ダンジョンに来たの間違いだったかもしれない   作:くとぅるー

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2話目

 レンは今、猛烈にこの迷宮都市オラリオに来たことを後悔していた。

 

 迷宮都市オラリオは話で聞いていた以上に発展した街であった。人々にやせ細った人間はおらず、路地裏は怪しい人影がいるだけでゴミや浮浪者が積もっていたりなどはしない。遠くに見える摩天楼のなんと壮大な事か、レンは足元まで来てその長大なる塔を見上げた時、情けなくも足腰から力が抜ける感覚を覚えた程だった。

 

 この場所でなら――――レンはそう確信した。そして次の行動は早かった。冒険者になるためにはまず神の下ファミリアに所属しなければいけない。手当たり次第にファミリアのモノと思われるエンブレムが掲げられたドアを叩き、中にいる人間にファミリアに入れてほしい旨を伝えた。

 

「舐めてんのかこのクソガキ!とっとと帰れや!」

「ひぃぃぃ!?」

 

 結果は、初っ端から惨敗。こわもてのおじさんに赤面で怒鳴られてしまっては形無しであった。レンはべそをかきながら次の場所へ向かう。

 

「ああ?誰がどのファミリアに入りたいってぇ!?」

「ひぃぃぃ!?」

 

 二度の惨敗に、最初は自信満々だったレンはすっかり委縮してしまった。そもそもが根拠のない謎の自信だったのが、ろうそくの炎の如く弱弱しく吹き消された形となってしまったのだ。その顔は某電気ネズミの如くしわくちゃで、今にも泣きそうな顔で通りをトボトボと歩く。その姿はなんとも痛ましい。

 

 というのが、現状のレンであった。2度の失敗を経てすでにオラリオに来たことを後悔しまくっていた。

 

 そんな彼の事を可哀想に思ったのか、一人のやさしいおにいさんがレンに声をかけた。

 

「坊主、お前さんファミリアに入りたいんだってなぁ?」

「へ?」

「俺はカヌゥってんだ。ちょうどいいファミリアがあるんだけどよ…寄ってかない?」

 

 にぃぃぃ、と卑下たアルカイックスマイルを浮かべるカヌゥ。その目は暗く湿っているもののなんだか優しい感じに見えた。レンはこくこくと頷いて、カヌゥに肩を引かれるままに歩き出したのだった。

 

 連れていかれた先は、ソーマファミリアという非常にかっこいい名前のファミリアだった。ホームは湿った洞窟のように薄暗く、カヌゥに引き連れて入ってきた一人の少年をじろりと湿気を帯びたうすら寒い視線で出迎える団員達。誰がどう見てもマジヤバイ系ファミリアだったことに、レンは今更ながらに自分が今どんな状況に置かれているかを悟った。

 

「あ、あの、やっぱり僕帰りますぅ…」

「いやいや遠慮すんなって。まずはこれでも飲んでけ、なっ?」

 

 そういって渡されたコップには、ほんの少しだけ水のようなものが入っていた。一口飲めば消えてしまうような、そんな量だ。

 

「あっ!!!カヌゥてめえ…何のつもりだ!?」

 

 他の団員が声を荒げた。何せこの場にいる全員が、この酒欲しさに狂ったようにダンジョンに潜って金を稼ぎ続けている狂人共なのだ。そんな彼らの目の前で、喉から手が出るほど欲しがっている酒をほんの少量とはいえファミリア外の、しかも華奢なガキに飲ませるとは何事かと目を吊り上げていた。

 

 対するカヌゥは飄々としたものだった。

 

「まあ落ちつけよ。そもそもこの酒は俺のだ、お前らのじゃねえ。そして俺はそろそろ奴隷の一人か二人欲しかったところでなぁ…さあ、飲めや坊主。一息にグイッと。さあほれ」

 

 かたかたと震えるレンは、言われたとおりにコップを傾けた。そして中身を煽る。アルコール独特の渋い味が口いっぱいに広がり、レンは思わず「ぶぇ!!!」と中身をコップの中にリバースした。

 

 レンは天性の下戸であった。酒の種類がどうこうとか、アルコールの強さがどうこうではなく、まずアルコールのあの渋い風味と苦みがダメな、最も酒に適性が無いタイプの下戸だった。

 

 そして無知でもあった。レンには酒の良さが分からぬ。レンは日々惰眠を貪り、ジュースを飲んで生きてきた。そんなレンにとって、今飲んだ酒のなんとアンブッシュめいた味な事だろう。

 

「まっず!あ、やべっ」

「…なんだと?」

「…僕そろそろ失礼しますね!それじゃっ!」

 

 恩恵無しの人間とは思えないほど素晴らしい逃げ足で、ぶるんと腕を振って駆けだしたレン。驚愕に動きを止めたカヌゥ達の意識を縫って外に飛び出した。その後の事は知らない。ただカヌゥが自分の吐き出した中身を飲もうとしていたところを見た気がしたが、お尻の穴がきゅっと悲鳴を上げたので見なかったことにした。奴隷が欲しいって、まさかそういう…。

 

「はあ…はあ…」

 

 もう十分離れただろう。レンは肩で息をしながらその場で立ち尽くした。汗が頬を伝い、気道が砂漠のように乾いて痛い。「なんだよこれ…」とレンは叫び出した。

 

「なんなんだよ、これ!僕が一体何をした!オラリオ怖い!オラリオ怖い!」

 

 帰してお家に帰して…、最後の言葉は、掠れてほぼ口の中で転がしただけになっていた。精も根も尽き果て、その場に座り込む。レンの予想では今頃ファミリアに入って、エルフ耳美少女先輩に優しく手取り足取り冒険者の基礎を習っている筈だった。そんなに現実は甘くないと運命の女神は鼻で笑っていた。

 

 しばらく休憩した後。

 

 よくよく見て見ると、ここは路地裏だった。そして目の前には分かれ道。レンはこの二本の道を成功か失敗かの二択に見立てて、どちらか片方を選びたくなった。ただの気まぐれ、現実逃避の類である。

 

 ここでレンが思い出すのは、クラピカ理論という考え方だった。人間は左右のどちらに行くか迷った時に、無意識に左を選ぶ事が多いらしいというもので、これはすでに医学的にも実証されているし、古事記にも書かれている。何だったら万葉集にだって書かれている可能性もある。由緒正しき理論であった。

 

 故にレンは右を選ぶことにした。そうして進むと、けったいな二人組に出会った。

 

「あらあら、こんなところに迷子がいるわ、私(ステンノ)?」

「本当だわ。なんて可哀想なのかしら、ねえ、私(エウリュアレ)?」

 

 くすくすと笑みを浮かべて、レンの前に立ちはだかる少女たち。その完成された美を目にして、レンは彼女たちこそが自分が探し求めていた神であると悟った。なんたって太ももが良い。大きい胸も好きだが、しかし控えめな胸も良い。サンドイッチされたい。

 

「ぼ、ぼぼぼぼ僕を貴方のファミリアに入れてくださいいい!」

 

 その日、レンは(ぶっちゃけどうでもいい)運命と出会う。

 

 

 

――――――――――――――

 

 

 

 そのころ、左側の道の向こうでは。

 

「くしゅんっ…うーん、風邪かなぁ…って、あれ、こんなところでどうしたんだい、少年?」

「うぇ…?あ、あなたは…?」

 

 かまどの女神と、兎の少年が運命の出会いを果たしていた。

 

 これは一人の少年が英雄へと至る物語…の隅っこで、なんかわちゃわちゃしてる一人のモブキャラの生きざまを淡々と描くだけの物語である。

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