ヒャンタのオレンジ味で喉を潤したあと、あたしは外で待っていた沙弥《さや》と合流して、食堂に入った。
食堂は一番の繁盛どころは過ぎているが、それでも人は多い。りんりん(林間&臨海)学校のイベントが迫りつつあるということで、会話の内容は必然的にそれについて盛り上がっていた。あたしたちも例外ではない。互いに好物をそれぞれ注文すると、二人がけのテーブルに向き合い、さっそく会話に華を咲かせた。
「ところで夏芽《なつめ》ちゃんはりんりん学校、海と山、どっち行くの?」
「……山、だな」
そう、あたしは答えた。緊張を呑み込んだのを何とかさとられないようにしながら。
傍目にも沙弥が安堵しているようだった。
「よかったあ。……海なんて言ったらどうしてくれようかと思ったわ」
爽やかな笑みである。だが、本当に海と答えた際の怨恨は底知れぬレベルであったに違いない。
別にあたしは、その底意に屈したわけではない。だが、心から山に行きたいかと言えば嘘になる。
実は、あたしはりんりん学校の最初の希望を海と答えていたのだった。これがあたしの正直さに基づいた回答だった。海は好きだし、泳いだりマリンスポーツをしたいという欲求もあるのだった。
だが、あたしの願いは沙弥の希望と真っ向から正対するものだった。海どころか風呂に浸かるのにも難儀するほどの水嫌いの沙弥である。同行なんてしてくれるはずもない。
そもそも、一緒に行動するということ自体、強制というものではなかった。あたしたちが一緒になれる企画は他にもあるし、あたしも沙弥にもそれぞれ友人がいて、そちらとつるんでもいいはずであった。
だが、どちらも別行動をとろう、と口にすることはなかった。暗黙の了解……というほど、あたしには自信がなかったが、どうやら反応を見るに、沙弥もあたしと離れ離れになるつもりはさらさらなさそうである。それはルームメイトどうしだからか、陸上部の同じ種目のものどうしだからか。よくわからないが、絶対に海行きを容認できない彼女に比べて、あたしのわがままはまだ譲渡の余裕がありそうだった。
そう思って、先公《センコー》にこっそり頼んで希望を変えてもらったわけだが……。
「……夏芽ちゃん?」
心配そうに、そのルームメイトに呼びかけられる。あたしは我に返った。
「悪《わり》ィ、夏バテしてた」
「冗談は相変わらずだけど、完全に手が止まってたからね。……何かあった?」
あったとしても、言えるわけがない。沙弥の笑顔を守り通すために、あたしも笑みを取り繕った。
「なんでもねぇよ。さっさと飯《メシ》を済ませちまおう」
不自然にがっつき始めるあたしに、沙弥は呆気にとられながらも再び食事に取りかかった。