【完結】真約・桃太郎伝説   作:ふくつのこころ

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期間限定イベント
☆5“ヤマトのセイバー”登場!!
※真名はイベントクリア後に解放されます。


神代永続閉鎖東国ヤマト 人理定礎値A++ 鬼陽大王暦二〇一五年
“まつろわぬ民”


 

青年が意識を取り戻した瞬間、そこは見渡す限りの荒廃だった。

 

乾いた風が砂塵を巻き上げ、灰色の空の下にひび割れた大地がどこまでも続いている。草一本生えていない。遠くに崩れかけた岩の影が、まるで誰かが投げ捨てた骨のように転がっているだけだ。足元の土は固く、踏むたびに微かな音を立てる。自分の名前も、過去も、何一つ思い出せない。ただ、頭の奥に響く声だけが、冷たく事実を告げていた。

 

『お前は聖杯に呼ばれた。役割がある』

 

聖杯――その言葉が意味するものはわからない。だが、それが自分に与えた情報は明確だった。

 

自分はサーヴァント。

クラスはセイバー。

 

青年はゆっくりと自分の姿を見下ろした。長い黒髪が肩を覆い、白い衣が風に揺れている。首には古びた勾玉の首飾り。冷たい石の感触が、なぜか心を落ち着かせた。そして背中――そこに、何か重いものが存在していることに気づく。

 

振り返るまでもなく、それが何であるかはわかった。

鉄の塊。

刀とも槍とも呼べない、異形の武器。黒ずんで鈍く光を吸い込むような表面。刃先は歪に曲がり、柄の部分はまるで骨のように節くれ立っている。どこで手に入れたのか、記憶にない。なのに、手に取った瞬間、掌に吸い付くような安心感が広がった。

 

「……これが、俺の剣か」

 

呟きは風に消えた。行くあてもなく、青年――いや、セイバーはただ歩き始めた。足音だけが、荒野に響く唯一の音だった。

 

どれほど歩いただろう。

空は相変わらず灰色で、太陽の位置すらわからない。時間という概念が溶けているような世界だ。そんな中、遠くから奇妙な声が聞こえてきた。

 

「ギャッギャッ! 逃げんなよ、サル共!」

 

甲高い、哄笑のような声。続いて、肉を叩く鈍い音と、悲鳴にも似た甲高い鳴き声。

 

セイバーは足を止めた。視線の先で、異様な光景が広がっていた。

 

数人の“人間”が、粗末な槍や棍棒を手に、地面を這う“小さい影”たちを追い詰めている。小さい影――それは、明らかに猿だった。毛は汚れ、痩せ細り、怯えた目で逃げ惑っている。だが、“人間”たちは容赦がない。耳まで裂けたような口から唾を飛ばし、釣り上がった目で獲物を睨みながら、楽しげに暴力を振るう。

 

「サルは大人しく我ら“ヤマト”に狩られるのがお似合いだ!」

 

「我こそ真の人間! 偉大なる大王の威光を受けし民だぞ!」

 

その言葉を聞いた瞬間、セイバーの頭に激痛が走った。

 

「――っ!」

 

額を押さえ、膝をつきそうになる。視界が揺れ、脳裏に知らないはずの光景が洪水のように流れ込んできた。

 

――俺たちは○○に名を奪われたんだ!

――だからこそ、○○○○○様は力を貸してくださる!

――○○○には家族を殺された。お前を殺しても殺しても、足りないくらいだ!

――ヤマトの犬め……!

――神の名を、人の名を、奪い取ったのはお前たちだ!

 

断片的な声。怒り。憎悪。絶望。

どれも自分のものではないはずなのに、胸の奥で何かが激しく共鳴する。まるで、ずっと封じられていた感情が、鍵を外されて溢れ出しているかのように。

 

「ヤマト……」

 

その単語が、呪いのように舌に絡みつく。

空白の名「○○」。

奪われた何か。

殺された家族。

繰り返される怨嗟の言葉。

 

セイバーは歯を食いしばり、よろめきながらも立ち上がった。頭痛はまだ引かない。だが、足を止めることはできなかった。

なぜか――この痛みは、自分を前に進ませるためのものだと、感じていたから。

 

どれだけ歩いたか。

荒野の果てに、ようやく小さな影が見えた。

 

二つの人影。

 

一人は少女のように華奢な体躯で、巨大な盾を構えている。盾にはひびが入り、端が欠け始めていた。もう一人は橙色の髪を風になびかせ、息を切らしながら必死に走る若い女性。彼女の瞳には疲労と恐怖が混じっているが、それでも諦めていない強い光があった。

 

――マスター、藤丸律花。

――シールダー、マシュ・キリエライト。

 

その名が、なぜか自然に頭に浮かんだ。聖杯が与えた知識なのか、それとも別の何かか。

 

彼女たちは追われていた。

 

背後から、十数人の“ヤマトの民”が迫っている。耳まで裂けた口、血走った目、粗末な武器を振り回しながら、哄笑を上げて追いすがる。

 

「逃がさねえぞ! 異邦の魔女め!」

「大王の御心に背く者は、皆殺しだ!」

「神代を汚した報いを受けろ!」

 

マシュが盾を構え、藤丸を守るように前に出る。だが、明らかに限界だった。盾の表面に新たな亀裂が走り、彼女の腕が震えている。藤丸の魔力供給も細く途切れがちで、顔色が悪い。

 

セイバーは、無意識に背中の異形の武器に手をかけていた。

鉄塊のようなそれは、触れた瞬間、勾玉の首飾りと共鳴するように微かに震えた。冷たい。重い。だが、なぜか手に馴染む。まるで、ずっと自分の一部だったかのように。

 

「……あれは」

 

藤丸がこちらに気づいた。

驚きと、わずかな希望が混じった瞳。

 

「サーヴァント……? セイバー、クラス……?」

 

マシュも振り向く。盾を構えたまま、警戒と期待が入り混じった視線を向けてくる。

だが、すぐにヤマトの追っ手が迫り、言葉を続ける余裕はなかった。

 

セイバーは、ゆっくりと歩を進めた。

長髪が風に揺れ、白衣の裾がはためく。頭痛はまだ残っている。記憶の断片はまだ渦を巻いている。だが、もう迷いはなかった。

 

「――俺は、呼ばれた」

 

声は静かだった。だが、確かだった。

 

「役割があるなら、それをするだけだ」

 

異形の武器をゆっくりと下ろす。

重く、冷たく、しかし不思議と手に馴染む。黒ずんだ表面が、かすかに光を反射した。

 

ヤマトの民たちが、嘲るように笑う。

 

「なんだテメェも異邦の犬か! まとめて血祭りに上げてやるぜ!」

「大王の御名において、叩き潰す!」

 

セイバーは静かに答えた。

 

「……お前たちが“人間”だと言うなら」

 

勾玉が、かすかに光る。

その光は、まるで遠い昔の記憶を呼び覚ますかのようだった。

 

「俺は、それを見極める」

 

そして、一歩踏み出した。

 

その瞬間、荒れ果てた土地に、新しい戦いの風が吹き始めた。

 

ヤマトの民の一人が、最初に飛びかかってきた。粗末な槍を振り上げ、耳まで裂けた口から唾を飛ばしながら叫ぶ。

 

「死ねぇ!」

 

セイバーは動かなかった。

ただ、異形の武器を軽く横に払った。

 

――ズンッ

 

空気が震えた。

槍は真っ二つに折れ、男の体が吹き飛んだ。地面に叩きつけられ、動かなくなる。

他の者たちが一瞬怯んだが、すぐに怒号を上げて殺到してきた。

 

「てめぇ、何しやがる!」

「まとめてやっちまえ!」

 

セイバーは無言で武器を構え直した。

それは刀でも槍でもない。ただの鉄塊。だが、その一撃一撃に、圧倒的な重さと冷たさが宿っていた。

 

振り下ろすたび、地響きのような音が響く。

一人が肩を砕かれ、別の者が胸を抉られ、血飛沫が舞う。

だが、セイバーの表情は変わらない。静かで、どこか遠い目をしている。

 

脳裏に、また断片が閃く。

 

――俺たちの名を、奪ったのはヤマトだ。

――神の血を、人の血を、踏みにじった。

――だからこそ、俺はここにいる。

 

勾玉が熱を帯びる。

武器が、より深く手に馴染む。

 

藤丸とマシュは、息を呑んでその背中を見つめていた。

 

「セイバー……」

藤丸の声がかすれる。

 

マシュが盾を握り直す。

「マスター、私たちも……!」

 

だが、セイバーは振り返らずに言った。

 

「下がっていろ。

まだ、終わっていない」

 

ヤマトの民たちは、次第に恐怖に変わり始めていた。

最初は十数人いた数が、みるみる減っていく。

残った数人が、後ずさりながら叫ぶ。

 

「化け物め……!」

「大王に報告を……!」

 

セイバーはゆっくりと武器を下ろした。

血に濡れた鉄塊が、鈍く光る。

 

「……逃がさない」

 

一言。

それだけで、残りの者たちが悲鳴を上げて逃げ出した。

だが、セイバーは追わなかった。

ただ、静かに立っている。

 

やがて、静寂が戻った。

 

藤丸が、恐る恐る近づいてくる。

 

「あの……ありがとうございます。

あなたは……本当に、セイバー、なんですよね?」

 

セイバーはゆっくりと振り返った。

長い髪が揺れ、勾玉が微かに光を放つ。

 

「……ああ。

呼ばれたから、ここにいる」

 

マシュが盾を下ろし、頭を下げる。

 

「助かりました。

私たちは……カルデアの者です。この特異点を修復するために」

 

セイバーは、わずかに眉を寄せた。

 

「特異点……?」

 

藤丸が頷く。

 

「ここは、神代が終わらずに続いている世界。

ヤマト……大王の支配が、永遠に続いている場所なんです」

 

セイバーの胸に、また痛みが走った。

だが、今度はそれほど激しくなかった。

ただ、静かに、確信のようなものが芽生えていた。

 

「……そうか。

なら、俺の役割は、まだ終わっていない」

 

彼は武器を背負い直した。

鉄塊が、かすかに震える。

 

「行くぞ。

“人間”と“サル”の境目を、見極めに」

 

藤丸とマシュは、互いに顔を見合わせた。

そして、決意を込めて頷く。

 

荒野の風が、再び吹き始めた。

 

 

【挿絵表示】

 

 

新たなセイバーが、この閉ざされた神代に踏み出した瞬間――

失われた名と、奪われた血の記憶が、ゆっくりと目覚めようとしていた。

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