清けき夏の夢のごとし   作:楠富 つかさ

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 最初は、苦手だったな、夏芽ちゃんのことも。その辺の男の子より男の子みたいで、豪快すぎて、そのまま取って食べられちゃうんじゃないかって。そんな人がルームメイトで、部活も同じ陸上部で、しかも種目も同じだって聞いたときには、げんなりしてたっけ。

 それでも、話してみると、ちょっとガサツで不器用なだけで、優しい子なんだって気づいて、ほっとしたんだよね。私のこと、嫌いじゃないってわかって。

 

「全く、いっつも風呂入るの躊躇するんだからさ、おかげで混む前に入れないじゃないか」

「ごめん、……そこまで言うなら、私と別々に入ればいいのに」

「こんなんだとずっと入らなさそうだから、見てやんないと不安なんだよ、いっぱい走ってるから汗もかくし」

「さすがにシャワーも浴びないなんてことないからねっ!?」

 

 言葉は相変わらずそっけない、というより失礼だけれど、ぽんぽんって背中を叩く感覚から、優しさが伝わってくるような。他の人は、こんなとこなんて知らないんだろうな。優越感に、胸の奥でほんのちょこっとだけ光が差す。

 

「わかってるわかってる、とりあえず行くか」

「うん、わかってる……って全然分かってないでしょっ!?」

 

 誰も知らないとこがあっても、やっぱり夏芽ちゃんは夏芽ちゃんのまま。さりげなく差し出された手に手を重ねると、きつく握りしめられる。

 

「あーもう、早くするぞ?」

「う、うん、だからそんなに握らないで……っ」

 

 そのまま、早歩きで浴場まで。背も近いし、お互い足には自信があるからそこまでついていくのは苦労しないけど、なんかためらってしまう。……こんなの見られたら、なんか恥ずかしいような気がするから。

 でも、私一人だったら、地平線の向こうまで行くんじゃないかってくらいに、果てしなく感じるんだろうな。二人でいるから、あっという間になっていく。……って、何考えてるんだろう。

 まだ人がまばらな脱衣所で、隣合わせの籠に服をしまう。生まれたままの姿で、相変わらず恵まれているとはいえないスタイルを慰め合うような視線。きっといつか大きくなるもん、……多分。

 

「ったく、とろとろしてると混むんだからな?」

「急かさないでって言ってるのに……っ」

 

 お風呂に入るときも、また手を繋がれる。今度は、周りに人だっているのに、恥ずかしいの、わかってよ。……それも、なぜか嫌じゃないっていうのが、もやもやする。

 何したいのかな、今日は、私だけ変になっちゃってる感じ。理由すらも、全然わからない。

 引っ張られるがままに洗い場に連れてかれて、シャワーも渋々浴びる。水に打ち付けられるのも、本当は嫌でしょうがないけど、さすがにそんなにまで避けてたらまともに生活できない。

 少しは、慣れてきたけれど、やっぱり、シャワーを出す瞬間は、体がすくむ。冷たい水のときは、特に。小さいときの恐怖が、蘇ってきそうで。

 流しっぱにするのは行儀がわるいけど、そんなんでいちいち寿命を縮めたくない。なるべく手身近に済ませると、まだ夏芽ちゃんはシャワーを浴びたまま。

 

「相変わらずはえーよな、ちゃんと洗ってるのか不安になるくらい」

「ちゃんとやってるって、人をフケツみたいに言わないでよ」

「悪い悪い、ほら、湯舟浸かるんだろ?」

「ええ、いいって……」

 

 身じろぎする私を、無理やり引きずる夏芽ちゃん。仲良くなれば優しいのは知ってるけど、いっつも強引すぎるんだよ、もう。

 

「だーめ、まだ汗臭いぞ?」

「そ、それなら、仕方ないなぁ……」

 

 手に跡がついちゃいそうなくらい引きずられて、周りの視線もいつのまにか私たちをちらちらと見始めているように見える。騒がしくしてるから当たり前だけど、なんでか、それ以上の意味すら見えてくるような好奇の雰囲気が見える。

 私たちには縁遠い話ではあるけれど、星花だと、女子校だけれど、生徒同士の色恋沙汰が絶えないという話はちらほらと聞く。近い話だと、志乃先輩と有里紗先輩が付き合ってるっていうし、今の生徒会長の御津先輩はその二つ前の会長にプロポーズされて付き合ったっていうのも聞いたことがある。そのせいなのかな、私たちを見る目線に、冷やかしのようなものが混じってる感じがするのは。

 別に、そんなんじゃないのにね。心の中で夏芽ちゃんに訪ねて、少しだけ胸の中で雲が湧く。そういうつもりでもないのに、なんでかな。

 

「ほら、入るぞ」

「えっ、あ、うん……」

 

 ゆらゆらと揺れる水面に、体が勝手に拒否反応を示す。体が固まって、一歩も動けそうにない。いつかの記憶は、突然蘇ってきては、私を動けなくしてしまう。

 

「どうしたんだ、急に」

「ごめん……、ちょっと、怖くなって」

「しょうがないな、全く……」

 

 高校に入ってからも、こういうことはそれなりにあって、最初にあったときに、事情はあらかた話させられた。急に後ろに回った夏芽ちゃんは、いきなりお腹に手を回す。

 

「な、何……?」

「これなら、怖くないだろ?」

 

 そう言って、ざぶざぶとお湯に入れさせる。確かに、さっきよりは怖くないけど……、胸の奥が、なぜか高く鳴る。背中越しに、伝わってしまうんじゃないかってくらい。

 お湯もそこまで得意じゃないけど、別の意味でのぼせちゃいそう。

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