【完結】真約・桃太郎伝説   作:ふくつのこころ

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あけましておめでとうございます。
今年は少しでも投稿ペースをあげ、生前編を終わらせていきたいところですね。
前半はタブレット、後半はPCで書いているので少しおかしな形になっているかもしれません


まつろわぬ王①

「ようこそ、大和の皇子。よくぞ参られたな。俺は鬼ヶ島の首領、温羅という。隣にいるのは俺の妻だ。我々、鬼は貴様を歓迎するぞ」

 

温羅は両手を広げ、柔らかい笑みを浮かべた。

周囲の配下や妻が呆気にとられているにもかかわらず、温羅がまさか征伐にやってきたイサセリヒコ達を歓待してくれるとはおもわず、鬼ヶ島に入った段階で殺し合いが始まるものだと思っていたのでイサセリヒコは頭の理解が追いつかなかった。

 

「私達は朝廷にまつろわぬ貴様らを征伐に参った次第。歓迎されるいわれはない」

 

オオイヌが真顔のまま異議を唱えると、鬼の王は愉しげに嗤う。

 

「鬼の首領、その配下と戦うにたった三匹の従者(・・・・・・・・)しか連れて来ぬ者に俺が負けるとでも?笑わせるな。殺し合いはいつでも出来る。それより、俺はイサセリヒコ。お前を知りたいのだ。お前が俺の気に入る面白い男であれば、考えてやらんでもない(・・・・・・・・・・)

 

「‥‥…」

 

イサセリヒコには魅力的な申し出だった。

イサセリヒコとしても、無駄な殺生は好まない。

もしも、鬼ヶ島()と大和が分かり合えるのであれば、それはとても素敵なことだとイサセリヒコは大和の王族でありながらも思ってしまったのだ。

 

「それはいいな」

 

イサセリヒコは王になりたい。

しかし、その願いは心の奥底でかなわないと思っているのもまた事実だった。

多くの配下に囲まれ、妻がそばにいる様子はまさしくイサセリヒコの理想とする王の図に他ならず、その理想の光景を前にイサセリヒコは壊したくないとさえ思ってしまっていたのだ。

 

「イヌ。いいのですか?イサセリヒコさまに任せておいて」

 

キジガルは“オオイヌの心”に密かに語りかけた。

 

「我らはあの方の従者だ。あの方のやり方には極力、口出ししないのが在るべき従者の姿だろう」

 

オオイヌは表情を崩さず、温羅に肩を組まれる主人の姿を見ている。

マシラは不気味なオオイヌの様子に肩をすくめた。

 

「よう、トリ公。アレはただのお上りさんが騙されてるようにしか見えねえんだけど」

 

 

「……いやはや、ここまで凄まじい怪力を持っているとはなぁ。俺と同じくらいか、それ以上かもしれん」

 

宴会の席で力試し、と称して大きな岩を持ち上げて腕力で砕いて見せたイサセリヒコに温羅は上機嫌だった。

温羅はイサセリヒコとは正反対の人物、もとい鬼であった。

いまの地位は温羅が自らの力で築き、配下の者は温羅に挑み敗れた物や温羅の庇護にあやかろうとした者など様々だ。

どんな事情を持っていようとも、温羅は自分の下にやってくる鬼達を拒絶することはなく、受け入れたというのは、イサセリヒコにとっては大和との在り方の違いに少し驚いた。

 

「イサセリヒコ。お前ほどの怪力の男が大和の王でないとは、その力が勿体無い。どうだ、イサセリヒコ」

 

「俺の兄弟にならないか」

 

温羅が示したのは、鬼の娘達だった。

どれも器量がよく、男の視線を集めるような身体の線が出た服を身にまとっており、温羅は自らと並べば好きにできるのだということを暗に示した。

オオイヌ、キジガル、マシラも異形の姿をしていることで退治されてもおかしくない姿をしているのに、この鬼ヶ島ではその心配がない。

ここは、もしかしたら、理想の国かもしれない。

 

けれど。

 

ーーお慕いしております、イサセリヒコさま。

 

彼女の、シラの笑顔を思い出すとここは選べそうになかった。

 

「おれは選べない」

 

イサセリヒコの言葉に温羅は口端を吊り上げた。

 

「大和にはおれの妻がいる。おれの民がいる」

 

イサセリヒコの力のこもった目に温羅は溜息をつく。

こんな答えを求めたのではない、ここには全てがあると言おうとするが、イサセリヒコは頭を振った。

 

「おれの妻はおれを愛してくれている。なら、おれはお前の兄弟にはなれない。兄弟にはなれない。おれは妻を愛しているからだ。お前も妻を愛しているのであれば、同じことを思うはずだ。そうだろう?」

 

面白くない、と温羅は思った。

どんな世間知らずな餓鬼が来るのかと思っていれば、ここまでの者だとは思わなかったからだ。

 

鬼は力を是とする。

 

鬼は享楽を愛する。

 

鬼は色を楽しみ、女を貪り抱く。

 

世間知らずな無謀な王子であれば、それにすぐに陥落するだろうと思っていたが、そんな純粋なものをぶつけてくるとは好ましい(愛おしい)けど憎たらしい。

 

だから、ここで殺してしまいたい。

 

人間でありながら、人間を超えた剛力の男。

並び立てるかもしれない、恐るべき力の持ち主。

 

「残念だ。残念だ、イサセリヒコ」

 

イサセリヒコは無駄な殺生は好かないと言った、であればと温羅はイサセリヒコのその闘志をむき出しにするために自らの配下を殺し、手招きするような動きをすれば、引き寄せた女の身体を捻った。

水分をたっぷり含んだ布を絞るように動かすと、鬼の娘の身体がねじ曲がり、悲鳴が広がり、ボタっと身体が別れて落ちた。

 

温羅は“発作(・・)”に耐えられなかった。

 

「優しいお前であれば、俺の行いを許せないだろうな」

 

「なんで、なんで急に殺す!?お前の民だろう?お前の従者だろう!?お前は、ここの王だろう!?ならば、なぜお前の手にかける!?お前は民を守るべき王ではないのか!?」

 

動揺を隠せないイサセリヒコは身体を震わせながら、身体が捻れた女の身体を抱えてその白装束が汚れるのもためらわなかった。

 

「王は民に自分のために命を投げ出させるものだ。捨てさせるものだ。軍勢を率いて攻め込む者もいる。しかし、お前はそうではないようだ。――シラ、こちらに来い」

 

温羅は朝廷に従わぬ自分の民の為に嘆くことができるイサセリヒコを好ましく思った。

この男であれば、刃を交えるのに相応しく、それでいて新しい杯にするに相応しい頭蓋をもっているだろうと確信した。

そして、イサセリヒコにとって愛おしい名を呼ぶと、すぐ近くに来させた。

 

シラ――イサセリヒコの妻は悲しみの表情を湛えたまま、大和にいたときと変わらぬ服装のまま、イサセリヒコのほうを見ずに温羅の傍に立った。

イサセリヒコの中で様々な思いが駆け巡った、シラが温羅の妻であり、自分を殺すために大和に送り込んできたのではないかと。

 

「シラ。シラ……!」

 

「イサセリヒコ様、わたしはただ……」

 

オオイヌら三体は視線を背けた。

悲痛なイサセリヒコの声と表情に見ていられなかったのだ。

イサセリヒコは温羅の前にもかかわらず、シラに駆け寄ってその細い身体を抱きしめた。

イサセリヒコは自分の中で巡った思考を振り払った、彼女のことを愛すると誓ったのに何たるザマかと。

疑ってしまった自分が腹立たしかった。

 

「良い。怪我はないだろうな?」

 

「イサセリヒコ様、わたしはヒトではないのです。この温羅の娘、鬼の王の娘が私なのです」

 

「だがお前はお前だ、シラ。お前はおれの名を呼んでくれる。おれの伴侶となってくれた女だ」

 

鬼の王の娘。

 

それがどういうことなのか、分からないイサセリヒコではない。

ここにいるということは、何らかの手段を使い、大和からやってきたのだろう。

変わらぬ美貌の持ち主で在ることが人外化生で在ることが知れ渡ったら、シラには大和で居場所がなくなってしまう。

ただでさえ、大王の皇子の中でたった一人だけ疎まれている怪力皇子の侍女であるという身分を踏まえてもだ。

否、正しくは妻と言うべきか。

 

それでも、悲しげな表情を浮かべたシラが頬に触れるのであれば、それを拒絶するイサセリヒコではなかった。

彼女と共に暮らしたい、共に生きて生きたい。

何も与えられてこなかったイサセリヒコが少ない財産の一つであり、イサセリヒコがより強く王になりたいと思える理由だったのだから。

 

「イサセリヒコ。お前は大和の連中にしては変わり者だ。我が娘、シラを愛し、大和にまつろわぬ我が民の死を悼む。考慮したことはないのか?我らがそういう(・・・・)者であることを。そして、お前はお前の愛した女の父親を手にかけようとしている」

 

温羅は楽しげに口元を緩め、首を傾げる。

自分が行っていることを見つめなおせ、そして娘と生きていくにはこの鬼ヶ島であるほうがきっと都合がいいのだと。

そんな父の誘惑をイサセリヒコの前に立って止めたのは、誰でもないシラだった。

 

「父上、もうおやめ下さい!!イサセリヒコ様を惑わさないでくださいまし。イサセリヒコ様は父上を倒しに参ったのです。たった一人、そちらの従者と出会うまではたった一人で。父上には、イサセリヒコ様だって勝てるかどうか分からないけど

 

「娘はそう言っているが、お前はどうする?お前は娘の前で父親を殺せる男なのか?それとも、別の選択肢を選ぶか?」

 

温羅はイサセリヒコの様子を楽しんでいた。

鬼として正面からぶつかってくる“ニンゲン”はとても見ていて面白いものだが、それ以上にイサセリヒコはこれほどに王に向いていないと思わされる反応がとても良かった。

敵対する王の宴に応じ、芸をしてみせ、そして脇目も振らずに妻とした敵対する王の娘を愛するがあまり感情を隠しきれず、抱きしめてしまう。

 

世間知らずとも、けれど心優しいとも言える皇子は良い意味でも悪い意味でも王には向いていないが、人間(大和)の王にはなれずとも人間(大和)に迫害されているモノを引き連れていることから、皇子が最も向いているのはその力と優しさから人でないものを従える王になることが何よりも向いていると温羅は思えた。

 

「シラ」

 

イサセリヒコの呼びかけにシラはびくりと身体を震わせる。

彼と結ばれた身とはいえ、自分は鬼。

大和にまつろわぬ一族であり、鬼の王の娘であっても、イサセリヒコは人の王の王子。

共に生きていけるとは、とても思えなかった。

 

「おれと共に生きて欲しい。しかし、おれはお前の父を殺さねばならん。おれは大和の皇子、フトニ大王の皇子であるからな。期待(・・)してくれる()に言葉をかけてもらったのだ、夢も諦めきれん。もし、お前がおれと縁を切り、父の元に戻るのであれば。おれはそれでも良いと思っている」

 

「イサセリヒコ様、それは」

 

イサセリヒコの紡ぎだした言葉は、イサセリヒコにとっては自分の喉元に刃を突き立てるが如き行いなのだと短い付き合いであってもオオイヌには伝わってくる。

慈悲深く、優しい皇子は“そうであろう”という常識を知っているから、伴侶の女性に選択権を差し出したのだ。

これからお前の父を殺すが、お前がおれの伴侶でなくなる可能性は承知の上であると。

オオイヌの声色にこめた感情はほかの二体、マシラ・キジガルも同様の想いであった。

 

「いいえ、イサセリヒコ様。わたしは貴方を選びましょう。……長年、貴方に慕われているのは悪い気持ちではないもの」

 

シラの答えは、イサセリヒコの胸板をなぞりながらのもので敬語が外れ、シラの“素”が見えたのはイサセリヒコにとってもとても好感が持てたが。

 

「……ぁっ、」

 

「お父上と親子らしい会話をされたことのない、貴方はこの決断を心配なさるでしょう。だけど、シラが選ぶのは温羅の娘でなく、イサセリヒコの伴侶ですわ。愛おしい人間の皇子さま。わたしは貴方がいい」

 

イサセリヒコが言葉を搾り出そうとすると、その唇にシラは人差し指を当てて微笑む。

 

「シラ!仮にも貴女は鬼の王の娘。お父上を裏切るというのですか!?」

 

「そうですわ、阿曾媛様。か・りじゃあなく、鬼の王の娘。だけど、わたしは貴女の娘じゃあありません」

 

阿曾姫の怒りにシラは涼しい顔で応えるものだから、イサセリヒコは見たことがない一面に呆気にとられてしまう。

しかし、そこに高らかに宣言する。

 

「大和の皇子よ、天照の血統よ。貴様はなぜ俺の城に、首領・温羅の根城にやってきた?何を為しにこの地に足を踏み入れた?軍勢も率いず、たった三体の化生を引き連れし人の子よ。イサセリヒコよ!!」

 

天地に轟くような大声を発したのは、鬼の王だった。

 

「鬼ヶ島に住まう鬼の王よ!!おれは高天ヶ原が天照大神の血統、フトニ大王が皇子イサセリヒコである!!大和の皇子として、お前に挑戦する!!お前を倒し、おれは大和に帰る。妻を、シラを連れて帰ってみせる!!!我が従者たちよ、お前たちに命じよう。鬼の王を倒す同胞となり、鬼をも恐れさせる鬼哭の従者となることを命じよう!!」

 

そして、イサセリヒコは金棒を天に掲げる。

心なしか、その夜は非常に明るいように感じられた。

 

「「「主人の命とあらば、我らは鬼神をも超えて見せよう」」」

 

その声を号令に大和の皇子はシラを抱え、金棒を手に温羅が出した抜き身の鉄剣と合わせ、火花を散らす。

 

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