川崎大志の初恋の人がブラコンだった件   作:ヒラメもち

18 / 36
第18話 お誘い

「相談とは何かしら、小町さん」

「お兄ちゃんがずーっと家にいるので、友達とかいないのかなーって、小町は心配になりまして」

 

お盆が過ぎ、夏休みの終わりを感じさせる頃だ。喫茶店の4人席に、俺たちはいた。1人暮らしをしている雪乃先輩を呼び出すことは容易であり、小町さんが兄を連れてくることには泣き落としだ。

 

由比ヶ浜先輩については、友達とあちこち遊びに行っているらしい。

 

「比企谷君は友人が1人もできないもの。その悩みは解決できないわ」

「できないんじゃなくて、作らないだけだ。雪ノ下だって、同じだろ」

 

返事はなかった。澄ました顔のまま、雪乃先輩は紅茶に口をつけた。

 

「そもそも、友達とは何なのでしょうね」

「改めて考えてみても、漠然としていますね。いつのまにか行動を共にしていたって感じか」

 

友達の定義とは、互いに心を許し合って対等に交わっている人、または、一緒に遊んだりしゃべったりする親しい人である。

 

「それだったら、学校だけで友達100人はできてる。誰もが簡単にできるわけじゃないだろ」

「うぅー、やっぱりこういうことになるー」

 

後者の意味はともかく、前者について、捻くれた人は拡大解釈しているのだろう。同じ時間や場所を過ごしていて、共通の目的を持っている集団を表す言葉は、同志や同僚、部活仲間だ。

 

「相手が悪かったな、小町。俺も雪ノ下も友達ができないんじゃなくて、わざとだからな」

「比企谷君とは一緒にしてほしくはないわね。私には敬意を持って話してくれるクラスメイトがいるもの」

 

心を許してもらうために、相手の考えと感情を随時知ろうと努める。誰かと一緒にいたとしても、その心が分かるとは限らない。些細な言動が、相手を傷つけ、それを自覚した時には悔やむ。

 

または、相手の下心を読み取ってしまう。

 

「その状態、高嶺の花ってやつなのでは」

 

俺の発言に対して返事はない。再び、澄ました顔で、雪乃先輩は紅茶に口をつけた。

 

「せめて結衣さんがいればなぁ」

「あいつは友達づくりが上手いからな。学生時代からスケジュールが埋まってるとか、キャリアウーマンかよ」

「三浦さんたちと映画を観に行くそうよ。本人は乗り気だけれど、連行されたとも言うわね」

 

だから、俺も先輩の1人も、周りを窺っている。そして、先輩たちはできる限り歩み寄ることはしない。そんな俺たちを見て、なんとかしたいと思う女の子がいる。

 

「家族ならともかく、映画って独りで見るものだろ」

「そうね。短くはない鑑賞時間を、誰かと隣で過ごすことになるもの。それが苦痛と感じる相手を、とても友達とは呼べないわ」

 

「作品のチョイスも、相手の好みを知ってないと駄目ですからね」

「えっ、大志君っていつもそこまで考えてくれてたんだ」

 

候補をいくつか提示して、小町に最終決定を委ねればハズレはない。まあ、俺はそういうところがダメなのかも。

 

「...リア充爆発しろ」

「自爆テロの予告なら、貴方を警察に突き出す必要があるのだけれど」

 

サブカルに疎いところあるよな、雪乃先輩。

 

「このままじゃ、たちがあかない!」

「埒が明かない、だからな」

 

こういうところが微笑ましい。兄から訂正が入った小町は、苦笑いで誤魔化した。

 

「ともかくです! こうなったら、奉仕部の依頼にしますね」

 

きっと、誰もが自分なりに優しくて、時には間違うのだろう。まちがうことを恐れない彼女の行動力に、俺は惹かれている。

 

「くっ、卑怯だぞ、小町」

「その、具体的には、どういう依頼内容かしら」

 

先輩たちって高校でも奉仕部の仕事を全うしているらしい。奥の手とはいえ、2人の逃げ道を塞ぐ一手だ。

 

「お兄ちゃんが夏休みにどこかに遊びに行くような友達を作る、にしましょう!」

「どうやら、期限付きのようね」

 

やれやれと雪乃先輩は額に手を当てた。いや、そこまで、無理難題なのだろうか。

 

「小町さん、申し訳ないのだけれど」

「あー奉仕部のことーカダイ評価してたなー」

 

すっごい棒読みである。

挑発は効果的だ。

 

「ずいぶんと挑戦的ね。具体的に方策はあるのかしら」

「ふっふっふ、小町の作戦にお任せを」

 

なるほど、元々そのために雪乃先輩も呼び出したのか。これからやることは、友達がいる俺たちにとっては普通で単純なことである。

 

まあ、他にも何か目的がありそうだけど。

 

 

「わかりました。奉仕部として引き受けましょう」

 

「おいおい、俺の意志確認なしで決まったぞ」

「上司に逆らえないんですね、先輩」

 

たった3人の部活だけど、ヒエラルキーは大体わかった。

 

「それで、作戦というのは?」

「お友達ごっこ作戦です!」

 

それを聞いて、先輩はますます目を腐らせた。それって、欺瞞的な関係だからな。

 

「まあ、いつか友達を作るための訓練。一時期なものでは」

「なるほど。夏休みを寂しく過ごすこの男に、お情けで遊び相手になれ、ということかしら」

 

「そうです!具体的な計画は明日にはお伝えしますね!」

 

遠回しに、先輩たちと遊びに行くことを取り付けただけである。受験勉強の気晴らしにはなるか。

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。