どうしても叶えたい願いの為にその気になる綾小路と、別にどうでもいい願いでなんとなくいるオリ主 作:a0o
放課後、ケヤキモールのカフェ。
既に揃って居るA、C、Dの代表メンバーにBの代表たちが合流した。
「すまない。遅くなった」
神崎が詫びるが誰も気にした様子はない--龍園も今は時間が惜しいと思ってるのか、早く座って始めろと言う様な圧力が目にあった。
「にゃははは。もう怖いなぁ~、そんなに眉間に皺寄せちゃって」
「…………真面目な話で集まったはずよ、一之瀬さん」
茶化しに来るのを堀北が制したが、
「ふふ。すっかり堕ちてしまったって演出ですね」
坂柳が混ぜっ返す台詞にそれは叶わなかった--当の一之瀬は笑顔で席に着き言う。
「だって~。そうでなきゃ、やってられないよ~。特にこの話するならね」
「けっ、何をふざけた事を。てめぇが始めたことだろうが」
「龍園くんの言う通りだよ--不貞腐れるのは似つかわしい場じゃない」
「あれれ~。櫛田さん、もしかして嬰児くん盗られるかもとか思ってたりとか?ある意味、龍園くんより怖いよ」
「一之瀬氏。元々が被害者だからと言って調子に乗り過ぎですよ」
「私も金田くんに同意します--そして龍園くん同様に早く本題に入りましょう」
金田、椎名とCは固まっており、Ⅾの堀北、櫛田、綾小路にAの橋本、神室も同感だと言う顔だ--これには神崎と渡辺も同意の様で申し訳ない顔で席に着く。
「まあまあ。一之瀬さんだって大変だったんですから、少しは察してあげましょう」
ただ唯一、坂柳だけは違う様でいつも通りの不敵な笑みに同情を滲ませながら寄り添うような台詞が出た。
そこには同じ牛井嬰児に振り回された者としての共感があったのかも知れない--これには一之瀬は複雑な心境で、この場に来て初めて表情を崩した。
(ありがとうと言うべきか、少し皮肉でも返すべきか?)
内心での迷いは表情にも出ており、ここに居た全員が何とも言えないものを察する--坂柳の言った通りに。
すっかり悪い意味でお茶を濁す展開になってしまったが、いつまでも不毛なやり取りは誰もが好む訳も無く、パンパンと手を叩く音に注目が集まる。
橋本は皆の目が集まった瞬間にくだけたように言う。
「前座はここまでにしよう--そこまで雑談する時間もある訳じゃないし」
「そうね、時間は有限。単刀直入に本題に入りましょう」
堀北が主導権を取る形で話の流れが切り替わり、一同は安堵した気持ちになった--特に上手く話を繋いでくれたと橋本は堀北に好意的な視線を送る。
「早速だけど、Ⅾクラスは1か2の選択肢で決めかねてるの--だからどちらかを選ぶ方に着くつもりよ」
「ハハッ、仕切り始めたかと思いきやいきなり丸投げ宣言かよ」
「龍園氏の言う通り、締まらない出だしですね」
「はい。もう少し盛り上がる言い方にした方が」
Cクラスからは早速不評を得たが、堀北は気にした素振りも無い--寧ろそれも仕方ないと開き直りとも思える態度で答える。
「勿体ぶったって変わる物じゃないわ--何より当事者を抱えている身としては慎重にならざる得ないもの」
「尤もらしいこと言ってるが、それを言うなら一番の被害者である
「橋本、今回の件で一番は一之瀬だ。更に言えば意味は違うが当事者でもある--勝手に話を進めないでくれるか」
始まって早々に纏まりのないものに話に加わらなかった面々は‶どうなるものか〟と溜息を付く無くなる。
そしていつまでも不毛なやり取りに興じている時間はない。
「問題の牛井は結局来ないのか」
「クラスでの話し合いが終わったら、取りつく島も無くさっさと帰った--自分の意志なのか、そうでないのかは分からないがな」
「うん。自分の意志じゃない場合は残酷だよね--完全に物扱いだし」
綾小路に被せて櫛田が自分の意見を出す--ただそこに込められた感情は同情とはかなり違うものだった。
「にゃはは。櫛田さん、嬰児くんが心配じゃないの?」
「一之瀬さんもストレート来るね……完全に良い人辞めちゃったの?」
「私は欲得ずくじゃないけどね。嬰児くんの知ってる平和主義者の聖人さんと比較されて見られるのは完全に終わりにして欲しいの」
「だったらさ、嬰児くん自身を開放してあげるのに持って行った方が良くない?」
「同感。気が合うね」
話の流れを持って行きそうな展開に橋本は割り込もうとしたが、坂柳が興味深く一之瀬を見つめているのに気付き躊躇してしまう。
そして気付いたのは一人ではなかった。
「どうかしたのか、有栖?」
「いえ、一之瀬さんがあの方と通じるのかと思いまして」
「え、坂柳さんも知ってるの--嬰児くんの本当の意中の人?」
改めて考えれば大して不思議でもない--しかし全くの予想外の情報に注目が集まった。
「噂話程度ですが--勿論、直接会ったことはありません。
ただ今の時代で最も多くの人間を救った--救国の英雄と、その筋では名高い戦士だと」
「へぇ~。嬰児くんから聞いた時は少し盛ってるかなとも思ったけど、本当に凄い人なんだね」
一之瀬の感想に坂柳は目を細めて言う。
「ええ。本当に大好きだったのは話していて分かります--だからこそ貴女にも興味を持ったのでしょうね」
「素直に喜ぶ気になれないなぁ」
「心中はお察しします--それで話を戻しますが、Bクラスは2の選択肢が希望でよろしいですか?」
「まだ本決まりじゃないけどね--皆、特に龍園くんは違うでしょ?」
「当たり前だ。牛野郎に対して有利になれる材料を簡単に捨てられねぇ」
その台詞は誰もが予想通りのものだが、納得しきるには丸で足りない--特に櫛田は誰よりも真剣なニュアンスで訊いた。
「龍園くん……本当に最悪の事態になる可能性あるの分かってる?」
「ビビり過ぎなんだよ、桔梗。本命はもっとデカい獲物だ--この程度のリスクも負えなきゃ目端にも入りゃしねぇぜ」
「……じゃあ、更に訊くけど。アンタは嬰児くんの上に立って何が欲しいの?」
「んなもん手に入れてから考えりゃいいさ--人生の中で巡ってきた奇跡の様なチャンスだ。挑もうとしない奴なんぞバカだ」
言わんとすることは分からなくはない--それぞれに抱いた気持に差異はあれど、嬰児のバックにある力に興味を持てない訳がない。と言う程度のものじゃない輩がこの場には
「……聞き方を変えるね。もし‶どんな願いでもたったひとつだけ叶うなら〟何を願う?」
「なんだそりゃ?」
「何かの思考ゲームか?」
龍園だけでなく質問の意図が分からないと聞き返すが、答えは他から出た。
「嬰児くんが時々言う台詞ですね--私も以前訊かれました」
椎名が懐かしむように言う--同時に嬰児の願いも思い出し再び一之瀬に注目する。
一之瀬は怪訝な顔をするが、綾小路がフォローを入れる。
「嬰児はさっきの聖人を生き返らせたいと言ってたんだったな--神を求めてるのも案外その辺が起因してるのかもな」
「ケッ、真面目に聞いて損したぜ--んな意味のねぇ問答は他所でやれ」
不毛だと流れそうになるが、
「違うよ。具体的にどの程度の欲を持ってるか--覚悟のほどを知りたいんだよ」
「ほう。だったらオメェはどうなんだ--人に訊くなら先に答えろよ」
「私は名誉か称号とかかな--それも世界一どころか、未来永劫超えられるものが無いって程の絶対的な」
「ガキみてぇに世界征服して女王様になりてぇってか--結局、フワフワしてるじゃねぇか」
龍園の感想に皆が同感だと言う顔になるが、櫛田は気にした風でもなく意味深な笑みを浮かべる。
「そうだね。でもそんなバカげたことだって可能かもしれない--それ位の期待を持てるって確信はあるよ。だよね?」
そしてその目は綾小路と坂柳に向く。
「嬰児の言葉と態度を見れば、そう信じるに値するかもな」
「本当に何でも出来るくらいの大きさはあると思いますよ」
二人から出た言葉は曖昧なものだったが、それでも肯定であることには変わりなく、一概に一蹴出来なかった。
「ほう。俄かには飲み込めねぇが、ホントに何でも叶うなら--そうだな、歯ごたえがあって強い奴を世の中に溢れさせてぇな。そうすりゃ、退屈しねぇ」
龍園らしい願いだが、それならばと綾小路は口を開く。
「……龍園。嬰児曰く、世界は広いそうだ--練り歩いてけば、いくらでも有るんじゃないか?」
「バカか。んな簡単で会えるなら苦労しねぇよ--つっても牛野郎みたいに誰かに飼われて用意されるなんてもの癪だ。だから俺がてっ辺を取るんだろうが」
「フフ。面白い解答ですね--もし本当に実現できたなら彼も大喜びでしょうね」
坂柳が皮肉でも無く素直に賞賛を贈る。
「坂柳、何か俺らに言ってねぇことがねぇか?」
「さて、どうでしょう。あったとしても私の口からは何も言えません」
意味深な態度に威圧を込めた追及が来そうになったが、
「そこまでにしよう。いい加減に話が逸れてる」
神崎が仲裁に入り、龍園の
「そうね。この話し合いの理想の締めは全会一致で退学者を出さないこと--その上でクラスの利益を追求する有意義なものにしたわ」
堀北も賛同を示し、余計な問答はこれ以上無しだと牽制して来た。
「にゃははは。じゃ、改めて整理すると
「私たちは無難に1です」
「俺たちは当然3だ。これは予想通りだろ?」
全クラスの希望が揃った--見事にバラバラであり、今のままではCは退学者だけが出て、AとBもⅮの選択次第だ。
しかし、これもまた不測の事態な訳も無く、各クラスの代表たちは相手の出方を見ながらどう自分たちの意見を通すかに切り替わる--ここからが本番だと言わんばかりに。
「嬰児くんの為を思うなら2がいいよね--それでも干渉が無くなる訳ないから、力になってあげられるクラスに身を置くのがベストだと思うな」
「要はBクラスに制限をなくした猛獣を入れると?
ハッ、オメェ等に飼い馴らされるのか、甚だ疑問だな?」
「私だって、そうなれば覚悟を決めるよ--何より散々振り回されたんだから、その分の借りはキッチリ返して貰わないと割に合わないよ」
その言葉は決してハッタリではない--と暗い輝きを宿した目が物語っていた。故にそれ以上の追及は無かった。
ただ別の懸念を持つ者も居た。
「あのお二方--盛り上がっているところ何なんですが2を選んだ場合、お二人と言うか皆さんの考えてる展開にはならないと思いますよ」
「どういう事、坂柳さん?」
坂柳から出てきた台詞に‶何を知っているんだ〟と注目が集まる--その意思を代弁するかのように堀北が即座に反応し問うた。
「再び水を差すようですが、これは私の勘ですので何がどうとは言えません--ただ言って置いた方がいいかと思ったまでです」
この返答が嘘か本当か確かめる術はない。
仮に事情を知っていてのものだとしても口止めされているだろうし、その前提で口を割らせてもそれが真実かどうか--また強引な手段を用いることは彼女の旦那が全力で許さないだろう。
下手をすれば血を見ることになる。
(ま、それもそれで面白そうなんだけどな)
龍園はそれとなく綾小路に目を向ける--嬰児の陰に隠れがちだが、体育祭で見せた身体能力に格闘能力。明らかに訓練を受けた実力者であり、当初最大の獲物と定めていた坂柳が固執していることも含めて戦ってみたい。
更に言えば坂柳と違い自分の得意とする土俵で遠慮なくやれると言う思いも手伝い、無意識に闘争心が高まっていく--瞬間に透かさず、
「私の方が先約です--横破りは駄目ですよ」
怜悧な笑顔を向けて来た坂柳の言葉が刺さった--それ見て龍園の
「いや悪い悪い。余りにも美味そうなのが出て来てついな--ってか、次から次にご馳走が出て来て目移りしちまうぜ」
「それはさぞ贅沢な心持ちですね--ですが、清隆くんは私のです。獲るのは許しません」
坂柳としては戦うべき敵、獲物だと言ったのは理性では分かる--が、台詞からは二人の関係性がどうしても真っ先に浮かび、場の空気は一気に白けた。
「…………あのさ、さっきも言ったけど惚気るなら帰ってからにして」
神室の突っ込みに無言の同意が広がる--例外は坂柳の亭主で、何を思ってるか分からない無表情で目を逸らした。
「んん!」
堀北がお約束な咳払いで仕切り直しを図る。
「話を続けましょう--正直、坂柳さんの言い分は不明瞭だけど、無視できないのが心にあるわ。そうなるとⅮクラスとしては1の選択肢を選ばざるえないわね」
「ま、無難だな--ちなみにAもその意見で一応の纏まりは付いた」
橋本がクラスでの焼き直しのようだと言う心証を抱きながら、自クラスの結論を述べる--これによって半数、もし坂柳の懸念に乗る流れなら全てに片が付くと期待を込めてBとCを見る。
「そっちはどんな感じなんだ?」
「あ~、今のままじゃ退学が出るだけの損しかないねぇ。でもこれで足並み揃えるのは、ちょっと面白くないよね」
「ほう。一之瀬の口からそんな台詞が出るとは思わなかったな--かく言う俺も同じ気持ちだがな」
一之瀬と龍園の意見が一致した--確かに珍しい光景にAとⅮだけでなく同席している自クラスのメンバー達も些か驚いた。
特にBとしては1の選択肢でも落し所としては文句なく、趨勢が決した後でCを説得するか、出来なくても何処まで少ない損失で入札を勝ち取るかに移りたかった--それだけに波風を立てるかの一之瀬に感じていた危うさが増す。
(事と次第によっては、本当にクラスのリーダーから降りて貰うのも考えなきゃいけないか?)
特に神崎の危機感は大きく龍園と手を組む流れもそうだが、このままより危うい方向にクラスが行ってしまうのではないかと漠然とした不安が生まれた--ただそれもAクラスになる為であれば飲み込むべきなのかとの葛藤もあり、無言で様子を見定める。
「坂柳さんの勘だと2は選べない、それで1もとなると
「俺らの方に合わせるってなら寧ろ歓迎だな--ただそうなると二対二でそれぞれが戦うことになる」
つまり結局は敵だ--と敵意と愉悦を込めた視線を向ける。
「四クラスの入札による戦いか--それでも勝ち残るのはひとつ、絶対に負けられないね」
「おいおい、リスクが高いなら不要なのを切るくらいは言えよ--調子が狂う奴だ」
「にゃははは。それじゃ何も変わらないでしょ--やるなら何かしらの利益、欲を言うなら絶対的な武器を手に入れるぐらいじゃなきゃ」
今回の一之瀬は本当に好戦的だ--この場に居た全員が再認識し、一之瀬に対する認識を改めて臨まなければならないと頭を切り替えた。
「利益を望むなら尚更1でも良いんじゃないかな?クラスで戦うのは直ぐなんだし」
「櫛田さん。問題をずらして丸め込もうとしてる?」
「あっそ。じゃ、もうぶっちゃけ言うけど、3を選んだ時のリスクはアンタたちが考えてる程度じゃ済まない--マジな話、殺されるよ」
櫛田は切実に言い切った。
「貴女も面と向かって殺すと言われた口ですか?」
これに椎名が最も反応し訊く--その内容に櫛田は船上試験で龍園が出した話題を思い出す。
「そっか。嬰児くんと問答した人って椎名さんだったんだ……見た感じ、そっちはただの警告だったみたいだけど、アイツは本当に恐ろしいよ」
「重々承知してます。たからこそ興味もあるのですよね?」
「うん、そうだね……あんなに恐ろしい奴が逆らえないでコソコソ動かなきゃいけないなんて…………」
切実さから一転、櫛田の声に愉悦が混じる--表情にもいつもの櫛田では考えられないどす黒いものが宿り、観ていた神崎は一之瀬同様に牛井嬰児に色濃くやられたと悟った。
「何があったかは訊かないが、常識で測るのは危険なのは伝わった--良くも悪くもな」
「へぇ、神崎くんも嬰児くんのバックに興味出たの?」
「いいや。俺としてはまず目先の問題を片付けたい--話を戻すが、リスクを色々と考慮して全会一致で1を選ぶのが落し所として最適だ。要は今まで通りだが、それじゃ納得できないし、勿体ないと--それがネックになってるでいいか?」
一之瀬並びに龍園を見て問う。
「当たり前じゃん。この前みたいなことが、何度もあったんじゃ堪んないよ--それは坂柳さんの方が痛感してるんじゃないの?」
「私はどうなっても変わらないから、どうでもいいです」
同意を求めた一之瀬に坂柳はあっさりと本音で返す--場の空気が一瞬白けたが、別に不思議でもないと気を取り直して続ける。
「それならこっちで勝手に進めて行くけど、私としては二度と嬰児くんの都合で振り回されたくない--振り回されるにしても我慢に足る何かが欲しい。パッと思いつくのはAクラス卒業の為かな」
「小さいぜ。牛野郎のバックはそれ以上の価値だ--俺はそれに喰い込めるに足るインパクトを手に入れるチャンスだと思ってるんだが。そっちはどうなんだ桔梗、それに綾小路--やっぱ命が惜しいから見送るか?」
龍園の挑発的ニュアンスに二人はそれぞれの考えを返す。
「私は目先の快楽より明確な実利を取りたいかな」
「オレとしては、嬰児を開放する方向に持って行きたい--済まないがお前らの考えには沿えないな」
「ケッ、どいつもこいつも詰まんねぇ限りだ」
龍園は悪態をついたが、その目にあるのは不満ではなく明確な敵意だ--綾小路、櫛田双方とも嬰児を手元から離す気は無いと語っており、龍園同様に嬰児の背後にある力に誰よりも欲している。
とどのつまり、後から出て来てしゃしゃり出るな--二人の目はそう言っていた。
進路を思い通りに出来るAクラス卒業以上の絶大なる力--欲することに異論はないが命を懸けて、ましてや他を巻き込んでまでは考え物だ。
そんな心境に誰よりもなっている堀北は不味い流れを断ち切り、なんとか穏やかに済ます落し所が無いものかと考えを巡らせる。
(地道に一歩ずつ--なんて正論なんかじゃ、耳を傾ける事すらしないのは目に見えてる。かと言って先延ばしに持って行くのも無理か)
嬰児自身がいつ何時、どんなことになるか分かない--今までの特例も今回の試験にしても外部からの干渉がどんどんあからさまになって来ているのだ。
浅はかな希望を述べるのは寧ろ逆効果だろう--そしてここまで考えた時に一之瀬や坂柳の気持ちが少し分かった気がした。
「貴方たち……欲に溺れて酔っぱらってると嬰児くんの事が無くても潰されかねないわよ」
「なんだ鈴音--オメェも詰まんねぇ正論で来るか?」
「悪いけど酔っ払いに説教なんて無駄な事はしないわ--そんなに命を粗末にしたいなら、これを機に退学して貰うのもいいかと思っただけよ。幸いこの後も含めて二回もチャンスはある訳だしね」
「ほう」
堀北の大胆な発言に場の空気が一遍に変わった。
「……退学ってのはオレや櫛田もか?」
「貴女の場合は坂柳さんに任せたいわね--約束はもう直ぐなんだし、終わったら面倒見て貰えると助かるのだけれど」
「堂々と丸投げしてきましたね……本当に良いんですか?」
「ええ。そもそも信じられないのだから、この際ちゃんとした形にしてくれた方がスッキリするわ」
つまりは綾小路をAクラスで引き取れ--大きな戦力低下になるが、もうその方がマシだと言っている。
この主張に橋本は大いに心躍らせ、期待を込めた目で坂柳を見る--ただ乗り気とは言い難い顔にもうひと押し何かないかと自らも話に入ろうとしたが、
「櫛田さんも嬰児くんの隣に立ちたいのは構わないけど、命が大事なのを見失うほど気が違ってないでしょう--それは一之瀬さんも同様、ちょっと所の騒ぎじゃないのは分かるけど異を唱え戦うなら、もっとスマートなやり方を模索してからでもいいない?」
続いて理性を保てと他を説得しに回ったことで出端をくじかれた。
「それとも今直ぐに戦わなきゃいけない事情があるの?だったら話してくれないかしら」
Bのメンバーも堀北の押しに同調する。
「そうだ、一之瀬--牛井に腹が立ってるのは理解するが、明らかに判断が曇ってる」
「冷静にとか、落ち着いてと言うのは無理な相談かも知れませんが、せめて自制心は取り戻してくれ」
「それは心外だよ--私は自分の欲の為に他人を巻き込もうなんて思ってないし、増してや勝つ為なら何でもしていいとか自分勝手な考えなんて端から持ち合わせて居ないよ」
一之瀬は他クラスの面子の一部をそれぞれ見ながら言う--当然、相手も黙ってはいない。
「何言ってやがる--今のお前はどう見たってそんな感じじゃねぇか」
「ええ、ストレスが進行しすぎてタカが外れてるとしか見えません」
「まぁ、それも仕方ないと思うから黙ってたけど、そんなこと言うならこっちもね」
龍園、坂柳、櫛田とそれぞれのクラスからの反撃と正に喧嘩の一歩手前の状況--ただ発端とも言える堀北は慌てることなく毅然とした態度で更なる一石を投じた。
「皆、思うところがるのは別にいいけど--戦うなら正式な場でするべきじゃ?そしてそれはこの場でもこの試験でもないはずよ」
戦うなら本来の学年末試験でやるべきと言う主張--ど真ん中の正論であるが、威力としては弱いと言わざるえない。
現に指摘したことに対して、誰もが白けたと言うった顔だ--付け加えるなら、それ以上のものもある。
それを堀北は読み取って口にする。
「その程度の事しか言えないなら黙ってろって顔ね--なら最後に言わせて貰うわ」
全ては計算済みであり、注目を再度集める為--そんな演出を見せたことで自然と耳を傾けさえた。
(堀北も中々に強かになったな--少しどうなのかと思ってたが心配はなさそうだ)
綾小路は心中で成長を称賛し、リーダーとして不安定な姿を見て抱いていた気持ちを払拭できる--そんな期待を込めて堀北が何を言うのかを見守る。
「Ⅾクラスは1の選択肢を選ぶことに決めたわ--例え三対一になって退学者を出さなきゃいけなくなったとしても、その時は嬰児くんを選ぶ。彼が黙って受け入れるとは思えないから、その時は全力でサポートするわ」
選択肢を定め、当初クラスで決めた方針を伝えた--正に勝負に出たのか、宣言通り無言になりそれ以上は何も言うことも、これ以上は口を挟むつもりも無いと引いて見せる。
場の主導権は宙に浮いた--堀北の言った方針に合わせるか、撤回させて自分たちの思う選択肢に持って行くか。
ただそれをしても所詮は口約束程度だ--日も完全に暮れて来たのも手伝って、いつまでもと言う訳にはいかない。
「ほう。中々に大胆に来るじゃねぇか--それで確かAも1って話だったな?」
「ええ。正直私はどうでもいいので、流れ的にも1でいいと思ってます」
「つまりこれで二クラスが1って訳だ。でもって俺らCクラスは3で行きたい--これが通る為の方法はひとつしかない訳だが、一之瀬たちはどうなんだ?」
龍園はニュアンス的に自分達に同調しろ--とは全く言っていない。寧ろ、そうしなくても全然構わないと言う風にも取れる態度だ。
全てはBクラスの選択次第で1か3になる--ただ、どちらにしても全クラスに損失が出てしまう。望ましい展開ではないが、想定外と言う訳ではなく--犠牲を出さずにするには入札で勝つのみ。
そうなると
(どちらにしてもAクラスとの競り合いになるなら損失は大して変わらない--なら
神崎は敢えて冷徹な論理を組んだが、いくら今の一之瀬でも認めるとは思えない--つまりは絶対に勝つしかなく、クラスポイントの大幅な後退が避けられないとジレンマに陥ってしまった。
「う~ん。仮にだよ--3を選んで入札となった場合、龍園くんは勝ちに来るのかな?」
「さて、どうだろうな--魅力的な選択肢なのはそうだが、目的を見失っちまったら意味ねぇしな」
「にゃははは。なんだか3を選ぶのも怪しくなって来たね」
「それは全員がお互い様だろ--事が事だけに書面での約束なんてする気も起きねぇ。口約束なんてどうとでも言い逃れができる」
堀北や坂柳の宣言も信用ならない--遠回しに指摘してみたが、双方は全く何も言わない。
「ククク。これ以上は時間の無駄だな--じゃ、俺らは帰るとするか」
龍園に合わせて金田と椎名も立ち上がる。
「一応、言っとくが俺らが3を選ぶのは本当だ」
「そうですね。クラスの総意としては、ほぼ固まってますし」
「誰かとお別れしなければならなくなったなら悲しいですが、最早どうにもならないようですし」
去って行くCを見送りながら次にAが立ち上がる。
「ちなみに私たちもそこまで積極的ではありません。退学者の候補は葛城くんで決まってますので」
坂柳の台詞は信憑性を増すものだが、ハッタリの可能性も否定できない性質が悪いものだ--それを苦々しく思いながらⅮとBも席を立つ。
「本当にどうなるかは未知数ね--出来るなら全会一致で終わる結果になって欲しいけど」
「じゃ、前言撤回かな、堀北さん?」
「いいえ。方針は変わらない--Ⅾクラスは1を選ぶ、そちらの返答はいいわ。無駄に混乱するだけだし」
「うん、そうだね。実際問題、ギリギリで心変わりするかも知れないしね」
十二分な揺さぶりをかけて帰っていく一之瀬たち--話し合いに意味がなかった訳ではないが、誰かを切る事か大きくクラスポイントが無くなるか。
更なる波乱が起こることが確定となった。