Fate / fairy tails   作:OBI

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第2話 輝ける槍

「そういうわけだから、消えて」

 そう言い放った黒髪の美女は右手の人差し指をキャスターに向ける。指先から数センチの位置に、蒼く複雑に輝く野球ボールほどの美しい珠が現れた。

「あなたたちでは見ることもかなわない物よ、光栄に思いなさい」

 浮遊する珠が輝きを増し、青い光弾が放たれる。直線的な軌道で闇夜を切り裂くそれをキャスターはなんとか飛び退いてかわす。着弾地点のコンクリートは大きく抉られており、攻撃の威力を物語っている。

「マスター、少し離れていた方が良さそうだ」

 そういうとキャスターはライダーに向けて猛スピードで接近する。何発か光弾が放たれるが、ギリギリでかわしていく。間合いに入った瞬間、キャスターは目にも止まらぬ後ろ蹴りをライダーの腹部にめがけて繰り出す。しかしその蹴りは何か硬いものに阻まれた。直径20センチほどの黒い鉢のようなものがキャスターの蹴りを受け止めていた。すかさずライダーは光弾を放つ。それが脇腹を掠めただけで凄まじい衝撃がキャスターを襲う。

 

「なるほど、これは分が悪い……マスター、ここは一旦引こう」

 痛む脇腹を堪え距離をとるキャスターを見て、マスターであるマジハムが声を荒らげるが、それにライダーは反発する。

「逃がすな、ライダー!」

「だから命令しないでって何度言えばわかるわけ?」

 その隙を突くキャスター、コルセットから虫眼鏡を伸ばし、ビームを放つ。結果的にそれは悪手だった。光が晴れた先には、まったくの無傷でキャスターを睨むライダーの姿があった。

「飽きたから居なくなるなら見逃してあげようと思ったけど気が変わった、やっぱここで死んで?」

 先ほどの蒼い珠に加え、黄色い珠が現れる。激昂したライダーが2つの珠から繰り出す光弾は威力、物量ともに凄まじく、ビコを庇いながら逃げるキャスターを何度か捉えていた。口から血を滲ませながらキャスターはビコに話す。

「この序盤にあのライダーほどのサーヴァントと出くわしたのは完全に誤算だ、このままでは二人とも殺されるだろう。マスター、君が居ればあの少年を導ける。一瞬隙を作るからその隙に逃げるんだ。いいね?」

「何言ってるのキャスター!」

「心配しなくてもいい……敵と心中するのは慣れている。ここが滝じゃないのが少々不安だがね。さあ行くんだ、マスター!」

 

 キャスターはそう言い切るとコルセットの虫眼鏡を展開する。6つのレンズがライダーをにらみ、青白い閃光を発する。さほど効果がないことを聡明なキャスターは察していたが、マスターが逃げる時間を稼ぐために力を緩めなかった。ビコは一目散に走る。数十メートル程離れると木陰に身を隠し、ポケットから携帯電話を取り出しある番号にかけた……数コールで通話が繋がる。電話の相手は和希だった。

「もしもし? ビコさん? 忘れ物だったら、」

「いいから聞いて! 異常に強いライダーに見つかって戦闘中なの! はっきり言ってキャスターじゃ勝ち目がない! 今すぐサーヴァントを召喚して援軍に来て! ここでキャスターを失うわけにはいかないの! 今から私はキャスターのところに戻って全力で時間稼ぎをするから、早く来て!」

 ビコはまくしたてると一方的に電話を切りキャスターのところへ戻る。

 

 キャスターは片膝を突いていた。一方のライダーはまったくの無傷で見下すようにキャスターを見ている。蒼い珠がいっそうの輝きを放つと、彼女は興味なさげに終わりを宣言する。

「べつに面白くもなんともなかったわ、さようなら」

 直径1メートルほどのまばゆい光弾、直撃すればキャスターは間違いなく霊基を砕かれてしまうだろう。キャスターが終わりを覚悟したとき、背後からビコの声が聞こえた。

「令呪を持って命ずる! 我が敵を打倒せよ!」

 ビコの右手の甲に記されている紋章が光り、一部が消えていく。それと同時に大量の魔力がキャスターに流れ込み、傷を癒していく。迫りくる光弾を難なくかわし、ビコの前に立つキャスターは驚いたように問いかける。

「なぜ戻った? まったく……私の時間稼ぎが台無しじゃないか」

 ビコは答える。

「あのまま逃げても捕まって殺される可能性が高いもの、ここであなたと戦う方が賢いわ。それに秘策も仕込んでおいたし。さあ! 全力で時間稼ぎをするわよ!」

「了解だ、マスター」

 

 再び生気を取り戻したキャスターに対し、苛立ちが隠せないライダーはその美しい顔をゆがめる。

「ああっもう! なんなの? ワタシが死ねって言ったんだから死になさいよ!」

 光弾の雨が降り注ぐ。しかし完全に冷静さを欠いているためか攻撃の精度は下がっていた。時にかわし、時に逸らし、時にスッテキで撃ち落とす。社交ダンスでも舞うように華麗なステップを踏みながらキャスターはライダーに接近していた。ステッキで突く。しかし攻撃は黒い鉢に阻まれる。それを予測していたかのように虫眼鏡、手足、ステッキと激しい乱打を浴びせる。本来は肉弾戦が得意なクラスではないが、キャスターはとある格闘術を習得しており、武道の達人といっても過言ではない。令呪による強化もあり、凡百の英霊なら痛手を負うような波状攻撃がライダーを襲う。しかし、それだけの攻撃をもってしてもライダーの防壁を破ることは叶わなかった。黒い鉢が何個も現れ、攻撃を正面から受け止める。攻撃の衝撃さえライダーに届くことはない。

「鬱陶しいのよ!」

 ライダーは浮遊する蒼と黄の珠を光らせると、直接キャスターにぶつけようとする。ギリギリでかわしたが、珠がかすったコンクリートの道路はバターを掬ったように簡単にえぐられていた。近づけば珠で殴られ、離れれば光弾の雨、攻撃しても黒い鉢に阻まれる。完全に攻め手を失ったキャスターだが、マスターの言葉を信じて力の限り時間稼ぎを続ける。それも限界を迎えようとしたころ、キャスターは不意に足を止めライダーに話しかけた。

「しかし、なぜ貴女が、あのような品のないマスターに召喚されたのか理解に苦しむね、あのような男がもっとも嫌いなタイプだと思っていたのだが」

 ライダーは話に乗った。

「何それ? あなたワタシが誰だか分かってるわけ?」

 キャスターは意味ありげに頷く

「……有名な宝具を2つも見せられたんだ、私なら推理するまでもない。そもそもなぜ聖杯戦争に参加した? やはり聖杯かね?」

「あんな醜いものに興味ないわ、その気になればもっと良いものが手に入るし……単純な興味よ、今のこの国がどんな感じなのか知りたくなっただけ、あなたの言う通りあの男は反吐が出るほど大っ嫌いよ、でも金持ちだからこの街で遊ぶのに都合が良くて付き合ってやってるの。飽きたらすぐ座に還るわ。さ、おしゃべりはもういいでしょ、消えて」

 

 右手を前に出しキャスターに狙いを定める。2つの珠が輝きを放つ。絶体絶命の状況にもかかわらず、キャスターがビコの方を向いて笑う。

「どうだい、時間は稼げたかね?」

 ビコは満足そうに答える。

「ええ、十分よ」

 キャスターとライダーの間に光の柱が立ち上がる。否、それは天から放たれた魔力の奔流であった。激しく土煙を巻き上げるクレーターに、銀の鎧を纏い白馬に乗った騎士が降り立つ。その手には美しい白銀の槍を携えている。兜で表情こそ見えないが、圧倒的な存在感を持ってその場を支配していた。そしてその背中には会津和希がいる。

「遅くなりました! ビコさん、キャスター、無事ですか!」

 キャスターが皮肉たっぷりに答える。

「ああ、とても早かったじゃないか、もう少し早くても良かったがね」

 和希は苦笑いしながら白馬の背から降りると、ライダーの方へ向き直った。

 

 

―――数分前、会津邸

 

 ビコから一方的に電話を切られた和希は固まっていた。こんなにも急に、しかも一人でサーヴァントの召喚をするなどまったく考えていなかったからだ。しかし使命感だけは強く感じている。やり方を何となく聞いただけ、何が起こるかもよくわからない。成功しなければビコたちは死ぬという極限のプレッシャー。押しつぶされそうになりながら、呪文が書かれた紙と触媒の入った小包を持って地下室の陣に立つ。自分が呪文を唱えてサーヴァントを召喚する……あまりに現実感のない行為に意識を集中していく。そして……読み間違えないようにゆっくりと、一言、また一言と言葉を発していく。

 

『素に銀と鉄。 礎に石と契約の大公。

 降り立つ風には壁を。

 四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ。

 

 閉じよみたせ。閉じよみたせ。閉じよみたせ。閉じよみたせ。閉じよみたせ。

 繰り返すつどに五度。

 ただ、満たされる刻を破却する。

 

 ――――告げる。

 汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。

 聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ。

 

 誓いを此処に。

 我は常世総ての善と成る者、

 我は常世総ての悪を敷く者。

 

 汝 三大の言霊を纏う七天、

 抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ―――!』

 

 唱え終わった瞬間、強烈な目眩に襲われる。脳か、心臓か、精神か、何か特別な部分に穴が開き、その穴が何かとつながる感覚。非常に不愉快だが、懐かしいような浮遊感。右手の甲に鋭い痛みが走り、赤い弓のような文様が浮かび上がる。サーヴァントへの命令権、3画の令呪である。

 

 膝を突き、息を荒くする和希の目の前に、青い衣に白銀の鎧を纏った金髪碧眼の美しい女性が立っていた。年の頃は20代半ばから後半くらい、背は高い。手には銀の糸が編み込まれたような鋭い馬上槍を携えている。目の前の騎士に和希は問いかけた。

「あなたが……サーヴァント……?」

 美しいながらも場を支配するような荘厳な雰囲気を放つ彼女は和希に向かって言った。

「応えよう。私はあなたのサーヴァント、ランサー。最果ての槍を以て、貴方の力となるものです。名をアルトリア・ペンドラゴン。まさかこのような姿で現界するとは思っていませんでした」

 和希の中で召喚を成功させた喜びが沸き上がるが、現状を思い出し我に返った。

「アルトリアさん! いきなりですが助けてください! 仲間が襲われているんです、すぐに行かないと!」

 そう言って外に向かって走り出す和希をランサーが追いかける。外に出たところでランサーが和希を引き留めた。

「急ぎならば馬を使いましょう、それと私のことはランサーと呼んでください。あと敬語は不要です。あなたがマスターなのですから。」

 どこからともなく白馬が現れる。ランサーは颯爽と飛び乗るとマスターに向かって手を出した。

「さあ、乗って!」

 和希は差し出された手を握り馬に乗る。

「しっかり捕まっていてください」

 白馬はいななくと猛スピードで走り始める。いつの間にかランサーは獅子の意匠の兜で顔を覆っている。まもなくキャスターとライダーが見えてくる。キャスターは追い詰められていた。

「ランサー、早く!」

 それを聞いたランサーが手綱に力を籠めると白馬は天に舞い上がった。完全に物理法則を無視した挙動に驚く和希をよそに、ランサーは右手の槍の切っ先を戦場へ向ける。次の瞬間、光となった魔力がキャスターとライダーの間に突き刺さる。舞い上がる土煙を払い、地面に降り立つと少し会話をする。そしてランサーは相手の力量を悟り避難を促す。

「マスターは下がっていてください。あのサーヴァントは強い」

 

 ライダーを馬上から見下ろすランサー、その強さをライダーは肌で感じていた。

(このランサー、キャスターよりだいぶ強い……見た感じ神霊に片足突っ込んでるくらいの強さってとこか……今のワタシのコンディションじゃ負けないまでも無事じゃすまないわ。逃がしてくれるようなら逃げるのもアリかなー)

 ジリっと半歩後ずさるライダーに距離を詰めたランサーが槍を突き立てる。キャスターのときと同様に黒い鉢が瞬時に現れ、槍の先端を受け止めるがランサーは貫こうと力をこめる。一瞬の静止の後、黒い鉢に異変が起こる。ピキ、ピキと軽い音がしてヒビが入り、砕ける。ランサーの槍はその勢いのままライダーを刺し貫こうとするが、自らの防御の異変にいち早く気づいたライダーは寸前でかわした。ビコは驚きの声を上げる。

「すごい! ライダーの防御を崩したわ!」

 その声に面白くなさそうな顔をするライダー。

「ふぅ、所詮は贋作(にせもの)、私の力で強化してもこのレベルの攻撃は防げないか……」

 2つの珠からいくつも光弾を放ちランサーを狙う。しかしそれらはひとつ、またひとつと輝く槍に弾かれ、消し飛ばされる。その姿にキャスターも感心する。

「マスターから触媒の正体を聞いたときは半信半疑だったが、あの力は間違いなく本物のようだ。さすがと言うほかない。」

 

距離を詰めるランサー、魔力を強く込めているのだろうか、先ほどに比べて強く槍が輝いている。一閃、ライダーに向けて槍を薙ぎ払った。防御も回避もできないであろう一撃に皆が勝負の決着を感じた……しかし、ライダーは立っている。右手に持った木の枝のような物で槍を受け止めていた。枝は金色に輝き、七色に輝く不思議な真珠のような実がいくつも生っている。武器には見えず、植物の輝きではない。圧倒的な美しさの美術品のようだった。ランサーとライダーはともに驚いていた。”槍を枝が受け止める”そんなことは起こり得ないと2人とも思っていたからだ。先に声出したのはライダーだった。

「はぁ? あなたのその槍なにでできてるのよ! ワタシの枝とカチあって無傷とか神造兵装クラスの武器じゃない!」

「それはこちらの台詞だ。その枝、先ほどまでの2つとは格が違うようだ」

 

 適当に枝を振るうライダー、武術の心得がまったくなさそうな動きだが、手にした枝が計り知れない凶器とあってランサーは距離を取る。ライダーは振り返り、今まで完全に無視していた己のマスターに一方的に告げる。

「飽きた! ワタシは適当に逃げるからあなたも死にたくなければ必死に逃げなさい!」

 マジハムはあっけにとられる。それもそのはず、マスターが殺されれば聖杯戦争の敗北が決まる以上、マスターを置いて逃げるサーヴァントなど居るはずがない。

「ふざけるな! オレを連れていけ! オレが死んだらお前も終わりだぞ!」

 ライダーはまったく意に介さない。

「さっきも言ったでしょ? ワタシは聖杯戦争なんてどうでもいいの、先にさっきの部屋に戻ってるから。入るときはノックしなさい」

 

 そういうと彼女はランサーの方に向き直り、枝をコンクリートの地面に植えるようにかざす。金の枝の先から銀の根のようなものが生え、地面に埋まっていく。

「そういうこと、あなたとやりあうのは割に合わなそうだから今日はこの辺でお暇させてもらうわ。天気もイマイチだし。願わくは他の誰かに倒されて欲しいわね。では、ごきげんよう」

 成長した銀の根が幾本も地面から突き出て辺りを無作為に襲う。それはさながら鋭く太い杭の雨の様だった。ライダーは地面から枝を引き抜き、軽やかに跳躍をして夜の街へ消えていった。マジハムはその方角へ必死に走る。

「マスター、下がりなさい!」

 ランサーは再び槍を構え魔力を込める。辺りに強い風が吹いたと思うと両手で槍を薙ぎ払った。

「風王鉄槌(ストライク・エア)!」

 魔力を伴った暴風が吹き荒れ銀の杭を消し飛ばす。さながら嵐の様だった。

「ライダーは逃がしてしまいましたか。マスター達はケガはありませんか?」

 和希とランサーの初陣は見事に勝利で飾られた。

 

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