「ここも外れかあ」
尾白猿夫はじれていた。
花の夏休みだ。小学五年。別に受験を気にするわけでもない。気になる子がいるとかそういうわけでもない。特に逼迫した状況など今の彼には存在しない。
だが、それでも彼の感情を何かと問えばじれているということになるのだろう。
「多少遠くに行けば、何かあるかもと思ったが―――やっぱないもんだなあ」
事は彼の趣味嗜好に由来する。
彼の趣味は武術だ。空手柔道ボクシング、太極拳に相撲システマ合気道。
様々な武術をビデオで見ては自分でやってみると言ったいうなれば武術オタク。
オタクには『業』がある。飢えのようにその身はひりつき満たさずにはいられない『業』がある。
知識欲、知りたいと思う欲。知ればもっともっとと次をせかす好奇心。
尾白猿夫はそんな好奇心にじらされていたのだ。
地元の図書館は大抵廻った。本屋でも調べてみた。時にはそういう道場などがないかなども探してみた。
見つからないのだ。
ヒーローが書いた戦闘術の本はある。個性別階級戦の格闘技のビデオはある。近所ではご当地ヒーローのそういった講習などもやっている。
見つからないのだ。
個性至上主義の社会において理想は現実になり、現実は過去に置き去られた。
オリンピックは無意味なものとなり、ヒーローやヒーロー候補生の個性の凌ぎ合いに人々の心は奪われるようになった。
――――過去の技術は、過去のものになった。
「型とか衣装とかルールとか・・・そういうのは見つかるんだけどなあ」
最早世界に無個性同士の格闘技など必要なく。故に彼らの名前、『流派』は歴史学や博物館で探した方が多く見つかるという始末。
それらがどういったものなのか、『実践』しているような資料は小学生の身ではどこを探しても見つけることが出来なかった。
地元でダメならと母の里帰りにかこつけて他県についてきたが今の所ぜんぶスカ。
インターネットで調べてみればとも思うが、中学生に上がるまではとまだ使わせてもらえない。
結果彼は知識欲を満たすことが出来ず。
飢えたような満たされていないようなそんなじれた気持ちを持てあましながらぶらぶらと街を歩いているのだ。
ヒーローの技術は刺激的だ。
新しいヒーロー、新しい個性により次々と斬新な驚きを与える極上のエンターテイメント。
そこにはほんのわずか足をズラすとか拳の向きを変えるとかの地味で無個性相手にしか使えない過去の武術は入る余地などなかったのだろう。
武術は駆逐された。スポーツも変化した。すべては過去になった。
だが、尾白猿夫はオタクだった。自分の琴線に触れるものしか好まない拗らせた少年だった。彼はわずかな資料から見つかるそういった地味な武術の技や奥義に魅せられていた。
だがスカだ。
調べたものを見よう見まねでやりながら身体も一緒に鍛えてるものの己の個性は特に強いと言うわけでもなく。
強くなったところでそれで何をするかというモチベーションがあるわけでもない。
このまま中学に上がり、ネットを使えるようになる場合。彼は己のオリジンとなる憧れのヒーローを見つけることになる。
図書館やレンタルビデオではどうにもならない圧倒的な映像と資料の情報量で武術の知識欲は満たされ、その知識を憧れのヒーローに重ね合わせてすり合わせ始めるのだ。
その道でも彼は強くなる。個性の強さを活かして組み込む武術の動きは彼にヒーローを名乗らせる強さを与える事だろう。
だが。
「気分転換でもするか・・・近くにスポーツセンターあったよな・・・」
この話は二次創作である。
「【バトルワールド】っつったっけ?」
話の筋道はふわふわと飛んでいく――――誰の関わりもないままに。
その日、彼はなんかと出会う。