どうしても叶えたい願いの為にその気になる綾小路と、別にどうでもいい願いでなんとなくいるオリ主   作:a0o

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選択肢が・・・

 

 

 

 Aクラスの場合―――

 

 

「まず私の結論を先に言います。私、坂柳有栖はこの試験においてどの選択肢にも興味がありません」

 

 壇上に立つ坂柳のその発言に皆が驚きを隠せない--後ろに控えている神室も同様であり、顔に〝何故?〟と書いてあった。

 

「私個人にとってはどの選択肢を取ってもこの先の苦労は変わらないでしょう--ですからAクラスの利益を最優先に話しを進めて行きます」

 

「何、普通の事を大袈裟に--当たり前だろうが」

 

 戸塚が噛みついて来たが、今までの坂柳に接した来たクラスとしては珍しい事態であり、寧ろそちらの方に興味を湧かせるのだった。

 

 故に好奇心を抑えられないのも出て来る。

 

「お姫さんがそうしたいって言うなら従うけど、本当に何もないのか?

 てっきり3を選んでどうでもいいのと一緒に退学させるぐらいはやると思ってたんだが」

 

 まずは橋本が。

 

「同感ね。それだってアレを牽制するには持って来いだし、クラスの為にもなって理に適ってる」

 

 同調して神室が続いた--坂柳の側近二人の遠慮のない意見に慄いていた者達も胸の内を言う。

 

「確かに2の選択肢で特例がなくなっても、余計な揉め事が起こらなくなる保証はありませんしね」

 

「と言うか、何も変わらないなら1を選んでもいいんじゃ?」

 

 冷静な意見を述べる森下藍と無難な選択を提案する山村美紀--坂柳が提示した通りに話を進めようとする。

 

 その根底には物騒な事には関わりたくないと言う思いがあるようだ--そう察しながら葛城も意見を述べる。

 

「選択肢の中で最も明確な利益は1だ。クラスメイトの退学を回避出来るなら喜ばしい、俺も一票入れる」

 

「そうだぜ!もうそれで決まりでいいじゃねぇか」

 

 殆ど反射的に戸塚も声を上げたが、クラスの反応は著しい--かつて葛城派だった面々も同様で無条件に賛成は出来ない様子だ。

 

 女王(リーダー)である坂柳はどう判断するかと注目が集まったが、肝心の彼女は無表情で何も言うつもりは無いようであり、仕方なしとまた橋本が否定的なニュアンスを込めて口を開こうとしたが、

 

「それでいいとしてとも他クラスの選択肢が別れて、クラスポイントとでの入札となった場合はどの程度の上限を設けるつもりで?」

 

 森下が静かに落ち着いた口調で問題の深堀を求めて来た。

 

「なんだよ。ポイントは目一杯引き離してるんだから心配ないだろ」

 

「……戸塚。流石にそれは浅はかだぞ--この試験だけでリードしてる分を一気に使い切るつもりか?」

 

「森重の言う通りだ」

「ああ、たった一人の為にAクラスじゃなくなるなんてゴメンだ」

「そうなると退学者を誰にするかも決めなくちゃか?」

 

 話の流れが不穏な方向に向き、その目は必然的に葛城と戸塚に向かった。

 

「なんだよ。俺たちに立候補しろってか?」

 

 戸塚は当然抗議するが、葛城はすまし顔のまま言う。

 

「それがクラスの総意なら俺で構わない」

 

「葛城さん!?」

 

「弥彦、誰かがならなきゃいけないんだ。

 それにあくまで候補だ--絶対に退学すると決まった訳じゃない」

 

 葛城は坂柳に視線を送る。

 

「そうですね。私も詳細は存じませんが、もう学校側が決めている可能性もあります」

 

「だったらこんなこと話し合うだけ無駄じゃねぇか!」

 

「かも知れませんが、そうでないかも知れません--なんでしたらクジ引きで決めますか?もしそれで私になっても文句は言いませんよ」

 

「…………あの、お二人はそんなに退学したいんですか?」

 

「いやそうじゃないだろ。最終的な責任は自分が取るって言ってるだけだろ」

 

 Aクラスのリーダーとかつてのリーダー候補の態度に唖然とした問いが出て来た--これに橋本は不味いと感じ、即座に補足する形で流れが悪い方向に行くのを阻止した。

 

「立派な事だと言いたいですが、それをやるのはまだ早すぎますよ」

「そうだぜ。まだ俺たち一年なんだから」

「それにこんなバカな決め事で誰かが切られるなんて、そもそもおかしいだろ」

 

 クラスの流れは試験そのものへの不満と不振に向かう--そこに森下が手を上げて興味深いと言うニュアンスで坂柳に訊いた。

 

「坂柳さんはどれでも良いと仰いましたが、それならこの試験そのものに対して抗議すると言った4つ目の選択肢を他のクラスに提案して直訴すると言うのはどうですか?」

 

 凄まじく大胆な提案にクラスは一瞬、時が止まったかの様になった--ただ直ぐに冷静さを取り戻した者たちは大いに有りかもしれないと思った。

 

「なるほど--確かにそれは面白そうですね」

 

 坂柳も肯定するように言うが、何の感情も籠ってない棒読みなニュアンスからは全く正反対の印象を受ける。

 

 それは直ぐに現実になった。

 

「となると出る所に出ての法廷闘争となりますね--当然、学校のポイントじゃなくて費用も自前で用意しなければなりませんから親御さん達とも相談しなければなりません」

 

「ちょ、ちょっと……大袈裟にし過ぎじゃない!?」

 

「いいえ。相手は躊躇なくそうしてきますよ。彼の存在自体が特例と言っても過言ではないのですから、それを是正するなら正攻法で行きましょうと--笑顔で言って来るでしょうね。勿論、負けた場合は退学程度じゃ済まない可能性もありますから、そこも考慮しておいた方がいいですよ」

 

「そこまでするの……理事長代行って?」

 

「父の場合でも大して違わないと思いますよ--と言うか、試験に関しての異議に対して運営側が何のカードも持ってない訳ないじゃないですか」

 

「いやでも、明らかにおかしかったり理不尽だったりなら抗議するのは普通でしょ」

 

「学費や生活費はおろか、娯楽に至るまで面倒見て貰ってるのは、そんな理不尽を乗り越えられる実力を身に付ける為だと返されるでしょうね--そんな理不尽を正すなら、卒業した後で政府に働きかけるのが道理だと」

 

 余計に話が大きくなり始めてクラスがドン引きし始めた。

 

「養われてるガキは大人しく言うこと聞いとけと?」

 

「少なくとも政府主導の学校を脅迫したり訴えたりするなら、第三者である法定機関が出る必要はあるでしょう。そして学校からの恩恵を全て取っ払った上で戦う--私たちが今こうしているのも国民の皆様からの税金なんですから、その投資に見合う実力を身に付ける義務が私たちにはあります」

 

 粛々と語る坂柳にクラスはいつの間にか引き込まれた。

 

「戦うと言うなら相手を舐めてはいけません--敵を知り己を知らねば返り討ちにあうのが関の山です。

 元よりこの問題に関しては私たち一生徒のものと同列に扱うことは非常に危険です--私がギリギリ言えるのはここまでですから、それでも戦うと言うなら各自の責任でお願いします」

 

 ある意味で裏切りとも取れる宣言だが、それだけ大きな力が動いている--それを教えてくれるだけでも有難いと思うべきか?

 

 複雑な思いがクラスを駆け巡り、牛井嬰児だけでなく坂柳有栖も面倒な立ち位置に居ると同情の念も湧いた。

 

「坂柳さんも苦しい立場なのはお察しします--ただこの試験について戦うと言うのは、もう少しだけ話し合いたいですね」

 

「珍しく積極的だな、森下」

 

 普段は大人しくクラスの方針にも絡んで来ない彼女の姿への指摘に注目が集まる。

 

「はい。今回の試験は何とも興味深いですから--あれだけの実力を持ち、特別扱いされている牛井くんの事が気にならない訳がありません」

 

 言われてみれば至極当然だとも思える動機を語り、

 

「ま、それもそうだな」

 

 同意する声にくすぶっていた好奇心が刺激されて話が進んでいく。

 

「そう言う事なら牛井が前に出て戦うように持って行くのはどうだ?あいつだって、上の都合で振り回されるのは嫌だろう」

 

「それなら普通に2を選んだ方がいいじゃねぇか」

 

「いやいやそれで特例が無くなれば、Ⅾクラスが得するだけだろ」

 

「だからそれで恩を売って、その上でこっちに来て貰うんだよ」

 

「それ、いいな」

 

「ああ、本来なら牛井は最初からそうなるべき奴だ」

 

「クラスの利益に尤もなる」

 

 牛井嬰児をAクラスに招き入れる--この方向で話が盛り上がっていくが全く賛同できない者も居り、その筆頭格が発言した。

 

「彼が来ることが利益になるとは限りませんよ」

 

 坂柳の静かな声に場の空気は一気に静まり返った。

 

「それはつまり圧力はこれからも続くと?」

 

「分かりません--ただ彼を野放しにすることを良しとするとは私には到底思えません」

 

 森下の指摘に無難に答え、ひと呼吸置いた後で切実なニュアンスで言った。

 

「それになんだか、その選択が彼の為になるとは思えないのですよ」

 

「つまり私たちの知らない裏があると?」

 

 この質問に対してもまともに答えてくれるとは思っていないが、それでも何かしら推測を得る手掛かりまでは持って行ける。

 

 そんな感じの会話が続いて行くと誰もが思っていた--故に坂柳の口にした答えは意外のひと言だった。

 

「これは全くの私の直感です」

 

「え、勘ですか?」

 

「勘です。ですので明確な根拠などありませんから、私の意見は聞き流してくれて構いません。最初に言った通り、あくまでクラスの利益になる選択を最優先にする--その為に議論を続けて行きましょう」

 

 淡々と澄まし顔で言う姿は、ある意味で何かを悟ったか諦めているかのようで盛り上がりを見せた勢いが完全に殺されてしまった。

 

 坂柳有栖の実力を疑う者などAクラスにはいない--その彼女にここまで言わせるのだから、異を唱えるなら相応の覚悟が必要だとの認識が浸透される。

 その相応の覚悟は退学になる程度では済まない--下手をすれば自分だけでなく親兄弟にも被害が出るかも知れない。

 先の坂柳の話からの補強としては十二分であり、嫌な実感がゆっくりと湧き上がって来る--そしてAクラスだろうと自分たちは一学生でしかないと当たり前のことを思い出す。

 

「それで結局、森下さんはこの試験に抗議するのがいいと?」

 

「いいえ。牛井くんの為に我が身を犠牲に出来る程にはお人好しにはなれません--少なくとも彼自身が戦うとも言ってないのですから、その意思を確認してからにすべきでした」

 

 あっさりと引き下がり、試験に対して抗議する選択肢は消えた。

 

 そして本題、どの選択肢にするかで仕切り直しが始まる--坂柳は下がり代わりに橋本が前に出る。

 

「それで結局、どの選択肢にするかだが--俺個人の意見としては、やっぱり3が一番メリットな気がする」

 

「それに関しては私も異議はありません--捨て身とは言え、彼の行動を制限できるカードは有用です」

 

 森下が間髪入れずに賛成に回った。

 

 やはり嬰児に関しての興味は尽きないようだ--嬰児に対して提示できる強力なカードを手に入れられるのは、彼女個人の好奇心だけでなく周りにも躊躇なく使用できると言うのはAクラスとして大きなインパクトを与えることが出来る。

 

 そう考えるのは森下だけではなく、主に坂柳派--特に当初から彼女を支持していた者たちも賛成に回った。

 

 ただ、それに待ったをかけた者も居た。

 

「3を選択することをⅮクラスが認めるとは思えん--その場合はクラスポイントによる入札となるが、一体いくら支払うつもりだ?」

 

 葛城の淡々としながら理屈を交えての反論に出来上がりつつあった流れが寸断される--ただそれ以上の反対意見は出て来ず、殆どが水を差されたことに不満の視線を送った。

 

 一学期までと違い完全に異物として認識されている。

 

 唯一の味方である戸塚は声を上げたかったが、葛城の無言の圧力により黙らされていた。

 

 無視して話を進めるべきかと思う者も居たが、意外な所から助け舟が出された。

 

「それもまた筋の通った意見です--私としても理想は全会一致で無難に終わってくれる方がいいですし」

 

 坂柳の言葉に議論の必要が有りとクラスに浸透し、仕方ないと言わんばかりに橋本が口を開く。

 

「それじゃ、まずは他クラスがどれを狙って来るかを予想してみるか」

 

「そうだな。違ったとしても前提を踏まえなきゃ話が纏まらない」

 

 そして再び葛城と戸塚に注目が集まった--とても悪い意味に思えるものが。

 

「繰り返すが、切り捨てるなら俺で構わない。もし既に決まっているなら潔く受け入れる以外ない--これでこの話題は終わりでいいだろう」

 

 葛城が堂々としながらの宣言に拍子抜けにも近い感覚になる--が、だからと言って自分が立候補するなどと言う者が表れる筈もなく、唯一不満を持つ戸塚もある意味で自分の為にと言ってくれた宣言に異を唱えにくく、言葉通り話題を次に進む。

 

「それで、Ⅾは3を選ばないとして1と2のどっちで来ると思う?」

 

「普通に考えれば2でしょうね」

 

「けど、Ⅾだって他が歓迎しないことが分からいようなバカじゃないだろう」

「全会一致を一番望んでるのはⅮなのは間違いないし」

「そうなると1を選んでくるのが妥当か?」

 

 議論が建設的に進んでいき、それぞれが選択肢についての考察を披露し始めた。

 

 普段なら一番意見を主張する坂柳が下がり、自由に発言して言い許可を出すという珍しい状況に熱が籠って行き、余り自分の意見を言わないような者からも意見が出る。

 

「Ⅾも然ることながらBやC……一之瀬さんや龍園くんがどう出て来るかも考えるべきでは?」

 

「確かに龍園なら3を選んできそうだな」

「一之瀬も今回はどう出て来るか、ちょっと読めないよな」

「そうだね。この前の様子からして、かなり頭にきてたみたいだし」

 

 そもそもの発端からして一之瀬の申請だ--当然、その時に語った彼女の汚点(かこ)も知れ渡っており、これまでなら1を選ぶだろうが今回はどうなるか分からない。

 

「一之瀬が3を選んでくるとしてBの面々は賛成するか?」

「大いに有り得ると思う」

「だよな。無人島試験の時だって牛井にやられたのは苦い記憶だ」

 

 更に言えば今回の騒動だけでなく、その前のCとⅮの審議に関しても最終的には牛井嬰児が裏で糸を引いていたんじゃないかとの噂があるくらいだ。

 

 だからこそ坂柳も面倒な立場に追いやられてしまったとすれば、今の状況にも納得がいく。

 

 この考察に至った橋本が坂柳を意識しながら発言する。

 

「いっそのことさ。綾小路を通してⅮも3を選ぶように説得して貰うのはどうだ?」

 

 出て来た名前に坂柳は僅かに反応し、それをクラス全員が見逃さず--新たな話題が投入されたことで盛り上がりの様相を見せた。

 

「悪くないね」

「そうだよな、お嫁さんの為なら頑張るんじゃないか」

「となると説得する材料を考えてあげなきゃいけないかな」

 

 発言する度に坂柳に〝どう思う?〟とニヤニヤしながら冷やかす……もとい色っぽい視線を送られ、流石に当の本人は顔に渋さが浮かんで来た。

 

「清隆くんがそうでも軽井沢さんや櫛田さんが肯くとは思えませんよ--寧ろ余計泥沼になるだけでは」

 

「坂柳の言う通りだ--特に櫛田が3を選ぶことには大反対するのは予想が付く」

 

 これもまた珍しく葛城が坂柳に同調した--これに船上試験で同グループだった西川、矢野、的場の三人が当時を思い出した。

 

「いや、いくら何でもあれは方便じゃ?」

「そ、そうだよ--もしやったら(・・・・)犯罪じゃ」

「ちょっと穿ち過ぎじゃないか」

 

「あのさ、一体何の話だよ?」

 

 橋本の全く訳が分からないと問い、クラス全員も説明を求めていた。

 

「すまない。もっと早くに話すべきだったな」

 

 葛城がそう前置きして、牛井嬰児に関して話された事を説明--嬰児に全力が出せないよう圧力が掛かっていること、その上で嬰児を御するのは誰が適任かと続き、龍園が追い詰められたら嬰児は殺人も厭わないと発し、櫛田も同調したことを語った。

 

「ちなみに櫛田は詳細に関して話さなかったが、あれは真面目に鬼気迫るものを感じさせた--ハッタリや脅しの類ではないと俺は確信している」

 

「…………本当か、それ?」

 

 余りの内容に片言な台詞しか出ない、それは聞いていた皆も同じであった。

 

 それは大袈裟に語った、出来るなら冗談の類である--と言う安心を求める期待感が根底にあったが、無言で堂々としている葛城の態度は〝事実をありのまま〟言っただけだと語っていた。

 

 同じく話を聞いた者たちも同様であり、否が応でも事実であると認識せざるえない。

 

 僅かな、それでいてとても長く感じる沈黙が訪れた--そこに、パンと小さく手を叩く音がして意思が向くと無表情のままの坂柳が淡々と言った。

 

「ショックなのは分かりますが、このままで居ても仕方ありません。話を進めて行きましょう」

 

 全く変わらない様子に坂柳は知っていた、またはそうしても不思議じゃないと分かっていたと思わされる。

 

 良くない意味での好奇心が刺激されたが、詮索することは危ういと甲高い警報音が心に響き、この話題について深掘りしてはいけないと暗黙の了解が広がった。

 

 その心の整理を見計らったように坂柳は再び口を開く。

 

「それで、Aクラスとしてはどの選択肢がベストだと思いますか?それともまだ考えが纏まらないなら、もう少し議論を続けますか?」

 

「坂柳さん、訊くだけ無駄かも知れませんが彼はどう言う経緯でこの学校に入学したのですか?」

 

 しかし空気を読まない質問がまたしても森下から出た--止めさせるべきだと思う一方、知りたいと言う好奇心がせめぎ合って誰もが無言で坂柳に注目する。

 

「残念ながら知りません。そして彼に関することは私ではどうすることも出来ません--あくまで私もこの学校の一生徒でしかありませんから」

 

「それにしては見えない所で何かしてらっしゃるようですが?」

 

「すみませんが、何も言えません」

 

「そうですか」

 

 森下もこれ以上は無意味だと悟り、あっさりと引いた--そして別のアプローチで嬰児の事を探る術を考え言う。

 

「それでお話を戻しますが、私はこの試験は1の選択肢を選ぶことを提案します」

 

「つまり葛城と同じく無難に乗り切ろうと?」

 

「少し違います--2と3の選択肢も牛井くんの状況を悪い意味にしかねない可能性が捨てきれません。そうなるとタガが外れてしまいかねません--故に今まで通り、何処かしら抑え込む力がある方が、牛井くんも長く学校に居られると思った次第です」

 

 嬰児への詮索を諦めていない--そう、堂々と宣言する姿に〝森下藍はこういう奴だったのか?〟と言う思いを抱き、同時に坂柳が何と答えるのかに再び注目が行く。

 

「そうですか。そうしたいと言うなら止めませんが、何があっても私は何も出来ませんから、くれぐれも注意を怠らないようにして下さい」

 

「ご忠告、感謝します」

 

 どうと言うことない、短い遣り取り--そう流すには余りにも重い威圧感に、これ以上の話し合いの継続は忌避する空気が蔓延し始めた。

 

 それを敏感に感じ取った橋本は強引にでも結論を纏めた方がいいと意識して声を上げた。

 

「ならAクラスとしては選ぶ選択肢は1で--そしてこの後で他クラスと話し合いって事になるだろうから、そこで意見が別れたら調整するか押し通すかを改めて決める。他に何もないなら、これで解散にしよう」

 

 クラスからは異論を挟むものは居らず、宣言通りに話し合いは終わり皆が帰って行った--残ったのは坂柳と取り巻きたちは釈然としないままに話をする。

 

「なぁ、姫さん。ホントに大丈夫か、この学校?」

 

 まず橋本が口を開いた--そして『大丈夫』には掛かる意味が多く、重かった。

 

「さて私には分かりかねます。何度でも言いますが、私とて一学生でしかありませんから」

 

 坂柳はその意味を理解していながらの玉虫色の解答を返す--はぐらかされたと、一瞬そう思ったが、直ぐにそれが坂柳有栖の正直な答えなのだと理性が言った。

 

「……そうかい。それじゃ話題が変わるが、もし牛井嬰児をクラスに迎え入れるって方向になってたら賛成したかい?」

 

「どっちでもいいです」

 

 即答、それもやや語気を荒くして--珍しく投げやりに言った。

 

「ハッ。今日は珍しいのオンパレードね」

 

 神室のなんとなくと言った発言に無言だった鬼頭も同意する顔だ--坂柳は少し不快さを顔に出したまま続けた。

 

「それは良かったですね。もし彼が来たらもっと刺激的な日々になるでしょうから、真澄さんもさぞ楽しくなりますよ」

 

「いやさ。楽しくなるなら綾小路が来てくれた方が良いと思うんだけど」

 

 皮肉に対して茶化すように意地悪く返して来た--しかもそれは本心でもありそうで、橋本と鬼頭も僅かに笑みを浮かべており、坂柳がたじろいだ。

 

 本日何度度目かの珍しいものに悪ノリしたくなるが、後で仕返しされるのが分からなくなる程には浮かれてはおらず、それ以上の突っ込みはない--それが返って坂柳の行動を鈍化させてしまう。

 

 そして一瞬の沈黙を経て持ち直し、普段通りの笑顔で答えた。

 

「そうですね。ですが清隆くんとはクラスでの戦いを約束してますので、それは叶わないでしょうね」

 

「まぁ、約束してるのは仕方ないよな--でもそりゃ次の試験で果たされる訳だし、それが終わったらさ、綾小路を迎えるのも本格的に考えて見てもいいんじゃないか?」

 

 橋本が透かさず話題を繋いだ--他も〝どうなのか〟と言う目を向けて来る。

 

 そして案の定、笑みが深まっていく--また、いつも通りに惚気交じりの話を聞かされると諦めに近い念を抱いたが、

 

「私としては清隆くんがAクラスでの卒業を絶対だと思っているなら構いませんね」

 

「……意外だな。のらりくらりと否定されると思ってたんだが」

 

「彼が居ないなら、そうだったかも知れません」

 

「一緒に牛井を倒そうって意味?」

 

「いいえ、そうではありません--清隆くんへの想いを凄まじく後押しされましたからね」

 

 結婚式ごっこは勿論、直接『結婚しろ』と言われたこともあり、極めつけは坂柳有栖の〝ファーストキス〟を綾小路清隆に捧げさせられた。

 

 何より最初の接触(?)の時の言葉が無ければ、綾小路を意識することはずっと遅れていただろう。

 

 天才である事を自負し好敵手(つよいてき)と戦いたいが、一人の女としての恋心がそれ以上になりつつあるとの自覚もあったりもした。

 

「へぇ、そうなのか--嬰児がそう思ってるなら寧ろ快く後押ししてくれるかも知れない訳か」

 

 思いも寄らず望む展開へのお膳立てが成されていたことに、橋本は何かの助け(いし)でも働いているのかと感慨深いものを感じ入る。

 

 それならばと、更に攻めて行くべきかと続ける。

 

「嬰児への圧力も二人で対応するってシンプルな形にした方がやり易いかもしれないし、その方向で話をして見るのも有りだよな」

 

「橋本くん。先を考えるのもいいですが、まずは目の前の問題ですよ」

 

「分かってるよ。この後でクラスの代表での話し合いをってのは何処も考えてるだろうし、直ぐにセッティングに取り掛かる」

 

「お願いします」

 

「けど今の話、本当に考えてくれよな。絶対に」

 

 橋本は坂柳からの返事も待たずに端末を取り出し教室を出た--殆ど押し付けに近い形を取られたが、坂柳としては心情を理解出来ない訳ではないので少しだけ考えて見た。

 

(もし清隆くんが私と同じクラスに来たいと望むなら――――――)

 

「ちょっと!妄想に浸るなら、部屋に帰ってからにしなさいよ!!」

 

 恍けた表情で笑みを浮かべる姿に神室が突っ込みを入れて現実に引き戻す--側で見ていた鬼頭も無表情なれど、何処か呆れている様であった。

 

 

 

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