星は明るく花は尊し   作:楠富 つかさ

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#4

 寝付きが良くて、寝起きが悪く、序に言えば態度も悪い。………………いや、女の子好きなだけで不良とかそういうわけじゃないんだけど……………………

 

「うむむむむ………………」

 

 一人、おふとんの中で唸る。ボディーブローされてるような『痛み』とは別の、痛みですら無い何かに唸る。何かでうなされる。起きてるのにうなされるとは一体。でも、強いのがきた中で教室の喧騒と無駄口に包まれる状態だった数日前よりかは、風邪の今の方が幾分か楽だった。起きてうなされる方が楽なわけで。楽なので頭も働いてしまうわけで。頭重いのに。ああもう。まったく。

 

「……………………むぐぐ」

 

 コロコロ転がればぐわんぐわんと鐘が鳴るなり法隆寺状態の、響く痛みが頭を襲う。かと言ってじっとしていれば鉄板で蒸し焼きにされてるかのごとく高熱でほだされ、だからと言ってパジャマを脱いだら昨日の二の舞、三の舞。やけくそでいっそお布団無しなんてのも思いつくが、風邪をひいてる身で自殺行為なので流石にやらない。やったら尊に今度こそ呆れ返られ放置プレイされる。……………………それもいっそ新たな境地に目覚めるのかもしれないけど、如何に女の子好きだからって、その気は今のところ無い。それに、やるなら相手は…………………………

 

「……………………うう」

 

 ころんもふっ。ずきずき。このずきずきが何時もとは違う症状なので、文姉は呼んでない。むしろ今は一人がいい。例の重いやつなら感染りはしないけど、こっちは万人共通事項なのだ。文姉に感染ったら私が居たたまれなくなる。まぁ正確には、アレももらい伝染りする事もままあるんだけど、それは側に四六時中居るならば、というお話で。詰まる所、結局体調不良とはそういうモノで、一人で治すのが理にかなっている。そしてそれが自業自得ならば尚の事連絡なんか出来やしない。………………しかし、それに加えて変な熱が加わっているせいで、一般の風邪よりもタチが悪い熱を帯びてしまっている。やつ当たる対象がいるからこそこんな変な思考になってしまっているのかもしれない。普段の私なら、こんなこと、ないのに。

 

(ううん………………)

 

 裸を見られるくらいなんてこと無い。お風呂で一杯見られてきたんだし。今までも、今も、そしてこれから先も。

 でも、なんだろうか、このもやもやは。ズシンとくる身体と頭の重みと熱と、加えてもやもやが渦巻いて。重いアレが来てないだけマシかもしれない。

 

「お姉ちゃんのとは別……………………?」

 

 ころんもふっ。ずきずきずきずき。好きなのか好ましいのかはたまた友人として知人として好きなのか。尊はどうも、そこら辺で私の中では少し特別になりつつある。そんな存在だからこそ、裸を見られたのが、触れられたのが、果たして双方どういう意味になるのか、そこらあたりを考えると………………

 

(うーーーーーーーーーーーん)

 

 ぷすぷす。ぐるぐる。ころんころんもふばさもふっ。ずきずきずきずき。それは、恥ずかしくもあり悔しくもあり。風邪で伏せっているとはいえ、生まれたままの姿を見てもなんにも感じてもらえず無防備でも襲われず変なこともされず。信頼の証なわけなのだけれど、なんか、悔しいと思ってしまう気持ちが欠片もないと言えば、残念ながら嘘になる。けれど、同居者に犯罪を期待するというのは土台おかしな話。うん。おかしいんだ。おかしいんだけれど………………でも、本当に何もされなかったわけじゃないからこそ、気になってしまう。

 

「なんでブラだけ」

 

 首を傾げてパジャマの袖をぷらぷらぱたぱた。このパジャマは彼女が着替えさせてくれたもの。確かにつけるのめんどいし、寝そべったままの私じゃつけにくいし起こさないとつけられないしで、その際に私の目が覚めたらたぶん殴ってると思うし。通報するし。お姉ちゃん呼ぶし。それを考えると、彼女がブラつけだけしなかったのは言葉通り納得できる。彼女ががさつでめんどいのを極力避けたがる傾向なのは、短い付き合いながらも私も大凡は把握している。

 

「だからほんと、なんでブラだけ?」

 

 だからこそ、生まれる疑問。いう事聞かずにぐーすか寝てた私なんだから、めんどいのを嫌う彼女ならお布団をぽいぽい乗っけてしまう方が、幾分も彼女らしかった。一分もかからない布団追加よりも時間をかけて服を着せる、という行為自体、どうにも彼女らしくない。と同時に、友人思いでもある彼女らしくもあり。と、納得しかけるところではあるものの、わざわざ袖を通したりショーツまでやっておきながら、そこまでやっといてブラだけスルーというのは画竜点睛を欠く。もうショーツの時点で恥ずかしいんだからここまで着せるなら最後まできちっと着せるとは思うんだけど……がさつだからって今更なんでブラだけ遠慮したんだろ……胸の大きさの余裕的な何かかな………………どうせちっちゃいよ、ふんだ。

 

「……………………」

 

 そこで、遠慮が生まれた理由を考える。行きつくところは……彼女も少し、私を、何かしら意識したのかもしれない……? とか?

 

「まさかね」

 

 自惚れめいた何かに繋がるソレを、ないないと首を振って即座に否定。否定しつつも、今後裸を見られる機会は幾らでもあるわけで。そも、お風呂で一杯お互い見られてきたんだし。今更ブラつけるのを遠慮するというのも変なお話なので、またぐるぐると疑問が渦巻く。まぁ纏めてしまうと、変なことが起きました、以上、という結論なんだけど。……あんまり納得はできてないんだけど……頭痛いし重いし、今はいいや…………治ってから考えよ…………文姉に相談……は、この前の根掘り葉掘り事件を考えたら躊躇われる。

 

「…………う…………ココア入れてこよ……………………」

 

 のそりともぞりと這い出てのたのた。重いアレが来てないだけマシかもしれないと、さっきは前向きに考えたかったが、この後何時か、アレの痛みがこれに重なるかもしれない恐怖を考えたら、さっさと来てほしくもあった。詰まる所、結局体調不良とはそういうモノで、一人で治すのが理にかなっている。そしてそれが自業自得ならば尚の事。

 

「尊は…………………なんだろう」

 

 まだよくわからない彼女。そしてそれは、私にも言えた。そうしてそれらを纏めるには、今の私は弱り過ぎ。一先ず共同キッチンへここあここあとのたのたと。甘くて暖かいものを頂いて、ゆっくりしっかり休んでおこう。

 

―――――――――――――――――――

―――――――――――――――――――

 

「あら、安栗じゃない?」

「え? あれ? 先生!?」

 

 キッチンには白井先生ともうひとり学生がいた。しょっちゅうお世話になる保険医の先生を保健室以外で見るのはなんだか新鮮。そのお隣からは、くしゅんと可愛らしいくしゃみが時折鳴り響く。

 

「……大分弱っているのね。橋本も安栗も」

「…………う……………………はい……………………」

「ずずっ……うぐー……」

 

 素直に肯定・保健室に行けないくらいの症状で。その上でアレを上乗せされたらと思うと、気絶も視野に入るくらいには、今の体調は悪い。

 

「分かった、丁度いいし、安栗のも作るわ」

「えっでっでも」

「んぇ~? 先生? このコは………………?」

「一年の安栗明梨、お前と同学年だな」

「そーなんだぁ」

 

 にょこっと先生越しに顔を出して、引っ込めたその人は、同い年らしい。ちょっと顔を抑えていたのが印象的だった。

 

「はじめましてーあたしは二組の橋本梢って言うの、よろひ……っくしゅん!!」

「わわっ!? だ、大丈夫です!?」

「ダメー」

 

 ダメらしい。………………まぁダメだから白井先生と一緒にいるんだろうし授業出てないんだろうし………………ダメ仲間としてちょっと心配だ。誰がダメだ。

 

「橋本は………………これくらいでいい?」

「うんーわざわざありがとーせんせー」

「いいのいいの。これから三年付き合うんだから、早目に知れて助かるわ」

 

 こぽこぽと煮立ったソレを、慣れた手付きで水筒ややかんに次々注いで持っていく橋本さん。

 

「ええと、安栗さん? だっけ? ではではお先にぃ………………っくしゅん!!」

「わわわっ!?」

 

 そうして大量の飲料を持って、ごめんね~また今度~と言いながら、くしゃみをしながら彼女は出ていった。顔を抑えていたのでどんな顔かよく判らなかったけど、涙目で赤かった。相当にひどいみたい。

 

「重度の花粉症らしくてね」

「かふんしょう」

「なんでもれんこんの戻し汁が効くらしいの」

「そ、そうなんですか……」

 

 何かを煮込んでいると思えば、輪切りれんこんが沢山大鍋に入っていた。僅かに残っている紫がかったピンク色のそれは、一見すると………………

 

「…………なんだか、魔女の大鎌みたい……………………」

「魔女よろしく、味もそんなものだわ?」

 

 飲んで見る? と勧められて、少しだけ飲んでみるものの………………

 

「うぇっ」

「ふふふ、そう。土の味みたいでしょう」

 

 うにぇーと流しでぺっぺする私に苦笑い、今度はミネラルウォーターを寄越してくれた。

 

「こ、こんなのが………………効くんですか?」

「勿論。まぁ不味いのは認めるわ」

 

 睨みながらも尋ねるものの、医者でもある先生がわざわざやっているんだから、当然効果はあるとのお答えで。でもこれは………………治る半面確実に気持ち悪くなる。なった。なんてもの飲ませたんだ。花粉症でもなければこの液体は飲みたくはないなぁ……

 

「所謂ポリフェノールってやつね」

「へぇ……………………あ…………」

「うん、このココアにも入ってる」

「そ、そうなんだ……………………」

 

 お隣でココア用のミルクを温めている先生は、パタパタと手際よく紅茶もついでにと入れていく。紅茶はこの先生の代名詞でもあるらしい。

 

「だから、もしかしたら、安栗のそれの症状も、ポリフェノールで改善される可能性もあるしね」

「う、うーーん……………………」

 

 だから飲ませてみたとの事。語りながらもその手は丁寧にくるくるくるりとミルクを混ぜて、少しづつココアに入れていく。丁寧かつ淀みないそれは、白衣を着ているせいもあって、なんだか実験液体にも見えてきてしまう。先入観とか見た目ってすごいなぁなどと、自分の飲み物なのになんだか他人事のように感じていた。

 

「重いのは、辛いでしょう?」

「………………………………はい………………」

 

 さておき、確かに花粉症以外で考えれば、私にも効果はあるのかも知れない。先生の言う通り、ここまで重いソレは、他の人にはない傾向だった。でもココアがスキなのは、暖かくて甘くて美味しくて、なので、残念ながら甘くなくて美味しくないポリフェノール特化の液体はご遠慮しておくことにした。効果が劇的にでもあるなら別だけれど……それで毎回吐き気をもよおすのであれば気持ち悪さAが気持ち悪さBに変わっただけになってしまう。……橋本さん何時もこんなのを飲んでいるのか……と思うと、強いなぁと思ってしまうと同時に、花粉症怖いなぁとも思ってしまう。どうか私は発症しませんとように一つ祈ってみたりもする。

 

「はい、出来たわ」

「すみませんありがとうございます………………」

「薬も大事だけど、好きなものを摂取するのもまた大事だから、いいのよ」

「………………はいっ」

 

 私の態度に、何かをに満足したらしい先生は、クスリと微笑みそのまま部屋まで送ってくれた。文姉にも言われた通り、安静にしていないと倒れてしまう。それで何度も文姉に迷惑かけてしまっていた。ちょっとだけ賢くなって、ちょっとだけ知り合いを増やして、ちょっとだけ先生にも触れて、今日の私の授業は終わりにしよう。ずっしり重い身体で動くのは、考えるのは、やはり疲れてしまうから。ゆっくり安静に身体を癒やしなさい、との言葉を頂き、閉じた部屋で一人ころりと寝そべって。天井見上げてまぶたを閉じて、時折ココアをずずっと飲んで、自身を心身ともに癒す。今日の宿題はさしずめこんなところだろう。

 

 心、の方の目処は全然たっていないけれど、ね。

 




なめなめたけたけせんせーからブラジャーのパスがっ!!(きゃっち) きゃっちしたらへんたいじゃないですかどういうことですか。
さておき、こうしてお話を繋ぐのは中々に楽しいですね。まだまだ知り合って間もない二人。双方の心情如何に、何処へ向かいましょうか。そこは、後ろへパスなのです。
企画に感謝です。
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