どうしても叶えたい願いの為にその気になる綾小路と、別にどうでもいい願いでなんとなくいるオリ主   作:a0o

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何も・・・ない

 

 

 

 さて、仕事も終わり次の指示があるまでは自由時間だ……見方を変えれば他が干渉してきても断り辛くもある。

 

 ケヤキモールのカフェで揃ってるⅮクラスの主要メンバー。

 

 堀北や櫛田、平田と軽井沢、ここに綾小路も加われば揃い踏みなんだがね--しかしさながら尋問が始まる様相に店の空気も重いものになってる。

 

 こりゃ後でクレームが来るかね?

 

「お疲れ様。まずは何か飲むかい?」

 

 平田が普通に言って来るが、それが返って不気味だ--そう感じたのは俺だけじゃなく、櫛田と軽井沢が茶化すように……いや無理矢理明るくなるように続けて来る。

 

「寒いし疲れてるだろうし温かいミルクティーとかお勧めだよ」

「ってかお腹空いてるんだったら、このランチもいいんじゃない」

 

 ただ効果は全くと言っていい程にない。

 

「なんだか高円寺くんと居るみたいだね--尤もあっちは、ムカつきはしても決定的な実害はまだ無いけどね」

 

 皮肉たっぷりの言に場の空気が最悪に重くなる--それを背景に平田は更に俺に言いたいことを言って来た。

 

「君が明らかに僕たちとは違うのはよく解った。山内くんが逃げたくなるのも仕方ない……と割り切ろうとしたんだけどね」

 

 出来ないかった--どうしても我慢できないってのが、言わなくても分かるくらい声や表情全てに怒りが籠っている。

 

「文句言われたって俺にはどうすることも出来んぞ--どうにかして欲しいなら、お前が上に掛け合ってみればいいんじゃないか?」

 

「お決まりの返しだね」

 

「事実だからな。俺は何ひとつ責任など取ることは出来ん。だからもう何もするなって事なら時すでに遅しだ--俺が何かしなくたって向うの方からやって来るぞ」

 

「なら今僕がここで挑んでも受けてくれるよね」

 

「戦いたいなら正式な申請をしてからにしろ--ただの喧嘩じゃ正当防衛でも俺が怒られ……」

 

 …………あ、ひょっとして。

 

「君が無抵抗でも騒ぎになれば学校は困るんじゃないかい?」

 

「なんだかやり方が龍園に通じるが、ひょっとしてそれが本性だったりするのか?」

 

「僕は平和なクラスが欲しいんだよ」

 

 答えになってない--同時に否定にもなってない。最早、敵意を通り越した殺意を込めた視線を隠そうともしない辺り、中らずと雖も遠からずかね。

 

「ひ、平田くん、その――」

 

「安心しなよ、軽井沢さん。支配なんてやり方をする気は無い--それじゃ僕の理想は実現しないことはもう知ってる(・・・・・・)からね」

 

 これが示す結論はひとつ、思わぬカミングアウトだな--元カノ(かるいざわ)も完全に委縮してる。

 

 別れて正解だったと何処かで思ってたりするかね。

 

 同席してる堀北と櫛田も驚いているようだが、どうにか冷静さを保ってる--成長したなと単純に感心したいが、何か思うところでもあるのかと、なんとなくそんな気もするな。

 

 しかし平和が欲しいか……

 

「……ワハハハハ」

 

「お茶を濁す気なら止めてくれ。僕は真面目に話してるんだ」

 

 静かな声だ--ただ怒りはどうしようもなく滲み出てる。

 

 それだけで何も怖くない。

 

「そうなのか。俺には夢見がちな坊やの戯言だとしか聞こえないが」

 

「確かに君みたいな人には僕なんて無力な子供だよ--けど、だからって踏み躙られていいなんて間違ってる」

 

「だからお前のいいなりになれと?」

 

「そうだよ。君の力は人の為に使うべきだ--君個人の楽しみの為に学校中が煩わされる…………増してや誰かが犠牲になるなんて間違ってる」

 

「ふぁあぁ」

 

「だから!茶化すんじゃ―――――」

 

「寝言は寝て言え。世界最強の英雄が出来なかったことをただの高校生如きが成そうなんて笑い話にすらならんわ」

 

 そうだ。あの『申』が目指した理想をちんけなガキが語るなんて、十年どころか一生かかっても口にするのもおこがましい。

 

 彼女は誰よりも人を救った--それと同じかそれ以上に救えなかった人もいる。世界の闇を見て見て見て、それでも目を逸らさずに平和を--皆が幸せになる世界を望んだ。『申』にはそれを言い望む資格があった。

 

「綺麗事なめんなよ。ボク」

 

 とても気に入らない。

 

そんな衝動からか、かなり強い言葉になってしまった--平田も怯んだが、待つつもりない。

 

「みんなで仲良くしたい--そんな理想を彼女は語り実行して来た。その言葉に耳を傾けざるえなかった--敵に回したら圧倒的に不利なる実力者だったからな。自分さえ良ければって連中程、戦いたくないって思うのが大半だったよ--戦いたいって物好きにしても肩を並べられると自惚れてるから、どうあっても注目しない訳にもいかない」

 

 その中で誰よりも悪態をつき、誰よりも共に戦い、誰よりも裏切り、何より誰よりも大好きだったのが『亥』だ--どんな言葉で『申』を貶し、理想を否定し、時には和平(せいか)を叩き潰すことをしても、あの二人の友情は揺るがなかった。

 

 親友を超えた戦友だった。

 

 だからこそか、口先だけのガキが『申』と同じこと言ってると無性に腹が立つ。

 

「お前の言う理想はそれ位の実力を持ってから口にしろ--じゃなきゃ少なくとも俺の前では口にするな。不愉快だ」

 

「自分の都合で周りこれだけ騒がしといて、増してや三人も退学に追い込んどいて……どこまで勝手な事を言うんだ」

 

「ご尤も。ただ俺だって欲しいものがあるならリスクも取るし、最悪命を懸ける。欲しいなら苦なんてないからな--お前も皆で仲良くしたいなんてのが欲しいなら、少なくとも俺を超える力を手に入れてからにしろ。じゃなきゃ、何も聞く気になれんぞ」

 

 平田の目に宿る殺意が増す--ああ、どうにも物足りないな。どうせなら、

 

「綾小路くんみたいに挑んで来て欲しい--そんな顔ね」

 

 ここで漸くか、堀北。

 

 で、お前は何が言いたい?

 

 そう思いながら目を向けて続きを待つ。

 

「嬰児くん、まず最初に答えて。公式に戦う舞台が整えられたことで貴方は満足かしら?」

 

「いいや。俺としては雑魚をどれだけ相手しようと物足りないな」

 

「これ以上、まだ誰かを―――」

 

「平田くん。今は私が話してるの」

 

「だけど」

 

「平田くんの憤りは分かるわ--でも過ぎたことだけを言っててもしょうがないでしょ。私との話に不服があるなら、ちゃんと聴くと約束するから、今は」

 

 勢いで黙らせたり一蹴したりせずに正面から向き合って我を通すか--しかも決して見捨てるような事もしないと。

 

 些か甘い気もするが、以前の堀北に比べれば良い顔するようにはなった--これは成長なのか、それとも本当の姿なのか?

 

 どちらにせよ、少し面白そうになって来たので俺も話が聞きたいと思ってしまったな。

 

「次の質問よ。最終試験、貴方は戦いたい?それとも綾小路くんクラスじゃなきゃ、もう戦いたくなくなったかしら?」

 

「ルールの範囲内なら俺が戦うのは形式上問題ない--けど、そう言う答えを望んでる訳じゃないよな?」

 

「ええ。嬰児くんの気持ちを聞きたいわ--その気持ちを私も可能な限り尊重したいわ。Aクラスになる為に」

 

 ぶれないな。

 

そして目的を見失わない冷静さもアピールしてる--俺だけじゃなくて、他にも。

 

 更にこう聞けば俺が誠意を持つことも計算してるって強かさを感じさせる--いやこれは俺が思いたいだけかな?

 

「この次の試験に関しては戦いたいとは思わない--いや厳密に言えば、坂柳の反感を買いたくないって気持ちの方がデカいかね」

 

「それはあの二人の約束を尊重したいって事かしら?」

 

「その面もあるが、どういった戦いをするのか見てみたいってのが一番だな。

 そして俺の期待通りか、それを超えるようならば--今度は二人セットで戦ってみたい」

 

「ちょ、それって!」

 

 軽井沢が驚き立ち上がりそうになる--ま、言ってるのは綾小路がAクラスに移籍することを望んでるだからな。

 

 Aクラスを目指すのに強力なカードが離れて行くのは痛手でしかない--それを望んでるならクラスへの反逆だ。

 

 平田の目は険しくなってるし、きっと堀北はそれ以上に……と思ってたんだが。

 

「動じない所を見るに想定済みな事案ってことかね?」

 

「ええ。あの二人を見てると、いつかそんな日が来るんじゃないかって考えるのはしょっちゅうあるわ」

 

「え、でも、坂柳さんって綾小路くんと戦いたいんじゃ」

 

「軽井沢さん。問題はその後よ--と言うか、今度の試験でその約束は達成されるから、次は二人で協力して嬰児くんを倒そうって言う風になるんじゃないのか?そんな可能性も考えられるわね」

 

 淡々とした物言いだが、それが返って不安を煽ってる--俺としては願ったりだから、湧いて来る感情を抑えるのが大変だ。

 

 ただそうなって来るとⅮクラスとしては凄く不味いぞ。

 

 綾小路が抜けて俺も身動きが取れないに近くなる--この大幅な戦力ダウンは入学当初以上にクラスをバラバラにしてしまう可能性もある。

 

 そうなったらAクラスどころじゃない。

 

 平田もそう考えたのか、怒りが堀北にまで分散する--なんで余計な事を言うんだって顔に書いてある。

 

 それを堀北も悟った--いや最初から想定してたか、落ち着いた態度で言った。

 

「平田くん、これは考えなきゃいけない可能性よ。そしてそれでも私はAクラスでの卒業を諦めたくないの」

 

「僕を同席させたのは、この話を聞かせる為か--で、結局この話の結論はどうなるんだい?」

 

「そうだな。勿体ぶらずに先に教えてくれんかね」

 

 櫛田も軽井沢も無言のまま、漸くと自分たちも呼ばれた訳が聞けると興味津々で訊く姿勢を取っている--あくまで想像だが、堀北は気分が途方もなく高揚し内心ではファンファーレが鳴り響いていそうだ。

 

「今度の試験、まず綾小路くんと坂柳さんの約束は尊重したい--ただ、それは個人間の話としてクラスでの戦いとは切り離して進めて行きたいの」

 綾小路を戦力としないで戦うか--で、俺の方は?

 

「最終試験は綾小路くんも嬰児くんの力もない状態で勝ちを目指していきたい--ハッキリ言って綾小路くんの心は完全にクラスから離れてると感じるわ。だったら、それでも戦っていける--Aクラスになれるって自信を皆に実感して貰う必要がある。二年生になってからの支えをしっかりとした形で獲得する形で締めたいの」

 

 リーダーとして考えるクラスの理想像か--以前の堀北からは想像も出来なかった話が聞ける日が来るとはな。

 

 しかし言いたいことは分かるがそれだと勝算は小さい--どんな戦いになるかはまだ分からないが、総合的に見てAクラスとⅮクラスの差はまだまだ開いている。力を結集してとか言ったって、それは向こうも同じ……いや付け入る隙は無いことも無いか。

 

「なんだ場外乱闘でも仕掛けて切り崩しでも仕掛けるのか?」

 

「いいえ、正々堂々の体裁は取るわ--正攻法で実力を高めて行くのも疎かにしない」

 

「けどそれだとよ」

 

「ええ。まず私たちは負けるわね」

 

「それでも本当の意味での団結を得られればいいって考えか?」

 

「その側面もあるわ--でも勝つことを捨てる真似はしない。だからこそ、嬰児くんには最後まで私たちのクラスの一員であることを確かめて置きたいの--少なくとも自分の意志で去るつもりは無いのをね」

 

 俺が居ることの確約ね--ざっくりとだが堀北の戦略像が見えてきた気がするな。

 

「嬰児くんが居ることをチラつかせてプレッシャーを、ってこと?けどさ、そんな程度のハッタリじゃ効果は薄いんじゃない--遠回しとは言え、無暗に動いちゃ駄目ってこれでもかって言われてるんだし」

 

 櫛田の懐疑的な意見には俺も皆も同感だな--もしくは俺を後ろ備えにしてクラスの安心感なんて考えなら、悪くすれば堕落の道に嵌って団結とは程遠い状態だ。

 

「そうね。欲を言えば私もハッタリなんかじゃなく嬰児くんを前面に押し出して戦って貰いたいわ--勿論、ひと筋縄じゃいかないでしょうから、それを私たちがフォローするというのが理想形だわ」

 

 夢物語だな--俺は積極的には前に出れない。もうそう言う風になってる--戦うなら、学校公認の私闘にしろとお膳立てもされたしな。

 

 これ以上の我儘を通そうとすれば、何が来るのかね?

 

 う~ん、それはそれで楽しいことになりそうか?

 

 あ、ひょっとしてそれが狙いだったりとか?

 

「なんだか可笑しな顔してるけど、違法じゃ無ければ何してもいいなんて考えは持ち合わせてないわよ--モラルや良識を蔑ろにするやり方を期待してたなら今直ぐに捨ててちょうだい」

 

 あ、そう。じゃ、結局どうする気なんだ?

 

「堀北さん。話が脱線してる訳じゃないけど、最終的に嬰児くんとクラスをどうして行きたいの?」

 

「そうだよ。なんだか聞いてて飽きて来たよ」

 

 堀北はひと呼吸おいて仕切り直す様を見せた--そして言う。

 

「嬰児くんには最後の切り札として睨みを利かせる役割が最適。そしてクラスとしては彼が後ろに居ると言う安心感と、頼ったなら何が起こるか分からないって緊張感を同時に抱かせて上を目指す--そんな形にしたいと思ってるわ」

 

「なんともベタだな--面白味がないぞ」

 

「そうね。でも何もかも貴方にやって貰おうなんてスタンスは論外--増してやそれを自分たちの実力だと思われるのなんて、仮に貴方が良くても学校側も後ろに居る人たちも容認できるものでは無いでしょ。更なる介入が来るのも想像に難くないわ」

 

 最早分かり切ってることを並べながら目を細めて来る--ここからが本番ってことか。

 

「それは同時に坂柳さんも不愉快にさせる--そうなれば綾小路くんも彼女の助けに回るでしょうね、必然的に」

 

 反論の余地なしだな--そしてやっと話が戻って来た。

 

「綾小路くんが私たちと戦ってくれるのは次の試験が精々--二年生になって直ぐの間はクラスメイトでしょうけど、そんなに遠くないうちにAクラスに行ってしまうと私は予想してる。嬰児くんと戦う為にね」

 

 豪く鮮明に想像できる光景だ--クラス移動もAクラス全体が協力すれば何とかなるし。

 

 同時にピンチを煽るニュアンスは俺以外の面子から非難の目を向けられてる--それでも堀北は余裕であり、一体その態度にどんな根拠や戦略があるんだ?

 

「私としても本意とは言えない展開だけど、もう避けられないと思ってる--もし、そうなったらとずっと考えてたわ。そしてやっと答えが出た--Aクラス卒業を目指す道筋が」

 

 ええい、勿体ぶってんじゃない。

 

 流暢に話す姿はとても楽しそうで、やっと語れるって高揚感と聴いてる側(おれたち)が焦れてるのを見て面白がってると丸分かりだぞ。

 

「綾小路くんと坂柳さんの望みは最大限尊重していく--その対価として、卒業をかけての戦いまで共闘をしたいと考えてる。この先、二年以上ある時間の中でBクラスとCクラスを倒して、最後に最強の状態にあるAクラスと最高の状態に高めたⅮクラスによる戦いで決着をつける--それが、私がリーダーとして導き出したロードマップよ」

 

 成程、ただAクラスになるのではなく、それに相当する実力を付ける--学校の方針に沿ってるから俺のバックの介入の隙も小さくする。

 Aクラスのリーダーの望みとⅮクラスの強力なカードを譲る代償を求めるなら、実現の可能性は大きい。

 

「櫛田さん、軽井沢さんも嬰児くんを盗ろうとするクラスは目障りでしょ--特に一之瀬さんは開き直って積極的になっちゃったしで気が気じゃないんじゃないかしら?」

 

 ほう。かつての堀北では考えられない挑発だな--もっと突っ込んで言えば少しお茶目に見える。

 

 言われた櫛田と軽井沢(とうにんたち)も予想外の事態に固まってるし--で、堀北はそんな二人から今度は平田に目を向け言った。

 

「平田くん、山内くんの件は残念だったし嬰児くんに対して憤るのも分かるわ--でも何度も言うけど過ぎたことはどうしようもない。だからもうこれ以上、同じ事が起こらないように努めて来たいと思ってる--それが貴方の願いでもあるなら、私の方針に従ってくれないかしら」

 

「……つまりまた退学者が出たら堀北さんが責任を取ると?」

 

「取る訳ないでしょ。愚痴ぐらいは聞いてあげるけど」

 

「僕は絶対(・・)に退学者は出したくないんだけど」

 

「欲深いわね。けど悪くは無いわ--ただそう願うなら、平田くん(・・・・)が全力で務めるべきよ。誰かに責任なんて擦り付けてる暇なんてあるのかしら?」

 

 うわぁ。

 

なんともキツイ--退学者が出たのはお前の力不足だってか?

 

 流石に平田もムッとするかと思ったが、なんとか我慢してる--同時になんだか泣きそうにもなってるように感じるのは気のせいかね?

 

「普通に考えてこの先も退学者は出る--私の予想通りなら綾小路くんも居なくなるし、嬰児くんも戦いたいのを捨てる気は無い。だったら、それを最大限活かして成長の糧にする--皆の願いを纏めて考え抜いた結論よ」

 

 堀北は語りながら一人一人を見て続ける。

 

「だから自分たちの望むままにどんどん精進して行って--それがAクラスに上がる為になるなら私も全力で応えるわ」

 

 さて、何を言うべきかね--そんな事を考えてたら軽井沢が胡乱な目で言った。

 

「嬰児くんを盗られたくないのはその通りだし、Aクラスでの卒業ってしたいよ--でも綾小路くんがAクラスに行っちゃうんじゃ、不満になるのが出て来るんじゃない?」

 

 言うなれば抜け駆けだしな--坂柳との関係を考えても割り切れるかは話が別だろう。そうなればクラスが纏まっていけるのか--シンプルだが軽井沢にしては悪くない着眼点だ。

 

 そう思ってた瞬間に透かさず櫛田が発言する。

 

「だからこそ同盟ってメリットで他を倒しちゃおうって話でしょ--もし仮に今直ぐAクラスになれたとして明確な敵が三つ同時に来られちゃキツイよ」

 

「同じ様なことは一之瀬さんや龍園くんだって直ぐに思い至るよ--寧ろ、綾小路くんがAに行くなら嬰児くんを自クラスに招くって手段で来る可能性も高い。嬰児くんに言わせれば、強い敵と戦えるなら僕たちのクラスである必要はないからね」

 

‶どうなんだ〟って言う目を向けて来やがって--同時にこれは俺だけじゃない問いだな。

 

「クラス移動に嬰児くんの意志は関係ないと言質は取れてるわ。本人にその意思が生じないとは言い切れないけど--だからこそ、次の試験を頑張らなきゃいけない。全力を尽くすに足る理由には足りないかしら?」

 

 お、挑発を挑発で返した--なんだか少し面白くなって来たな。

 

「……僕は退学者をもう出したくない、そしてクラスで不和が起こるのもご免だ。そんなことが起きるくらいならAクラスになれなくてもいいって思ってる。

 Aクラス卒業を目標にするはいいけど、絶対に固執するのは賛成しがたいよ--場合によっては堀北さんの敵になるかも知れない。そうなったら僕も切るかい?」

 

「誤解しないで。私は皆でAクラスを目指すのに最良と思える道を提示したの、目的と手段を履き違えてるつもりはないわ--平田くんこそ、目的に固執して視野が狭くなってるんじゃないかしら?」

 

 議論に熱が入って来た。

 

 そして平田の言うことも間違ってない。俺と戦う為にAと同盟をと言ったって、卒業後の特権に目が眩んで裏切る--なんて可能性だって大いにありうる。肝心の坂柳や綾小路は特権には興味ない様だが、他がどうなのか分からないしな--下手したら葛城が息を吹き返して再びAが割れるってのも…………それはそれで面白そうだな。

 

「堀北さんは私たちの不満もAクラスになる為に利用しようって言うけど、それも嬰児くんが居ればって前提だよね、もし突然居なくなっちゃたらどうするの?」

 

 軽井沢も割と切実なニュアンスだ--俺が居なくなったら、もうダメになるって危機感とそうならないように‶どうする気だ〟って含みを感じるのは流石、平田の元カノって見えるのは俺の願望かね?

 

「どうするも何も、どうしようもないでしょ、そんなの。それならば尚更そんな日に備えてクラスを強くしていくしかない--それがこの学校の方針で嬰児くんが私たちと一緒に戦えることを許される環境なんだから」

 

「いや正論が聞きたい訳じゃないんだけど。嬰児くんがずっと居られるようにして欲しいって言ってるんだけど」

 

「先の事がどうなるかなんて分かる訳ないでしょ--寧ろずっと居て欲しいなら貴女たちが頑張るべきじゃないかしら?」

 

 おお、見事に自分の主張と繋げて見せた--さり気なく櫛田にも目をやり、話に入ってこいと無言で促している。

 

 この場を選んだのも‶俺の隣〟宣言をしたのを思い出させ焚き付ける為でもあったか――ハハハ、かつて堀北は『寅』に似てると思ってたが、今は『申』に通じるものがあるな。

 

 そう思ったら今の堀北なら何かしても良いって気にもなって来るな。

「あー、嬰児くん……その目はどういう意味かな?」

 

 そんなこと思ってたら櫛田がジト目で言って来た--まぁ別に取り繕うことも無いし。

 

「なに、俺の好きな『平和主義者』に通じるものが見えてな--良い意味で(したた)かだなと」

 

「ちょ、ちょ、ちょっと……!」

 

 そのまま思ったことを言ったら軽井沢が慌てて立ち上がる--のは想定通りで櫛田の方は若干の驚きに表情が固まるだけだが、内心はどうなのか?

 

 元々において櫛田は『酉』に通じるものがあった--要は悪い意味での強かさを持っている。

 

 少し願望も混じるが、このまま黙ってちゃ面白くないぞ。

 

「そうなんだ……ちなみに私も真似したら嬰児くん興味持ってくれるの?」

 

 意図は汲んでくれたようだ--分かり切った問いで場を一気に持ってこうとしてる。ふふ、愉しい傾向だ。

 

「いいや。少し目が行くのはあっても他人は他人だ--本人の魅力でなきゃ、惹かれるなんてありえんだろ」

 

「だよね……じゃあさ、一之瀬さんも同じなのかな?それともその本人の魅力ってのもう感じてるのかな?」

 

「そもそもにおいて魅力だらけの娘だと思うが、個人的に言うなら気になることはあっても惚れるとか言うのはないな--ただこの前ので興味は増したがね」

 

「過去をぶちまけて責任取れって迫って来たもんね……正直私じゃ真似できないね」

 

 目を逸らし影が差す仕草に軽井沢や平田もしおらしくなっていく--ここに綾小路も居たら……いや、無表情のままで面白くなるようなのはないか。

 

「くどい様だけど私は他人の恋路にどうこう言う趣味は無いわ--嬰児くんと貴女たちとでどういう形で決着を付けても文句はないわ、綾小路くんたちと同様にね」

 

「つまり堀北さんは嬰児くんが要らないと?」

 

「クラスメイトとして戦力としてしか、そもそも見てないわ--背景にある事情も興味が無いと言えば噓になるけど、私自身の人生と絡める気も無い。私は私の道を行くって決めたのだから」

 

「へぇ、立派だね~。欲深い私にはとても理解出来ないよ」

 

 さり気なく俺に流し目を向けて来て、つられてか軽井沢と平田も同じく意見を求めるような目で見て来やがる。

 

「道具として使おうってのは俺としても後腐れなくていいな--ただどう使うかは俺好みであって欲しいな。面白味もなく俺を前に出すだけじゃ詰まらないし、むやみやたらとじゃ、今度こそだろうからな」

 

「相変わらずの決まり文句だね--嬰児くんの気持ちはどうなの?」

 

 ほう。櫛田も突っ込んでくるな--堀北への対抗意識かね?

 

「恋愛に関してなら欠片もないな--与えられたことの中で楽しみを見出したい。それ以上は望めないよ」

 

「望める様になったら?」

 

「無意味だ」

 

「だから面白いんじゃない--結婚式のお膳立てしたりとその手の事に興味あるのは間違いないでしょ。自分のでそうなしたいなら、どんなお嫁さんがいいの?……仮に私たち三人や一之瀬さんなら?」

 

「ちょ、ちょっと……なんでそんな話になんのよ!?」

 

「え、だって軽井沢さんもずっと嬰児くんと居たいんでしょ?」

 

「い、いや……あたしのは、そこまで深い意味は――――」

 

「そっか。じゃ、嬰児くんの争奪戦は脱落でいいね」

 

 ぐわ、誘導尋問で邪魔者を排除しに来た--アピールとしては上々だね。勿論、軽井沢も反撃に出ようしてるが、やはり櫛田の方が上手かね。

 

「堀北さんも高校生活限定なら、ハッキリと約束出来るよね?て言うか、私のこと応援してくれないかな?なら私も恩義には報いるから皆ウィンウィンになれると思うんだけど。どう?」

 

「変わったわね--前はそっとしておいた方がいいって言ってたのに」

 

「あの時は訳が分からないことだらけだったからね--でも今は違う。どんなリスクを背負ってでもそれこそ一生を掛けてでも得るに値するものがある--それは私が元々欲しいものの究極系って言えるもの」

 

 どんな願いでもひとつだけ叶えられる権利、それを行使できる有力者への繋がり--とどのつまりは世界一の座と言い換えてもいい。

 

 なんともベタだが、それ故に分かり易い--そして欲望に貪欲な姿は嫌いじゃないな。

 

「私は何も変わらないよ--それは堀北さんだってそうでしょ?」

 

「ええ。やり方を変えたってだけで、私も目指すものは変わらないわ」

 

 兄に認めて貰う--但し真似ではなく、自らの道を行ってか。

 

 いい目をしてる--寧ろ、これが本来の堀北鈴音かね。

 

同じく櫛田桔梗も。

 

「うわぁ、相変わらずのブラコン振りだね。けどそれなら必然的に私と一之瀬さんの一騎打ちかぁ--ああ、なんとも厳しい戦いだよねぇ」

 

「櫛田さん……まさか一之瀬さんを退学させようとか言うなら、それは駄目だよ!」

 

 平田も物凄い形相になるな。

 

 そして上手いこと挑発に乗せられたか--使えるものは使う姿勢はやはり『酉』みたいだ。

 

 そう思ってると櫛田も嬉しそうに流し目を向けて来た--そのあざとさは美しくなんとも需要(そそるもの)があるかね。

 

「そっか。だったら平田くんが頑張ってよ--私たちの願いを皆叶えて誰も退学しないよに。それで泣き言吐き出したいなら、より戻しちゃえばいいじゃん」

 

 ほう。スゲェ無茶振りだな--当人どころか元カノまで絶句してる。

 

それを満足気に見ながら俺の方に目を向ける--なんとなく‶こうなって欲しかったんでしょ〟と言っていると感じてしまうな。

 

「最終試験は嬰児くんの手は借りない。綾小路くんと坂柳さんの勝負を盛り上げるように皆で頑張るようにする--それが上手く行ったなら、嬰児くんが楽しいと思えたんなら、ちょっとでいいから私たちに合わせて貰えないかなぁ?」

 

「何度でも言うが俺はどんな約束も―――――」

 

「約束じゃなくて、嬰児くんがそうしたいって思えたのかを教えて欲しいの」

 

「良い返事しても気持ちなんて冷める時は一瞬だぞ」

 

「でも成功例があるなら格段に楽だよ--気持ち的にはね」

 

 現時点では意味のない仮定だ--ただそれが実現したなら、

 

「前に言ったよね--私の手拍子で踊るほど、お人好しじゃないって。でも皆でする手拍子なら踊って見たくならない?」

 

「指揮者はお前じゃなくて堀北に譲ると?」

 

「私の目標は更に先だからね--良い踏み台になってくれるなら喜んで譲るよ」

 

 櫛田の目が欲望に濁り始めた--この見たことも無い姿にドン引き具合は加速度的に上がった。

 

 全く、なんとも楽しい限りだねぇ。

 

「やっぱり変わらないな--でも惚れるかは別だよ」

 

「だから本気で惚れて貰うよ--その為なら堀北さんの提案も呑むし、平田くんの願いにも力を貸す。一之瀬さんもライバルになるなら叩き潰すよ--軽井沢さんはどう?」

 

「え、あ、いや……」

 

 話を振られた軽井沢は狼狽える--各々が自分の願いを語り合ったなら、自分も言わなきゃいけないって流れだもんな。

 

 とは言え、そんな大層な願いがある訳ないのは見てれば分かる--心なしか俺に助けを求めてるようにも見えて来るな。

 

 さて、どうしようか?

 

 櫛田は完全に堀北の提案に乗るつもりなのは明らか、平田にしても自分の意向が100%じゃないにしろ反映されるのは吝かじゃないだろう。あとは軽井沢が具体的に何を望んでいるか?

 

それを示して一変に纏めるのがこの場を開いた目的であり、クラスの要をしっかりと固めたい--ついでに俺の事も後ろ備えでいろとして‶上〟への配慮(ポーズ)もかかさないか。

 

 もう今決断しなきゃって固められてる--抜け目ない。

 

「軽井沢さん。難しく考えなくていい、本心を語りたくないなら無理強いもしない--ただひとつだけ答えて。貴女は嬰児くんが欲しいの、それとも自分を誇示したいだけなの?」

 

 たどたどしくも軽井沢は俺を見て来る--心中は分からない、ホント何がうずまいてるのやら?

 

「あ、あたしは……嬰児くんを渡したくない」

 

 愛の告白--じゃない、苦し紛れにやっと出と言葉。

 

 なんだか少し不安定さも見えて来たな--これ以上追い詰めるのは流石に不味いか。

 

「そう。ならその為に次の試験で力を貸して--私じゃできない分も貴女なら女子たちの士気を上げられる。その力が必要なの--それは貴女の願いにも直結する筈よ」

 

「堀北さん、あんまりプレッシャーをかけるのは――――」

 

「分かってる潰れるまで重圧をかけるつもりは無い--だからこれで最後にするわ」

 

 そう言って俺を真正面から見据える堀北鈴音--どんなのが一体飛び出して来るんだ?

妙な期待感が募る。

 

「私は牛井嬰児と言う武器を手放す気は無い--卒業するまで、ずっとつかまえて置くつもりよ。そして卒業する時には一緒に過ごして良かったって思えるクラスメイト(・・・・・・)である最後にしたい」

 

道具(ぶき)から人間にってか、漫画みたいだな」

 

「一之瀬さんもそう言うスタンスで貴方を口説こうとしてるんじゃないの?だからこそ、今あるリードを譲らない--嬰児くんはⅮクラスの一員でAクラスを目指し戦う。これがやり遂げられると思えるのか、試験が終わったら聞かせてくれないかしら?」

 

「そして、やり遂げるべき戦いには綾小路と坂柳が待っているか--確かに実現したなら面白そうだ」

 

「絶対そうするよ!」

 

「……軽井沢さん、折角いい感じに締めようとしてたのに…………もうちょっと空気を読んで」

 

 これまた堀北らしくない台詞だ--あーあ、なんだか一気に気が抜けちまったかね。

 

 

 

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