黄金獅子はもういない   作:夜叉五郎

7 / 25
侯爵編

<宇宙暦795年/帝国暦486年3月>

 

 ヴェレファング・フォン・クロプシュトック二十四歳。

 ゴールデンバウム朝銀河帝国軍における階級は大将。

 

 クロプシュトック侯爵家当主のウィルヘルムは、孫のヴェルの銀河帝国軍内での栄達を我が事のように喜んでいた。

 クロプシュトック侯爵家復権の日も近いとウキウキのウィルヘルム。

 その様子からヴェルはクロプシュトック事件発生の恐れはもう無くなったと踏んでいた。

 

 だが、運命の悪戯かクロプシュトック事件が起こるはずのブラウンシュヴァイク公主催のエリザベート嬢の誕生パーティの当日、なんとそのウィルヘルムが心臓発作で急死してしまう。

 急遽ヴェルはクロプシュトック侯爵位を継承せねばならなくなった。

 

 参内してフリードリヒ四世に拝謁するヴェル。

 爵位の継承と共に、当代の銀河皇帝の鶴の一声でヴェルに婚約者があてがわれる事になる。

 宰相代理のリヒテンラーデ侯に相手は誰が良いか相談するフリードリヒ四世。

 リヒテンラーデ侯は帝国貴族内でも非主流派であるマリーンドルフ伯爵家令嬢のヒルデガルド(十八歳)を推挙し、皇帝がそれを受け入れた為、婚約が決定する。

 予想外の展開に驚くヴェルであったが、その決定を断るにはまだ力が足りず、謹んで受け入れざるを得なかった。

 

 婚儀を上げる前に予め愛人との関係を清算しておくよう釘を刺してくるリヒテンラーデ侯。

 暗にアンネローゼの事を仄めかしていた。

 皇帝自らが斡旋した由緒正しい名家同士の婚姻である為、当然の措置であろう。

 これはフリードリッヒ四世の古くからの廷臣たちが仕掛けた、慶事とかこつけての陰湿な嫌がらせであった。

 

 ブラウンシュヴァイク公を初めとする廷臣たちは、クロプシュトック侯爵家を未だに許してはいなかった。

 そのクロプシュトック侯爵家の小せがれが、軍功を重ねて一気に帝国軍大将まで駆け上り、軍部内で威勢を振るい始めている。

 ヘルクスハイマー伯爵の一件もあって流石に看過出来ず、ブラウンシュヴァイク公は己の配下であるアントン・フェルナー大佐にヴェルの身辺を洗うよう命じていた。

 フェルナー大佐はヴェルの愛妾のアンネローゼの事も調べ上げ、コルヴィッツにもヒアリングを行い、主君に報告を上げる。

 

 クロプシュトック家の忌々しい黒蛇が、陛下の後宮に入るはずだったアンネローゼを横取りし、手元に置き続けてひたすら寵愛している。

 まるで陛下に当て付けているようではないか!と憤る廷臣たち。

 彼らは合法的にヴェルとアンネローゼの仲を裂こうと、皇帝を巻き込んで謀略を仕掛けてきたのである。

 ちなみに発案者はブラウンシュヴァイク公の甥のフレーゲル男爵である。

 フレーゲル男爵個人は「平民腹のエセ貴族には、騎士階級出の貧乏女程度がお似合いだ」と考えており、逆にヴェルには感謝して貰いたいくらいだと嘯く始末であった。

 

 己の治世を諦観していたフリードリッヒ四世は、廷臣たちのその目論見についても黙認する。

 愛しい妾との仲を引き裂かれ、ヘイトを溜めた若きヴェルが銀河帝国を滅ぼすのなら、それもまた良しのスタンスを取る。

 原作知識によりフリードリヒ四世のその考えはヴェルも重々承知な為、あえて逆らおうとしなかった。

 こうしてヴェルのクロプシュトック侯爵叙任と共に、ヴェルのヒルデガルドとの婚約が正式に発表される。

 結婚はヒルデガルドが成人する二年後に定められた。

 

 正式に侯爵に叙任したヴェルは、アンネローゼの事はひとまず置き、自領の富国強兵策を推進する。

 革新派・開明派のカール・ブラッケとオイゲン・リヒターの両名を招聘し、自領内の各種制度の見直しに着手させる。

 また父祖の代から伝わる貴重なゴールデンバウム王朝に関する美術品や肖像画についても、高値が付いている今の内に片っ端から売り払ってしまうヴェル。

 祖父のウィルヘルムがこよなく愛したルドルフ大帝の肖像画も例外では無かった。

 そうして得た資金を基に、古のワイゲルト砲の復活や、巨大な氷塊にバサード・ラム・ジェット・エンジンを装着して作成する質量兵器の建造を目論み、大量の技術者を領内で雇い入れ始めた。

 

 

 

 

 

<宇宙暦795年/帝国暦486年4月>

 

 ヴェレファング・フォン・クロプシュトック二十四歳。

 ゴールデンバウム朝銀河帝国軍における階級は大将。

 爵位は侯爵。

 

 どうやらこの世界はアニメOVA版準拠だったようで、クロプシュトック侯爵家とは別の地方貴族が反乱を起こしていた。

 軍部内での階級を上げる良い機会と捉えたのか、ブラウンシュヴァイク公自らが鎮圧艦隊を率いて、その制圧に乗り出す。

 しかし、占領地で無法を働いた自分の縁者を技術顧問のウォルフガング・ミッターマイヤー少将(二十七歳)が勝手に処罰して銃殺してしまった為、ブラウンシュヴァイク公は大激怒。

 ミッターマイヤーが拘束されるに及び、原作でラインハルトに助けを求めたのと同様に、親友のオスカー・フォン・ロイエンタール少将(二十八歳)がヴェルを訪ねてクロップシュトック侯爵邸の門扉を叩く。

 

 ラインハルトとは異なり、ヴェルには己にミッターマイヤーとロイエンタールの両将を御すだけの才幹が無い事は重々承知している。

 それでもあえて二人の忠誠を買う事を決断。

 ヒルデガルドと結婚してもアンネローゼを手元に留めおくには、ラインハルトと同じ覇道を進むのが一番手っ取り早いと気付いたのである。

 二年以内に他の貴族たちを黙らすだけの巨大な権力を手に入れると決意したヴェルは、自らミッターマイヤー救出の場に乗り込んで行く。

 そしてフレーゲル男爵と対峙し、ブラウンシュヴァイク公との敵対姿勢を明らかにした。

 

 尚、ブラウンシュヴァイク公配下のアンスバッハ准将の機転により、一旦は激突は回避される。

 ミッターマイヤーの身柄は無事解放され、ヴェルに忠誠が捧げられた。

 

 後に帝国の三矢と呼称されるシューマッハ、ミッターマイヤー、ロイエンタールの三人が初めてヴェルの下に集った瞬間であった。

 これでクロプシュトック陣営は大幅に強化され、ヴェルの野望の実現性は一段と高まった。

 

 

 

 

<宇宙暦795年/帝国暦486年5月>

 

 ヴェレファング・フォン・クロプシュトック二十四歳。

 ゴールデンバウム朝銀河帝国軍における階級は大将。

 爵位は侯爵。

 

 雨の中、先のクロプシュトック侯爵ウィルヘルムの葬儀が行われる。

 

 ヴェルのヒルデガルドとの婚約を受けて、周囲のプレッシャーが強まっていた。

 空気を読んだアンネローゼは自ら身を引こうとする。

 葬儀に参列してお世話になった亡きウィルヘルムの御霊を弔った後、アンネローゼは一人クロプシュトック侯爵邸を離れた。

 

 ヴァレリーからの連絡を受けて、姿を晦ましたアンネローゼを探して走るヴェル。

 無事発見してその身柄を確保するも、ヴェルに抱きしめられたアンネローゼはその場で嘔吐。

 ヴェルと共にその場に駆けつけていたヴァレリーがアンネローゼを介抱し、悪阻である事を見抜く。

 アンネローゼの懐妊が発覚した。

 

 身重となったアンネローゼはクロプシュトック家にてより丁重に扱われるようになる。

 ヴェルがアンネローゼを手放せなくなった理由がまた一つ増えてしまった。

 

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。