ゾンビランドミカ   作:裏方さん

11 / 11
お、お久しぶりです。
すみません、亀更新と言いながらここまで更新遅れるとは。

え、えっと、今回は番外編。
前回の番外編と同じで、別の物語として投稿していた
駄作の中のプロム編(前編)です。

すみません、ゾンビランドサガのメンバーはまったく出てきません。
本編の補足と思っていただければ。
また文字数も35,000字越え。
も、申し訳ないです。
それでもよろしかったらお願いしますです。

※俺ガイル ネタバレ要注意です。
 原作まだの人は気を付けてください。 



二本目 プロム 二人の別れ(前編)

「お兄ちゃん、本当にもう忘れものない?」

 

「大丈夫だ。

 それにしばらくはホテル住まいだからな。

 最低限、生活するのには困らない。

 まぁ、何か必要なものがあったら連絡するわ」

 

「本当に大丈夫かなぁ」

 

”スタスタスタ”

 

「うふふ、本当にお兄さん思いなのね」

 

「あ、雪乃さん、どうもです。

 こんな兄ですが、どうぞ末永く宜しくお願いします」

 

”ペコリ”

 

「ほら、お兄ちゃんもお願いして!」

 

「え、お、おう。

 不束者ですがよろしくお願い・・・・・・ってなんか違うだろ!」

 

「ちっ!」

 

「ちっじゃねえ。

 ・・・まったく。

 じゃそろそろ行くか」

 

「ええ」

 

「あっ!

 ちょ、ちょっと待っててお兄ちゃん」

 

”ダー”

 

「ん?

 お、おい小町、電車の時間まだ余裕あんから、

 走らなくていい」

 

「らじゃー」

 

「本当に仲がいいのねあなた達」

 

「まあな、俺は小町を愛してる」

 

「・・・はぁ~、本当にシスコンね。

 これじゃ小町さんがお嫁にいくときはどうなるのかしら」

 

「こ、こ、小町が嫁だと!

 そんなことは俺が絶対に許さん。

 雪ノ下、世の中には言っていいことと悪いことが 」

 

”タッタッタッ”

 

「お待たせー

 はぁはぁはぁ。

 はいお兄ちゃん、マッカン。

 それと雪乃さんはミルクティーでよろしかったですか?」

 

「ありがとう小町さん」

 

「いえいえ。

 ほらお兄ちゃんもありがとうは?」

 

「おう、サンキュ」

 

「まぁ、佐賀に行ったらもうマッカン飲めないもんね。

 そんなお兄ちゃんに小町の心がこもったマッカンの餞別。

 あ、これって小町的にポイント高い!」

 

「いや、普通にネットで買えるから。

 ネットならポイントもついてチョ~お得!

 あ、これ八幡的にポイントチョ~高い!

 それと餞別は現金以外受け付けないからな」

 

「・・・・・・サイテーだこの人」

 

「・・・まったくこの男は」

 

     ・

     ・

     ・

 

”ガタンガタン、ガタンガタン”

 

「・・・・・・」

 

”カチャカチャ、カチャカチャ”

 

「電車の中でも仕事か。

 相変わらず忙しいようだな」

 

「ええ、別の案件の報告があるから」

 

「それならお前は飛行機で行けばよかったんじゃねえのか?

 そっちの方が時間的に楽だろう」

 

「ええ、私もそれは考えたわ。

 でも、またどこかの小心者さんに土壇場で佐賀に行くのキャンセルされた

 ら困るから。

 それより暇そうねあなた」

 

「ん?

 ふふふ、当り前だ。

 俺は仕事のON-OFFをはっきり区別する方だ。

 OFFの時は仕事のことなんて微塵も 」

 

「あら、出張中の移動時間も勤務中になるはずよ」

 

「い、いや、今は休み時間、休み時間中だ!」

 

「随分と長い休み時間なのね」

 

「・・・・・・」

 

「そんなに暇ならこれでも読んでなさい」

 

”パサ”

 

「ん、これは?」

 

「東地グループの古怒田課長から送られてきたプロジェクトの概要書よ。

 付箋紙のところをよく見ておきなさい」

 

「付箋紙?」

 

”パラパラパラ”

 

「・・・お、おい、テーマパークって

 第2案にテーマパークの建設って書いてあるじゃないか。

 まだあきらめていなかったのかあの人」

 

「そうみたいね

 でも確かに私たちの案ではキラーコンテンツになるものがない。

 佐賀をアピールするには少し弱い。

 そこがネックね」

 

「だがこんなテーマパークなんてもの作ったら」

 

「ええ。

 だからなんとしても役員会の議題に上がる前にキラーコンテンツなるものを

 探し出すの」

 

「そうだな」

 

     ・

     ・

     ・

 

”ガタンガタン、ガタンガタン”

 

「なぁ、東地の古怒田課長が言ってたハウステンボスに勝てるものって

 なんだろうな」

 

”スー、スー”

 

って、おい!

移動時間は勤務中でなかったのか。

 

「・・・・・・」

 

ふぅ~

 

”ガシガシ”

 

仕方ないな。

雪ノ下、自分の有能さを証明するため、毎日頑張ってんだよな。

人一番体力がないくせに。

この若さで課長。

いくらこいつが優秀だからといっても、そこは親父さんの会社だ。

陰でいろいろ言ってる奴いるからな。

まぁ、ここは寝かせておいてやるか。

 

”ガタンガタン、ガタンガタン”

 

・・・それに今回は雪ノ下に助けてもらったしな。

あのままだったら、きっと俺は今回のこの出向の話も断っていた。

周りにも自分にも屁理屈をこねながら。

そして二度と佐賀には・・・

 

”ガシガシ”

 

・・・・・・佐賀にいるんだな美佳。

 

『彼女の行動には必ずなにかしら理由があった』

 

理由っか。

・・・バレンタイン、林間学校、文化祭、生徒会選挙、そしてプロムナード。

そう、あいつはいつも大事なものを守るため自分を傷つけた。

そして言うんだ。

 

『・・・わたしはわたしのやりたいことをやっただけ』

 

っと。

それは、もう二度と大切なものを失いたくないというあいつの願いからくるもので。

・・・あいつは幼い頃、目の前でお母さんと妹さんを事故で失くしている。

そしてそれは自分の所為だと決めつけ、自分を責め続けていた。

俺はそのことをわかっていながら、いやわかっていたつもりで本当はわかって

いなかった。

だから高校最後となったイベント、あのプロムの時。

あの時もあいつは、俺の・・・いや俺と雪ノ下、由比ヶ浜の大事なものを守るため

また自分を傷つけた。

俺は何か変だと感じながら、あいつのそんな願いに気付けず。

・・・そして俺達は別れた。

 

『・・・そんなのあなたが一番よく知ってるはずじゃない』

 

そうだよな雪ノ下。

あいつのすることには必ず何か理由がある。

俺が一番よく知ってるはずじゃないか、そんなの。

 

 

 

 

ーーーー高校三年 三学期に遡ってーーーー

 

 

 

 

”ガタンガタン、ガタンガタン”

 

「ふぁ~あ」

 

う~、眠い。

今日から三学期だっていうのに、昨日はちょっと勉強頑張り過ぎた。

まぁ受験生だからな、そんなの当り前なのだが。

それでもこの電車の振動と相まって、すげ~眠い。

えっと、どこか空いてる席はないか探すか。

 

”スタスタ、スタスタ”

 

だがこうして電車に揺られて学校に行くのもセンター試験までか。

その後はずぐに自由登校。

そう考えるとこの車窓から見る景色も愛おしく・・・

 

「ぐぅおー」

 

け、景色もいと・・・

 

「ぐぅおー、ぐぅー、ぐぅー、すー」

 

け、け、け、景色も・・・・・・

 

「くー、くー、すー、すー。

 へへ、お腹いっぱい、とうちゃんもう食べられないよ~」

 

こ、こ、こいつは!

 

”ビシ!”

 

「い゛だっ!」

 

ま、まったく。

完璧に熟睡してたじゃねえか。

不用心過ぎんだろ、こいつは。

そんなやつにはデコピンの刑だ。

 

「いたたたたた」

 

「いい加減そろそろ起きろ。

 駅、乗り過ごすぞ」

 

こいつには一度ちゃんと言い聞かせないとな。

一応、女子なんだから。

何かあってからじゃ遅い。

 

「お前、電車の中で熟睡し過ぎだろ。

 全く女子なんだからもう少し 」

 

「う、おでこ痛い。

 ううううう、い、痛いよ~」

 

「え、そんなに痛かった?

 す、すまん大丈夫か?」

 

「ううううう、うわ~ん」

 

や、やばい。

マジ泣き出した。

そ、そんなに痛かったのか。

げ、周りの乗客の俺を見る目が。

 

「すまん三ヶ木」

 

”スー”

 

え、何?

指?

 

”にこ”

 

な、なにその笑顔。

はっ、ま、まさかデコピン返し!

や、やめて!

 

”ビシ!”

 

「い、いてぇ」

 

「へへへ、お返しだ」

 

「くそ、嘘泣きかよ。

 心配して損した。

 そんなことより、ほら駅だ降りるぞ。

 いてててて」

 

「あ、うん。

 ・・・ごめん、そんなに痛かった?」

 

     ・

 

”スタスタスタ”

 

う~、まだおでこが痛い。

まぁ、おかげで目覚めたけどな。

えっとそれよりあいつどこだ?

俺が自転車を取りに行く時に、駅を出たところで待ってるって言ってたはずだが。

 

”キョロキョロ”

 

えっと、あ、いたいた。

ほんとあいつ地味だからちょっと目を離すとどこにいるのかわからん。

常時ステレスヒッキー発動してっからな。

マジ俺の上位互換かよ。

 

”チリンチリン”

 

「おう、お待たせ」

 

「うんしょっと」

 

え、き、君何するの?

いきなり荷台にって。

もしかして二人乗りする気なのか。

い、いや、この時間、他の生徒もいるんだ、そ、そんなリア充のような・・・・・・

こ、断る!

断じて断る。

そ、そんな罰ゲーム受けるわけにはいかない。

 

「お、おい!

 なに当たり前のように荷台に座ってんだ」

 

「だめ?」

 

「当たり前だ。

 いいか、自転車の二人乗りは禁止されているんだ。

 それに重たいし」

 

”べシ”

 

「ぐはぁー」

 

ま、マジ、君のその空手チョップ痛いんだからね。

食らう度に脳みそがくらくらして。

くそ、こいつと出会ってから何発食らってんだ。

・・・・・・でも最近・・・なんか快感になってきたんだよなぁ、これ。

はっ! やばいだろうそれ!

 

「うっさい、重たい言うな。

 最近、ほんと気にしてんだから・・・ちょ、ちょっと太ったの。

 もう! ほらさっさと行くよ」

 

「お、降りないのかよ」

 

「重たいって言った罰。

 ほら、学校に向けて出発シンコー! 茄子のおし 」

 

「や、やめろ、それ以上言うな!

 ・・・たく。

 ちゃんと掴まってろ」

 

「ほ~い」

 

”ぎゅ~”

 

え、あ、いやそんなに抱き着かれると、二つのなにか柔らかいものが俺の背中を

圧迫して、えっと八幡の八幡があれになって大変で・・・

う、運転できないから!

 

「あ、い、いや、つ、掴まりすぎだから。

 もうちょっと離れてくれない?」

 

「やだ」

 

・・・そ、そうですか。

はぁ~

 

     ・

     ・

     ・

 

「ふんふんふん♬」

 

「・・・・・・」

 

”ギ~コ~、ギ~コ~”

 

「お、おいあれ」

 

「げっ、朝っぱらからむかつく」

 

「ちっ!」

 

やばいな。

学校が近くなってすれ違う生徒の数が・・・

こいつ駅からずっと抱き着いたままだし。

このままだと俺のメンタルがもたん。

 

「・・・・・・あ、あの~」

 

「ふんふんふんふ~ん♬」

 

「も、もしもし三ヶ木さん」

 

「え、あ、な、なに?」

 

「いやご機嫌なところすまないが、そろそろ離れてくれない?

 ほ、ほら、学校近くなって生徒の数も増えてきたから、

 あの、その、な、なんだ、わかるだろ」

 

「ん~なんだろう?

 わかんな~い」

 

こ、こいつは。

 

「うそつけ!

 頼むから少し離れてくれ。

 それに二人乗り自体本当はまずいんだからな」

 

「いいじゃん。

 それにさ、どうせ帰りは結衣ちゃんとこうやって帰ってんでしょ。

 いつも一緒に帰ってるんだから。

 ・・・・・・結衣ちゃんバス通学だし。

 だからきっと」

 

「塾が一緒だからな

 だから部室に顔出してから一緒に行ってるだけだ。

 それに由比ヶ浜も学校から駅までは自転車だ。

 塾行くようになってから、電車間に合うように自転車にしてるんだ」

 

「え、あ、そ、そうなんだ。

 そ、そっか、そっか。

 えへへへへ」

 

「な、何その笑み」

 

「なんでもな~い」

 

”ぎゅ、ぎゅ~”

 

「お、おい」

 

「ふんふんふんふん~♬」

 

げ、こいつ無視しやがった。

それになんかさらに機嫌よくなってるだけど。

はぁ~、仕方ないっか。

ちょっと遠回りだができるだけ生徒の少ない道を。

 

「ふんふんふふふん♬」

 

「・・・・・・」

 

”ガシガシ”

 

「あのな」

 

「ん?」

 

「あ、いや、まぁなんだ。

 この自転車で二人乗りしたことがあるのは、小町とお前だけだ」

 

「え?

 ・・・比企谷君♡」

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 

由比ヶ浜遅いな。

まぁ帰り際に教室で三浦達につかまっていたからな。

仕方ない、参考書でも読んで待ってるか。

 

「お、おい、あいつ」

 

「ん、あ、朝のリア充野郎か」

 

「なんであんな奴が」

 

”ひそひそ”

 

・・・・・・まぁ三学期が始まってから毎朝二人乗りだからな。

こうなることは予測できていた。

何人もの生徒に目撃されてっからな。

マジそろそろ、俺のメンタルがもたないんだが。

明日こそは何とかしないとな。

・・・・・・だけど、なんで女子ってあんないい匂いがするんだ。

いつも風呂上がりのようなすげーいい匂いがして。

 

「はぁ~」

 

もうちょっとだけ・・・いっか。

 

”にやにや”

 

「ヒッキーおま・・・・キ、キモ!」

 

「はっ、由比ヶ浜!」

 

「・・・・・・何考えてたんだし」

 

「い、いや、な、なんでもない、なんでもないぞ。

 そ、そ、それよりもういいのか」

 

「え、あ、うん。

 ごめんね遅くなっちゃって。

 今日塾がないからさ、久しぶりに優美子達と話してたら、

 なんか話がすごく盛り上がって」

 

「そうか、まぁいつもは塾あるからな。

 今日みたいに塾が休みでないと、なかなか直接会ってゆっくり話する

 時間なんてないからな。

 それよりそろそろ行くぞ。

 きっと雪ノ下待ってるはずだ」

 

「えへへへ、そうだね。

 よし! 今日はいっぱいゆきのんとお話ししようっと」

 

「勉強だ!

 今日は塾は休みだから、三ヶ木も入れて4人で勉強するってはずだろ」

 

「べ、勉強もするし! 

 ・・・少しだけど」

 

「ったく」

 

”スタスタスタ”

 

     ・

     ・

     ・

 

「・・・・・・」

 

「でさ、優美子が言うから」

 

「そう」

 

「だからあたしも言ってあげたの」

 

”ぺちゃぺちゃ”

 

お、おい勉強はどうなったんだ。

部室に来てから鞄から参考書も出さず話し込んでるんだが。

き、君が言い出したんだよね、一緒に勉強しようって。

 

「だよね、ゆきのん」

 

「ふふふ、由比ヶ浜さんらしいわ」

 

・・・雪ノ下うれしそうだな。

まぁ俺と由比ヶ浜は塾があるから、この部屋に来てもほんの挨拶程度の会話しか

できなかったからな。

今日ぐらいは大目にみてやるか。

さ、そんなことより俺は勉強勉強っと。

 

”カキカキ、カキカキ”

 

・・・・・・しかし三ヶ木遅いな。

いつもならとっくにここで雪ノ下と勉強している時間のはずだが。

 

「・・・何かあったのか」

 

「え、ヒッキー何か言った?」

 

「あ、いや、何でもない」

 

「それはそうといよいよ週末はセンター試験ね。

 比企谷君、由比ヶ浜さん、あ、あの頑張って」

 

「ああ」

 

「うん、ありがとうゆきのん。

 でもさ、センター試験の前にこうやってみんなで勉強会できてさ、

 なんかうれしい。

 あと、美佳っち早く来るといいね」

 

・・・い、いや君は勉強していないんだけど。

マジ、センター試験大丈夫なのか由比ヶ浜。

 

「そうね。

 いつもならとっくに来てるのに。

 あ、由比ヶ浜さん紅茶のお替わりどうかしら?」

 

「うん、ありがとうゆきのん」

 

「あなたは?」

 

「あー、俺も貰うわ」

 

「ね、ゆきのん」

 

「なにかしら?」

 

「受験、終わってからも、うううん、卒業してからも会えるよね」

 

「え、ええ。

 当たり前じゃない。

 そ、その、わ、わたしたちは・・・・・・友達なんだから」

 

「ゆきのん!」

 

”だき”

 

「ゆ、由比ヶ浜さん。

 あ、あの~、紅茶がこぼれて」

 

「あ、ご、ごめん。

 ・・・えへへ」

 

「うふふふ」

 

「あ、ヒッキーもだよ」

 

「そうよ」

 

「あ、ああ、わかった」

 

「よかった」

 

「なにかお茶請けだしましょうね」

 

・・・永遠というものはない。

それはわかっている。

俺達のこの関係も卒業すれば、いずれ時とともに変わってしまうのだろう。

色彩鮮やかに描かれた名画もいずれは色褪せしてしまうように。

でも、それでも俺は、この関係が少しでも長く続いてほしいと、

このままずっと鮮やかや色のままでいてほしいと願っている。

そのためになら俺は・・・

 

「・・・撞着だな、自己撞着」

 

維持するために努力を続けないといけない関係。

それは俺がもっとも忌み嫌っていたものじゃないか。

でも、それでも俺は・・・

はぁ~、あいつならどう思うだろうかな。

あいつなら、あいつならきっと・・・

 

「どうかしたのかしら」

 

「い、いや、なんでもない」 

 

”カチャ”

 

「そう。

 クッキーでよかったかしら」

 

「ああ、頂く」

 

”トントン”

 

「「!」」

 

「ゆきのん!」

 

「ええ、来たみたいね」

 

ふぅ、まったく今まで何やってたんだあの馬鹿。

まぁ、驚かせようと今日のことはあいつには黙ってたからな。

さて、これだけ待ったんだ、せいぜい派手にびっくりしてもらわないとな。

いつも地味なんだから今日ぐらい。

 

「どうぞ」

 

”ガラ”

 

「失礼しま~す」

 

「あ・・・いろはちゃん・・・だ」

 

「・・・・・・」

 

「・・・・・・」

 

「え、あ、あれ、なんか・・・

 あ、あの~先輩?」

 

「・・・はぁ~」

 

「は、はぁ~ってなんですか!」

 

「ごめんね、いろはちゃん」

 

「そ、そうねごめんなさい一色さん」

 

「もういいです。

 この前も同じようなことありましたから」

 

”スタスタ”

 

え、もう帰るのか?

よかった。

まぁ、こいつがここに来ると決まって何か手伝わされたからな。

あいにく、俺達は受験生だ。

今回ばかりは手伝えないからな。

ふむ、さっさと帰り給え。

 

”ガラガラ”

 

「ごほん、やり直しです」

 

へ、やり直し?

え、君、帰らないの?

 

”トントン”

 

「どうぞ」

 

ど、どうぞって雪ノ下。

 

”ガラ”

 

「あ、いろはちゃんだ」

 

ゆ、由比ヶ浜、お前まで。

しかも何その満面の笑顔。

 

「失礼しまーす。

 ああよかった。

 小町ちゃんの言う通り、今日は先輩も結衣先輩もここにいたんですね。

 それはそうと、えっと~」

 

”キョロキョロ”

 

い、いやさっき顔合わせたよね。

それに確か会話も。

って、なに、一色何か探してるのか?

さっきからずっと部室の中見まわしてるんだけど。

 

「んー」

 

「どうかしたのかしら一色さん」

 

「あのー、ここってパソコンってありましたよねー?」

 

「あるけど・・・・・・」

 

「それってDVD観れます?」

 

「そうね確か観れたと思うのだけれど、ちょっと待ってくれるかしら」

 

”ガタガタ”

 

「古い型だから逆に観れるな」

 

「へぇ~、ヒッキー物知り」

 

い、いやそんなに感心しなくても。

確か生徒会は例のウィルス騒動があってから、全て最新型のパソコンに更新したからな。

奉仕部のパソコンは生徒会のと違って結構古い奴だから観れるんだ。

・・・うちは予算ねえからなぁ。

お茶代も足りないから、ほとんど雪ノ下の自腹だもんな。

ごほん、ま、まぁなんだ、昔のパソコンには必ずと言っていいほどDVDドライブが

付いていたのだ。

いまは外付けが主流だが。

なんでもメーカーが調べたところ、あまり使われていないということで

取り除かれたらしい。

だけどどちらかのパソコン選べってことになったら、俺ならDVDドライブが

ついてる方を買うけどな。

メモリも容量とかもそこそこあればそんなに気にならないし。

 

”カチャカチャ”

 

「一色、なにか観るのか?」

 

「えっと~、DVD借りてきたんですけど生徒会のパソコンでは観れなくて。

 あとそれとですね」

 

”ガサガサ”

 

「あれ、おかしいな。

 確かカバンに入れてきたんだけど。

 ・・・あ、あった」

 

”カタン”

 

「じゃじゃ~ん」

 

「いろはちゃん、これなに?」

 

”つんつん”

 

「それ、随分小さいけれど、プロジェクターなのね」

 

「あ、わかります?

 さすが雪ノ下先輩。

 へへ、生徒会の予算で買っちゃったんですよ~」

 

”スタスタスタ”

 

「それじゃ、ちょっとスクリーン降ろしますね」

 

えっと、なに?

ここで何か見るの?

いや俺達は・・・俺はここで勉強を。

あ、あの週末にセンター試験が・・・

 

「それじゃ再生っと」

 

”カチャ”

 

「はぇ~、すっごい」

 

「結構綺麗に映るのね」

 

「あ、これあのドラマだよね、ほ、ほら海外のハイスクールもの」

 

「由比ヶ浜さん、静かに」

 

き、君達何やってるの?

お、おい由比ヶ浜、カーテン閉める場合じゃ。

い、いや、お、俺達はだな・・・・・・テストが・・・

そんな俺の思いはよそに、海外ドラマの上映会が始まった。

お前ら、べ、勉強しろ!

 

     ・

     ・

     ・

 

「ん~重たい」

 

”ふらふら”

 

「危ないよ舞ちゃん。

 ほら少し持ってあげる。

 うんしょっと」

 

「あ、ジミ子せんぱ~い♡

 ありがとうございます」

 

「どうしたのこんなにいっぱい本持って」

 

「イベントの資料なんですよジミ子先輩。

 今度の役員会で使うので図書室から借りてきたんですジミ子先輩」

 

「・・・・・・」

 

「それでイベントなんですが、ジミ子先輩」

 

「ちょ、ちょっと待った!

 ま、舞ちゃん、あ、あんまりジミ子ジミ子って」

 

「え~、だってジミ子先輩はジミ子先輩じゃないですか~」

 

「・・・・・・」

 

「それにジミ子先輩だって、一色のこと会長って呼んでんじゃないですか。

 任期終わって生徒会の役員でなくなってからも」

 

「だ、だってずっと会長って呼んできたから、今さら一色さんなんて」

 

「だしょう。

 わたしだって美佳先輩なんて今更ですよ、ジミ子先輩」

 

「ううう、でもなんか」

 

「そんなことよりほら行きますよ。

 落とさないようにちゃんと持ってくださいねジミ子先輩♡」

 

「は、は~い」

 

     ・

     ・

     ・

 

”スタタタタ”

 

「やばいやばい、めっちゃ遅くなっちゃった。

 ゆきのん怒ってるかなぁ。

 えっと~」

 

「はー、面白かった!

 ね、ゆきのん」

 

「ええ

 とっても」

 

「だんしんくい~ん♬ んふふっ、ふんふんふーん♬」

 

”ワイワイ”

 

「へ、あれ話し声?

 ゆきのんの他に誰かいるの?」

 

「な、なぁ余韻に慕っているとこ悪いんだが、なんで映画の上映会なんだ」

 

「映画? これテレビのドラマですけど」

 

”ガヤガヤ”

 

「あ、これって比企谷君と会長の声?

 でもなんで?」

 

「いやそんなのどっちでもいい」

 

「えっとですね、資料として見てたんですよ」

 

「資料?」

 

「はい。

 実は今度の卒業式の後、プロムをやりたいと思いまーす」

 

な、なんだと

プロムって今のビデオみたいなやつだろ

卒業式の後に高そうな衣装着て、思いっ切りリア充リア充する奴。

あんなの海外ドラマの中での設定だろ。

とてもうちの学校でやるものとは思えない。

お、俺は絶対手伝わないぞ

まぁ、受験生だから無理だっていうのはわかっていると思うが。

 

「普通の卒業生を送る会でいいんじゃないの?

 俺、ああいうの苦手だから絶対嫌なんだけど」

 

「あたしも楽しそうだなーって思うけど・・・・・・

 ちょっと難しそうかも」

 

「そうね・・・・・・」

 

「はぁ、まぁ、それはわかってるんですけど。

 ・・・でもやります、ですから楽しみにしてくださいね」

 

「ちょっと待て。

 お前、本気でプロムやる気なの?」

 

「ええ、やります!

 先輩達にも受験終わってからでも手伝ってもらえないかなぁ~って

 思ったんですけど。

 いいです。

 わたし達生徒会だけでやります」

 

そう答えた一色の瞳にはとても強い決意が宿っている。

でもなんでそうまでしてプロムがやりたいんだ?

まぁ卒業式まではまだ2ヶ月あるから、時間的にはやれないことはないが。

だがそれなりのものをするなら、予算とか人材、経験とか足りないものが

いっぱいある。

だが、なんでそんなにムキなってるんだ?

プロムといっても三年生が主役で、一色には何のメリットもないはず。

いつもの一色ならこんな面倒なことは。

 

「・・・・・・それは、何のために、誰のためにやるの?」

 

「もちろん、わたしのためです。

 だってこのままいつもの通り、決まり決まった送別会やって、

 それで終わったら、『はい、さようなら』ってなんかめっちゃつまらない

 じゃないですか~

 ここはわたし的にドバーってこれでもかってぐらいのことやって。

 それで、それで・・・・・・・・・・・・自分の心に区切りつけたいんです。

 ちゃんと心置きなく、先輩達を送り出したいんです。

 ・・・こんなんじゃ・・・駄目・・・ですか?」

 

・・・一色。

 

「そう、答えてくれてありがとう。

 ではやりましょう」

 

「へ?

 あ、あの~、雪ノ下先輩?」

 

そうだな。

そういうことなら仕方ないよな。

でも、あの一色がな。

 

「まぁ、上の判断でそう決まったんならしょうがねえな。

 俺と由比ヶ浜は受験終わってからになるがそれでいいなら」

 

「うん、だね」

 

”ガタ”

 

「雪ノ下先輩、結衣先輩!」

 

”ガバ!”

 

「あ、暑苦しい」

 

「へへ、いいじゃんゆきのん」

 

「お二人とも、ありがとうございます」

 

「あ、あの~、三人で抱き合ってるのはいいんだけど」

 

「え、先輩も混ぜてほしいんですか?

 それマジキモいんですけど」

 

「エロ谷君あなたって人は」

 

「ヒッキーそれはちょっと」

 

「い、いや、ち、違う。

 そ、そんなこと言ってないぞ。

 お、俺はだな、俺もプロムを 」

 

「冗談ですよ。

 よろしくです、先輩」

 

「お、おう」

 

「・・・・・・」

 

「・・・ゆきのん?」

 

「比企谷君、由比ヶ浜さん・・・・・・あの、ちょっといいかしら」

 

「ん?」

 

「これは私個人の意思だからあなた達に強制する気はないわ」

 

「・・・・・・お、おう。

 どういうことだ?」

 

「つまり、その・・・・・・、部長としての決断ではないから

 そこに権限はないと思うの。

 だから部としての活動とは考えなくてもいい。

 もちろん力を貸してもらえるのはありがたいけれど。

 ただ、私は一人でもこのプロムについて責任もってやり遂げる

 つもりでいる、というか・・・・・・」

 

「「・・・・・・」」

 

「私は、私は、その・・・今回のプロムの件、

 部長としてではなく、雪ノ下雪乃個人として受けたいの」

 

今一つ要領を得ない言葉に、一瞬首を傾げた。

まぁ、恐らく雪ノ下は受験生である俺達のことを考慮して言っているのだろう。

 

「つまり、俺達は自由参加でいいってことか」

 

「違うよヒッキー」

 

え、違うのか?

それなら雪ノ下はなにを。

 

「私は私の力でやり遂げたい

 ・・・それを見届けてもらえたら嬉しいわ」

 

「ゆきのんは・・・・・・自分の力でやってみたいんだよね」

 

「そうしないと私自身先に進めない。

 あの人に追いつけない。

 私はいつかあの人を超えたい・・・・・・超えないといけないのだから」

 

雪ノ下。

・・・あの人を超えたいっか。

あの人とは恐らく陽乃さんのことだろう。

雪ノ下の姉で雪ノ下以上に頭脳明晰かつ容姿端麗。

雪ノ下はそういう姉にあこがれ、いつも後をおっかけていたらしい。

自分の力でやってみたい。

それはそんな姉を超えるために彼女が決断したことなのだろう。

それなら俺達に反対する理由はない。

 

「・・・・・・いや。

 いいんじゃないのそれで。

 知らんけど」

 

「適当なことばっかり」

 

「それじゃ、明日から生徒会室に来ていただいてもいいですか?」

 

「ええ、よろしくね一色さん。

 あ、でもごめんなさい。

 放課後は少し待ってほしいの。

 三ヶ木さんの受験が終わるまで待ってくれないかしら。

 わたしは三ヶ木さんに東地大受かってもらいたい。

 彼女はわたしにとって、とっても大切な友人なの。

 申し訳ないけど、それまでは放課後以外の時間で手伝わせてもらうつもり。

 それでもいいかしら?」

 

「はい、それで十分です。

 いえ、わたしの方こそ、それでお願いします。

 わたしにとっても美佳先輩は大事な人ですから」

 

”ワイワイ”

 

「・・・・・・」

 

”スタ、スタスタ、スタタタタ”

 

「・・・やっぱり、比企谷君にとってあの二人との関係は特別。

 あんなの聞いたら、とても部室に入れないよ。

 あの雰囲気は、わたしなんかが邪魔していいものじゃない」

 

”テッテッテッ”

 

「はぁはぁ。

 ・・・そ、そっか、自分の力でやり遂げたいっか。

 だったら、だとしたらわたしにできることは」

 

     ・

     ・

     ・

 

「比企谷君、ところであなたどうなの?」

 

「ん?

 あ、ああ受験か。

 まぁ大丈夫だろう、今のところ順調だ。

 俺よりも 」

 

”ちら”

 

「へ? な、なに、ヒッキー」

 

「悪いことはいいわん。

 今からでも遅くない志望校替えろ由比ヶ浜」

 

「ひど!

 だ、大丈夫だし・・・多分」

 

「由比ヶ浜さん、現実から目を逸らしたらダメ」

 

「ゆきのん!」

 

「結衣先輩、来年一緒に頑張りましょう」

 

「い、いろはちゃんまで」

 

「ふふ、ごめんなさい冗談よ」

 

「ごめんなさい結衣先輩」

 

「いや、俺本気だけど。

 マジお前やばいぞ」

 

「ヒ、ヒッキ~」

 

「・・・・・・先輩」

 

「・・・まったくあなたは」

 

「いや、俺は由比ヶ浜のこと心配してだな。

 絶対無理だろ早応大なんて」

 

「それはみんな同じ思いよ。

 そうだとしても、もう少し言い方が・・・はっ!

 ・・・・・・ゆ、由比ヶ浜さん、あ、あの 」

 

「ゆきのんの馬鹿」

 

「ご、ごめんなさい」

 

”ブ~、ブ~”

 

「三ヶ木さん?」

 

「どうした雪ノ下、三ヶ木からか?」

 

「ええ。

 ・・・・・・三ヶ木さんからのラインで、どうしても外せない大事な用事が

 できたので今日は帰るそうよ」

 

「そ、そうか」

 

「そうなんだ」

 

     ・

     ・

     ・

 

”ガラガラ”

 

「ん?

 なんだ三ヶ木、まだ残っていたのか?」

 

「あ、平塚先生。

 ちょうどよかった。

 この問題わからないです、教えて頂けませんか?」

 

「なんだ勉強していたのかね?

 どれ、どの問題だ」

 

     ・

     ・

     ・

 

「それじゃそろそろ帰りましょうか」

 

「あ、じゃ、俺カギ返して来るわ。

 ちょっとマッカン買って帰りたいからな」

 

「そう。

 それじゃお願いするわね」

 

「おう、じゃまたな」

 

「ええ」

 

「またねヒッキー」

 

「さ、行きましょう先輩」

 

「って、お前生徒会大丈夫だったのかよ。

 何なら今からでも」

 

「大丈夫ですよ。

 みんな優秀ですから」

 

”スタスタスタ”

 

「な、一色、お前俺達に断られるってわかっててこの話持ってきたんだろ」

 

「当り前じゃないですか。

 先輩たちは受験生なんですよ。

 そんな非常識じゃありません」

 

「じゃ、なんで」

 

「去年の卒業生を送る会のこと憶えてます?」

 

「ん、ああ、無理やり手伝わされたからな」

 

「なんですかその言い方。

 ・・・前の日の体育館倉庫で見たあの風景が忘れられなかったんですよ」

 

「前の日?」

 

そ、そうか、あれは去年の卒業式を送る会の前日だったな。

あの日、一色は三ヶ木に卒業する前生徒会の先輩たちとの想い出を

つくらせるために一芝居うった。

無理やり三ヶ木に飾りつけを押し付け体育館に一人残した。

後から来る前生徒会の仲間と一緒の時間をつくるために。

三ヶ木にとって前生徒会の先輩たちは特別な存在だったからな。

だとしたら一色は俺達との・・・・・・

 

「一色お前」

 

「最後の最後なんです、わたしにとっても。

 雪ノ下先輩と結衣先輩、それと先輩。

 みなさんたちとこうやって一緒にできるのも・・・・・・

 だから、だからわたしも想い出が。

 それがたとえほんの少しの時間でも」

 

「一色」

 

「・・・・・・先輩」

 

「お、おう」

 

「プロムは卒業生全員強制参加ですから、覚悟しておいて

 くださいね。

 あ、なんならわたしがチークお相手してあげますね。

 それではです」

 

チ、チークだと。

 

「お、おい一色!」

 

”スタタタタ”

 

くそ、行ってしまいやがった。

プロムなんてリア充の祭典、参加するのもあれなのに。

チークなんて・・・はぁ~、マジありえねぇ。

 

”ガラガラ”

 

「先生ご苦労様です。

 部室のカギ持ってきたんですけど」

 

「おうご苦労様。

 そこに置いておきたまえ」

 

「うっす。

 それじゃ」

 

「ん、あ、そうだ比企谷。

 一つ頼まれてくれないか」

 

「え?」

 

     ・

     ・

     ・

 

「・・・・・・」 

 

”スタスタスタ”

 

『さっきまで教室に三ヶ木が残ってたんだ。

 もう帰ったと思うが念のため見てきてくれないか』

 

三ヶ木が教室に?

いやそんなはずはない。

 

”ガチャ、ガチャ、ガチャ”

 

今日は何か用事があるからって帰ったはずだ。

 

”ピー!”

 

だから教室にいるはずないんだが。

 

”ガタン”

 

・・・

 

「アチッ!」

 

ふぅ、いつも思うんだが、ここの自販機ちょっと温度高すぎない?

・・・・・・確かミルクティーだったな。

 

”ガチャガチャガチャ”

 

     ・

     ・

     ・

 

「ぶつぶつ、ぶつぶつ、う~、なんでこの解答はこうなるんだ?」

 

・・・・・・なんでお前教室にいるんだ。

いったい何を?

 

”カキカキカキ”

 

勉強、してるのか?

 

「くそ~わからん。

 平塚先生に聞きに行ってこようかなぁ」

 

”ピタッ!”

 

「あ、あちぃー!」

 

「ほれ、ミルクティー。

 んで、どの問題がわからないんだ。

 数学以外なら教えてやる」

 

「へ、あ、ひ、比企谷君。

 ・・・・・・あ、あのね、ここんとこ」

 

「ん、どれだ?」

 

”ぐぃ”

 

「あのね」

 

”ベシ!”

 

「ぐはぁ!」

 

「あっちいだろうがこの馬鹿!

 乙女のうなじにいきなりなにすんだ。

 まったく、もう」

 

「いてててて。

 でも、なんでお前教室で勉強してるんだ?

 勉強するのなら部室に来ればよかったじゃねえか。

 雪ノ下、ずっとお前が来るの待ってたんだぞ?」

 

「・・・ゆきのん、自分の力試してみたいんだね」

 

「え、お、お前もしかして聞いてたのか?

 だったらなんで 」

 

「・・・・・・入れないよ、無理だよ。

 三人のやり取り聞いたらわたしには・・・・

 あのね、めっちゃ羨ましかった。

 やっぱり比企谷君にとって二人は特別なんだって改めて実感した」

 

「三ヶ木」

 

「だからわたし決めたの」

 

「決めた?」

 

「明日のゆきのんのプリントで100点取るんだ」

 

「プリント?」

 

「うん、いつもゆきのんがプリント作ってきてくれるんだ。

 わたしの苦手なところとか考えてくれて。

 わたしね、今まで100点取れたことがなかった。

 ・・・明日こそ、絶対100点取るんだ、厳密に!

 そんで、そんでね、ゆきのん塾を卒業するの。

 ・・・・・・ゆきのんにプロム頑張ってもらいたいから」

 

「そっか」

 

「うん、そっだ」

 

”なでなで”

 

「げ、な、なにすんだ!

 いきなり女子の頭を」

 

「で、どの問題がわからなかったんだ」

 

「あ、うん、ここのとこ」

 

「どれ」

 

     ・

     ・

     ・

 

「どうかな。

 これであってる?」

 

「ああ、これでいい」

 

「へへ、ありがと。

 あとミルクティーもね」

 

「おう」

 

「・・・・・・比企谷君」

 

「ん?」

 

「あ、あのね・・・」

 

え、な、なんでここで目を瞑る。

こ、これって、あ、あの~

い、いいのか、こ、ここは教室だぞ。

・・・・・・だ、だけど

 

”ゴク”

 

俺、俺の・・・・・・俺のファーストは教室で。

・・・三ヶ木。

 

”そ~”

 

「ごほん!

 いつまでそうやっていちゃいちゃしてるつもりかね」

 

「えっ」

 

「あっ」

 

「とっくに最終下校時間は過ぎているのだがな。

 ・・・まったくゾンビィ取りがゾンビィにってこのことだな」

 

「ひ、平塚先生、違います!

 比企谷君はもともとゾンビィです。

 だってもとから目腐ってるし」

 

”ぎゅ~”

 

「いたいいたい、比企谷君ほっぺ離して」

 

「誰がもとからゾンビィだ。

 それにそれはゾンビィじゃなくて、ミイラ取りがミイラってことでしょ。

 現国の先生が間違ったこと教えてどうするんですか」

 

「ははは、そうだな。

 さ、それより本当に帰る準備をしたまえ。

 もう外は暗い、今日は家まで送って行ってやろう」

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 

”カキカキ”

 

「よしできた!

 ゆきのん先生、採点お願いします」

 

「ええ」

 

「・・・・・・」

 

「・・・・・・」

 

「・・・・・・」

 

「三ヶ木さん」

 

「え、あ、はい」

 

”ごくり”

 

「連絡はラインでなく、ちゃんと電話をしなさい」

 

「あ、は、はい」

 

「でも、プリントはよく頑張ったわね。

 満点よ」

 

「ほ、ほんと!

 や、やった」

 

”ぎゅ”

 

「暑苦しい。

 み、三ヶ木さんあなたまで。

 や、やめてくれるかしら」

 

「えへへ、今日だけもう少し」

 

「・・・三ヶ木さん、どうしたの?」

 

「ゆきのん、今まで勉強みてくれてほんとにありがと。

 あのね、もうわたしは大丈夫。

 絶対、東地大合格して見せるよ。

 だから、明日からはわたし自分で勉強するね」

 

「え、あ、あの」

 

「だからさ、ゆきのん。

 ゆきのんはプロム頑張って」

 

「あ、あなた、もしかして昨日の話を聞いてたの?」

 

「あ、う、うん」

 

「盗み聞きはよしなさいってあれほど」

 

「だって、部室に入りにくかったんだもん。

 ・・・それとね、わたしも受験終わったら手伝わせてもらってもいい?

 絶対手伝いたいの」

 

「三ヶ木さん、あの」

 

「うん、ゆきのんが一人でやってみたいって言うのわかっているから。

 だから、わたしは邪魔しない。

 作り物とかみんなへの差し入れとかそういうの手伝いたい。

 だめ・・・かな」

 

「・・・ええ、わかったわ。

 お願いして、いいかしら」

 

「ほんと! やったー」

 

「でもあなたはその前に受験頑張りなさい。

 くれぐれも油断しないように」

 

「うん。

 ゆきのん、ほんとにありがと。

 あのね、大好きだよ」

 

「み、三ヶ木さん。

 あ、あの、そ、その・・・あ、あなたとここで過ごした時間。

 わたし嫌いではなかったわ。

 いえ、嫌いというより、す 」

 

「ゆきの~ん♡」

 

”ぎゅ~”

 

「ぐ、ぐるじい」

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 

”ピピピピッ、ピピピピッ”

 

う、う~ん

ふぁ~あ、もう時間か。

さてっと。

 

”とんとんとんとん”

 

「ん、おう小町、お早うさん。

 今から学校か」

 

「え?

 あ、お、お兄ちゃん

 ど、ど、どうしたのこんなに早く起きてきて」

 

「あ、ああ。

 そろそろ生活のリズム、試験に合わせようと思ってな」

 

「そっか、もうすぐだもんね。

 あ、じゃ今から朝ご飯作るね」

 

「あ、いいぞ小町。

 お前、プロムの準備とかで早くいかないといけないんだろう。

 自分で作るわ。

 あ、これ八幡的にポイント高い」

 

「・・・・・・」

 

「ご、ごほん

 で、どうなんだプロム」

 

「あ、うん。

 今更なんだけど、雪乃さんって本当に凄い。

 企画とか組織運営とかだけじゃなくて、準備物の手配、タイムスケジュール、

 予算や雑務に至るまで全てに完璧で。

 もう雪乃さん一人いれば大丈夫かなって感じだよ」

 

「だろうな」

 

まぁ雪ノ下の能力や経験値を考えれば、安易に雰囲気が想像できる。

恐らくあいつ一人で何でもできてしまうだろうからな。

ただ、あいつは人一倍体力がない。

そのくせ人一倍負けん気が強いからな。

事態がひっ迫すれば、平気でムリをして、それを一人でしょいこんで

限界を超えてしまう。

そしてその結果、雪ノ下が倒れたら全てが波状する。

それはあの時の文化祭で経験済みだ。

まぁ、今回は一色だ。

既に生徒会会長としての実績も十分だし、能力も雪ノ下ほどではないが

十分信用おける。

だからその辺は大丈夫だと思うが、まぁ一応念を押しておくか。

 

「なぁ小町。

 確かに雪ノ下はなんでもできる。

 だからってつい頼り切ってしまうと、あいつは全てを一人でしょい込んで

 必ず無理をする自分の限界以上にな。

 だから・・・まぁなんだ、あまり無理をさせないように気をかけてやってくれ」

 

「うん、わかった。

 あ、もうこんな時間。

 じゃ、お兄ちゃんもう行くね」

 

”スタスタスタ、スタ”

 

「ね、ねぇお兄ちゃん。

 お兄ちゃんは、ゆ・・・・・・」

 

「ん、なんだ?」

 

「あ、うううん、なんでもない。

 あんまりゆっくりしてないでちゃんと勉強してね 」

 

「お、おう」

 

”ガチャ”

 

「それでは行ってくるであります」

 

「おう、行ってこい」

 

”タッタッタッ”

 

・・・さてっと、飯食う前にメール入れておくか。

 

”カシャカシャカシャ”

 

     ・

     ・

     ・

 

”ギュルルルル―、ブォー”

 

「ひゃ~

 ま、麻緒さん、サ、サイドカーなんだから、

 も、もう少しゆっくりと。

 さっきのカーブもこっちの方浮いてたから」

 

「だったら、なんでこんな大事な日に寝坊するの!」

 

「だ、だって緊張して眠れなかったんだもん」

 

「もう時間ギリなんだから我慢しなさい」

 

「う~」

 

”ブロロローン、ドドドド”

 

「いや~、やっぱり怖い!

 ほ、ほら隣走ってる車近い、近いし!」

 

「うっさい。

 ほら今のうちにおにぎり食べちゃいな」

 

「うううう、こわいよ~」

 

”ブ~、ブ~”

 

「ん、メール?

 えっとスマホスマホっと」

 

”ガサガサ”

 

「あ、比企谷君から」

 

”カシャカシャ”

 

『今日受験だよな。

 まさかお前のことだ寝坊とかしてないだろうけど・・・

 まぁ、落ち着いて頑張れ。

 健闘を祈る』

 

「寝坊!

 げ、な、なんで知ってるの?

 ま、まさか麻緒さんが」

 

”ちら”

 

「ん、なに?」

 

「あ、い、いや何でも。

 あははは、お、美味しいなぁ、このおにぎり」

 

”パク”

 

「とりあえず返信返信っと」

 

”カシャカシャ”

 

『寝坊なんてするわけないじゃん。

 今、東地大に向かってるよ。

 受験終わったらゆっくり会おうね。

 受験明けの旅行、とっても楽しみ。

 じゃ、頑張ってくるね』

 

「えっとこれでいいかなぁ。

 あ!

 そ、そうだ。

 ぐへへへへ」

 

”カシャカシャ”

 

『旅行、お泊りだよね。

 ・・・・・・わたしの全てを、あ・げ・る♡』

 

「へへ、へへへへへ、なにやってんだわたし。

 バカやってないで削除しないと」

 

”ガタン”

 

「ひゃ」

 

「あ、ごめんごめん。

 大丈夫だった美佳?

 ちょっと道路が悪いみたい」

 

「・・・・・・う、うそ。

 送・・・信・・・しちゃ・・・た。

 ま、麻緒さん!」

 

「ん、なに?」

 

”ギロ”

 

「・・・あ、い、いやいいです、何でもないです。

 あの、安全運転でお願いします」

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 

ふぅ~終わった~

こうやって塾で勉強するのももう少しだな。

この前の模試の結果もまぁまぁだったし。

あとは受験まで風邪とかひかないようにさっさと家に帰って

過去問でもするか。

 

「さてっと」

 

「ヒッキー、やっはろー」

 

「・・・由比ヶ浜、塾ではその挨拶はやめろ」

 

「え、なんで?」

 

「いやなんでって・・・」

 

「ん?

 あ、それよりさ、ね、ヒッキー、今時間ある?

 今日の授業でさ、ちょっとわからないところがあって。

 よかったら教えてほしいなぁ~って」

 

「断る!」

 

「そ、即答!」

 

「いいか、お前も早応大を受けるのなら俺のライバルだ。

 ライバルに塩を送るような真似は 」

 

「・・・だめ?」

 

うっ、か、かわいい。

くそ、だからその上目使いやめろ。

そ、それってぜってぇ反則だからな。

 

「・・・ドリンクバーで手を打つ」

 

「本当!

 やった、じゃ、じゃあさ、ほらあのサイゼで」

 

”ぎゅ”

 

「ほら行こ、ヒッキー」

 

「お、お、おう」

 

い、いや、その、あのそんなに腕を抱き締められると・・・

う、腕が何かに挟まれて、その何か大きく柔らかいものに。

・・・・・やっぱり90・・・あるよな。

 

「ヒッキー?」

 

「あ、い、いや、なんでも」

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 

「や、やだ、見たくない」

 

”ぐぃ”

 

「いたたたた、痛い。

 ま、麻緒さんそんなに耳引っ張らないで」

 

「え~い、往生際の悪い。

 ほらさっさと受験番号入力する」

 

「だ、だって、試験、あんまりできなかったんだもん」

 

「今さらしょうがないでしょう。

 だめだったら諦めて、来年頑張ればいいじゃない」

 

「それって、ろ、浪人。

 ううう、浪人はヤダ」

 

「だから滑り止め受けときなさいって言ったのに」

 

「だって、東地大に行きたかったんだもん」

 

「はぁ~、ほら受験番号は何番?」

 

「・・・・・・」

 

「受験番号!」

 

「上から826386のナイスボディ」

 

”ポカ”

 

「誰がスリーサイズ言えっていったの!」

 

「ち、違う、ぐ、偶然だし」

 

「まったく、えっと8、2、6、3、8、6っと」

 

”カチャカチャカチャ”

 

「あとは美佳の誕生日っと、0、3、2、0」

 

”カチャカチャカチャ”

 

「よしっと

 ・・・・・・・・・・・・美佳」

 

「や、やだ、見ない!」

 

”ぷにゅ~”

 

「ふぁい? 麻緒ひゃん、なんねぇほっぺにょ?」

 

”ぎゅ~”

 

「い゛ー、いっだぁー!」

 

「よし、夢じゃないね。

 おめでとう美佳、ほら合格だって」

 

「は、ほんとー!

 えっとどれどれ。

 『おめでとうございます』・・・・・・・おめでとうございますだ!

 麻緒さん、おめでとうございますだって、よ、よ、よがっだー」

 

「よかったね美佳」

 

「う、うん、ううう、よがった、よがったよー」

 

     ・

     ・

     ・

 

「ふぅ、やっぱり自宅と違って塾だと集中できるよな」

 

「それある!

 俺も家だと全然だわ」

 

「やっぱなんか落ち着かないよな」

 

”ガヤガヤ”

 

ふふふ、馬鹿め。

俺ぐらいのボッチになると、家でも塾でも・・・が、学校でも

どこでもゾーンにはいることができる。

小学校から話しかけられたことなかったからな。

いやそれどころか学校で一言も話さなかった日もある。

そ、その時から俺は今日の今を見つめて鍛錬してきたんだ。

この受験戦争を勝ち抜くために。

やっぱボッチ最強!

 

「・・・・・・」

 

ご、ごほん!

確か、今日は三ヶ木の合格発表の日だったよな。

まぁ、あいつのことだから不合格ってことはないと思うが。

塾の休憩時間とかスマホ見てるがまだ連絡がない。

こんなに心配するのって小町の入試以来だな。

こっちから連絡するのもあれだし、もう少し待つか。

それより、次は俺の番だな。

三ヶ木が合格して俺が落ちたら洒落にならないからな。

・・・温泉も行きにくいし。

温泉っか~

 

『旅行、お泊りだよね。

 ・・・・・・わたしの全てを、あ・げ・る♡』

 

す、全てって、そういうことだよな。

 

「ぐふ、ぐふふふふ」

 

はっ、そ、そうだ、こうしていられない。

少しでも時間がもったいない。

歩きながら、一つでも単語覚えないと。

 

”スタスタスタ”

 

     ・

     ・

     ・

 

「はぁー」

 

”ゴシゴシゴシ

 

「寒いなぁ~

 手が悴んじゃって」

 

”ぴゅ~”

 

「うひゃ~、寒くて死にそ~

 ううう、で、でもさ、ちゃんと会って報告したい。

 それに学校が自由通学なってからずっと会ってないし。

 早く出てこないかな比企谷君」

 

”ガヤガヤ”

 

「あ、出てきた!」

 

”トボトボトボ"

 

「ぶつぶつぶつ・・・」

 

よ、よし、完璧だ。

この調子で次の綴りの単語のチェックをっと。

 

”タッタッタッ”

 

「ひ、ひきが 」

 

「ヒッキー」

 

”パシッ”

 

「姿勢悪いよ。

 ほら、しゃんとしないと駄目だぞ~

 なんちゃって」

 

「いってえ。

 ゆ、由比ヶ浜、いきなり背中を叩くな!

 憶えていた単語、全部忘れたじゃねえか。

 まったく」  

 

「え? あはは、ご、ごめん。

 ね、ヒッキー、あのね今日もサイゼでさ 」

 

「ああ、わかってる」

 

「えへへ、やった」

 

「サイゼ?」

 

「え、あっ美佳っち!

 ・・・やっはろー」

 

「あ、あの・・・やっはろー、結衣ちゃん、比企谷君」

 

ん、三ヶ木?

なんでこんなとこに?

なんだ頬真っ赤じゃねえか。

もしかしてずっと塾終わるの待ってたのか?

 

「おう、どうした」

 

「あ、ごめん。

 あの、ちょ、ちょっと知らせたいことがあって来ちゃったんだけど。

 邪魔してごめん」

 

「・・・・・・」

 

「・・・・・・」

 

え、な、なにこの雰囲気。

三ヶ木も由比ヶ浜も、二人とも下向いたまま黙り込んでるんだが。

なんかすごく重い。

喧嘩でもしてるのかこの二人。

確かこの前、部室で勉強会・・・という名のお喋り会の時は、

少なくとも由比ヶ浜は三ヶ木とお喋りするのをすごく楽しみにしていたはずだ。

結局三ヶ木は来なかったのだが。

ふむ、その後に何かあったのか?

 

「・・・あ、ヒッキー、あたしあそこの喫茶店に行ってるね。

 美佳っち、またね」

 

「あ、うん」

 

”スタスタスタ”

 

気まずそうに由比ヶ浜は喫茶店に向かっていったのだが、

最後まで三ヶ木とは顔を合わせず。

ほんとなんかあったの君達。

仕方ない、三ヶ木に聞くか。

あ、そ、その前に。

三ヶ木は俺に何か話すことがあったんだろう。

そのためにこの寒空をずっと待っていた、頬を真っ赤にしながら。

そして、それまでして俺に話すことと言ったらあのことしかない。

だとしたらまずはそっちの話を聞く方が先だ。

 

「で、どうだったんだ東地大。

 今日発表だったんだろ」

 

「あ、う、うん。

 あ、あのね・・・・・・・・・へへへ、見事合格だぜこの野郎!」

 

「お、おう。

 そっか、やったな、おめでとさん」

 

「ありがと。

 次は比企谷君の番だね」

 

「ああ、そうだな」

 

「・・・あとね、メ、メールの件だけど」

 

「・・・・・・」

 

「・・・ごめん、変なの送った。

 あ、あの~忘れてくれるとありがたくて。

 冗談で打っててさ、それで消そうと思ったら、

 ちょっと手元が狂って送信・・・しちゃった」

 

「お、おうそうなのか。

 い、いや、まぁなんだ・・・・・・温泉もいいかもな。

 と、泊りがけで」

 

「えっ!

 あ、う、うん、温泉いいよね。

 ・・・泊りがけで」

 

「・・・・・・」

 

「・・・・・・」

 

「・・・・・・」

 

「・・・・・・あ、結衣ちゃん待ってるんだよね」

 

「ん、ああ、今からサイゼで勉強会なんだ」

 

「そっか。

 ・・・・・・うん、頑張ってね」

 

「あれだったら、お前も来ないか?」

 

「あ、わたしは・・・・・・いいよ。

 えっとね、今から学校行ってくる。

 平塚先生とゆきのんに合格したの報告してくるから」

 

「そっか」

 

「うん、じゃまたね」

 

「おう、またな」

 

”スタスタスタ”

 

そっか、合格したのか三ヶ木。

頑張ったんだな。

はは、実際よく合格できたな。

夏までは就職するって言ってたのにな。

さて、今度は俺の番だ。

温泉が待ってるし。

よし、こうしちゃいられない。

早速家に帰って勉強しないとな。

 

「よし、行くぞ温泉!」

 

”ダー”

 

     ・

     ・

     ・

 

”タッタッタッ”

 

「はぁ、はぁ、はぁ」

 

”ガラガラ”

 

「ゆきのん!」

 

「三ヶ木さん、ドアを開ける時は 」

 

”だき!”

 

「え? み、三ヶ木さん」

 

「ゆきのん、ゆきのん、ゆきのん。

 受かった、受験受かったよー」

 

「そう、よかったわね三ヶ木さん」

 

「うんうんうん」

 

”なでなで”

 

「よく頑張ったわ三ヶ木さん。

 おめでとう」

 

「ありがと、ゆきのん。

 ゆきのんのおかげだよ、ほんとにほんとにありがと」

 

「違うわ・・・自分の力よ、あなたは自分の力で勝ち取ったの」

 

「・・・ゆきのん。

 あのね、プロムこれからいっぱいお手伝いするね。

 作り物とか任せて、あと差し入れも」

 

「ええ、お願いするわ」

 

「うん。

 ・・・・・・あのね、今度はゆきのんの番だね」

 

「え?

 ええ、そう、わたしの番」

 

「頑張ってね、ゆきのん」

 

 

 

 

ーーーーーーー

 

 

 

 

”カタ”

 

「ゆ、由比ヶ浜さん。

 あ、あの~、ミルクティーでよろしかったでしょうか?」

 

「・・・・・・」

 

「す、すまない」

 

”ぺこ”

 

「い、いやちょっとな、いろいろとあってな。

 ついお前が喫茶店で待ってること忘れてしまって・・・・・・

 ほ、本当にすまない」

 

”ムス―”

 

「あ、あの由比ヶ浜さん、そのお詫びと言ってはなんだけど

 何でも好きなもの注文してくれ。

 善処させて頂きます。

 だからもうそろそろ機嫌を」

 

「・・・・・・ふぅ。

 仕方ないよね。

 美佳っち合格したんだもん」

 

「え、なんでお前知ってるの?」

 

「え、だってあの後、美佳っちと電話したとき聞いたし」

 

「え、お、お前ら喧嘩してたんじゃないのか?」

 

「喧嘩?」

 

「だ、だってこの前のあの感じって」

 

「あ、あ、あれ。

 あれは何でもない」

 

「ん?

 いやだって」

 

「何でもないって言ったら何でもないの!

 ヒッキーには関係ないんだから、馬鹿!」

 

「・・・・・・」

 

「そ、それよりさ、さっき何でも注文してくれって言ったよね」

 

「お、おう。

 まぁ、少し手加減してくれるとありがたい」

 

「じゃあさ・・・・・・早応大の入試終わったら、一緒に学校行こう」

 

「学校?」

 

「ゆきのんたちのお手伝い。

 美佳っちも行ってるっていうし。

 ほら、あれだよあれ、えっと・・・陣痛お見舞い!」

 

「ぶはぁ!」

 

「ヒッキー、大丈夫?」

 

「ば、ばっか!

 それを言うのなら陣中見舞いだ陣中!」

 

「えっ」

 

「まったく、お前本当に受験大丈夫か」

 

「だ、大丈夫だし!」

 

「いやその自信ってどこから来るの?

 いいか、悪いことは言わん、本命を変えた方がいい。

 早応大はあきらめて、例えば駿台とか」

 

「すん大? すん大、すんだい、すん・・・・・・駿台!

 そ、それって予備校だし!」 

 

「それだけやばいってことだ。

 だからだな 」

 

「本当に大丈夫なんだから。

 ほら!」

 

”ぐぃ”

 

え、な、なに?

自信満々で目の前に突き出したのって、それお守り?

自身の裏付けって神頼みってことかよ。

神様だって、何でも誰でも願いをかなえてくれるものじゃない。

そんなことしてたら、それこそブラック業界の社畜。

神様だって多忙で倒れてしまうっていうの。

だから神様は、願いに対して努力を尽くした人に対して最後の一押しをしてくれるもの

なんだ。

努力失くして願いはかなわん。

・・・はぁ~まったく。

 

「へへ、正月にママと一緒にもらいに行ってきたの」

 

「な、なぁ由比ヶ浜 」

 

「あのね、このお守りってさ、すごいご利益があるんだよ。

 総武校受けた時もママと一緒にもらいに行ったんだ。

 先生も友達も総武校なんて絶対無理だって言ってたのに、

 このお守りのおかげで無事受かることができた。

 だから今回も絶対大丈夫!」

 

えっ、な、なんだと!

総武校受けた時もこのお守りを持っていただと。

もしそれで由比ヶ浜が総武校に受かったというのなら、

だとしたら、なんというご利益。

そ、それってレア、いや超レアアイテムじゃねえか。

マジ☆5以上のアイテム!

 

”ぎゅ”

 

「お、おい由比ヶ浜」

 

「ヒッキー、あ、あの顔近い。

 それに手もそんなに握られると、ちょっと痛いかなぁ~って」

 

「あ、す、すまん。

 あのな、そのお守りどこで頂いたものなんだ」

 

「えっと確か北白蛇神社っていって、直江津ってとこだったと思うけど。

 なんか神様の引継ぎがあってから、何でも願い事が叶うって有名なんだって」

 

直江津・・・・・・新潟っか。

くそ、もう入試はすぐだ。

今は時間的にも資金的にも行けそうにもない。

もう少し早くその情報があれば、俺もその超レアアイテムを。

はぁ~

 

「あ、ちょっと待ってね、今ママに詳しい住所を聞いてみるね」

 

「いやいい。

 んで、その霊験あらたかな神社に早応大の合格をお願いしてきたのか」

 

「え、あ、ああ、ちょ、ちょっと違うかなぁ」

 

「え、何違うの?

 じゃ何をお願いしてきたんだ?」」

 

「あ、あ、あのね・・・・・・ヒッキーと同じ大学にいけますようにって」

 

「一緒じゃねえか」

 

「違う・・・んだけど」

 

「いや一緒だろ?」

 

「ち、違うの。

 もう、ヒッキーの馬鹿!」

 

「はぁ?」

 

「ふん!

 あ、店員さん、すみません注文いいですか。

 えっとこれとこのケーキ、あ、あとこのパフェも」

 

「お、おい」

 

「ヒッキーの何でも好きなもの注文してくれっていいたよね」

 

「え、あ、いやでもさっき 」

 

”ぎろ!”

 

「なに」

 

「い、いえ、なんでもないです」

 

     ・

     ・

     ・

 

「う~ん、このレアチーズケーキもすごく美味しい」

 

ううう、お、おれの諭吉さんが。

マジどれだけ食べる気だ。

好きなものと言ったけど、好きなだけとは言ったつもりはないのだが。

はぁ~

 

「ヒッキー」

 

「ん? 」

 

”ぱく”

 

「ね、美味しいでしょ」

 

「・・・・・・」

 

い、いや美味しいでしょって由比ヶ浜。

君、このフォークでさっきまでケーキ食べてたんだよね。

 

「ヒッキー?」

 

「いや、ま、な、なんだ・・・・・・これって」

 

「え?

 ・・・・・・あっ!」

 

や、やっと気が付いたのかよ。

ど、どうすんだ、すごく気まずいんだが。

 

「・・・・・・」

 

「・・・・・・」

 

「・・・・・・」

 

「・・・・・・」

 

「あ、あの、ごめん」

 

「いや・・・・・・美味かった」

 

「うん。

 ・・・・・・あ、そ、そうだ。

 ね、プロムの動画もう観た?」

 

「ああ、あのイメージ動画な。

 小町に無理やり観せられた」

 

そう、それは雪ノ下達がプロムを紹介するために作ったイメージ動画で、

生徒会の公式ホームページにアップされたものだ。

何でもそれは体育館に本番さながらのセットを組んで撮られたもので、

そこにはいつもの雰囲気とはかけ離された異空間が広がっていた。

そしてその異空間ではドレスとタキシードに着飾った生徒たちによる華やかな

ダンスが繰り広げられていた。

その中でひときわ目を引いたのが男装の麗人と化した雪ノ下雪乃。

容姿もさることながら、その一つ一つの仕草は優雅で、思わず見惚れるほどだった。

相手をする一色もオレンジ色を基調としたドレスは鮮やかで、その仕草のあざとさと

相まって非常にかわいいものがあった。

だが、それより俺は

 

「ゆきのんすごく綺麗だったね」

 

「いや、それより小町だ!

 あの小町のドレス姿の可憐さに比べたら、雪ノ下や一色など引き立て役にすぎん。

 みろ、早速スマホの待ち受けにしたぞ」

 

「はは、ヒッキーらしいや。

 動画以外にも準備の風景とかいろいろアップされてるみたいでさ、

 今日も何かアップされてるかも」

 

お、おい君もしかして毎日それチェックしてるの?

マジ大丈夫なのか由比ヶ浜。

 

”カシャカシャ”

 

「あっ」

 

ん、どうしたんだ?

由比ヶ浜、スマホの画面見て固まってるんだが。

 

「どうした由比ヶ浜?」

 

「ヒッキー、こ、これ。

 あ、あのね、他に動画があったから見てみたら」

 

そうやって心配そうに差し出された由比ヶ浜のスマホには、

自撮りと思われるプロムの画像が映っていた。

この女子達には見覚えがある。

雪ノ下達が作った動画にエキストラとして映っていた女子達だ。

ただその画像に映っていた女子達のドレスは胸元が大きく開かれていて、

そして必要以上に男子生徒と密着して踊っていた。

満面の笑みを浮かべながら。

・・・・・・まずいな。

 

「ヒッキー、これ大丈夫かなぁ」

 

「・・・・・・わからん。

 だが今は受験に集中しろ。

 これ食ったら勉強始めるからな」

 

「あ、う、うん」

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 

「ふんふんふん♬

 よしで~きった。

 うん上出来上出来。

 ちょ~美味しそう。

 明日はバレンタインだもんね。

 毎日頑張っている生徒会のみんなへのプレゼント。

 へへ、みんな喜んでくれるかなぁ。

 それとさ・・・・・・明日は比企谷君の入試最終日。

 試験終わったら渡しに行くんだ。

 そしてね、

 

『誰にも渡したくない、俺だけの人になってほしい。

 だから俺と付き合ってほしいんだが』

 

 あの時の返事、するつもり。

 今更かもしれないけど、でもやっぱりちゃんと返事したい。

 へへ、今頃まだ勉強頑張ってるかなぁ。

 えっと、今何時だっけ?

 ・・・え、もうこんな時間だ。

 やば、さっさとお風呂入らないと。

 しっかし、今日もとうちゃん遅い。

 また午前様かなぁ」

 

”ガチャ”

 

「あ、おかえ・・・・・・」

 

「ひっく

 うぃ、ただいま美佳ちゃん」

 

「げ、とうちゃん、また飲んできた!

 麻緒さんが家事手伝いに来てくれてた時は全然飲んで帰らなかったのに。

 麻緒さんが来なくなってからは毎日毎日これだもん。

 ね、とうちゃん、すこしは自分の体のことを 」

 

”だき”

 

「ぷはぁ~」

 

「ぐへぇ~、酒くせ~」

 

「美佳ちゃん、お帰りのチュ~」

 

「や、やめろ、離せこの馬鹿おやじ」

 

”ベシ”

 

「ぐ、ぐはぁ~」

 

「まったく!

 で、何か食べれる?

 それともお風呂にする?」

 

「美佳ちゃんの手料理たべた~い、ひっく」

 

「か、かわいくね~

 はぁ~仕方ないな。

 今なんか作るから、ちょっこと座って待ってて」

 

「うぃ」

 

「はぁ~、麻緒さんにまた来てもらおうかなぁ。

 でも受験終わるまでって約束だったし」

 

”ムシャムシャ”

 

「いくらかあちゃんのお姉さんだからといっても、あんまり甘えてばかりは悪いよね。

 でも・・・」

 

”ムシャムシャムシャ”

 

「ね、とうちゃん、ちょっと相談だけど」

 

”ムシャ”

 

「へ、と、とうちゃん・・・・・・」

 

”ムシャ、パク”

 

「な、なに食べてんだー!」

 

「何って、チョコ。

 さっきチョコ食べて待っててって」

 

「いってねぇー!」

 

”パク”

 

「だから、食べんな!」

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 

”ふらふら、ふらふら”

 

お、お、終わった。

も、もう脳みそのエネルギー、全部使い果たした。

もう単語一つ出てこない。

は、はやいところ、マ、マッカンを、糖分の補給をしないと。

 

「ヒッキー」

 

”スタタタタ”

 

「お、おう」

 

「大丈夫ヒッキー?

 目がいつも以上に凄いことになってる」

 

「だ、大丈夫だ。

 マッカンさえ補給すれば元に戻る。

 で、どうだったんだお前」

 

「え、あ、ま、まぁ~あとは神のみぞ知るってところかな」

 

「まぁ、お前の神さん凄いからな」

 

「でへへへ。

 あ、それよりさ、この前の約束憶えてる?」

 

「ん、あ、ああ、わかってる。

 プロムの手伝いだったな」

 

はぁ~、今は思いっきり眠りたいのだが約束だ仕方がない。

まあそれに正直、ちょっとプロムのことも気になってたしな。

 

「んじゃ行くか」

 

「うん」

 

     ・

     ・

     ・

 

”ガラガラ”

 

「失礼するぞ。

 ん、柄沢、一色はいないのか?」

 

「あ、平塚先生。

 えっと、一色さんは蒔田さんとプロムのポスターを貼りに行ってますが」

 

「そうか。

 すまんが、至急一色に応接室に来るように伝えてくれないか」

 

「え、あ、はい」

 

「副会長、小町が連絡します」

 

「すまない、比企谷さん頼むよ」

 

「はい」

 

”カシャカシャ”

 

「・・・・・・先生、何かあったんですか?」

 

「ん、ああ」

 

”キョロキョロ”

 

「雪ノ下はいないようだな」

 

「あ、はい。

 今、貸衣装の打ち合わせで藤沢さんと外出しています」

 

「そうか。

 実はな、プロムの件で保護者の方が乗り込んできててな。

 君達にも一応話を聞いてもらおうと思ってな」

 

「それなら、私がお話を伺わせてもらいます」

 

「雪ノ下!

 ・・・ふむ、だがな」

 

「何か問題でも?」

 

「・・・・・・乗り込んできた保護者というのがだな 」

 

     ・

     ・

     ・

 

”スタスタスタ”

 

「あ、ヒッキーほらプロムのポスター提示してある。

 これあの動画の時のゆきのんといろはちゃんだ」

 

「ああ。

 あのダンスシーンの写真だな」

 

「本当にプロムやるんだね。

 ・・・ゆきのん達、頑張ってるんだ」

 

「そうだな」

 

”タッタッタッ”

 

「あ、いろはちゃん。

 お~い、いろはちゃんやっはろー」

 

「え?

 あ、結衣先輩、先輩!」

 

”ダー”

 

「お、おい生徒会会長様が廊下走ったら駄目だろう」

 

「そんなことはどうでもいいんです」

 

どうでもいいのかよ。

いやマジそれどうなの?

 

「それより大変大変大変なんです~

 一緒に来てください

 あ、結衣さんもお願いします」

 

へ?

 

     ・

     ・

     ・

 

”スタスタスタ”

 

やっぱりあの映像か。

応接室に向かう間に一色に聞いた話では、SNSにアップされたあの女子達の映像、

あれを観た保護者が学校に乗り込んできたらしい。

まぁ、あんな格好で男子生徒といちゃつく映像を見たら、親としては心配する気持ちに

なってもおかしくない。

だがその程度のことなら、

 

「なぁ一色、雪ノ下はどうしたんだ?」

 

「え、あ、雪乃先輩なら先に副会長と応接室に行ってます」

 

「そうか」

 

それなら大丈夫だろう。

大抵の保護者なら雪ノ下一人いれば説得可能だろう。

保護者が心配している点の改善を約束して安心させる。

それぐらいあいつのスキルから考えればわけのないことだ。

だとしたら、

 

「なぁ、雪ノ下がいるのなら、俺達必要なくない?」

 

「はぁ、それがですね・・・・・・

 とにかく、いいですからお願いします」

 

「お、おう」

 

・・・そんなにやばいのか?

足早に先を急ぐ一色からは只ならぬ状況であることが感じられる。

それは由比ヶ浜も同じらしく、不安に表情を曇らせている。

 

「ね、ね、ヒッキー。

 大丈夫かなぁ」

 

「わからん」

 

「・・・・・・ゆきのん」

 

「大丈夫だ心配するな。

 いざというときは土下座でも何でもしてやる」

 

「ヒッキー」

 

そうだ、俺の108の特技のなかでも俊逸な特技・・・土下座。

ふふふ、俺の土下座にかなうものなど・・・・・・あいつ以外いない。

それにいくらなんでも土下座している生徒を目の前にして、

大の大人がそれ以上何も言うことはできまい。

それこそ大人げないと非難されるものだ。

まぁ動画でも撮れたらなおさらだが、そこまですることはあるまい。

唯一の気がかりは・・・・・・

 

”ドン”

 

「ひゃ、な、何ですか先輩」

 

「あ、す、すまない。

 ちょ、ちょっと考え事をしてて、立ち止まったお前に」

 

「はぁ~まぁいいですけど。

 先輩も入試でストレス溜まってるでしょうから、こんなに可愛い女子を

 目の前にしたら」

 

「いや、そんな気は全くない、厳密に!」

 

「は、はぁー!

 なんですかそれ!

 しかも厳密にって。

 もういいです、じゃ入りますね」

 

”トントン”

 

「失礼します」

 

”ガチャ”

 

「しつれ・・・」

 

マ、マジか。

いきなりのラスボス登場かよ。

一色が只ならぬ雰囲気だったのも納得できる。

気品と威厳の塊。

この応接室にピリピリと張り詰める緊張感を醸し出しているあの人。

・・・・・・雪ノ下の母。

そして、その横で退屈そうにコーヒーに突っ込んだマドラーをくるくる回している魔王。

いやもとい雪ノ下の姉、陽乃さん。

全ての面で雪ノ下の上位互換であり、雪ノ下が越えようとしている壁。

その様子からすると無理やり連れてこられたのだろう。

いや~凄く機嫌わるそ。

そして・・・・・・雪ノ下。

ローテーブルをはさんでその正面に座っている雪ノ下の背中は、

超然とした態度の母の視線を一身に受けてるためか、その背中は心なしか

丸まっているように見えた。

雪ノ下と陽乃さん、この二人のこんな態度を俺は今まで見たことがない。

 

「お待たせしました。

 プロムについてはわたし達全員で話し合って決定したものです。

 ・・・・・・ですので、その実行可否についての議論は、

 わたし達全員で参加させて頂きます」

 

俺の隣に座った一色は、そう言って敵意むき出しで雪ノ下母親に鋭い眼差しを

向けている。

そう、それはまるで追い詰められたネズミが猫に嚙みつこうとしているように。

だが・・・・・・相手が悪い。

相手は猫じゃない獅子、いやそれもただの獅子じゃない。

百戦錬磨の百獣の王だ。

そんなものこの人の歯牙にもかからない。

 

「議論だなんてそんな大げさなものじゃないのよ?

 ただ、こちらの意見を皆さんにお伝えに来ただけなんだから」

 

やはり簡単にいなされてしまった。

格が違い過ぎるんだ。

 

「・・・・・・では、改めてお話を伺います」

 

俺達がやってきてから一度もこちらを見ることのなかった雪ノ下が、

硬い口調で切り出した。

 

     ・

     ・

     ・

 

”スタスタスタ”

 

「くそ、あの馬鹿おやじ!

 生徒会のみんなの分のチョコ全部食べやがって。

 はぁ~、比企谷君の分は無事死守できたからまだよかったけどさ。

 もうチョコの材料あんましなかったから、めっちゃしょぼくなっちゃたじゃんか。

 ・・・・・・で、でも!

 ほ、ほら肝心なのは気持ちだから。

 このしょぼ・・・チョコには、みんなへの気持ちがいっぱい込められている。

 だから、そこら辺の豪華な義理チョコより上のはず。

 ・・・・・・た、多分、きっと」

 

”がさがさ”

 

「はぁ~、でも実際しょぼいよなぁ~」

 

"ドタドタドタ"

 

「ジ、ジミ子せんぱ~い」

 

「え? あ、舞ちゃん」

 

     ・

     ・

     ・

 

『議論だなんてそんな大げさなものじゃないのよ?』

 

「・・そういうことっか」

 

「え、ヒッキー何か言った?」

 

「あ、いや何でもない」

 

雪ノ下の父は県内有数の企業である建設会社の社長で、しかも市議会議員。

すなわち地元の名士だ。

それに陽乃さんも総武校OBということもあって、確か学校の理事にもなっていたはず。

そんな名士であり理事の雪ノ下家に、あのネットの映像を観て心配になった保護者達が

相談にいくのは当然の成り行きだろう。

つまり今日こうして学校に乗り込んできたのは、この人の意思できたのではなく、

保護者達の代表として乗り込んできたということなのだろう。

ということは、相談に乗ったという時点で、この人にとってこの件の結論は決まっている

ということなのだ。

だから既に決定事項であり、俺達と議論する余地など初めからないんだ。

雪ノ下や一色がいくら反論しようと、そうねと笑顔で軽く受け止められて、

そしていつの間にかその決まっている結論に向けて誘導されているのだ。

この流れを変えるには、まずこの人のこの冷静沈着の仮面を引き剝がさないといけない。

だがそんなこと俺達には・・・・・・

 

”ガシガシ”

 

無理だな。

まぁ、それにもともと今回の件について、保護者達が心配するのは至極当然の

ことなのだ。

あの映像を観られたのであれば、なんと反論しようと説得力に欠ける。

それともう一つ・・・そう、駄目押しなのは、

 

『謝恩会は卒業生のためのものでもあるけれど、保護者や先生方、地域の方々

 にとっても大切なイベントよ』

 

そうなんだ。

雪ノ下母の指摘された通り、このプロムには大きな問題がある。

机の上に置かれたプロムの概要書。

さっき改めて内容を確認してみたんだが・・・・・・

公開告白、プロムキングにプロムクィーン、チークタイム等々。

はぁ~、なにこれ。

特に公開告白って、これって何かのいじめ?

ま、まぁ欧米ならこれでいいのかもしれない。

だが日本ではこういった催しは、本来、卒業生が今までお世話になった恩師や、

学費を初め面倒をみてくれた親への感謝、また卒業する先輩への在校生からの

想いを表す場でもあるのだ。

だが、このプロムにはそれがない。

ただ単に卒業生が卒業ということにかこつけ、ワイワイガヤガヤするだけ。

ま、まぁもともとプロムなんてものは、リア充のリア充によるリア充のための

お祭りだからな。

畢竟、そんなものはリア充共が勝手にやりたい奴を集めてやればいい代物だ。

それに昨年まで行われてきた卒業生を送る会自体に何の問題もなかったはず。

昨年は結構好評だったって聞いてるし。

だからあえてこれを生徒会主催で執り行う理由がない。

・・・・・・だが、

 

『ここはわたし的にドバーってこれでもかってぐらいのことやって。

 それで、それで・・・・・・・・・・・・自分の心に区切りつけたいんです。

 ちゃんと心置きなく、先輩達を送り出したいんです。

 ・・・こんなんじゃ・・・駄目・・・ですか?』

 

「・・・・・・」

 

『私は私の力でやり遂げたい。

 ・・・それを見届けてもらえたら嬉しいわ』

 

『ゆきのんは・・・・・・自分の力でやってみたいんだよね』

 

『そうしないと私自身先に進めない。 

 あの人に追いつけない。

 いつかあの人を超えたいから』

 

「・・・・・・」

 

何とかしないとな。

だが、既に戦略的に負けが決まっている勝負だ。

小手先な戦術で挽回できるものじゃないだろう。

それにこの議論もどきが始まってから、もう結構な時間になる。

いつ打ち切りを告げられてもおかしくない。

それは”プロムの中止”という最悪な結末で。

くそ、何とかそれを避けるだけの手立てはないのか。

せめて結論を先延ばしにできれば。

 

”ガシガシ”

 

・・・・・・土下座。

そうだ、今の俺にできることはそれしかない。

それこそ額が床にめり込むほどの土下座で、あの人の前に這いつくばってやる。

そんな姿の生徒に、いくらあの人でも。

最悪の結末を避けるためなら、俺の自尊心など安いものだ。

それに、幸いこの場にあいついないからな。

はは、なんの気がかりは何もない。

 

”ニヤ”

 

くくくくく、ははははは。

いいだろう、見せてやろうではないか、究極の土下座というものを!

それじゃ

 

”にぎ”

 

へ、由比ヶ浜?

なんで腕を?

すまんがその手を離してほしいんだが。

 

「由比ヶ浜 」

 

”ギュッ”

 

俺が何か言おうとしたとき、由比ヶ浜は一層強く俺の腕を握りしめてきた。

凄くもの悲しげな瞳で俺を見つめながら。

きっと由比ヶ浜は俺がこれからやろうとすることを理解したのだろう。

・・・土下座、やめろっというのか。

だがそれでは・・・・・・それしか方法がないんだ。

 

「由比・・・・・・」

 

「・・・・・・」

 

か弱い女子の手だ。

振りほどこうとすれば簡単にできるはずだった。

だがなぜか・・・・・・振りほどけなかった。

その瞳が俺にそれを許さなかった。

 

「・・・・・・わかった」

 

「・・・・・・うん」

 

くそ、ならどうする。

このままでは間違いなくプロムは中止になる。

 

”ガシガシ”

 

入試が終わったばかりで脳みそが働かねぇ。

圧倒的にブドウ糖が足りない。

・・・焦るな、考えろ、よく考えろ。

きっと俺達にも何か有利な材料があるはずだ。

その材料をもとに何か策を。

 

「それではそろそろ 」

 

雪ノ下母から発せられようとしていた打ち切りの言葉。

この議論もどきの結論が下されようとしている。

ど、どうする!

 

”キョロキョロ”

 

はっ!

 

「ひ、平塚先生!」

 

この人に頼るしかない。

だがそれはこの人に・・・・・・

だが、今はそれしかない。

 

「平塚先生、プロムは学校側も内諾はしてるんですよね。

 どういう了見なんですか?」

 

俺の言葉とともに、出席者が一斉に平塚先生の方に顔を向けた。

先生は口の端だけで笑顔を作り、そして口を開いた。

 

「そうですね、私個人としましては即中止という判断はあまりしたくないですね。

 当校には生徒の自主性を重んじる伝統もあります。

 計画上不備のある部分を適宜修正し、保護者の皆様にご理解ご協力いただけるよう

 継続協議すべきでは・・・・・・、というのが私の意見です」

 

俺達にとって唯一有利と思える材料、それはこの場にいる学校側の出席者が

平塚先生だけということだけだった。

学校の理事であり、地元の有力者、まして保護者会の代表として来ている雪ノ下母の

意向に逆らうにはそれ相応の覚悟がいる。

並みの教師なら委縮してプロムをやめさせる、いやそこまでは言わないでも

やめさせる方向で検討しますと答えるだろう。

それはどっちでも同じことで、プロムをやめさせるということが決定事項となる。

だが平塚先生なら、俺は平塚先生ならプロムをやめさせるとは言わないことがわかっていた。

生徒の自主性を重んじる。

それは俺の人生で唯一尊敬する恩師、この人、平塚静の平塚静たる所以である。

保護者の圧力に押されそれを否定することは、平塚静そのものを否定することになる。

だがそれは有力者の意向に逆らうことであり、平塚先生にリスクを背負わせることになる。

だがそれでも俺は平塚先生に・・・・・・姑息だな。

 

「先生のご意見はごもっともだと思います」

 

平塚先生の言葉に異論がないのであろう。

雪ノ下母はゆっくり頷いた。

 

「では、また改めて伺いますので。

 今後は学校側とご相談させて頂いても?」

 

「上に伝えておきます。

 すぐに日程を確認してご連絡差し上げます」

 

そんな姑息な俺の計算などこの人はお見通しなんだろう。

それでもこの人は自身へのデメリットなど気にせず、

平塚静たる所以を貫いた。

そして継続協議という今時点で最高の答えを引き出してくれた。

・・・・・・やっぱりこの人にはかなわない。

 

「お手数をおかけいたします。

 宜しくお願いします。

 ・・・・・・陽乃、皆様にご挨拶して戻りましょう」

 

「あ、わたしこのコーヒーを飲んでから出るから」

 

「そう。

 では、先に戻りますから」

 

そういって立ち上がると、俺達に会釈をして雪ノ下母は応接室の扉の方に向かった。

玄関まで送るのであろう、平塚先生も続いて立ち上がり扉の方に、

 

”にぎ”

 

「へ?」

 

俺の後ろを通り過ぎる時、ふぃに先生が俺の肩をつかんだ。

そして微笑みながら耳元でつぶやいた。

 

「比企谷、後でブリット三連発だ」

 

そう言い残して、平塚先生は雪ノ下母の後に続いて応接室を出て行った。

俺の肩に先生の温もりを残しながら。

・・・か、帰りてぇ。

ただでさえ入試の後で耐久力の下がった状態なのに、ここであの、

 

『衝撃のファーストブリット』

 

”ベシッ”

 

『ぐはぁ』

 

『撃滅のセカンドブリット!』

 

”バキッ”

 

『ぐぇっ』

 

『抹殺のラストブリット!!』

 

『ひでぶー』

 

”ぞわ~”

 

そ、そんなもの、ブ、ブリット三連発なんて食らったら・・・・・・死ぬ。

間違いなく死ぬ。

まじ帰ろかなぁ。

 

     ・

 

”テクテクテク”

 

「そ、それでどんな感じなの舞ちゃん?」

 

「あ、いえそこまでは。

 なんか誰かがプロムの件で怒鳴り込んできたってことしか」

 

「そう。

 あ、応接室でよかったよね」

 

「はい。

 えっと、中入ります?」

 

「んと、どうしようっか」

 

”ガチャ”

 

「あっやば、舞ちゃんあっちに」

 

「え、あ、はい」

 

”ダー”

 

「今日はご足労頂きありがとうございました」

 

「いえ、先生の方こそ、お忙しいところお時間を頂きありがとうございます。

 あ、ここでよろしいですのよ」

 

「いえ、玄関までお見送りさせて頂きます」

 

”スタスタスタ”

 

「舞ちゃん、怒鳴り込んできたってあの人?」

 

「あの~、恐らくそうかと。

 一色からは、結構お偉いさんが怒鳴り込んできたって聞いただけだから。

 その~、誰かまでは。

 あ、応接室入ります?」

 

「ん、ちょっと待って。

 中の様子を確認してから」

 

”ピタ”

 

「盗み聞きですか?」

 

「シー」

 

     ・

 

ふぅ、とにかく最悪の事態は免れた。

だが問題はこれからだ

与えられた時間はそう長くはない。

早速対策を検討しないといけないのだが、その前に一応確認しておきたいことがある。

まず間違いはないと思うのだが、これからの方向性にもかかわってくる以上、

確認しておかないわけにはいかない。

そこでずっとまずそうにコーヒーを飲んでいるあの人に。

 

「あの・・・・・・、保護者会の一人って言ってましたけど、会長かなんかですか?」

 

「違う違う、まぁ理事とかいう意味の分からない役職だし、仕事柄地元とのつながりも

 あるし、娘二人がここの高校でしょ?

 だからお願いされて出張ってきたわけ」

 

やはりそういうことでよかったんだな。

なら対策のターゲットはあの人じゃない。

 

「・・・・・・だから、あの人の意見なんてほとんど関係ないのよ。

 頼まれちゃった以上、体裁として一言言いに来ないといけなかったんでしょう。

 でも・・・・・・まぁ今回はそれだけじゃないけどね」

 

そういうことだよな・・・・えっそれだけじゃないって?

それ以外に何かあるのか?

 

”ジー”

 

ん、陽乃さんどこを見てるんだ?

あれって確か副会長の・・・・・・誰だったっけ。

まぁ、あの男子の名前なんてどうでもいいが、陽乃さんのあの睨むような視線は何なんだ?

 

     ・

 

「ジミ子先輩、何か聞こえます?」

 

「ん~、あんまり話の内容までは 」

 

「何をやってんだね三ヶ木、蒔田」

 

「え、あっ」

 

「まったく、ほらそんなところで盗み聞きしていないで、君たちも中に入りたまえ」

 

「「あ、は、はい」」

 

”ガチャ”

 

「いや、参ったな」

 

「し、失礼します。

 ・・・・・・あ、結衣ちゃん」

 

「・・・・・・や、やっはろー、美佳っち」

 

「失礼しま~す。

 ん、ジミ子先輩どうかしました?」

 

「うううん、何でもない」

 

”スタスタスタ”

 

三ヶ木?

やっぱり学校に来てたんだな。

あれ、でもなんか俺すげー睨まれてんだけど。

俺、またなにかしたっけ?

ま、まぁいい、後でちゃんと謝っておこう。

・・・・・・なんかよくわからんけど。

 

「あ、三ヶ木ちゃん、久しぶり。

 どう、受験落ちた?」

 

「・・・・・・あ、あの受かりました」

 

「ち、それは残念」

 

「ね、ねぇさん」

 

「え~、だって駄目だったら、一応もう一回うちに来ないって誘ってみようと

 思ってたのに。

 本当に残念」

 

「・・・・・・あ、ありがとございます」

 

いや本当に残念がってんだけどこの人。

まぁ陽乃さん、結構三ヶ木のこと気にいってたからな。

もし三ヶ木があのまま大学に進学するって気にならなかったら、

今頃は魔王様の下で社畜としての第一歩を歩んでいたはずだ。

ふむ、間違いない、確か面接に行ったって言ってたし。

そうなれば入試後の泊まりがけの温泉旅行など夢のまた夢。

そうならなくて良かった。

・・・・・・泊まりがけ。

 

”にこにこ”

 

「ヒッキーなんかキモい」

 

「え?」

 

「・・・・・・学校側の対応としては、どうなりそうですか?」

 

雪ノ下。

雪ノ下の暗く沈んだ声が俺を現実の世界へと連れ戻した。

そうだ、プロムは継続協議となったが、それはいつ打ち切られるか何の保証もない。

そして学校側の対応は恐らく・・・・・・

 

「何とも言えんな。

 実のところ、SNSに上がっていた画像くらいなら、私も・・・・・・、

 まぁ、私の上もそこまで問題にはしてないんだ」

 

そう、問題はそこじゃない。

 

「さすがにこう来られてしまうと、問題としては大きく見られてしまうからな。

 ・・・・・・それなりの対応をしないといけなくなる」

 

それなりの対応っか。

先生は言葉を濁したが、意味するところは一つでプロムの中止だ。

今日のところは先生のおかげで、何とか結論を先延ばしにすることはできた。

だが、理事であり地元の有力者が保護者の要望を受けて乗り込んできた以上、

このままプロムを続けられるものではない。

学校側としてもそれなりの回答をする必要がある。

それはプロムの中止。

まぁよくて内容を再度見直した上で、来年度に改めて行うかどうかを検討しますっという

ところが妥当だろう。

だがそのような理由で、一度先延ばしにされたプロムが改めて行われる可能性は

・・・・・・極めて低い。

来年になれば、きっとまた来年にと持ち越され、そしていつの間にかたち切れになってる

そういうものだ。

それに俺達・・・・・・雪ノ下は三年だ、来年はない。

 

「それで、・・・・・・どうする?」

 

「どうするといわれても・・・・・・。

 計画上の不備を修正して 」

 

先生に答えながら雪ノ下が頭を振る。

学校側の対応がそうである以上、それが無意味であることに、あるいは不可能になったことに

自分で気付いているのだろう。

 

「継続協議をしている間に、理解を得られる方法を何か考えます・・・・・・」

 

雪ノ下はそう口にしたものの、そこにはほとんど望みがないことを確信しているように見えた。

それは俺も同じ意見だ。

だが、現状では他にできることはない。

それでも俺は・・・・・・

 

『そうしないと私自身先に進めない 

 あの人に追いつけない。

 いつかあの人を超えたいから』

 

このプロムをやり遂げたいといった雪ノ下の想いをかなえてやりたい。

それに折角平塚先生にリスクを負わせてまでもらった時間だ。

絶望なほどに可能性はないかもしれない、希望はほとんどないかもしれないが、

それでもなんとか足掻いてみるか。

 

『押しても駄目ならあきらめろ』

 

『千里の道もあきらめろ』

 

はぁ~、こんな往生際の悪さ、俺のポリシーではなかったはずだが。

いつも間にか変わってしまったのだろうか。

多分それはきっと・・・・・・

 

”ちら”

 

「えっと柄沢君。

 ね、ど、どうしたの?

 何があったの? 」

 

「あ、えっとですね、三ヶ木先輩実は 」

 

”ガシガシ”

 

なら最後までもがき足掻いてみるか。

そうと決めたら。

 

「まぁ、そうだな。

 とりあえず説得材料を揃えて、それから・・・・・・」

 

”ぎゅ”

 

雪ノ下?

ソファに横並びに座っていた雪ノ下が、俺のジャケットの袖を掴んで止めた。

 

「待って。

 そこから先はわたし達の仕事よ。

 ・・・・・・わたしがやるべきことなの」

 

「・・・・・・そこにこだわっている場合じゃないだろ」

 

「・・・・・・」

 

本末転倒だ。

既にプロムには生徒会を初め多くの人が関わっている。

雪ノ下の想いもわかるが、だからと言ってその人達の想いを無碍にするわけには

いかない。

今はまずプロムをやり遂げることが先決だ、雪ノ下のためにも他のやつらのためにも。

だが、そんなことは雪ノ下にもわかっているはず。

それならなぜ・・・・・・それだけ余裕がないのか。

それなら、やっぱりそれなら俺が雪ノ下を。

 

「ゆきの 」

 

「・・・・・・まだ『お兄ちゃん』するの?」

 

お兄ちゃん?

その冷たい声の持ち主、陽乃さんがまるで憐れむような視線を俺達に向けた。

 

「は? 何の話ですか」

 

「雪乃ちゃんが自分でできるって言ってることに無闇に手を貸しちゃだめだよ。

 君は雪乃ちゃんのお兄ちゃんでも何でもないんだから」

 

「そういうことじゃ、ないです」

 

違う、そんなつもりじゃない。

俺は、俺はただ雪ノ下の・・・・・・雪ノ下を・・・

 

「・・・・・・大事な人だから。

 助けたり、手伝うのは当たり前です」

 

由比ヶ浜。

その弱々しく、震えるような声の持ち主、由比ヶ浜が陽乃さんを睨みつけて言った。

 

「大事に思うなら、相手の意思を尊重してあげるべきだと思うけどね」

 

「「・・・・・・」」

 

「いくら相手のことを思っているからって、いつも手を貸すことが正しいとは

 限らないのよ。

 ・・・・・・君たちのような関係、何て言うかわかる?」

 

「姉さん、やめて。

 ・・・・・・わかっているから」

 

雪ノ下はゆっくりと落ち着いた声音で言った。

その表情に水晶のように透き通った微笑みを浮かべて。

そして俺達の方に姿勢を向け言葉を続けた。

 

「私は、ちゃんと自分の力でできるって証明したいの。

 だから、・・・・・・比企谷君、あなたの力はもう借りないわ。

 勝手なお願いで申し訳ないけれど・・・・・・。

 お願い、私にやらせて」

 

「・・・・・・」

 

「じゃないと、私、どんどんダメになる。

 ・・・・・・わかっているの、依存してること。

 あなたにも由比ヶ浜さんにも、誰かに頼らないなんて言いながら

 いつも押し付けてきたの」

 

依存?

押し付け?

何を言ってるんだ、俺はただ・・・俺は自分が自分で望んだことをやってきただけだ。

誰のためでもなく、それは全て俺自身のために。

だから、だからそれは、

 

「それは違う・・・・・・。

 全然違うだろ」

 

「違わないわ、結果はいつもそうだもの。

 もっとうまくやれると思ったのに、結局何も変われてない・・・・・・。

 ・・・・・・だから、お願い」

 

雪ノ下に濡れた瞳で見つめられ、儚い声で告げられて、微かな笑みを向けられて、

俺はもう何も言えなかった。

 

「ヒッキー・・・・・・」

 

由比ヶ浜に袖を引かれ、その瞳に促され、ようやく答えることができた。

 

”こく”

 

「・・・・・・わかった」

 

”ガタッ”

 

「生徒会室に戻って今後の対応を検討します」

 

俺の答えを聞いて雪ノ下はスクッと席を立って言った。

その表情にはもう迷いは無かった。

あるのは決意だけだった。

 

”ペコ”

 

「行きましょう一色さん」

 

「はい」

 

     ・

     ・

     ・

 

”ジャ~、キュッ”

 

「よしっと。

 先生、終わりました。

 もう洗うものないですか?」

 

「おう、ご苦労。

 ほらこっちに来てコーヒーでも飲みたまえ」

 

「げ、またカップ出してきたんですか!

 やっと片付け終わったのに」

 

「まぁそう言うな。

 いやこの豆はな、なかなか高級なやつでな。

 学校でもめったに出さないものなんだ。

 こんな時ぐらいしか、なっ」

 

「え、ほ、ほんと?

 仕方ないな~、ちょ、ちょっとだけだよ」

 

”ごく”

 

「お、美味しい!」

 

”ごくごく”

 

「ふぅ~、美味い。

 さっきはあまりよく味わえなかったからな」

 

「でも大丈夫ですか?

 高級ってやっぱり結構するんでしょ?」

 

「まぁ一人では心苦しいのでな。

 だからこうやって共犯者を作り上げたんだ」

 

「ひ、ひど!」

 

「ところで三ヶ木。

 さっきの陽乃と比企谷たちの話だが、君はどう思う」

 

「え、あ、ああ。

 ・・・・・・わたし・・・わたしは陽乃さんが正しいと思う」

 

「ほう」

 

「最初に会長からプロムの話があった時、ゆきのんは自分の力でやり遂げたいって

 言ったんです。

 それを見届けてほしいって。

 だからゆきのんのことほんとに大切に思うのなら、やっぱりここは手を出すべきじゃない」

 

「だが、それでは肝心のプロムが中止になるかもしれないが」

 

「それでも・・・それでもやっぱり手を出すべきじゃない。

 ゆきのんが自分の力で頑張って、一生懸命頑張って・・・・・・

 それでだめになってもそれでいいと思います。

 だって大事なのは、そこからだと思うから。

 なんでそうなったのか反省して、次はもっとうまくできるように頑張ればいい。

 大事なのは、失敗してもそれを糧にして成長することだと思うから」

 

「そうか。

 君はそう考えるのだな」

 

「はい」

 

「ふふふ、三ヶ木、君は強いな」

 

「何度失敗してもいいんです。

 わたし達には絶対次があると思いますから。

 今度のプロムは駄目かもしれない、でもまた次頑張れることがきっとあるはず。

 だって、わたし達まだ若いですから。

 えっと大事なことだからもう一回言いますね。

 わたし達若いですから、わ・か・い・ですか 」

 

「抹殺のラストブリット!」

 

”ボゴ”

 

「ぐはぁ~」

 

「わ、わたしも若手だからな・・・先生の中では若手なんだからな。

 ううううううう」

 

「せ、先生、冗談、冗談ですって。

 先生~」

 

「ううう、ぐす。

 まったく、君は、いや君たちはか。

 そこまでわかっていながら、時々平気で自分を傷つける。

 ・・・・・・いいかね、君が傷つくことでそれ以上に傷つくものもいるんだ。

 君はもう少し自分を大切にしたまえ。

 君も私にとって大切な教え子なんだからな」

 

「先生」

 

「ごほん。

 これは少し早いが卒業する君への送る言葉だ。

 さて聞きたいことは聞いたし、言いたいことは言った。

 私はまだ仕事があるのでな」

 

「はい」

 

「三ヶ木、後片付けよろしく」

 

”スタタタタ”

 

「え?

 げ、せ、先生!

 く、くそ、逃げやがった。

 また洗い物かよ。

 ・・・・・・ふぅ~

 でもさ、そんなことぐらい、ほんとは比企谷君わかってる。

 でも頭ではわかっていてても、心は別。

 だからプロムが中止になりそうになったら、きっと彼は・・・・・・」

 

”ごくごく”

 

「・・・・・・その時は・・・わたし・・・わたしが」

 

     ・

     ・

     ・

 

”ガチャ”

 

「ただいま~」

 

”しーん”

 

って、そうか小町は生徒会だったな。

親父たちもまた残業だろうし。

しっかし。

 

「はぁ~疲れた」

 

”どさ”

 

そういえば今日入試だったんだよな。

つ、疲れた。

腹も減ったが今は少しこのまま休んでいたい。

 

”ブ~、ブ~”

 

ん、電話?

だ、だれだ、今は正直しんどいんだが。

 

”カシャ”

 

ん、三ヶ木?

 

”カシャカシャ”

 

「もしもし、どうした?」

 

「あ、ごめん三ヶ木」

 

「ん、ああ、わかってる。

 画面にお前の名前出てるから」

 

「そ、そだね。

 あ、あのね、今学校から帰るとこなんだけど、ちょっと家に寄ってもいいかなぁ?」

 

「ん、ああ構わないが、だが時間が時間だ。

 もう外は暗くなってるし、用事があるのなら俺がお前の家にまで行くが」

 

「うううん、いいよ。

 だって今日は入試だったし、それにほらいろいろあって疲れたと思うし。

 わたしが行くよ」

 

「そうか」

 

「うん。

 じゃ、また後でね」

 

「おう」

 

”プー、プー”

 

ふぅ。

確かにそのほうがありがたい。

正直、こうやって横にっていると自然と瞼が塞がって、深い闇に落ちそうだ。

まぁ今日一日いろいろあって・・・・・・ってあり過ぎんだろ。

入試による睡眠不足と疲れ、そしてそれよりも

 

『・・・・・・わかっているの、依存してること。

 あなたにも由比ヶ浜さんにも、誰かに頼らないなんて言いながら

 いつも押し付けてきたの』

 

雪ノ下の言葉、それが俺の心を押し潰すように重くにのしかかっていて。

・・・依存っか。

あの時はそうじゃないそう思った。

俺は俺のため、俺自身が望んだことをやってきただけなのだと。

だがあの後、学校からの帰りに追っかけてきた陽乃さんに捕まり、そして告げられた。

俺達の関係は共依存だと。

 

「あの子に頼られるのって気持ちいいでしょ?」

 

陽乃さんにそう言われて思い知らされた。

俺は雪ノ下に頼られ必要とされることで、自分の存在意義を見出し、

満足感や安心感を得ていたのだと。

羞恥と自己嫌悪で吐き気がする。

心底気持ち悪いな俺。

・・・・・・でも俺は、それでも俺はきっと。

 

”うとうと”

 

『あいつは・・・・・・、何を諦めて、大人になるんですかね』

 

『・・・・・・わたしと同じくらい、たくさんのものだよ』

 

俺は、なにかを諦めることができるのだろう・・・・・か。

 

”ス~、ス~”

 

     ・

     ・

     ・

 

”ピンポ~ン”

 

「はっ」

 

やべ、熟睡してたんじゃない俺?

ちょっと横になってるだけのはずだったんだが。

 

「ふぁ~あ」

 

”ピンポ~ン”

 

ん、あ、そうだった。

三ヶ木、学校の帰りによるって言ってたな。

何の用事だ?

まぁあいつのことだ、こんな時間に来るって言うからには

きっと何か大事な用事があるんだろう。

 

”スタスタスタ”

 

「お、おう、遅かったな三ヶ木」

 

”ガチャ”

 

「え、あ、あれ?」

 

「や、やっはろーヒッキー」

 

・・・・・・由比ヶ浜?




最後までありがとうございました。

プロム編、気がついたら6万字越え。
急遽、前編・後編に分けることに・・・・・・
それなのに35,000字越えに。
お時間いただき本当にありがとうございました。
後編も本編のタイミングに合わせて投稿できればと。

さて、次話は本編のガタリンピック編。
今回よりはもう少し早く更新いたしたく。

では、また見に来ていただけたらありがたいです。

あ、でもプロム後編が先のほうがいいのかなぁ
でもやっぱり本編止まってるし・・・・・・

で、ではでは。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
点
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。