Monster Hunter Life Online   作:シュラフ

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飽きていなかったと言えば嘘になる。
だがそんな時のための一話完結方式なのさ。





Quest.4 みさらせクズのハットトリック

 ナメッ○星人騒動から数日。

 俺とろくでなしどもは今日も今日とて酒場にやって来ていた。

 俺は給仕の少女に達人ビールとクック豆の塩茹でを三つ注文し、どかりと席に座る。馴染みのあるその少女……確かカーラだったか、は微妙に何か言いたそうな顔をしたが、結局特に何を言うでもなく去って行った。

 

 席に着いた俺たちは駄弁り始める。

 話題はやはりというか、先日の件のことであった。

 全く、酷い目に遭った。

 

「ははは、俺らも度肝を抜かれたぜ」

「笑いごっちゃねぇよ。こちとらあのまま過ごさなきゃならねぇのかとヒヤヒヤだったんだからな」

 

 かく言う俺の姿は元に戻っている。

 一時はパニックに陥りかけたものの、落ち着いてナイフで喉を突い(死に戻りし)たら元に戻れた。

 もう禿げてはいないし、肌も緑でなければ触角も生えていない。

 

 尚、冷静に自殺を実行した俺にアビゲイルはドン引いていた。

 思えばアビィには悪いことをした。普通に考えて、知り合いが目の前で血を吹き出して自殺するなどトラウマものである。

 冷静になったつもりだったが、やはり焦っていたのか、思慮が足りなかった。後で会ったら謝っておこう。

 

 お前らにも世話をかけたな。人一人の処理は面倒だったろう。

 

「気にすんなよ。街の外に埋めて来るだけの簡単な作業だ」

「おうよ。死体処理なんてバイトで散々やったことだしな。慣れたもんよ」

 

 お前ら……。

 俺は温かい気持ちになった。やはり持つべきものは友だ。会話の内容はこの上なく血生臭いが、そんなことはもはや瑣末なことであった。

 

 そんな時、給仕のカーラがやって来た。

 何故か酒ではなく険しい顔をしたアビゲイルを伴って。

 

 にゃろう、アビィにチクりやがったな。

 普段なら委員長気質の小娘の小言に怯えて縮こまるところだが、今日の俺は一味違う。

 

 おうおう、酒はどうした。酒は。こちとらお客様だぞ。

 俺は先ほどまで考えていた殊勝な考えを忘れ、横柄な態度で硬貨の入った財布をジャラジャラと見せびらかすように振って見せる。

 例の件の報酬金だ。大金を手にした俺は強気だった。

 さあ、酒を持って来い。

 

 しかし小娘は強気な俺にまるで怯まず、更には俺の手から財布を強奪した。

 ああっ、かえしてぼくのおさいふー!

 アビゲイルは岩を落としたクルルヤックの如く弱気になった俺を冷たい目で一瞥し、あろうことか財布の中を勝手に検め始めたではないか。なんて女だ。

 

「……しめて21500z。途中で散財しなかったのは偉いですね」

 

 ですが、とアビゲイルは言葉を区切る。

 

「まだまだ完済には足りません。貴方の生活費などを鑑みて……はい、これぐらいは徴収させていただきます」

 

 そう言って俺の財布を丁寧に返してくるアビゲイル。

 しかし戻って来た財布は痩せ衰え、哀れなほどに軽くなっていた。バッと中身を確認した俺は怒り心頭でアビゲイルに食って掛かる。

 

 やいアビィ。アビゲイルさんよ。

 これはちょっと横暴なんじゃないのか。ギルドガールはいつから業者の取り立て人に成り下がったんだ?

 

「これは正当な権利です。先に不履行を働いたのは貴方ですよピスタチオさん」

 

 何だと?

 キッパリとした物言いに鼻白む俺に、アビゲイルは畳み掛けるように言う。

 

「何だも何もありません! 貴方、この酒場でどれだけツケていると思っているのですか!」

 

 ヴッ!

 痛いところを突かれた俺は弱々しく反論する。

 で、でもよぅ。それはこないだお前から頼まれた落陽草のクエストでチャラなんじゃねぇのかよ。

 しかし俺の言い分は小娘の怒りを買った。

 

「そんなわけないでしょう! あの程度の働きで帳消しに出来たと本当に思っているのですか!」

 

 思わない。

 思わないが、それを正直に認めると何かに負けてしまう気がして、俺は目を逸らして下唇を突き出し仏頂面を作った。

 

「だんまりですか。別にいいでしょう。ただし、今回ばかりは私も容赦するつもりはありません」

 

 俺は高を括った。小娘に何が出来る。

 しかし、内心でせせら笑う俺にアビゲイルが齎したのは死刑宣告にも等しいものであった。

 

「ピスタチオさん、及びカシューさん、インゲンさんからハンターライセンスを剥奪します」

 

 は、はあっ!?

 俺は思わずガタッと椅子を蹴倒して立ち上がる。

 今まで我関せずとばかりに影を薄めていたろくでなしどもも、突然話に巻き込まれたことに驚き目を剥いた。

 

「ア、アビィちゃん! なんで俺らまで!」

「そういうのはタチオだけで充分だろ!」

 

 ろくでなしどもは慌てて口を揃える。その言葉には本音が漏れ出していた。

 お前ら……!

 俺は憎しみを覚えた。やはりこいつらは信用ならない。やはりろくでなしはろくでなしなのだ。俺はそう認識を改めた。

 

 慌てふためく俺たちを冷めた眼差しで見やるアビゲイル。

 

「ギルドは貴方たちのような人間を必要としていません。ランクが低くてもやる気があるのならまだしも、貴方たちは碌にクエストにも行かず昼酒を飲むばかり。しかも代金すらまともに払わない始末」

 

 一呼吸置いて、アビゲイルは言った。

 

「貴方たちはハンターの……いえ、人間のクズです!」

 

 何おう!

 俺たちはいきり立った。正直アビゲイルの言い分にはぐうの音も出なかったが、こんな小娘に言われっぱなしなのはオトナの矜持が許さない。

 

 いいぜ、やってやんよ。見せてやろうじゃねぇか、俺たちの“本気”ってヤツを。

 

「おおよ! リオレウスでも何でも掛かって来やがれってんだ!」

「後で吠え面かいても知らねぇぞ、アビィちゃんよぉ!」

 

 俺たちはイキり散らした。

 頭に血が上ってアルコールも入っていないのに調子の良いことをべらべら言う俺たちに、アビゲイルは頭痛を堪えるように眉間を揉む。

 ため息をついた彼女は、

 

「良いでしょう。貴方たちにチャンスを与えます」

 

 そう言って懐からいくつかの書類を取り出した。

 

「昨今のギルドは各地での異変の対応によりハンターの手が足りません。貴方たちもハンターを名乗る気があるのなら、きちんとギルドに貢献して下さい」

 

 やれと言うことか。俺たちは机に並べられた依頼書に目を通す。

 アプトノスの討伐、ランゴスタの討伐、薬草の納品、etc……。

 討伐、納品、クエストの種類は様々だが、そのどれもが新米ハンターが受けるような易い難度のものばかりだった。俺は依頼書から視線を離し、挑発するようにアビゲイルを見やる。

 

 おいおいアビィ、クエスト難度が低過ぎやしないか? こんなんでいいのかよ?

 ろくでなしどもも調子付いてやんややんやとアビゲイルを煽り立てる。

 対するアビゲイルは落ち着き払っていた。

 

「僭越ながら、貴方たちの実力を鑑みクエストを選別致しました」

 

 正直助かった。

 勢いに乗って収まりがつかなくなっていた俺たちはアビゲイルの心遣いに心底感謝した。

 だが俺たちは素直ではないので、ハッと鼻を鳴らすと、依頼書の一枚をバシッと乱暴に手に取る。

 いいだろう。こんなクエスト、一瞬でクリアして来てやるぜ。

 

==============================

 

[アプトノスの討伐]

 

[任務地]

ドンドルマ近郊 アルベ農園

 

[依頼内容]

アプトノス10頭の討伐

 

[報酬金]

5304z

 

[依頼者]

農園の管理者 : 最近、増え過ぎたアプトノスが畑にやって来て作物を食い荒らすんだ。これじゃあ商売上がったりだよ。ハンターさん、あいつらを追い払ってくれ。

 

==============================

 

 

◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 “ゾンビアタック”。

 それは俺たちプレイヤーの持ち得る最強の手札。

 

 単純な話だ。

 このゲームは世界観の追求というコンセプト故か、従来のゲーム“らしさ”の存在が希薄だ。仕様と言い変えてもいい。

 

 具体的な例を挙げれば、フィールドに跋扈する大型モンスターは俺たちプレイヤーを鎧袖一触にするほど強大だが、俺たちと同じようなステータスが存在する。

 体力ゲージがあり、スタミナがあり、空腹度がある。

 

 それまでならば従来通りだが、本作に於いては戦闘で疲弊したそれが即時回復“しない”。

 今まではクエスト失敗して再度クエストを受注しフィールドに赴けば、同じクエストでもそこに居るのはリフレッシュした別個体であった。

 しかし本作ではクエストターゲットは完全な同一個体であり、疲労やダメージなども引き継がれる。

 場合によっては、クエスト失敗後に疲弊した討伐対象が別のモンスターにより倒される、なんて事態もあり得るわけだ。

 

 話を本筋へ戻す。

 どんなに強大なモンスターでも体力には限界があり、命にも際限がある。

 であるならば、死ぬまで追い詰めればいい。

 

 人間とは、集団による物量戦を得意とし、一度受けた傷を決して忘れず、膨大な時間と労力を賭してでもその傷を齎した相手を種ごと絶滅に追いやる悪魔のような種族である。

 

 おまけに俺たちプレイヤーは死んでも蘇る、だから死に対する恐怖が薄い。戦力が衰えない上に死兵の如く死地に赴くのに躊躇いがない。

 プレイヤーは人類の最強最悪の矛と言えた。

 

 普通のゲームにおいてはそれを抑制するために、死んだプレイヤーには重いデスペナルティが課せられる。

 このゲームにも当然リスポーン直後はステ低下や倦怠感などのデバフが付く。

 

 だが、それは割り切ってしまえば無視できてしまう程度のものだった。

 リリース初期の頃、示し合わせたプレイヤー軍団による大規模なゾンビアタックが行われたことがあった。

 デバフにより動きの緩慢なプレイヤーの大群が波のように押し寄せる様は正しくゾンビ映画のようであった。

 その効力たるや凄まじく、ほとんど装備も何もないような烏合の衆であったにも関わらず、当時プレイヤーには討伐不可能とまで言われていたティガレックスを圧し潰したのだ。

 

 俺たちならやれる。

 目標地域への道程を考えればセーブポイント付近限定にはなるが、その範囲内であればプレイヤーはイビルジョーですら確殺できると確信していた。

 

 しかし稀なる大戦果を挙げたゾンビアタックだが、現在は禁じ手とされ深く戒められている。

 

 運営による調整が入ったわけではない。

 プレイヤー間の問題があったわけでもない。

 

 いやあった。

 少ない報酬を巡って血みどろの争いがあった。

 だがそれは要因としてはあれど、決定的な理由ではない。

 

 何よりも致命的だったのは、事後処理だった。

 プレイヤーたちはティガレックスを討伐(圧殺)したが、それまでに犠牲になった数多の亡骸はどうなったか。

 

 そのまま残っていたのである。

 

 先に語ったことがあったと思う。

 このゲームはオンライン仕様のシミュゲーであり、遍くオブジェクトはご都合的にリポップすることはない。

 

 それと同じように、死した骸もフェードアウトするように消失することがないのだ。

 プレイヤーのアバターもまた然り。

 

 するとどうなるか。

 文字通りの屍山血河が築かれた。

 

 それは世紀末もかくやという光景だった。

 肉食モンスターやファンタジー世界の強力なバクテリアでも処理し切れない肉の山はやがて腐乱し、辺りの植物を毒した。

 

 周辺環境に与える影響もさることながら、そのあまりにも忌まわしい有様からギルドはプレイヤーによるゾンビアタックを禁止し、違反者には厳しい罰則を課した。

 それは腕の切断であったり、現代では許されないような類の苛烈な刑罰であった。

 

 しかし一部のプレイヤーはそんなの関係ねぇと小規模なゾンビアタックをし続けた。

 痛覚を切っていれば苦痛は無いし、部位を失っても死ねば元どおりに蘇るのである。開き直ってしまえばゲーム世界のプレイヤーは無敵だった。

 

 しかしギルドが違反者にH(ハンターズ)L(レーション)社の特別協力者に指定すると発表してからは、ぱたりと違反者は消えた。痛覚は切れても味覚はオプション変更利かないからな。そういうことである。

 時たま禁を冒すアホもいるが、ギルドナイト(ポリ公)に捕まってHL社送りにされてからは二度と目にすることもなくなる。

 

 HL社(あそこ)一回監査とか入れた方がいいんじゃねえかな……。

 

 広報社員は健全潔白身体に優しいオーガニックを唄っているが、身体に優しいものを口にして気絶したりナメック☆星人になるのはおかしいと思う。少なくとも頭皮には優しくない。

 オーガニックと言うよりは鬼畜である。オーガだけに。

 

 話が逸れた。

 ゾンビアタック事件の後にはプレイヤーのハンターがクエストを受けるのに当たって現地民には無い特別な制約が制定された。

 それは『クエストに於いて、巫女の遣い(プレイヤー)が三度命を落とした場合、クエスト失敗と見なす。この限度はパーティ全体での共通である』というもの。

 

 ギルドの代表者とプレイヤー側の代表者が話し合って決めたらしいが……まあ、つまるところはいつも通りの“三乙”システムである。

 

 慣れ親しんだそれに実家のような安心感を覚えたプレイヤーも少なくなかったはずだ。

 このゲーム、世界観が同じなだけでゲーム性は完全に別物だからな。慣れ親しんだはずの場所で不意に見慣れぬ小道に迷い込んでしまったような不安感があったりしたのだ。

 

 VRなんていう新技術を使ってるからってのもあるかもだが。まだ俺たちはこの仮想世界ってやつに慣れていないのだ。

 

 ともあれクエストに於ける失敗条件は過去と同じ。ああでも時間制限は無いようなものか。

 

 三度死ねる。

 それは俺たちプレイヤーだけが持てる強力なアドバンテージだ。

 現地民ハンターは一度やられてしまえばそれっきりだからな。

 

 おまけに死んでも記憶を引き継いだまま蘇れるってんだから、トッププレイヤーが場慣れしていくのにもそう時間は掛からなかった。

 彼らは今既に現地民の上級ハンターたちと肩を並べ、リオレウスやディアブロスといった強力なモンスターたちと凌ぎを削っている。

 ミドルプレイヤーたちもそれに憧れ、自分もいつか彼らに並ぶよう切磋琢磨しているのだ。

 

 で。

 俺たちと言えば。

 

 

◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「ああああああああ無理無理無理ぃぃぃぃぃ!!!!!」

 

 抜けるような晴天に、情け無い悲鳴が響き渡る。

 焦燥に塗れた必死な声は、俺の内心の焦りをも煽った。

 

 うるせえカシュー! 黙って走れ!!!

 

 俺は横合いを走るカシューを怒鳴りつける。

 そう叫びながらも、背中には怒りに満ちた視線と死の気配をひしひしと感じていた。

 

 ドドドドドドドドドドドド……!!!!!

 

 気の狂った太鼓のような衝撃が連続して大地を揺らす。

 俺は恐怖に耐えられず後ろを振り返った。

 

 ああ、見なきゃよかった。

 背後に迫る灰色の波濤を見て後悔する。だが、見えない圧力というものは俺のひ弱な精神には耐え難い苦痛だったのだ。死の濁流は、すぐ後ろにまで迫っているかもしれないのだから。

 

 アプトノスである。

 

 正確にはブチ切れたアプトノスの群れである。

 

 クエスト対象が現れる農園へとやってきた俺たちは、早速アプトノスの群れを見つけた。

 正確な総数は不明。

 だが、ザッと見た目算でも二十は下らない大所帯である。確かにこんな数に漁られては農場主は堪らないだろう、そう思わせる光景だった。

 

 アプトノスと言えば“歩く生肉”とまで言われ、印象としてはそれこそ歩く生肉くらいの雑魚中の雑魚だ。よくチュートリアルで駆け出しハンターにザクザク斬られている。

 

 しかし落ち着いて考えてみて欲しい。

 平均的なアプトノスの全長は約五メートルほど。体高は二.五メートルはある。

 この時点で現実の牛よりでかい。

 その上尻尾にはやたらデカいトゲが生えていて、外敵にはそれをブンブン振って威嚇してくる。非常に危ない。当たれば怪我では済まないだろう。

 

 普通に怖くないか。

 

 俺たちはチキった。

 クエストノルマとしては十頭の討伐だ。それくらい殺せば臆病なアプトノスは怯えて逃げ出す。

 ただ、正直いきなりデカいのをやるのは腰が引けた。

 なので、まずは小さいやつからやっていこうと決めたのだ。

 

 思えばそれが誤りだったのだろう。

 俺たちは忘れていた。アプトノスは臆病だが、仔の危機には普段は見せない攻撃性を露わにするということを。

 

 よって集って仔アプトノスをリンチしていた俺たちに、怒り心頭な親アプトノスたちが束になって襲いかかってきたのだ。

 

 その光景に度肝を抜かれた俺たちは慌てて逃げ出した。

 アプトノスの足はそこまで速くない。簡単に逃げ切れると思っていた。

 だが悲しいかな、俺たちの足もそこまで速くなかった。

 

 逃げる俺たちと追うアプトノス。

 青空の下のしょーもない逃走劇は、付かず離れずの膠着状態となっていた。

 

 側から見ればカートゥーンアニメのような滑稽な光景だったことだろう。しかし考えても見て欲しい。速度の乗ったアプトノスは純粋な脅威だ。

 数トンはある体躯は質量兵器だ。頭突きをされれば車に轢かれたみたいにぶっ飛ぶだろうし、踏みつけられればひとたまりもない。

 

 そのことはこの場にいないインゲンが証明している。

 

 走っている途中ですっ転んだインゲンは、激走するアプトノスに揉まれて直接的な描写を避けたくなるような酷い感じになって死んだ。

 例えゲームとは言え、実際に死なないとは言え、あんな死に方はしたくない。俺とカシューは強くそう思った。

 

 走る、走る、走る。

 耕された農地は非常に動き辛い。だが止まれば轢き潰される。

 俺たちは泥まみれになりながら、直走った。

 

「おいタチオ! 麻痺矢もっと撃てよ!」

 

 もうねぇよ!

 俺は悲鳴のような声を上げた。

 

 俺が持参したなけなしの麻痺ビンはストック含めて既にすっからかんだ。そもそも使うつもりなんてなかったのに。

 

 おまけに振り向き様に撃ちまくったそれも、入れ替わり立ち替わるアプトノスの群れには効果が薄かった。

 どいつを狙っていてどいつに当たったのか分からないもんだから、麻痺値の蓄積が上手くいかないのだ。

 全員同じ顔してるんだもんなぁ。もっと個性出していけよ。

 

 というかカシュー! 俺にばっかりやらせてないでお前もなんかしろ。盾になれ。頑張ってアイツら受け止めろよ。

 

「無茶言うな! 片手剣の盾でアレ止められるわけねえだろ!」

 

 ランスでも無理だと思う。

 まあ、でも速い話がやって見ろ。

 

 俺はカシューの足下に矢を射た。

 放たれた矢は狙い違わずカシューの足下に突き刺さり、奴の足を止めた。ナイスエイム。

 

「てめぇタチオォー!!」

 

 ははははは頑張れカシューくん。俺が逃げ切るための時間を稼げ。

 

 「覚えてろよォー!」というカシューの絶叫を背に、俺は弓を畳んでダッシュする。

 ちらりと振り返れば、健気にもちっこい盾を構えたカシューが肉の波に呑み込まれるところだった。

 

 わぉ。R-18G。

 

 しかしカシューくんの献身も虚しく、アプトノスの爆走は遅まる気配もなかった。

 マジかよこりゃちっとマズいかもな。

 まさか一瞬の時すら稼げないとは。あわよくばカシューで躓いて転んでくれないかなぁと期待していたのだが、誤算だった。

 

 だが希望がないわけではない。

 アプトノスはその重量故にあまり長距離を走れない。無理をしすぎると疲労した足の骨が折れてしまうのだ。

 一体でもそうなれば、団子になっている奴らは一斉にすっ転ぶことだろう。

 

 何とかそこまで持っていければ……おうっ。

 

 俺は何が起きたかすぐに分からなかった。

 急に視界がぐるりと回ったかと思えば、べしゃりと不快な感覚が全身を叩く。

 

 あっ。

 

 どうやら知らないうちに農園を一周していたらしい。振り返ったすぐ後ろに、酷い感じになっているインゲンの死体が転がっていた。

 どうやら俺はこれに躓いたらしい。

 

 地面が揺れる。アプトノスの群勢はもはや目と鼻の先だった。

 

 

 

 あっ。

 

 

◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[QUEST FAILED…]

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「……」

 

 ……。

 

「…………」

 

  …………。

 

「……はあ」

 

 ……(ビクッ!)×3

 

「まさか、アプトノスを相手に全滅するハンターがいるとは……」

 

 ……。

 

「しかも、守るべき依頼者の農園をアプトノスを引き連れて駆け回り、無事だった作物を踏み荒らし農具を壊す始末」

 

 ……(ガタガタ)×3

 

「まさか達成するだろうと思っていたクエストの依頼者からのクレームで、クエスト失敗を知らされた時の私の気持ちが分かりますか?」

 

 ……(フルフル)×3

 

「……」

 

 ……。

 

「……少しだけ。少しだけですけど、貴方たちにも期待していたんですよ? 普段はダメダメだけど、イザとなったらやってくれるんじゃないかって」

 

 ……(目逸らし)×3

 

「……残念です」

 

「アビィ! そこを何とか!」

「頼むよアビィちゃぁん!」

「次こそはちゃんと達成するからさあ!」

「ええい、ダメなものはダメです! 引っ付かないで下さい!」

 

 アビゲイルは縋り付く俺たちを振り払うと、ツカツカと去っていく。

 残された俺たちは宙に手を伸ばしながら、ただその背中を見送るしかなかった。

 

 ーーこうして俺たちは、職を失った。




「ピスタチオたちは ハンターライセンスを 失ってしまった!▼」
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