【完結】真約・桃太郎伝説   作:ふくつのこころ

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生前篇のクライマックスに向けてのコーヒーブレイク。
イサセリヒコの幼少期のエピソードがなかったので挟みます。


幕間ー1

 大和の大王、フトニ大王の長子としてイサセリヒコは誕生した。

 フトニ大王は鬼退治の武勇を持った武闘派の大王であり、生まれてきた第一子への期待は大きかった。

 イサセリヒコはすくすくと育っていったが、その生まれ持った力が開花していくのと同時に徐々に恐れられるようになっていき、腹違いの兄弟たちが生まれてくるころにはイサセリヒコは一人で遊ぶようになっていた。

 

「イサセリヒコ様には敵いませんなぁ」

 

「えへへ、ぼくもぼくなりにきたえてるんだ。ぼくもおうぞくだからね、たみのみんなをまもれるようにならなくちゃ。ちちうえのように!」

 

 イサセリヒコがその腕力で身体を押すと、すぐに膝をつく兵士が浮かべた困ったような表情にイサセリヒコはにっこりと笑った。

 城内でイサセリヒコは遊び相手(・・・・)となってくれる兵士との時間はとても楽しくあった。

 この後年、フトニ大王の側室がイサセリヒコの兄弟にあたる者たちを生み、イサセリヒコは兄弟ができるが、それまでイサセリヒコは一人で遊ぶことが多かった。

 巡回の最中の兵士に遊び相手を務めることを求め、イサセリヒコが力比べを楽しむようになったことは、最近のこと。

 しかし、子供の体躯のままでも人間離れした膂力を発揮するイサセリヒコに力比べで敵う者は城内にはいなかった。

 ただ一人、兵士長のイヌカイタケルを除いては。

 

「ここに居られましたか、イサセリヒコ様。……おい、お前たち。何をしている?」

 

「も、申し訳ありません。兵士長ッ!」

 

「ご、ごめん。イヌカイ」

 

 二人の兵士が敬礼して返すと、それに並んでイサセリヒコが謝った。

 兵士が戻っていくと、イヌカイとイサセリヒコが残った。

 

 

「それと、イサセリヒコ様。貴方はあまり謝りなさるな」

 

「どうして?」

 

「王の頭というのは重みがあるのです。もし、貴方がお父上の跡を継がれるのであれば、よく理解なさるように」

 

 イヌカイが歩き出すと、イサセリヒコは慌ててそのあとを追いかける。

 

 イサセリヒコはイヌカイタケルが苦手だった。

 確かに自分のことを考えているのはわかるが、口調は厳しく、言葉も難しい。

 しかし、他の兵士たちと違ってイヌカイタケルの遠慮しない物言いがイサセリヒコには嬉しかった。

 

「イヌカイ、ぼく、つよくなりたいよ」

 

「向上心があるのはいいことです。ですが、イサセリヒコ様。その力を持って何をなさりたいのでしょう。 

貴方は誰よりも強い身体をお持ちだ。その力はこの国で最も強いといっても過言ではないでしょう、この城の兵士でも貴方に適う膂力を持つものは居りますまい。……特別に良いところにお連れしましょう。私のとっておきの場所です」

 

 

 

 

 イヌカイタケルはイサセリヒコにとっては、兄のような男だった。

 

 ほかの兵士のように剣術の稽古に手を抜くなんてことはないし、力比べでもイサセリヒコが膂力任せにするのに対し、小技を使って大きなものを動かしたりできる。

 部下の兵士たちにももう少し手心を、と言われるのを聞いたことがあるが、イヌカイはそれを「無敗の男で増長なさるよりは敗北を知っておくのもまた必要な学習ではないか?」と取りつくしまを持たなかった。

 そんなイヌカイをイサセリヒコの父、フトニ大王はそのスタンスを信頼しており、イサセリヒコに対する剣術の指南に関しては完全にイヌカイに任せきりだったため、フトニ大王の側近に何を言われようと気にしなかった。

 

 しかし、そんな厳しいイヌカイはイサセリヒコを決して気遣わなかったわけではない。

 

 イサセリヒコが生まれたときにすでに有していた、大人の男の腕を簡単にへし折ってしまう膂力と蛇のかまれてもものともしない頑丈な肉体はイサセリヒコの母親がイサセリヒコを構わない理由だった。

 

「お前は、鬼の子だ」

 

 ある日、イサセリヒコが弟妹にかまっている母親の姿を見つけ、綺麗な花で編んだ冠を手に駆け寄ると、嫌悪するものを見るような目で投げかけられた言葉にイサセリヒコはその歩みを止めた。

 

「ははうえ、ぼく。かんむりをつくったんです。きっとははうえにおにあいになるとおもって」

 

「近寄らないで、汚らわしい。お前のようなバケモノを生んだはずがないでしょう。お前は、フトニ大王を 騙して息子と偽っているにすぎないのよ。

鬼の子め

 

 近づくイサセリヒコから距離を取り、幼い弟を抱きしめながら、後ずさりする母親に涙をこらえながらイサセリヒコは冠を手に走り出していったのをイヌカイは知っている。

 まだ母親に甘えたい年齢だろうに、正面からの罵倒の言葉をかけられてもなお、イサセリヒコは涙を決して流さなかった。

 その後を追いかけると、城の隅っこで花冠を握りしめながら、うずくまっているイサセリヒコの姿があった。

 

「どうしたの、イヌカイ。ぼく、ぼく、きにしてないよ。ぼくは、ちちうえのおうじなんだ。いつかね、ぼくがつくったものとかをうけとってもらえるような、そんなひとになりたいな」

 

 泣き腫らした顔でイヌカイを見上げ、笑顔を浮かべてみせるイサセリヒコにイヌカイは母親とのやり取りに割って入らなかったことを悔やんだ。

 しかし、泣き出したいのを自分でこらえ、あえて一人になって泣くことで誰にも心配させまいとするさまはその幼さでできる判断ではなかった。

 ある年に召使としてやってくる召使いのシラと出会えたことは、イヌカイにとってようやくできたイサセリヒコの理解者となりうる女性としてとても喜ぶこととなるほどに。

 

「出来ますとも。イサセリヒコ様を深く愛してくださる方は必ず」

 

 イヌカイにとって、その日のイサセリヒコはとても立派に見えた。 

 

 

「わあ、すごいね。ここ、よくくるの?」

 

「はい、よくこちらに。いいでしょう、ここはお気に入りの場所なのですよ。民の様子がよく見える。大王様もご存じありません」

 

 イヌカイがイサセリヒコを連れてきたのは、民の暮らしを見下ろすことができる見晴らしのいい高台だった。

 民の生活を見下ろすことができる、この高台は見晴らしのよさもあり、沈みゆく陽を見るのにちょうどいい場所だった。 

 

「これは大王様には内緒ですよ?……私も日々の中で色々考えることがあります」

 

「イヌカイも?」

 

「もちろんです。私や、おそらく大王様も。日々の中で、務めを果たされるうえで思うことはできるものなのです。そのとき、私はこうやって民の暮らしを見ます」

 

 イヌカイがイサセリヒコが落ちないように寄り添い、下を見下ろすと、民たちの生活の営みがある。

 イヌカイが手を振ると、何人かそれに気づいて振り返してくれる。

 そのうちの何人かがイサセリヒコの存在に気づくと、イサセリヒコにも手を振る。

 いまにも足を踏み外せば落ちてしまいそうな、この高台に立っているのをどうやって気づいたのか気になるところだったが、民の中に交わったことがないイサセリヒコには初めての経験だった。

 

「ぼく、ぼく。このちからをくにのためにつかうよ。みんながいて、ぼくはこうしていきられてる。だから、ぼくのちからはみんなのためにつかうんだ。ぼくはちちうえのむすこだから。

このくにのおうぞくだから、みんなをまもる」

 

 拙くも、確かなまなざしを向けてイサセリヒコは兄貴分(イヌカイ)に静かに誓う。

 

「それは素晴らしい答えを聞かせていただきました。このイヌカイタケル、貴方の夢を応援しますよ。

しかし、そのためには貴方は自分の能力をよく把握される必要がある。

明日もこれまで以上にしっかりと指導させていただきますよ、イサセリヒコ皇子」

 

「うん。みんながすんでる、このくにをぼくがまもってみせる。たぶん、そのためのちからなんだから」

 

 この思い出を地獄に落ちたとしても、イサセリヒコは忘れることはないだろう。

 

 

 

 

 

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