を開いた。
「なんだよ。自分は安全だって言うのか?」
いつも通りの不遜な態度に須藤が真っ先に反発する。
「その通りだよ、レッドヘアーくん--さっき堀北ガールが言っていたじゃないか、分からないことを議論していても仕方ないと」
堀北の名前を出されて事で須藤の勢いが怯む--そんな様子に構うことなく高円寺は更に続ける。
「ティーチャーはペナルティについては最後に伝えると言った。つまりその場合は既に決まっていると考えるのが道理だ」
「あ、そんなのオメェの勝手な思い込みだろうが」
「分かってないねぇ。この狂言に学校側が示す理念は一切含まれていない--特例を通り越した〝異例〟なのだよ。そんなものの為に更に余計な時間を割くなど勿体な事をする訳ないだろうに」
省略できるところは省略する--それでも試験と銘打った以上は決着を付けさせる。改めて矛盾を指摘したことで新たな不安が沸き起こる。
「それからして私である可能性はない。君たちが気に入らないと言うだけで優秀な者を切るなど実力主義とは言えない」
迷いなく大胆に自分には関係ないと言い張る姿はいっそ清々しさすらある--しかしそれでも憶測の域を出ない話でしかない。
クラス内での総意によって決める--そんなやり方が待っていたとしたら誰一人例外なく退学になる可能性がある。
だからこそ高円寺は自らが優秀であること、潜在能力が高いことをそれとなく示している。
(と、こんな感じか)
綾小路はそんな推論を浮かべながら、あくまで客観的に話し合いを見定める--と同時に自分の中でも定まっていない結論を思案する。
単純に考えれば2が一番だが心に引っ掛かるものがあり、あえて1を提案した--そのただの勘とも言える選択故に論拠を持って発言できない為、話し合いに参加することは出来ない。
しかしクラスが二つどころか、更に意見が分かれる展開になれば既に1を推した自分を引き入れようとするのは必定--悠長に考えている余裕はないと冷静に状況と心情を整理する。
(オレ自身の中で答えが明確でないなら、言えることはひとつしかないか)
ただそれも率先して口に出すことは気が進まない--おかしなジレンマに思考が余計に纏まらなくなりそうで、珍しく自分自身が不快に思えて来た。
そうこう考えている間にも時間は流れ、各々が意見を言い合う--見ようによっては活気ある議論が展開されていく。
そして、いよいよその時が来た。
「綾小路くんも平田くんに賛成だったよね。理由を聞いても?」
「ただの消去法だ。3は望ましくないし、2も捨てがたいがそれで嬰児のワンマンにでもなった日には有栖が失望するからな--有栖も大変なのは続くがそこはオレが力を貸すって風に説得すれば1で妥協してくれるんじゃってな」
とどのつまり、坂柳とイチャイチャするのを見越して……そんな惚気にしか聞こえない理由を聞かされ、場は一変に白けてしまった。
それは平田も同様だったが、綾小路の
「坂柳さんが大変なのは同情するけど、嬰児くんに頼り切る状況が出来上がりかねないのはクラスとしていい事とは言えない--クラスとしての団結はある程度は成熟してるけど、それはもっと高めて行く形の方が
「それなら嬰児くんがまた妙な気を起さないように皆で団結するって形でもいいんじゃないかしら?」
しかし堀北とて簡単に主導権を渡すような真似はしない--牛井嬰児と言う特殊要因を最大限活かす形を提案することで自らの意見を強く前に出した。
「そうだぜ、鈴音の言う通りだ。俺たちだって今まで頑張って来たんだぞ--嬰児が自由になるからって、もういいなんてグズは居ないに決まってら!」
「須藤くんと同じく私も堀北さんに一票入れる--折角、超強力なカードが使えるチャンスなのに棒に振るなんて勿体ないよ」
「松下さんの言う通りだよ--あたしも2を選ぶことが絶対にいいって思う」
軽井沢が断言し、唯一張り合える櫛田は相変わらず不安定で何も言わない為に女子たちの殆どが賛同の流れに傾く。
「俺もやっぱり戦力アップの機会を棒に振るなんて賛同できない」
幸村の冷静な意見に男子たちも同じ流れに沿う形が出来上がる。
「綾小路くんもその方向で坂柳さんを説得してくれないかしら?」
この流れに乗って堀北が締めに入りに来た--ここで綾小路が肯けば平田も折れざるえなくなりⅮクラスの方針は固まる。
「悪いが出来ない」
ただ綾小路はきっぱりと拒絶した--これにより再び1を支持する者たちが息を吹き返す気配を見せた。
「どうしても嬰児くんを自由にすることを容認できないと?貴方もかなり同情して筈だったと記憶してたけど?」
それを察して堀北は軌道修正の意味も込めて問いただす。
「嬰児が自由になりたいと思ってるのは分かり切ってるし、出来るなら叶えてやりたいのも嘘じゃない--ただそれで有栖の負担が減るかは疑問だ。場合によっては今以上に厄介になりかねない」
とどのつまり牛井嬰児よりも坂柳有栖の方が大事であると言う事--
とことんブレない綾小路の行動原理は怒りを通り越して清々しさを感じさせる。
しかしだからと言って肯定することが出来るかは話が別だ。
「そうね。貴方からしたらクラスや嬰児くんよりもお嫁さんの方が大事よね--けどそれなら尚更、嬰児くんが可笑しなことしないように貴方が頑張る方がいいんじゃないかしら?」
堀北がたっぷりと嫌味を込めた苦言に多くが賛同の視線を送る--ただ全てではなかった。
「ちょっと待ってよ。話が逸れて来てる!」
松下の叫びに場の空気が一瞬固まった。
「まずは全クラス一致で退学者を出さないようにってことだったでしょ--なんで惚気と僻みの言い合いになるの?」
そのズバリの指摘に流されそうになった面々は気まずそうに顔をそむけた--そして図らずももっとものめり込みそうだった堀北は恥ずかしさに頬に赤みが差した。
「んん!その通りね。その為にクラスの方針を固めるのが趣旨だったわね」
いかにもな咳払いをして仕切り直す。
「まずは現状を整理しましょう。選択肢の中で3はありえない、戦力アップの2と他クラスの妥協点として妥当な1のどちらかにするか--これが今までの話の中で出て来た中身で、
今の議題で適してるのは不本意ながら1であることは明らかね」
自らの推す選択肢が不適切であるとしながらも話を進めようとする姿勢に一応の纏まる気配が見えた。
「そして議題に合わせるなら、他クラスがどの選択肢を選ぼうとするか--掘り下げていくと退学者を出さないようにするか、退学者を出しても望んだ選択肢を取りに行こうとするかね」
相手に合わせて妥協する--聞きようによってはそう感じる説明だが、堀北の顔にはそう書いてはいなかった。
「もし後者の場合だったらクラスポイントで後れを取る私たちは、ただ退学者を出すだけで終わってしまう--それでも取ることが出来ても大量のクラスポイントが無くなればAクラスでの卒業が不可能になってしまう可能性もあるわね」
正に本末転倒な結果だ--これに安易な戦力アップを期待していた者たちは、その浅はかさに気まずさを覚えた。
そして改めて目指すべき目標を明確にした堀北は自らの心中と考えを整理して発言した。
「目先の事だけじゃなくて、もっと先も見据えましょう--例え嬰児くんが全力を出せたからってAクラスになれるとは限らない。今までのポイントを使い切ってでも価値があるかとは言えないわ」
「つまり堀北さんも1を持って他クラスと妥協点を探るのに賛成ってことだね」
「平田くん、最後まで聞いてくれないかしら。大事なのは嬰児くんの為に誰かが退学になるなんて、おかしなことを回避することで選択肢そのものじゃない--場合によっては2の選択肢を望んでくる可能性を否定できないわ?」
話の流れはどっちつかずの結論になろうとしていて、不満を感じる者も多く出た。
「だからⅮクラスは3を絶対に選ばない--そしてその上で他クラスが選んだ選択肢に合わせる。これでどうかしら?」
ただその程度の事は堀北も織り込み済みであり、簡潔に纏めた結論を言う。
「他が割れたらどうするんだ?」
「3を含めた二対一になったら3じゃない方に、3を含めない二対一や3つがバラけた場合はより勝ち目のあるクラスの選択肢を選ぶわ」
聞きようによっては卑屈で卑怯とも言えるが、
「もし、他が同じ方針だったら?」
「それなら他クラスも自クラスから退学者を出したくないって結論よ--現状維持か、特例に振り回されるのが嫌かを確認して結論を出せばいいわ」
冷静に理路整然と淡々に話を進めて行く。
「最後にもし退学者を選ばなきゃいけない場合」
再び緊張感が高まった--平田が立候補していると言っても他が望んで無いこと、高円寺や山内と言った声が上がったこと、また学校側は既に決めていて議論することが無駄である可能性とここまでに上がった意見にどうするか固唾を飲む。
「嬰児くん、私は貴方を指名するわ」
「ちょっと、堀北さん!何言ってんの!?それなら私が退学するよ、今直ぐに!!」
櫛田が立ち上がって絶叫した--これにはクラス中が慄いたが、綾小路が透かさず背中を摩って興奮を沈めようと静かに言う。
「堀北。考えがあるなら先にそっちを言え」
櫛田が何に脅えているのか分かっているはずと非難を込めた目で、適当な答えは許さないと要求する。
「ええ、配慮が足りなかったわね。まずはそれを謝罪するわ」
「そう言うのはいい」
「せっかちね。それじゃ順番に説明するけど、そもそも今回の騒動は嬰児くんが発端であり、回りくどいやり方で抑え込もうとする意図がねじ曲がって起きた事よ」
「つまり責任を取れと?」
「嬰児くんに特例を与えた人たちにね--試験に則っての自然な退学って形でならどうするのか?また新たな特例を用いてくるのか、それともすんなりと受け入れるのか?」
嬰児を挑発、もとい試すような物言いに緊張感がどんどん高まっていく--これには流石に高円寺も気になるのか、目をしっかりと開いて嬰児に向けた。
そして当の嬰児は何でもないように自然体のまま、何も言わない--無言なのは、やはり何も言えないからか?
これには本当に牛井嬰児が退学してもと思わされ、櫛田が冷や汗を増していき開放している綾小路の顔にも少し焦りの色が見え始めた。
「何も言えないのか、言わないのかは分からないけど。嬰児くんに異論を挟む気は無いと言う事でいいわね」
堀北は途轍もなく強引に話を締めようとして来た--このまま終わらせてはいけないと異論を上げようとするが、
「もしもそうなっても嬰児くんなら自力でどうにかする算段は付けられるでしょ--これまでだって不満があるのを我慢してたんだし、失うものが無くなるなら遠慮は要らないんじゃない?」
反抗する気なら正攻法でやれ--そう遠回しに言い放ち、庇おうとする者たちを牽制して嬰児本人にも発破を掛けた。
緊張感に加えて危機感と奇妙な高揚感が生じて〝そうなったら見てみたい〟と言う好奇心が教室に行き渡った。
全体の空気感は嬰児に何かしらの反応を求めていたが、それでも嬰児は何も言わない。
やはり自分の意見を出すことを止められているのか--そう確信に近づくと同時に追い詰められて反逆を決意した時の想像に僅かな例外を除いてⅮクラスの心が纏まっていく。
そんな確信を抱き堀北は揚々とした態度で締め括りに入る。
「それじゃ、この方針で他クラスとの話し合いに臨むわ--それでも不測の事態が起きかねないから、皆も心して置いてちょうだい」
これにて話し合いは終了し大方が帰り、話し合いの算段を付ける為にと残った綾小路は堀北に近づいて行く。
「堀北。学校側がもう退学者を決めててたら皆で戦うのか?」
本来なら先の話し合いで言うべきことを二人だけの時に言う--この意図に堀北は無意味な引き延ばしは不毛だと簡潔に答えた。
「理論武装はしてるでしょうから異議を唱えるだけ無駄でしょうね」
「あくまで嬰児だけの場合に学校と戦う訳か」
「嬰児くんの事情は解らないし、公に出来ない以上は覆す可能性は見出せるわ--ただそれ以外の場合だと勝ち目があるとは到底思えない」
「下手すりゃ、巻き添えで退学も有りえるか」
「そう言う事ね」
嬰児の場合なら上の判断で振り回されているとも言えるので感情論を際立たせての反論も可能だが、学校側の査定による退学ではただの生徒が異論を唱えても意味はない--何故なら退学させるだけの理由は既にあると言う事なのだから。
仮にこの試験そのものに反論を試みたとしても、それならそれで嬰児を引き合いに出す必要が出て来て、最悪の場合は学校の存続に関わる問題にまで発展する恐れがある。
……それは綾小路が絶対に許さないだろうと堀北は考えを進めながら、小さな溜息を付いた。
「なんだ?」
「…………最悪を想定してたら、まず最初にⅮクラスが崩壊する光景が浮かんでしまったわ」
「おいおい、オレにそんな意思はないぞ」
責められるような目を向けられて綾小路は弁明したが、
「そこに坂柳さんの進退が関わってたとしても?」
さらなる追求に一瞬言葉が詰まり考えさせられた--その様に思い止まるように念押しする気も失せてしまい、堀北は更に大きな溜息を付いた。
「はぁ~。まったく前途多難だわ」
「……ちょっとだらしがないな。この際だから嬰児をものにする位の気概でも見せてもいいんじゃないか?」
「皮肉のつもりかしら……だとしたら、もうちょっと気を利かせて欲しいわね。そんな詰まらいのじゃ却って白けちゃうわ」
皮肉に対して皮肉を返す応酬に些か不毛さを感じ、会話を打ち切ろうとも考えたが、
「まだちょっと覚悟が決まらないのよ」
堀北が弱音とも取れる言葉を吐いたことに驚き聞くことにした。
「当初は嬰児くんを御すことが出来れば、そのすぐ後も彼への圧力を緩和することが出来ればAクラスへの道が確実に近づくと思ってたわ--ただあの審議との時から、その程度の認識じゃ駄目だと悟った」
「要はビビったのか?」
「そう取られても仕方ないわね--はっきり言って今の私の手に負えないのは間違いないわ」
「……ひょっとしてだが、クラスのリーダーから降りるなんてのも考えてるのか?」
会話が不穏な流れになり、思わずと言った感じで尋ねられた--ただ、堀北は一転して不敵な顔になり首を横に振る。
「いいえ。私はただ見極めたいのよ--牛井嬰児と言う生徒がⅮクラスの為になる形がどういう風になるのかを」
この返答に綾小路は不審から一転して意味深な顔になり、堀北鈴音の意図を--先程までの話し合いの流れを改めて思い返してひとつの結論を得た。
「クラスメイトを試したか?」
単純に2の選択肢を持ってクラスの戦力アップを求めるのか、それとも他の選択肢を持って別の形で上を目指すことにするのか?
平田もグルだとも一瞬思ったが、彼の性格と心情を考えれば語ったことは本心だったのは間違いない--堀北としてはそれでも良かったが、敢えて反発を見せてそれに乗る者たちの意見を上げて議論を戦わせたかった。
ひとつ間違えるとクラスが崩壊しかねないが、それをしてもやる価値があると判断した--その考えの先にある物は、
「私は
この学校が置く最終目標に彼女なりの具体性を練り込んだ。
「それが私の目指すクラスの形よ--仮にそれで失敗して、Aクラスに上がれなかったとしても更にその先の人生には絶対に糧になる。そう信じてるわ」
自分の力、または自分が中心になってでは無く、自分を含めてクラスをひとつに--入学当初の堀北鈴音では想像も出来なかった考えを聞かされ、綾小路は〝成長したな〟と実感した。
そんな上から目線の意図を感じ取ったのか、堀北から棘のある言葉が出る。
「ちなみに退学者の指名候補には貴方も入ってるから忘れないでね」
「おいおい」
「貴方がクラスの中では一番信用できない--前にも言ったけど、坂柳さんの為だからってクラスを後ろから刺す真似は絶対に許さないから、それはしっかりと心に留めといてちょうだい」
「尤もらしい理由があれば容赦しないか」
「坂柳さん、Aクラスを説得する材料に使えるなら何だって使うわよ」
あくまで目的のための手札のひとつである--そんな理由を付けての牽制に堀北の成長に複雑な気分が湧いて来る綾小路であった。
そして、そんな心中にされされながら思った。
(さて、その肝心な有栖や他はどうして来るか?)