【完結】真約・桃太郎伝説   作:ふくつのこころ

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一年ぶりの投稿です
覚えておられますか?


まつろわぬ王③

空気を焦がす熱を肌に感じながら、イサセリヒコは行く。

 

「これが鬼の宝の威力か」

 

膨大なエネルギーを吐き出した、鬼の宝・打ち出の小槌。

鬼ヶ島をも消し飛ばしたことで、これでもう二度と残党たちはイサセリヒコを追うことはできないだろう。

名実ともにイサセリヒコは鬼ヶ島の首領、温羅とその一味を僅かなお供たちを引き連れ、そしてついてきていたシラを連れて生存することに成功したのだ。

 

「オオイヌ。打ち出の小槌の力はわかるか」

 

「所有する者に富をもたらすものであると。ただいまのイサセリヒコ様の使い方であれば、膨大な力を発揮する願望機のような使い方もできましょうな」

 

「イサセリヒコ様、もしかして……?」

 

オオイヌもシラもイサセリヒコがこれから行おうとする行為については、だいたい想像がついていた。

死したキジガルとマシラを蘇らせるつもりなのが伝わってくる。

 

旅をした日数やそれなりの時間を過ごしてきたが、これまでに自分だけの家臣を持ったことがないイサセリヒコにとっては三体のお供は特別な存在となりつつあったのだ。

 

「ああ。キジガルとマシラを蘇らせたいと思っている。彼らはおれのためにその身を犠牲にしてくれたのだ。

そんな者たちをこのまま死なせるのは、惜しいと思う」

 

「しかし、イサセリヒコ様。それはなりませぬ」

 

イサセリヒコが打ち出の小槌を手に胸板をなぞるシラの肩を抱きながら、駆けているとオオイヌは並走しながらイサセリヒコの行為を諫める。

 

「我ら、確かにイサセリヒコ様に身を捧げた所存。ですが、たとえ我らのような人外化生の類であっても、一度命を落としたものは蘇ってはならない。それが世界の摂理であるからです。

キジのやマシラの。我々にとって、イサセリヒコ様にお会いできたのは運命のようなものかもしれません。

飢えて死にかかった私を救ってくださったことで、イサセリヒコ様に私は旅の供として私を含めた三体のお供を捧げました」

 

やがて、燃え盛る鬼ヶ島から離れたところまでやってくると、オオイヌはイサセリヒコと向き合う。

 

「マシラやキジガルからみても、貴方のような人はきっと良く映ったことでしょう。貴方はとても純粋なのだ、イサセリヒコ様。――だから、どうか。彼らの死をなかったことになんてしないでください」

 

「オオイヌ。おれは……」

 

オオイヌの真摯な言葉にイサセリヒコは、ぽつりぽつりと言葉を絞り出す。

 

「ようやく、自分の家臣が持てたと思ったんだ。父上には、大勢の家臣がいる。

おれが武芸の指南を受けた男もそうだ。あいつはおれに親身になってくれたが、おれの家臣ではなかった。オオイヌたちのような立派な家臣がおれにはいてほしい。これから、おれは民のために戦いたい。

—―—―力を貸してほしいんだ」

 

きゅっ、とイサセリヒコは唇を嚙み締めながら、オオイヌにその感情を伝える。

オオイヌはこれほどに自分たちを思っていてくれたのか、と返答を返そうとするところに一人の女が現れた。

あの夜の焚火にて出会った女、ヒザシ。

 

またの名を天照大御神。

 

その化身ともいえる存在。

 

イサセリヒコたち皇族の祖、皇祖神たる神々のおわしめす高天原を統べるもの。

 

「誰!?」

 

「誰とは失礼ですね、温羅の娘(・・・・)。イサセリヒコ、いくら可愛い貴方であっても、その願いを聞き届けることはできません」

 

少し困ったような表情を浮かべつつも、シラの言葉はすっぱり切り捨て、ヒザシが軽く人差し指を動かすと場所が一転した。

イサセリヒコの暮らす、大和の城の近くまでヒザシの力で移動したのだ。

 

「シラ、この方は……、おれの……、皇族の母のような方だ」

 

「は、母って。貴方がそうおっしゃるなら……」

 

付き合いの長いシラも、イサセリヒコが言葉を選ぼうとしているのはわかった。

しかし、母親に愛された記憶がないイサセリヒコが母親(・・)というのは相当に信頼しているのだと思った。

 

「まぁ、それは及第点ということにしておきましょう。正確には違うんですが。

なにはともあれ、イサセリヒコ。キジガルやマシラを蘇らせることは認めません」

 

イサセリヒコは目を逸らす。

いつ以来だろうか、ここまで連続で誰かに叱咤されているようなことは。

そして、一つの疑念が湧く。

 

(わたくし)の父、伊邪那岐(イザナギ)が妻を黄泉の国に取り戻しに行ったとき、色々と決裂があった結果として冥界とこちらの世界を行き来できる通り穴は封じられました。

私は高天原、ひいてはこの大和の地を統べる者として。調和を保つ必要があります」

 

「天照様、一つうかがいたいことがございます」

 

「いまはヒザシ、とお呼びくださいな?イサセリヒコ」

 

では、ヒザシ様、とイサセリヒコが言い換えるとヒザシはにっこりと笑みを浮かべた。

 

「オオイヌ達がおれのお供になったのには、「張り倒しますよ、イサセリヒコ」

 

「はい?」

 

イサセリヒコはヒザシの笑顔のまま返ってきた、言葉に瞬きすれば、ヒザシはずけずけと近寄ったあとにイサセリヒコの頬を張り倒した。

シラが驚きよりまず先にイサセリヒコの胸板から手を放し、怒って突っかかったのをオオイヌは制するのに精いっぱいだったが、この主人はそんなこと(・・・・・)を気にしていたのかと思ってしまった。

城の近くの門番にも気づかれていないことから、ヒザシがきっと何か結界でも張っているのだろう。

 

「オオイヌ、キジガル、マシラは貴方がオオイヌと結んだ(えにし)から貴方の家臣になったのです。それを私がどうこうしたと?……馬鹿ですねぇ、貴方は。私が貴方を張り倒したとき、真っ先に怒った鬼の娘の心も。貴方が勝ち取ったものです、そこに私や神は介入しておりませんよ」

 

再度、ヒザシがイサセリヒコの頬を撫でるとイサセリヒコの顔についたヒザシの手の痕は消えた。

 

「貴方は貴方が思っている以上に得られたものがあるのです。……それに無事にやり遂げたではないですか、鬼退治。なので、キジガルやマシラを蘇らせるわけにはいきませんが、ご褒美を与えましょう」

 

何がいいですか?とオオイヌが手にしている包みを一瞥し、尋ねるヒザシに拗ねたシラがイサセリヒコを見つめるものだから、イサセリヒコは少しばかり考えた後に(かぶり)を振る。

 

「でしたら、これからもおれたちを見守っていてください。そして、おれの伝説が後世に語られることがあれば、短くもおれとともに居てくれたお供たちのことを忘れずに。欲しいものは、それが全部です」

 

「いいんですか?ご褒美なので、王位も約束しますよ?」

 

「そういうのは、自分で認めてもらわないと意味ないんです。それに本当に王位なんて求めたら、また平手打ちしたらたまらないです。シラも怒ってしまうし」

 

平手打ちしますよ、とスナップを利かせるヒザシにうげぇ、と露骨に嫌そうな—―素の表情を浮かべれば、オオイヌはヒザシとイサセリヒコのやりとりがまるで親子のようだと思った。

 

「なら、情けない姿はあまり見せないように。期待してますからね」

 

そういうと、ヒザシは唐突に現れた時のように唐突に姿を消した。

 

「イサセリヒコ様。ヒザシ様に平手打ちされたところは痛みませんか?」

 

「治してもらったから大丈夫だ。……平手打ちしたのも、あの方だけどな。

なあ、オオイヌ」

 

ヒザシが平手打ちしたイサセリヒコの頬を撫でながら、シラが心配そうにすると、イサセリヒコは笑った。

 

 

「なんでしょうか?」

 

「おれは、この打ち出の小槌で彼らは蘇らせない。そして、この力は民を守るために使う。いいな?」

 

「もちろん。オオイヌは、最期まで貴方とあります」

 

打ち出の小槌を懐にしまいながら、その決意を語るイサセリヒコの顔は一皮も二皮も剥けたようだった。

やがて、イサセリヒコたちが城のほうへと歩き出すとイサセリヒコの姿を兵士が発見する。

 

「イサセリヒコ皇子!?シラと、そこにいるのは化生の類ではないですか!?」

 

「温羅を討伐した。父上、いや、大王への謁見を所望する」

 

城を抜け出したシラの姿とオオイヌの姿を見て兵士の驚く反応も無理はないが、化生の類というのが引っ掛かったイサセリヒコは口端をわずかにひくつかせる。

 

「シラは妻だし、オオイヌはおれの家臣だ。言葉には気を付けるように」

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