しかしバシャーモとゴウカザルが居ないのでゲーフリは許しません。
初めは、多分嫉妬だった。
2年前、私はこのカンナギタウンに姉さんが帰ってきた時に、彼に初めて出会った。その時は彼はまだ10歳、1人前ではあるがまだまだ子供だった。姉さんが嬉しそうに紹介をしてきた無表情の彼に、私は少し戸惑ってはいたが、それでも仲良くしていたと思う。
バトルもした。当時の彼の手持ちはまだ六体も居なかったが、それでも彼の手持ちの2匹に、私の仲間は尽く負け続けた。圧倒的だったし、こんなに強い人は姉さん以外では初めてだった。
多分、仲は良かった。シンオウをまわっていた彼は、近くに立ち寄ると、必ず私たちの家に顔を出したし、私もおばあちゃんも彼を歓迎していた。
でも、ある日から彼が疎ましくなった。理由は、姉さんが彼の話ばかりするようになったからだ。
研究や仕事が忙しい姉さんは、滅多にうちに帰ってこない。仕方ないことだと分かっているし、それに駄々を捏ねるほど私も子供じゃない。
でも、偶に帰ってきた姉さんが話題に出していたのは、決まって彼の事だった。やれ彼が何処へ行っただの、彼がつれないだの、トラブルにばっかり巻き込まれているだの、彼の話が湯水の如く溢れるのに、私は嫌気が刺した。
だから、これはちょっとしたイタズラのつもりだった。冗談で、技を繰り出すフリをしたつもりだった。そうすればビックリするだろうし、普段の鉄面皮が取れれば私もスッキリするだろう。
でも__
「……止まれヴィーラ」
『殺す!殺してやる!!リヒト様に牙を剥きやがって!醜い虫けら風情が!その首へし折ってやる!!』
失敗した、殺しそうになった。そして今私は殺されそうになっている。突然飛び出した彼のポケモンに、私の手持ちが蹂躙された挙句、手持ちが居なくなった私に対して、彼のガブリアスは、明確な殺意を持って私に向かってきた。
『何故止めるのです!?こいつに生きる価値等無い!貴方様に害をなそうとするなど我々への冒涜に等しい!それだけは許してはなりません!!』
「何をそんなに怒り狂う…ただの戯れだろう」
そう言ってのけた彼に、私は先程の命の危機と同じくらい恐怖を感じた。戯れ?さっきまでの自分の生命の危機の事を言っているのだろうか?それならば私は、親交のある彼が恐怖の対象になってしまう。
ポケモンの技は、人を簡単に殺せる。たいあたりだってまともに受けてしまえば怪我は避けられまい。
だが、私のルカリオが放ったのは、はどうだんだ。たいあたりとは訳が違う、対ポケモン用に放つ、倒す為の技だ。それに、はどうだんにはある特性がある、それは必ず当たるという事だ。
あの時の彼は、ポケモンを出して迎撃するそぶりすら見せられなかった。
まるで、それを自分の手持ちが防ぐのを分かっていたように、身動ぎ一つしなかった。襲いかかるそれに、体が強ばるわけでもなく、それを対応しようと考えるわけでもない、その先がどうなるのかと分かっているように彼は何もしなかった。
『あの女の血族だからといって庇う必要はありません、即座に殺しましょう。この弱者が一体誰に手を出したのか、それを理解させねば__』
「……俺の言うことが聞けないのか?」
瞬間、私は背筋が凍る感覚がした。
冷めた声で言う彼のその両眼が、見たことも無い程に昏い、闇のようだった。声音は冷めていて、まるで何かに興味を失ったようにも見えてしまった。
その決して大きくない体から、何かが噴き出すような姿を幻視した。まるで昏く、禍々しい。なんとも悍ましいまでの恐怖が溢れだしていた。
『……あ、も、申し訳ありませんリヒト様。出過ぎた真似を……』
「…最近、お前は暴走する事が多く見えるな」
彼のその一言にビクリ、と肩を跳ねるガブリアス。その様を見ているのかどうか、こちらを向いてない彼の表情は分からない。だが__
「疲れたのだろう?ならば
『そ、それだけは御容赦を!私には、私にはここしかありません!!』
すがりつくようなガブリアスの様子を見て、彼のその顔は、その声音に見合った氷のような顔をしているのだろう。私はそう、理解してしまった。
この2年間、無表情だが、可愛い弟分として接してきた彼。何故彼が手持ちに敬われ、畏れられているのかついぞ分からなかった。だが、今身をもって知ってしまった。
「…失礼しました。お怪我は?」
「え、ええ。大丈夫よ、ありがとう!」
不意に、こちらに歩み寄り手を伸ばしてきた彼に、その手をとる事を少しだけ躊躇ってしまった。
しかし、せっかくの好意を無駄にする訳にもいかず、私は彼の手を取った。
そして触った彼の手は__
__まるで先程までの彼を表すかのように、氷のように冷たかった。
「……ッ!?」
「…ああ、すみません。少し冷えたままでした」
咄嗟に握った手を離してしまった私に、申し訳なさそうな声音で謝罪する彼。何故そんなに冷たいのか、何故そんな手の冷たさで平然としていられるのか、何もかもが分からなかった。
分からない、数年の付き合いがあるはずの彼。その何もかもが、未知であり、恐怖の対象となってしまった。
彼を恐れる私のそんな思考を、まるで見通すようなその空虚な瞳が、私をじっと見る。その視線は、先程襲われた時に、倒れて下敷きにした私の右腕を見ていた。
「重ね重ね、申し訳ありませんでした」
「い、いいのいいの!元はと言えば私が仕掛けたことだし、むしろ私が謝らなくちゃ__」
そう言って、彼に向かって謝罪しようと思った私は、彼の次の言葉を__
「
__私は、上手く理解出来なかった。
「あ…の、程度?」
「ええ、
その瞬間、込み上げてきた吐き気を抑えられた私を、この先一生褒めてやりたいとさえ思った。
確かに、過去ポケモンの技を受けてしまった人間のデータの中で、はどうだんに被弾した人がいた。
あの時は確か、被弾した腹部の骨が砕け、内臓に深刻な被害を及ぼしたと聞き及んでいる。姉が研究者ということで、我が家にも沢山文献があり、その中にも、他の事件の概要などがあった。
だがどれも、死んでいなくとも深刻な怪我を負っているものだらけだった。
だが彼は、それを
まるで、死ななければ何一つ問題は無いと、骨が折れる事など些事でしか無いと言わんばかりに。
その様に、私は強烈な吐き気を覚えた。
覚悟が決まっている人間は、このシンオウ地方にも確かにいる。ポケモンと共に研鑽を積む人間の中にも、強くなる為に、他を全て捨てるような人は、確かに存在する。
だが、誰しもが、人としての本能を捨てた訳ではない!
人ならば、痛覚が存在し、命の危機を回避しようとする筈だ。
だが彼は、強くなる為に、己という生き物の本能さえ犠牲にして、削ぎ落としたというのか?
そんなものは不要だと、生きてさえいれば闘うことは出来ると、生き物の本来備わっているそれを、不純物として捨て去ったのかと。
込み上げた嘔吐物を、必死に飲み下す私を、彼は不思議そうに、あるいは心配そうに見つめている。
だが私はもう、彼と目を合わせられそうに無い。
私には、彼という人が理解出来ない。その圧倒的な強さも、狂信的なまでの信頼を得る求心力も、そして彼の生物としての欠陥も。
震えが止まらない。こんなことになるなら、知らない方がマシだった。今までのようにただ嫉妬していて、それでも自分の弟分として接していられる時のほうが幸せだった。
私は、彼に手を出すべきではなかったのだ。
この後の人生で、私はこの日の行動を一生後悔し続けるのだろう。
彼に手を出すべきではなかったのだと。
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「(何怒ってんのこの子、働き過ぎでストレス溜まってんのかな?)」
今しがたお前がやられた事を思い出せ。
はどうだんブッパした女性がSAN値チェックをしている中、件のリヒトはというと、キレて暴れ回ったヴィーラに、ガチで理由が分からず内心首を傾げていた。何故分からないのか、お前はどうだん打たれたんだぞ。
「(はどうだんか?いやはどうだん位でそんな怒るか?きあいだまなら分かるけどはどうだんならチクッと来るだけやん…)」
人間辞めてませんか?(again)
しかしそんなツッコミをする人がいる訳でもなく、さりとて表に出す訳もないリヒトに、間違いを正せる人間など何処にも居ないのだ。
「(1回休暇取らせようかなぁ、ヴィーラずっと手持ちで連れ回してるし、シンオウの家でゆっくり過ごしてたらストレスも無くなるでしょ。
ナチュラルに手持ちが一番嫌がる事をしようとするリヒト、こいつなんで手持ちに慕われてるのか、全員マゾなのだろうか。
しばらく考えていたリヒトだったが、まあいいやと切り上げて、目の前の女性を見る。その女性__シロナの妹が何かを我慢するような表情を浮かべていることに気付いたリヒト、そのまま少し近づいたリヒトは……
「挨拶もすみました…それでは失礼します(トイレ行きたいのか、なら何も言わずに立ち去るのが礼儀!!)」
何も分かってないわコイツ(呆れ)。
そうして本人としては他人に思いやりができる男として、踵を返すとスタスタとカンナギタウンの出口へと歩き出した。心做しか少し気遣いが出来た(出来てない)からか誇らしげな感じだった。
誰かこいつをシバキ倒せないものか。
そりゃマッハ2で飛行してる奴の手は冷たかろう。
ちなみに私は、月末の方になると少しだけ創作意欲が湧いてまいります。
しかし古戦場が始まるので、恐らくまた更新が遅くなります。クソ雑魚騎空士の私でも、一応頑張りますので古戦場に集中します。
もし更新があったなら、それは私が古戦場から逃げた時でしょう。