始祖ユミルの朝は早い   作:執筆の巨人

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犠牲になったのだ

 四人の男女が円卓についている。一人が眼光鋭く他の三人を見据えていた。彼が何を考えているのか定かではない。ただ、卓に置かれた彼の手のひらには傷があった。二人は全てを理解しているつもりであった幼馴染の変貌ぶりに困惑することしか出来なかった。残る一人は恐怖に打ち震えていた。

 

 エレン・イェーガーはまるで敵でもみるような形相でミカサ・アッカーマンを睨みつけた。

 

「ミカサミカサ、愚かなミカサ」

「そういうお前ら習性知らぬ。アッカーマンの習性知らぬ」

「俺の使命の深さを知らぬ。這いつくばってる今そこに」

 

(こ、こんなエレン……今まで見たことない)

 

「兵団最近エレンを監視。君は島を出で半年。言動おかしさ目に余る……君のおかしさ目に余る」

「俺に執着、ずっと執着、己を誓約、忌むべき執着。俺を宿主決めつけ錯覚、家畜か奴隷か不自由か。ガキの頃からずっと嫌い」

 

「ううっ……」

 

 ミカサが泣き出してしまう。エレンのあんまりな言い草にアルミンが吠えた。

 

「止めろめろめろエレンめろ!!」

「!」

「いい加減にしろいい加減……どうした一体いい加減」

「エレン最近少し変、君は最近少し変」

「何もおかしくなどはない。自分の使命果たしてる……使命だけを果たしてる」

「じゃあ何故島を出て行った? 何故何故島を出て行った?」

「…………」

「座標に至る、それだけだ」

「何の話だ何なんだ……」

 

 

 

「やっぱり何度聞いてもいいですよね、この時のエレン」

「この会話こんなでしたっけ?」

 

 低頭平身に土下座すること早一年、やっと口を聞いてくれたかと思えばこれだ。始祖ユミルさんは今日も絶好調のようだ。

 

 

「うふふふ……」

 

 おかしい。始祖ユミルさんの機嫌がここ最近ずっといい。今も超大型を優に超える大きさの巨人が発注されたにもかかわらず、文句ひとつ垂れることなく鋭意製作中だ。

 

「逃げ足だけが取り柄のクソ野郎に相応しい巨人に仕上げなきゃ……」

 

 ゲスミンを彷彿とさせる笑顔が眩しい。数百年の歳月でもって作られた巨人は下半身がほぼ完成していた。次は上半身か、あの半身に見合う大きさは一体何年かかるのだろう。ぼーっと作業を眺めていたら始祖ユミルさんが驚きの行動に出た。崖のような足場から大きく跳躍する。

 

「もしかして内臓も作るんですか?」

「そうです。リアリティを追求したいので」

 

 始祖ユミルさんは巨人の骨盤部、人でいう股間から腰のスペースに器用に飛び乗るとその場で粘土をこね始めた。なんというプロ根性。排泄器官がない巨人にそんなものは必要ないだろうに。流石は始祖ユミルさん、頭が下がる思いだ。そこでふと素朴な疑問が生じた。

 

「ユミルさんユミルさん」

「何ですか?」

「リアリティを追求するなら何故排泄器官を作らないんです?」

「ふぇ!?」

「あと生殖器官も」

「せ、生しょ──!?」

 

 全ての巨人はすべからくあれが付いてない。いや、ぶらぶらさせてたらさぞや不気味だが。思えば雌型の巨人を除き、ほぼ全ての巨人が(生えてないとはいえ)男性型だ。あのカルラ・イーターですらそうだ。これは一体どういうことか。何か職人なりのこだわりがあるのだろうか。密着取材中のリポーターとして是非知りたいところだ。

 

「え……ぅ……だって……その……それは」

「何か理由があるなら教えて下さいよ」

「う……うう」

「あれ、聞こえてないのかな? ユミルさーん!」

「うう……うわぁあああああああ!!」

「ワッサ!?」

 

 耳まで顔を真っ赤に染めた始祖ユミルさんが巨人の下半身を足蹴にリヴァイ兵長並みの回転で突っ込んでくる。なんで!? 始祖ユミルさんなんで!?

 

 この後めちゃくちゃガスバスバクハツされた。

 

 以上、座標からお伝えしました。


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