【完結】真約・桃太郎伝説   作:ふくつのこころ

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AI編集と一緒に続き考えました。
久しぶりの二次創作なんですが、便利すぎませんか?これ。

あと、終章踏破しました。
あの頃も今もずっとバーサーカー(ヘラクレス)は最強なんだ!


まつろわぬ王④

 イサセリヒコたちが異形の従者と城内に入っていくと、視線が集まってくるのを彼らは感じることができた。

 その視線の中にはイサセリヒコの異母兄弟たちの姿もあり、イサセリヒコを見つけるなり、彼らは駆け寄ってきた。

 

「おかえりなさい、イサセリヒコ兄さま!……お連れの方は、その?」

 

「ただいま戻った。安心すると良い、彼は此度の温羅の討伐にも協力してくれた俺の配下でもある。言葉は通じるし、信頼も置ける」

 

「私はオオイヌと申します。」

 

イサセリヒコの異母弟の一人、年若いタケヒコが目を丸くしてオオイヌを見上げた。

 

「……犬、じゃないですよね? 頭に角が生えてるし、尻尾も……あれ、尻尾動いてますよ?」

 

オオイヌは少しだけ首を傾げ、長い尻尾をゆっくり左右に振ってみせた。まるで「観察されていることを理解していますよ」と言わんばかりの落ち着いた仕草だった。

 

「見た目は確かに異形ですが、心は清らかだ。温羅の軍勢を相手に、俺の背中を一度も空けなかった。……それに、言葉が通じる以上、ただの獣ではない」

 

イサセリヒコがそう言うと、もう一人の弟であるミナトヒコが、好奇心と警戒心を半々に浮かべて一歩近づいてきた。

 

「兄上、本当に信頼しておられるのですか? ……だって、こんな姿の者が城内にいるなんて、前代未聞ですよ。父上も黙ってはいないんじゃ……」

 

その言葉が終わるか終わらないかのうちに、広間の奥から重々しい足音が響いてきた。

 

柱の影から現れたのは、厳つい顔に深い皺を刻んだ大柄な男——彼らの父、イサセリヒコたちの父であるフトニ大王だった。腰に佩いた大剣の柄に手をかけ、じっとオオイヌを睨みつけている。

 

「イサセリヒコ」

 

声は低く、抑揚がほとんどない。だがその一言だけで、広間にいた者たちの背筋が凍りついた。

 

イサセリヒコは一礼し、静かに進み出た。

 

「父上。お戻りいたしました」

 

「……その異形の従者はなんだ。説明せよ」

 

オオイヌは動じることなく、ゆっくりと片膝をついた。異形の体躯にしては驚くほど礼儀正しい仕草だった。

 

「私はオオイヌと申します。元は山の深きところに棲むものでございましたが、主イサセリヒコ殿に命を救われ、恩に報いるべくこの身を捧げております。以後お見知り置きを」

 

その言葉に、オオヤマトノミコトの眉がわずかに動いた。

 

「命を救われた、だと? ……ほう」

 

父の視線がイサセリヒコに移る。

 

「詳しく話せ。温羅を討ったという戦場で、何が起こった」

 

イサセリヒコはわずかに息を吐き、言葉を選ぶようにゆっくりと語り始めた。

 

「温羅の最後の砦で、私は囲まれていました。鬼の将たちが四方から迫り、矢も尽き、剣も折れかけていた。その時——」

 

彼は横に立つオオイヌを一瞥した。

 

「この者が現れたのです。黒い霧のように山から降りてきて、鬼どもの喉を裂き、骨を砕き……まるで嵐そのものだった。俺は生き延び、温羅の首を取ることができた。あの戦場にいた誰もが、この者の姿を見たはずです」

 

広間に静寂が落ちた。

 

フトニ大王はしばらく無言でオオイヌを見つめていたが、やがてゆっくりと大剣の柄から手を離した。

 

「……ならば、しばし城に留まるがよい。ただし」

 

鋭い眼光がオオイヌを貫く。

 

「一筋でも裏切りの気配を見せれば、その首は私が刈る。分かっているな」

 

オオイヌは深く頭を下げた。

 

「肝に銘じます」

 

そのやり取りを見ていたタケヒコが、ぽつりと呟いた。

 

「……なんか、すごくかっこいいですね。異形なのに」

 

ミナトヒコが弟の頭を軽く叩く。

 

「バカ、お前はすぐそうやって単純に感心するから……」

 

だがその声にも、どこか緊張が解けたような柔らかさがあった。

 

イサセリヒコは小さく笑みを浮かべ、オオイヌの肩に軽く手を置いた。

 

「とりあえず部屋を用意させよう。風呂も、飯もだ。……お前、肉は食えるのか?」

 

オオイヌが少しだけ目を細めて答える。

 

「はい。……特に、猪が好きです」

 

「よし。なら今夜は猪を焼かせよう。戦の疲れを癒すには、それに限る」

 

そう言ってイサセリヒコは振り返り、父に向かって一礼した。

 

「父上。今日はこれにて失礼いたします」

 

フトニ大王は無言で頷き、背を向けて歩き去った。

 

その背中を見送りながら、タケヒコがオオイヌにこっそり囁いた。

 

「ねえ、オオイヌさん。……今度、僕にもその戦い方、見せてくれませんか?」

 

オオイヌは静かに、しかし確かに微笑んだ。

 

「主が許せば、喜んで」

 

城内に、初めて異形の従者と人間の姫君たちの笑い声が小さく響き始めた夜だった。

 

その夜、城の奥まった一角にある客殿の一室に、オオイヌのための簡素だが清潔な寝所が用意された。

 

藁と毛皮を厚く敷いた寝床、窓辺には小さな火鉢が赤々と燃え、部屋全体を暖かく照らしている。人間の客人が使うにはやや粗野な扱いだったが、オオイヌにとっては山の洞窟よりはるかに贅沢な空間だった。

 

イサセリヒコが自ら猪の腿肉を大きな皿に載せて運んできた。焼きたての脂がジュウジュウと音を立て、香ばしい匂いが部屋に満ちる。

 

「約束通りだ。遠慮なく食え」

 

オオイヌは静かに礼を言い、両手で肉を受け取った。鋭い牙が一瞬光るが、食べ方は意外に丁寧だった。噛み砕く音は大きく響くものの、汁を滴らせることもなく、ゆっくり味わっている。

 

「……うまい」

 

一言だけ、短く呟いた。

 

イサセリヒコは床の縁に腰を下ろし、腕を組んでオオイヌを見ていた。

 

「山にいた頃は、こんな風に焼いて食うことはなかったのか?」

 

「生のままがほとんどでした。火は……面倒で」

 

「そうか。なら、これからは毎晩焼いてやろう。腹が減れば俺を呼べ」

 

オオイヌが肉を食べ終えるのを待って、イサセリヒコは少し声を落とした。

 

「父上は厳しいが、約束を守る男だ。一度『留まるがよい』と言った以上、少なくとも今夜明けまでは誰も手出しはせん。……だが」

 

彼は窓の外、月明かりに照らされた庭を見やった。

 

「城の中には、俺の兄弟以外にも色々な目がある。温羅を討ったことで俺の名は上がったが、同時に妬みも買った。お前が傍にいることで、余計に標的になりやすい」

 

オオイヌは静かに頷いた。角の先が火鉢の炎に赤く映る。

 

「承知しております。主の盾となるのが私の役目です」

 

「盾だけじゃなく、槍にもなれ。……俺は、お前をただの従者にしたくない」

 

その言葉に、オオイヌの長い尻尾が一度、ゆっくりと大きく揺れた。驚きとも、喜びともつかない感情がその仕草に滲んでいる。

 

「主は……私を、対等に?」

 

「対等かどうかは、これから決まることだ。だが少なくとも、俺はお前を『飼い犬』だとは思っていない。共に戦った戦友だ」

 

オオイヌはしばらく黙っていたが、やがて低い声で言った。

 

「……ならば、私も一つ、願いを」

 

「言ってみろ」

 

「この城で、私に名をください。『オオイヌ』はただの呼び名です。山の獣だった頃の名。人間の言葉で、人のように生きるなら……新しい名が欲しい」

 

イサセリヒコは少し考え、口元に薄い笑みを浮かべた。

 

「そうだな。……では」

 

彼は立ち上がり、オオイヌの前に立って、その角の根元にそっと手を置いた。異形の体温は意外に高く、脈打つような熱があった。

 

「これからは、お前を『クロガネ』と呼ぼう。黒い鋼のように、どんな刃も受け止め、折れぬ強さを持つ。お前にふさわしい」

 

「クロガネ……」

 

オオイヌ、いやクロガネは、その名を口の中で反芻するように繰り返した。尻尾が今度は激しく左右に振られ、まるで子犬のようだった。

 

「気に入ったか?」

 

「……はい。とても」

 

その時、廊下から軽い足音が近づいてきた。

 

扉がそっと開き、タケヒコが顔を覗かせた。手に小さな包みを持っている。

 

「兄さま! ……あ、オオイヌさん、いや、えっと……まだオオイヌさんでいいですか?」

 

クロガネが静かに首を振る。

 

「今から、私はクロガネと名乗ります」

 

タケヒコの目が輝いた。

 

「かっこいい! じゃあクロガネさん! これ、さっき厨房のおばちゃんに頼んで取っておいてもらったんです。猪の骨です。……噛みたいかなって思って」

 

クロガネは一瞬固まり、それからゆっくりと手を伸ばして包みを受け取った。

 

「ありがたく、いただきます」

 

タケヒコは満足そうに笑って、今度はイサセリヒコに向き直った。

 

「兄さま、明日、クロガネさんに稽古をつけてもらっていいですか? 僕、もっと強くなりたいんです。温羅みたいな敵がまた来ても、兄さま一人に頼りたくない」

 

イサセリヒコは弟の頭を軽く撫でた。

 

「いいだろう。ただし、クロガネを本気にさせたら骨折するぞ」

 

「へへっ、大丈夫です! 僕、逃げ足だけは自信ありますから!」

 

三人の間に、初めての穏やかな笑い声が響いた。

 

外では冷たい風が吹き、冬の夜が深まっていく。

 

だがこの小さな客殿の中だけは、火鉢の暖かさと、新しい絆の熱で、ほんの少し春めいていた。

 

 

 

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