川崎大志の初恋の人がブラコンだった件   作:ヒラメもち

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第14話 一期一会のきっかけ

朝から、何本の薪を割ったことだろう。

 

夜にあるキャンプファイヤーのためである。

肝試しもあって、小学生は風物詩を満喫するようだ。

 

 

「たーちゃん、元気ないのー?」

「大志。あんた、はりきりすぎ。」

 

ワンピース型の水着を着た妹が心配してくれた。姉さんはTシャツのまま川に入るとか、ワイルドすぎるだろう。

 

「途中から、楽しくなったんだよ。」

 

昼は小学生も自由時間ということで、各自グループを作って遊んでいる頃だろう。指定された範囲を探険している子もいれば、キャンプ場に来てまでドッチボールをしているメンバーも見かけた。

 

かくいう俺たちも、自分たちで自由時間を過ごしている。

 

「まっ、夜まで休んでおきな。」

 

2人も再び、川遊びに戻っていく。

けーちゃんは小町さんに懐いているしな。

 

 

「ずいぶんとみっともない姿ね。あなたのおかげで早く終わったことは確かなのだけれど。」

 

木陰でぬぼーっとしていると、話しかけられる。

 

「……ども。」

 

どうしても、昨夜のことが頭によぎってしまう。

 

白を基調としたビキニは、すらりとした手足を際立たせている。モデル体型すぎて、東京に行けばスカウトされること間違いなしだろう。

 

 

「なるほど。あなたはどうやら一般的な男とは違うみたいね。」

 

年上の余裕を見せつけられている気分になる。

 

男の視線には慣れているのだろう。俺が身体のどこをチラ見していたのか、彼女にはお見通しらしい。

 

「えっと、どうしたんすか?」

 

さすがに男として、はぐらかす。

 

「水遊びといっても、何をすればいいのかわからないのよ。」

「あー、確かに。泳げるほどの水位はないっすからね。」

 

ベクトルは違うけれども、見事なプロモーションの水着美少女・水着美男子が真夏の川にいる。水のかけ合いだったり、魚を追いかけたり、どの歳になってもその状況で『遊び』は思いつくものだ。

 

 

「ゆきのーん!」

 

結衣先輩が手を振りながら、呼んでいる。

 

「結衣先輩が勝負をしかけてきた……なんてな。」

「なるほど。勝負事というのなら、負けるつもりはないわ。」

 

ネタのつもりで言ったのだが、決闘かのように受け取られてしまった。あいかわらずの負けず嫌いである。

 

 

「どうせ休むのなら、向こうでぬぼーっとしている男とコミュニケーションをしてあげなさい。」

「はい。そうします。」

 

 

今にも、昆虫観察を始めてしまいそうな先輩がいた。

終わりが見えなくなるやつな。

 

 

「ここ、失礼します。」

「……おう。」

 

川に視線を戻した先輩が自然と目で追っているのは、パーカーを身に着けた戸塚先輩のようだ。好きすぎだろ。

 

「先輩。」

 

「なんだ?」

「暇です。」

 

無視された。

小川のせせらぎが心地いい。

 

「……好きな人の話をしますか?」

「……戸部かよ」

 

セミの鳴く声にかき消されそうな呟きだった。

 

「なるほど。昨日、俺がいない間に恋バナしてたんですかね。」

「まあな。だが戸部のやつが海老名さんの名前を出したくらいだ。俺や戸塚は興味ないし、葉山のやつははぐらかした。」

 

口軽いな。

そういうのは、秘密前提だろうに。

 

 

「お前、どこ行ってたの?」

「雪乃先輩と話をしていました。」

 

「ほーん。」

 

内容を聞かないあたり、たとえそれがそれなりに知り合いであっても、先輩は深くまで踏み込んではこない。

 

 

「雪ノ下ねぇ……」

 

先輩が奉仕部に入ってからの付き合いだから、先輩にとってもう数ヶ月は部活仲間だ。

 

「どう思います?」

「……さあな。」

 

雪乃先輩は困惑しながらも、結衣先輩たちと確かに笑っている。

 

 

「俺的には、美しくて怖い人だと思いますよ。」

 

ちらりと向けられた目が、続きを促している。

 

「もちろん、容姿も優れているんですけどね。俺が言いたいのは、その生き様とか、発言力とか、実はとても優しいとか。」

 

いつか、人の上に立つ存在になるだろう。

でも優しすぎて、儚い。

 

「まとめると、かっこいいんです。」

 

俺ならば、そう評する。

もちろんそれは人によって異なるだろう。

 

 

「気づけば、影響されているっていうか。いや、怖いですね」

 

言葉にはできないものだ。

その素敵な何かに、俺も惹かれていた。

 

 

「まっ、先輩もなんですけどね。」

 

雪乃先輩に変わるきっかけを与えたのは、きっと先輩たちなのだろう。

 

 

「冗談言うな。俺の影響なんて受けない方がいい。」

 

先輩らしい返事で、苦笑する。

だから後輩第一号は、譲る気が起きない。

 

 

「それでですね……」

 

今から言う内容はすでに、決して鈍感ではない先輩には気づかれていることだ。

 

 

 

黄色のビキニを着た天使を、目に焼き付けながら告げることがある。

 

「お義兄さん、妹さんをください。」

「断る。あと、お義兄さん呼ぶなし。」

 

……シスコンが。

 

 

小道から、ざっという足音。

先輩の『ざまぁ』という視線。

 

「ポイント、まだ足りませんかね?」

「残念だったな。さっきのでマイナス一億ポイント。」

 

まるで小学生みたいな返しだな。

 

 

「男子って、バカばっか」

 

この子に聞かれたこともあって、途中から自暴自棄になってしまった。男子だけの恋バナを女子に聞かれるって、運がない。

 

 

「思春期真っ盛りの中学男子なんて、そんなもんだ。」

「八幡も?」

 

小学生の女の子が呟くように告げる。

ちらりと彼女の姿を見ると、そのロングの黒髪と落ち着いた雰囲気が、どこか雪乃先輩を思わせる。この子も、かなり先輩に懐いているようだ。

 

 

「……聞くな。黒歴史だ。」

「ふーん。」

 

彼女が、つまらなさそうに相槌を打った。

 

「で。何しに来たんだ? るみるみ」

「るみるみ言わないで。」

 

むっとして、訂正させようとする。

 

彼女が件の依頼人候補ということか。

確か、留美ちゃん。

 

「今日は自由行動なの。朝ごはん終わって戻ったら、誰もいなかったけど。」

「ほう。これでボッチ仲間だな。」

 

直接的な被害ではなく、冷遇といったところか。

 

「うそつき。そいつ、誰?」

 

留美ちゃんが、先輩に問い詰める。

『お前、ボッチじゃなかったのか』的な。

 

「妹を狙う敵だ。」

「ふーん。敵ならいいや。」

 

そう言いながら、先輩とちょっと距離を開けてちょこんと木陰に体操座りした。

 

 

「ね、八幡はさ。」

「なんだ?」

 

「小学生ときからの友達って、今もいる?」

「いない……いや、元々いなかったな。」

 

疎遠になったわけではないんだな。

俺と違って。

 

「あんたは?」

「俺も、もう会っていない。」

「そうだな。卒業したら、会わなくなるもんだ。」

 

ともかく。

 

「やっぱり?」

 

ほんの少し、嬉しそうな顔をしている。

でも、それは不確定な未来だ。

 

今この瞬間、彼女は変わりたい。彼女がぎゅっと握りしめたデジカメは、たぶん一度も使っていない。

 

 

「おみやげは、友達との写真?」

「……うん。」

 

友達がいる前提だな、それは。

決して、一期一会の俺たちの写真ではない。

 

 

「……こういう嫌な感じも高校生になったら変わるのかな。」

 

年甲斐もなく川遊びをする年上を見て、留美ちゃんは呟いた。それこそ引っ越しや転生でもしないと、『周囲の評価』は一気に変わることはない。

 

 

「さあな。」

 

これからこの子の周囲がどう変わっていくかは、一期一会の俺たちにも、彼女自身にもわからない。

 

……雪乃先輩は、人ごと世界を変えたいと言った。

 

 

この子は、どういう考えを持つのだろう。

諦めるのか、抗い続けるのか。

自ら変わるのか、周囲を変えるのか。

 

 

「で。今はどうなんだ?」

「わかってて聞かないで。」

 

「いや。お前的には変えたいのか?ってことだ。」

 

先輩は、質問を重ねる。

ほんの少しだけ、彼女はこくりと頷いた。

 

 

その意志を、先輩はちゃんと汲み取る。

 

 

「……肝試し。」

 

先輩がそう呟いた。

留美ちゃんが、顔をあげる。

 

 

「……え?」

「肝試しを楽しみにしているんだな。」

 

先輩が本気の目になると、かっこいい。

 

 

「……わかった。」

 

いつのまにか、留美ちゃんは先輩のシャツの裾を握っていた。

 

 

彼女たちも先輩をちゃんと知って、好意を持った。

でも。

この現実で、幸せになれるのは1人だけなのだろう。

 

 

 

****

 

Q. 本当に怖い思いをするとしても、人は脅威に立ち向かうことができますか。

 

祖国を守るために命を落とした『戦士』、銃で銀行強盗から母親を守った『女の子』、ガキ大将の足にしがみついた『いじめられっ子』、炎の中に飛び込んでいく消防士、紛争地域でのボランティア。

人ごと世界を変えようとする先輩、車に轢かれそうな犬を咄嗟に助けた先輩。

 

 

俺は転生して、一度何もかも失った。

 

再び経験することを考えたのなら、

A. 立ち向かうことはできない。

 

 

まだ数ヶ月という浅い関係だ。

それでも。

 

奉仕部という関係を大切に思っているのは、結衣先輩だけじゃないはずだ。

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