川崎大志の初恋の人がブラコンだった件   作:ヒラメもち

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第19話 近づいてみてわかる、素敵な何か

小町の思いつきから始まった依頼、お友達ごっこによる兄の訓練は続いているようだ。八幡先輩が奉仕部に入ったきっかけが『更生』のためなのだから、その一歩として役立つのかもしれない。

 

「そういえば、今日雪ノ下のやつが比企谷に弁当渡してたけど」

 

俺たちは雪乃先輩の部活に対する情熱と誇りをわかっていなかった。2人と同じく予備校に通っている姉から、彼らがお弁当イベントをやっていたことを世間話程度に伝えられると、夕食を食べ進めていた俺は箸を落としそうになった。

 

「なに、あいつらってそんな仲だったの?」

 

クラスメイトの姉さんより、先輩と話すことが多い俺に聞いてきたということだろう。春から変わっている学校での過ごし方を知らないから、なんとも言えないけど。

 

雪乃先輩の行動を起こしたきっかけは、依頼だからなのか、それとも彼女が自覚していない感情によるものなのか。

 

「少なくとも、好意的に思っていると、俺は思う」

 

けーちゃんは俺たちの会話を気にせず、もぐもぐ食べている。保育園の給食より、姉の手料理がずっと美味いからな。

 

「ふーん」

「うわー、こういう話興味なさそうー。姉さんこそ、誰かと予定ないのか。ほら、今度夏祭りとかあるし」

 

来年になれば、青春は受験勉強で忙しくなる。小町さんもこういう気持ちなのかもしれない。

 

「だってさ。高2にもなれば、男子の誰かは誘ってきただろ?」

 

姉さん、最近雰囲気が柔らかくなったし。

 

「甲斐性のない男には興味ないから。こっちの時間を削ってくるような、しつこいやつも論外」

 

草食系男子が希望なのね。そりゃあ、向こうから予定を聞かないし、好意を伝えることもないな。

 

「あんたはさすがに甘やかしすぎじゃない?」

 

最近、よく出かけているからな。受験勉強の手伝いということもある。

 

「あざとくて、甘え上手ではある。でも、お節介すぎるところがあって心配になるというか、意外と我慢強いというか」

 

人に近づいてみて、初めてわかるところがある。兄弟姉妹は近すぎるからこそ、良くも悪くももっと多くのことを知っているのだろう。まだまだシスコンな先輩には勝てそうにない。

 

「まっ、高校来て悪い女に騙されないよう気をつけな。あの子は大丈夫だけど」

 

捻デレだからな、うちの姉も。

 

 

『明日、お昼はサイゼね!』

 

スマホの振動で、小町からの連絡に気づいた。ここまで夏休みが忙しくなると思わなかったが、満喫しているのも確かである。

 

 

****

 

千葉県のソウルフードには、サイゼリヤという店がある。生粋の千葉県民ではない俺にとってはソウルフードではないが、他の類似したファミレスと比べても、安い早い美味い、と個人的には思う。

 

「千葉県市川市八幡、1号店がこの千葉県にあったのです。千葉県こそがサイゼ発祥の地なのです」

「なるほどな」

 

すぐ隣で、自信満々な声で教えてくれた。彼女の兄もそうだが、歴史といった文系科目の方が好きなようだ。総武の文理選択は高3になる直前だけど。

 

 

「待たせてしまったようね、小町さん、大志君」

「いえいえー、雪乃さんこそお疲れ様でした。お兄ちゃんもおつかれー」

「おつかれです」

 

できる限り近い店を選んだとはいえ、外は猛暑だ。座った2人は、冷房の効いた店内の心地よさを満喫している。

 

「先輩、メニューいります?」

「いや、いつも大体同じだ。てか、君たち近くない?」

「お兄ちゃんたちが遠いんじゃない?」

 

生粋の千葉県民なら、そういうスキルを培っているのだろうか。メニューを手渡した雪乃先輩はそういうわけではないし、千葉県民における一般論ではないとも思ったが、雪乃先輩はファミレスよりレストランに行くことが多そうだ。そして、小町さんとは隣り合って一緒にメニューを見ていた。

 

つまり、統計的にはデータが足りない。

 

 

「で、なんでわざわざ呼び出したんだ。お兄ちゃんは何も聞いてないんだけど」

 

注文をした後、小町に問いただした。かなり混んでいるから、さすがのサイゼでも料理が来るまでまだ時間はかかりそうだ。

 

「昨日の昼食の惨状を鑑みた結果よ。比企谷君に伝わっていなかったのは想定外だけれど」

「あははー、ごめんなさいでしたー」

 

「まあ、確かに、な」

 

代わりに雪乃先輩が答えると、八幡先輩はちょうど24時間前を思い返したらしい。たぶん、会話がほとんどなかったんだろうな。

 

それは、お友達という関係としてどうなのかと思い、雪乃先輩は小町さんに相談した。ここに俺がいる必要はないのだけれど、隠された目的はデートである。

 

面と向かって正直に誘うことにドキドキしてしまうのは、俺たちの共通事項らしい。

 

 

「ずばり、お話のタネがなかったんですよ!」

「会話の話題、ということかしら」

 

理解してくれたことに、小町は満足気な顔で頷いている。

 

「そです! 小町たち的には、自然とぽんぽん出てくるものなんです。物知りな雪乃さんや、むだに雑学のあるお兄ちゃんなら、大丈夫かなと思ったんですけど」

「無駄言うなし」

 

「その、何を話せばいいのか迷ってしまって...」

「いろいろ考えているうちにお昼休みが終わって、そのまま解散と」

 

俺の発言に、ほとんどわからないくらいしゅんとしている、雪乃先輩はこくりと頷いた。

 

雪乃先輩は、お友達同士の会話というのを意識しすぎているのだろう。別に普段通りに、雑談や言葉遊びでもいいと思うけど。

 

で、八幡先輩は話しかけられないと最低限しか会話をしない。奉仕部室の様子がだいたいわかった。結衣先輩が真ん中に入ってないと、こうなるんだな。

 

「大丈夫です。今日はそのための秘策を用意してきました」

「秘策とは期待できるわね」

 

大袈裟に言っているだけだと、俺は思う。

 

「これからおふたりには映画を観に行ってもらいます。今日は午後から授業ありませんよね」

 

なるほど。今日はそういうデートか。

 

「確かに、授業はないのだけれど」

「母ちゃんが俺にお小遣いを臨時支給したのは、そのためか」

 

あざとくて、計画的な小町である。昨日の昼食代が浮いて、ほんの少し先輩の財布も潤っていると思うけど。

 

「俺は映画は独りで家で観る派なんだが」

「シャット、アップ。お兄ちゃんは映画でもなんでも、独りでする派でしょ」

 

すぐに小町に見破られたが、先輩はどこか誇らしげである。ボッチに誇りがあるのか。

 

「あと、シャットアップじゃなくて、シャラップな」

「英語はどうでもいいの」

 

先輩から訂正が入った。それにしても、どうせ罵声の言葉を使うのなら、間違った方が可愛げがあるものだな。

 

「とにかく!今日は二人で映画に行くの。そのためにお母さんをがんばって起こしておこづかいもらったの。おーけー?」

「はいはい、わかったよ。夜勤明けの母ちゃんを起こした苦労を認めてやる」

 

小町の母親には俺の存在が知られていて、いや、むしろ小町が惚気話を聞かせているらしいが、反対はされていないようで何よりである。

 

なお、父親に対しては、先輩すら伝えていないらしい。

 

「それでですね、小町たちはおふたりの後をこっそりつけて、採点します」

「なるほど。私や比企谷君には、友達らしいかどうかの判断基準がないから、個々の振る舞いが正しいかどうかの判断がつかないわ」

 

理系適正あるよな、雪乃先輩。

 

「改善点をふまえつつ、試行回数を増やしていけば、ばっちりですね」

「待て。その度に俺は出かけるのか」

 

家の外に出ることに、抵抗感がありすぎでは。

 

「お兄ちゃん、この夏を逃したら、一生友達ができないかもじゃん。雪乃さんが乗り気なうちに、なんとかしよ?」

「私としては、比企谷君に判断を任せるわ。無理に誘うという関係は、お友達とは言えないでしょう」

「...あと2,3回だけだ」

 

そう呟いた。きっかけは依頼とはいえ、雪乃先輩が八幡先輩のために、悩んで、人を頼った。たぶん、春に出会った頃からは考えられないだろう。

 

 

「まっ、何にせよ。まずは食べてからだな」

 

ミラノ風ドリアが4つ同時に、運ばれてきた。サイゼと言えば、この看板メニューらしい。

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