どうしても叶えたい願いの為にその気になる綾小路と、別にどうでもいい願いでなんとなくいるオリ主   作:a0o

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もう喋っていいですよ。

 

 同時刻、理事長室--俺は見知った顔二人と対面していた。

 

「久しぶりですね。牛井嬰児くん」

 

「ええ、大晦日以来ですね。ええっと?」

 

「はは、まだ名乗ってませんでしたね。この度、理事長代行を務めることになった月城と申します」

 

 なんとも癪に障る笑顔だ--隣に立ってるドゥデキャプルといい勝負だ。

 

「フフフ。ご機嫌麗しゅうとは行かないようですな--しかし折角拾った命ですので、もう少し喜ぶべきと思いますが」

 

「やっぱり居なくなる予定だったんですか?」

 

「あくまで可能性の話ですよ--不快な思いをされた生徒さんの陳情は無視できませんから」

 

 ただの口実なだけだろうに抜け抜けと。

 

「だとしても一之瀬をダシにするような事で喜ぶ気にはなりませんよ」

 

「ははは。噂通り彼女にはぞっこんですか--ならばもっと積極的になってもよかったのでは?」

 

「青春を謳歌なんて出来る訳ないでしょうに……特に今の一之瀬とは」

 

 全く今思い出しても苦々しいものだ。

 

 

 

「だから答えてよ。どんな私で居たらいいの?」

 

 一之瀬帆波からの逃げることが許されない問い。それに俺は、

 

「俺はお前に限らず誰の人生にも責任は取れない--俺自身に関してもだ」

 

 と前置き……アリバイ作りの言い訳でしかないが、それでも言えと向かい合う一之瀬は無言で待つ。

 ここまでの美少女に見つめられるなんて普通なら喜ばしきことなのに……全然そんな気分になれないよ。

 

「それでも俺の言う通りにするって言うなら、もっと遠慮なく向かって来て欲しいかね --それで一之瀬帆波って言う人間を見せて欲しい」

 

「要するに今の私が好みってこと」

 

「……いやだからそう言う事じゃないって、そもそも。彼女とは違うってことを明確にしたいだけ……ただの我儘だよ」

 

 そう言うと一之瀬の目から光が消えた……いや暗い輝きを宿したと言った方がいいかね。

 

「結局は聖人さんに行き着く訳だ--どこまでも綺麗事を貫かない格好悪いのが見たいなんて趣味が悪くない?」

 

「なんだ、俺好みの女になってくれって言って欲しかったか」

 

「さて、どうかな--参考までに聞くけど、嬰児くんは結局聖人さんを女性としてどう思ってたの?」

 

「恋愛感情はない。あくまで、その在り方に惚れただけだ--敢えて言うなら親友を通り越した戦友と言う感情だな」

 

「ふ~ん。じゃ、女の子と付き合いたいとか口説きたいとかはどうしたら思う訳?」

 

「…………あのさ、この話題何処まで続くんだ?」

 

「だって、そう言う時期でそう言う話だから、こんな事になっちゃったんでしょ--私には聞く権利があると思うけどな?」

 

 痛い所を突いて来るな--正論であるだけに反論も出来ない。

 

 だから少し考えて見るか--結婚を考えていた『申』とハーレムを願っていた『亥』と既婚者でもあった『未』、学生には似合わないケースばかりがベースだが無いよりかはいいだろう。

 

 俺自身が興味を持てる女性像--母性溢れる家庭的、天真爛漫な輝きを持つ、妖艶な色気を持つ、もっと単純に容姿や体形が色っぽいとか?

 

 ざっと思いつく限り並べてみたけど、どれもピンとこないな。

 

 ので視点を少し変えて見るか。万年ラブラブ状態と言ってもいい綾小路清隆と坂柳有栖をトレースしてみて………………全然イメージが進まないな。と言うか余計に俺の意識から外れた無意味なものになって来ている。

 

 一旦、全部クリアにしてシンプルに考えよう。

 

 とは言うものの、俺の人生なんて一年も無い--全く好感が持てない戦犯の願いを叶える為、十二大戦のケジメをつける為と生み出され。

 この学校に放り込まれてからもいつ何時消されても可笑しくない状態の下、今日まで過ごして来た--殆ど何でもありが暗黙の了解となってる特別試験や場外乱闘有りの学校生活の中、特例を次から次へと与えられ特に異質な存在として奇異な視線に晒され続ける毎日。

 

 まぁ、異質なのはその通りだし普通なんてものを求めても居ない……と言うか『子』の記憶と照らし合わせて、ここまでぶっ飛んでる学校に何を求めようと言うのか?

 

 ひと癖も二癖もある連中との掛け合いは面白くはあったが、やはり十二戦士たちの経験と比べると見劣りしてしまう--政府主導との謳い文句も『世界の現実』に一石を投じられる人材を見出す為とかの大義があったりするのかね?

 

 ……ととと、またまた思考が完全に外れてしまっている。

 

 今は俺がどんな女を求めてるかだが…………

 

「……俺の魂を揺さぶり、命と誇りの両方を賭けるに値する相手」

 

「なにそれ?」

 

「俺も自分で言っててなんだと思うが……俺が求めてるのって結局は…………強い相手と戦う戦場でしかないのかね」

 

 戦犯共の横槍で無茶苦茶にされた第十二回十二大戦--十二戦士たちを生き返らせて仕切り直すこと。

 

 流石にここまで言えないから、お茶を濁すような表現になっちまった……当たり前のことだが一之瀬は怪訝顔だ。

 

「要するに龍園くんや坂柳さんと同じで戦ってさえいられればいいってこと……嬰児くん、平和主義者さんが好きだったんだよね?」

 

「彼女は世界最強とも言ってもいい戦士だからな--そんな実力者だからこそ綺麗事にも耳を傾けざるえなかった。

 この学校に居る連中も大概だが、それでもただの怖いもの知らずの学生ってのが正直な感想だ」

 

「嬰児くんだって学生じゃん……それともそんなのは仮の姿とかイタイこと言ったりするの?」

 

 それは流石に小っ恥ずかしいな--学生やる為に生み出されたから、当たってるとも言い難いし。

 

 何よりそれは、

 

「これが綾小路当たりなら‶オレは普通の高校生だ〟とか言ったりしそうだな--アイツもただならぬ事情を抱えて、この学校に来たみたいだし」

 

「ちょっと話を逸らさないで。今は嬰児くんの事でしょ」

 

 ははは、物凄く不満顔だ--これはこれで可愛いけど。それでも、

 

「!?」

 

 一之瀬の頬に手を添えてジッと見て見た--ビックリして固まったが好都合だ。

 

 学校一と言っても過言ではない美少女の顔を更にじっくりと見せて貰うこと十二秒、

 

「やっぱりそそられないな」

 

「むぅ!」

 

 パン!

 

 と勢いよく俺の手を振り払った--怪訝、不満を通り越して怒りは頂点に達したか。

 

「私ってそんなに魅力ないの」

 

 

 

 

 と、そんな台詞でも出て来るかと思ったが--最早、殺意すら感じる視線を向けて出て来た言葉は、

 

「もう完全に頭に来た--『惚れさせてから殺す』一之瀬帆波が」

 

 だった。これは一体何の因果か--勿論、殺すなんてのは方便の類だろうが、ただどうせなら殺すの前に肩書きもプラスしてくれれば完璧だったんだが。

 …………ああ。俺自身がこんな宣言をされる日が来るとは思わなかった--この名乗りは殺し合いの儀式。俺はどんな肩書きを持って--どう殺すと言えばいいのかね。言い表せない高揚感に笑みを作るのが分かる。分かってても止められない--叶うなら、望めるなら、血の匂いに今直ぐに酔いたい。

 

「……殺すか。出来るのか、お前に?」

 

「やる--絶対にやる」

 

 一之瀬はまっすぐに俺を見て……小っ恥ずかしいが俺だけしか見てない暗い瞳には、愉悦に浮かれてる顔した俺が映っている。

 

 普段なら俺を使いAクラスになってその先は?と訊くだろうが、今そんな気は全く無い--寧ろそんなのは無粋だとすら思えて来る。

 

 今の俺は凄く分かり易いかね--きっと一之瀬もそう思い、俺の心を把握したと思ってるかね。

 

 その顔に絶対に許さないと書いてある--女としてのプライドなのか、善人を捨てさせたことへの復讐心なのかは分からないが。

 

 なんであれ異存はない。

 

 もとより使い捨ての道具でしかない身だ--十二大戦を彷彿させる感覚を提供してくれるならこれ以上の喜びはない。

 

 

 

 

 

 思い返しても一之瀬に変なスイッチをいれてしまったのは痛恨のミスだ--あの手のタイプは挫折を味わって迷いの中から這い上がってくのがセオリーなのに。

 

 全く世の中何がどうなるのか、訳が分からないことばかりだ。

 

「貴方の望みを汲んだつもりだったのですが、お気に召したようで何よりです」

 

 月城理事長代行がニコニコしながらの言葉に引き戻された--隣のドゥデキャプルはいつも通りだが、何故だか面白そうにしてるように見えるのは俺の気持ちの問題かね?

 

 ただ、だからと言ってありがとうなんて言う様なことじゃないし、そのつもりも無い。

 

「俺の気持ちなんて、どうでもいいでしょうに--客観的に見れば俺が消える展開が理想的だったのでは?」

 

「勿論、裏はありますよ。こちらも慈善事業で手を差し伸べるには相手が悪すぎますからね--いや寧ろ絶対に敵にしたくはないですね『あの方々』とは」

 

 賢明な事だ。そして言外に俺はどうなんだって含みが透けて見える--そっちの思惑を絡めてくれたことに感謝しろか、少なくとも表面上は。

 

 生憎だが無くして惜しい命は持ち合わせてないぞ。

 

「ちなみに選択肢2が通った場合、この学校の状況は少しはマシだったのか、それともより荒れていたのか、どっちだったんですかね?」

 

「ほう。流石に気付いてましたか」

 

 当たり前だろ。俺を舐めてるのか、ドゥデキャプル?

 

 選択肢2による全て(・・)の特例の破棄、それが示すのは俺の入学自体も含まれる--俺と言う存在は入学しなかったことにされて‶完結間際の(どうでもいい)願い〟は泡沫の夢って締めるつもりだったんだろう。

 

 もっとも俺が居なかったことになったって流れはそこまで変わるとも思えないけどな--綾小路と坂柳はいずれ接触するだろうし、軽井沢や櫛田も熱を上げる対象が変わるだけ。堀北や一之瀬にしても遅かれ早かれ成長の時は来ただろう。

 

 尤もこんな‶たられば〟なんて今更意味は無い--俺がまだこの学校に居なきゃいけないのは確定したんだ。

 

 目下重要なのは十二大戦ごっこと言える催しをどうするか?

 

 便宜上は最低三回はやることは可能--今回ので退学者が出るクラスはこぞって挑んでくるのは必定。いやBクラスからも助っ人として参戦も大いに有り得る--盛り上がりを考えるなら全学年の実力者を選りすぐっての戦いなんてのも…………

 

「何やら楽しそうですね--結構な事です」

 

「ええ、これでこちらもより堂々と貴方を使うことが出来ますしね」

 

 ムカつく位に息が合ってるな--で、使うってのは俺に何をさせるつもりだ?いや、それそのものに異論はないが、これだけは言って置かないとな。

 

「察するに学校に関わることのようですけど、一部を依怙贔屓するようなのなら今聞いておきたいんですが」

 

 それがそっちのメリットだろ、理事長代行?と含みが伝わったのか、細目がより鋭くなった。

 

「流石はあの方々のコピーですね、物分かりがいい--お陰でこちらも話し易くて助かります」

 

「くだけて来ましたね」

 

「ええ。私も遊びに来た訳ではありませんから、使える道具(・・)は多いに越したことはありません」

 

「それはよかった。俺も事情を把握してる人が身近になるのは気持ち的には有難いです」

 

 人格的にどうであれね--目的のために俺を利用としてると堂々と示してくれるのも結構な事だ。

 

 ただの同情より信じるに値する。

 

 どの程度かは知らないが有力者(ヤツラ)の信任を得てる以上は、ただの伝書鳩や使いパシリじゃないだろう。

 

 目的の為に策謀を巡らす器量があるのは俺的には気が楽だ--で、今回は俺的にアメをくれたって解釈でいいのか?それとも早速ウィンウィンな方策を披露してくれるのか?

 

「ははは。かなり期待されているようですが、端的に行って私の目的は子供の我儘を潰して連れ戻す--ただこれだけです。勿論、表立って退学を迫る事など御法度ですので迂遠なやり方になってしまいますが、貴方にはその一助になって頂きます」

 

 出揃った情報を組み合わせて考えると、ターゲットは綾小路だな--そして俺を使い用意した舞台で退学させるとなると、

 

「それはつまり俺にアイツを半殺しにでもしろと?」

 

 学生生活が再起不能になるか、もうこの学校……俺の側には居たくないって方向に持って行くほどに精神的に(こころを)ぶっ壊せばいいのか?

 

「まさか、やり過ぎはいけません。何より彼を壊してしまったら元も子もありません--そんなことになっては私がクライアントに殺されます。理想はそのままに戻って貰う事ですが、少々色を付ける為の努力はします--これでもプロフェッショナルですからね、私も」

 

 依頼以上の成果を出してクライアントに喜んで貰おうってか--額面通りに鵜呑みにするなら賞賛に値するが、俺が捻くれてるからかね--大分胡散臭く感じるよ。元より俺を使うことでどうやって、そんな結果に持って行くつもりなんだ?

 

 手腕を期待していいものか--それとも何かの前振りなのか?

 

 なんにせよ、まずは相手の出方を見るしかないか--出来うることなら俺の予想を超えるものを見せて来るのを願いたいかね。

 

 と考えてたら笑みを深めているドゥデキャプルが目に入った--ただの心証だが‶楽しそうで何よりです〟と言われてる気がした。

 

 ……あー、高揚した気分が残って不快さも込み上げてくる。

 

 どんな道を辿ろうとも結局はコイツの手の平の上で躍らせれてる--しかも今回は俺が喜んでそうしたいと思わされてるなんて展開だ。

 

 どうせ戦うなら、まずはコイツを再起不能にしてやりたいぞ。

 

「うふふ。興奮が抑えれないのは仕方ありませんが、それはもう少し我慢ですよ。牛井嬰児」

 

 なんだ。その出来の悪い生徒を窘めるようなニュアンスは--いつからお前は教職に就いたんだ?

 

 やっぱり今ここでその顔面に一撃喰らわせて…………いや駄目だ。隙だらけなのに、どうしても--どうやってもどんな攻撃も届く気がしないと心が言っている。

 

 これって戦士の直感か、それとも仕込まれた安全装置とかかね?

 

 慇懃無礼過ぎる態度を目の前にして思う自由すら干渉されちまうのは作られし物の性か--なんて割り切ることも難しい。忌々しい限りだ。

 

 こんな時は『子』の能力があれば……二、三個でいいから試せる選択肢が欲しいと思ってしまうのは『子』に対する冒とくなのかね?

 

 自分の異能力を良く思ってなかったのは分かるが、如何せん『子』に関してだけは受け継いだものが少なすぎる--対戦開始前に殺されたのは如何にも惜しかった。そもそも『子』が居れば、十二星座の戦犯に勝つことも出来た……いや、だからこそ最初に殺されたのか?

 

 ったく、ここに来てから意味のない‶たられば〟ばかりだ--やはり正常に十二大戦が開始されて終わっていた世界になって欲しかったかね。

 

「相手を殺しちゃいけないのは分かってるが、対象が物の場合はどこまで許される?」

 

 いい加減、頭を切り替えないとな--大戦では辺り一帯を吹っ飛ばす爆弾だって使えたが、ごっこでそこまでは許されまい。壊した分も後で働いて弁償する体裁を取ったとしても限度はあるだろう。

 

「そうですね。理想は被害が皆無ですがその事も想定して置くべきですね……ここは分かり易く数字で表すとしますと『十数万円』に納まる範囲を考慮して来ると助かります」

 

「金額じゃなくて、誤魔化すに足る程度にか--ま、ハンデとしちゃ妥当の範囲内か。ただそこまで明確化してくれるなら備品の値段とかも教えてくれるといいんだが」

 

「直ぐに作成して送りましょう」

 

「そうですね。余り時間が無いのも抜きにても早いに越したことはないでしょう」

 

 時間がないか……申請はまだの筈だが?

 

 なんて野暮な事はいいか--寧ろ、早く終わらせるよう振って来ただろう台詞にしっかりと便乗した方が得策かね。ここに居る全員にとって。

 

 故に話をとっとと進めよう。

 

「では次に相手に怪我させないようにと言うからには俺は素手で?」

 

「うふふ。焦らずとも公式ルールはきちんと開示しますので、今は気を落ち着けることをお勧めします」

 

 やり過ぎないようにって含みだろうが、そのニュアンスじゃ完全に逆効果--寧ろ煽ってるように感じるぞ。

 

 ただその言葉に従うなら、これ以上ここに居るのは精神衛生上よくないよな。

 

「じゃ、精神統一(こころのじゅんび)に入りたいんでこれで失礼しても?」

 

「はい。どうぞ戻って、お休みください--頃合いを見計らってご連絡いたします」

 

 俺の事も考慮してくれるってか?

 

 気遣いと取るべきなんだろうが、お前に言われるとやはり真逆に聞こえるぞ--深々と一礼するドゥデキャプルから目を切り立ち上がる。

 

 ああ、もう早く帰るか……思考を割くのも面倒に思えて来る。

 

 理助長室を出て寮へと向かう--全く有意義ながらも不愉快な時間だった。

 

 ……出来れば今日はこれ以上のは止して欲しかったんだが、これも仕込みか?

 

「お疲れ様です」

 

 明らかに不機嫌な坂柳が待っていた。

 

「中々に面白い事になりましたね--これが貴方の望みですか?」

 

「俺の意志は一切介在してない--全ては上が決めたことだ」

 

 正直にありのままの事実を返すと不機嫌さが増大した--傍目にも負のオーラが立ち昇って見えるのは間違いない。

 

 だからと言って俺にどうしろと?

 

 文句や愚痴を聞くだけなら吝かじゃないが、それは旦那にでもして貰った方が……

 

「清隆くんは早速貴方と戦うことを希望してる様で、私にも相談が来ました--私の方が先約なのに、これに関しても貴方は関知してないと?」

 

「俺だってこうなると知ったのはついさっきだ」

 

 と言ったが納得はしないだろうな--けど未来視なんて持ち合わせてないし、仮に『子』の能力を受け継いだとしても避けられたとも思えない。

 

 改めて『子』がやさぐれるのも分かる気がして来る……こうして考えると言い訳が出来る分、受け継がなくてよかったかね。

 

 そんな感傷にも浸っていたいが、目の前の彼女はそれを許してはくれないかね--全くデリカシーの欠ける亭主だ。

 

 普段はお嫁さんを大事にしてるんだから、気持ちが察せない訳も無いだろうに。

 

「…………今、清隆くんを悪く考えてましたね」

 

 ジト目で言い当てられた……正直、反応に困るな。

 

「彼の境遇を思えば致し方ないのもありますから、余り押し付けがましいのは控えて下さい」

 

「愛してるんだね、本当に」

 

「!?」

 

 いや、ついストレートに感想が漏れたら固まっちまった--しかも驚愕に目を見開いた相当に面白い表情で。

 

 いやはや、これはもう少し見ていたいな。

 

「なんですか?」

 

 おっと、もう終わってしまった……更には別の不機嫌が混ざったか、…………これはこれで需要がありそうだが、俺好みじゃない。

 

 寧ろ、これは彼女にもっとも近い――――

 

「今清隆くんがここに居たらとか思ってますね」

 

「ほう」

 

 今の彼女なら気付かないと思ったが、ちゃんと冷静な部分は残ってたか--そうなると俺が今考えてることも察しは付いてるかね?

 

「考え当てゲームをしたい気分じゃないので普通に会話して欲しいんですが」

 

「それは失礼した。で、何の話だっけ?」

 

「………………」

 

 仕切り直しを求めると負のオーラは和らいだようだが、表情は変わらず不機嫌さは健在だ--ちょっと、やりにくいな。

 

「十二人で戦うと言う今回の特例--性質上、私は参加でしませんし、するつもりもありませんが、報酬に釣られて既に申し込みが殺到している状態です」

 

「そうだね。綾小路もその一人なのが気に入らないか」

 

「ええ。ですが彼の場合の報酬はポイントではない」

 

 おや、てっきり旦那に手を引かせるよう協力しろとか言われると思ったが、

 

「提示された報酬が目当てなら説得は可能です。しかし今の彼(・・・)が欲してるのは別の物--更なる大きな力と未知への興味でしょう。それが良くない方に盛り上がって、私にとっての最悪の結果になること……それはどうしても避けたいんです」

 

「建前上、安全は担保されてるし、俺としても極力怪我をさせないように制圧するつもりだが」

 

「……サラッと凄いこと言いますね。それ、普通に相手を倒すよりも格段に難易度が高いですよ」

 

「あのさ。そっちこそ俺を見くびらないで貰えるか」

 

 流石に聞き捨てならない--仮にも十二戦士……不本意ながら十二戦犯どもの力を受け継いだ俺が後れを取ると?

 

「知ってるからこそですよ。清隆くんだって戦闘能力で上回ってるのは知ってます--それでも挑もうとする以上は何かしら勝算がある筈です。その何かしらが私には気掛かりなんです」

 

 何をして来るか分からないか--ははは、結構な事だ。

 

「その喜びの感情も相俟って益々不安になりますね--だから来たんですよ」

 

「考えを読む気分じゃなかったんじゃ?」

 

「ええ、その通りです。ですから余計な手間は掛けさせないでくれませんか--これまでも色々と余計な仕事を回されて辟易してるのですから」

 

 おやおや、完全に目が座ってしまった--しかも過去の面倒を引き合いに出して、絶対に要求を呑ませると脅迫に近い物を醸し出してる。

 

「やれやれだね--ならズバリ結論から入ってくれるかな」

 

「ではお言葉に甘えて。清隆くんの戦意を折る戦い方だけはしないで下さい」

 

「怪我をさせるな、じゃなくてか?」

 

「清隆くんが本気でやって、どうなるかは私にも想像は出来ません--ただ約束の時を前に戦意を失われては困るんですよ。彼を完膚なきまで叩きのめすのは、あくまで私ですから」

 

 それだけ積もり積もった悲願って訳か……つい今しがたまで『亥』に通じると思ってたんだが『寅』の一面も持っていたのか。

 

 意外ではないが、あくまで戦うだのは恋心の裏返しな面かなと思ってただけに、ちと驚き(しんせん)だな。

 

 ただ同時に俺が叩き潰さなきゃならない程の力を出さなきゃいけないと思われてるのはいい気分じゃないけどな。

 

「戦場での経験を持つ俺が、一介の高校生相手にマジになると?」

 

「彼もまた訓練を受けて頑張って来たんです--余り舐めない方が――――」

 

「だとしても奴は戦士じゃない--どんなものを抱えてようが一介の高校生だ」

 

 戦士が戦うのは同じ戦士のみ--決戦前の『あの二人』の会話を思い出す。そして奇しくも『亥』と通じる坂柳が相手なのは、何の皮肉か。

 

 でもこいつは『亥』じゃない、さっき決定的に確信した--戦士でもない--ただの女子高生だ。

 

 己が才に自信を持っていようと戦士を凌駕するには役者不足だ。そんなに心配なら、もっと我儘になるべきだ--俺じゃなくて意中の相手にな。

 

「貴方のプライドはよく分かりました。ですが、それでも私は綾小路清隆くんが絶対に敵わないとは思えません--ですから、そのプライドが正しいことを、私如きの懸念など問題ないこと証明して下さい」

 

 また俺の心を測ったか--そして要請(おねがい)から要求(ちょうはつ)に瞬時に切り替えて見せた。

 

 と、そんな戦略を演出してくる辺り、やっぱりまだ幼いな。

 

「……返答を頂きたいのですが」

 

 

 語気が荒くなった……余計なお世話だと言わんばかりに…………考え当てはしたくないんじゃなかったのか?

 

 まぁ、それはその通りなんだろうが、最早癖なんだな--(色々な)身体的ハンデから舐められないよう、ずっと気を張った生活をして来たんだろう。『戌』が面倒見てた園児たちにも似たようなのが居た。

 

 ついでに言えば『山羊』もそうであったから、少なからず気持ちも理解できる--考えるのはここまでにしとこう。

 

 …………声だけでなく、とうとう目尻まで動き始めたし。

 

「分かった、善処する。アイツのプライドを叩き折らないよう心に留めとく事を誓おう」

 

「神様ではなく、平和主義者の戦士にお願いします」

 

「ああ、それはいいな」

 

 『申』を意識すれば、注文通りの戦い方も決して苦じゃない--本人ほど見事に出来はしないが、最初の戦闘スタイルとしては悪くない。

 

「…………本当に頼みますよ」

 

 念押しして去って行く坂柳--これ以上は精神衛生的に良くないと判断したか、やっぱり綾小路じゃなきゃ駄目か。

 

 いや、結構な事だ。

 

 

 ***

 

 

 そして日が暮れた時間--プロテクトポイント争奪の最初の挑戦者を決める申し込みが解禁され、多くの中から『1-Ⅾ、綾小路清隆』が選出されたのだった。

 

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