【完結】真約・桃太郎伝説   作:ふくつのこころ

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“大将軍”キビツヒコ

「大王様、イサセリヒコ様の温羅討伐は間違いないかと」

 

 イサセリヒコやクロガネと新しい名を授かったオオイヌが兄弟たちと親睦を深めている頃。

玉座の間でフトニ大王は皇子の温羅討伐における、報告を受けていた。

 

「そうか。アレは確かにやり遂げたのか。

あの怪力にも使いようはあったのだな」

 

 大王は玉座に座りながら、自らの選択が身を結んだことを喜んだ。

 イサセリヒコが生まれ持った怪力は頑健な肉体も相まって、大王の正妻であるイサセリヒコの母や兄弟の母は酷く恐れた。

かつて、大王が討伐した鬼のようではないか、と。

フトニ大王は自らの皇子でありながらも、イサセリヒコの力を利用(・・)する方法を思いついた。

 

「状況は芳しくありません。イサセリヒコ様が温羅討伐をされたことで、鬼の王の座が空いたことで良くない動きがあります」

 

 側近の言葉を聞き、イサセリヒコは拘束されて槍の穂先を突きつけられた侍女(・・)に視線を移す。

 

「侍女。お前の仕業か?」

 

「いえ。温羅の残党がされたことですわ、大王。

それにシラはイサセリヒコ様の為を思えばこそ、残党に知らせる理由はありません」

 

「貴様!口を慎め!」

 

 シラに槍を向けていた兵が怒鳴る。

 

 シラという侍女はイサセリヒコの侍女だとフトニは聞いたことがあった。

イサセリヒコとは最低限の距離感でしか付き合っておらず、兵士長イヌカイタケルの報告でしか知らない。

 

「良い。

しかし、いつの間に忍び込んだ(・・・・・)?シラという侍女に覚えはないが」

 

「術さえあれば、どうにでもなります。

貴方の無能ぶりを晒すのは結構ですが」

 

 シラへの非難をフトニは止めるも、続いた言葉にイヌカイタケルは頭を振った。

 

「シラ。お前、どういうつもりだ?イサセリヒコ様が申していたことは……」

 

 温羅の娘である。

 それをフトニ大王に告げた、シラの意図をイヌカイタケルは知りたかった。

どう考えても、その行動は死を意味するというのに。

イヌカイタケルにとって、シラは自分を慕う弟のようなイサセリヒコの想い人だ。

しかし、イヌカイタケルは大王の家臣である。

イサセリヒコの家臣ではないのだ。

 

「父上。それはこのイサセリヒコの申し開きが悪かったのでしょう」

 

「イサセリヒコ」

 

 鬼ヶ島に旅立った時と同じ、鉄塊のような鉄剣を背中に背負い、上質な白衣姿で威風堂々とイサセリヒコは現れた。

シラの隣で大王に跪くと、真っ直ぐ見上げる。

 

「シラは私の妻にございます。

彼女の拘束を解いてくださいますか?」

 

「し、しかしですなあ?イサセリヒコ様。

いかに貴方といえど、冗談が過ぎますぞ?」

 

 イサセリヒコの言葉に父の側近たちは作り笑いを浮かべた。

背景がどうあれ、侍女と将来を誓うなんてのは王族でもよくある話だ。

イサセリヒコはそれを公言し、父に真っ直ぐな眼差しを向けている。

その愚かさは彼らにはおかしかったが、成り行きをイヌカイタケルは見守っていた。

 

「お前には今回の功績がある。

良い娘を見繕い、あてがってもいい。

母方の親族筋に器量がいい娘がいると聞いている」

 

 大王はシラを一瞥した後、イサセリヒコを見た。

 現在の数値に換算すると、二メートル近い偉丈夫へと成長している。

大王にとって、イサセリヒコは息子というよりは一つの“手段”であった。

自分が統治する、大和を脅かす者を調伏する“力”。

人並外れた、イサセリヒコの生まれ持った力はそれに相応しかった。

 

「必要ありません」

 

「ならば、この父の顔に恥を塗るつもりか?」

 

「私はシラとの結婚を認めることを褒美にいただきたいのです。

叶うのであれば、私はこれからも、朝廷にまつろわぬ者共を調伏しましょう。

ここに鬼の宝の小槌もございます、お納めください」

 

 イサセリヒコは懐から鬼ヶ島で鬼たちが向けた砲台から放たれた、一撃を撃ち返した秘宝を差し出す。

 

 曰く、鬼の秘宝は願望機である。

 曰く、鬼の秘宝は力を与えるものである。

 

 そんな話を知っていた大王は周囲の欲望の眼差しが向けられる、その品を受け取ることはしなかった。

 

「それはお前にくれてやる。

大和を守る為、お前の振るう鉄塊の如き鉄剣同様、武器にするがいい。

お前がシラを迎えることは認めてやる、拘束を解け」

 

 大王は自分へ向けられる、さまざまな眼差しを黙殺する。

その上でシラの拘束を解き、シラをイサセリヒコは深く深く抱きしめた。

 

「だが、イサセリヒコ。

これより、お前から王位継承権を剥奪する」

 

「大王様、それは!!」

 

 大王は冷徹な言葉をイサセリヒコにかけた。

 イヌカイタケルは悲痛な表情を浮かべるも、イサセリヒコによく似た顔で大王は真顔をイヌカイタケルに向ける。

かつて、イサセリヒコが抱いた“父のように立派な大王になる”という夢。

それが永久に叶わないということに等しいのだから。

 

「イヌカイ、この大王の決定に文句でも?」

 

「い、いえ……」

 

 イヌカイは強く言えなかった。

 イサセリヒコの顔を見るも、彼の顔からは表情が窺えない。

 

「イサセリヒコ、今日からお前にはキビツヒコの名を授ける。

大和の名の下に我らの威光を示せ」

 

「……ありがとうございます」

 

 イヌカイはイサセリヒコ、もとい、キビツヒコが大王(ちちおや)からかけられたかった言葉はそうではないと内心拳を握る。

 

「(イサセリヒコ様、貴方はなぜ不満を口にしない。受け入れてしまえば、ここには二度と戻って来れないのに。

大王様、それはいけない。

イサセリヒコ様は貴方に認められようと、今回の討伐に向かって帰ってきたのに)」

 

 ただ、そのイヌカイタケルの願い虚しく、フトニ大王はキビツヒコに告げる。

 

「お前は大和の大将軍(・・・)として、全てのまつろわぬ者を調伏せよ」

 

 事実上の追放宣言でもあった。




弟が結婚することになりました。
それに対し、兄のイサセリヒコが結婚のために追放されます。
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