回廊全体が震動した。
鬼陽大王の威圧的な気配が天井を押し潰さんばかりに広がり、坂家と怪童丸の鬼気がそれに呼応して爆発的に膨れ上がる。
セイバー——否、真名を顕現させた吉備津彦は、小槌を右手に握りしめ、静かに構えた。黒髪が逆立ち、背後に黄金の稲穂のような神気と、禍々しい鬼気が混じり合ったオーラが渦を巻く。
「マスター、指示を」
藤丸は息を呑みながらも、すぐに声を張り上げた。
「吉備津彦! みんなで大王を止める! マシュ、防御を固めて! 風魔さんは援護を!」
マシュが盾を構え直し、魔力の障壁を展開。
「了解です、マスター! セイバーさんの背中は私が守ります!」
彼女の声には緊張と決意が込められていた。風魔は短剣を逆手に持ち、影のように移動を開始する。
怪童丸が巨大な斧を肩に担ぎ、金髪をなびかせて大笑いした。
「はははっ! ようやく本気かよ、旦那! それでこそ俺の相手だぜ!」
鬼角が輝き、全身から赤黒い鬼気が噴き出す。坂家は羽衣を優雅に翻し、金色の瞳を細めて微笑んだが、その奥には冷たい殺意が宿る。
「大王様の半身でありながら、裏切り者……今度こそ、あなたの『核』を頂戴するわ。恋愛発破——天鬼雨!」
無数の魔剣が空中に展開され、雨のように降り注ぐ。
恐るべき宝具の派生攻撃だ。
吉備津彦は小槌を高速回転させた。
純粋な物理力と神気が融合した衝撃波が、魔剣の群れを次々と弾き飛ばす。金属音が連続して響き、破壊された剣が壁に突き刺さる。
しかし完全に防ぎきれず、数振りがマシュの盾に激突。
マシュが「くっ……!」と歯を食いしばり、藤丸を背後に庇う。
風魔が素早い動きで残りの剣を短剣で切り落とし、隙を突いて坂家に接近するが、羽衣の防御に阻まれる。
「遅いわよ、鼠!」
坂家が指を鳴らすと、羽衣から追加の魔剣が飛び出し、風魔を追い詰める。
怪童丸がその隙に突進。
「待てよ、旦那! さっきの続きだぜ!」
斧が大地を割り、巨大な衝撃波を伴って振り下ろされる。
吉備津彦は真正面から受け止めた。小槌と斧が激突し、回廊の床が放射状にひび割れる。二人とも怪力無双の英雄——坂田金時の面影を持つ怪童丸と、吉備津彦。
力と力がぶつかり、互角の押し合いが続く。
「重い……! だが、俺は負けん!」
吉備津彦の足が床にめり込むが、記憶のフラッシュバックが力を後押しする。
黄金の稲穂の野、愛する妻の笑顔、鬼を討った過去。
頭痛はもはや痛みではなく、力の源となっていた。
彼は小槌を押し返し、怪童丸を数歩後退させる。そこへ藤丸の指示が飛ぶ。
「今です、セイバー! マシュ、援護を!」
マシュが盾を構えて前進し、「ロード・カルデアス!」で味方全体に防御障壁を張る。
吉備津彦は小槌を振り上げ、怪童丸の斧を弾き上げた直後、回転しながら追撃。
小槌の側面が怪童丸の脇腹に直撃し、巨体を吹き飛ばす。壁が崩れ、瓦礫が舞う。
「げはっ……! いいぜ、もっと来い!」
怪童丸は笑いながら即座に立ち上がり、斧を回転させて反撃。鬼気が爆発し、回廊を赤く染める。
一方、坂家は藤丸とマシュを狙う。羽衣を翻し、魔剣を操りながら接近。「星読みのマスターと盾の娘……あなたたちの核も、鬼門計画に有用だわ」金色の瞳が輝き、恋愛の魔力が絡みつくような幻惑攻撃を仕掛ける。
マシュが盾で藤丸を守りながら耐える。
「マスター、集中してください! 私は平気です!」
藤丸は冷静に指示を出し続ける。
「セイバー、坂家を牽制して! 怪童丸を孤立させるんだ!」
吉備津彦は二正面作戦を強いられながらも、動きを崩さない。
小槌の一撃で怪童丸を牽制しつつ、坂家の魔剣を弾く。
風魔が坂家の死角から短剣で斬りかかり、羽衣を切り裂くことに成功。坂家がわずかに眉をひそめる。
「小細工が……!」
坂家が本気になり、羽衣全体を魔力で強化。真名解放に近い出力で魔剣の嵐を呼び起こす。回廊が剣の海と化す。
吉備津彦の瞳が鋭く光った。
「守るべきものを、穢させはせん」
小槌に神気が集中。「真名解放・
小槌が黄金と雷光に包まれ、巨大な稲妻の形となって振り下ろされる。
一撃で魔剣の大部分を粉砕し、坂家を後退させる。爆風が回廊を揺らし、怪童丸も巻き込まれて体勢を崩す。
しかし、坂家は羽衣で衝撃を吸収し、即座に反撃。
「恋愛発破・天鬼乱舞!」
魔剣が舞い、恋の狂気を帯びた斬撃が吉備津彦の全身を襲う。
浅い傷がいくつも刻まれ、血が飛び散る。
怪童丸が大笑いしながら加勢。
「はははっ! 二人でかかれば無敵だぜ!」
斧の連撃が吉備津彦を追い詰める。
マシュが盾を全力展開し、藤丸の魔力供給を受けて障壁を強化。
「セイバーさん、持ちこたえて!」
風魔が坂家の足を狙って妨害するが、徐々に劣勢に。
吉備津彦の記憶がさらに蘇る。失われた妻の名——温羅を討った過去、鬼門を開こうとした自身の半身との対立。
歪んだ大王の顔が、自身の鏡像であることを理解する。
「大王……お前は俺の闇か。だが、俺はもう、人として生きる道を選んだ!」
彼は小槌を地面に叩きつけ、衝撃波で二人を一時的に吹き飛ばす。全身の傷を無視し、藤丸に叫ぶ。
「マスター、最後の指示を!」
藤丸は決意を込めて頷く。
「みんなの力で、二人を倒す! セイバー、総力で!」
マシュが宝具を展開し、盾の光が味方を包む。風魔が煙玉と短剣で援護。
吉備津彦は小槌を構え直し、神気と鬼気を極限まで高める。
最終局面。
怪童丸が全力突進、坂家が魔剣の最大連射。吉備津彦は小槌を回転させながら突き進む。
斧と小槌が再び激突——今度は吉備津彦が押し勝ち、怪童丸の斧を弾き飛ばす。
続けて坂家の魔剣をすべて粉砕し、小槌の先端が坂家の肩を捉える。
「ぐあっ……!」
坂家が膝をつく。怪童丸も巨体を揺らして後退。
「まだ……終わらん……!」
怪童丸が立ち上がろうとするが、吉備津彦の最終一撃——鬼神討滅の雷槌 が二人を同時に捉える。巨大な雷光が回廊を貫き、爆発が巻き起こる。
坂家と怪童丸は壁に叩きつけられ、動かなくなる。羽衣が裂け、斧が折れ、鬼気が薄れていく。
「大王様……申し訳……」
坂家が弱々しく呟き、怪童丸が苦笑する。
「強えよ、旦那……」
吉備津彦は息を荒げながらも、小槌を下ろさない。
血まみれの体で、玉座の間へ続く扉を見つめる。
「まだ……本当の敵がいる」
藤丸、マシュ、風魔が駆け寄る。マシュが応急処置を施し、藤丸が肩を貸す。
「セイバー、よくやった……! でも、まだ鬼陽大王が……」
吉備津彦は静かに微笑んだ。
「ああ。俺の半身……俺自身との決着だ。マスター、共に進もう」
鬼陽大王がゆっくりと立ち上がり、歪んだ笑みを浮かべる。
「ようこそ、半身よ……再び一つになろう」