ダンジョンに来たの間違いだったかもしれない   作:くとぅるー

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プロローグ

 思えばその男――レンは生まれながらにして不運な男であった。

 

 まず生まれる前の記憶をそこはかとなく辛うじて薄々レベルで持って生まれてしまったし、生まれた直後助産師の手違いで産湯に沈み死にそうにもなったし、施設に預けられている途中、看護師の一人が他のベッドの赤ん坊と自分を取り換える所を目撃してしまったのもある。ある程度成長しても持ち前の不幸で生傷は絶えず、加えて偽親からは無関心だけ向けられて妹からは蔑まれるというあんまりな幼少期を過ごす事となる。

 

 だがお陰でレンは強かな少年として成長した。どれだけ見た目が平凡で中身が凡人以下のクソザコナメクジメンタルで幸運ランク最低ランクのFをしていたとしても、泥水をすすって這い進む程度の強さを持つに至っていた。むしろこの強さだけがレンを取り巻く不幸がもたらした唯一の恵みであった。それをレンが納得するかはともかくとして。

 

 そういう訳で、レンは13歳になった頃に親がいきなり蒸発したり妹が売春宿に売り飛ばされて(自分で作った借金による自業自得)悲鳴を上げながら黒服のやさしいおにいさんたちに連れていかれたりしても、どこぞの市松人形の如く微塵も動揺しなかった。どれだけ動揺しなかったというと部屋の押入れに只管隠れて全てが終わるまでただ身を震わせ続けたレベルで動揺しなかった。

 

 自分に被害が出ないと分かった途端部屋から出て、飯を食いながらレンは首を捻る。はて、これからどうするか。とりあえずこの地域には色々な意味で居辛くなってしまったので旅に出るとして、到着地点を決めない事には当てのない旅をするにはこの世界は危険に満ちている。道中に出るのは悪人だけではない。古に世界の果ての迷宮より湧き上がってきた悪鬼羅刹の子孫共が、血を薄くしながらも未だ地上を跋扈しているのはこの世界の常識だ。

 

 これからの事を考えるにあたって、レンはいつもの考えをまず最初に念頭に置く。それは『平穏』である。誰からも害されず、心穏やかに過ごしていたい。それがレンの生きる目標であり、そうなったらいいなの理想だった。

 

 この理想を実現させるためにはどうすればいいか。つまり、どこに行けばこの理想に一番近づけるのか。それを考えた時、レンは割とすぐに一つの答えを思いつく。というよりも、今まで温存していた思惟を捻りだしたと表現する方が近い。

 

 迷宮都市オラリオ。ここに行けば、金も手に入るし、他者に害されないまで強くなることが出来る。すなわちオラリオで一攫千金を当ててついでに強くなれば、いずれ心穏やかな生活を送る事が出来るようになるのでは?という考えだった。

 

 どう考えてもいけるな。何せこのレンは転生者なのだ。きっとメキメキ強くなれるにきまってる。勝ったな、風呂入りながら田んぼの様子見てあれを倒してしまっても構わんのだろうしてくる。もう何も怖くない…平穏が訪れたら結婚するんだ、俺…。

 

 そうと決まれば早速行こうそうしよう。冒険者になれば神様から恩恵っていうのを貰えてどんどん強くなりゅ!が出来るんでしょそうなんでしょ?なら超簡単じゃーん、と軽い気持ちで旅支度をして家にあった刀を一本手に持って準備は完了。

 

 それじゃあ、行くか!

 

 その先で、さらなる不運が産声を上げる時を今か今かと待ち構えているのを知らずに、若者は暢気に旅に出たのだった。

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