【完結】真約・桃太郎伝説   作:ふくつのこころ

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地下要塞へ

 

一方、鬼門要塞・玉座の間。

重厚な鬼面の扉が軋みを上げて開き、坂家と怪童丸が戻ってきた。空気は淀み、黒と金色の魔力が渦を巻いている。

 

玉座の間は広大で、天井からは巨大な鬼の角を模したシャンデリアが吊るされ、赤い灯りが不気味に揺れていた。

玉座に腰掛けた鬼陽大王は、覆面をわずかにずらした状態で頭を抱えていた。

 

長身の体が微かに震え、低い唸り声が漏れる。

頭痛──それも尋常ではない激痛が、彼を苛んでいた。

 

「大王様……!」

 

坂家が羽衣を翻し、慌てて玉座の階段を駆け上がった。

 

優雅だった戦場の身のこなしとは打って変わり、慌ただしく大王の背後に回り込む。細い指が白衣の上から背中を優しくさする。

 

もう片方の手で、こめかみを軽く押さえ、魔力を注ぎ込んで痛みを和らげようとする。

 

「大丈夫……落ち着いて。大王様、私がここにいますから」

 

声は甘く、まるで蜜を溶かしたように柔らかかった。

 

金色の瞳には、冷たい戦士の顔とは別の、深い慈しみが宿っている。

大王はゆっくりと息を吐き、坂家の手に自らの手を重ねた。

 

その仕草は、恋人というよりは、年上の姉が弟を宥めるような親密さだった。

 

「…………すまない、坂家。まただ。記憶の……残滓が、疼く」

 

大王の声は低く掠れていた。覆面の下の瞳は、苦痛と狂気に揺れている。坂家はさらに体を寄せ、羽衣で大王の肩を包むようにした。

 

「無理をなさってはいけません。あの星読みどもは、私と怪童丸で十分に。あなたは『鬼門計画』の完成に集中してください。この日本を、鬼の楽園にするために……私たちは、あなたの力になるのですから」

 

その言葉に、大王の震えが少しずつ収まっていく。姉弟のような、歪んだ信頼関係。玉座の間に流れる空気は、異様に甘く、ねっとりとしていた。

 

怪童丸は玉座の間入口近くで、巨大な斧を肩に担いだままその光景を冷たく見つめていた。

 

金色の髪の下の鬼角が、苛立たしげに微かに動く。豪快な笑いは今、完全に消えていた。

 

(……またか。いつまであの甘ったれた芝居を続ける気だ)

 

彼は内心で吐き捨てた。鬼陽大王と坂家の関係は、将軍である自分から見ても異様だった。

 

大王の頭痛は頻発し、そのたびに坂家がこうして寄り添う。

まるで大王の「影」か「半身」のように。

 

怪童丸自身は、純粋な武人として大王に忠義を捧げているが、この親密さに苛立ちを隠せなかった。

 

坂家が大王の背中をさする手を止め、金色の瞳をゆっくりと怪童丸の方へ向けた。瞳の奥に、冷たい光がぎらついた。

 

「……星読み、手を下さなくては」

 

その呟きは、玉座の間に低く響いた。優しかった声音が一瞬で戦士のそれに戻る。

 

「怪童丸。あの記憶喪失の男……ただ者ではないわ。私の剣を正面から受け止め、小槌一つであなたと互角に渡り合った。しかも、真名解放すらしていない。あれは、英雄の残滓よ。放っておけば、鬼門計画の障害になる」

 

怪童丸は鼻を鳴らした。

 

「へっ、わかってるよ。だがよ、俺は正面からぶっ飛ばす方が性に合ってる。てめえの小細工は苦手だぜ、坂家」

 

「ふふ……相変わらずね。でも、今回は遊びではないの。大王様の頭痛の原因も、あの者たちに関係しているかもしれない。星読みの魔術が、この特異点を刺激している……」

 

大王がゆっくりと顔を上げた。覆面の下から、威圧的な声が響く。

 

「二人とも、好きにせよ。ただし……生け捕りにできれば、それに越したことはない。異邦の魔女と盾の娘、そしてあの小槌の男……彼らの『核』を、鬼門に組み込めば、計画は加速する」

 

「御意のままに」

 

坂家が優雅に一礼し、羽衣を翻した。怪童丸も斧を軽く振り、歯を見せて笑う。

 

「ようやく本気出すってか。いいぜ、血が騒ぐ」

 

 

一方、地下街の隠し通路では、カルデアの一行が息を潜めていた。

セイバーは石壁に背を預け、小槌を膝の上に置いていた。頭痛の残滓がまだ疼く。赤襟の男──渡り者は、周囲の封印を強化しながら状況を説明していた。

 

「あの頭痛は、大王の弱点だ。鬼門計画を進めるたびに、『失われた記憶』か『歪曲された過去』が彼を苛むらしい。お前さんの記憶喪失も、無関係じゃねえかもな」

 

藤丸がセイバーの肩に手を置いた。

 

「セイバー……無理しなくていいよ。少しでも記憶が戻ってきたみたいだけど」

 

「ああ……断片だがな。鬼を討ち、神に挑み、失った女……そして、守るべき何か。顔はまだ思い出せないが……その痛みが、俺の力を引き出している気がする」

 

マシュが心配そうに盾を抱えながら言った。

 

「大王の軍勢は地下街の入り口を固め始めています。坂家と怪童丸も動き出したようです。どうしますか、マスター?」

 

藤丸は迷わず答えた。

 

「要塞の中心を目指す。鬼門計画を止めて、この特異点を修正する。

セイバー、行ける?」

 

セイバーは小槌を握りしめ、立ち上がった。黒髪が乱れ、瞳に静かな決意が宿る。

 

「無論だ。思い出さなければならないのなら、戦いの中で取り戻す。それが、俺の……セイバーの在り方だ」

 

赤襟の男が短剣を構え、先頭に立った。

 

「よし、突入だ。俺が道案内する。地下から鬼門要塞の側面へ抜けられる隠しルートがある。ただし、坂家と怪童丸が本気を出してきたら……かなりキツイぞ」

 

一行は再び動き出した。

 

 

地下街深部から要塞側面へのルートは、罠と鬼兵だらけだった。

 

セイバーが小槌を振るうたび、衝撃波が通路を吹き飛ばし、鬼兵を薙ぎ払う。

 

マシュの盾が矢や魔力弾を防ぎ、藤丸の指示が的確に隙を突く。

 

風魔は機敏に動き、奇襲で敵を倒していく。

しかし、坂家と怪童丸の追撃は容赦なかった。

 

「見つけたわ!」

 

坂家の声とともに、魔剣の雨が降り注ぐ。恋愛発破・天鬼雨の真名解放に近い出力。セイバーは小槌を回転させ、盾のように防ぐが、完全に弾ききれず体に浅い傷が増えていく。

怪童丸が大笑いしながら突進。

 

「待てよ、旦那!さっきの続きだぜ!」

 

斧と小槌が再び激突。地下通路が震動し、瓦礫が崩れ落ちる。セイバーは怪童丸の剛力を真正面から受け止め、押し返す。頭痛が再び襲うが、今度は耐えた。

 

(……守る。俺は、守るために……)

 

フラッシュバックが激しくなる。愛する女の微笑み。彼女の名はまだ浮かばないが、胸の奥が熱くなる。

 

「はあああっ!」

 

小槌の一撃が怪童丸を後退させ、坂家の魔剣を数本破壊した。

風魔が感嘆の声を上げる。

 

「おいおい……本気で記憶失ってるのかよ、あんた」

 

戦いながら一行は要塞側面の隠し扉に到達。扉を破壊し、中へ滑り込む。

玉座の間へと続く大回廊。

そこで、再び二将軍が待ち構えていた。

坂家が優雅に微笑み、金色の瞳を細める。

 

「星読みたち……ここまで来るとは。けれど、もう逃がさない。大王様のためにも、あなたたちの『核』を頂くわ」

 

怪童丸が斧を構え、鬼気を全開にする。

 

「かかってこい! 俺たちの全力を見せてやるぜ!」

 

セイバーは小槌を軽く回し、静かに笑った。

 

「二人とも……強いな。だが、俺も負けられない。マスター、指示を」

藤丸が叫ぶ。

 

「全員、総力戦だ! セイバー、行って!」

 

激突が始まった。

小槌と斧、魔剣と衝撃波が回廊を埋め尽くす。マシュの盾が防御の要となり、風魔が隙を突く。

 

セイバーは二人を同時に相手にしながらも、徐々に記憶の欠片を取り戻していく。

愛する女の名が、喉の奥でかすかに響く気がした。

 

──いや、まだ……。

 

戦いはさらに激化し、鬼陽大王の玉座の間へと近づいていく。

大王の頭痛が、再び疼き始めていた。

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