清けき夏の夢のごとし   作:楠富 つかさ

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#1

私には、嫌いなものが二つある。

一つはオバケ。特に真夜中にふわふわ浮いてるような、よく分からないのが一番怖い。………………実は一回だけホンモノっぽいのを見ちゃったことがあって、その後一週間ぐらいは夜に寮の廊下を出歩けなかった………………

二つ目は、お水。………………いや、飲むほうじゃなくて、入る方。特に顔が水で濡れるのがほんとに嫌で、そのせいでお風呂もざっと洗うだけ。………………なのに、

 

「なんで林間学校なんてあるのぉ………………?」

「ふっ、沙弥には地獄かもな」

 

横でアップをしていた夏芽ちゃんが他人事のように笑う。

 

「もう、夏芽ちゃんは薄情なんだからぁ」

「薄情ぅ? あたしがが?」

「薄情だよぉ。………………あーあ、夏芽ちゃんはいいなぁ。私よりちょこっと大きいし、それにすいすい泳げそうだし………………」

「ちょこっとって………………沙弥とそんなに変わんないはず、だろ………………」

 

夏芽ちゃんが自分の胸を押さえる。

 

「いや、身長のお話だから」

「あ、そっちか」

 

夏芽ちゃんが「んぅっ」と背伸びをする。

 

「………………こうやると、身長にいいんだって」

「あ、それ私もやろっと」

 

んー、と思いっきり背伸びをしてみる。………………む、むむ? ちょこっとだけ伸びたかも?

 

「どうよ、なんだか伸びた気がするだろ? 」

 

夏芽ちゃんは自慢げに胸を張………………ってるつもりなんだろうけど、腰の体操にしか見えなくて、

 

「お、背伸ばし? それなら背中合わせでやった方がいいんじゃないか?」

 

先にアップを終えていた有里紗先輩が、ひょこっと首を突っ込んでくる。

 

「背中合わせ………………こう、ですか?」

 

夏芽ちゃんと手の甲を合わせて指を絡めて、そのまま、よっ、と背負う。

 

「うわぁっ!? ちょっ、沙弥っ、いきなりはやめろって!?」

「んぅぅ………………夏芽ちゃん、おも」

「重くねぇよっ!?」

 

深く背負いすぎたせいで、足がぷるぷる震えて今にも夏芽ちゃんをおっことしそうになる。

 

「せ、せんぱっ、たすけてっ」

「あーもう、しょうがないなぁ………………」

 

有里紗先輩に引っ張ってもらって、なんとか夏芽ちゃんを下ろす。

 

「お、重かったぁ………………夏芽ちゃん、これさぁ………………逆にやってあげる人の身長に悪いんじゃない………………?」

「………………………………あ、確かに」

「なーんだ、やっぱり二人共身長のこと気にしてたのか。心配しなくたってそのうち伸びるから安心しなって」

「元からおっきい有里紗先輩に言われても………………」

「ん、そうか? でも夏芽は心配ないと思うぞ? あたしだって座右の銘は焼肉定食だーって宣言するぐらい肉好きだけどここまで伸びたし」

「じゃ、じゃあ私はどうなるんですかっ!?」

「んー………………………………沙弥はもうそのまんまでいいよ、マスコットに丁度いいから」

「それが嫌なんですよぉ………………」

「………………わかったよ、それなら伸ばしてやるから、向こう向いて?」

 

言われた通りにすると、手首を掴まれてそのまま背中に背負われる。

 

「よし今だ夏芽っ、くすぐってやれっ」

「ええっ!?」

「沙弥ごめんな、有里紗先輩の命令だから」

「なんか嬉しそうなんだけどっ!? う、うひゃっ、そこはくすぐったいっ」

「いいぞもっとやれーっ、沙弥のことほぐしてやれー」

「あ、有里紗先輩っ、下ろしてぇ………………」

 

じたばたともがくけれど、有里紗先輩は一向に下ろしてくれない。

 

「夏芽ー、今度は足引っ張ってやれ」

「ええー、じたばたしてるから無理ですよー」

「ちぇっ、ならいいか」

 

そう言うと、すとんと私のことを地面に下ろす。

 

「もうっ!! 何するんですか先輩っ!?」

「ごめんごめん。でも、少し身体がほぐれた気がしない? 」

「………………あ、ほんとだ………………」

 

それに、身長がちょこっと伸びたような気もする。

 

「だろ? 大体夏芽も沙弥も力入りすぎなんだよ、もっと自然な身体の使い方しないとケガするよ?」

「………………わかりました………………」

 

力が入りすぎ、か。確かに私はみんなよりもちっちゃい分頑張らないとって、空回りしてるとこもあるかもしれないなぁ………………

 

「………………沙弥? 」

「………………あぁっ、ごめん………………なぁに、夏芽ちゃん?」

「いや、ボーッとしてたから………………それより、バレー部の人がグラウンド使いに来たから、いっそ合同練習にするってさ」

「う、うん………………分かった」

 

 

 

「あ゛ー、づかれたー」

 

夏芽ちゃんと二人して、部屋のベッドにぐでーっと転がる。

 

「………………由輝先輩はバレー部のおっきな人と追いかけっこし始めるし、志乃先輩は向こうの部長さんのことじーっと見てて有里紗先輩が拗ねるし………………」

「こっちはこっちでクラスメイトに鼻で笑われたし………………瀬良のやつ明日覚えとけよ………………」

 

ぐでーっとしたまま夏芽ちゃんが吠える。

 

「どうする? お風呂行く?」

「んー………………まだいい………………」

「そっか……………」

 

夏芽ちゃんの答えにちょこっと不満を覚えつつ、私はりんりん学校のプリントを眺める。

 

(海………………水がたくさん………………お、泳ぎのテストとかはないよね? )

「………………なーに沙弥、まだ悩んでんの? そんなに嫌なら行かなくてもいいのに。どうせ自由参加なんだし」

「んー、でも、どうせなら言ってみたいかなーって感じ………………泳ぎたくないけど」

「いやどっちだよ………………」

 

ふうっと一つ息を吐いて、

 

「………………行かないって言い張ってるやつは周りにいないのか?」

「んー………………茉莉花、っても分からないか。獅子倉さんは猛反対してたと思ったよ」

「ほー、あのチャラいあいつか。………………あいつがなぁ………………」

「え、知ってるの? 」

「時々うちのクラスに来ては汐音にこてんぱんにされてっからな………………」

「………………?」

 

なんだかよく分かんないけど、大変そう………………

 

「………………さて、とっ。沙弥、そろそろ風呂行こっか。なんだか腹減ってきたけど、この時間だと食堂混んでそうだし………………」

「あ、待って、お風呂の用意するからっ」

 

もやもやを抱っこしたままお風呂の準備をする。………………水が怖い私にとっては、お風呂もけっこう勇気が要るんだけど………………少なくともプールよりはマシだからってガマンしてる。

 

「沙弥、早くしろよっ」

「あ、待ってよぉっ」

 

お風呂セットを抱っこして、慌てて夏芽ちゃんのあとを追いかけた。

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