「相談とは何かしら、小町さん」
「お兄ちゃんがずーっと家にいるので、友達とかいないのかなーって、小町は心配になりまして」
お盆が過ぎ、夏休みの終わりを感じさせる頃だ。喫茶店の4人席に、俺たちはいた。1人暮らしをしている雪乃先輩を呼び出すことは容易であり、小町さんが兄を連れてくることには泣き落としだ。
由比ヶ浜先輩については、友達とあちこち遊びに行っているらしい。
「比企谷君は友人が1人もできないもの。その悩みは解決できないわ」
「できないんじゃなくて、作らないだけだ。雪ノ下だって、同じだろ」
返事はなかった。澄ました顔のまま、雪乃先輩は紅茶に口をつけた。
「そもそも、友達とは何なのでしょうね」
「改めて考えてみても、漠然としていますね。いつのまにか行動を共にしていたって感じか」
友達の定義とは、互いに心を許し合って対等に交わっている人、または、一緒に遊んだりしゃべったりする親しい人である。
「それだったら、学校だけで友達100人はできてる。誰もが簡単にできるわけじゃないだろ」
「うぅー、やっぱりこういうことになるー」
後者の意味はともかく、前者について、捻くれた人は拡大解釈しているのだろう。同じ時間や場所を過ごしていて、共通の目的を持っている集団を表す言葉は、同志や同僚、部活仲間だ。
「相手が悪かったな、小町。俺も雪ノ下も友達ができないんじゃなくて、わざとだからな」
「比企谷君とは一緒にしてほしくはないわね。私には敬意を持って話してくれるクラスメイトがいるもの」
心を許してもらうために、相手の考えと感情を随時知ろうと努める。誰かと一緒にいたとしても、その心が分かるとは限らない。些細な言動が、相手を傷つけ、それを自覚した時には悔やむ。
または、相手の下心を読み取ってしまう。
「その状態、高嶺の花ってやつなのでは」
俺の発言に対して返事はない。再び、澄ました顔で、雪乃先輩は紅茶に口をつけた。
「せめて結衣さんがいればなぁ」
「あいつは友達づくりが上手いからな。学生時代からスケジュールが埋まってるとか、キャリアウーマンかよ」
「三浦さんたちと映画を観に行くそうよ。本人は乗り気だけれど、連行されたとも言うわね」
だから、俺も先輩の1人も、周りを窺っている。そして、先輩たちはできる限り歩み寄ることはしない。そんな俺たちを見て、なんとかしたいと思う女の子がいる。
「家族ならともかく、映画って独りで見るものだろ」
「そうね。短くはない鑑賞時間を、誰かと隣で過ごすことになるもの。それが苦痛と感じる相手を、とても友達とは呼べないわ」
「作品のチョイスも、相手の好みを知ってないと駄目ですからね」
「えっ、大志君っていつもそこまで考えてくれてたんだ」
候補をいくつか提示して、小町に最終決定を委ねればハズレはない。まあ、俺はそういうところがダメなのかも。
「...リア充爆発しろ」
「自爆テロの予告なら、貴方を警察に突き出す必要があるのだけれど」
サブカルに疎いところあるよな、雪乃先輩。
「このままじゃ、たちがあかない!」
「埒が明かない、だからな」
こういうところが微笑ましい。兄から訂正が入った小町は、苦笑いで誤魔化した。
「ともかくです! こうなったら、奉仕部の依頼にしますね」
きっと、誰もが自分なりに優しくて、時には間違うのだろう。まちがうことを恐れない彼女の行動力に、俺は惹かれている。
「くっ、卑怯だぞ、小町」
「その、具体的には、どういう依頼内容かしら」
先輩たちって高校でも奉仕部の仕事を全うしているらしい。奥の手とはいえ、2人の逃げ道を塞ぐ一手だ。
「お兄ちゃんが夏休みにどこかに遊びに行くような友達を作る、にしましょう!」
「どうやら、期限付きのようね」
やれやれと雪乃先輩は額に手を当てた。いや、そこまで、無理難題なのだろうか。
「小町さん、申し訳ないのだけれど」
「あー奉仕部のことーカダイ評価してたなー」
すっごい棒読みである。
挑発は効果的だ。
「ずいぶんと挑戦的ね。具体的に方策はあるのかしら」
「ふっふっふ、小町の作戦にお任せを」
なるほど、元々そのために雪乃先輩も呼び出したのか。これからやることは、友達がいる俺たちにとっては普通で単純なことである。
まあ、他にも何か目的がありそうだけど。
「わかりました。奉仕部として引き受けましょう」
「おいおい、俺の意志確認なしで決まったぞ」
「上司に逆らえないんですね、先輩」
たった3人の部活だけど、ヒエラルキーは大体わかった。
「それで、作戦というのは?」
「お友達ごっこ作戦です!」
それを聞いて、先輩はますます目を腐らせた。それって、欺瞞的な関係だからな。
「まあ、いつか友達を作るための訓練。一時期なものでは」
「なるほど。夏休みを寂しく過ごすこの男に、お情けで遊び相手になれ、ということかしら」
「そうです!具体的な計画は明日にはお伝えしますね!」
遠回しに、先輩たちと遊びに行くことを取り付けただけである。受験勉強の気晴らしにはなるか。