【完結】真約・桃太郎伝説   作:ふくつのこころ

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みなさん、お久しぶりです。
スランプで何も書けなかったので読み専になってましたが、ヘヴンズフィール第3章見に行ったら、急に気力湧いてきました。
またボソボソ書いていきますので、お付き合いください。
いつかBLEACHの二次創作も書いていきたいな


皇子とイヌ

「お前を呼び出したのは他でもない。分かるな?イサセリヒコ」

 

フトニ大王の御前にやってきたイサセリヒコはその前で跪いていた。

実の父親といえど、フトニは大王でイサセリヒコは皇子、その関係は大きく距離が開いていた。

拝謁を許可されるまで決して顔を上げず、その大和の人間としては恵まれた大きな体躯はしゃがんでいても恵まれた食事と環境で立派な体格を作り上げていた。

 

「存じております。父上の御用とは、弟に聞きました。私に任せたいのは鬼退治でありましょうか?」

 

「左様。我らにまつろわぬ者がいるのは知っていような?面をあげよ、イサセリヒコ」

 

ここでやがてイサセリヒコは顔を上げることを許される。

顔を上げると、目に入る光景はいつもイサセリヒコの心を動かす。

心の距離を埋められない弟、そしてフトニ大王の他の妻たちと腹違いの兄弟はフトニ大王の側にいる。

いつも自分に修行をつけてくれるイヌカイタケルもフトニ大王、父親の配下だ。

 

自分のものなんて、この国にはないのだと思わされる。

 

「はい。それでは、父上は私一人で鬼退治に向かうようにと言われたのは本当なのでしょうか?」

 

「左様。お前が余の軍勢を率いて鬼退治に向かう、というのも考えた。だが余の兵士長によれば、お前の膂力はかなりのものらしいな?皇子よ」

 

玉座に腰を下ろすフトニ大王は長い髪をまとめ、後頭部で結わえた目つきの鋭い髭を蓄えた男だった。

かつて鬼退治をイヌカイタケルをはじめとする配下とともに成し遂げたことは、武勲でもあり、フトニ大王の異名を轟かせるには大きなものであった。

イサセリヒコとよく似た顔立ちでありながら、鋭い眼差しの大王は己の皇子の膂力というときに髭の下の口元が緩むのがイサセリヒコには見えた。

イヌカイタケルがフトニ大王に伝えているのだろうか、視線をイヌカイタケルへと向けるとわずかにイヌカイタケルも表情が緩んでいた。

仕えるべき主の息子であるとはいえ、自分に師事している弟子の成果を伝えたくなるというものだろう。

 

「であれば、イサセリヒコ。お前に機会を与えよう。無事にまつろわぬ者の首領をお前が討伐して見せたのであれば、余の後継にお前を挙げることを考えなくもない」

 

フトニ大王の言葉に周囲がざわつく。

元々、盗賊の討伐を一人で成し遂げられるほどには、イサセリヒコの力はあまりにも凄まじかった。

幼少よりフトニ大王がかつて討伐した鬼の中で強い子を作るため、鬼の女を身ごもらせたことで生まれたのではないかと囁かれるほどには。

 

「で、ですが!それはあまりにも不公平というものですよ!?イサセリヒコ皇子は他のあなた様の皇子達の中でおそるべき膂力と肉体を持ちます!誰もがそのイサセリヒコ皇子のように膂力を持つというわけではありませんわ!それで後継を決められては困ります、お考え直しくださいませ、大王!」

 

イサセリヒコをよく思わない側室の一人が騒ぐ。

この側室は、昔から自らの皇子を大王にしたいあまり、イサセリヒコに冷たく当たっていた。

シラから愛情を向けられることでイサセリヒコはその女の嫌がらせのことごとくを無視していたが、ある日口にした毒を盛られた日には彼女が差し向けたのだと直感した。

 

「それ以上、口を開くでない」

 

大王が手を挙げると、兵士が側室の一人に槍の穂先を向ける。

冷ややかな眼差しを向ける大王はイサセリヒコをとやかく言われるよりも、自らの言葉を遮られたことが気に食わない様子だった。

 

「おやめください、父上。私の兄弟の母に槍を向けてはなりませぬ」

 

静かにイサセリヒコは立ち上がり、大王の側室の一人の前に立つ。

年が離れたイサセリヒコの兄弟は母親が槍を向けられたことで泣きじゃくっていた。

突き刺さるような眼差しがイサセリヒコに向けられるが、兵士達の槍を手で制す。

イサセリヒコが槍をつかんで下ろさせようとすると、万力に挟まれているかのように兵士は身動きができず、されるがままにしかできなかった。

 

「腹違いの兄弟とはいえ、お前は兄弟達とは良好な関係を築けてはいないではないか。それでも、お前はその兄弟達の母を守るというのか」

 

「私は父上の側室のあちらの女に愛されているなどとは思いませぬ。兄弟に慕われているとも思いませぬ。ですが、私は父上のように民に慕われる大王となり、大和を守りたいのです。受けましょう、まつろわぬ者の王を討伐する任を。大和に仇成す者は私が討伐する」

 

フトニ大王の射抜くような眼光を受けながらも、イサセリヒコは一歩も引き下がらず、それから幼い兄弟に手を伸ばそうとするが、避けられてしまい、その手を止める。

深く大王に頭を下げた後、イサセリヒコは玉座の間を後にした。

 

 

イサセリヒコはその後、手早く用意を行い、膂力の耐え得るようと国中から腕の良い職人を探し出したイヌカイタケルから贈られた金棒のような青銅剣を布で包み、背中に背負う。

 

「皇子。もう行かれるのですね」

 

「ああ。おれは行かねばならぬ。弟達に怖い思いをさせるだけでなく、弟達に尊敬されるような兄にならなくては、王道には程遠い」

 

見送りに来たのはシラ一人だった。

シラはイサセリヒコと同じ勾玉の首飾りをしており、暗がりで月明かりしかない夜であるのをいいことにイサセリヒコに密着し、その手を握っていた。

イサセリヒコはいつも不思議に思っていた、シラは望んだ時にいつも姿を現し、イサセリヒコに力を与えてくれる。

だからこそ、イサセリヒコはシラが愛おしかった。

 

「変わらぬお方。貴方は、きっと素敵な方を王妃に迎えられるのでしょうね。多くの奥方様を」

 

「おれは多くの妃はいらぬ。多くの妃がいれば、おれとシラの子を疎む者がいるだろう。おれは母上に愛されなかった。しかし、シラやイヌカイタケルはおれに寄り添ってくれた。この国におれの物はない。身分は父上が大王だから与えられたもの、この服も強さも与えられたものばかりだ。しかし、そんなおれも得たいものがある」

 

「それはなんでしょうか?イサセリヒコさま」

 

シラの悲しげな眼差しに我慢ならず、イサセリヒコはつい彼女を抱きしめた。

細い身体の彼女はイサセリヒコを優しく抱きしめ、イサセリヒコの孤独を識る。

 

「お前からの愛と、民に慕われることだ」

 

「たかが侍女からの愛情と民からの期待を並べるものではありませんわ、イサセリヒコさま。………ですが、そんな貴方であればこそ。シラは貴方を愛するのです。フトニ大王の子供達の中で唯一無二のアメノタヂカラオ神が如き力を宿す、お方。いいですよ、イサセリヒコさま。シラはずっとずっと、貴方を愛しましょう。貴方がまつろわぬ者の王を倒し、大和にご帰還されることがあれば、シラはイサセリヒコさまの妻となりましょう」

 

イサセリヒコがただ一人の愛した人であろう、と自分を評価してしまうのも仕方がないとシラは思った。

自分以外には兵士長である師しかおらず、ただ一人、困難に挑む弟子のためにと融通させたのがイサセリヒコの得物であろう包みであるからだ。

であれば、シラからイサセリヒコに与えられるのは安寧のひととき。

イサセリヒコをより強くする、自らの愛を返し、二人きりの婚姻の儀を持ってイサセリヒコに勇気を与えようと。

 

「必ず帰ってきてください、いとしいひと」

 

シラはイサセリヒコに何かを握らせると、イサセリヒコとシラの影が重なった。

 

 

イサセリヒコの旅は順調とはいえなかった。

鬼ヶ島の鬼退治、と場所を記したものを渡されての旅路だが、道連れのない旅は孤独のそれであった。

しかし、早く戻らなくてはならぬとシラと口づけした時を思い、自らを奮い立たせ、大和のフトニ大王の皇子であると知る異形の者たちに襲われれば、その金棒の包みを外し、力を振るった。

大和の軍勢があれば、王族としての威光を示すことができるのだろうが、イサセリヒコにあるのは王族の証として与えられた勾玉の首飾りとシラとお揃いの婚姻の証のものが二つだけ。

イサセリヒコが大和の王族と知り、助けを求めるものがあれば、それがどのような集落の者であろうとイサセリヒコは喜んで請け負い、その膂力を生かした。

やがて、その話が大和に届けば、フトニ大王の表情が緩んでいたのを目撃したイサセリヒコ皇子の師匠である兵士長は父親が評価していたことを伝えてやりたいと感じた。

 

そんな、ある日のことである。

 

「その在り様、大和の皇子とお見受けする」

 

「いかにも。おれは大和におわしめすフトニ大王の皇子である。しかし、貴様に我が身の上を教えたつもりはないが?」

 

「己の力として魂を見ることができる。故、大和の皇子と判断した。どうか、食べ物を分けてもらえないだろうか」

 

道沿いに倒れていた、異形の者がイサセリヒコに声をかけた。

狼の様な頭部に人間の身体、しかし両腕は人間のそれであっても、足は獣のそれである。

自らは異形の者の討伐に出向いた、なぜ異形の者を救わねばならぬのだろう。

そう思っているうちに徐々に異形の者が弱っているのを感じ、いつの間にかその近くにしゃがみこんでしまっていた。

この道なき道までに異形の者と戦ってきたし、その中で隙を見せてはいけないと学んだはずなのにイサセリヒコには見捨てられず、イサセリヒコに謝礼にと訪れた集落で人喰いの化け物退治を終えた後に渡された携帯食を与える。

 

「獣よ。おれはこのようなものしか持っていない。しかし、おれは“イヌ”に大きな借りがある。故にお前を助けよう、お前の命を拾おう」

 

口元に丸い携帯食をイサセリヒコが運ぶと、異形の者はそれに夢中でかぶりつき、すぐにそれを食べつくしてしまった。

姿勢を正し、異形の者はイサセリヒコに跪く。

 

「感謝する。この命を救ってもらった恩、返しても返しつくせぬ。我が命、大和の皇子・イサセリヒコに捧げよう」

 

意外な展開にイサセリヒコは目を丸くするも、その大きな体躯の異形の者にイサセリヒコは微笑む。

初めての家臣。

そして、奇しくもイヌカイタケルと同様の“イヌ”だ。

 

「お前はおれの道連れ、おれとともに在れ。お前はこれより、イサセリヒコの配下のオオイヌと名乗れ」

 

「了解した。我が主人よ」

 

そう言って歯を見せるオオイヌ。

笑ったように見えた返答にイサセリヒコは笑い返し、オオイヌと笑い合った。

 

初めての家臣ができた日である。




シラは口ではイサセリヒコのことを受け入れられないというときもありますが、互いに疎外されがちな二人なのでイサセリヒコに依存気味です。
イサセリヒコに近づけているのは、フトニ大王と妹の子だからとか囁かれていたり。
古代日本は近親婚が多かったそうなので、それを採用しています。

ちなみにシラ本人はイサセリヒコから聞かれるまで身の上話はしたがりませんが、イサセリヒコ本人も聞くことはないでしょう。


【挿絵表示】

画像は男の子メーカーより、イサセリヒコです。
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