Fate / fairy tails   作:OBI

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番外の壱 ある日、ある時、ある場所で

キャスター篇

 

 薄暗い部屋でビコは呪文を唱えている。瞳を閉じ、祈るように、歌うように、全身で、全霊で。彼女を中心に陣が描いてあり、その手には古い紙束が握られている。

 

『素に銀と鉄。 礎に石と契約の大公。

 降り立つ風には壁を。

 四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ。

 

 閉じよみたせ。閉じよみたせ。閉じよみたせ。閉じよみたせ。閉じよみたせ。

 繰り返すつどに五度。

 ただ、満たされる刻を破却する。

 

 ――――告げる。

 汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。

 聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ。

 

 誓いを此処に。

 我は常世総ての善と成る者、

 我は常世総ての悪を敷く者。

 

 汝 三大の言霊を纏う七天、

 抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ―――!』

 

 詠唱を終えると、部屋が眩い光に包まれる。光がおさまる……先ほどまでビコしか居なかった部屋に長身痩躯の紳士が立っている。紳士はゆっくりと目を開けると、ビコに言った。

「私はキャスター、シャーロック・ホームズ。その手の触媒を見るに自己紹介は必要なさそうだ、私が探偵であることも承知の上。であれば何かを依頼するために呼んだのだろう? それなら君は私のマスター兼依頼人だ。望むなら助手にしてあげてもいいがね。」

 ビコは目当てのサーヴァントを召喚できて満足そうにしている。喜びもそこそこに、彼女は重要な質問を投げかけた。

「キャスター、あなたは聖杯に何を望むの?」

「聖杯……酷く歪んでいて観察対象としては興味深いが、あれ自体に興味はないよ」

 ビコは想像していた通りの答えに小躍りしそうになる。

「そう! なら私に協力してくれるわよね? まずは最後の一人を探しに行くわよ!」

 

 

 アーチャー篇

 

 ホテルの一室で少女は床に描かれた陣を見つめながら沈んでいた。少女の名はナツキ・トリオン、左目を隠した銀色の髪が特徴的な少女である。

「先生は殺された……この街の警察は年齢からきた心臓発作だと言ったけど、先生の荷物から触媒だけが無くなってた……間違いなく犯人はあの王を召喚するはず……私が召喚するサーヴァントでは勝ち目が無いけど……やるしか……」

 少女は触媒のサーベルを手に呪文を唱える。眩い光に包まれて茶髪の銃士が現れた。

「私はアーチャー、━━━━ 。主(あるじ)の栄光のため、我々は全力を尽くすことを誓います!」

 ナツキは声のトーンを一段落として命令する。

「よろしくね、アーチャー……私の望みはひとつ、先生を殺した犯人を殺すこと……」

 

 

 ライダー篇

 

 御島市でもっとも豪華なホテルの最上級スイートに男は陣を敷いていた。これからサーヴァントを召喚するのだろう。男の名はマジハム・ガリアスタ。彼の従兄はかつて冬木の聖杯戦争に参加し、そして死んだ。その際に失った一族の資金と名誉を取り戻すための一手として、この聖杯戦争を選んだ。御三家や聖堂教会が関わらないのであれば、大した魔術師は出てこないだろうと考えたのだ。彼は大金を払い触媒を手に入れた。自分の考えつく限り最高のサーヴァントを召喚するために。

 

 召喚が始まる。その傍らには触媒として非常に古い紙が置かれている。光が溢れる。そしてそこに立っていたのは輝かんばかりの十二単を纏った黒髪の美女だった。

「よくも呼び出したわね、まあそれなりの部屋に招いたことは褒めてあげるわ。薄暗い地下室とかだったらこの場で殺してたところよ? 呼びかけに答えたことに感謝なさい? ワタシはライダー、━━━━。まずはこの重苦しい服を脱ぎたいの、着替えを持ってきなさい」

 目の前の美女の態度に驚きつつも、召喚が成功したことを喜ぶマジハム。いやらしい笑みをこぼしながら考える。

 (やった! 勝ったぞ! 間違いなく最強のサーヴァントを呼び出した! )

 

 

アサシン篇

 

 ある港の倉庫の中心で男は陣を敷いている。背は2メートル近い筋骨隆々の中年男性。ロマンスグレーの短髪に鋭い眼光。彼が只者ではないことは素人目にも判断できるだろう。黒いTシャツにオリーブ色のカーゴパンツを着ており、魔術師というよりは軍人のように見える。陣を敷き終わると早速召喚に取り掛かった。触媒の古びた縄を手に取り陣の上にかざす。目を閉じ、つらつらと召喚の呪文を唱える。

 やがて陣が光りだし、光の中から人影が現れる。

 

 黒いハットに白いシャツ、黒いベストに黒いズボン、そして黒い革靴に黒いマント……ほぼ真っ黒の服を着て、髭の生えた白い顔に引き攣ったような不気味な笑顔を張り付けた痩せた男は問いかける。

「私を召喚するなんて酔狂な魔術師も居たものだ。誰を呼び出したかはわかっているかい?」

 召喚者は答える。

「もちろんだ、お前の名は―――だろう?」

「正解、私は―――、アサシンのクラスで現界したようだ」

「宜しく頼む、お前が生前遂げられなかったことをここでやり直そうじゃないか、それが俺にとっての利益にもなる」

 それを聞いたアサシンはケタケタと笑った。

「おやおや、これは恐ろしい! マスターの目的は知らないが、協力してくれるなら願ってもない! 早速準備に取り掛かろうじゃないか!」

 

 

 セイバー篇

 

 マンスリーマンションの一室で一人の青年は頭を抱えていた。彼の名前はライアン・ミラスローゼ。それなりに歴史のある魔術の家系に生まれたが、彼には魔術の才能がなく、魔術より経済に興味をもっていた。そんな事情もあり両親の期待は弟に注がれていたが、世間体を気にする両親により、此度の聖杯戦争への参加を強制されていた。勝ち抜いて聖杯を持ち帰ってくれば良し、最悪戦死しても息子は勇敢に戦って死んだという評価が得られる。両親の彼への興味はすでにその程度だった。

 

 いつまでもこうしているわけにはいかない。決意というにはあまりに後ろ向きな気持ちで召喚の準備をする。彼には親の命令に逆らって逃げ出す勇気もなかった。餞別として渡された触媒の錆付いた十字架を握り締め、ひどく憂鬱な気分で召喚の呪文を唱える。やがて光の中からサーヴァントが現れる。

 初老の偉丈夫で赤い髪に赤い髭、美しい西洋鎧と赤いマントを纏い、腰には十字の剣を帯びている。男は髭をさすり、ライアンを見ながらまくしたてる。

「余はセイバー、―———なり! 余を求める民草の声に応じ参上した! そなたがマスターか? なにやら覇気のない面構えだが……まあよい、余に付いてまいれ! まずはこの戦場を把握するとしよう」

 そう言うとセイバーは颯爽と部屋を飛び出した。

 

 ライアンはそれを慌てて追いかける。すぐに追いつくとライアンはセイバーをたしなめる。

「ちょっとまってくれ! その恰好は目立つ! すぐに他のサーヴァントに襲われるぞ! 霊体化するんだ!」

 セイバーは自分の姿を見て笑う。

「む、そうか、この姿は余の復活を知らしめるのによいと思ったのだが……しかしマスターに言われては仕方ない。霊体化するからまずは当世風の服を買いに行くぞ! ところでマスター、そなたの名を聞いていなかったな」

「お前がいきなり飛び出したからだろ……僕はライアン・ミラスローゼ、落ちこぼれの魔術師だ」

「ふむ、ライアン、そなたはなぜ聖杯戦争に参加する?」

 ライアンはその問いかけにバツの悪そうな顔をしながら答える。

「目的なんて……特にないよ……」

 セイバーは髭をさすりながら怪訝な顔をする。

「そなたは目的もないのに命を懸けるのか? 当世の魔術師はそういうものなのか?」

「いや、魔術師がみんなこうってわけじゃ……」

「……まあよい! では服を買いに行くぞ!」

 セイバーはそう言うと力強く歩き始める

「だから霊体化しろって!」

 

 

 バーサーカー篇

 

 街から少し離れた山の入り口に建つ廃墟で呪文を唱える青年、手には触媒の古い紙が握られている。彼はダグラス・ワン。眼鏡をかけた黒髪オールバックのビジネスマン風の中国系アメリカ人だ。

「されど汝はその眼を混沌に曇らせ侍るべし。汝、狂乱の檻に囚われし者。我はその鎖を手繰る者――」

 狂化の一節を付け加え召還を行う。彼はこのサーヴァントをバーサーカーで呼び出すことにこだわりを持っていた。その思惑通り、バーサーカーが召喚される。

 

 背が高く、仕立ての良い茶色い外套に身を包み、頭には金の王冠を戴いている。何より特徴的なのはその顔であった。眼球がなく深い闇で満たされた眼窩、削ぎ落されたように薄い鼻と唇。対峙したものに恐怖を抱かせる化け物じみた貌の王、それがバーサーカーであった。

「我をバーサーカーのクラスで呼び出すとは……魔術師、貴様は余程死にたいと見える。」

 バーサーカーの黒い眼窩の睨みに臆することなく、ダグラスは恭しく芝居がかった口調で返した。

「滅相もございません、我が王よ。私は王の僕にございます。バーサーカーで召還したのも、少しでも王の御力を上げようとしたためでございます」

 バーサーカーは恐ろしい顔をダグラスに近づけ言い放つ。口の中すらも完全な闇、油断すれば吸い込まれてしまいそうだ。

「そういうことにしておいてやろう。わかっているだろうが我を裏切る素振りを見せればすぐに殺す。肝に銘じておけ。我は聖杯を獲り、この忌々しい姿をこの世から消し去るのだ。余計なことはするな」

 胡散臭い笑顔を顔に張り付けながらダグラスが答える。

「もちろんでございます。王は無敵でございますから。召還が成功した時点で私がすることはこれといってございません。王のご命令に従います」

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