オリフレシェアハウス!!(うちの子誕生録)   作:BaryNao

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私が創作をしていた時にTwitterで投稿していた『オリフレシェアハウス』という物語をしっかり設定をつくっていきたいなぁ~と思い小説を書きました。
Twitterではほかの人のオリフレと一緒になるというキッカケのためにオリフレシェアハウスというものを作ったのですが、自分自身でこのこの設定をどうにか広げられないかなと思い小説を書きました。
オリフレシェアハウスという創作に興味を持ってくだされば幸いです。

それでは本編へどうぞ!


序章:始まり
彼女が目覚めた日


 目覚めると、彼女は見慣れない大木のもとで寝ていた。

 いつどうやってここに来たかも覚えていない。覚えていることといえばたくさんの仲間と空を飛んでいたという記憶だけ。

 でも、周りには何もなかった。あるのは無残にちらばっている緑色の綺麗な羽だけだった。

 

 彼女はその羽を一つ拾い、太陽にかざしてみた。

 

「きれいだなぁ……。」

 

 その羽をしまい立ち上がった。仲間の行方を捜すため。

 自分が何者かを知るため。

 

「わたしのことがわかったら、またもどってくるね。」

 

 彼女はそう大木に誓い空に飛びだした。

 雲一つない、きれいな青空だった。

 

 

 

 

 

 

 

 記憶とは違う姿になっても、彼女は何の気なしに空を飛んでいる。空を飛ぶために羽ばたいていた羽は、今は頭の横についている。

 彼女の姿は俗にいうヒトの姿をしている。彼女自身の感覚では足の動かし方も羽の動かし方も違うはずなのにもともとその姿であったかのように動かせていて空を飛ぶことも当たり前のようにできている。

「いつもこうやってそらをとんでいたら、なかまがいっしょにいたはずなのに……」とつぶやきながら何も障害物がない空を飛ぶ。

 幾分か飛んだあと、彼女は空からあたりを見渡した。大木からずいぶん離れたがどこを見ても木ばかりでなにか自分の存在の手掛かりになるようなものは見当たりそうにない。先を見ても木ばかりだ。

 

 いくら飛んでも何もなく徐々にお腹も減り始めた。飛び始めてから数十分ほど、大木からまっすぐ飛んでいたが森がなくなりそうにもなく、これ以上飛び続けていても体力を消耗するだけだと一旦地上に降りた。

 ただ、降りたからと言って何か食べるものも飲むものもあるわけではない。よく食べていた木の実も、ここではどこにも見当たらない。ついには傍らにあった木の幹に腰を落としてしまった。

 

「おなか、すいた……」

 

 目覚めたその日に空腹で倒れるなんて、思ってもいなかった。ただ彼女は仲間を見つけたかっただけなのに。

 しまっていた羽を取り出し空にかざす。木々の隙間から光が差しさっきとは違った輝きを放っていた。だがその羽を上げていた腕も糸が切れたように落ち、瞼が次第に落ちてきてしまった。

 

 そのまま落ちるように倒れた。

 

 意識は次第に薄れていった。瞼が完全にふさがる直前に見えたのは手に持っていた羽と自分に近づく白いものだけだった。

 彼女の意識ははその白いものを確認するまでもなく途絶えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 なにかがはじけるような音で目を覚ました。こうやって目覚めるのは二回目だ。

 力を振り絞り,寝ていた体勢から起き上がると彼女の傍らには茶色い石みたいなものが三つ置いてあった。その石のようなものはなぜかとてもいいにおいがする。空腹に耐えきれなくなった彼女はそれが何なのかを確かめずに口に運んだ。

 それは石のように固くなく、むしろとても柔らかくて、そしてとてもおいしかった。彼女は一つを食べ切るとまた一つ、また一つと口に運び、ものの数秒で食べ切ってしまった。そのおかげで空腹は少し和らいだ。

 

「やっぱりお腹がすいてたんだね。目を覚まして本当によかったよ。」

 

 どこからともなく声がして驚いた彼女は自分がいる空間の一番奥にまで逃げ声のする方を向いた。そこには意識を失う前に見た白いもの、見た目は今の彼女と同じヒトの姿の少女が立っていた。

 

「あら、パン全部食べちゃったの? まだまだたくさんあるからまだ食べる? あ、水もあるから飲んでね……って警戒されちゃってるかな?」

 

 その少女はおどけた顔をしながら手にしていた水の入った瓶とコップを彼女が寝ていたベッドの横に置いてある机の上に置いた。そしてぱちぱちと枝がはじけながら燃える暖炉のそばに置いてあったパンもその机の上に置いた。

 少女は笑顔を見せながら「遠慮しないで食べて?」と彼女に問いかけた。だが彼女はただじっと部屋の角で少女をじっと見つめていた。

 

「大丈夫よ、さっき置いてあったパン食べたでしょ? それと同じだから。」

 

 彼女は少女に警戒はしてるが少し気を許したのか少しずつ彼女の置いたパンに近づく。そしてパンを手に取ると少女に問いかけた。

 

「このおいしいの、『パン』っていうの?」

「そうよ! 私が作って焼いたのよ! おいしかったでしょ?」

「うん、おいしかった。いままでたべたなかでもいちばん。」

 

 彼女はそういうと手に持っていたパンも食べ切り、横に置いてある水を飲んだ。

 

「よかった、あなたが森の中で倒れてて、慌ててうちに連れて来たんだ。生きててよかったぁ~。」

 

 はぁ、と一息つき少女はゆっくりと彼女に近づく。

 

「私の名前は『リト』! あなたの名前は? 手に持ってる羽はどこから持ってきたの? それと、見た感じ人間っぽくないけど……?」

「リト……。わたしのなまえ……? わからない……。」

「名前覚えてないの? もしかしてさっき倒れたので記憶なくしちゃったとか!?」

「いや、えっと……じぶんがなんなのかわからなくて、おおきな木の下でさいしょ目をさましてそこから空をとんでさがしてたらおなかがすいて……それでたおれちゃったの。」

「大きな木……? もしかしてあの丘の上にある木のことか! ずいぶん遠くまで移動してたのね。でもあの木の周り以外はほとんど森で何もないんだよね。」

「そう、なんだ……。ねぇ、あなたならわたしのことわかったりしない? もう何も見つけられそうにないの……。」

 

 そういって彼女はリトの両手を握った。手に持った羽ごと。

 

「ん~、あなたのことは私にはわからないけれど、そのあなたが持ってる羽のことは分かるかもしれない。」

「え? 羽だけでわかるの?」

「ふふふ、私はね鳥のことなら何でも知ってる鳥博士だって言われてたのよ~! どんな鳥の一部でも何の鳥か当ててみせるよ!」

 

 彼女が持ってる羽を見ながらリトは自慢げに話す。彼女はリトに持っていた羽を渡した。リトはその羽を受けとるや否やそそくさと部屋から出ていった。

 

 数分後リトは大きな本とともに帰ってきた。なんの鳥か分かったらしい。

 

「あなたの持ってた羽、いくつかの鳥の羽と似てる部分があったから確証を得るのに時間がかかったけど、あなたの姿を見て確信したわ。この羽は『カロライナインコ』のものね。」

「『カロライナインコ』?」

「そ、この色の羽はよく見るけど大きさ的にも多分間違いない。そしてあなたも多分カロライナインコよ。」

「え? 私も?」

 

 驚く彼女にリトは話をつづけた。

 

「この写真を見てみて。何か見覚えない?」

「あ、これ。わたしのなかまによくにてる……。」

「やっぱりね。あなたはどういう原理か知らないけれど動物の姿からヒトの姿に姿を変えてここにいるみたいね。不思議な話だけど。」

「ということは私もカロライナインコ……。」

「そうね、でもカロライナインコって長いし呼びづらいから……あなたは今日から『カロナ』よ!」

 

 リトは大きく振りかぶって彼女……カロナを指さしそう叫んだ。

 

「カロナ……わたしのなまえ……うん! 気に入った! ありがとうリト!」

 

 カロナはうれしくなりリトに抱き着いた。自分がカロライナインコという鳥だったことが分かり大喜びである。

 

「さっきあなた大きな木のところで目が覚めたって言ってたわよね。あの大木はこの世界の入口なの。」

「入口? それってどういう……。」

「実はこの家、その大木のすぐ近くにあるんだ。カロナが気づかなかったのは多分空を飛んでたからね。まぁそれは置いといて、あなたがカロライナインコならこの世界に来た理由も合点がいくわ。」

「それってどういう……。」

 

 カロナが聞こうとするとリトはそれを遮るように「今日は沢山飛んで疲れてると思うからもう休んで!」と強引に寝かされてしまった。

 カロナはリトが言ったことが気になったが緊張が溶けて安心したからかいつの間にかうとうとと眠ってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 次に目が覚めたのは気持ちの良い朝のことだった。

 窓から入ってくる木漏れ日に目を細め、カロナはベッドから立ち上がる。ふとベッドの横にある机を見るとニ枚の用紙が置いてあった。その紙の片方はこの家の地図のようでもう片方はリトの書いたであろうメモだった。

 

「えーと、なになに? 『わたしはここにいるから一人で来てみて』?」

 

 地図をもういちど見てみると今自分がいる部屋の印(緑の鳥の絵)とここにきてと矢印で指されている部屋を見つけた。ここに来てとの指示なのだろう。

 そのメモ通りにカロナは部屋から出て廊下を歩き、下の階に続く梯子を使わず滑空して降りた。本がいっぱいある部屋の奥の階段を上りその先にある扉を抜けていくつもの扉のある廊下を突っ切り、突き当りの扉を開けた。その扉の先はとても広い空間だった。その広い広間の二階から一階に降りて左の扉に入るとリトの指した部屋に着くようだ。

 

「この家広すぎない……? リトだけが住んでるとは思えない広さなんだけど……。」

 

 大人数が一斉にここに来たとしてもまだまだ余裕がありそうなぐらい広いこの家にカロナは驚いていた。

 

「まぁとりあえずここにリトがいるのかな。ここに来てって言ってるんだし」

 

 ドアを開けて部屋に入るとそこはさっきまで寝ていた部屋の二倍ほどの大きさで真ん中には大きなテーブル、奥にはソファなどの家具が置かれている。リトはそのソファのところに腰かけていた。

 

「お! やっと来たね。迷ってここに来られないと思ってたよ!」

「いや、こんなていねいなメモまでくれててまようはずないって。」

 

「それもそうか」とリトはソファから立ち上がった。

 

「で、何のためにこんな遠回しなことしたの?」

「そりゃあカロナっちがここにすんだ時に迷わないようにするためだよ~。」

「ん? カロナっち? というかここに住むって?」

「だってほかに行くところないでしょ~? というかここの近くには何にもないからまぁ必然的にここに住むことになるかなぁって。」

「そ、そうね……。確かに私はもう行くところはないからね……。」

「まぁまぁそんな気に病むことないよ! 私がいるんだから! ねっカロナっち!」

 

 カロナを元気づけるようにリトは肩を組んだ。

 

「あはは、ありがとうリト。あなたがいなかったら私はもうだめだったかもしれない。」

「気にしなくていいってそんなこと。友達なんだから。」

「友達……。いいかも。」

 

 カロナも肩を組み返す。まさかカロナも組んでくるとは思ってなかったリトは驚きながらも笑った。

 

「じゃあリト。友達になったということで一つ質問していい?」

「ん? どうしたのそんな改まって」

 

 急にカロナがかしこまった態度をしたのでリトも背筋が伸びる。

 

「カロナっちの『っち』ってなに?」

「え、そこ?」

「うん、そこ。だって私の名前に『ち』はないもの」

 

 突拍子のない質問にリトはずっこけてしまった。確かにカロライナインコの中にはちの文字はないが。

 

「えっと……、なんか友達とかとは愛称で呼びたいなぁっていう、あれだよあれ。うん。」

「愛称?」

「そ、カロナっちも私のことリトじゃなくてなんか別の呼び方してよ~、せっかく友達になったんだからさ~。」

「急に言われても……。じゃあ『リトっち』でいい?」

「わたしと同じじゃん!」

 

 一昔前に流行ったような突っ込みをしてリトはフフッと笑った。笑われた訳が分からずカロナが若干むすっとした様子もおかしかったのかまた更に大笑いした。

 

「フハハハ! カロナっちって面白い顔するね。まぁ同じのほうが仲良し感あっていいね。じゃあ私のことはリトっちと呼びなさい。いいですねカロナっち!」

「なんかさっきと雰囲気違うけど……、まぁいっか。」

 

 あだ名で呼び合う二人。また二人の距離は縮まったようだ。

 

 

「ってそうだ。」

 

 リトが何かを思い出したかのように手をたたいた。

 

「これからカロナっちには料理をしてもらいます。」

「りょうり? なにそれ。」

「じゃあこれを見てよ。」

 

 そういうとリトは白い粉や白い液体を取り出した。

 

「ん~? 砂?」

「これは塩、これは砂糖、そしてこれが牛乳、最後に強力粉。あとはマーガリンかな。材料とかは念じるとこの冷蔵庫から出てくるからそれを使ってね。」

「よくわかんないけど念じると出てくるってどういうことよ。」

「まぁまぁそんなちっちゃなことは気にしないで、まずはボウルに砂糖と塩と牛乳を入れて、強力粉を入れまーす。」

 

 そういってリトはとこからともなく出したボウルにそれらを入れ混ぜ始めた。少しするとドロドロしていたものがどんどん固まっていった。

 

「じゃーん。パン生地のもとが完成しました~!」

「えっ!? これがあのおいしいパンになるの!? 全然固くないしおいしそうに見えないんだけど……。」

 

 出来た生地を指で押しながらカロナは怪訝の眼差しを送る。

 

「ここから一時間置いて発酵させて、そのあとに昨日食べたパンの大きさにするとそれっぽくなるから。それじゃあ今から一時間ほど待ちます!」

「一時間は長いよ……。もっと早くできないの?」

「早くしてもいいけど、そうするとおいしくないものすごい硬いパンになるけどいいの?」

「いや! やっぱり待つ!」

 

 必死な表情で訴えるカロナ。やっぱりパンはおいしい方がいい。

 

「それじゃあカロナっちもこれを作ってみよう。」

「え? 私も?」

「そうだよ。だってカロナっちに料理を教えるためなのに、一緒に作らなきゃ意味ないじゃん~。」

「そ、そっか! えっと、まず何からするんだっけ……。砂をボウルに入れるんだっけ。」

「はいはい落ち着いて、まずは材料からだって。あと砂じゃないって言ってるでしょ」

 

 焦るカロナをしり目にリトが冷蔵庫から材料を出す。失敗してもいいように余分に用意した。

 

「はいまずはボウルに砂糖と塩と牛乳を入れて、スプーンで溶かしたら強力粉を入れて手で混ぜてね。あとカロナっちはその手袋を外してきちんと手を洗ってからね。」

「はーい。手を洗ってから、これを入れてまぜたあと、きょうりきこ? をいれて手でこねる……。なんかドロドロしてていやだなぁ……。」

「見た目が嫌とか関係なし! おいしいパン作るためにこれも修行よ! はい入れるよ!」

「ひゃあ!!?」

 

 カロナの手をつかみ、ボウルの中に押し付ける。初めての感触にカロナは変な声を上げた。

 

「ちょ、ちょっと勝手に入れないでよ! 心の準備ができてないのにいきなりされたらびっくりするでしょ!」

「こんなのでひぃひぃ言ってたら後に身が持たないわよ~。ほれほれ~。」

「あ、ちょっとそんなに強引にしなくても自分で動かすから!」

「だーめ。これにはコツが必要だからそれを覚えるまでは私が動いてあげるから。」

「うわぁ……やっぱり変な感じ……やめていい?」

「カロナっちが辞めても私が勝手に動かすから、カロナっちはされるがままだぞ~?」

「も、もうやめてぇ~。」

 

 五分後、そこには表面が滑らかになった生地と疲れて立ち尽くすカロナの姿があった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 一時間後、先ほどより二倍ほどに膨らんだ生地を見て、カロナは目を光らせていた。

 

「ねぇねぇ! なんでこんなに大きくなってるの!? こんなに大きいの食べ切れないよ!!」

「あははは、発酵したパンに興奮するなんてまるで子供みたいだなぁ。」

「だってこんなの初めて見たんだから。で、この後どうするの?」

「それじゃあこれを八個に分けて、食べやすい大きさにしよう。」

「はーい。」

 

 カロナは自分でこねた(リトに無理やりこねさせられた)生地を上機嫌で丸めている。

 リトもそれをニマニマと見ながら慣れた手つきでこね丸めた。

 

「それじゃあこれをもう三十分ほど寝かせます。」

「え!? まだ待つの!? もう十分待ったよね!?」

「今度は小さくした後の発酵もさせないといけないの。硬いパンはいやd……」

「わかった、待つから。」

「素直でよろしい。でも30分たった後に焼いたらやっと食べれるからね。」

「むー、おいしいは手間暇かけないといけないのね……。わたしたちは木の実とか食べてたから全然気にしなかったけど。」

 

 ため息をつきながら倒れるようにソファに寝転ぶ。

 

「確かカロライナインコって果樹園の熟れる前の果物とか食べてたんだっけか。それで……。」

「うん? それで、どうなったの?」

「いや、何でもないよ? 人だと熟れた後がいいのに鳥だと変わるんだなぁって思ってね。」

 

 リトはそうごまかすように言い換えた。カロライナインコが絶滅した原因ともいえることを喋りそうになったところをとっさに変える。

 カロライナインコはすでに絶滅した鳥である。リトはそのことを知っていた。だからこそカロナには気を使っている部分もある。

 

「でもこれがあのおいしいパンになるのかぁ。わたしの知らないものばかりだなぁ……。」

「もっと簡単で美味しいものもあるけどね。カロナっちがものすごく称賛してたからとりあえず教えようかなってね。」

「もっとおいしいのがあるの!?」

 

 カロナは目を光らせリトに迫る。

 

「あはは……。まぁいつかちゃんと教えるよ。」

「やったぁ! おいしいものたべたい!」

「そのためにはどんな見た目でも大丈夫にならないとね? 割とやばいものもあるし。」

「え、?」

「さっ、そんなこと言ってるうちに30分経ったよ。」

「ほんと!?」

 

 リトを押しのけパン生地のほうに向かう、先ほどより少しふっくらした生地に飛びつく。

 リトはその生地をトースターに移動させ焼き上げる。

 その様子をじっと見つめながら焼き上がりを待つカロナはさながら子供の様だった。

 

 ──チーン

 

 レンジが止まる音にびっくりしたカロナを笑いながらリトがトレーを取り出す。

 トレーには丸くふっくらとしたパンとしぼんでしまってるパンが半分に分かれていた。

 二人はしぼんだパンを一口食べる。

 

「まぁ最初はこんなものよね……。」

「うえぇ……。」

 

 パンをぼそぼそと食べて、ため息をつく。

 

「まぁとりあえず作り方が分かったからあとは練習あるのみだね。あとはパンより簡単で早く完成する料理を覚えようか。」

「はーい……。」

「まぁともかくパン食べて休憩しようか。さすがに起きてから何も食べてないしね。」

 

 リトはカロナが作った方のパンを食べ、自分が作った方のパンをカロナにあげた。

 少し申し訳なさそうだったがおいしいパンを食べて元気を出したようだ。

 

「そうだ、休憩ついでに行きたい場所があるんだけどいってもいい?」

「行きたい場所? どこか特別な場所ってあったけ?」

「うん特別な場所だよ。」

 

 カロナは立ち上がりドアノブに手をかける。

 

「そういえばこの家の出入り口ってどこ?」

「もしかして行きたい場所ってそこ?」

「いや違うから。」

「ですよね。」

 

 リトも立ち上がりカロナとともに部屋を出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

「まさか一日で帰ってくるなんてね。」

 

 大きな大木に手を当てて、そうつぶやいた。

 

「わたしカロライナインコなんだって。リトって子が教えてくれたんだ。それでね友達にもなれたんだよ!」

 

 ニコニコしながら話すカロナ。足元には昨日と同じ羽が落ちたままだ。

 

「カロナっちって大木に話しかける趣味があったの?」

「違うよ! ただこの木にわたしのなかまがいる気がしてね……。」

「なるほど、もしかしてカロナっち気づいてた?」

「気づいてたって?」

「もう仲間に会えないかもってこと。」

 

 リトは言いにくいであろう内容を問いかける。この様子だと本当は気づいてたのかもしれない。

 

「まぁちょっとはね。ほんとはよくわかってないんだけど。」

「本当のことを言うとね、カロライナインコは絶滅した鳥なの。だから仲間にはもう会えないの。もしかしたらあなたも本当は死んでしまったのかもしれない。」

「こんな羽が散らばってる理由はまぁそういうことなんだよね。」

 

 うつむいたまま顔を上げないカロナの表情は分からない。だけど、きっと悲しい表情をしているのだろう。

 

「カロナっち、なんで私が『あなたがカロライナインコだったらこの世界に来た理由も合点がつく』って言ったのか。それはね、ここが死後の世界だから。カロナっちはもう死んでて、だからここに迷い込んだんじゃないかって。」

「死後の世界? てことはリトっちも?」

「そ、私もとっくの昔に死んじゃってるんだ。生きていた時の記憶はもうほとんど残ってない。リトって名前も多分本当の名前じゃないと思う。ここに来てどれくらいの時間がたったのかさえももうわからなくなっちゃった。」

 

 リトはうつむいたカロナの手を握ってまっすぐに見据えた。

 

「なんとなくなんだけどね、私はもうこれ以上はとどまっていられない気がするんだ。だから私が消えて無くなる前にカロナっちと会えてよかったよ。」

「リトっち! そんなこと言わないでよ! せっかく会えたのにそんなこと言われちゃったら私どうすればいいのさ。」

 

 おもむろにカロナはリトを抱きしめた。ゆっくりと包むように。だけど、その腕はすり抜けてしまった。

 

「やっぱりそんなに持たないかぁ……。」

「え、なんで……? なんでさっきまで触れたのに……!?」

 

 虚無を抱いたカロナは自分の手を見てその手をもう一度リトに近づけた。ただ触れた感触はなく、そのまますり抜けてしまう。

 

「あんまり時間はないと思うけど残った時間一緒に楽しもうよ?」

「そんなのできるわけないじゃん! さっき料理教えてくれるっていったじゃん!」

「うん、私がここに居られる間にたくさん教えてあげるよ。」

「そんな時間制限がある友情なんて嫌だよ!!」

「でももし私が生きててもいつかは死ぬんだよ? 私は死んだけど偶然それが引き延ばされてるだけだから。」

 

 笑顔で淡々と話すリトはどこかさみしそうな、でもどこかうれしそうな雰囲気があった。

 

「だからそれまで一緒にいよ?」

 

 手を差し伸べるリト。カロナは一瞬手を差し伸べて引っ込めてしまう。その手をリトは握りしめる。

 

「ほらカロナっち! 家に帰るよ!」

「え!? なんで触れるの!? あ、ちょっと引っ張らないで!!」

 

 強引に引っ張っていくリト。カロナはそれに引っ張られる。

 

「わかったから! わかったからちょっとまってって!」

「ふん! 待たないわよ! カロナっちがいじいじしなくなるまで連れまわしてあげるんだから!」

 

 カロナが転びそうになっても構わず引っ張る。

 

「うん! いじいじはもうしないから! 一回止まってって!」

「家に帰るまでは離さないから。」

「わかった、じゃあ家に帰るまで絶対に離さないなら絶対に離さないでね!」

「言われなくても離さないわよ……って、ちょちょっと! 飛ぶのは反則だって!」

 

 カロナはリトの手をつかんだまま飛び上がった。

 突然地面から足が離れてリトは足をプラプラさせて「おろせ──!」と叫んでいるがカロナは無視して飛び続ける。

 数分後、ふらふらになったリトを下ろし、玄関から家に帰った。

 家に戻った二人はお互いに言いたいことを言い合った後、先ほど残したパンを食べて仲直りをした。

 カロナの作ったパンはお世辞にもおいしいとは言えなかったが、そのおいしくなさが二人を同じ気持ちにさせたのだ。

 

「とりあえずパンだけはうまくできるようにしようね。」

「うん」

 

 二人の生活はまだまだ続きそうだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 長い時間が経ち、いろんなことがあった。

 カロナはいろんな料理の作り方を覚え、今ではレシピを見ずにいろんなものが作れるようになった。

 

「はい! なんか辛いやつ!」

「カレーね。」

「あと、緑の草が多い奴!」

「サラダでいいでしょそれ。」

 

 火は苦手だったのは今は克服したようだが、まだそれぞれの料理の名前までは覚えられてないみたいだ。それでもある程度の家事や、ある程度の言葉は覚えた。

 たまにリトを抱えて空を一緒に飛んだりもした。抱えている身体が急に触れなくなるかもということが頭をよぎったが、そんなことは忘れて、二人は空の風を感じ楽しんでいた。

 カロナはたまに大木のもとに行ってはできるようになったことの報告をしていた。そのたびにリトが居なくなってしまうのではないかという不安がこみ上げて来たが、それに負けじとカロナは頑張った。

 

 

 ただ、時がたつのは早いもので、徐々にリトとの別れを感じ始めていた。

 カロナがいないところで苦しそうに咳をしていたり、時には体が消えかかってたりすることが時間が経つにつれ増えていた。リトはカロナに心配させまいと隠してるようだったが、ついにはカロナの前でもその現象が起こるようになっていた。

 何にも思ってないようなそぶりをしていたカロナも、少しずつその現実を受け入れ始めた。

 

 時々、リトがカロナに問いかけた。

 

「ねぇカロナっち。もし私がいなくなっても、この家にいてくれる?」

 

 この質問は多分もう10回は越えてる。そのたびにカロナは一言一句変えずに

 

「当たり前でしょ? もうここは私の家でもあるんだし、私たちの家なんだから。」

 

 と答える。

 この答えを聞くたびに、リトは笑顔になる。その笑顔を見てカロナも笑う。こんな時間がいつまで続くのか、不安になりながらも。

 

 

 

 ──だけど、その時は一瞬でやってきた。二人の意思とは裏腹に。

 

 リトの体が半分以上消え、元に戻らなくなっていた。いつもだったら足元がちょっとだけ消える程度だったのが今回は足のほとんどが消えたままになっている。

 二人は「ついに来ちゃったんだね。」と手をつないで大木のもとまで行った。手には触れている感触はすでになかった。

 

「なんか、結構長い間一緒にいた気がするよ。予想以上に私の体が持ってくれたみたい。」

「うん……。」

「やっぱりこういう別れになると寂しいもんだね、カロナっち。」

「うん……。」

 

 リトが何を言ってもカロナはうつむいたままだただうなずくことしかできない。

 大木のもとにたどり着く。以前落ちてた羽は、すでに風でどこかに飛ばされてしまっていた。

 カロナが目覚めたこの場所で、今度はリトが目を閉じる場所となった。

 

「あのね、私まえまでカロナっちは死んじゃったからここに来たんだと思ってたんだけど、多分それは違うって思ったんだ。」

「え……?」

「だってカロライナインコが絶滅したのって私が生まれる前だったもん。だからカロナっちがここに来た理由は多分別にあると思うんだ。」

 

 リトは握っていた手を(正確には手を握る場所居置いていた手を)離し、カロナと大木との間に立った。

 

「これはね、全然確信はないし私にもどうしてこう思ったかはわからないんだけどね。きっとカロナっちは独りぼっちだった私のためにこの世界にやってきたんじゃないかって。」

「わたしがリトっちのためにここに来たってこと?」

「うん、そして多分ここは死後の世界なんかじゃないとも思う。わたしが死んじゃった後に来たから勝手にそう思ってたんだけど。そうじゃなくて、ここは別の世界と別の世界をつなぐ架け橋みたいな場所なんじゃないかって。」

 

 大きく手を広げてそう言い放つリト。それにこたえるかのように風が吹き、枝同士がこすれる音が大きくなった。

 

「私のいた世界から私は死んでここに来たけど、カロナっちは死んだから来たわけじゃない。どうしてその姿でなのかはいくら鳥博士ともいわれた私にもわからないけど、もしかしたら私がカロライナインコが好きだったからかもしれない。わたしが生きてた時は鳥が好きだったのはもう何回も聞いたと思うけど、特に絶滅しちゃった鳥を調べるのが好きだったんだ。だからそのことを見越してなんかよくわからない力があなたをヒトの姿にしてここに連れてきたんじゃないかなって。」

 

 リトは大木のほうに振り返り、風に揺れる様子を見ている。

 

「その私にもよくわからない力みたいなのが、死んだ後の私をこうやってとどまらせたんじゃないかって思うんだ。だからここは『別の世界と別の世界をつなぐ架け橋みたいな場所』なんだって。」

「ということは、もしかしたら私以外の誰かもここに来るかもしれないってこと?」

「わたしにはこの世界がどんなものかはわからない。もしわたしが居なくなった後にこの大木から誰か来たのなら。私の考えは正しかったってことになる。まぁあってても間違ってても私に確かめる方法はないんだけどね……。えへへ。」

 

 そんな風にごまかすようにいつもの笑顔でわらう。もうすでに腰まで消えかかってしまっている。虹色の結晶のようなものが体と消えた部分との境界線からとめどなく落ちていっている。

 

「だからもし誰かがこの世界に来たのなら歓迎してあげて。そのために料理も家事も文字も覚えたんだから。あなた自身のことも勉強したし、きっとここに来た子たちとは仲良くできるはず。」

「うん……。仲良くする。リトっちと同じぐらい仲良くする。部屋の場所も覚えてるからそこに住んでもらって、料理をふるまって、一緒に笑ったり泣いたり、それ以外にも……。」

 

 リトがカロナの口元を抑える。

 

「そういうのは口に出さなくていいんだよ? 言わなくてもちゃんとわかってるから。」

「やっぱりリトっちは意地悪だなぁ……。」

「ふふふ、よく言われる。カロナにだけだけど!」

「な、なにを~!」

 

 そういって二人は笑いあった。その笑い声は長くは続かなかった。リトの笑い声が消え、その姿もなくなっていた。

 突然一人になったカロナ。先ほどまで抑えていた涙があふれてきた。

 

「もう、リトっちは最後の最後までさよならを言わないんだから……。」

 

 涙が止まらない。一緒に過ごしていた時間は消えないし、その記憶も消えない。それなのにもうここにはいないと思うと、何も考えられなくなる。

 

「リト……! もっと一緒に居たかったよ……! リト……リト!!」

 

 その言葉は空に消えていった、呼んでも戻ってこない友達の名を何度も叫ぶ、叫ぶ、叫ぶ。

 

 

 声が枯れ、もう喋れなくなるほど叫んだ。風は止んで、音が止まった。

 リトが居た場所に何かが落ちていた。虹色の結晶のようなもの。カロナはそれを大事に握った。忘れぬよう、壊れぬように。

 

 その刹那、急に強風が吹いた。大木の向こう側から声が聞こえてきた。

 

「ちょっとここどこよ! だから変なところにはいかない方がいいって言ったでしょ!!」

「まぁまぁ、これも依頼だったんだからしょうがないって。ほらそこに誰かいるから聞いてみようよ。」

 

 見たことのない風貌の二人が向こう側からやってきた。

 

「やぁ、初めまして。ここがどこなのかを知りたいんだけど……何か知ってるかい?」

 

 カロナは目をこすり、笑顔でその質問の答えを答えた。リトにした、あの笑顔で。

 

「わたしはカロナ! ここはいろんな世界からいろんな人が集まるシェアハウスよ!」

 

 

 ここからカロナのシェアハウスでのはちゃめちゃな物語の幕が上がるのだった。




最後までお読みいただきありがとうございました!
次回はある方のオリフレ二人がシェアハウスにやってくるお話を書こうと思ってます。


今は最近Vtuberというものをはじめて様々な初めてを体験して四苦八苦しておりますが楽しくやっております。

次回もよろしくお願いします!
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