どうしても叶えたい願いの為にその気になる綾小路と、別にどうでもいい願いでなんとなくいるオリ主   作:a0o

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狙い澄まして○○

 放課後になり、綾小路は行動を開始していた。

 

「随分と印象が違うもんだな」

 

「え?……え、え…………?」

 

 声を掛けた先には狼狽えている佐倉の姿があり、堂々と正面から近づいていく。

 

「あ、綾小路くん……な、なんでここに?」

 

 いつも通りに人気のない場所で回りに誰もいないのを確認しながら撮影していたのに然も当然のように現れた綾小路に佐倉の脳裏に異様な可能性がよぎり、困惑から恐怖に感情が塗り替えられていた。

 

(予備知識があった為か、これは嬰児の読み通りにもう被害にあっていそうだな)

 

 近づいてくる自分を見る佐倉を見ながら状況はかなり危険だと思ったほうがいいと結論付ける。

 

 もし何も知らないままであったなら、秘密を知られたこと、それをバラされたならどうしようかと言う恐怖を抱いているのかと思考がいっただろう。

 

 もっとも先入観でそう見えてしまっているかも知れないので、これも念頭に置いておこうとも。

 

「ちょっと静かな場所で考えたいことがあってな……学校中どこ行っても冷やかされそうで寮の部屋に戻っても誰かが押しかけてきそうな気もして落ち着かなくな。」

 

「あ~」

 

 坂柳との衝撃のキスシーンから昨日の今日だ。

 噂が静まって、ほとぼりが冷めるまでは、まだまだ時間が掛かるだろうと取りあえずは納得できる理由を聞いて佐倉は警戒心を少し下げる。

 

「佐倉の方はずっとこんなことしてるのか、随分と手馴れてるように見えたが?」

 

「え、あの……その…………」

 

 綾小路からの質問に佐倉は再び狼狽えてしまう。

 

 この質問が何も答えないままでされたなら『ごめんなさい!』と謝って誤魔化して一目散に逃げて行くこともできただろうが、綾小路は律義に自分の問いに答えており、ならば自分も答えなければならないと言う心理が無意識に働いて佐倉の足を止めていた。

 

 しかし、自撮りの話題で会話が膨らんで盛り上がることは佐倉の望むこととはかけ離れており、嫌な可能性への警戒も完全に解いた訳でもないことから何と答えればいいのかが浮かばず焦りが増していくばかりであった。

 

「あー、別に言いたくないなら無理しなくていいぞ」

 

 綾小路は話し合いが出来る距離で足を止めて佐倉に気遣いの言葉を掛けた。

 

「う~~~~………………」

 

 情けない同情だと感じたのか佐倉はどんどん委縮してしまう。

 

 そんな様子を見ながら改めて佐倉を観察する綾小路。

 

(確かに地味な印象だが、改めて見ると堀北や櫛田にも負けない娘だ。スタイルも一之瀬に引きを取らない――やっぱり嬰児(あいつ)はこう言うのがタイプなのか?)

 

 と思考があらぬ方向に行ってしまいそうになり、再び嬰児をダシにしてしまいたくなる衝動に駆られるが、二度も同じようなことして機嫌を損ねられるのは止めておいた方がいいと別の方向から話を切り出すことにした。

 

「その代わりと言っちゃなんだが、少し相談に乗ってもらいたいことが有るんだが」

 

「え、相談……私に?」

 

「ああ、知っての通り今のオレはあちこちから面白がられてるんだが、それは有栖の方も同じ――いや、ある意味でオレ以上のようでな」

 

 綾小路は昼休みのことを思い出すことで言葉に込める感情を強くする。

 

 それを感じ取った佐倉も息を呑んで続きを聞いた。

 

「Aクラスじゃ、有栖と馬の合わない生徒――葛城って言う奴なんだが、そいつとでクラス内が真っ二つに割れているような状態らしくてな、オレも昼にそいつと部下みたいな奴に絡まれた」

 

「は、はぁ」

 

 正直、クラス争いなど自分のようなのには大して関わりないと思っていたので気の抜けた返答しかできない。

 

 もしかして上位クラスになるための協力要請かと脳裏によぎり――思いっきり遠慮したく、迷惑な申し出に対してどうにかして断りたいと頭を悩ませる。

 

「昨日のはただの事故だがオレ自身、どうにも心に引っ掛かるものがあってな……様子も見に行きたいが手ぶらじゃ、どうにも足が重くてな」

 

 綾小路は頬をかきながら恥ずかしいような仕草で、

 

「何か手土産と言うか贈り物をと思ってるんだが、何にしようか分からなくてな」

 

 ここまでくれば佐倉にも綾小路が何を言いたいのかが理解できた。

 

 考えていた可能性じゃなくて安心したが、これはこれで難題でありどうにも困ってしまう。

 

「見た感じ、佐倉はセンスが良さそうだし――手ごろなアクセサリーとか縫いぐるみとか見繕うのを手伝ってくれないか。

 勿論、最終的にはオレが決めるから不評だったとしても佐倉の所為にしたりしない」

 

「あはは……そう言うのは櫛田さんに――――――」

 

 センスがいいと褒められたのは素直に嬉しいが、他人からの恋愛相談など初めてである自分には荷が重いとどうにも乗り気になれない――――寧ろ、こう言うことに打って付けなのがDクラスには居ると話を持って行こうとするが、

 

「こと有栖に関することは……金輪際、櫛田には話したくない」

 

 ときっぱりと否定された。

 

 朝は許すと言っていたのに、なんだかんだで根に持っているなと思いつつも坂柳とのことをとても大事にしているように感じ――それは羨ましくも嫌な気分には程遠くて心地良い気分であり、最初に抱いていた警戒心を解いて苦笑しながら答えた。

 

「うん、わかった――どこまで役に立てるかは分からないけど協力する」

 

「済まない。恩に着る」

 

「ううん。どういたしまして」

 

「じゃあ、早速ケヤキモールにと言いたいが――予算の捻出もしたいから明日にでも頼みたいんだが」

 

「あ、うん。全然大丈夫だよ。その方が私も助かるし」

 

「じゃあ、明日はよろしく頼む。ああ、佐倉の趣味のことは言いふらしたりしないから安心してくれ」

 

 そう言って、その場はお開きになった。

 

(そこは信用してるよ――――でも、あんな風な想われ方ならどうだったかなぁ)

 

 去っていく綾小路の背中を見ながら佐倉は自分が抱えている問題と比較してしまい、どうにも坂柳が羨ましい、幸せそうだなぁと心の中で溜息をつきながら自分も寮に戻っていった。

 

 

 綾小路は去ったと見せかけ物陰に身を隠しながら佐倉が行くのを確認し、その周囲に誰かいないかも警戒するが目ぼしい人物は見当たらず、今日のところは大丈夫そうだと判断する。

 

(それにしても来月もポイントは入らないだろうし……また櫛田、いや嬰児からの依頼だし必要経費とか言ってせびてみるか)

 

 端末を取り出し、須藤の退学回避で大きく減ったポイントに辟易しながらも今後を考える。

 

 坂柳を引き合いに出したことで佐倉の中で綾小路がストーカーであるという疑惑は大きく払拭されたはずだ。

 坂柳と佐倉じゃ色々な意味でタイプが違うし、まさか自分に粘着しているストーカーが他の女との恋愛相談をするなんて思わないだろうし、裏をかいて自分を騙そうとしていると考えるほど疑り深そうなタイプにも見えなかった……だからこそ付け込まれて有効な対応も出来ないのかも知れないが、それを今言っても仕方がない。

 

 明日の買い物はストーカーから見ればデートに映り、綾小路に嫉妬と狂気を向けてくる可能性はある――そうなって自分に向かって凶行に来られれば、ある意味で問題は解決なのだが、そうそう思い通りに事が運ぶとは思ってはいない。

 

(それでも佐倉から被害相談をされるか、現状を聞き出す足掛かりにはなるだろう)

 

 その代償としてストーカーの敵意の他に二股だの邪推が出回りかねがいだろうが、そこは佐倉を誘う口実を本当にしてしまえばマシにはなるだろう。

 

 冷やかし具合は増すが不愉快な陰口よりかはよっぽどいいし、そうやってブームが加速してさっさと飽きてくれれば後々に余計な気苦労を気にしなくて済む。

 

(兎も角、明日だ)

 

 消極的打算で自分を納得させながら綾小路は今度こそ帰路に就いた。

 

 

 

 ***

 

 

 何事もなく明日が今日になり、俺は校内を適当に歩いていた。

 

 さて綾小路に佐倉のことを頼んだのはいいが、何か進展があったかな?

 

 まぁ、任せると言った手前、俺の方から何かしたり訊いたりするのもどうなので異能による監視もしていない。

 

 ぶっちゃけ手駒になる様なのがないだけなんだが……。

 

 鳥を使役するにしても餌代はバカにならないし、この前のネズミの死骸もとっくに腐ってしまい使い物にならないし『死体作り』で死後硬直は遅らせてられても腐敗はどうにも出来ないから、そうホイホイ使う訳にもいかない。

 

 ああ、つくづく平和な場所では使いづらいな。

 

「あら誰かと思えば、いつぞやの」

 

 と声を掛けられ振り向くと白髪ロングの女子が居た。

 

「……ああ、確か椎名だったか、入学式の日以来だから随分と久しぶりだな」

 

「はい、お久しぶりです。嬰児くん」

 

 挨拶して近づいてくる椎名。

 

 特に目的もなく歩いていたけど、ここは図書室の近くじゃないしCクラスの近くでもない。

 

 見た所、帰るようでもないし部活かなにかか?

 

 それにしてもたった一回会っただけの俺を覚えていたのはいいとしても苗字で呼んでよくしないまで律義に守ってくれるとは。

 

「実はこれから茶道部の部室に行くんですけど、良ければご一緒しませんか?

 お茶も出しますし前に言っていた『お話』の続きも是非聞きたいのですが」

 

 俺にとってはただのその場しのぎ話題だったが、椎名には違ったようだな。まさか今になって取り上げられるとは。

 

 しかし断るだけの理由もないし、

 

「それは構わないが」

 

 誘いを了承する。

 

「はい、ありがとうございます。では早速行きましょう」

 

 椎名は笑顔で応えて、先導するように歩き出す。

 

 文化部の部室棟はすぐそこで椎名の所属する茶道部の部室を開ける。

 

 畳と障子の部屋なんて初めてだな――それに庵に窯が吊るされており如何にもな風情がある。

 

 とやや感動気味にもなったが部室の中には誰もいない……俺たち一番乗りなのか?

 

「あ、正式な部活再開は明日からなので今日は私たちの貸し切りですよ」

 

 椎名が律義に説明してくれる――しかしそれでは部活動じゃなく完全な私用じゃないか、ただ話をしたいだけならこの場である必要もないのに、どういうつもりだ?

 

 何よりもちょっと残念でもあり内心で落胆してしまう。上級生とかにもゆっくりと話が訊けると思っていたんだが…………。

 

「『たったひとつの願い』――ここでも聞いてみたかったですか?」

 

 ずばり言い当てられて俺はどうでもよかった感情を少しの興味に入れ替えて椎名を見た。

 

「ああ、是非に」

 

「ただの私の推測で良いならお聞かせしますよ。まぁ、立ち話もなんですから座りましょう――すぐにお茶もたてますので」

 

 促されるまま俺は庵の側まで行き胡坐をかき、椎名は正座して向かい合うように座る。

 

 正直、殺風景なイメージも否めなかったが椎名が茶道具を取り出して茶碗をしゃかしゃかと茶をたてだすと華やかさとは違う美しさが醸し出され……これが生の〝わびさび〟ってやつか。

 

「どうぞ」

 

 差し出された茶碗を受け取りゆっくりとすする。

 

「ずぅーーー」

 

 う~ん――渋みがやや強く温度もちょっと高いな。

 

「すみません――先輩方から教えて貰っているんですがまだ日が浅いもので……」

 

 おっと顔に出てたかな?

 

「俺みたいなずぶの素人にそこまで畏まらなくても…………それよりも――――」

 

「はい。お話の続きですね。繰り返しますが、これは開くまで私見です」

 

 椎名は苦笑したままに先の話の続きにと前置きを置いて言葉を続ける。

 

「もしも二年生の先輩が願うとしたなら――入学からやり直したいと願うんじゃないでしょうか」

 

「なんでも叶うのに随分と慎ましいね」

 

 それならAクラスに今直ぐなりたい、の方がまだ分かり易いが……………………と言うのを考えていると、どうにも笑えない事情が浮かんできてしまうな。

 

「はい。なんでも二年の先輩たちは皆、()Aクラスにして生徒会副会長の南雲と言う方の独壇場に置かれているとか。

 なので、やり直しの機会を持ってそうならないように――もしくは取り入るようになさろうとするんじゃないかと」

 

「なんとも漠然とだがシュールな事だ。それでその副会長とやらは最初はAじゃなかったと?」

 

「当初はBクラスで逆転し、今ではもう他クラスの追随を許さないとか」

 

「そこだけ聞けば、今の俺たちにも希望が見られるな」

 

「三年の先輩によるとそこまでに退学者の数が更新されてしまったと」

 

 話が進む度にどんどん重い雰囲気になってくる。

 

 椎名自身が威圧感を発している訳も無く淡々と聞いたことを言っているだけなのに――この誰もいない茶室と言う空間が凄まじく圧を押し上げてくる。

 

 静かさなら図書室もそうだし本好きだと言っていた椎名にも合っているイメージがあるが、お互いに面を突き合わせることを自然とする茶室では向き合うことを拒否できない。

 

「……………………Cクラスにもそんなことをしそうな奴が居たりするのか?」

 

 息苦しさか心苦しさなのか分からない感覚の中でそんな言葉を絞り出すと椎名は頷き話を続けた。

 

「龍園くんと言う人なんですが、Cクラスの中では誰よりもA――上に上がることに執着しています。恐ろしいほど貪欲に…………それこそ退学者が出ても構わないとも」

 

 それはまた随分と過激だな。

 

「その為に今はクラスを纏め上げてリーダーになろうとしています」

 

 椎名の声には在り在りと諦めのニュアンスがあった――そいつがリーダーになるのが余程不快なのか?

 

「敵対関係である俺にそんな事を教えてくれるのは、龍園と言う奴がリーダーになるのを阻止したいから協力しろと言う意図か?」

 

「いいえ」

 

 即答かよ。ならば何が言いたいんだよ?

 

「龍園くんは褒められたやり方をするような人ではありませんが、上のクラスに上がろうという意思は誰よりも高く、その為に誰よりも考えて行動できる――Aクラスになるには欠かせないと私は思っています」

 

「個人の好き嫌いじゃなくて、クラスとしての損得で判断を下せる当たり、椎名も十分リーダーになれると思うぞ」

 

 偽りなき本心を語ると嬉しそうにしながらも首を横に振る。

 

「そう言っていただけるのは嬉しいですが、Aクラスにとなると私ではやはり力不足です」

 

 Aクラス(もくてき)を定め、何が最も必要なのかを明確にして決断する……どっかの誰かさんに爪の垢を煎じて飲ませないな。

 

 そんな椎名が消極的ながらも認めているあたり、龍園とやらも〝聞く耳〟か〝見る目〟は持っているのだろう――どんな風に活かそうとして来るかは話を聞く限り良いイメージが湧かないけど。

 

 そう考えてみてさっきの椎名の『退学者が出ても構わない』を思い出す。

 

 何処まで本気かは知らないがその結果、どんなマイナスがクラスに降りかかるか分からない現状において、自クラスから退学者を出すのは論外だ。

 

 それでいてこんな誰もいない部屋に男女が二人きり、それも男の方は部外者であり、そうでなくても椎名はレベルの高い少女であることは間違いない。

 

 以上のことからさっき言ったことを実行しようとするなら必然的に――――

 

「ひょっとして俺って罠に掛けられてる?」

 

 誰もいない二人きりの部屋で俺がムラっとして椎名を襲ったとかでっち上げを訴えるとか?

 

「あ~、そんなことは考えてませんでしたが…………現状、そう思われても仕方ないですし――もしもそうだとして嬰児くんならどうしますか?」

 

 弁明しようとしたのも束の間、興味津々で訊いて来る姿は判断を鈍らせる……なんだかんだで喰えない娘だ――ので俺も相応の答えで返すことにする。

 

「次の朝には椎名の遺書が発見されてる筈だ。

〝嘘をついて陥れようとしたことを後悔しています。死んでお詫びします〟と書かれた内容のが――そして寮の自室には服毒(・・)自殺した椎名がベッドに横たわっている」

 

「…………………………」

 

 あまりの答えに絶句している椎名――予想の斜め上を行くなんてレベルじゃないからな。

 

「………………殺人も厭わないと?」

 

 長い沈黙の後でやっと返答が来た。

 

「バレなければ――立証できなければ問題ないんだろ?」

 

「いや、リアルかつシュールに警察沙汰ですよ」

 

「だから?」

 

「――――――」

 

 心の中ではイカレていると強く口調で言っているかな?

 

 まぁ、本当にそうなったなら警察程度は誤魔化せるかもしれないが俺が関わっていたことが分かればドゥデキャプルが出張って徹底検証の元に処断されてしまうだろうな。

 

 そうなったら〝お友達〟にした椎名に派手な終わりの始まりを任せてみるのもいいかも知れない。

 

「――――安心してください。龍園くんがリーダーになるのはまだ少し先ですので、今回のは本当に私がお話ししたかっただけです。

 のでズバリ伺いますが、嬰児(・・)くんなら『たったひとつの願い』で何を願いますか?」

 

 おいおい『お話』の人じゃなくて俺かよ。

 

 だが、そうだな。俺が願うとしたなら―――――

 

「英雄にして聖人にして平和主義者の彼女を生き返らせる……かな」

 

「平和主義者さん……ですか?」

 

「そうだな――Bクラスの一之瀬は知ってるか?」

 

「はい。Bクラスの学級委員(リーダー)を務めている方ですよね、少しお話もしたことがあります」

 

 なら話は早そうだ。

 

「その一之瀬を滅茶苦茶に強くして、強さと同じくらい(したた)かにして、彼女の比じゃないくらいに綺麗事を貫く正しさを持った女だ」

 

「はぁ~……そんな人が…………」

 

 半信半疑って顔だが、それ位はいいだろう。

 

「……嬰児くんの大切な人と言う訳ではないですよね?」

 

「ああ、全く違う――それでここから先を話すには今の椎名じゃ足りないぞ」

 

 椎名だろうと綾小路だろうと誰であろうと……いや坂柳と話をした時の手札として使えるならありかも知れないかな。俺の期待通りの答えを持っていたのだとしたら十二分に話せるだけの資格は持ち合わせているとも言えるし。

 

「そうですか。残念ですけど仕方ないですね、ではそれはまたの機会に」

 

 期待していた訳じゃないがあっさりと引き下がる椎名に肩透かしを食らった気分だ。

 

「それで…………もうここでは無理でしょうが――また私とお話をしてくれますか?」

 

 ん?なんだ、ちょっと意味が分からないぞ――何をそんなに大袈裟に?

 

「まず間違いなく、これからのCクラスは良くない……いえ悪く言われるようになるでしょう。ですがだからと言って全員がそうではないんです――頭の片隅でもいいんで留めておいて貰えませんか?」

 

 おやおや、一人でいることが苦になるタイプには見えなかったが本当は寂しがり屋さんなのかな?

 

「自クラスで言えないことなのは分かるが、敵対クラスの俺に言うのもどうかと思うぞ」

 

「伝え聞く限りのDクラスは現状、敵と呼ぶには程遠いと思いますが」

 

 これはまた耳の痛い話だが、確かにその通りだ。

 

 今の椎名の話ではCどころかBも早急に一丸になろうと動き出しており、Aにしても内部対立はあるようだが、それでも纏まろうとしているのは共通している。

 

 ただでさえ出遅れているのにDクラスでは誰もクラスを纏めようとする気概のある奴が立たず、その必要性を理解している奴もいないに等しい…………理解しててもその気のない奴じゃ話にならないし、正に不良品のクラスだな。

 

 しかし伝え聞いたね――大人しそうな顔して何かと耳のいいお嬢さんだ。

 

 ならば今この場を設けたのは――――

 

「平和主義者の話を聞かせるにしても椎名が気に入るかどうかは保証できないぞ」

 

 話題を戻して椎名の様子を窺うがそこには何ひとつ気負うことない自然体で俺を見ている。

 

「構いません。Cクラスにはお話や小説を好む人が居なくて話し相手が居ないので」

 

 嘘ではないだろうが本心とも思えないな。

 

「俺も椎名の目に入るような本好きじゃないぞ」

 

「そうだとしても――とても興味深い特技を持っていると聞きました。

 それにDクラスにはAクラスの生徒と仲睦まじくしているとも……それなら話し相手になって貰うくらいは」

 

 聞きようによってはスパイに勧誘されているようだが、ジッと観察するのを隠さなくなっていく仕草はそうでないと物語っている。

 

「…………俺がどういう奴なのか、クラスとして害になるか或いは益になるかを秤に掛けてるのか」

 

「そうストレートに来られると返って困ってしまいますね。実は昨日のお昼、食堂には私も居まして」

 

 椎名は苦笑しながらも隠そうとはせず決定的な情報(ことば)を出す。

 

 俺がAの戸塚(やつ)に催眠を掛けたのを見ていた訳だ。

 初めて教室で催眠を使った後で山内の奴が被害者面して言いふらしていたから、椎名の耳にも入っていても不思議じゃない。

 俺が気まぐれや好き嫌いで使うかどうかを『お話』にかこつけて確かめようとしていた訳か。

 

 今までの話も嘘ではないだろうがクラスにマイナスになるような物は話してはいなさそうだし、その上で個人でとなれば――これは椎名にとっての正しいことをしようとしているのか?

 

 一対一の茶室なのもクラスのことを話したのも何が引き金になるかを探るため…………おっとりした風貌とは裏腹に中々、喰えない女で面白い。

 

「俺は愉しそうもない手拍子に乗るつもりはない」

 

「…………それはまた……楽しい手拍子、つまりはそれが嬰児くんですか?」

 

 どうやら理解したようだ。ならばもう話すこともない、さっさとお暇しよう。

 

「お茶、ご馳走様。話が出来てよかったよ――それじゃあ、また(・・)

 

「!……はい、また」

 

 退室していく俺の返事に椎名は気持ちよく応じた。

 

 やはり綾小路同様に見込みはありそうだ――龍園とやらに伝えるかどうかは未知数だが黙って待つのも面白くないし、さてどうしかな。

 

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