ゾンビランドミカ 作:裏方さん
この番外編は別の物語で投稿していたオリヒロと八幡の話になります。
その中から、今話は二人の出会い編。
すみません、ゾンビランドサガのメンバーは出てきません。
もしそれでもよろしければ、宜しくお願いいたします。
一本目 ある台風の日に
”ガタンガタン、ガタンガタン”
「ス~、ス~」
”ガタン!”
はっ! はっ?
”キョロキョロ”
やば、俺寝てたのか。
「ふぁ~あ」
”ガシガシ”
新幹線乗るまでは何とか起きていないとな。
えっと、こんな時はっと。
”カチャ”
やっぱりこれだな。
”ゴクゴクゴク”
「ふぅ~」
一口飲むごと、徹夜明けの疲れた脳みそにブドウ糖が染み渡り、
活性化される。
まさにマッカンこそは千葉県民のソウルドリンク。
元気つづきMAX!
「・・・・・・」
”ガタンガタン、ガタンガタン”
ご、ごほん。
さ、さてっと・・・嬉野だな。
一応、前回回りきれなかった観光名所の最も効率的な巡り方は調べた。
何とか昼前に佐賀に着けば、明日一日はゆっくり嬉野を回れるはずだ。
唯一、気がかりといえば。
”ビュ~”
・・・やっぱり結構、風強いな。
車窓から見える木々の枝はこれでもかっていうぐらい揺れてる。
そうなんだ、千葉では今の季節になると風が強く天気の変化が激しい。
今日も出がけの天気予報で低気圧がなんだかんだって言ってたな。
総武線、徐行運転にならなければいいんだが。
”ゴクゴク”
「ふぅ~」
だが以前なら風が強いとすぐ運休になったもんだ。
それと比べると強くなったもんだ。
まあ、当時は風に弱いのは総武線だけじゃなくて、
もし台風なんかが来ようものなら、
京葉線とか常磐線とかあまたの鉄道がマヒして、
千葉は陸の孤島と化してたからな。
台風の翌日なんか、台風の所為にして堂々と遅刻できたし。
俺自転車通学だったから本当は関係なかったのだが。
はは、あの当時がなつかしい。
・・・・・・台風っか。
”ガタンガタン、ガタンガタン”
・・・・・・そういえば、あいつと初めて出会ったのも台風の日だった。
”うとうと”
・・・もしあの日、台風が来てなかったら。
”こく、こく”
・・・もしあの時、廊下の窓が・・・開いて・・・なか・・・ったら。
”ガタンガタン、ガタンガタン”
・・・俺は・・・俺たち・・・は・・・
”ぐぅ~、ぐぅ~”
ーーーーーーーー
「起立! 礼!」
”ガタガタ”
お、終わった~
さ、今日はぐずぐずしてられない。
速攻で帰るんだ。
なにせ今日は待ちに待ったあのラノベの新刊発売日!
どれだけ今日という日を待ったことか。
前巻の発売から約1年。
な、長かった~
もうあの作家、書くのやめたんじゃないかって思っていたぐらいだ。
それに前巻のラストがラストだっただけに、どれだけ悶々とした日々を
過ごしてきたことか。
その苦しみからようやく今日解放される。
だから、何人たりとも今日の俺を止めることはできない、許さない!
よし、早速由比ヶ浜に部活をサボることを伝えて帰るとするか。
「由比ヶ 」
「比企谷、後から職員室に来たまえ。
いいな」
「へっ」
な、な、な、なんだと!
平塚先生、今何と。
「す、すみません、今日はアレがアレなもんで」
”ボキボキ”
「何か言ったかね」
「・・・・・・な、なんでもないっす」
ぐ、ぐ、ぐぞー!
お、横暴だ。
こ、こうなったら部活だけでもサボって。
「由比ヶ浜」
「あ、ヒッキー、あのね、今日部活来てくれるよね」
「え、あ、い、いや」
「来ない・・・の?」
え、な、なんでそんな目で。
そんなウルウルした目で見られたら・・・
”ガシガシ”
まぁ、確かに夏休みが明けてから奉仕部の雰囲気があれだからな。
・・・・・・被害者と、加害者か。
「ヒッキー」
「わ、わかった。
呼び出し終わってから行くから、少し遅くなるって雪ノ下に伝えておいてくれ」
「うん。
じゃあ、待ってるねヒッキー」
「お、おう」
”タッタッタッ”
はぁ~、仕方ない。
さてっと職員室行くか。
”スタスタスタ”
夏休み、林間学校からの帰り。
校門の前に止まった一台の黒塗りの車。
見間違えようのないエンブレム。
そう、間違いない。
高校入学式の日に俺はあの車にはねられた。
その結果、三週間の入院。
俺の高校ぼっちが決まった瞬間だ。
そしてその車は校門で雪ノ下を・・・・・・乗せて行った。
被害者と加害者。
・・・わかってはいるんだ。
彼女には何の非もない。
当然彼女が運転していたわけでないし、十分な謝罪も受けたそうだ・・・親が。
俺は入院してて知らんけど。
それに轢かれそうになった由比ヶ浜の犬を助けるためとはいえ、
いきなり飛び出した俺にも非がある。
だからあの車が彼女の家の車だったとしてもそれは終わったこと。
彼女がだまっていたことに対し責める気なんて毛頭ない。
だが、だけど俺は・・・
雪ノ下は強い・・・・・・だから・・・
わかっている。
それは俺の勝手な思い込みだ。
勝手に彼女はこうあるべきだと決めつけ、理想を押し付け、
そして勝手に幻滅し、裏切られた気になっていただけなのだ。
そんな俺に俺は嫌悪感を持っている。
ただ、それだけなんだ。
”トボトボトボ”
なら、どうすればいい。
どうすれば、以前のあの関係を取り戻すことができるのだろうか。
「はぁ~」
”キャキャ”
ん、あの女子達、廊下で何騒いでんだ。
いや、そんなに窓から身体を投げ出すと危ないぞ。
・・・スカート短いし。
「ねぇゆっこ、すごい風だね」
「本当だ、あの木なんか今にも折れそう」
”びゅ~”
確かに今日は結構風が強そうだ。
そういえば、台風が近づいているってテレビで言ってたな。
「遥、これ部活中止じゃない?」
「あるある」
そっか、そうだよな。
この風なら部活中止もありうる。
いや、中止にならなくても早く切り上げるよう学校から指示がでるんじゃないか。
だって総武線、風に弱いから。
総武線だけじゃない、下手をすると千葉中の鉄道が止まる可能性あるからな。
よし、ならさっさと用事済ませるか。
そして部活が終わったら速攻であの書店に。
あ、その前に、マッカンでも。
”くる”
「あっ」
”どん!”
「きゃっ」
「うわっ」
”どさ”
いてててて。
後ろに誰かいたのか。
えっと~、大丈夫だったのか?
”ちら”
し、白ー!
しかもリボン付き!
こ、これが噂のラ、ラッキースケベなのか。
お、おお~
”ごく”
・・・・・・はっ、いや、そんな場合じゃない。
「すまん」
怪我はしてなさそうだな。
とりあえず散らばった資料を集めて。
”ビュ~”
「あっ」
やばい、今の突風で資料が一枚、窓の外に落ちた。
さっきの女子達、窓閉めて行かなかったのか。
この風だと急がないとまずい。
”タッタッタッ”
「〇△☓□、〇△☓□・・・・・・〇△☓□!」
”ちら”
あの女子、何か叫んでる。
や、やっぱり怒るよな。
だが今は・・・・・・まぁ、謝るの後だ。
”タッタッタッ”
・
・
・
”ガサガサ”
おかしいな。
ここにも落ちていないっか。
風向きからするとこっちのほうに飛んでいったのは間違いないはずなんだが。
もしかして校外にまで飛んでいったんじゃねえか。
・・・・・・マズイな、そうなると見つけるのは無理だ。
”ガシガシ”
とにかく、もう少しグラウンドのほうまで探してみるか。
「お~い、そこあぶねぇべ」
”ヒュ~”
え、ボ、ボール?
”ボゴ!”
「ぐはぁ~」
”どさ”
いててて。
な、なんでサッカーボールが。
「わりいわりい大丈夫って、あれ~ヒキタニ君じゃね。
顔面直撃したみたいだったけど大丈夫?」
くそ、戸部か。
なんでこんなとこまでボールが。
・・・あっ!
そっか、そこにあったのか。
探していた資料は校庭の木の枝に引っかかっていた。
見つからないはずだ、ずっと下の方ばっかり探していたからな。
「ごめんな~ヒキタニ君。
いや~ほら、今日洒落なんないほど風強いっぺ。
クリアーしたボールがよ、風に乗ってそんでここまで来たんだわ。
でもマジ大丈夫?
鼻血でってっけど」
「戸部!」
「え、あ、いや、マジわるかったわ~
勘弁な」
「サンキュ~
助かった。
ほれボールだ」
「え?
あ、あの、お、おう。
じゃ、じゃあ」
”タッタッタッ”
よし、それじゃ。
「はっ!」
”ピョン、ピョン”
くそ、だめだ、このままでは届かないか。
どこかに脚立か何か。
「何やっておるのだ八幡。
さっきからピョンピョンと。
その姿は、まさにヒキガエル。
ぷぷぷぷ」
「うるせぇ。
今忙しい。
材木座、あっち行け」
「ぶひー
あまりなものの言いようではないか。
我と貴様はあの地獄のような修羅場を潜り抜けてきた戦友ではないか」
げ、本当に面倒な奴。
戦友って、体育の時間に準備運動のペアだっただけじゃねえか。
今は、こいつにかまっている暇はない。
無視だ無視!
えっと、脚立か台になるものはっと。
”キョロキョロ”
「ね、ねえ八幡聞いてる?
そうだ、喜べ八幡。
とうとう我の新作が完成してだな、貴様に一番に読ませてやろうと
持ってきたのだ」
どこかに足場に・・・・・・あ、そうだ。
材木座に肩車してもらえば。
「材木座、いや戦友。
折り入って頼みがある」
「せ、戦友?
ぶはははは。
なんだ言ってみろ。
貴様と我は古より主従の関係。
主としては、僕である貴様の頼みぐらい聞いてやらんでもない。
さ、言ってみるがよい、我が僕、比企谷八幡!」
「・・・・・・」
「八幡?」
「材木座」
”ぐぃ”
「へ、あ、いやなにを。
は、八幡~」
「・・・足場だ」
”ぐりぐり”
「あたたた、せ、せめて靴を脱いでくれ。
げふぉ、あ、頭を踏むでない」
・
・
・
”そー”
「えっと、庶務先輩いるかなぁ。
他の生徒会のみんなに気付かれないように、
失くした資料をもう一回印刷してもらわないと」
”キョロキョロ”
・
”タッタッタッ”
「はぁはぁはぁ」
くそ、材木座の野郎が暴れるんで、大分遅くなったじゃねえか。
急がないと・・・
『比企谷、遅かったな』
”ボキボキ”
さ、さ、さっさとこの資料渡して職員室行こう。
”ピタ”
ま、待てよ。
さっきの女子、どんな顔してたっけ。
この資料は今度の文化祭の資料だから、きっと生徒会役員の誰かだと思うが。
生徒会の役員って・・・・・・・
ま、まぁ、普通生徒会なんてあんまり関わり合いないからな。
え~と、顔、顔っと。
・・・・・・白。
い、いや違う顔だ顔。
それも憶えていたいけど。
ご、ごほん!
絶対見ているはずなんだ。
よく考えれば必ず思い出せる!
・・・・・・白。
い、いや。
・・・・・・白。
あ、あの~
・・・・・・リボン付き。
ぐ~、だ、駄目だ~
あの白いもの以外思い出せん。
ま、まぁ、とにかく生徒会室に。
”スタスタスタ”
「ぶつぶつぶつ」
ん、生徒会室のドアのところになんかいるんだけど。
・・・何やってんだあの女子。
なんかドアの隙間から生徒会室覗いてぶつぶつ言ってるんだが。
ん、あの手に持っている資料って・・・・・・そ、そうかこいつか。
後ろ姿で顔は見れないが、手に持っているのは同じ文化祭の資料だ。
「すまん、ちょっといいか?」
”びく!”
「あ、ごめんなさい、わたし怪しい者じゃなくて生徒会の・・・
え、あ、あなた」
「・・・地味」
「はぁ?」
「い、いや何でも・・・」
やべ、つい声に出ちまった。
だけど、それくらい地味。
肩ぐらいの髪を真ん中に分けて、それをゴムでまとめて。
目や鼻や口は全て普通。
なんか何の特徴もないんだよな~
せめて眼鏡ぐらいしていればアクセントになるんだがな。
これじゃ顔憶えられて無くても仕方・・・・・・
はっ!
な、なんかすげー睨まれてんだけど。
・・・ま、そ、そうだな。
資料を追いかけるためとはいえ、ぶつかったままにしてたからな。
見たところ怪我とかはしていないようだし、面倒なことにならないうちに
さっさと資料渡して職員室行くか。
「あ、あのな、これお前のだろ」
「あ、うん、そうだよ」
「いやな、あんとき一枚窓の外へ落ちたのが見えたんだ。
急いで探しに行ったんだが、ほら、今日風が強いだろ、結構飛ばされて。
すまん、なかなか見つからず大分遅くなっちまった」
「あ、ありがとう。
ごめんなさい、なんかわたし」
「じゃあな」
さて、用事も済んだことだし、職員室行くか。
「あ、待って」
ん、なんだ?
”ちょいちょい”
え、なんだその手?
しゃがめっていうのか?
まぁ、何かわからないけど。
”ズン”
は、い、いや近い近い近い。
すげ、顔近いんだが。
な、な、なんでそんなに接近して。
もしかして資料拾ってきた俺に感動してお礼の・・・
「よっと」
”ひょい”
「うん? お、お前何を」
「はい、木の葉ついてたよ」
え、あ、木の枝に引っかかった資料とってた時に。
・・・・・・そ、そっか。
「お、おう、あ、ありがとうさん、じゃあ」
「うううん、こっちこそ、ありがと」
”にこ”
「じ、じゃ、じゃあ」
”スタ・・・スタ、スタ・・・スタスタスタ、ダー”
な、なんなんだ今の!
”ドキドキドキ”
まだ、心臓がどきどきしてる。
「・・・・・・ありがとっか」
名前なんて言うんだろ。
「・・・・・・」
はっ、何考えてんだ俺!
またそうやって勘違いを。
”ガシガシ”
くそ、また黒歴史を繰り返すところだったじゃねえか。
希望を持たず、心の隙を作らず、甘い話を持ち込ませず!
ボッチ道を極めた俺には通じない。
ちょ、ちょっと危なかったけど。
きっとあの女子にとってはあんなの普通、普通のことなんだ。
そう、それは”おはよう”とか”こんにちは”とかあいさつと同じ程度のものなのだ。
きっと誰にでもあんな風に接して、
きっと誰にでもあんな風にあの笑顔を見せるのだ。
そう、それはきっと普通のことなんだ。
・・・・・・俺はもう勘違いしない。
・
・
・
「・・・みんなが言うから、みんながそうするから、そうしないとみんなの中に
入れてもらえないから。
誰かを貶めないと仲良くしてられない、そんな生贄を求めないと維持できないような
関係なら、そんなものぶっ壊してしまえばいい」
「比企谷」
「・・・・・・林間学校のあの短い時間であの問題は解決はできないですよ。
でも問題の解消はできる」
夏休みの林間学校での一人の女子小学生に対するいじめ。
生贄は生贄らしく。
それが子供王国の腐りきったルールだ。
『惨めなのは嫌か』
『・・・・・・うん』
ぐっと嗚咽を堪えるようにうなずくその子の瞳には、今にも零れ落ちそうな
くらいの涙が溢れていた。
だから俺は・・・
「で、人間関係に悩みを抱えるのなら、それ自体を壊してしまえば悩むことは
なくなるっか」
「負の連鎖ならもとから断ち切らないといけない」
「ふぅ~、そういうことか。
まぁ、一度ちゃんと君の口から事の詳細を聞きたかったからな」
「・・・・・・うっす」
「まったく、君という奴は変わらんな」
「そんなに簡単に変わるものは主義とは言わないでしょう。
先生だって独身主義を貫いて 」
「抹殺のラスト・ブリット!」
”ドス!”
「おわ」
”ふらふら”
ぐ、い、いってぇ~
ぼ、暴力反対・・・
’どん”
え、な、なに?
なんか柔らくてあったかいものに顔が・・・・・・
え、えっと~、も、もしかして、こ、この膨らみって。
「キャー」
え、や、やっぱり!
”べし”
「ぐはぁ」
い、いってぇー
なにかが脳天にずっしりと・・・
”ズデン!”
し、死んだ。
「な、何すんだこの変態野郎」
「ほほう、なかなかいいチョップをしてるな。
確か城廻のとこの三ヶ木だったかな」
「は、はい。
あ、平塚先生、これ明日の文実の資料です」
えっ、この声ってさっきの女子?
あの女子なのか?
えっと~
”チラ”
やっぱりこの位置から顔は見れな・・・・・・白!
白にリボン。
スカートと太腿の間から見えるあの神々しいものは・・・ま、間違いない、
こ、これはやっぱりあの時の女子のおパンツ。
「おう、そこに置いておいてくれたまえ。
それで、君はいつまでそこでうずくまってるのかね。
それともその女子のスカートの中でも覗いているのか」
げ、げぇ!
「はぁ! なにこの人、最低」
「いや、ちが、決して覗いていない。
平塚先生、あんたなんてこと言うんだ。
お、俺は決して白いものなんか見てない!」
「「あっ!」」
”べし”
ぐ、ぐはぁ~
2発目のチョップ~
”ドサ”
「ひ、平塚先生、失礼します」
「おう、ご苦労だった」
”ガラガラ”
いてててて。
くそ、あのチョップ、食らう度に目から火が出て頭がクラクラと。
・・・しかし、あれ完全に変態を見る目だったなぁ。
だ、だが、あれは覗こうと思ったわけじゃない。
か、顔を確認しようとして偶然に。
だ、だから俺は無実だ。
「ひ、平塚先生!
あんた 」
「比企谷、鼻血拭きたまえ」
「えっ」
”ぽたぽた”
「あっ」
・
・
・
”ガタガタ、ガタガタ”
風、めっちゃ強くなってきたな。
部室の窓枠の悲鳴がどんどんでかくなってきた。
本格的に天気がひどくなる前に帰れればと思っていたのだが、
完全下校時間近くになって、ようやく平塚先生に帰宅を施され帰り支度を
しているところだ。
今日はもっと早く帰りたかったのだが。
ラノベの新刊買いたいし。
それに、
『なにこの人、最低』
・・・・・・いろいろあったからな。
まだあの衝撃が残ってるし。
”なでなで”
「ん? ヒッキー頭撫でてどうしたの?」
「あ、いやなんでもない」
「ふ~ん。
ヒッキー、部室閉めるよ」
「あ、ああ、いま行く」
”スタスタスタ”
「すまん待たせた」
”ガチャガチャ”
「・・・私は鍵を返しに行くから」
「うん。
じゃあまた明日ね、ゆきのん」
「ええ」
”スタスタスタ”
「行くか」
「うん」
・
”ビュ~”
うへ~、やっぱり外は風が強い。
それにあの真っ黒な雲、今にも雨が降り出しそうだ。
合羽、買ってきておいて正解だったな。
こんな強風の中、傘を差しての自転車はちょっときつい。
心折れるレベルだからな。
それじゃ帰るか。
「由比ヶ浜、俺チャリだから」
「うん。
じゃ、バイバイヒッキー。
・・・・・・あ、あのね、今日は部活来てくれてありがとう」
「お、おう」
”スタスタスタ”
・・・・・・ありがとうっか。
そろそろあの雰囲気何とかしないとな。
被害者と加害者。
林間学校の帰り、あの件があってから奉仕部の空気は重い。
全員が全員頑張って話をしようと会話の糸口を探っている、
そんな日々が続いている。
いい加減、マジ何とかしないと。
「はぁ~」
”ガシガシ”
「・・・帰るか」
”テクテクテク”
「ふんふんふ~ん♬」
ん、あ、こ、この声は。
”サッ”
え、な、なんで俺隠れてるの。
・・・ま、まぁ、職員室の件があったからな。
いま顔合わせたら待ち伏せしてたんじゃないかって思われるかもしれん。
それだけじゃない、下手したら通報されるレベル。
通報されないとしても、きっとラインとかで拡散されて明日の朝には
大変なことに。
『おい聞いたか、2-Fの比企谷、女子待ち伏せしてたんだって』
『こわ~』
『それだけじゃなくて、一日中ずっと付け回していたんだってよ』
『マジかよ』
・・・こ、ここはやっぱり隠れておこう。
君子危うきにってやつだ。
・
”キョロキョロ”
よし、もういないよな。
さ、さっさと帰るか。
・・・しっかし。
”ザー、ザー”
とうとう雨降りだしてきてしまった。
しかもこれ豪雨じゃねえか。
はぁ~、傘、自転車置き場なんだよな。
仕方ない走っていくしかないか。
まぁ自転車のとこまで行けば合羽もあるし。
それじゃ行く
「ひゃ~」
え?
”ダー”
げっ!
あ、あいつ戻ってきゃがった。
やべ。
”サッ”
く、くそ、なんで戻ってきたんだ。
”そ~”
ん、なんだあいつびしょ濡れじゃねえか。
傘は・・・・あ、あれは傘というものだろうか。
あいつが手に持っているもの、あれはワイヤーオブジェか。
お、おい、ついてたビニールはどうしたんだビニールは。
”びゅ~”
そっか、この強風で傘が。
それであんなにびしょ濡れになって。
へっ!
あ、あのシャツから透けてるピンクのって。
「お、おい、あれ」
「うほぉー」
あ、あいつ、気が付いていないのか?
通り過ぎる男子の好奇の視線に晒されているぞ。
ほ、ほら、あの男子、スマホ持ち出しやがった。
ちっ、くそ、まったく!
”スタタタ”
「はぁ~、雨降ってるのか」
「あ!」
い、いや、何その顔。
そんなに嫌な顔しなくても、まるで食事中にGを見つけたように。
いや、まぁ職員室の件があるから仕方ないけどな。
・・・・・・マジ、シャツびしょ濡れでスケスケじゃねえか。
”ゴクッ”
はっ、い、いやそんな場合じゃなかった。
えっと~
そ、そうだ、ごく自然に気が付いたように。
「お、おうっ。
は! お前・・・・」
「なに、なんか用?」
「いや、その、なんだ・・・透けてるぞ」
「はぁ?」
「じゃあな。」
”タッタッタッ”
「げっ!」
・・・よかった、気が付いたみたいだな。
まったく。
さて、あとはっと。
・
”タッタッタッ”
「はぁはぁはぁ」
よかった、まだいた。
玄関の片隅で雨が上がるの待っている。
まぁ、傘壊れてるしな。
それにあの格好じゃ帰れない。
だが、いつまでもそんなとこにいたら・・・
”スタスタスタ”
「おい」
「へ?」
”ばさ”
「そんな格好じゃ風邪ひくぞ。
あ、あのな、これ買ったばっかりだから。
まだ一度も着てねぇ~から。
まぁなんだ、嫌でなかったらこれでも着ろ。
・・・貸してやる」
「え、あ、合羽。
でも、あなたはどうするの?
合羽ってことはあなた自転車でしょ?」
「ははん、問題ない。
俺には傘があるからな。
お前の傘のような根性のない傘とは違うぞ。
すげぇ高かったから。
大事なことだからもう一回言う、すげ~高いやつだから」
いや本当はそこに無残な姿をさらしているお前の傘と同じビニールの傘なんだが。
ま、まぁ、そう言わないと合羽受け取らないだろうからな。
「な、なによ、いいじゃん別に安くたってさ。
無くなったって気にならないじゃん」
そうだよな。
俺も小学校の時、買ってもらったばっかりの傘を
いきなり盗まれたんだ。
それもビニール傘じゃないやつを。
それで雨に濡れて帰ったら、すげぇ怒られた。
めっちゃ高かったんだって。
・・・母ちゃん怒るのはそこかよ。
ま、まぁだから俺もビニール傘派だ。
いつ盗まれもいいように。
「そ、そうか。
まぁ、だから俺のことは気にするな」
「あ、でも自転車で傘って危ないって」
「ふふふ、俺のテクニックを甘くみるな。
じゃあな」
「あ、ありがと」
”ニコ”
「お、お、おう」
”タッタッタッ”
な、な、なんだあいつ。
笑うとそこそこかわ・・・・・・
ご、ごほん!
でもなんで俺ここまで。
あの女子、今日会ったばかりなのに。
「・・・・・・」
ま、まぁ、これで職員室の件はチャラのはずだ。
もうネットでたたかれるようなことはないはずだ。
だからこそ俺はこんなことを・・・したんだ、多分。
さ、さてっと。
この時間ならまだあの帰り道の書店に寄って帰れるはずだ。
今日の新刊、ちゃんと予約しておいたからな。
さっさと帰ろ。
・
・
・
”ザー、ザー”
「・・・・・・」
”ビュ~、ビュ~”
「うぐっ」
くそ、必死で自転車漕いでいるんだが、この向かい風の所為で
漕いでも漕いでも、全然前に進んでいる実感がない。
それにこの雨で濡れたYシャツが肌にくっついて、すごく気持ちが悪い。
仕方ない、傘やっぱり差すか。
この風だから傘をさすと、すげぇ自転車運転しづらくなるのだが、
仕方がない。
”バサ”
ふぅ、これで雨はしのげる。
さて行くか。
”ビュー!”
「おわぁ!」
”バキ、バキバキ、グシャ”
げ、げぇー!
お、俺の傘が・・・・・・傘がぶっ壊れた。
・・・・・・はぁ~
い、いや、まだだ。
あの角!
あの角を曲がればラノベを予約した書店。
まだ心折れるわけにはいかない。
よし!
もともとびしょ濡れなんだ。
傘なんてなくても。
”ギ~コ、ギ~コ”
ペダル重てぇ~
だ、だがここを曲がれば!
「・・・・・・な、なんだと」
”ガシャン”
な、な、なんでだ!
”ダー”
なんでシャッターが下りてんだ。
朝、ここを通った時には間違いなく開いてた。
営業していたはずなんだ。
「はぁはぁはぁ」
まだ、閉店には時間あんだろ。
なんで・・・・・・え、貼り紙?
『台風接近のため、安全を考慮し営業時間を短縮いたします』
なんだと・・・・・・
”ビュ~”
強風でいろんなものが飛ばされていく街の中で、
ただ、俺だけが雨の中取り残されていた。
「びぇっくしょん!」
ーーーーーーーー
「ふぁ~」
す、すごく眠い。
昨日の台風は一晩で去ってしまい、朝方には空は晴れて
いつもの日常に戻ってた。
くそ、本当に最近の台風は根性がない。
てっきり今日は台風を理由に遅刻できると思って、
昨日は思いっきり夜更かししてしまった。
だ、だってラノベの新刊を手に入れられなかったショックはあまりに大きく、
跡形もなく粉砕された俺の心の1万2000枚の装甲を修復するには、
録画していたプリキュアを全て観るしかなかった。
おかげでN²爆弾ぐらいには耐えられるくらいには修復できたが。
”ふら~”
や、やばい。
何とか授業は眠らずにすんだが、や、やっぱり横になって寝ないと。
そうなれば行くところは決まっているのだが。
・
”トボトボトボ”
特別棟にある保健室までの童貞、い、いや道程がやけに遠く感じる。
こんなに遠かったっけ。
だが、ようやくたどり着いたようだ。
”トントン”
「あ、はいどうぞ」
”ガラガラ”
ん、あ、先客がいたか。
女子生徒と養護教諭が雑談していたみたいだが、俺が入ってくると
お喋りもピタリ止まってしまう。
女子生徒は後ろ姿しか見えないが、居心地悪そうにスマホに目を落としていた。
なんだか悪いことをした気分だ。
「おやおや、静ちゃんのとこの子だね」
白衣を着た妙齢の女性、養護の先生が俺をしげしげと眺めてそう言った。
さ、ここからが俺の演技力の見せ場だ。
ちょっとだるそうな雰囲気を醸し出してっと。
「なんか風邪っぽくて」
完璧だ。
こういう時は無類の演技力を発揮するのが俺だ。
そろそろ風邪の使い手と呼ばれてもおかしくない。
「素人判断は危険よ。
見せてごらんなさい」
な、なんだと!
この養護教諭は俺の渾身の演技を軽やかにスルーした。
”ジー”
う、養護教諭の先生は俺の嘘を見破ろうとじっと目を見つめてくる。
い、いや、麗しき女性にそんなに見つめられると・・・・・・
わ、わりと綺麗だし。
やば、心臓がバクバクしてきた。
・・・・・・正直、年上の女性っていうのも嫌いじゃない。
むしろ10年早く生まれていたら、10年早くあの人と出会っていたら
きっと俺は・・・・・・
「・・・・・・これは風邪だねぇ」
「診断は早いっすね・・・・・・」
「だって、そんなどんよりした目をしてるんだもの。
病気にきまってるじゃない」
な、なんだと。
それだと、俺は四六時中病んでいることになっちゃうんだが。
「それに、心なしか顔赤いしね」
「・・・・・・」
い、いや、それはあんたがじっと見つめるから。
「どうする、ここで休んでいくかい?」
「あ、じゃあ」
”シャー”
「奥のベッドね」
「うっす」
”シャー”
手短に返され、素直に従った。
カーテンで仕切られたベッドにはきれいに折りたたまれたタオルケットがある。
それを腹にかけると俺は寝ころんだ。
「え、どうしたの、大丈夫?
なんかモジモジしてるけど」
「いえ、あの、そ、その~
べ、べ、別になんでも・・・ないです」
ピンクのカーテンの向こうでは、またお喋りが再開されている。
微睡みに落ちていく中、その声だけが微かに耳に残った。
・・・・・・どこか・・・で聞いたような・・・声・・・だ・・・な。
「スー、スー」
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”ガタンガタン、ガタンガタン”
「次は品川~、品川~
東海道新幹線をご利用の方は乗り換えです」
「ぐぅおー、ぐぅおー、スー、スー」
最後までありがとうございます。
ゾンビランドとは関係なくすみません。
本編の補足と思って、ご容赦いただけたらありがたいです。
次回投稿は、第一章の最終話 嬉野温泉編。
また見に来ていただけたらありがたく、宜しくお願いいたします。
ではでは。