「そんな簡単なことで?いや、それは流石に都合が良すぎないか?」
「そう言いたくなるのは分かる。けどな、それは間違いなんだ。
考えてみてくれ、『素手で戦う』なんて状況がそもそも昔は異常事態なんだ」
「―――なるほど、昔はそれこそ槍とか刀とか銃っていった武器を皆持っていたって言うな。今じゃ個性のサポート程度だけど」
「そう、素手で戦闘する状態ってのが本来のっぴきならない状況に追い込まれているってことであり、
そんな状況に立たされているなら万全とは言い難い」
「つまり、素手で使う技はお手軽簡単でないと意味がない」
「筋は通ってるか・・・なんだっけ、その、八骸?」
「八骸流って言うらしい。
一瞬で八体の骸を作るからだとか・・・まあ平常無敵流みたいなハッタリなんじゃね?」
「なんだその流派?オイそれもうちょっと詳しく――――」
【バトルワールド】の端、フードコーナーにて。
今二人のオタクどもがオタクな会話を繰り広げていた。
事の始まりは尾白猿夫が麗日浮茶雲をバトルワールドにて発見したところから。
何せ浮茶雲は目立つ。チグハグな服装とやたら豪華なファーで悪目立ちしているかのように悪目立つ。
服装もそうだが動きも目立つ。彼がやっている動きは『この世界』ではほぼ失伝しかけている、
あるいはまだ存在しない、
もしくはまだ可能性すら存在しないような動きばかり。
異世界からの転生者がこの世界で無双するために考え抜いた『動き方』の数々だ。
尾白猿夫は武術オタクだ。
小学生にとっては地球よりも価値のある夏休みを武術の研究に費やしてしまう位は武術オタクだ。
小学生にしてはという枕詞こそつくもののその知識はかなりのものと言っていいだろう――――
そんな彼が見たこともないような珍妙奇天烈な、だがところどころで見たこともある体術の数々。
カエルのように伸びあがるアッパーカット。龍魚の跳躍のように弧を描くブロー、∞の軌道を描くラッシュ。突然よそ見。
理にかなってる気もするしまるでトンチンカンな踊りのようにも見えるそれらに尾白猿夫は魅せられた。
自分と同い年に見えるあの少年がどこでそんな技術を知ったのか・・・いや。
『他にどんな技術を知っているのか』、彼はその可能性に魅せられたのだ。
武術オタクの『業』が、ものすごい勢いで回り出し始めた――――
麗日浮茶雲は転生者だ。
赤子の肉体、その脳の記憶容量。
そして一年で倍以上の体躯に変貌する劇的な変態。
それらの激しい環境に耐えきれず人格のほとんどが消滅しほぼ新しい人格となり果てた。
だが転生者であることは変わりがない。彼の脳には転生者が転生者たる由縁、膨大な発想が詰まっている。
その中にはこの世界には存在しえない発想が数多のように存在する。
失われた技術、未だ存在しない技術、可能性すらない技術。
――――何よりも大変なのはその実証である。何せ他に例がない。
参考にするものが何もない。マニュアルになるものが全くないのだ。
それでも一人でできる歩法とか修行法、武装くらいなら何とか実証できる。
問題は武術だ。こればかりはどうしても相手がいる。
ただ拳をぶんぶかやっても本当に記憶通りの効果を示すかどうかは分からない。
とはいえ傍目には頓狂なダンスだ。武術を実践する、研磨する場というものがないこの世界ではそれが限界。
かの有名な雄英高校のようにヒーローの訓練をする場ならこういった武術の相手もいるだろう。この動きを強さに結び付けることもできるだろう。
――――だが、ヒーローを目指す資格を得るにはそもそもにして強さが要る。
強くなるための鍛錬だと言うのに鍛練する場を得るためには強くならなければならないという矛盾。
ああ、贅沢は言わない。せめて組手でもしてくれる相手がいたら――――
こうして二人の少年は巡り合った。過去に存在した、未だに存在しない、まだ可能性すらない技術。
『武術』を再び蘇らせ、新しく誕生させ、異質な進化を遂げさせる二人が巡り合ったのだ。
その結果が何を引き起こすのか。それはまだ、誰も知らない。