どうしても叶えたい願いの為にその気になる綾小路と、別にどうでもいい願いでなんとなくいるオリ主   作:a0o

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叶えたい願いの為に。

 テスト当日の朝、誰ひとり欠席なくクラス全員自信に満ちた表情で茶柱先生を見ていた。

 

「落ちこぼれに最初の関門が来たというのに随分と自信がありそうだな」

 

「このクラスで赤点を取る生徒はいないと思いますよ」

 

「ほう、随分な自信だな平田」

 

 先生は問題を配り始めながら続けた。

 

「ならば、もし今回と七月の期末で赤点者が出なかったら、夏に青い海に囲まれた島で夢のようなバカンスに連れて行ってやろう」

 

「「「「うおおおおおお!!!!」」」」

 

 男子に気合が入り先生と女子が若干引くが、俺には海に囲まれた島なんて嫌なイメージしかない……ってか本来の十二大戦は大都市を無人にして行われるはずだった。十二戦犯が横槍を入れなければ俺が今ここにいることもなかった。思い出したらまたイライラしてきたぞ。

 

 ――だが抑えろ、落ち着け、また机を割るわけにもいかない。

 

 深呼吸して気持ちを静め問題を見ると昨日渡された過去問と殆ど同じ問題が並んでいた。

 

 これなら『魚』に切り替えなくてもすぐに終わりそうだ。

 

 二限、三限と進んでいき休み時間に入る。

 

「楽勝だな、中間テスト!」

 

「俺、120点取っちゃうかも」

 

 池と山内の明るい声がよく響くが、須藤の表情は暗かった。

 

「須藤くん、大丈夫?」

 

 三人の勉強を見ていた堀北が声を掛ける……ちなみに俺と綾小路も何だかんだと一回きりでなく最後まで付き合わされたので僅かだが気になり耳を傾ける。

 

「わりぃ……寝落ちしちまって、英語だけはやってねぇんだ」

 

 おお、ここに来てまでピンチを醸し出すとは退屈させない男だ……ダメな意味で。

 

 堀北も焦って須藤に近づき付け焼刃の対策を施しているが、傍から見てる限りはダメかなこりゃ。

 

「な、なぁ嬰児の催眠で英語だけでもどうにか―――」

 

「無理。俺の催眠(・・)じゃこんな場面を切り抜けられない」

 

 山内が話を振ってきたのを容赦なく切る。

 

 そう『牡羊』から受け継いだ催眠ではどうにも出来ない。

 

「催眠ならか?」

 

 いつの間にか近くに来ていた綾小路が小声で尋ねた。

 

 そう毒殺師である『戌』の秘薬ワンマンアーミー――肉体の潜在能力を引き出す毒を調整し、集中力を極限まで高め一夜漬けならぬ十分漬けならなんとかなる……かも知れない。本来は戦闘用に使うものだし、そんなセコイ使い方など考えたこともなかったので結果は未知数。

 

 そうじゃなくても俺は何も言わない――俺には須藤を助ける気などないのだから。

 

「まぁ、いいさ」

 

 無言のままでいる俺に綾小路は言った……こいつも手助けは無理と諦めたかな。

 

「どうにか出来るものは、もうお前から受け取ってるしな」

 

 おいおい……一体、何のことだよ?

 

 須藤が赤点取ってもどうにか出来るって?それも俺がしたことでか?…………全く予想がつかないが、ことはまだ終わらないのか。

 

 

 

 ***

 

 

 テストの結果発表の日、クラスが固唾を飲んで待っている中でその時が来た。

 

 茶柱が氏名と点数の一覧が乗せられた紙を黒板に張り付ける。国語、数学と張り出されていき、そこには100点と記された生徒が数多くあり、届かずとも高得点である生徒はそろって歓喜の声を上げた。

 

 だが一部の生徒は緊張したままであり、英語が張り出された瞬間に穴が開くほど集中して見た。

 

「っしゃ!」

 

 須藤が叫び立ち上がる――心配だった英語は39点、前回の赤点ラインの32点を上回っており退学が回避された。

 

 池と山内も一緒に喜んでいたが、茶柱が赤ペンを出して須藤の名前の上に一本の線を引いた。

 

「あ……?」

 

「お前は赤点だ須藤」

 

「ふざけんな!赤点は32点だろ!!」

 

 茶柱の宣告に須藤は猛烈に抗議する。

 

「それは前回だ。赤点ラインはテスト毎に異なり、それは平均点割る2。今回は40点が赤点だ――お前は1点足りなかった。だから退学だ」

 

「聞いてねぇぞ、そんな話!」

 

 淡々と語る茶柱に対して須藤は興奮が増していく。

 

そこに堀北が手を上げる

 

「……先生、今のお話だと矛盾が生じます。

 私の計算では正確には平均点は39.8点――前回は32.2点で小数点が切り捨てられます。私の考えが間違っているなら理由を教えていただけますか?」

 

 一縷の望みが生まれ須藤の退学が回避できるのかと注目が集まる。

 

「なるほど。だから堀北、須藤が退学にならないようワザと英語だけは手を抜いたのか」

 

 茶柱の言う通り堀北は英語51点で他は満点であった――平均点を可能な限り下げて須藤の退学を回避させようとしていた。

 

「茶柱先生」

 

「ああ、答えは簡単だ。小数点は切り捨てでなく四捨五入だ――と言うか私の話から分からないお前じゃあるまい……残念だがこれが事実だ」

 

 最後の希望は潰え、茶柱は話が終わると教室を去りクラスに静寂が訪れる。

 

「……お前、俺のこと嫌ってんじゃねぇのか?」

 

「私は私の目的の為にやっただけよ。勘違いしないで」

 

 須藤が力ない声で訊き、堀北はゆっくりと腰を下ろしながら答えた。

 

 隣の席で端末を弄っていた綾小路は入れ替わりに立ち上がる。

 

(……かなりの賭けだったが、1点ならなんとかなるな)

 

「神に祈りにでも行くのか?」

 

「まぁ、そんなところだ」

 

 嬰児の問いにあっさりと肯定し、そのまま教室を出で行った。

 

 その少し後で櫛田――ほぼ同時に堀北が立ち上がり目を合わせて、堀北は構わずに櫛田は一瞬だけ嬰児を見てから教室を出た。

 

 嬰児は窓の外にいる烏に目を向けていた。

 

 教室を出た綾小路は窓の外を見ながら待っていたような茶柱に追いついた。

 

「先生、単刀直入に言います。須藤の点数を1点売ってください」

 

「……本当にいきなりだな。それでいながら、ぶっ飛んだこと言うな」

 

「先生は入学初日にいいましたよね。この学校の中においてポイントで買えないものはないと」

 

「確かに言ったが、それでもテストの点数を売ってくれと申し出たのはお前が初だ……どうすればそんな発想が出るのか?何故、須藤の為にそこまでするのか?よければ聞かせて欲しいな――私にはそこまでクラスメイトに愛着があるようには見えなかったのでな」

 

 質問はしたが茶柱は綾小路がまともに答えるとは思っていない。

 

 理事長から僅かながら入学の事情を聴いており、本来は最も優秀かそれ以上な生徒であるのは知っているが、同時にこの学校に逃げるためにやってきたことも知っており、どんな些細な問題やそれに繋がりかねない注目は避けたいはず。

 

当たり障りのない答えか哲学的なことでも言って誤魔化すのが関の山だろう。

 

「簡単な話、オレにも欲しいものがあるんです。その為にはオレはオレの価値を証明する必要がある――その手段が今は学校の試験であり、絶望的にある須藤の退学を回避する事しか存在しないんですよ」

 

「…………欲しいもの?Aクラスに上がることでないよな?」

 

 完全に予想外の返答であり一瞬、思考が固まってしまいニュアンスには茶柱佐枝の願望が若干見せた。

 

 もっとも五月に呼び出された時から薄々感づいていた綾小路は得に何も思わずハッキリと告げる。

 

「全然違います。オレが欲しているのはもっと先にあります……ただ、その過程の中で結果としてAクラスに近づけるかもしれません」

 

(…………そうでないかも知れないがな)

 

 茶柱にも飴を与えている状況で余計なことは心の中だけで呟く。

 

「それで須藤の点数ですが、売ってくれますか?」

 

「この場で10万出すなら売ってやろう」

 

 これ以上ペースを持っていかれたくないのか茶柱は早く話を切り上げるように言った。

 

「分かりました。ただ一緒に出してくれる奴と連絡を取るから少し待ってください」

 

「今すぐ払えと言ったんだが」

 

「一分も掛かりません。生徒の一生が掛かってるんですから教師としてその程度は待ってくれませんか」

 

 綾小路は櫛田に連絡し嬰児によって増やされたポイントと僅かな借金を申し出て金額を揃えようとしたが、

 

「――私も出します」

 

「わ、私も」

 

 背後から堀北と櫛田が現れた。

 

「いつから居た?」

 

 流石に綾小路も背中に目がある訳じゃなく気付けず――もしかしたら嬰児もいるかと思い見渡すが烏が窓の外にいるだけであり、改めて自分も常識の中の存在だと認識した。

 

「この件はギリギリまで点数を下げきれなかった私の落ち度……だから私が4万、綾小路くんと櫛田さんが3万づづ――――」

 

「堀北さんが3万4千で私たちが3万3千だよ」

 

「でもこれは私の――――」

 

「私が出したいんだよ……だからこれで良いんだよ」

 

「……分かったわ」

 

 櫛田の口調は優しいものの有無を結わさぬ強いニュアンスであり堀北も押し切られた。

 

「それじゃあ先生、そう言うことで」

 

 茶柱は綾小路たちの学生端末を取り上げる。

 

「確かに受理しよう。退学取り消しの件はお前たちから伝えておけ……それにしても面白い生徒だと思っていたが、思っていた以上の不良品だなお前たちは」

 

 皮肉なのか発破をかけているのか茶柱が処理を終え端末を返した時、

 

「ガアッ!ガアッ!」

 

 烏が威嚇するような鳴き声を上げて飛んでいき、時間を見ると一時間目の始まりが迫って来ていた。

 

「話は終わりだ。早く教室に戻れ」

 

 水を差され場は一気に白け茶柱は職員室に綾小路達は教室に戻っていった。

 

「ねぇ、綾小路くんの欲しいものってなんなの?」

 

 戻る途中、堀北が訊き櫛田も目を向ける。

 

 ただ、なんとなくである為、言いたくないと言われれば謝罪して終わりにするつもりだった。

 

「平穏……いや安心かな」

 

 以外にあっさり答えられたものの理解が出来ず更に追求しようとしたが、教室についてしまい須藤への説明と間もなくしての授業開始で訊くことは叶わなかった。

 

 

 その日の夜、綾小路は嬰児を探して歩いていた。

 

(坂柳は早ければ明日にでもオレに接触してくるかもしれない。嬰児の望みを叶えるとしたならその時……それを逃したら次はいつになるか分からない)

 

 綾小路は綾小路で坂柳と話時のことは決めており、今夜はそれを餌に嬰児と打ち合わせをして備えておきたかった。

 

 しかし端末に連絡を入れてもメールを送っても不備により不可と表示され、仕方なく自分の足で探している。

寮の周辺からずっと範囲を広げ、外に出ていた者に聞いても手掛かりはなく人気のない所、この前のフェンスの向こうの海の前かと思ったが空振りであった。

 

 ならばと逆に人気の多いケヤキモールに足を延ばす。

 

 中間テストが終わった打つ上げであろう多くの生徒たちがレストランやカフェで騒いでいたが嬰児の姿はない。

 

(そもそもこんな場所にいたなら連絡が付かないわけがない……職員、いや運営側に呼ばれてるのか?)

 

 信憑性のある推測に今夜会うのは無理かもしれないと諦めようとした時、空腹であることに気付き近くの店でテイクアウトできるメニューを注文しようと列に並ぼうとした時、横から声がかかった。

 

「こんばんは。奇遇ですね」

 

 テラスに座っている坂柳有栖が笑みを浮かべており、すぐ近くにはサイドテールの女子、神室真澄もいた。

 

 会うのは明日以降と思っていたのだが、完全に藪蛇になってしまった形だ。

 

 ともあれ坂柳はただ挨拶をしただけであり、

 

「ああ、こんばんは。本当に偶然だな」

 

 綾小路も普通に挨拶を返す。

 

「ふふ、よかったら一緒にご飯、どうですか?」

 

「え、ちょっと!?」

 

「邪魔しちゃ悪いだろう。今回は遠慮するよ」

 

 真澄が声を上げたのを見て綾小路は断ろうとした。

 

「ああ、別にいいわよ。なんか私の方が邪魔みたいだし」

 

 神室は早々に席を立ち行ってしまい、なし崩しに綾小路は席に座った。手ごろなメニューを注文し待っている間、ニコニコしている坂柳に無言のまま見ており料理が来てようやく口を開く。

 

「オレは食べたらすぐに帰るぞ」

 

「ええ、今夜はご飯を一緒にするだけですよ。

 色々と警戒されているのは察しますが、少なくとも今は綾小路くんと戦いたいとは思っていません」

 

「Aクラスも何も問題無しって訳じゃないのか?」

 

「ええ、私とは全く相性の悪い男子が出張っていて、ちょっと」

 

「その割には余裕そうだな」

 

「ええ、全ては時間の問題。彼――葛城くんでは私には役不足ですから」

 

 本当に戦いたいのは綾小路であると言外に言っており少し辟易する。

 

「そういうのは勘弁してほしかったな」

 

「その気持ちもお察ししますが出会ってしまったのですから……ほしかった?」

 

 坂柳の予想とは違う返答に疑問符が浮かぶ。

 

 それに答えるように綾小路は順番に語る。

 

「オレは当初、目立たないことを基本にこの学校で三年間の平穏を満喫するつもりだった。

 だが、お前に出会ったのを切っ掛けに考えが変わった……いや、欲が出てきたと言って方がいいか」

 

「欲、ですか」

 

 坂柳の目に好奇の光が宿る。

 

「ああ、三年の平穏じゃなくもっと長い安定を手に入れたい。

その為に色々と動こうかと思案を巡らせている。で、そのひとつにお前のことも利用しよう思っているんだ」

 

「――随分とストレートに来ましたね」

 

 流石に目を丸くしたが、口元は楽しそうだった。

 

「互いの親が国に関わっていると知っている前提で話をしてるんだが、違ったか?」

 

「おや、既に父のことをご存じでしたか――ええ、私の父と綾小路くんのお父様は近しい間柄にあります。その関係でホワイトルームに連れて行っていただき、アナタを知りました。

 それ以外では余りいい思い出とは言い難かったですね……天才とは生まれながらの者、それを人工的に生産するなんてナンセンスだと今でも思っています」

 

 言葉を紡ぐたびに坂柳の声は好戦的になっていき、綾小路は彼女の願いを半ば悟った。

 

「お前にオレが倒せるのか?」

 

「偽りの天才を葬ることこそ、天才の役目だと自負しています」

 

 少し前の綾小路なら矛盾した期待を抱いただろう。

 

 それは自身を作り上げた父親の敗北を意味するのだから――――だが、

 

「……悪いがオレはもう負けた。それもついこの前な」

 

「………………私をからかってます?」

 

 坂柳が意味を理解するのに間を要し、綾小路を凝視する。

 

「まごうことなき事実だ。オレは手も足も出なかった――世の中、本当に広いものだと思ったな」

 

「どなたか、お伺いしても?」

 

「実を言うとお前に会わせようと思って、さっきまで探してたんだ。紹介はまたの機会ってことにしてくれないか」

 

「綾小路くんの駒ですか。だったら会ってみるのも悪くないですね」

 

 坂柳はまだ半信半疑のようで自分の戦意を削いで綾小路からそらそうと疑っているようだ。

 

「ちなみに戦ったのは、ただの喧嘩だ。ブラフ、駆け引き、戦略、あらゆる状況も覆す戦闘能力の持ち主……心底もう戦いたくないな、アイツとは」

 

 綾小路は偽らずに話した。

 

 そして、そこには期待が多分にあった――異常な能力を持つのは嬰児だけではなく、同じ相手を複数送り込まれる可能性は充分にあるが、殺した相手を操れる『死体作り(ネクロマンチスト)』は敵を裏切ること心配のない駒に出来る。

 

 もしも能力もそのままに使えるなら、あの男への対抗手段としては十二分に成り立つ。

 

 だからこそ牛井嬰児の全てを暴き知りたい――そしてまだ見ぬ外の世界に嬰児よりもヤバい奴がいるのなら、自分の味方として確保する方法を見つけ出す足掛かりにもなる。

 

「喧嘩ですか……だったら私には問題外ですね」

 

 坂柳の口調には些かの安心があった。

 

 肉体に大きなハンデを抱える身には割り込む余地はなく、自身の得意とする土俵で対等な勝負をして綾小路清隆に勝つと言う目標はどうにか崩れずに済んだ。

 

 そして直ぐに頭を切り替えて言った。

 

「先程、私を利用したいと仰ってましたね」

 

「ああ、言ったな」

 

「つまりその方は綾小路くんの完全な味方じゃなく、それを成すために私にも何か差し出せるものがあると?」

 

「話が早くて助かる。勿論、お前にもメリットは用意するつもりだ」

 

「じゃあ、私と勝負してください。綾小路くん」

 

「承る」

 

 互いに欲するものの為に即答し、とんとん拍子に話は進んでいく。

 

(順序が変わったが、まぁ修正範囲内だ)

 

 綾小路としては今夜の交渉は嬰児として坂柳に話を持って行くつもりだったのだが、嬰児の機嫌を取って話をしやすくなるなら悪くはない。

 

(目の前にいる私より、その方に対して気持ちが向かっている…………どうにも面白くないですね)

 

 一方の坂柳は自身の望んでいた展開になっているにも関わらず素直に喜べない歯痒さがあった。

 

 綾小路清隆と初めて会った日から、いつか再会し相まみえたい――それか二度と会わないかもしれない。そんな相反する気持ちを抱えながら過ごしてきた日々にようやく光明が見えたというのに全く知らない第三者に横槍を入れられている気分だった。

 

「それで勝負内容はどうする?オレとしては直ぐに準備可能なら今直ぐ……はちょっと勘弁してほしいから、明日でもいいが?」

 

「郷にいては郷に従え。折角ですからこの学校のルール、試験にのっとってその結果で勝敗を決めませんか?」

 

「オレはDでお前はA、差は一目瞭然だ。もしも縮まってからだと言うなら相当先の話になるぞ?」

 

「あら、良いではないですか。その方が盛り上がって勝負するにもテンションが上がります」

 

 そこで言葉を切って坂柳は身を乗り出すように綾小路に顔を近づけて愛しいそうな目を向ける。

 

「私はもっと時間をかけて綾小路くんを知りたいんです。

 ずっと会いたかった幼馴染と再会した気持ちなんです――簡単に決着がついてしまっては余りにも名残惜しいです」

 

「――――――――――――」

 

 初めて向けられる感情に綾小路は戸惑い言葉が出てこない。それでも何とか――

 

「じゃあ、オレから提案がある。

 8年ぶりに再会した幼馴染って設定を隠すのは無しにしないか?」

 

「良いんですか?」

 

 あまりに予想外すぎて坂柳も面食らう。

 

「ああ、お前が好戦的であるのは理解した。あくまでクラス争いとして勝負したいなら、その条件でオレの動き易いように立ち回るのは可能だ」

 

(そう、あくまで嬰児を篭絡するために余計な問題に関わらないようにする口実作りだ)

 

 そう自分に言って聞かせるも、それが明確な理由でないと訳が分からないモヤモヤが心中にあった。

 

「それでは私からもひとつ。幼馴染ならお互いに名前で呼び合いませんか」

 

「ああ、別に構わない」

 

「ありがとうございます。清隆くん」

 

「どういたしまして。有栖――いつでも来てくれとは言えないが、会うなり勝負時は正々堂々で頼む」

 

「はい。それではそろそろお暇しましょうか」

 

 坂柳は笑顔いっぱいで立ち上がった時、彼女の上に白い霧が降り注いだ。

 

「クシュッ!…………!?」

 

 肌が凍るような冷気を感じて思わずクシャミが出て、そのままバランスを崩して倒れそうになるのを綾小路が抱きかかえて支える。

 

(雪……この季節に?)

 

 綾小路は心中で驚きながら上空を見ようとした時、足元が凍っているかのような感触に足を滑らせ坂柳を腕に抱えたままバランスを崩した。

 

「「!!??」」

 

 どうにか踏みとどまったが抱きかかえられ制服の襟をつかんでいた坂柳に引っ張られる形で綾小路清隆と坂柳有栖の唇が密接に重なった。

 

余りの驚きのあまり――ガッシャーン!!――と手を付いていたテーブルがひっくり返って店中並びに近くを通っていた生徒、職員の全員が二人の濃厚なキスシーンに注目した。

 

「「「きゃー!!!だいた~ん!!」」」

 

「仲がいいのは結構だけど場所を選べよ」

「くっそう……見せつけやがって」

「ってかあれ坂柳だよな。一緒にいるの誰だ?」

 

 主に女子からは黄色い悲鳴、男子からは僻みの声が沸きあがる。

 

(…………これでオレの目立たたない平穏な学生生活は終わったな)

 

 唇を放して冷めた目で状況を把握している綾小路だが心臓は感じたことないテンポで早まっており、腕の中の坂柳は凄まじく幸せそうな顔で呆けていたのだった。

 

 

 

 ***

 

 

 

 おお、なんとも盛り上がってんな。

 

 遥か上空、一万メートルで俺は眼下での騒ぎに困惑していた。

 

 椅子代わりに座っているボトルには『申』の仙術で精製した液体水素が入っており、『辰』の『天の抑留』を使い鳥も上がってこない空の上で月を見ながら酒を飲んでいた…………未成年だって、そもそも俺は人でないし――。

 

 何より酒好きの『寅』への供え物と言えば酒の購入は言い訳が立つし泥酔するほど飲むつもりもないし、『魚』に習ってその前に止めるラインは弁えている……よって問題はなし……ダメだったら、綾小路に貸しでも作るか。

 

 とか思っていたら何やら綾小路があっちこっちを右往左往していた。目で追っていたら、なんと坂柳と一緒に飯を食っているではないか。

 

 鷹の目ならぬドラゴンアイも本家の『辰』ほどの制度ではないため少々ぼやけてしまい、それでも何を話しているのか気になって、つい身を乗り出したらボトルから液化水素が僅かに漏れてしまった。

 

 やはり、安物の入れ物なんかに入れるべきじゃなかった。この距離からの落下なら人体が氷漬けになることないだろうが、奇しくも坂柳の真上に落ちてしまい綾小路とバタバタして熱いキスを交わした。

 

 アクシデントであるが俺が原因なのは100%明らかであり、今後の二人の学生生活への影響を考えるとかなりの後ろめたさがあった。

 

 坂柳は兎も角、綾小路にはお詫びとして二つほど能力を開示しようか?いや、アイツのことだから調子に乗って踏み込んできそうだし……………………ああ、ホントにどうしたのもか?

 

 ん?

 

 途方に暮れてたらキス騒動とは別の場所でひとり自撮りをしている女子がいた――確か同じDクラスの佐倉だったか?

 

 自撮り自体は別にいいが佐倉の見えないところからジッと見ている男がひとり……恰好からして教師じゃなくて職員かな。表情まではハッキリ分からないが、まず間違いなくストーカーの類に見える。

 

 佐倉本人は気付いてないようだし、まだ実害はなさそうだが――さて、どうしたものかな?

 




 書いててなんですが、未成年の飲酒は犯罪ですのでやめましょう。
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