【完結】真約・桃太郎伝説   作:ふくつのこころ

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オオイヌとの出会いはイサセリヒコにとって大切なものなので一話を使いましたが、サルとキジについてはまぁそんなにって感じで。
サッと仲間に加えます。


異形の者の主(皇子と首領)

イサセリヒコにオオイヌが配下として加わった後、新たに2体の異形がその傘下に加わった。

名をマシラ、キジガルの2体である。

サル、キジの異形である彼らはオオイヌの知己であるという、その出自を尋ねるも、オオイヌは大きく口を開けて「いずれ、知ることになりましょう」と言うだけであった。

口を大きく開けたのは、オオイヌなりの笑顔であることをキジガルから教えられた。キジガルはオオイヌ、マシラを取りまとめる役回りらしい。

 

「オイラ思ったんだけどよ、皇子さま1人を旅に出すって大丈夫なのか?それ」

 

「おい、マシラ。イサセリヒコさまになんという口の利き方だ」

 

生真面目な口調でキジガルはマシラをたしなめる、マシラは楽観的な性格をしているようだ。

 

「けどよう、王位を継承するにあたっちゃあ率いるであろう軍勢に王としての姿を見せてやんのが効果的じゃあねえか?その方が支持する奴ら増えるだろうに」

 

「父上はおれの力を信用しておられるんだ。それに、軍勢であれば、おれの力全てを使ってでも守りきれるとは思えん。なれば、おれ1人でも大丈夫だろうと判断されたのだろう」

 

マシラの言葉を聞き、イサセリヒコは首を小さく振った。

先を歩く後にオオイヌやキジガルがついていくと、どこか優しく笑っている様子に寂しさを感じ、マシラはため息をついた。

 

「デケぇ図体して寂しそうな顔しちまってよう。こいつはイヌの奴も放っておけねぇや」

 

 

隣にはべらせた美しい妻からの酌を受け、頭蓋骨の盃で酒を飲む半裸の偉丈夫。

美しい容姿をしているものの、小山ほどの体躯を誇ること、時折のぞかせる牙はその美しさを損なっていた。

 

「大和の餓鬼が来ている、というのは本当か?」

 

「はい。なんでも、首領の首をとりに来ているそうで」

 

偉丈夫は温羅(うら)と言った。

製鉄の技術を以ってして吉備の一帯を支配し、大和に従わないまつろわぬ民の長として君臨する存在。

配下の鬼の報告を受け、自らを討ちに大王が遣わした皇子に想いを馳せる。

 

「で、その餓鬼はどれくらいの軍勢を抱えている?」

 

「それが、三体の異形の従者を引き連れているとのことで」

 

三体。

 

三千の間違いではないかと思ったが、温羅は笑いを抑えられなかった。

 

「さ、三体だと?ふは、ぐは、グハハハハ!面白い冗談を言いおるわ、小鬼風情が」

 

「しゅ、首領……」

 

温羅は不機嫌そうな表情に切り替え、配下の首を掴む。

立ち上がらず、文字通り、腕を伸ばしただけで掴めば、自らの首を蛇がとぐろを巻くように巻きついている指を剥がそうとするも、締め付けが強く引き剥がすことができない。

ギチギチ、と悲鳴を上げる人間以上に丈夫な鬼の骨、それをもへし折る温羅の膂力。

 

ぐしゃりと砕ける音がすれば、途端に尽きる命の鼓動。

近くにいた別の配下に目を向けると、その死体の処理を行うために死体を運搬していった。

鬼は人のように理由のある殺しをしない、あくまで気まぐれ、自由気まま。

 

その行動に理由はない、ふと思い当たるように殺すのだ。

 

「喃、妻よ」

 

今度は上機嫌に酌をしている妻を抱き寄せた。

阿曽媛(あそひめ)という彼女は温羅が配下に命じて略奪をさせた婦女子の中でも取り立てて器量がよく、温羅の好みであった。

富、名声、力、そして美しい妻を持つ温羅の生活は充実しており、敵対者の頭蓋で作った盃を壁へと投げつけて割れる音を聞きながら、彼女に問いかける。

 

「温羅さま」

 

「大和の餓鬼がこの温羅の城に来るらしい、この火と鉄の要塞・鬼ヶ島にだ。この温羅は生まれ持った力で全てを手に入れてきた。大和の者どもを恐れさせる名声、欲しいだけの女、多くの宝に鬼ヶ島」

 

温羅の語る鬼ヶ島とは、温羅が妻や支配する配下の暮らす城塞国家であった。

製鉄の技術を持つ一帯を襲い、自らの敷いた独裁の元、温羅は武力と数多くの宝を作り出してきた。

拵えた丈夫な刀剣、自らの膨大な妖力を注ぎ込んだ事象を引き起こす宝物の槌は周辺の鬼たちを恐れさせるには十分であり、温羅を王たらしめている。

 

「おれが欲する物を当ててみよ」

 

先ほど配下を理由もなく殺した男とは思えないような優しい声で、妻に問いかける。

 

「あなた様の欲する物は一つ、それは大和の皇子の頭蓋でございましょう。全てを手に入れたあなた様とはいえ、今酒を飲む盃を失ってしまわれた。であれば、あなた様の求められるものは、大和の皇子の頭蓋となると考えられるのではないでしょうか」

 

「聡い女だ、阿曽媛。そうとも、このおれは大和の皇族の血を求めている。いや、血ではないな。頭蓋だ。頭蓋で作った盃だ。聞くところによれば、奴らの祖は高天ヶ原の天照に由来するものじゃあないか。その者の頭蓋で飲む酒はさぞや美味いだろうよ」

 

阿曽媛には温羅を恐れることはなかった。

初めて目にした時から凶悪な面を覗かせるものの、阿曽媛自身には手を下したことがなかった。

与えられた宝物もどれも人間から与えられるもの以上であり、自分と子を成せないと知ってもなお、大きな愛情を与えられていた。

異常を異常と思えないほど、すでに鬼の角を生やした阿曽媛は鬼としての心を持ってしまっていた。

 

「でしたら、わたしは獣の皮の襟巻きが欲しいですわ。ちょうど、3匹もいらっしゃるもの」

 

「よかろう。我が斥候によれば、人心の掌握も出来ぬただの力自慢の小僧とのことだからな。愛玩動物3匹を連れていたところで、この温羅には敵うまい」

 

まだ見ぬ敵が心は子供のまま、大人の身体を得た皇子と推測し、その勝利を確信した。

微笑む妻に満足そうに鬼の王は笑っていた。

 

 

オオイヌ、マシラ、キジガルが眠った後、寝付けないイサセリヒコは焚き火の炎を絶やさず、夜空を見上げていた。

どのような能力かはわからないが、マシラが言うには、もう少しで鬼ヶ島にたどり着くのだという。

到着した暁にはイサセリヒコに全てを任せるというオオイヌ、偵察に明朝に向かうと語るキジガル。

オオイヌ、マシラ、キジガルが加わったことの道中はまるで軍勢を率いているようだとイサセリヒコは思う。

 

襲い来る賊や鬼を蹴散らすのはイサセリヒコの膂力を以ってすれば容易かったが、「大将がやすやすと前線に出るもんじゃねえや」とマシラにたしなめられてしまい、力の温存をしていただきたいとキジガルからの進言を受け、ほとんどイサセリヒコは豪腕を振るうことがなかった。

不服そうにしているのが表に出ていたのか、

 

「王とは動じないこともまた仕事のうち。安心為されよ、貴方がされるべきは鬼の首領の首取りであるのだから」

 

となだめた。

 

「おれは本当にこれで良いのだろうか。こんなに楽をしていいのだろうか」

 

力自慢以外にも認めてもらうため、イヌカイタケルに稽古をつけてもらい、勉学にも励んできた。

全てが王に必要なものだと信じていたからだったが、父からは軍勢一つも与えられず、その力を信じているとの一言だけで身一つで旅に飛び出した。

 

「すみませんが、火に当たっても構いませんか?」

 

夜遅く、それも鳥や獣が寝静まった時間に亜麻色の髪の女が1人で火に照らされてイサセリヒコに声をかけた。

イサセリヒコは近くに置いていた巨大な銅剣に手をかけると、女は慌ててそれを制する。

 

「ああ、別にそんな怪しい者じゃないですよ。ちょうど、明かりを見つけたので。まぁ、ぶっちゃけ人見つけたので安心したっていうか?」

 

あっけらかんと話す様子に毒を抜かれてしまい、イサセリヒコは手を離した。

 

 

……え、もう信じるんです?お人好しですねぇ、本当に。

 

「一人旅なのか?おれは、」

 

女が漏らした呟きはイサセリヒコには聞こえてなかったらしい。

 

「まぁ、そんなところです。放っておけない家族の子に会いに行こうって感じですかねぇ。貴方のお名前は知っていますよ、イサセリヒコ皇子」

 

女はイサセリヒコに呟きが聞こえなかったことに安心すると、イサセリヒコは眉を顰めた。

皇子であると知っておきながら、女の態度は慇懃無礼だと。

 

「こちらの変わった(・・・・)従者以外にお連れさんはいらっしゃらないようですが?ああ、私はそうですね。親戚のようなものです、貴方のお父上の」

 

異形の従者たちに視線を向けながら、女はイサセリヒコの隣に座る。

シラ以外の女性と親しくなったことがなく、イサセリヒコの鼓動が高鳴るのを感じる。

よく見ると、とても美しく、それでいてどこか自分と似ているようにも見える。

 

「親戚?おれは会ったことがない」

 

「それはそうでしょうとも。初めて会ったのですから。私はそうですね、ヒザシと申します。お父上のことはよく知っていますよ。何かお悩みがあるのであれば、私に話してみてください。見知らぬ人の方が話しやすいとかあるらしいですし?」

 

ヒザシ、と女は名乗った。

怪しむ以上にどこか既視感を覚え、それでいて恐れずに話しかけてくれるのはシラ以外では初めての女性ではないだろうか。

まるで、春の陽気のような暖かさを彼女から感じた。

 

「これまで、これまでおれは王に相応しい者としてあれるように努力してきたつもりだ」

 

「それは結構。あの親離れできない弟にも聞かせてやりてぇもんです。……それでそれで?」

 

深刻なことを切り出そうとしているのに、ヒザシはあっけらかんとしていた。

少し睨みつけると、ヒザシは慌てて「続けてください」と言った。

この人は結構抜けている人ではないか、と思いながらも話を続けた。

 

「なるほど、自分が楽をしていいものかと思ってるんですね。真面目なんですよ、イサセリヒコ。これまで頑張ってきた分、貴方には楽をしてもいいってもんです。牛投げつけるような狼藉者だっているんですからね?私の弟なんですけど。それぞれの領域を父上に与えられても、母上に会いたいって泣き喚いたりするし。今じゃ立派になりましたけど」

 

どこかで聞いたような話だ、と思いながらもペラペラとまくし立てるヒザシにつられてイサセリヒコは笑ってしまっていた。

思えば、家族の前でこんなに笑ったのは初めてかもしれない。

 

「あ、ようやく笑いましたね?まぁ、私好みのイケ魂ではありませんが、いちおう親みたいなものですので?かわいい子供が仏頂面するよかいいってもんです」

 

「あッ!なにすんだ!」

 

ヒザシは無遠慮に両頬を掴む。

イサセリヒコが即座に外すと、いけずーと唇を尖らせる。

妙齢の女性がする顔ではない、とイサセリヒコが言うと肘鉄を入れられた。

あまりにも無慈悲である。

 

「おれは子供じゃない」

 

「子供です。ろくに甘えられなくて、ずーっと我慢してた子供です」

 

ヒザシはばっさり言い切った。

 

「痩せ我慢はしないほうがいいんですけど、真面目なイサセリヒコには変えられないでしょう?今更。それにそれがいいって言ってくれてる娘もいるようですからね」

 

そう言うと、袖から取り出したものをイサセリヒコに握らせた。

それは、櫛だった。

いろんな果実の装飾の施された、美しい作りの櫛だ。

 

「これを差し上げます。父上の持っているものと同様に鬼に効果のある果実の生る木をを生やすことができます。イサセリヒコ、しっかり見守っていますからね」

 

櫛を手渡した後、すぐに身支度をヒザシが整えると、イサセリヒコが呼び止める。

 

「待ってくれ。どうしておれにここまでしてくれるんだ?おれとあんたが出会ったのは今日が初めてだ。それにおれは……」

 

「貴方が知らなくても、私は知ってるんですよ。そう自分を卑下しない、誰よりも強い貴方が自分を信じてやらなくてどうしますか。自分にそんな価値がないとは言わないこと。それじゃ貴方を信用する者たちの期待を裏切ってしまいますからね」

 

一度だけ、ヒザシはイサセリヒコを振り返った。

 

「お返しは要りません。しっかりやり遂げることです、鬼退治。家族の誰もが貴方を見ていなくても、私は見ています。取り立てには窺いませんが、誰かの役に立ちたい、民を守りたいという気持ち。忘れないでくださいまし。かわいい愛し子よ」

 

そう言うと、ヒザシの姿はもうなくなっていた。

まるで煙のように跡形もなく。

手のひらの中におさまっている櫛の感触だけが不思議な出会いを証明するものであり、夢でないと教えてくれる。

お節介な“親戚”と名乗った彼女の正体を悟り、イサセリヒコはわずかに昇る陽を見て呟く。

 

「親戚どころか、親のように近しい存在じゃあないですか。期待、必ず応えてみせます。ーーありがとうございます」

 

 




次回からは鬼ヶ島編です。
温羅が製鉄技術を手にしていたそうなので、城塞国家のようなものをイメージしています。
召喚されることがあれば、それが宝具になりそうですね。
今回、登場したヒザシはあるキャラクターの本来の姿が人間界に降りてきた際に名乗った偽名です。
途中で気づかれた方もいると思いますが、そう彼女です。
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