どうしても叶えたい願いの為にその気になる綾小路と、別にどうでもいい願いでなんとなくいるオリ主 作:a0o
Bクラスの場合―――――
壇上に立つ一之瀬帆波と直ぐ後ろに控えている神崎隆二--いつものBクラスなら和気あいあいに近い雰囲気で話し合いが始まるのだが、今回はただ只管に重い空気が充満し息が詰まるのが
ただ一人の例外である一之瀬に関しては、これまでの彼女からは考えられないギスギスとしたオーラに声を発する勇気が誰も出ず、彼女からの言葉を最大の緊張感を持って待つしかなかった。
時間にして五秒も経っていない筈なのに、何時間も待たされたと錯覚してしまう--気の弱いものは既に倒れそうな程に心音が早くなっていく。
そんな中で漸くと一之瀬が口を開いた。
「さて今回の試験だけど、皆はどの選択肢が良いと思う?」
ただ出てきた言葉はいつも通りで拍子抜けしてしまう……それでも空気は軽くならず神崎がクラスの皆が求めていることを代弁する。
「いや、一之瀬--まずはお前の意見を聞かせて欲しかったんだが」
「えー、だって私が言ったらその通りになっちゃいそうじゃん。だから私のは最後がいいかなって気を使ったんだけど」
「こんな緊迫した中でそんな気になれる奴は居ないぞ」
「そうかな--言いたい事を言いたくて、うずうずしてる人も居ると思うけど?」
一之瀬がさり気なく送った視線は誰を捉えているとも言えない--しかし送られた方からしたら、それは自分の事を指しているのかと刹那的に身構えてしまう。
それも一瞬のものだったが、今の一之瀬はそれを見逃さなかった--笑みを作りながら反応した女子を指名する。
「姫野さん。何か言いたい事あるなら遠慮なく言って」
「……別に何もないよ」
「駄目だよ。嘘ついちゃ--これはクラス全員の話し合いの場なんだから」
普段なら相手を立てて引き下がるが、今は逃がす気は無いと笑顔のまま圧力をかけて来た--やはり明らかに一之瀬は頭に来ていると嫌でも再認識させらる。
これには一之瀬を慕っていた白波もドン引き状態で暴力とは違う恐怖を感じており、彼女ほどではないにしろクラス全員が同じ思いの中、発言を殆ど強要させられている姫野に同情しながらも何も言えなかった。
そんな複雑な感情が入り混じった視線を感じながら、姫野自身も段々と苛立ちが湧き上がりその勢いのまま口を開く。
「だったら言うけどさ。今回のって一之瀬さんが言い出しっぺでしょ--だったら一之瀬さんが責任持つのが筋なんじゃないの?」
「責任は取るよ--だからこうして纏めるべき意見を出して貰おうとしてるんだよ。
それで無意味な文句しか言う事が無いの?クラスの為に何か考えてたりは無いのかな?」
一之瀬の様子は本当にいつも通りだ--ただ込められたニュアンスはどうにも挑発を含んでいると感じられ、湧いていた姫野の苛立ちに油を注ぐ。
それは直ぐに怒りに昇華した。
「クラスの為って……そもそもアンタが余計な事言ったから、こんな事になったんでしょうが!面倒事増やしてくれちゃって!!」
「……あのさ、それは言う相手が違うよ。余計な事したのは嬰児くんで、それに悪ノリした所為で誰が一番迷惑したか忘れちゃったの--迷惑だから正して貰いたいって何が悪いの?」
正に売り言葉に買い言葉--完全に喧嘩になってしまう土壌が成立してしまった。
「だったら尚更アンタが決めればいいじゃん。反対するのなんて居る訳ないし、それで解散でいいじゃん」
姫野はさっさと帰らせろと投げやりに言うが、この話し合いが不毛で嫌な物だと言うのは本心であると伝わって来る--それが意味するところは、
「そっかぁ。姫野さんもストレス溜まってたんだね--そんなにBクラスが嫌だった?」
一之瀬は心中を悟って割と穏やかに言ったが、現状では逆効果であり〝どの口が言うんだ〟と思いが駆け巡る--それは直接言われた姫野も同様、寧ろ一番逆鱗に触れたと言ってもよかった。
それは直ぐ様に表れた。
「当たり前じゃん--いい機会だから言わせて貰うけど、私は一之瀬さんの方針は嫌で仕方なかった。皆の為って綺麗事だけで、そんな同調圧力で言いたい事も言えない--こんなんでAクラスになるなんて出来っこないって何度も思った」
「ふ~ん。だったら早くそう言えば良かったのに」
「ふざけないでよ!言い出せない空気作ってる張本人でしょうが!!意見したってこっちが折れるまで囲まれ続けるなんて苦痛、まっぴらごめんよ!!!」
姫野は興奮し、どんどんと声が大きくなっていく--面と向かっている一之瀬の表情は変わらないが、聞いていたクラスメイト達はドン引きしていた。
されど中には姫野の主張に納得したような顔も有り、特に神崎はより真剣に姫野の叫びに耳を傾けていた。
ただ反対に納得できない輩も居り、その一人である白波が声を上げた。
「姫野さん。一之瀬さんは皆の為を思って――――」
「だからって無条件で何でも言うこと聞けって?やり方が違うだけでCクラスと同じじゃん--白波さんって誰かの手下になって満足するタイプなの?」
「ちょっと、それは言い過ぎだよ!」
「だよな……白波が本当になりたいのは…………」
「そこも!余計な事言わない!」
渡辺を網倉が窘めたが、発言の内容から下世話な想像が掻き立てられ、なんとも趣味の悪い視線が辺りを交差する。
それを冷めて目で見ていた当事者とも言える一之瀬帆波は淡々と言った。
「それで。姫野さんや皆は結局どの選択肢がいいと思ってるの?」
この際だから言ってしまえと含みを持たせているのは明らか--更にそのニュアンスから、はぐらかすのは駄目だと圧力を感じさせるものがあった。
喧噪に盛り上がろうとしていた空気は一気に鎮静化されて無言の間が訪れる--それを見て一之瀬は小さく溜息を付いた。
「はぁ……ずっと言いたいことを我慢してたんでしょ?私に遠慮しなくていいんだよ--と言うか、その為の話し合いでしょ」
正論で来られてクラスは更なる静けさに見舞われる--しかし黙っていることは出来ないと逃げ道も封じられてしまい、僅か数秒で息苦しさが充満した。
これが普段通りであるなら一之瀬が場を和ませるように率先して意見を出すのだが、今回は全く正反対の状況であり、初めての体験に苦しさは増していく--そして我慢の限界を感じたのか、勢いに乗ることにしたのか、声を上げる者が一之瀬の
「だったら話を進める為にも言わせて貰う--俺は3の選択肢を選んで牛井に対して俺たちからも圧力をかける方が良いと思う」
「へぇ、珍しく過激だね。神崎くん」
振り返った一之瀬の態度は淡々としたもので不気味さが際立つ--やや怯みそうになるも神崎は続きを話すことにする。
「遠慮なくとのことだからな。そしてその上でこっちも怒ってるってことを示して、牛井嬰児をこのクラスに迎え入れるように持って行くのが、クラスにとって最も利益になると考える」
「そもそもⅮクラスが認めるとは思えないよ」
「ああ、当然ながら入札になるが恐らくCクラス……龍園も同じ事を考えてる可能性は高い。そしてクラスポイントの差からすれば勝ち取れる」
神崎は言葉を続けて行きながら強気さを醸し出していたが、真正面から聞く形になっていた一之瀬からは何とも違和感を覚える。
「神崎くん……言葉とは裏腹なプレッシャーを感じるんだけど…………言ってること本当に本心なの?」
一之瀬は思ったままを言ったが、神崎は狼狽えることなく力強い目--もとい期待が籠った視線を向けて来た。
それにより、なんとなくだが一之瀬は悟った。
「ああ。私に反対意見だして欲しいのか--そうだよね。私らしくないって思うもんねぇ」
「違う、そうじゃない」
「え、じゃあ何なの?」
一之瀬としては面倒な探り合いは嫌であり分かるように言って欲しかったが、神崎としては自身で察して気付いて欲しい。
ある意味で正反対の意図を持ってしまい話が止まる--気不味いとも違う無言状態の睨み合いに外野の方が先に嫌気が差して声が上がる。
「二人とも。時間の無駄だからそう言うのは別ん所でやってくんない」
「それは済まないな--ただ姫野、俺の言いたいことは一之瀬だけじゃなくて、お前を含めたクラス皆にも気付いて欲しい」
「だから考えろって?面倒くさいし、分かりっこないでしょ--クラスの成長をとか考えてんのかも知んないけど、アンタの気持ちなんて一々汲み取ってられ無いし、もっとストレートに言って欲しいんだけど」
姫野の口調は棘があったが内容はクラスの殆どが思っていることもあり咎めるものは居ない--神崎としてもそれは理解しているが、それでも誰かに促される形はどうしても取りたくなかった。
ただ限られた時間の中でいつまでもと言う訳にはいかない。故に、
「なら俺がどうしたいか言う。俺はAクラスで卒業したい--もっとシンプルに言えば勝ちたいんだ。当たり前の事だと思うだろうが、今のままじゃ絶対にそんな未来は来ない」
きっぱりと言い切った--その内容に流石に誰もが唖然としてしまう。
「…………神崎くん、それって私の所為ってこと?」
誰よりも近くで聞いていた一之瀬が言った--普段なら困ったような顔をする者だが、今回は目に不満の様な感情があった。
「一般論としてリーダーなんだからと言うのもあるが、お前のやり方はクラスの成長を阻害するデメリットもあった--普通の学校ならそれでもいいが、競い合い勝ち取らなきゃいけないこの学校じゃ、そのスタンスは合わない」
「……もしかして挑発されてる?」
一之瀬の問いに状況の緊迫度が一気に上がった--今まで温和だった一之瀬もそうだが、彼女を支え補佐役に徹して来た神崎もまたらしくないと言え、一触即発な展開に態と持って行ったとしか思えない意図に訳が分からないと言う思いが駆け巡り、それは更に加速する。
「もしかしなくてもそうだ--全部曝け出して堂々と本音を言う今の状況こそ、このクラスが変わり飛躍するチャンス……牛井風に言うなら神が齎してくれたものだと俺は感じた」
神崎は勝負に出た--その演出もだが台詞に嬰児の名前を入れたことで一之瀬の眉が僅かに引きつった。
「へぇ~」
一之瀬の目の色が変わり確実に逆鱗に触れたと誰もが思った--しかも意図的に。
「要するに色んな方向からの意見を出し合って良いのを見つけ出す方法を望んでる訳か--例えそれが喧嘩するような険悪なやり方でも結果が出ればそれでいいと」
「理解してくれたようで嬉しい--揉めることなく和気あいあいとするのも悪い訳じゃないが、それでは後れを取るばかりだ。それが俺の思ってたことだ--現に今までのやり方に100%賛同してる訳じゃないのだって居た」
「で、今の私なら通じると思って言いたいことを言った訳か--けど各々で言いたいことを言いまくるだけじゃ収拾がつかなくなるよ。そんなのを取りまとめるの私は嫌だな」
「ならリーダーを降りることだ」
面と向かっての大胆な台詞に緊張感が高まった……言われた
「ゴチャゴチャ抜きに言わせて貰えるなら、私だって好きでなった訳じゃないよ--他に居ないから仕方なくやってただけでね」
しかしその目は今まで見たことも無い暗い輝きを宿しており不穏さを感じさせる。
「それは済まなかったな。一之瀬にもそんな不満を抱えさせてたなんて今まで考えたことも無かった--そんな不満を軽減させる意味でもこれを機にクラスの方針を抜本的に見直して牛井を獲得すべきだ」
「ブレないね」
「その位のインパクトあることしなきゃ、Aクラスなんて本当にただの夢だからな」
神崎のこの発言はある意味で自クラスへの侮辱であるが、腑に落ちたと言う表情の者も少なくない--逆もまた居るが、
「ちょっとそれは言い過ぎなんじゃない--帆波ちゃんはこれまでずっと私たちを引っ張って来たし、神崎くんだって側で支えてたじゃん。なんでそんなこと言うの?」
「理由は簡単だ、白波。そんな風に一之瀬への妄信が過度になってると感じたからだ--何度でも繰り返すが現状のBクラスは方向性が違うだけでCクラスと同じ独裁状態だ」
神崎の攻撃的ニュアンスは増しており、一之瀬を誰よりも指示している白波をして慄くものであった--普段なら過激になる前に一之瀬が宥めに入って来るが、今の状態でそんな期待が出来る訳も無い。
寧ろ、普段とは正反対--Bクラスでは考えられない事態になっても不思議ではない。
一之瀬の目はそう思わせるには十二分であった。
「そっか……それなら神崎くんが代わりAクラスにしてくれる?
この前も言ったけど、私もう疲れちゃった--Aクラスで卒業はしたいけど、ハッキリ言って性に合わない立場になって、それでも皆の為に頑張らなきゃってさ。
傍から見れば格好良いかも知れないけど、物凄く大変だったんだよ--誰かが代わりにAクラスにするって言うなら喜んで譲るよ」
「いつになく饒舌だな」
「こう言うのが聞きたかったんじゃないの?それで私はリーダー降りていいの、それともまだ続けた方がいいの?」
一之瀬帆波の見たことも無い投げやりな態度にドン引きしている視線と‶一之瀬も人間なんだな〟と納得している視線が壇上に集まる中で神崎は口を開く。
「申し訳ないがこのクラスでは一之瀬がリーダーに相応しいと思ってる--ポテンシャルも先頭に立つ資質もお前自身は否定してるが、十二分にあると俺は思ってる」
「誉めてるんだろうけど、全然嬉しくないよ」
「そうだろうな。負担とプレッシャーを強いて来たんだから、不愉快なのも当然だ--だからこそ牛井を招いてより力になって貰いたいんだ。あいつが恋愛じゃないとしても一之瀬に好意を持ってるのは間違いじゃない--気持ち的にも似てるのを抱えてるなら、きっと力になってくれる」
「嬰児くんのそれは私のとは性質も違うし、抱えてるのは比じゃないと思うけど」
二人の意見は全く一致する様子を見せない--ただそれでも見ていたクラスメイト達は危うさや不味さと言った後ろ向きの気持ちには一切ならず。
寧ろ、積極的に意見を交わす様子に新鮮さや面白さと言った前向きな感情が湧いてきていた--中には二人の話に混ざり、自分も意見を戦わせたいと思う者も。
神崎はそれを見逃さず透かさず言った。
「浜口。言いたいことがあるなら言ってくれ--今はそう言う場だ」
「え、あ、いや……」
指名を受けて狼狽える浜口--その様子は神崎と向き合い背を向けていた一之瀬にも分かり嫌でも悟らされた。
「あ~。なんか私を見てないようだとか、言ってることと裏腹なのを感じるなと思ってたけど、そう言う事か」
一之瀬はゆっくりと振り返り、クラスメイト達の顔を見て行く--暗い輝きを宿した目のままだった為、見られた面々は息を飲み冷や汗が出るが、じっくりと見定めた一之瀬は気にせずに口を開く。
「ふふふ、怖がらないでって言うのも無理な相談だよね。だけどここは敢えて言うよ--自分の意見があるなら無理してでも言って。
私が発端だけど、この試験はクラス皆が参加して結論を出さなきゃいけない事なんだから」
言い終えて再び振り返る。
「こうなって欲しかったんでしょ。神崎くん」
「意図を汲んでくれて何よりだ」
一瞬、置いてけぼりになりそうになりつつも見慣れた光景--息の合った連携を見せられて高まっていた緊張が解れて思考が働いて来た。
皆が参加し自分の意見を言う、それが一之瀬帆波の信条と違うものだとしても--議論するのなら、ある種健全と言えるものだが今までのBクラスでは有りえなかったこと。
その意思があっても言うことが出来ない暗黙の了解に近い物が今は機能しない--神崎が率先して示し、一之瀬も名実ともに問題ないと理解させられた。
「僕は3の選択肢を取るのは賛成できない--でも牛井くんをクラスに迎え入れるのはいいと思ってる」
浜口が意見を述べた--これを切っ掛けに他の面子も自分もと続いていく。
「単純にクラスの利益を思うなら1がやっぱり妥当だよね」
「同感だ。全会一致を狙うなら落し所にも一番持って行き易い」
「でも牛井を招くのはちょっと考えものだぞ」
「そうだよ。一之瀬さんへの好意がマジでも面倒を抱え込むのは、ちょっと」
「私も賛成!一之瀬さんが余計にしんどい思いするかも知れないじゃん!」
「白波……その手の私情は、今は抜きにしようぜ」
中には試験から完全に外れたものもあったが、それでも多様の意見が各々から出た--これまでのBクラスでは無かった光景に神崎は薄っすらと笑みを浮かべる。
(そうだよ。これでいいんだ)
そもそもにおいて自分たちの評価はBであり、
しかし早々に団結が固まり切り、それで満足と言う空気が確定してしまった--それは決して悪いことではなかったが、この学校の
現に多くの個性がそれぞれの考えを披露することなど出来なかった--各々が優秀でありAクラスに挑める自覚を持ってクラスを高めて行く。
やっと本来あるべき姿になり、神崎も釣られて興奮が高まっていく。
「場の空気もいい具合に温まって来たな--まだ意見は無いか?もっと存分に協議を続けよう--Aクラスになる為に!」
「違うよ。Aクラスで卒業する為でしょ、神崎くん」
「!?」
透かさず訂正した一之瀬に神崎は驚く。
(てっきり歓迎しないか、軌道修正を測って来ると思ったんだが)
そう思ったのは神崎だけではないようで、何人かも驚きの表情だ--その一人、白波千尋が戸惑いながら口を開く。
「あの、一之瀬さん……」
「ん、なに?千尋ちゃん、やっぱりこんな空気は嫌?」
「あ、いや、それは…………」
一之瀬の方ではないのか?
とそんな言葉が続けたかったが、一之瀬の満更でも無い表情に言葉を詰まらせる--その意味を察して言葉を続けた。
「私に遠慮なんかしなくていいよ--今までは皆を守らなきゃなんて思ってたけど。あの嬰児くんだって自分のピンチに何も出来ないんだし、私如きがそんなの思うこと自体が十年早いことだよね」
一見すれば自虐的でいつもなら白波も率先して‶そんなことない!〟と声を上げた--しかし嬰児がピンチの状況を作ったのは一之瀬帆波本人と言っても過言では無い。
完全な棚上げ発言に今まで接して来た一之瀬のイメージが崩れた--あらゆる意味での衝撃に無言になるクラスに一之瀬は続ける。
「幻滅したならそれでもいいよ--ただAクラス卒業は絶対に捨てちゃ駄目だよ。
その上で私の意見だけど、私は2を選んだ上で嬰児くんを手に入れたい--もう振り回されるの嫌だし、嬰児くんが存分に力を発揮できる状態の方がシンプルでいいでしょ」
私見を述べて協議に参加する--至極真っ当な光景だが、一之瀬のこれまでへの否定から始まっただけに衝撃はかなりのものだ。
とても素直に話を続ける気になれなかった。
「何度も言うけど私の顔色なんて気にしないで、クラスの為になるなら--Aクラス卒業を成せるなら私は何だって構わないよ」
「勝つことよりもクラスの和の方が大事なんじゃなかったの?」
「両方だよ、姫野さん。今までだって私は勝つことを諦めたことないよ--どうしょうもなくて妥協したことはあってもね。それが気に入らなかったんだよね、神崎くんも」
振り向きながらの問いに神崎は息を飲んだが、直ぐに持ち直して答える。
「ああ、もう腹割って話す。勝つ為にはクラスは変わらなきゃいけない、一之瀬も含めてな」
様相は対立しているようだが壇上の二人の意見は完全に一致している--勝ち上がり、Aクラスで卒業する。
その為に必要なのは何か?
改めて当たり前のことが浸透し、各々の中で燻ぶっていた物を沸き立たせるには十分だった。
「俺は一之瀬さんの言う通り、2で牛井くんに恩を売ってクラスに向かい入れるのが妥当だと思う」
「いや、来たって面倒が増すだけなら無難に1の選択肢が」
「変わらなきゃっていうなら、3を選んだ方が他にもインパクトがあっていいんじゃない?」
意見はバラバラだが、皆の表情は活気があった--結果、協議は加速していき盛り上がっていく。
「いやいや、Ⅾが認めないってさっき言ってろ」
「そうだよ。他がどう来るかも考慮しなきゃ」
「だとしたら、やっぱり1か?」
「Ⅾは2で来ると思うし、肝心の牛井に関心持って貰うには2がいいんじゃ」
「なら3を選ぶだろうCと共闘するってのも有りなんじゃ」
「うお。大胆だね」
これまでには考えられない意見も出てたが、寧ろ前向きに考えるべきと言う空気へと移り、より深く掘り下げられて行く。
「共闘って意味じゃないけど、Aはどの選択肢で来るかな?」
「ああ、坂柳も牛井の特例にはうんざりしてるのは想像が付くし、2が妥当じゃ」
「そうなると綾小路が居るし、お嫁さんの為なら2を推すよね」
「じゃ、やっぱりうちも2を選んでが全会一致の可能性が高いか?」
「龍園が乗るとは思えないけど」
「それじゃ、退学者が出るだけでメリットないじゃん」
「そうだよな。3対1なら折れざるえない可能性もある」
「後はどう牛井を獲得して来るかか?」
ここで一之瀬に注目が集まる。
「何?」
「もうこの際だから、こっちも腹割って言うけど。一之瀬さん、牛井くんと一緒にAクラスに目指すのどう思うの?」
「目的はちょっと違うだろうけど、手段と目指す先が一致してるなら異論はないよ--ただ含むものはあるから、私が完全にコントロール可能かって事なら責任は持てない」
正直かつ妥当な解答だが、盛り上がりを削る--仮にクラス全員で牛井嬰児の力を発揮させるか、外側の圧力に力を貸すと言う事になっても心持たないには変わらない。
「それに嬰児くんはAクラスよりも自分を雇ってくれる立場になって欲しい--櫛田さんや綾小路くんと同じ様に、そう言うよ。私も興味が無い訳じゃないけど、ちょっとピンとこないんだよね、それは」
「牛井の雇い主か……好奇心が刺さるが口で言うほど、いやどんな想像したところで軽く上回る道だろうな」
「神崎くんもいいとこの出なんでしょ、噂ぐらいは知らないの?」
「残念ながら--ただ俺の知ってる人なら何か知ってるかも知れないな。卒業してあの人に聞くなりすれば、少しぐらいは牛井を開放する可能性はあるかも知れない」
「って、それって意外に良いアプローチじゃない?」
「だよな。地に足付いてると言うか」
「当然、坂柳よりも豪かったりするよな?」
「…………」
問いに対して神崎は神妙な面持ちとなる--意味深な態度に何かと誰もが思ったが、
「多分だが、案外近くに居たのかも知れないな」
訳の分からない独白から答える気は無いようだ。
「気を取り直して話を進めて行こう--クラスとして選ぶのは2で―――――」
一之瀬の発言に仕切り直して、また意見の出し合いになりそうだったが電子音が鳴り、メールを確認する。
「Aクラスが話し合いをしたいって--まだ結論が出てないから少し待って、って返すね」
言葉通りに返信し、改めて顔を上げる。
「時間も余り無いみたいだから、結論を出そう--Bクラスの方針は2を持って行き、他との話し合い次第で改めて本決めを。これでいいかな?」
「ま、妥当な所かな」
「足並みが揃わなかったら、やり直せばいいしね」
「だな。時間も無い訳じゃないしな」
「……ちょっと、これじゃ今までと変わらないじゃん」
一之瀬が決めてしまう流れに異を唱える姫野。
「それもそうだね--じゃ、納得するまでやる?」
「いや、他のクラスがどうするか分からないなら、選択肢に関して話すのは時間が勿体ない。ただ、選択がバラけて入札になった場合にクラスポイントをどこまで出すか--これだけは決めて置きたい」
神崎が軌道修正する形で区切る方向に持って行く--他を待たせている配慮もあるが、一度各々で考えを突詰めた方がいいと判断したからだ。
(今回はなし崩し的になったが、考えを纏める時間を得れば)
更に良い方向に持っていける--そんな期待が高まってか、表情も明るい。
だからか、釣られて積極的意見も出た。
「だったらいっそクラスポイント全部を賭けて、嬰児くんに覚悟を見る?
そうすれば後の試験も全勝出来て目的も達成できるかも知れないよ--勿論、私も覚悟を決めてなんだってする」
その余りにも似つかわしくない台詞に教室の時が一瞬止まったかのような錯覚が起きた……当人である一之瀬帆波を除いて。
「あー、やっぱり取り敢えずの方針は2で……それ以降は他との話が終わってからにしよう」
「えー、折角いい感じなのに~。勿体ないよ~」
「一旦クールダウンしよう。特に一之瀬……今の状態じゃ、どんな方向になるか本当に想像が付かない…………話し合いを続けてるってことで少し猶予を貰おう」
「えー、だったら本当に―――――」
「頭を冷やしてくれ……頼むから」
比喩ではなく本当に頭痛が襲い、一転して顔色を悪くする神崎--同調と同情の両方からクラスメイトたちも今回はここまでにした方がいいと、奇妙な形での一致団結に一之瀬も折れる。
そして幾ばくかの時間を経て話し合いの場であるカフェに向かうが、一之瀬のテンションは下がり切っておらず一抹の不安を溺れる神崎と渡辺であった。