本物のような偽物の世界で   作:beatkun3

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主人公の名前は「エリザ」です。


第一話 prologue

□過去 エリザ

 

 目を開ける。

 

 耳には人々の生活音が入り、肌はこの町の騒がしくもどこか安心するような空気を感じ取っている。

 

 眼前には精巧な石造りの家々が並び立ち、美しい景観を作り出している。

 

 そして、たった今この世界に降り立ったばかりの私に、目の前の「男性」はこう声をかけてきた。

 

「ようこそ! アルター王国の首都、アルテアへ! 歓迎するよ、新しい<マスター>さん!」

 

 ー

 

 私がこの世界で初めて見たNPCは衛兵の格好をしていたが、私はそれを到底NPCだとは思えなかった。

 

 私に挨拶するしたときの表情、声の調子、そして何よりその雰囲気。その全てが私に「この世界は幻ではなく、もう一つの現実である」と伝えているかのようだった。

 

 私は、この世界の事をもっと知るために、衛兵に様々な質問をした。私がお礼を言い、その場を立ち去ろうとすると、彼は笑顔で私を見送ってくれた。この街には温かい心の持ち主がいる、そう思った。

 

 まずはジョブを決めよう。私は体を動かすのは得意ではないから、できればあまり動かない系の職業の方が良い。そう思ってジョブを探していると、ちょうどその条件に合うジョブを発見した。そのジョブの名は【魔術師】。他のゲームでも魔法使いを好んで扱っていた私は、すぐさま【魔術師】になり、意気揚々とモンスターを狩りに行った。さあ、記念すべき初狩りの時間だ! 

 

 

 ……私は悪くない。

 

 初めての戦闘は散々だった。使える魔法はたった一つの《フレイム》だけ、レベルが1だからMPもすぐに切れ、それなら直接殴ろうと思っても目で追えていても体の動きがついてこない。奇しくも勝利をもぎ取った私だが、一回の戦闘でヘロヘロだ。

 最近運動してなかったから全然気づかなかったけど、私ってこんなに運動できなかったのか……。私は愕然とした。

 

 たった一回の戦闘で疲れてしまった私は、今日のところはもうログアウトしようと思い、王都へと戻った。適当な宿にでも泊まろう。そう思って道を歩いていたのだが……

 

「……ここどこ?」

 

 初めてまだ数時間しか経っていない私は、複雑な王都の作りの全てを把握し切れておらず、マップがあるにもかかわらず道に迷ってしまった。さあどうしようか……そう思っていた矢先、目の前で火の粉が上がった。火事だ。私は駆け出していた。

 

 走りながら私は考え事をしていた。「もしこの世界がもう一つの現実であるならば、火事で怪我をするのはこの世界で生きている人間だ」と。目の前で誰かが傷つくなんて嫌だ。その思いだけで私の体は前へと進んでいた。

 

 家が燃えている。もう一階には火の手が回りきっており、この家の住人と思われる女性と少女は二階の窓から顔を出し、助けを呼んでいた。しかし、ここはどうやら住宅地らしく、道も入り組んでいるため、消防団が来るのにも少しばかり時間がかかりそうだ。しかも、家が密集しているため、すぐにこの辺一帯が火の海に変わってしまうだろう。

 

 しかし、私の周りにはそれをどうにかできそうな人はいない。遠巻きに家を心配そうに見つめる人、火を消そうとバケツを持って奔走する人々。それらを横目に、私には何ができるのかを考えていた。

 

 私は魔術師だ。しかし、使える魔法は火の魔法だけ。そんなものを使ってはまさしく火に油を注ぐようなものだ。それにさっきの戦闘からMPを回復していない。私にできることはないのかと頭を悩ませている時、私の左手が急に光り出した。思わず目を閉じ、光が消えたのを確認した後、目を開けてみると、目の前には1人の女性が立っていた。

 

 それは、マスターがマスターたる所以であり、このゲームの最大の売り。『無限の可能性』を秘めた自分の分身。即ち、<エンブリオ>

 

「私なら、目の前の『悲劇』を救ってあげられるわ。さあ、(あなた)の力を使って」

 

 言われるがまま、私は今し方手に入れたばかりのエンブリオのスキルを使う。すると、目の前の家の火は消え、私はMPが回復しているのを見た。

 

 私は、人を救えたのだ。その考えが私の心を安堵で満たした。

 

「良かったわね、マスター。改めて自己紹介させてちょうだい?」

 

 私は、私のエンブリオに体を向けた。

 

「私の名前は、カグツチ。タイプ:メイデンwithテリトリーのエンブリオよ。これからよろしくね、マスター」

 

「よろしく、カグツチ。私のエンブリオ」

 

 

 

 

 

 

 この力があれば、どんな『悲劇』だって救える。この世界に生きる人々を守ることができる。このときの私は無邪気にもそう思っていた。

 

 しかし、私は『二度』救えなかった。この王都を守れなかった。

 

 でも、今度こそは絶対に救ってみせる。そのために私はここアルター王国に()()()()()のだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




少し早いですが、次回からは原作三巻の内容に当たる「超級激突」へと入って行きます。主人公の過去などは追々記していくつもりです。
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