【完結】真約・桃太郎伝説   作:ふくつのこころ

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鬼門の大王

坂家の周囲を舞う剣の数は、瞬く間に十数振りに達していた。

それぞれが淡い光を帯び、まるで生き物のように弧を描きながらカルデアの一行を包囲する。

 

「ふふ……星読みの皆々様は、随分と私のことをご存知のようですね。

それとも、別の『私』と出会ったことが?」

 

坂家の声音は優雅そのものだったが、瞳の奥には冷たい警戒が宿っている。

金色の瞳が細められ、羽衣の裾が微かな風に揺れた。

セイバーは一歩前に出た。

掌に収まっていた小槌を軽く握り直し、藤丸とマシュを背後に庇う位置を取る。

 

「マスター。下がっていろ。

……この相手、どうやら本気だ」

「セイバー……!」

 

藤丸が声をかけようとした瞬間、坂家が指を鳴らした。

剣の群れが一斉に加速し、雨のように降り注ぐ。

セイバーは小槌を横薙ぎに振るった。

真名解放もしていないはずのその一撃が、空気を引き裂くほどの衝撃波を生み、迫る剣の半数以上を弾き飛ばす。

残った剣はセイバーの体を掠め、フードを切り裂いた。

 

「……っ」

 

黒の髪が露わになる。

記憶を失っていても、その戦闘センスは衰えていなかった。

セイバーはさらに前へ踏み込み、小槌を地面に叩きつける。

ドンッ、という重低音とともに地面が揺れ、衝撃波が坂家の足元を抉った。

天女は軽やかに後方へ飛び退き、羽衣を翻しながら笑う。

 

「なるほど。力任せの蛮族かと思いきや、なかなか面白い。

ですが——」

 

坂家が両手を広げると、残った剣が全て一箇所に集束し、巨大な光の刃へと姿を変えた。

恋愛発破・天鬼雨の真名解放に匹敵する出力が、圧倒的な魔力となって溢れ出す。

 

「この程度で、私の『鬼門』を破れると?」

 

光の刃が振り下ろされる。

セイバーは小槌を両手で構え、真正面から受け止めた。

激しい火花と魔力の爆発が巻き起こり、周囲の露店が吹き飛ぶ。

鬼たちが悲鳴を上げて逃げ惑う中、セイバーの足が地面にめり込んだ。

 

「ぐ……っ!」

 

「セイバーさん!」

 

マシュが盾を構えて飛び出そうとしたが、藤丸がその肩を掴む。

 

「待って、マシュ! 今はセイバーを信じよう!」

 

セイバーは歯を食いしばりながら、ゆっくりと小槌を押し返す。

記憶の欠片が、脳裏をよぎった気がした。

——かつて、誰かとこうして戦ったことがある。

金色の輝きを纏う誰か。 そして、もっと大きな何かを守るために。

 

「…………お前は、ただの『坂家』じゃないな」

 

低く呟いたセイバーの言葉に、坂家がわずかに眉を動かした。

その刹那、セイバーの小槌が淡く輝いた。

真名解放はしていない。

しかし、宝具そのものが応えているかのように、純粋な『力』が溢れ出す。

 

「——はあああっ!」

 

一喝とともに小槌を振り抜く。

衝撃波が光の刃を真っ二つに割り、坂家へと直撃した。

天女は羽衣を盾のように纏いながらも、地面を滑るように後退。

白い肌に薄く傷が刻まれる。

 

「……これは、予想以上」

 

坂家の声音に、初めてわずかな動揺が混じった。

その時、街の奥から重い足音が響いてきた。

地面を震わせるほどの巨体。

金色の髪をなびかせ、鬼の角を生やした豪傑が、笑いながら近づいてくる。

 

「はっはっは! 坂家、てめえ一人で遊んでんじゃねえぞ!

俺も混ぜろってんだ!」

 

坂田金時——鬼門将軍・怪童丸だった。

肩に担いだ巨大な斧が、陽光を反射して鈍く輝いている。

セイバーは小さく息を吐き、藤丸たちを振り返った。

 

「藤丸。どうやら、祭りはこれから本番のようだ。

……少し、面倒なことになった」

 

藤丸は緊張した面持ちで頷きながらも、セイバーの横顔を見て小さく微笑んだ。

記憶を失っていても、彼は確かに『セイバー』だった。

頼もしく、温かく、戦うべき時には決して引かない。

 

「うん。行こう、セイバー。

この特異点の『鬼陽大王』が何を考えてるのか、確かめないと」

 

坂家と怪童丸、二人の鬼門将軍が同時に構える。

セイバーは小槌を軽く回し、静かに笑った。

 

「そうだな。

……どうせ思い出さなければならないのなら、

この戦いで少しでも取り戻せばいい」

 

街の中心へと続く大通りで、カルデアと鬼の将軍たちの激突が始まろうとしていた。

 

一方、通信の向こうでは——

ダヴィンチが必死に再接続を試みながら、画面に映る戦いの光景を食い入るように見つめていた。

 

『……これは、ただの特異点じゃないわね。

日本そのものが、大きく歪められている……!』

 

 

 坂田金時――鬼門将軍・怪童丸は、巨大な斧を軽々と肩に担いだまま、豪快に笑いながら歩み寄ってきた。その一歩一歩で石畳が軋み、鬼の住人たちが道を空ける。

 

「へへっ、随分と派手な喧嘩してんじゃねえか、坂家。

お前一人で楽しむんじゃねえよ。

俺も血が騒いでんだぜ!」

 

怪童丸の全身から溢れ出す鬼気は、尋常ではなかった。

金色の髪の下に生えた二本の角が、陽光を受けて鈍く輝いている。

その姿はまさに「鬼」そのものでありながら、カルデアの面々が知る坂田金時の面影を色濃く残していた。

 

セイバーは小槌を構え直し、静かに息を整えた。

 

「……二人同時に相手するのは骨が折れるな。

マスター、できるだけ距離を取れ。マシュはマスターを守れ」

 

「はい、セイバーさん!」

 

マシュが盾を展開し、藤丸を背後に庇う。

藤丸は唇を噛みながらも、セイバーの背中を見つめた。

 

「セイバー、無理はしないで……!

記憶がない状態で、こんな強敵が二体も……」

 

「心配するな。

この小槌が、俺の記憶の代わりに戦ってくれる」

 

セイバーの言葉に、微かな自信が宿っていた。

掌に収まるサイズの小槌は、まるで彼の意志に応じるように淡い光を帯び始めている。

坂家が優雅に羽衣を翻し、怪童丸の隣に並んだ。

 

「怪童丸。油断は禁物よ。この男……ただの星読みの護衛ではないわ。

私の剣を正面から受け止めたのは、久しぶりだもの」

 

「はっはっは! そいつは面白え!

だったら、俺が正面からぶっ飛ばしてやるぜ!」

 

怪童丸が斧を振り上げた瞬間、セイバーが先制した。

地面を蹴り、爆発的な速度で怪童丸に肉薄する。

小槌を横薙ぎに放つ一撃は、さながら雷撃の如くだった。

 

ガァンッ!!

 

斧と小槌が激突し、衝撃波が周囲の露店を一掃する。

 

怪童丸は一歩も引かず、逆に笑顔を深めた。

 

「重いねえ! だがよ、俺の剛力無双を舐めんなよ!」

 

斧が回転し、返す刀でセイバーを薙ぎ払おうとする。

セイバーは後方へ跳び、空中で小槌を振り下ろした。

衝撃波が怪童丸の肩を掠め、鬼の皮膚に薄い裂傷を刻む。

そこへ坂家が援護に入った。

十数振りの魔剣が再び雨となり、セイバーの退路を塞ぐ。

 

「恋愛発破・天鬼雨」

 

真名解放こそしていないが、その出力はカルデアで知る鈴鹿御前を遥かに超えていた。

セイバーは小槌を高速で回転させ、剣の雨を弾きながら着地。

しかし、完全に防ぎきれず、左腕に浅い傷を負う。

 

「く……っ」

 

「セイバー!」

 

藤丸の叫びが響く中、セイバーは歯を食いしばって前へ出た。

傷など気にした様子もなく、むしろその瞳には闘志が燃えていた。

 

「面白い……

お前たち、ただの鬼ではない。

俺と同じ……いや、それ以上に『英雄』の気配がする」

 

坂家がわずかに目を細めた。

 

「……記憶を失っているはずなのに、勘は鋭いわね。

けれど、鬼陽大王様の御心を阻む者は、たとえ英雄であろうと許さない」

 

怪童丸が斧を地面に叩きつけ、衝撃でセイバーの足場を崩した。

その隙に二人が同時に攻め込む。

セイバーは小槌を地面に突き立て、爆発的な魔力を解放した。

真名解放ではない。

しかし、宝具の「性質」そのものが覚醒し始めているかのように、周囲の空間が歪むほどの力が迸った。

 

「——はっ!」

 

衝撃波が二人の将軍を同時に押し返す。

坂家は羽衣で防ぎ、怪童丸は斧を盾にして耐えるが、二人とも数メートル後退させられた。

 

「なんだこりゃ……!? すげえ力じゃねえか!」

 

「この出力……本当に真名解放していないの?」

 

二人の将軍が初めて本気で警戒の色を濃くしたその時——

街の中心部から、荘厳な鐘の音が響き渡った。

同時に、巨大な影が空を覆う。

藤丸が空を見上げて息を呑んだ。

 

「あれは……!」

 

白衣に覆面を付けた長身の影が、鬼の軍勢を引き連れてゆっくりとこちらへ近づいてくる。

その背後には、巨大な城のような建造物がそびえていた。

 

鬼陽大王。

 

その存在感だけで、街全体の鬼たちが跪き始めた。

 

セイバーは小槌を握りしめ、静かに呟いた。

 

「……ようやく、本丸が出てきたか」

 

坂家と怪童丸が左右に分かれ、大王の前に跪く。

 

「大王様。この者ども、如何いたしますか?」

 

鬼陽大王は覆面の下から、低く響く声で答えた。

 

「異邦の魔女と、その犬……生かして連れて参れ。

我が『鬼門計画』に、役立てるとしよう」 

 

セイバーは一歩も引かず、藤丸たちを守るように立った。

 

「マスター。

どうやら、この特異点の『王』は、俺たちに興味を持ったようだ。

……逃げるか、戦うか。どちらだ?」

 

藤丸は拳を握り、迷いなく答えた。

 

「戦うよ。

でも、無茶はしない。

セイバー、あなたの記憶を取り戻すためにも……ここで負けるわけにはいかない!」

 

三対一。

しかも相手は二将軍に加え、鬼陽大王という未知の強敵。

戦いの火蓋が、再び切って落とされようとしていた。

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