川崎大志の初恋の人がブラコンだった件   作:狩る雄

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第15話 今この瞬間

紫を基調とした『魔女っ娘』と、サーバルキャットのフレンズ『サーバルちゃん』を司会として、肝試しが行われている。それは戸塚先輩と小町さんであるのだが、2人とも可愛かったな。

 

小学校教師が持ってきた仮装がハロウィンのものだったのだ。まあ、仮装しなくとも、うちの姉は『不良の演技』をするだけでホントに怖い件。

 

 

 

「ひゃうっ!」

 

俺は、雪乃先輩も驚かすことができたようだ。

 

白い着物の彼女は月光を浴びている。

美しくて、先輩も見とれていた。

 

「大志君……?」

 

古い白いシーツに穴を開けただけ。

そんな仮装の俺は、ふらふらしている。

 

「ごめんなさい。」

 

たぶん俺は、してやったりという笑みを浮かべているだろう。

 

 

「……あちこちから悲鳴が聞こえるのだけれど、あなたの仕業かしら。」

 

むっとしながら、彼女はそう告げる。

 

「そうっすね。うろうろしています。」

 

深く暗い森には、オリエンテーリングのコース番号がある。肝試しはそれを利用しているから、シーツの中でスマホに映っている地図を見ながら移動している。

 

「私が怖がりということではなくて、あなたが上手なのよ。」

「あ、はい。」

 

遊園地のお化け屋敷にあるように、声を出して驚かしてくるのだと小学生は予想している。だから、幽鬼的に通りすぎるだけでいい。正体がわからないというのは、酷く怖いことだ。

 

「そろそろ、留美ちゃんの班が来そうなので。小町さんたちから合図がありました。」

 

着物の袖から、彼女はスマホを取り出した。

その仕草は、様になっている。

 

「……由比ヶ浜さんから、メールは来ていないわね。」

 

連絡については、LINEで行われている。彼女の連絡先を知っているのは、結衣先輩や平塚先生くらいだ。

 

「知らせてくれて、ありがとう。」

「はい、よかったです。」

 

まあ、先輩って方向音痴で遭難しそうで、心配だったこともある。

 

 

―――だ、だれかぁ!!

 

 

「叫び声。何かあったのかしら。」

「俺たちも行ってみましょう。」

 

たぶん、助けを求める声だ。

被っているシーツを、一度折り畳んだ。

 

 

 

「っく…っく…」

 

泣いている女子の膝の傷が、痛々しい。

外傷は軽い擦り傷のようだ。

 

足首を抑えていることから、捻挫らしい。

 

 

「木の幹に、足を挫いたのかしら。」

「そうらしいですね。」

 

木陰から、俺たちは様子を伺っているまま。

あの少女のグループには、留美ちゃんがいるはずだ。

 

 

「その、どうしましょうか……?」

 

助けに行くことはできる。

俺は、手に持っているシーツを握りしめた。

 

「これが、最後のチャンスかもしれないから……」

 

最後の夜、俺たちは先輩の作戦に懸けるしかない。

留美ちゃんの『依頼』が解決しないままになる。

 

「本音を言えば、今すぐに助けたいです。」

「私もそう。」

「でも、それでいいのかなって……」

「そうね。」

 

一度関係を壊すだなんて、酷く怖いことだ。

でも、優しいことが常に正解とは限らない。

 

彼女たちを脅して、とても怖い思いをさせる。そして、『自己中心的』な考えという人間の醜い部分を表面的に引き出させる。そして、『そんな人だったんだ』と裏切る。そういう、作戦だ。

 

 

「いたいよぉ……こわいよぉ……」

「泣かないでよぉ……」

 

迷っている間に、悲しみという感情は連鎖していく。

 

そこに過去は関係ない。

今この瞬間、『共感』している。

 

 

「ごめん、遅くなった!」

 

留美ちゃんだ。

踏み出そうとしていた俺たちは、止まる。

 

「どこ、行ってたの……?」

「小川。ここからは近かったから。」

 

ボッチ仲間で夕方までいた場所だ。

大人びた彼女は、冷静に対処している。

 

「ちょっと、手を外して。」

「う、うん……」

 

つめたっ!と女の子が叫ぶ。

濡れたハンカチを患部に押し当てたのだ。

 

 

俺と雪乃先輩は大きく頷いた。

合っている。それでいい。

 

 

「助けが来るまで、動かない方がいい。大丈夫、助けはすぐ来るから。」

 

それは、優しい嘘だ。留美ちゃんがそう告げたように、無理に立たずに休むべきなのは確かだ。

 

 

それを聞いて俺はLINEで先輩たちに知らせる。

 

『緊急事態につき作戦は、中止。

待機で。

その理由は……』

 

 

「大丈夫。なんとかなるから。」

「なに、してるの?」

「捻挫の応急処置。RICEって言うの。まずは休んで、冷やして……」

 

言い淀んだ。

その小さなハンカチでは、うまく結べない。

 

これ以上は、彼女たちだけでは対処できないようだ。

でも、『きっかけ』はできた。

 

 

「圧迫するんだけど……」

「なにかあったのかしら?」

 

そこに、俺たちが駆けつけた。

まるで急いで駆けつけたように見せた。

 

「仁美ちゃんがケガしたんだけど……」

「……捻挫、かしらね。」

 

彼女も嘘をついた。

それは、優しい嘘だけれど。

 

「うん、捻挫。とりあえず冷やしたんだけど……」

 

留美ちゃんが、俺が手に持っているシーツに気づいた。

 

「それ!」

「ああ。これでCompression、圧迫だろ。」

 

綻びから、シーツから部分的に俺は引き裂いた。

 

 

「我慢してくれよ。」

 

患部に、布を少しずつ巻いていく。

 

「由香ちゃん、手をにぎってあげて。」

「う、うん!」

 

仁美ちゃんは目をぎゅっと瞑る。留美ちゃんが指示した通り、彼女の手はちゃんと友達と繋がっている。

 

 

「よしっ、できた。向こうに戻ったら、先生に見せよう。」

 

背中に、確かな重みを感じた。

できるだけ、揺らさない

ように来た道を戻る。

 

仁美ちゃんに、ちゃんとみんなが付き添っている。

 

 

「鶴見さん、どこで捻挫の応急処置を習ったのかしら?」

「えっと、お母さんから。」

 

雪乃先輩が思い出したように尋ねると、留美ちゃんは答えた。

 

 

「こういうとき冷静な人がいると、安心できるな。」

 

それを覚えていたとしても、実践できるとは限らない。落ち着いていて、大人びていて、そういったことは彼女の『長所』なのだ。

 

 

「その、鶴見……ごめん」

 

仁美ちゃんをおぶっている俺でも聞き取りづらい、小さな声だった。

 

 

あたしも、私も、わたしも……

その謝罪には具体的内容がない。

 

 

「ううん、いいよ。」

 

留美ちゃんがそう告げる。

 

 

5人とも、気まずそうだ。

でもこの静寂は悪くはない。

 

ちゃんと伝えているし、ちゃんと伝わっている。

 

 

「そろそろだぞ。」

 

誰よりも前を歩いている俺は、バレないように笑みを零した。

 

 

 

****

 

『もうすぐ今日が終わる

やり残したことはないかい

親友と語り合ったかい

燃えるような恋をしたかい

一生忘れないような出来事に出会えたかい

かけがえのない時間を胸に刻み込んだかい』

 

「オワリはじまり」、か。

キャンプファイヤーを囲んで、歌っている。

 

 

「……はぁ」

 

ただいまも伝えていないし、おかえりも伝えていない。

さよならも、決してできていない。

 

 

丘の上から広場を見ている。ここも月光に照らされ、キャンプファイヤーの炎の明るさが少し届く。

 

「やっほー!」

「……おう」

 

すでに仮装から着替えていて、Tシャツの上に緑色のパーカーを羽織っている。夏といえど、夜は冷える。

 

「もっと近くに行かないの?」

「小町さんこそ、フォークダンス参加しないのか?」

 

フォークダンスを始めようとしている。

彼女なら、参加すると思ったけれど。

 

「大志君も行かないんだったら、いいかな。」

 

やりたいことしか、やらない……か。

 

 

「まあ、主役は小学生だからな。」

 

そんなことを言えば、彼女はやれやれ顔である。

 

 

「大志君や雪乃さんのおかげで、解決したんだよね?」

「いや、待っただけだ。」

 

留美ちゃんもまだぎこちないが、フォークダンスの輪に入っている。あの4人の女子とは近くに固まっていて、今この瞬間留美ちゃんの雰囲気は、雪乃先輩が結衣先輩に川遊びに導かれた時のようだ。

 

「でも、嬉しそうだよ?」

「それは、良い感じに解決したからだ。」

 

俺は、何もしていない。

偶然『きっかけ』が起こっただけだ。

 

「だって、作戦立案も先輩だし……俺は結局、あの子たちのために行動を起こすことはできなかっただろうし。」

 

また違った結果になっていたはずだ。

 

それが、良いものか悪いものかわからない。

それでも、関係が変わっていたのは確かだろう。

 

 

「大志君はがんばりました!」

「ちょっ!」

 

地面に座っている俺の頭を、ナデナデしてきた。

咄嗟にのけぞると、両手を頭に押し付けられる。

 

「今日もがんばったよ!おつかれさま!」

 

ええい。

あざとい!可愛い!香りがやばい!

 

「いや。俺、特に何も……」

「直感じゃないもんねー!」

 

ナデナデが、止まった。

 

 

「小町はね。大志君のがんばってるとこ、いっぱい見てきたのです。」

 

 

「それにね。」と耳元で囁いた。

 

柔らかい感触が背中にある。

たぶん、膝を地面につけて抱きついている。

 

 

「待つって、結構つらいことだよ。」

 

心臓が、バクバクと音を立てている。

 

「……ごめん。」

「ううん、いいよ。」

 

また、逃げ道を作ってくれる。

彼女の優しさに何度も甘えてきた。

 

 

「無理に聞かないから、さ……」

 

本音は、聞きたいはずだ。

彼女は『引き際』を知っている。

 

 

 

彼女は抱き着くのをやめて、離れていく。

タイムリミットは、迫っていた。

 

「待ってくれ。」

 

口に出した言葉に、振り向いた。

ちゃんと向き合ってくれる。

 

俺はずっと待たせていたんだ。

 

 

「俺は……小町ちゃんが思ってるくらい、いいやつなんかじゃない。」

 

何度も、彼女を傷つけてきた。

傷つけているのだと自覚していた。

 

 

俺は、大きく息を吸った。

 

「川崎大志というありふれた人間の、人生を奪って生きている『転生者』だ。」

 

伝えた。

伝えてしまった。

 

「俺には、別のやつだった前世があるってことだ。」

 

誰にも伝えたくなかったことだったけど、伝わったはずだ。

 

この関係を失う可能性の高い『真実』だ。

失いたくなくて、『嘘』ばかりの生き方を選んだ。

 

それは、決して楽なことではなかったけれど。

独りで悩み続けた。

 

「黙っていて、ごめん。」

 

炎を、俺は見続けるだけ。

地獄とは思えないほど、まぶしい。

 

 

「えっと……」

 

秘密を伝えてしまった彼女の表情は見えない。

川崎大志のかつて友達だった彼らのように、『否定的な目』なのかもしれない。

 

 

「えっと。それでさ。何歳くらい、かな?」

 

尋ねられる。

 

 

自虐的な笑みを、俺は浮かべていることだろう。

潔く、その質問に答えるとしよう。

 

 

「転生したのは、大学生の時。たまに身体年齢に引きずられる時もあるけど、まあ、合わせて23歳くらい。」

 

目覚めた時には、病室だった。

そこからリハビリ。

 

慣れない身体は1年あってもまだ馴染まない。

 

 

「あ、あれ……?」

 

小町ちゃんが困惑している。

それはそうだろうな。

 

非科学的で、まちがいだらけの俺を理解できるはずはない。

 

 

「もっと年上かと覚悟してたんだけどな……」

 

一体、どういうことだ。

 

 

「……はい?」

「いや、だってさ。お兄ちゃんより大人っていうかさ。まあ、お父さんほどではないんだけど。」

 

さすがに、30代扱いしてほしくはない。

 

「あっ!お兄ちゃんが子どもっぽいのかも!」

「俺からすれば、先輩たちって高校生にしては大人びているんだけど。」

 

いや、それよりもだ。

 

「えっと、気づいてた感じ?」

「ううん。全然。でも大人っぽいとは思ってたけど。」

 

さすがに、信じられないことだからな。

 

「勉強ができるとことか、あとネタがちょっと古いとかもあるんだけど、なんだか学校の先生みたいだなーって。」

 

「……そうか。」

 

俺は、呟いた。

 

秋葉や神田さんたち、それなりに話すやつがいる。

俺は偽り続けているし、これからも偽り続ける。

 

彼ら彼女らの、人生を狂わせてきた。

 

だから、離れようとした。

それなのに。

離れたくないと思ってしまう。

 

 

「キミのこと、もっと知れてよかったよ。」

 

えへっと、彼女ははにかんだ。

 

「いや、……意味わかんない、とかあるだろ?」

「うん。まだよくわかんないよ。だから、ごめんなさい。」

 

ぺこりとお辞儀した後、にこりと微笑んだ。

謝るべきは俺の方だ。

 

「なんで、謝るんだ。俺の方こそ謝らなきゃいけないのに。」

「小町は好きで待ってただけだよ。大志君の言っていることを信じたいんだけど、でも、まだちょっと時間がかかりそう。」

 

俺だから、信じてくれるのか。

 

「でも、こんなめんどくさいやつと関わっていたら、ろくなことにならないだろ。」

 

本来歩むべき『ストーリー』を狂わせる。

 

 

「だいじょぶ!お兄ちゃんで慣れてるし!」

 

俺は。

俺たちは。

この1年と4ヶ月という期間をかけて、ようやく互いの『人となり』を知った。

 

「それにね。小町が幸せかどうかは、自分で決めるのです。だからさ、大志君も自分で決めなよ?」

 

自己アピールとか、長所を述べるとか、結構苦手なんだけどな。

 

 

「It’s gonna be your worldってことだよ!」

 

流暢とは言い難い英語だった。

いつか小町が歌った『プラチナ』の歌詞か。

 

 

「……ありがとう。」

 

答えは得た。

伝えるべきは、お礼だ。

 

「どういたしまして!」

 

 

目の前にいる彼女は、

幸せそうな笑顔が似合う女の子。

背伸びして大人になろうとする女の子。

お兄ちゃんが大好きな女の子。

 

 

「……よしっ」

 

いつしか『素敵な何か』に惹かれていたけれど、それが何かを知ろうとしていた。

 

それはこれからも変わっていく『虚像』にすぎない。

知らない一面を知って、また『好き』になるんだ。

 

 

「伝えたいことがあって……」

「うん。話してみて?」

 

もうこれ以上、待たせたくはない。

これからも人生を狂わせ続けることになるけれど。

 

 

「……なぁ小町。俺と!」

「名前呼び!しかも呼び捨てなんて!」

 

人生初の告白は、中断させられた。

目をキラキラさせている。

 

「小町やったよ!お兄ちゃーん!」

 

その声は届いてはいないだろうが、広場に雪乃先輩たちといる先輩に対して小町は手を振っている。これが現実か。

 

 

「やっぱり俺の初恋の人ってブラコンじゃねぇか! 最後まで言ってないのに失恋したぁ!?」

「いやいや、大志君の方こそ! すっごいシスコンじゃん!?」

 

実の姉妹とはまだ思えないけれど、大切な家族なんだ。

 

 

「ほんとさ。大志君ってシスコンで。なんかめんどくさくて、うじうじしてさ。いつも自分の気持ち、踏みにじって。」

「……はい」

 

自覚がある分、心がいたいな。

 

 

「お兄ちゃんにも懐いちゃってさ。」

 

いつもの、捻デレシスコンだな。

 

 

「一番に頼りたいと思う男子の将来が、小町は心配です。」

 

両手を後ろで組んだ。

星空をバックにして、微笑む。

 

 

「だからね。なにかと目の離せないキミは、小町が末永く支えてあげます。」

 

まだ、あどけなさを残したままだ。

それでも。

少しずつ大人になっている。

 




歌詞転載:
『オワリはじまり』JASRAC楽曲(167-2191-8)
『プラチナ』(070-3488-1)

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